複雑・ファジー小説
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- 【祝】Re Becca【一周年】
- 日時: 2014/05/23 13:02
- 名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: Ii00GWKD)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs/index.php?mode=article&id=608
申し訳ないのですが現在掛け持っている小説につきましてはお休みさせていただきます。根暗な性格なのでどうもほのぼのとしたお話が書けないんです。。
今回のお話は殺し屋の女の子のお話です。香ばしい設定ですね(
グロと少々のエロ(暗に思わせる程度)が大丈夫な方はどうぞお読みくださいまし。
主要人物
レベッカ・L(ローラ)・シャンクリー Rebecca Laura Shankly 女 16歳くらい
フリーの殺し屋。根暗、陰気、毒舌、金の亡者、人間不信と人格的に大いに問題あり。幼少期に両親に喉を潰された為、人工発声器なしには声を出すことが出来ない。
表向きは両親が遺した遺産と家でひっそり暮らしていることになっている。典型的な中上流階級のアクセントや家の規模からして、現在の職業の割にはそこそこ金持ちの生まれだったことが伺える。
パンクロックやメタルが好みで、ファッションにも現れている。
フレデリカ(デリィ)・ジョイナー Frederika Joyner 女 14歳くらい
レベッカの同居人。明るく生活力の無いレベッカの身の回りの世話をしているものの陰気で自己中な彼女に振り回されている。
レベッカの職業を知っているが、拾われた恩義と良心の板ばさみにあって悶々としている。
家事の中では料理が一番得意。
依頼人がネタ切れ仕掛けなので何人か募集しようかと主思います。なお登場はかなりあとになる予定ですが、それでも良いという人はどうぞ。
名前:
綴り:
年齢:
性別:
容姿:
性格:
職業:
武器:出る可能性ほとんどなし
依頼内容:。
備考:
サンボイ
レベッカの暗殺ルールみたいなもの
・依頼人と標的の思想信条を問わない
・依頼金は原則前払い。1人につき500~1000万フリントが相場
・連絡法は依頼人が一般紙に広告を出してコンタクトを試みる。
・依頼内容に偽りや裏切りが発覚した場合依頼を中止して報復を行う
・単独犯。同業者と組むことは無い
・依頼人になる資格が無い上侮辱をした場合殺害する
・依頼遂行後のいかなる結果に対して責任を負わない
※レベッカのイメージをあげました。
>>67
強さ度みたいな
>>77
身長、体重、カップ
>>130~142
頂いたイラスト
- Re: 【キャラ募集】Re Becca【再開】 ( No.168 )
- 日時: 2013/12/30 21:25
- 名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: 0i4ZKgtH)
正直なところ歴史ものの映画はフレデリカは苦手だった。他のもの、コメディやアクションなら予備知識が無くとも楽しめるものなのだが、歴史ものはそこが難しい。特に時代考証が凝っている類の物は当時を知らなければ理解できないものが多い。
しかも彼女は社会科は決して得意ではなかった。この映画も今とは比べ物にならないほどの音楽家の地位の低さを示す描写——たかが音楽家、と守衛に陰で罵られるシーンなど——が彼女をと惑わせていた。見ようと言い始めたのはレベッカなのである。
レベッカ自身も大して歴史に興味があるわけではないし、学校(とはいえ小学校すらろくに行ってないのだが)での社会科の成績も良くは無かった。ただこの手の、作りこんだ映画はジャンクな映画と同じく彼女の琴線に触れるものがあるらしい。じいっと画面を見続けている。
「残酷な映画ネ」
「え?」
デリィが目を丸くしてレベッカの方を見た。どこが残酷なのだろう。この映画は流血はおろか暴力、戦闘シーンが全くない、音楽家達の話だというのに。
「彼は神様ガ好キデ好きデ仕方なイのに、神様は彼ニ神様を讃えるル才能ヲ与えテイなイ」
「そうだね。片思いみたい」
「ソノ代わり神様は自分を”クソ”呼バワりスルミヒャエルにそノ才能を与えタ」
確かにそうだ。劇中アントニオは紙に楽曲人生を捧げる為に禁欲的で作曲に勤しんでいた。一方の若き作曲家ミヒャエルは神をも恐れぬ暴言を連発し、女を漁り、酒に溺れている。しかし楽曲は譜面に書き直しが見当たらないどころか全てが神がかっており、アントニオにはそれが神の言葉のように思えて仕方なかった。あまりにも残酷だ。最も渇望している人間に才能を与えず、最も自分を軽んじる人間に神は才能を与えた。
とうとうアントニオは神を憎み、その創造物であるミヒャエルを破壊することを決意する。
……ミヒャエルは鉛中毒で33歳の若さで世を去り、アントニオは80歳まで生き続けた。死後も名声が高まるミヒャエルに対し、生き残ったアントニオの名は忘れられる一方。そんな彼の「私は凡人の王だ」というセリフの直後にどこからともなくミヒャエルの笑い声が聞こえ、物語は終わる。主席宮廷音楽家にまで上り詰めたアントニオの終の家は軟らかく暖かいベッドのある立派な家ではなく、精神病院だった……。
3時間の大作ということもあってか食後の2人はすっかり疲れてしまい、風邪を引かないよう早めに寝ることにした。未だに恋愛経験が無く、他人と争わず特別な才能があるとも思っていないデリィにとってはそこまで恐怖を感じる映画ではなかったが、人生がどれだけ清く正しく行き、渇望のために努力しようとも決して報われるわけではない、全く上手くいかないものであると言いたいということだけはわかった。
※※
「ルールどおり依頼料1000万フリントは全額返金させてもらいます」
ホテルの一室で対面した、品のいい帽子を被った男は怪訝そうな顔(と少々安堵した)を眼前の少年に見せた。
「何……?」
「新聞を読んだのですが、イワン達は僕が爆殺する前に先に殺されていたそうです。となれば僕の手柄ではないから依頼金を返すのは当然でしょう?」
依頼人、ニコライが大きな鷲鼻を天井にくい、とあげるように笑った。まるで目の前で鷲が天に向かって鳴いている様な、そんな光景だった
「はははっ、律儀な男だな、お前は。俺は30年こっちの世界似るが、お前ほど義理堅い奴はそうそういなかったよ(そいつらはもう皆死んじまったが)」
「それが取り柄ですから」
無愛想な返答。しかし殺し屋とはこれくらいがいいのかもしれない、とニコライは思った。それにどこの誰かは知らないがあの嫉妬豚を殺してくれ、最も敵対していたあの女に疑いの目が行った上タダで目的を達成できたのだ。こんなに理想的に物事が運んでくれたのだから、もう20年は通っていない教会に行って神とやらに感謝するのも悪くないかもしれない。ある一つのことを除いては……
「じゃあ、僕はこれで……」
「ああ。お互い気をつけような」
ノアの眉間に縦皺が走った
「お互い?」
「別の一家のサーシャって奴がいてな、そいつはとびきりイワンと仲が悪かったんだがイワンが殺された日に右腕を折っちまったらしい」
それがなんだというのか、とでも言いたげにますますのあの態度は無愛想なものへとなっていった。
「もしかしたらサーシャも依頼をしていて、自分の仕事ができなかったと殺し屋に腹いせに折られちまった可能性もあるわけだ」
「へえ、でもそれがどうしたんです? 普通ならそこで終わるでしょう。イワンは死んだし、その殺し屋も前金の一部はもらえているはず。僕と貴方には全く関係ないことだ」
ニコライの視線が落ち、深くため息をついた。ノアの答えに失望したのではない。
「お前さん、その殺し屋が”霧”かもしれないって言われたらどうする?」
- Re: 【キャラ募集】Re Becca【再開】 ( No.169 )
- 日時: 2014/01/17 21:18
- 名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: 1CPnMR4A)
「『霧』……?」
「そう、奴さ」
ノアも『霧』の名前くらいは聞いたことがある。金に汚く、口も悪いが腕は確か。決定的証拠を残さず、霧のように現れ霧のように消えてゆく若い殺し屋と。聞いた話では確か……
「少女、でしたっけ。僕と同じくらいの」
「ああ。しかも始末が悪いことに半分警察に守られている状態だ」
証拠を何も残さないという意味だろうか。いや、違う。この男は一体何を言っているのか、ノアにはよく理解できなかった。殺し屋だというのに何故警察に半分守られているようなものなのだろうかと……。平静を保っていた顔が曇り始める。
「何故警察が殺し屋を? 普通逮捕されるものでしょう」
ニコライがその撫で肩をすくめてみせた。お手上げ、どうしようもないとでも言いたげに。
「証拠が無いこともそうだが、まず奴が殺し屋と疑ってかかる認識が無いのさ。幼い頃に両親を失って、心に重度の障害を負った人間にそんなことできるはずがないってな」
「はあ」
「その上『死の足音』が主治医でな、一部の噂では2人は親戚関係なもんだから診断書改竄もお手の物……奴が殺しに出かけてる日もカルテ上は診察を受けていることになってるのさ」
「ああ……そうなんですか」
平静を保っていたノアもさすがに顔を天井に仰ぎ、深いため息をついた。真白い髪はぽりぽり、と右手でかかれている。
(成る程、最悪だ)
警察と社会的常識の裏をかいた、不幸な生い立ちを逆手に取った印象操作。そして闇医師としてだけではなく、正規の医師としての立派な社会的地位を持つ『死の足音』を隠れ蓑にしたアリバイ工作。それでは警察は手が出せない。裏社会の人間も同様だ。『死の足音』は金次第で誰でも治すため嫌われてもいるが、反面多くの医者が匙を投げてしまうような患者でも治す彼女の腕を頼りにする人間も多いのだ。そして殺そうとした人間は……1人も帰ってこない。
『霧』が自分を殺しにかかる可能性がある以上、ノアは『死の足音』と対峙する可能性も考えなくてはいけなかった。陰気な殺し屋を殺そうとしたら彼女の信条に抵触する可能性があるからだ。
しかもノアにはもう一つ、『死の足音』を敵に回したくない理由があった。
(僕も患者だしね)
色黒の少年は、身の振り方に困った。しかし扇ぎ続ける点には壁がある。
※※
2日後—
時刻は深夜一時、虫が鳴き始め月が薄い雲越しに地を照らす中レベッカは寝室でパソコンの画面と向き合っていた。その目は細まり、モニタに映し出される文字を丹念に追っている。彼女の元に送られて来たメールの送信元アカウント名は”rossie”……マダム・ローズの名が砕けただけのまんまな名前だった(あまりに平凡なアカウントなのが幸いか)。
内容はおそらく100万フリントの値打ちがかけられたあの情報だろう。その情報が入った、馬鹿にセキュリティが硬いファイルを確認する目もいつに無く真剣だ。
突然家を訪問してきた非礼をなじる文が500字ほど続いた後、いよいよ本題がレベッカの瞳に飛び込んできた。
“あのビルに爆弾を仕掛けさせたのはベレゾフスキー一家のドン、ニコライだ。
どいつが仕掛けたのかはまだわからないが、お前がイワンを殺った数日前にニコライの秘密口座から1000万フリントが一銭のブレも無く出し入れされていることから奴が手練れで……”
爆弾を仕掛けた人間まではよくわからない……しかし充分だ。最後までわからなかった場合、要はこのニコライとかいう男の「体」に聞けばいい。本来ならヘルガから薬を仕入れればいいが、あいにく少しの間家を空けると言っていた。そして社会的地位のある彼女を引っ張り出すよりも、こういう仕事は単独であるべきなのだから。
(とりあえず、後二日待とうかしら)
ニコライをどう痛めつけてやるかを考えるのは最終的な結果を知った後でいい。そう考えてパソコンの電源を消すと、くい、と背伸びをしてそのままベッドで横になった。
- Re: 【キャラ募集】Re Becca【再開】 ( No.170 )
- 日時: 2014/01/20 22:55
- 名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: 1CPnMR4A)
名誉の戦傷を右目に負い、胸には栄光に彩られた勲章を飾るアルバート・ワイアット中佐は宴の出席者の中に確かに彼女を見た。外国にルーツを持つ少々エキゾチックな顔立ちに鮮やかな翡翠色の瞳、アップに丸く結った黒髪には金の髪飾り。それを見て、彼の残った片目は熱を帯びる。
「失礼、よろしいですか?」
声をかけられた貴人がふりむくと、隻眼の軍人がそこにはいた。口元は笑みをたたえているが、瞳は笑っていない。直ぐにわかった。この男は私に用があるのだ、それも深刻な用が、と。
「こんばんは、ワイアット中佐。先日はご親族が……」
彼の従兄弟は先日謎の死を遂げたワイアット卿である。3歳年下の彼とは家が近く、ほとんど兄弟のように仲良く育った仲なのだ。
「ええ、しかし一日中枕を濡らしアルバムを手で磨くわけにも行きませんから」
他愛の無い冗談を飛ばしても、相変わらずその灰色の瞳は笑っていない。対して貴人は表情こそ品の良い笑みをたたえてはいたが、見つめられる大きな瞳の奥に血の騒ぎを感じた。
(久々に自分で遊ぶのも悪くあるまい)
「伯爵嬢は生前従兄弟と親交があったとか」
「ええ、卿にはよくしていただきまして」
嘘をつけ、確かに少々の付き合いはあったが、あいつが酒に酔った勢いでお前を侮辱し、その瞳が何とも言えない光を放っていたのを俺は覚えているのだ。アルバートは心の中で毒づき舌打ちした。長い間軍人として前線で戦ってきた彼は、彼女の内にいる『獣』に気付いている。
「そうですか。実を言うと従兄弟はあんな男なので友人と呼べる人間は少なく、ラグビー以外では私くらいしか遊ぶ者がいなかったのです」
「あら、そうは見えませんでしたけれど」
「ですから、貴女に何か彼から送られた品をお譲りしたいと思うのです。宴の後ご同行していただけませんか?」
貴人の顔がほころんだ。「まあ」といたずらっぽく、妖艶に答えた。瞳にも嬉しそうな色を宿らせている。
「光栄ですこと。ではご案内してくださる?」
「喜んで」
背の高い軍人がエスコートするために広い背中を見せた。その背中を見つめる小さな顔の口の端は吊り上っており、少々離れていた場所で顛末を見守っていた異装の護衛に視線を向けた……。
※
カチャ
アルバートの書斎で突きつけられたものは個人との思い出が篭った品ではない。個人の無念を原さんとする銃だった。それも手ではなく、額につきつけられている。
「あら、もしかしてこの筒の奥にこめられていらっしゃるの? 礼品というものは」
しかしいささかも貴人の顔は恐怖に歪まない。むしろ薄暗い部屋に移るその顔は不気味な笑みをたたえていることに、復讐者は動揺を覚えた。たちの悪いいたずらであるとでも思っているのだろうか、この女は。
「……従兄弟が死ぬ6日前、2000万を使用されたそうですね? そして死後の翌日には500万……。これは異常と思えませんか?」
「そうかしら? 私の趣味は美術品の収集ということは良く知られているはず。たかだか2500万の出費など半年に一度ほどはありましてよ?」
貴人の額が傾き、自ら銃口を押し当てた。
「従兄弟の死を真っ先に報じた『ナイト』の株主は貴女の一族だ。あのタイミングで多額の出費をし、どこにあのような内容……タブロイド紙のような品の無い記事を載せた理由が?」
もはやアルバートの顔に紳士的な笑みは無い。猜疑心と強い怒りを目の前の女性に向け、引き金にかけられた指は今か今かと脳からの指令を待ちわびている。その脳はさして反論せず、笑みを浮かべるこの貴人、エリスこそが自分の従兄弟を死に追いやったのだと。
警察はおそらく証拠不十分で動かないだろう。しかし、警察が動かずともやらねばならない。悲惨な死を遂げた従兄弟の魂を救うのは神ではなく……。
アルバートが思考から戻ると、貴人の視線が落ちていた。口からは笑い声が漏れ、肩を小刻みに動かしている。その姿を見て、彼の頭のどこかで何かが切れた音がした。
「笑うなっ!」
「くくっ……いや、すまんな。ついおかしくてな、堪え切れなかったのだ」
先程とはまるで違う口調。まるでそれまでのおしとやかで、品格ある貴人が彼女の体から離れ、別の人間が乗り移ったかのようだった。
「人というものは時代を重ねるごとに賢くなるかもしれぬと考えていたが、昔の者の方がずっと賢明であったとな」
くい、とあげられたその顔は彼をぞっとさせるものだった。ひどく猟奇的な色を醸し出し、口元は愉悦と好奇に歪められている。その瞳から放たれる暴力的な輝きは軍人の彼をも一瞬怯ませるには充分すぎるものであり……
「……!」
「どうした? 引き金を引くといい、『人間』」
アルバートの右手人差し指に力が込められた。
- Re: 【キャラ募集】Re Becca【再開】 ( No.171 )
- 日時: 2014/01/30 21:44
- 名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: izFlvzlp)
「っ!」
「ごめんね、うちのお嬢さんわがままで……少し寝ててね?」
後頭部に長柄の得物が殴りつけられると、白髪交じりの使用人——家の主を除いては彼がこの屋敷にいる人物だ——は白目を剥いてそのまま床へと倒れた。そんな彼を異装の青年、近衛は申し訳なさそうな面持ちで見下ろした。獲物以外殺してはならぬ……“お嬢さん”の言いつけどおりに近衛は仕事を全うした。
「あとは……」
うちの“お嬢さん”はもうコトを済ませただろうか。二人が部屋に入ってから五分経つ。おそらくあの男は自分の雇い主を殺す気でいる。そりゃそうだ、自分の親族を殺したのではないかと考えられる人間を発見すれば、誰だって殺したくなるに違いない。それは近衛自身もよくわかっている。
(ご愁傷様)
しかし、主人がいるであろう部屋と繋がる廊下を歩く銀髪の青年の頭には、一族の名誉を守ろうとする彼の意思に対してそのような言葉しか浮かばなかった。その意思を遂行するには彼女は少々……
2人がいるであろう部屋を隔てるはずのドアは半開きの状態だった。そしてその部屋からは異常なほどに強い鉄の香りが漂い、青年の鼻腔に不快感を与える。その臭いの元へ歩を進めると……
「道具や鍛錬法が如何に発達しようと人間は人間、ということだな」
書斎に入った近衛の瞳にうつったのは体と黒い召し物を朱に染めた美女と、肉塊。肉塊はおそらく数十秒前まで軍服越しからもつらい鍛錬に耐えて作り上げられたことがよくわかる、強靭な肉体の持ち主の面影は無い。顔すら滅茶苦茶に破壊され、それが人間であったのかすらわからないほどにまで破壊され、蹂躙されつくしていた。あたりに飛び散った血と臓物、そしてその中に収められていた排泄物が近衛の鼻をつき、おもわず鼻をつまませる。
「う……ちょっとやりすぎじゃありません?」
「拳銃を至近距離で突きつけられたのは久々でな、つい興奮して力の加減がわからなかったのだ」
口の端を吊り上げてエリスが肩をすくめてみせた。窓から差し込む月光に照らされる翡翠の瞳は人間のものとは思えぬ暴力的な光を放ち、白い肌と顔には紅が差され両手は赤く染め上げられていた。その顔は最早深窓の貴人ではなく、怪物。
「さ、もう用は無いのだから撤収するとしよう。今日日の警察というやつはいい鼻をしているからな」
そう言うとエリスは血塗れた手をハンカチで拭き取りながら歩を進めた。見る見るうちに白かったハンカチは、朱に染まってゆく。
そう、確かに最近の警察は優秀だ。しかし誰が信じるだろう、ろくに凶器も発見されない、しかし遺体は文字通り肉の塊と化すまで痛めつけられている。しかもそれが色白の、深窓の貴人が単独で行った犯行だなどと。弁護人はもちろん裁判官、あまつさえ彼女を訴えるかもしれない検察さえもそう思うに違いない。
※※
マダムからの連絡を待ちながら1階のリビングのソファーでくつろいでいるレベッカを見て、フレデリカは驚きの色を隠せず目を丸くした。
「どうしたの? レベッカ」
「社会勉強ヨ」
デリィはレベッカが仕事のために新聞を用いるのは良く知っている。彼女が読むのはあくまでも仕事のためだけなのであり、それも夕刊紙の広告しか読まない。しかし今は午前11時、つまり夕刊紙は配達されず朝刊を読んでいることになる。それも広告ではなく、れっきとした記事を飽きもせず読んでいるのだ。
「何読んでるの?」
よほどレベッカが新聞を読むのが珍しいらしい。彼女の肩に顎がつきそうなくらいまで近づき、緑の瞳が読み取っているであろう文字を追う。
「うへぇ……気持ち悪い」
彼女が何を読んでいたのか理解したとき、デリィの顔がしかめられ、青みを帯びた。すでに顔はレベッカから離れている。
「たまにはスポーツ面とか、生活面読んだら?」
「イヤ。役ニ立タナいもノ」
もう、と同居人の声が後ろから聞こえた気がした。次に「お昼は適当でいいよね?」と声がしたので、字面を負いながら「エえ」とレベッカは質問に答えた。
『5日深夜3時頃、アルバート・ワイアット中佐(37歳)が自宅で遺体となって発見された。遺体は原型を留めないほど激しく破壊されており、警察は実行犯と使用された凶器の特定を捜査中。唯一邸内で住み込みで働く使用人の証言によれば宴の後に知人を家に招いてもてなし、帰宅を見送った12時頃には書斎のドア越しに就寝を促すために会話を交わしたと証言しており、警察はその後に死亡したものとみている。
故人は貴族のワイアット家出身で爵位継承権第5位だった。18歳の頃から病弱であった故ワイアット卿の代理として、軍役に就くという一族の伝統を守る立場にあり、5年前の外征戦争では片目を失う重傷を負いながらも……』
- Re: 【キャラ募集】Re Becca【再開】 ( No.172 )
- 日時: 2014/02/08 23:31
- 名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: izFlvzlp)
「それで、ブツは?」
問いかけられた中年の男、ヘンリーの視界は暗かった。目を潰されたのではない、恐怖によって視界が塗りつぶされたのだ。その恐怖の元は小柄な彼の体に巻きつけられたワイヤー。そのワイヤーには血と脂がべったりとこびり付いている。
「お、お前いったい誰なんだよ?!」
つぶされた視界、彼の後ろから呆れた、と言いたげなため息が漏れる。それとほぼ同時にワイヤーの高速がきつくなり、ヘンリーの肉に血を絞り出すかのように食い込んだ。
「あががががあああ〜〜っ!!」
「……ちゃんと義務教育を受けなかったのかな。それとも君の学校の先生は疑問文に対して疑問文で答えろって教えてたの?」
激痛に身をよじりながらも小柄なヤクザ者は確信した。コイツに対して下手なことはできない、そして自分はおそらく……それを避けるためには、彼の要求を最大限聞くしかなかった。
「わ、わかったわかった! 言うよ!! 第二倉庫の奥に隠してある! 番号は……」
こうなればこっちのもの。死の恐怖を刷り込まれたこの男は自分が質問しなくても全ての情報を吐き出すだろう。銀髪の殺し屋、リヒトは内心ほくそ笑んだ。傷もほぼ治癒し、今日は動きがいいためか彼はいつになく機嫌が良かった。
「ご苦労さん。聞きたい情報は全部話してもらったよ」
5分にも及ぶ自供をから開放され、ヘンリーの汗まみれの顔はほっとし、緩んだ。リヒトの声色は落ち着き、どこか機嫌がよさげであったからだ。これなら、自分の命くらいは……
ピシュッ
「は……?!」
「もう休んでいいよ。疲れたでしょ」
確かにヘンリーは解放された。魂は肉から、肉はワイヤーの拘束から細切れになるという形で。小さな部屋の中で肉塊と血が飛び散り、銀の髪を汚した。不快な匂いが鼻腔をつく。
「さて、じゃあ回収しに行こうかな」
顔にこびりついた血をぬぐいながら、リヒトはしれっとした態度で小部屋をあとにした。
※※
「ええーー?! 無理だよこんなの!」
声を上げてくせっ毛の少女が抗議するのには理由があった。右利き用に張り替えられた弦を人差し指一本で押さえ、同時に残りの指も押さえるコードの存在である。
「無理ジャなイわヨ」
彼女の鏡のように対面に座るレベッカは実演してみせた、確かに彼女の指はフレデリカに教えたように、全ての指がしっかりと弦を押さえつけている。
「レベッカの手が大きいからだよ」
いうほど二人に身長差はない。デリィの身長は155cm,レベッカは163cmで、手の大きさなどしれたものだ。
「コレが弾けナイよウジャ何も弾ケない」
体格差は言い訳にはならないとでも言わんばかりに、ジャカジャカとFコードを鳴らしながら言った。一応サイズも彼女に合わせたものを選んでやっているのだ。道具であるギターと体格に原因があるのではなく、デリィの技術に問題があるのは明白だった。
「う〜〜……」
とはいえ難しい。押さえようにも指が動かず、押さえが不十分だと音が不細工になる。本当にこんなものが弾けるのかと思うと先行きが不安になるものだ。すでに小さな指の腹は弦を押さえ続けたせいで赤くなり、摩擦熱で焼けるような熱さを何度も感じていた。楽器を演奏するというのは、こんなに痛いものなのか。
レベッカはというと、突然ギターを覚えたいというフレデリカの要望に応えたはいいが少々苛立ちを感じていた。やはり自分と違う存在に技術を教えるのは大変な作業である。レベッカはもともと弦を押さえるのに必要な握力が強い方で、覚えもいいが彼女はそうでもないのだ。女医の仕事解禁宣言まではいい暇つぶしにはなるのだが……
「練習、練習、練習。デキなケレば能力ニ欠陥がアルか、単に覚エテイなイダケ」
「うん……」
「じゃア、もウ一回押さエてミて」
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