複雑・ファジー小説

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【祝】Re Becca【一周年】
日時: 2014/05/23 13:02
名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: Ii00GWKD)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs/index.php?mode=article&id=608

申し訳ないのですが現在掛け持っている小説につきましてはお休みさせていただきます。根暗な性格なのでどうもほのぼのとしたお話が書けないんです。。

今回のお話は殺し屋の女の子のお話です。香ばしい設定ですね(
グロと少々のエロ(暗に思わせる程度)が大丈夫な方はどうぞお読みくださいまし。

主要人物

レベッカ・L(ローラ)・シャンクリー  Rebecca Laura Shankly 女 16歳くらい
フリーの殺し屋。根暗、陰気、毒舌、金の亡者、人間不信と人格的に大いに問題あり。幼少期に両親に喉を潰された為、人工発声器なしには声を出すことが出来ない。
表向きは両親が遺した遺産と家でひっそり暮らしていることになっている。典型的な中上流階級のアクセントや家の規模からして、現在の職業の割にはそこそこ金持ちの生まれだったことが伺える。
パンクロックやメタルが好みで、ファッションにも現れている。

フレデリカ(デリィ)・ジョイナー Frederika Joyner  女  14歳くらい
レベッカの同居人。明るく生活力の無いレベッカの身の回りの世話をしているものの陰気で自己中な彼女に振り回されている。
レベッカの職業を知っているが、拾われた恩義と良心の板ばさみにあって悶々としている。
家事の中では料理が一番得意。


依頼人がネタ切れ仕掛けなので何人か募集しようかと主思います。なお登場はかなりあとになる予定ですが、それでも良いという人はどうぞ。


名前:
綴り:
年齢:
性別:
容姿:
性格:
職業:
武器:出る可能性ほとんどなし
依頼内容:。
備考:
サンボイ


レベッカの暗殺ルールみたいなもの

・依頼人と標的の思想信条を問わない
・依頼金は原則前払い。1人につき500~1000万フリントが相場
・連絡法は依頼人が一般紙に広告を出してコンタクトを試みる。
・依頼内容に偽りや裏切りが発覚した場合依頼を中止して報復を行う
・単独犯。同業者と組むことは無い
・依頼人になる資格が無い上侮辱をした場合殺害する
・依頼遂行後のいかなる結果に対して責任を負わない



※レベッカのイメージをあげました。

>>67
強さ度みたいな

>>77
身長、体重、カップ

>>130~142
頂いたイラスト

Re: 【キャラ募集】Re Becca【祝2000突破】 ( No.118 )
日時: 2013/08/20 21:30
名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: aq6f.nuq)
参照: https://www.youtube.com/watch?v

参照3000記念ということでショートストーリーを。

人工声帯を手に入れた時のお話をば。










「はい、声出してみて」
 椅子にちょこんと座った黒髪の女の子は口を大きく開閉し、声を絞り出そうとする。しかし喉の奥からは空気音と、まるで牛蛙の様な声(そのうえ言語としての体をなしていない)しか出てこない。
「……じゃ、喉触るわよ。痛いかもしれないけど我慢してね」
 そう言うと彼女の主治医になったばかりのヘルガはその細い首に手を当てる。最初はさする程度であったが、やがて押し、こね、指を立てていじってみせた。患者の喉が、若干の苦痛に耐え切れず歪んでいたが女医は構わずその瞳を光らせて触診を続けた。

(ダメねこりゃ。完全に声帯をヤラれてる)
 顔にはそう出さなかったが、おそらく眼前の少女にもわかっているだろう。二度と自然な声が戻ることはないと。同時に腹が立った。なぜ負傷した時、彼女の両親は自分のところに娘を運ばなかったのだろう、既に腕前はベテランの開業医顔負けであったというのに。
上手く行けば声を戻すことができたかもしれないのに。レベッカの声帯のしっかりとした治療は行われず、結局傷が不完全なまま癒着し現在彼女の首に大きな裂傷を残し、醜い声を作らせた。近い町に住んでいるのにどうして情報が伝わらなかったのだろうと思うと、自然と歯が噛み締められた。しかし当事者のうち二人はもうレベッカの傍にいることはない。
「こんなんじゃ学校で友達もできてないでしょ」
 レベッカの小さな唇が動いた。それをヘルガは覚えたての読唇術で追う。

“元々いないし、あまり行ってないわ。別にいらない”

 何か触れてはいけないような物に触れてしまった気がしたが、考えるのをやめた。
 澱んだ瞳、感情の起伏の乏しい顔……初めて出会った頃、レベッカが6歳の頃に医大進学を決めた自分のところに父親と一緒に来た頃と比べて明らかにレベッカの精神状態は悪化している。それもそうだろう。感受性豊かなこの時期に声という重要なメディアを失っているのだ。おそらく塞ぎ込み、鬱々とした日々を送っているに違いない。
どうにか声を復活させて、ひとりでもちゃんと支障なく生活できるようにしなくてはもっと酷いことになるだろう……。

レベッカはつい2ヶ月前、人間を殺したのだ。そして数日後、それを続ける……殺し屋になると言った。その時は大喧嘩になりヘルガも足の指の骨を折られた。彼女が続けるというなら殺す以外止める術はない。ただし、続けている間それが過ちであると教育しなくては。そのためには……

女医の瞳が、同じ色をした瞳を覗き込んだ。
「レベッカ、声、欲しい?」
 名を呼ばれた少女の顔はきょとんとしていた。何を言っているのだろう、この医者はとでも言いたいに違いない。もう自分は一年声を失って、絶望したままなのだ。声などもうもどるはずが……。
「はっきり言って100%同じ声に戻すのは今の医療技術じゃ不可能よ。せいぜい良くて3割くらいかしらねえ。それでも欲しいのなら、今回は特別タダでやってあげるけど?」
 
 小さな顔がこくりと頷いた。「よしっ、じゃあ決まりね!」と満足気な顔でヘルガが笑うと、二人の間に右手小指を立ててみせた。
「ただし、私が声を出す機械を作っている間は絶っっ対に殺しをしないこと。いい?」
 女医の顔は真剣そのものになっていた。小さな患者は視線を落とし、十数秒ほど経つと、彼女の指に自分の指を絡ませた。


※※


—二ヶ月後—
「じゃーん」
 約束を守ったレベッカの前に差し出されたのは、マイクのような棒状の機械だった。しかしこれは声の力を増幅させるものではなく、声帯に押し当てて振動させることによって声を出させるものだ。手渡されたレベッカは、興味深そうにその機械を眺めている。
 
「じゃ、電源入れて喉に押し当ててみ」
 横っ腹にあるスイッチをスライドさせると、小刻みに振動が震えた。その振動は手を伝い肘、肩へと及び、脳にまで届いたような感覚をレベッカに覚えさせた。喉に押し当てるとその感覚はますます強まる。
「声出してみて」
 レベッカは半信半疑のようだった。一年以上失っていた声がこんなもので簡単に出せるはずがないと。
「ホンとこんナモので」
 暗く沈んでいた目がかっと見開かれ、驚きのあまり握っていた人工咽頭が滑り落ちそうになる。人工的な、本当の声とはかけ離れた無機質な声。好きにはなれない。しかしこの声は確かに自分の喉から出た声なのだ。

「ん、ちゃんと出るみたいね」
 自分の仕事の結果にヘルガは満足気な顔を見せる。補助器具の作成は本職ではないため、一時業者に任せようとしたがレベッカと約束した以上、それなりに誠意を見せなくてはと思い全て自作で行った。一応別の言語障害者を実験にして結果は知っていたのだが、成長過程にあるレベッカの喉と合うかは未知数だった。

「無論寿命はあるからとっかえと適切な使用法は必要よ。これが説明し……?」
 裾を引っ張られる感覚にヘルガの口が止まった。見下ろすと、患者の小さな左手が白衣を強く固く握っている。レベッカの顔は、伏せられ見えない。
「レベッカ……?」
 医師の答えにレベッカは答えない。しかし、小刻みに震えているのを見て、今どういう状態であるのかヘルガは理解できた。その震える体を抱き寄せ、背中をぽんぽんと叩いてやる。顔が胸に埋まり、腕の震えはやがて全身に広がっていき、ヘルガにもそれが伝わる。

言葉はいらない。ただ嬉しかった。何をしても薄い反応で、そっけない態度をとり、何事にも絶望と諦めを見せていたこの娘が、初めて自分に対し感激し感謝した態度を見せてくれたのだから。それだけで目頭が熱くなる。



女医と患者の抱擁は半時間ほど続いた。顔をうずめられていたヘルガのシャツには、涙の跡はなかった。

Re: 【キャラ募集】Re Becca【祝2000突破】 ( No.119 )
日時: 2013/08/23 22:11
名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: aq6f.nuq)
参照: https://www.youtube.com/watch?v


 幸運なことにこの国の未成年達は多くの美術館、博物館を無料で観ることが出来る。二人とも当然未成年でその恩恵にあずかることが出来るのだ。
 
 特別展が開かれている美術館は二人が暮らす街から電車で40分ほどの距離にある。ここは大学のキャンパスを囲むように学生達が多く暮らす地域でもあり、常に若い熱気に溢れている。とりわけ美術系の学生が多く、町の通りのあちこちに現代アートが犇めき合い自己主張している。
レベッカも難解で世界観が強烈な前衛芸術は嫌いではないが、近年の若手芸術家による「何でもアリ」な風潮はあまりなじめないらしく「観る」レベルに留まっている(フレデリカなどは見た目の強烈さに惹かれるらしいのだが)。彼女にとってはわかりやすく人に明確なメッセージを与える古典的な美術のほうが好みだった。

(やっぱり歩きにくい……)
レベッカは穿き慣れない長いスカート——生地は薄く軽いが普段はズボンしか穿かないレベッカにとってはヒラヒラするスカートは歩きづらいのだ——の裾を膝で蹴るようにはためかせて歩いた。視線は落ちている。足を黒のストッキングで覆っているのは足を冷気から守るためでも細長く見せるためでもない(そもそも彼女の脚は苗字のとおり長い部類に入る)、刻まれた傷を見せないためだ。十代半ばの女子がそんなものを体に持っていたら視線が集まってしまうことは目に見えている。
だから彼女は夏でも露出度の少ない服を着るようにしているし、海にもプールにも行かない。一見身勝手で陰気臭い彼女でも、それなりに年頃の少女と同じような感覚を持っていることを示す一例だった。


「よく似合うよ、その服」
「ソう?」
 もったいない、とデリィはにこやかな笑顔を作ったが内心そう呟いた。首を傾げてスカートをつまむその所作を普通の少女がやればどんなにかわいらしいことだろう。しかしやっているのは澱んだ瞳を持ち、表情の起伏の少ない少女だった。造形は悪くないのにいかに女の子らしいポーズをとろうとレベッカはレベッカなのである。
「うん、いつものよりそっちの方がいいんじゃないの?」
 真冬でもないというのに殺し屋の耳が赤くなった。「スカートはナイわ」と返したが、まんざらでもなかった。
「ねえ、アレ食べない?」
 金髪のフレデリカが指差したのは道の脇にある赤い看板の屋台だった。看板には『doner kebab 1.5Frint』と書かれている。パン、肉、野菜を同時に取ることができその上腹持ちの良いファストフードで、指を指した少女の好物の一つ。
「ええ」
その誘いにレベッカも首を縦に振って答える。時刻は12時半、ちょうど昼時でもあり2人の小腹の虫が食事を要求し泣き始めた頃だった。
「二つチョうだイ」
「あいよ」


 腹を満たした2人が入った美術館の天井は高く見物客の雑踏と話し声が良く響いていた。次に彼の傑作がこの国で見れるのかわからないというほど貴重な機会である特別展というだけあって活気がある。
「…………」
「あはは、アテが外れちゃったね……」
 機嫌が良さそうだったレベッカの顔が沈んだ——といっても長く一緒に暮らす少女にしかわからない微妙なものだが——のをみてデリィは苦笑いしてみせた。人ごみがあまり好きではないレベッカのためにわざわざ人ごみが少ない平日を選んだのだが、計算違いだった。昼時だというのにチケットの販売所は客の列が作られている。

「とにかく並んでチケット買おうよ。音声ガイドは?」
「イラない。鑑賞の邪魔ヨ」
 列はだいたい5分ほど待つだろうか。レベッカはというと苛立ちを感じ始めているのか爪を弄っている。知能や狡猾さは大人顔負けだというのに、所作や癖は完全に同年代の少女かそれ以下と言い切れるくらい幼いのだ。
「焦ることないって。絵は逃げないよ?」
 愛想笑いをする碧眼の同居人にじろりと視線を向けた。
「時間は逃げルわヨ?」
 デリィの愛想笑いが苦笑いになった。レベッカがどうでもいいことに噛み付き始めるともう自然と機嫌が良くなることを祈るしかなくとにかく言うこと成すことに刺が生まれ、周囲を何度も凍りつかせることがあったのだ。
早くチケットを手に入れ、入場できないか。そうすれば彼女の機嫌も治るだろうにと思いながらフレデリカはペットボトルの水を喉に流し込んだ。

Re: 【キャラ募集】Re Becca【祝2000突破】 ( No.120 )
日時: 2013/08/25 21:42
名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: aq6f.nuq)
参照: https://www.youtube.com/watch?v


 フレデリカの望みどおりチケットを手に入れて入場したレベッカの機嫌は好転した。相変わらず館内は観光客の喧騒で埋め尽くされていたが、彼女はそれを気にも留めず黙々と壁に架けられた絵画を熱心に見ている。背の高い絵などに至っては傷と発声器を隠すために巻かれたスカーフがずれてしまいそうなくらい首を上げている。
(よかった。楽しんでるみたい)
 傍から観れば無表情で、大して目を輝かせているわけでもない。しかし2年間共に暮らした同居人にはちょっとした変化でレベッカの感情を見分けることができる。黒髪の彼女は今、外界からの干渉から完全にシャットアウトされているかのように見入っている。彼女の趣味であるギターを引いている時のように。

 今日の彼女達の目当てで特別展が催されているモッジは300年ほど前の、芸術家が宮廷の召使い的な地位からの脱却を始めた頃に活動していた画家。貴族や王室が好むような大作を多く手がける一方でその中に風刺を盛り込んでいた。中年期には病で聴覚を失い自分の内面を見つめたかのような精神性の深い作品を描くようになり、外国からの侵略戦争を経験した晩年になるにつれて大量の風刺画や版画を世に残した。
デリィは一度レベッカからやたらと分厚い彼の作品集を借りてみたことがあった。初期から中期にかけての軽妙かつ洒脱な作風は楽しく鑑賞できたが、後期、つまり聴覚を失った後の絵は見るにつれどんどん気分が沈んでいくようになったので途中で見るのをやめている。

(蛇の道は蛇っていうのかな、こういうの)
きっとモッジのような画家をレベッカが好むのは自分と同じく体の器官を損なったことと関係しているのだろう。彼女は自然な声を、彼は聴覚を失っている。以前レベッカが言った「当たり前のように出来る有り難味」を知る人間同士通じるものがあるのかも、とデリィは彼女を完全に忘れて黙々と鑑賞する黒髪の少女を見て思った。



「はい、服上げて」
 ヘルガは自分の患者、リヒトの右脇腹に銃創とその横にある治療痕を見た。それを作った弾丸は既に摘出されている。その周囲を聴診器で、指で患部の反応を確め好悪を判断する。まだ痛むようで、少々力を加えると顔をしかめていた(ちゃんと素直な反応をしてくれないと誤診してしまうと事前に言っていた)。

 彼女の医院は自宅の一軒家を兼ねている。表向きは耳鼻咽頭科を専門とした週3日だけ開くのんびりとした平凡な町の病院、というのが彼女の希望なのだが、美しくグラマーな彼女目当てにわざと耳に異物を突っ込んだり、歌いまくって体を痛めつける馬鹿が多くて困っているのが現実である(そういった患者を彼女は影でサイコパス呼ばわりしているのだが)。
しかし休業日に行けば彼女が『もう1人』の医師として診察してくれる。『もう1人』の医師としての彼女がまさしく今のヘルガだった。
「まったく、レベッカの馬鹿が余計なことをして……もう少し入院ね」
「いいんじゃないですか? 良い金蔓になって」
「……まあね。はい、今日の代金」
 女医がため息をつきながら書いた請求書を受け取ったリヒトの青い目には『医療費10万フリント』の文字が写った。正規の医療機関で同じ内容の診察を受ければもっと安く済ます事が出来るのだが、リヒトのような人間は利用できないのだ。
 ヘルガはそういった人間を治療するという裏の顔も持つ。金さえ払えばどんな人間の治療も請け負う、そのため命を狙う人間も多いため表の顔を作っておくことは彼女にとって重要だった。もしも裏のみしか顔が利かなければ彼女はとっくに死んでいるかもしれない。

「聞いてたよりずっと若い方だったんですね、『死の足音』は」
 自分の通り名を聞いた女性の眉が一瞬釣りあがったが
「私はまだ28よ? 一体どんなのを想像してたのよ」
「ええ、まぁ……」
世紀末に出て来て、謎の拳法使いにひでぶされそうなゴリゴリマッチョの大女と想像してましたなどとは言えなかった。リヒトは知っている。『死の足音』の力は『霧』よりも、自分よりも上であることを。だからあの同業者はなかなか自分に手出しが出来なかったのだろうと今になって理解できた。
『死の足音』は裏社会の人間しか知らない彼女の通り名である。医師としての腕前ではない。殺人者としての忌まわしい腕前からつけられたこの名を彼女は好ましく思っていない。

「そういえばあんた、ここを出てったらどうするの?」
少年が肩をすくめてみせた。
「まぁ、あの家には戻らない予定ですよ。そうすればレベッカはもう襲ってこないでしょ?」
 「賢明な判断ね」と女医は賛辞を送った。もしも自分やデリィに連絡もなしに戻ってくればレベッカは、あの病的なまでに疑り深い娘は間違いなく殺そうとするに違いないからだ。しかし……

Re: 【キャラ募集】Re Becca【祝2000突破】 ( No.121 )
日時: 2013/08/28 12:41
名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: Ii00GWKD)
参照: https://www.youtube.com/watch?v

 その言葉の続きをヘルガは噤んだ。自分が勧めようとした事は非合理的で、リスクが大きすぎるのだ。しくじればリヒトだけではなくレベッカと彼女の同居人の関係に破滅的な最期が待ち受けているかもしれないのだ。
「……今日の診察はここまで。ハロルド、いるー?!」
『今行きますよ〜』
 女医の威勢の良い声に対し廊下から低い男性の声が答えた。

 数秒ほどすると、にゅっと男が診察室と廊下を隔てるドアから顔を出した。ドアを背にしたり人は体を少し捻った形で男を見る。大きい。顔の位置からしてゆうに2m10cmは超えているだろう。髪と髭は全く手入れされず、目は眠っているかのように細い。


 ハロルドと呼ばれた彼はこの医院で働くヘルガの助手だった。主に患者や器具の運搬を行っている。動きは鈍く頭が弱いが、その分撃たれて死にかけたところを助けられた経緯からヘルガを慕いその誠意は本物。
「彼を病室に連れてって。怪我人だから「力を入れちゃ」ダメよ?」
「はいな」
 女医が自分を見下ろす助手に「力を入れちゃダメ」と行ったのには理由がある。銅製のコインを四つ折りにしてしまうほどの怪力を持つこのボサボサ頭の助手は加減が恐ろしく下手なのだ。故に面倒な客をつまみ出す際、物を運ぶ際は重宝するが繊細な仕事に関しては「触っちゃダメ」、「力を入れちゃダメ」と言わなくてはならない。
初めてこの傾向を知った際など、抱えた患者が暴れたのに対し驚いてしまい上腕の骨を握り折ってしまった。

 ゆえにヘルガは配慮しなくてはならない。それに応えるかのようにこの聞き分けの良い大男は患者に「こっちだよ」と手で彼が行くべき道を指差し、部屋を退出するのを見るとそれについていった。
「あだっ」
 退出しようとする際にドアの天井部分に大きな音で頭をぶつけ、ヒビを作ってしまった。それを見てヘルガはため息をついた。この家はヘルガが購入した持ち家であるためまだ良かったが……

「こりゃ修理が必要そうねぇ……」



 館内のカフェで小休止した2人はモッジ晩年の代表作群「漆の絵」コーナーへと向かった。
 「漆の絵」は聴覚を失い、侵略戦争を経験したモッジが誰かに頼まれたわけでもなく自主的に作成した16枚の絵で構成される。それらは彼の家の中に架けられてあり、しかも彼はその家から引っ越す5年間ほとんど外出もせず、客を招くということもしない謎に満ちた生活を送っていた。
つまりこの作品群は完全に自分のための絵だったのだ。

「黒いねぇ……」
「『漆』だモノ」
 この作品群の特徴は「黒い」ことにある。無論黒以外の色も使用されるが全体的に暗い色が用いられ、テーマも暗い。聖地を巡礼する愚鈍で愚かな巡礼者達、聾唖を嘲る耳の無い老婆、孤島に残された犬、山羊の姿をとって現れた悪魔が魔女の宴を主催する場面……。
 どれをとっても黒いのだが、なんといってもこの作品群に登場する人間達は皆愚鈍で醜い、いや、醜悪。
辛うじて人と判別できる造形の崩れた顔を持つ人間達は恐らく人間が内側にしまいこんでいたい歪んだ面をあえて外に表現したものであろう、というのが一般的なこの作品群に対する評価であり、人間の歪んだ面をさんざん見てきたレベッカもそれに概ね同意している。
「彼は表現しタトいウより怒ってル」
 というのがレベッカの考えだった。もしも歪んだ内面を表現するならば徹底して暗く黒いはずだが、作品によっては表情に憂いや理性が残っている。そいうのは単なる表現ではなくそれを圧する歪んだ内面に対する強烈な怒りなのだという。
フレデリカはそう行った小難しい芸術論はわからず、ただただ「へぇ、そうなんだ」と正直に答え、レベッカの言うことをベースに鑑賞してそうなのだろう、と思うのであった。

 レベッカが特に気に入っているのは魔女の宴を描いた作品だった。背を向けた悪魔をとり囲むようにして宴を楽しむ地べたに座り込んだ醜悪な魔女たちを描いた作品であるが、作品の右側に異端児がいる。一人宴から離れて椅子に腰掛ける女性がいるのだ。
「綺麗…」
 デリィがこの画廊に来てから初めて綺麗と声を上げたこの女性だけまるで別世界の住人だ。色使いは暗いが造形は美しく、歪んだ面は全く感じられず理性を感じさせる。レベッカが言う残っている理性というやつなのだろう。横顔に描いているのも何かのメッセージなのかもしれない。

「何なんだろうね、この人」
「モッジのお母さンかシら」
「えっ?」
「人間、特に男ハ理想の人間や女ヲお母サンと重ねルもノヨ」
 確かにそうなのかもしれない。世に名を知られる人たちはどうも母親と自分の妻や恋人を重ねているのだからこの論もあながちまちがっていないかも、とフレデリカは青い瞳を高い天井に向けて考えた。
「じゃあ私達はお父さんに理想像を見るのかな?」
 一瞬レベッカの顔が緊張したように見え、それをみたデリィは顔を青ざめさせた。彼女に対して両親の話は……

「……さァ、お互イ早いウチに死んダカラわかラないワね」
「そ、そうだね……」
 失言をしてしまったことにデリィの気は沈んだ。しかしその失言を聞いた際にはレベッカの関心は別のものに移っていたのだった。

Re: 【キャラ募集】Re Becca【祝2000突破】 ( No.122 )
日時: 2013/08/29 21:25
名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: aq6f.nuq)
参照: https://www.youtube.com/watch?v


 心の柔い部分にずけずけと土足で上がってこられたレベッカの関心を逸らしたのは横で同じ絵画を見ている少年だった。歳も身長も自分とそう変わらない。歳不相応の真白い髪もグレーの瞳も、決して綺麗とはいえない服装もレベッカの関心を寄せるようなものではない。
(匂うわね)
 彼から放たれる同業者の匂いと、ほのかに残る火薬の匂いにレベッカの鼻腔は刺激され脳は苛立ちを覚え始めていた。彼もそれを感じているのだろうか、体をゆらりと揺らしたり、足をコンコンと踏み鳴らしている。

「すみません、僕の顔に何か?」
 先に異様な空気を破ったのは少年のほうだった。そのグレーの瞳はしっかりと黒髪の少女を捕らえてはいるのだが、どこか虚ろだった。緑色の瞳はそれを見ようとしない。レベッカは先程からずっと絵画を観ていたのになぜ少年が自分の顔に関する質問を投げかけるのだろうか、と彼とレベッカを挟んだ位置に居たフレデリカは首をかしげた。
「……別ニ。汚い格好ネ、と思っタダケよ」
「そうですか? 僕はそうは思わないんですけどね。……ああごめんなさい、僕ノアっていいます」
 横目で少年の手が伸び、自分の体の近くに差し出されたのが見えた。それに気づいていないかのようにレベッカは彼とは反対の方向を向き、別の絵画の方へと歩を進めた。

「ちょ、ちょっとレベッカ!」
 同居人の静止もまるで聞いていないようだった。すでにレベッカの視線は愚鈍な巡礼者たちの作品へと向けられている。
「いいんですよ。気にしてないんで」
「ごめんなさい……」
 謝罪の言葉を口にする下がり眉のデリィに対し、ノアは不問の態度を見せた。確かに一般人としての常識としては非礼を受けたことに対して若干の苛立ちを覚えたが、自分と同じ職業についている人間なら当然の行動だろう。利き腕を預ける殺し屋など二流以下なのだから。

「じゃ、私行きますね。ちょっと目を離すとあの娘、どこかに行っちゃうから」
「ええ」
 この金髪の少女にノアは違和感を覚えた。彼女自身ではなく、彼女の連れとのギャップに。この少女からはまるで獣臭を感じない。明るくどこにでもいる平凡で甘い性格の女の子なのだ。こんな子がなぜ同業者といるのかと思うと不思議だった。

 「無い者同士」縁があったらあのレベッカという子とまた話してみたい。再び絵画に目を向けながらノアは心の中でそう呟いた。



「頭痛?」
 突然の症状の訴えにレベッカと同じ色(彼女より澄んではいるが)を持つ瞳の目が細まった。訴えているのはこれまで余計なことを口にしない、淡々として口数の少ない銀髪の少年だったのだ。

「レベッカの家に運ばれてからなんですが」
「ふぅん……」
 ヘルガは顎に手を当てた。そう言われてもここには脳外科にあるような大層な機器はない。リヒトが一般人であれば脳外科に行くことを強く勧めるのだが、それが無理であることは彼女にもわかっている。デリィには適切な食事療法の指示を与えていたし、頭を強く打ったような痕跡も見られないのだ。麻酔を使用した治療も行っていない。考えられるのは……
「そういえばデリィが時々、自分が知っているあんたの人格に代わるって言ってたわね。にわかには信じられないけれど」
「ええ、僕もつい最近初めて知ったんですよ。でも彼女に関する記憶が戻ったのも、頭の奥にいた人格が起きたからなんでしょうね」
 ヘルガも医師である。脳外科は専門ではないが以前『21人のヘイデン・スターリング』という多重人格障害者に関する本を読んだことがあった。その本によれば性犯罪で逮捕されたヘイデンという男は不幸な生い立ちによるストレスから逃れるために人格の分裂を繰り返し、最終的に21人の人格を形成していた。
それぞれの人格は年齢、出身地、社会階層、言葉遣い、能力に決定的な違いがあった。中でも失語症の7歳児と空手の達人の26歳の人格では筋力がまるで違うという研究結果もある。多重人格を克服しつつある現在も彼は脳機能研究界においては第一線の研究対象である。

「デリィ達と会ったことであんたの別の人格に何か影響が出ているのかもしれないわね」
「はぁ、迷惑な話ですね」
 ヘルガの視線がまるでレベッカのように自分の膝へと落ちた。明日を組み、手を顎に当てるその様は思慮深い女性というイメージを与えるに十分な印象で、わざと不健康になって診察を受けたがる町人(と書いて馬鹿と読む)がいるというのも頷けた。
「あんた、今その人格出せる?」
「自分では無理ですよ。どういうわけか彼女の料理を彼女の前で食べないと彼は出てこないんです」
「はぁ?」
 何だそりゃ、と言いたくなったがリヒトの真剣な態度を見ているとあながち嘘ではないようだ。一房が白髪の頭をぽりぽりかいて笑ってしまうしか、ヘルガの思いつく返答は無かった。

「ばかに食いしん坊な人格ね」


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