複雑・ファジー小説
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- 【祝】Re Becca【一周年】
- 日時: 2014/05/23 13:02
- 名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: Ii00GWKD)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs/index.php?mode=article&id=608
申し訳ないのですが現在掛け持っている小説につきましてはお休みさせていただきます。根暗な性格なのでどうもほのぼのとしたお話が書けないんです。。
今回のお話は殺し屋の女の子のお話です。香ばしい設定ですね(
グロと少々のエロ(暗に思わせる程度)が大丈夫な方はどうぞお読みくださいまし。
主要人物
レベッカ・L(ローラ)・シャンクリー Rebecca Laura Shankly 女 16歳くらい
フリーの殺し屋。根暗、陰気、毒舌、金の亡者、人間不信と人格的に大いに問題あり。幼少期に両親に喉を潰された為、人工発声器なしには声を出すことが出来ない。
表向きは両親が遺した遺産と家でひっそり暮らしていることになっている。典型的な中上流階級のアクセントや家の規模からして、現在の職業の割にはそこそこ金持ちの生まれだったことが伺える。
パンクロックやメタルが好みで、ファッションにも現れている。
フレデリカ(デリィ)・ジョイナー Frederika Joyner 女 14歳くらい
レベッカの同居人。明るく生活力の無いレベッカの身の回りの世話をしているものの陰気で自己中な彼女に振り回されている。
レベッカの職業を知っているが、拾われた恩義と良心の板ばさみにあって悶々としている。
家事の中では料理が一番得意。
依頼人がネタ切れ仕掛けなので何人か募集しようかと主思います。なお登場はかなりあとになる予定ですが、それでも良いという人はどうぞ。
名前:
綴り:
年齢:
性別:
容姿:
性格:
職業:
武器:出る可能性ほとんどなし
依頼内容:。
備考:
サンボイ
レベッカの暗殺ルールみたいなもの
・依頼人と標的の思想信条を問わない
・依頼金は原則前払い。1人につき500~1000万フリントが相場
・連絡法は依頼人が一般紙に広告を出してコンタクトを試みる。
・依頼内容に偽りや裏切りが発覚した場合依頼を中止して報復を行う
・単独犯。同業者と組むことは無い
・依頼人になる資格が無い上侮辱をした場合殺害する
・依頼遂行後のいかなる結果に対して責任を負わない
※レベッカのイメージをあげました。
>>67
強さ度みたいな
>>77
身長、体重、カップ
>>130~142
頂いたイラスト
- Re: 【キャラ募集】Re Becca【再開】 ( No.158 )
- 日時: 2013/10/30 21:10
- 名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: 0i4ZKgtH)
「痛っ!」
鋭い痛覚が指を伝って脳へ届き、顔を歪ませた。痛覚が走った元を見ると、人差し指の横っ腹に線が走り、赤い液体が滲んでいた。
「あらら……」
硬い南瓜を強引に切ったせいだろうか、家事、特に炊事に慣れ親しんだフレデリカが指を切ることはめったにないのだが。とにかくその場しのぎに、と指を唇に近づけて血を吸い出すと、口内を通して鼻に鉄の香りが広がった。
レベッカが仕事に行ってから3日——戻ると言った日——経とうとしている。連絡がないのはいつものことだが、別れ際のあの会話はなんだったのだろう、と思う。いつもならいつ戻る、としか言わずにそのまま行くというのに、自分の体に興味を示したかのようなあの発言……。
“背、伸びタ?”
そのあと自分でも気になって身長を測ってみたが、155.2cm…やはり2ヶ月前とほとんど変わっていなかった。まだ14歳だというのに、彼女の成長は止まっていたのだ。まだ思春期を迎えている途中とはいえ、乳房の発達が遅いこともデリィに憂鬱な気分を与えていた。
思い思いの服装で街を歩く、肉体が女性らしくなってきている同年代の女の子達やレベッカの主治医を見ると、やはり自分の体を見つめてしまい、つまらない劣等感に苛まれることがよくある。
彼女の同居人がさらに女性らしくない肉体をしている(とはいえ胸のサイズはデリィより大きいのだが)ことが救いではあるのだが。
(何が言いたかったのかな、レベッカ)
危険物を取り扱う際によそ見や他の考え事は禁物である。そうこうしていると、再びフレデリカは指を傷つけ絆創膏を貼る羽目になった。
※※
「弁解ノ時間は2分ヤルわ、年増」
「痛たたたた!」
仕事を終えたレベッカは怒りを込めた瞳を眼下の女に突き刺した。裏切った可能性の高い女に対して、そして気に入っている服を台無しにされたことに対する怒りが右手をねじ上げられ、机に組み付され苦痛の声を上げているサーシャにぶつけられていた。
「し、知らないって! 前にも言った通り私は誰にも言ってないし、話を知ってるのは同席してたゲンナ……?!」
べりり、という音ともにサーシャの小指の先がひやりとした冷気にさらされた。何が起こったのかねじ伏せられているため見ることはできない。しかしその冷気を感じるところから液体が流れる感覚と、激痛が皮膚を伝い理解させた。爪を剥がされたのだ。
「あぎゃああああああっ!? 痛っ、痛いぃ……!!」
不快な悲鳴が鼓膜をつんざいたが、眉は一つも動いていない。
「ソレは前にモ聞いタわ。ドウしテ都合良く私がイル時間に爆弾が起動スルよウニナッテたのカシら?」
レベッカの指が依頼人の薬指にかけられた。次はこの指だ、という意思表示である。
「二重依頼だろ……?! 私がハメるならもっと兵隊を動員して、出口にも待ち伏せさせるよ!」
「…………」
「とにかく私は何も知らないよ! 嘘だってんならこの首をくれてやってもいい!!」
組み伏せながらなんとか殺し屋に見せたその瞳は痛みによって涙が滲み、声もうわずっていたが、偽りを持ってはいないように思えた。それに、言うことにも一理ある。この賢い女が自分をハメるにしては確かに浅はかな計画……
「そウ。悪かっタわネ」
悲鳴を上げていた右腕の高速の緩みに亜麻色の髪の女は安堵し表情を緩ませた。
「次ハ腕だけジャ済まサナいワよ」
ゴキンという物がへし折れる音が部屋に鳴り響くと、悲痛な叫び声が紅をさした唇の奥から絞り出された。
彼女、サーシャの腕の治療費は全て彼女の口座にどこぞから振り込まれた100万フリントで支払われた。
- Re: 【キャラ募集】Re Becca【再開】 ( No.159 )
- 日時: 2013/11/03 21:15
- 名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: 0i4ZKgtH)
「うっわ……」
派手好きな殺し屋が世の中にはいるものだ、とルーシェは目を丸くして新聞の記事を読んだ。先三日前オフィス街でビルの爆破事件があり、4人が死亡したという。内1人は家出少年、3人はマフィアの関係者。誰がどう見ても計画的な殺人事件だった。
「爆薬ねぇ」
ルーシェはまだ11歳、いかに殺し屋といえど筋力の強さに限界があるため現在の得物にしている。確かに爆発物は威力があり確実なのだが、いかんせん重量がある。彼も一度爆発物を使った殺しを考えたが見送った。扱いが少々難しいのだ。
「おいルーシェ、そろそろ休憩終わりだぜ」
「あ、はいはーい。この面読み終わったら行くよ」
年上の兄弟子の声が耳を揺らし、口が返事をした。休憩時間は大変な肉体労働であるガラス職人にとってありがたいもので、冷房が効いた一室で冷たいジュースやらを飲んで雑誌を読むのは天国であった。彼のように幼い職人であればなおさらだ。
(しっかし、なんでこんな殺し方するんだろうなぁ)
ルーシェが危惧したのは何も重量だけではない。殺し屋が限定されることになることを嫌っていたのだ。自分やあの意地汚い女は銃や刃物——比較的扱いが容易で誰もが所持しうる——を使用しているが、この殺し屋は殺傷力こそ高いものの取り扱いに注意を要する爆発物。
つまり、自然と「経験の長いベテラン」が行ったとすぐに判断できる上、散らばった破片を元に足がつく可能性がある。単純で威力が高いという代償だった。ルーシェのように「少年」どころか「子供」の彼がそんな大きなものを持ち歩くには目立つし、不便だった。
「ん……?」
記事の終わりの方に目をやると、気になることが書かれてあった。
『遺体は損壊が激しかったが、残された遺体から辛うじていずれも刀傷と銃傷が認められた。警察はこれが致命傷になって死亡した後爆発が起きたと見ており、計画的な犯行とみなしこの傷と爆破との関係を……』
つまり殺してから爆破するという面倒なことをしたのか。そうであれば火をつければいい。思ったより下手人は間抜けなのだろうか。回りくどいことをするどころか、自分の足を付かせるようなことをして。
自分の作業への復帰を促す親方の大きな声を聞くと、ため息を漏らしつつルーシェは作業へと戻った。
※ ※
「レベッカ、大丈夫?!」
無表情で「エエ」と短くさらりと言ってのけたレベッカをフレデリカは心配そうな眼差しで見つめた。一見目立った外傷はない。しかし新品で彼女が気に入ってた服は汚れ、所々が破けている。顔も煤けた部分を洗いきれておらず、首筋にその跡を見ることができた。瞳も痛みをこらえているようには見えない。
「脱いでみてよ。火傷してるんじゃない?」
「…………」
同居人の指示にレベッカが、家の中とはいえ玄関でもぞもぞと上着を脱ぎ始めた。現れてきたのは少々赤くなった、傷が刻まれた筋肉質の体だった。やはり少々火傷をしている。
「痛くないの?」
と訪ねても無理なことは分かっている。レベッカが露骨に痛みを示すことはほとんどないのだから。せいぜい顔をしかめ、痛みを紛らわすためにタオルを握るくらいで、自分から痛い、と言うことはあまりなかった。
この時もデリィがちょん、と少々焼けた腕に触れると眉を一瞬ぴくりと動かすにとどまっている。
「これじゃお風呂辛いでしょ?」
「ソウね」
「……明日ヘルガさん呼んで診てもらおうよ。ほうっておくと雑菌が入ったり、水膨れになって大変なことになるしね」
夏水着を着て遊びに行けないよ、と普通の女の子に対してなら軽口を言えるのだが、できなかった。彼女がそれを既に諦め放棄しているのだから。したくないというわけではなく、むしろしてもいいと思っているというのに、なぜこの娘はこの仕事を続けるのだろう。不思議だった。
- Re: 【キャラ募集】Re Becca【再開】 ( No.160 )
- 日時: 2013/11/06 21:26
- 名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: 0i4ZKgtH)
レベッカの左半身は女医によって軽い火傷と肺の炎症と診断された。爆風に曝されただけで生活に支障は無く、痕も殆ど残らずにすむとのことだった。顔や髪は爆風に吹き飛ばされる直前に携帯していたマスク——顔が割れることを嫌う銀行強盗や特殊部隊が好んで使う——を被ったためほとんど火傷からは守られていた。
「ここは少しキツく締めるから……よく見てなさい」
「はい」
答えたのは火傷を負った少女ではない。商品を傷つけないように胴に、腕に怪我人の体は女医が慣れた手つきで扱う包帯で覆われていった。その様子を同席したフレデリカは注意深く見つめている。レベッカが傷を負った場合に傷と癒着しないよう包帯を毎日取り替えるのは、定期健診の日を除いて彼女が行わなくてはならないからだ。現に刀傷や擦り傷を負った時などは経験済みだったが、火傷は初めてだ。
「まったく……最近は傷を作らないって感心していたら火傷だなんて。しかも爆殺されかけたんですって?」
「全くヨ」
「あんたのことよ」
ばしん、と包帯が巻かれた背をはたいて非礼を叱責するとレベッカの体が痛みで反り、痙攣した。顔は珍しく痛みに耐え切れずに引き攣って目が見開かれ、唇はかみ締められている(それでも苦悶の声を上げないのは意地なのだろうか)。
「ま、生活には支障無いだろうけれど二週間以上仕事は厳禁よ。安静にしてなさい」
「…………」
「間抜けなミスをして死にたくないでしょ?」
こくり、と患者の首が縦に振られた。別に快楽目的で殺し屋をしているサイコパスというわけではないのだから、自身の健康を整えて行うのは当然という考えなのだろう。
応対する女医の顔は明らかに不機嫌だった。怪我をしたことについてではない。患者、レベッカは今回も彼女の呼びつけに応じなかったからだ。症状は軽いものの火傷ということで設備の整った医院での治療をすることを提案したのだが、今回も約束の時間になっても来なかったので助手に医院を任せて往診に来たという顛末だった。
(やっぱりあの子がいるせいかな)
小さい医院であるにもかかわらず、ヘルガには助手が3人もいる。1人暮らしをし、力仕事と畑を耕して諸経費削減に貢献してくれているハロルドと、医院に住み込みで書類整理等を行っているアデーレ、そして自分の下で医学を学ぶレオン。レベッカは、どうやらレオンと会うことを嫌っているのではないかと最近になって考え始めていた。レオンの方も、一歩もレベッカの家の敷地に入ったことはない。
「じゃ、これ往診料」
「あ、はい」
とヘルガは少々ぶっきらぼうに請求書を碧眼の少女に手渡した。請求書には「往診料1000フリント」と書かれている。ヘルガは闇医者であるが、一応これは正規の診断であるためこのような代金となった。NHS(National Health Service、国民健康サービス)に加入しているレベッカは治療費を一度払えば月にいくらでも治療を受けられるが、歩行や知能に障害を負っていないため往診の場合は別途費用となる。
「暫くは痛むから入浴は止めて、濡らしたタオルで拭くこと。それと、皮膚の再生の為に魚やレバーで亜鉛を摂らせる様にね」
はい、はいとデリィは女医に言われたことをノートに熱心に書き留めてゆく。ここまで血が繋がってもいない人間のためにやれるとは殊勝な娘だ。もしかしたら医師に向いているのかもしれない。本人が望めばレオンが独立した頃には……とさえヘルガは思うのだ。対してこの娘と住んでいる自分の親戚ときたら陰気で人間不信で。どうしてこんなに違うものなのだろうか……
その親戚が右手で晒
「ねェ、この巻キ方大げサジャなイ? 胸が苦しイわ」
「圧迫されるほど大きくも無いのに贅沢言ってるんじゃないわよ」
言ってやった。どうだこの小娘。いつも私を馬鹿にしている罰だ、16でその胸は(助手よりは発達しているが)さぞ気にしていることだろう、とヘルガは内心ほくそ笑んだ。横では反応にフレデリカがあはは…と苦笑いし、言われたレベッカは視線を落としている。
「……ソウね。胸なンテ大きクてモ大しテ意味ないモの。ヘルガは大きメダケど2[ピー]歳で独身ドコロかフリーだシ」
「う゛…!」
右手でペンをくるくる回していたヘルガの体が固まり、からんとペンが床へ落ちた。顔は狐につままれたような顔をしてレベッカをぼうっと見つめている。
「ちょ……レベッカ!」
「胸っテ胸板に垂レ下がっテるダケのタダの脂肪の塊ヨ。体現者の弁ハ何者ニモ勝るワね」
いよいよ女医の視線が落ち、体が震えだした。レベッカと同じく犯罪に手を染めていることから、恋愛というものを一応放棄してはいるものの、人間味溢れるヘルガはレベッカほどすっぱりと切り捨てることはできていなかったのだ。「独身」は助手たちの間でも禁句であり……
「こんの、アバズレ娘ぇえぇぇええぇぇぇぇえええええ!!!!」
「ヘルガさん落ち着いて! 殴ってもレベッカは変わらないから!!」
- Re: 【キャラ募集】Re Becca【再開】 ( No.161 )
- 日時: 2013/11/10 21:29
- 名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: 0i4ZKgtH)
州警察署
「だから、私はあいつのことは何も知らないよ」
監視カメラで記録されながら、アレクサンドラ、サーシャは弁護士と通訳(とはいえ彼女は訛りこそ強いものの完璧な会話が可能なのだが)同席の下警察の取調べに応じた。その片腕はギプスで固められ……
「どうやって死んだかは知っている?」
向かいの席で発言を注意深く聞き、こまめにノートを取りながらそばかす顔の刑事、ノラは問いかける。視線はろくに彼女に合わせていない。
「ああ新聞で読んださ。確か爆発の前に殺されたんだろう? まったく奇妙な事件だよ」
本当に奇妙だ。そして二度と思い出したくもない出来事。大金をはたいてあの淫乱豚を始末できたまではよかったが、予期しない爆発があったばっかりにあの性悪娘の怒りと疑いを買ってとばっちりを食らい、爪は剥がされるわ腕はへし折られるわ——とはいえ、医師によると綺麗に折られていて、すぐにくっつくそうだが——散々な目に遭った。それでも商売敵を一般人が得る生涯賃金よりも格段に安い値段で殺せたのは幸運、と考えるといいかもしれない。
折られた時こそ応急処置をした部下の歯を殴り折るほど激昂し、本気で殺そうと思ったが口座に治療費が振り込まれ、時間も経つにつれ平静を取り戻していた
そして同じ日に腕を折られ、強い敵対関係にあった自分が警察に呼ばれたというわけだ。しかし口座は秘匿性の高い銀行しか使用していないし、あの性悪娘とのやり取りは一切記録していない。この眼鏡の年若い警官にはともかく、上の連中や下っ端どもには鼻薬をたっぷり嗅がせている。すぐに事情聴取が終わるのも目に見えていた。
サーシャはいらだち、それは顔にもはっきりと現れている。紫煙を吐き出す煙草も自然と上を向き、不機嫌であることを暗にあらわしていた。早くこの拘束から解放されないだろうか。ただでさえ税金を貰って適当に仕事しているだけのこいつらが嫌いだったし、今日はどういうわけか剥がされた爪の痕がやけに傷むのだ。
「被害者との関係は? 話では相当険悪だったらしいけど」
警察の癖にわかりきったことを、とでもいいたげに
「たしかにあいつとは仲が悪かったさ。個人的にも品が無いし男だろうと女だろうと、ガキでも何でも抱く淫獣で大っっ嫌いだったし、同じクラブにうっかり入ろうものなら大喧嘩になっちまうくらいにね」
ノラはさして反応を見せず、時折視線をサーシャにやりながらメモを取っている。
「だけど私はヤクザ者じゃあないんだ。これでも不動産と飲食店を経営する忙しい身であの豚を殺す暇なんて無いし、父の代から築き上げてきた今の地位を捨てたいと思わないしね」
不動産と飲食店はヤクザ者の息がかかっている典型的な業界である。
隣の席にいた弁護士がノラの方へ体を前のめりにさせ、灰色の瞳を覗き込むように話しかけた。
「刑事、依頼人は非常にアナタの捜査に対して協力的で、黙秘もせず質問に全て答えています。今日の法定拘束時間はそろそろですし、考えていただけませんかね?」
数コンマ、ノラが自分の背後に備え付けられている鏡——マジックミラ——を見た。その向こうには彼の同僚たちがいるのだが、仰ごうとも答えは明白だった。
「ええ、じゃあ今日はここまで。事情聴取の期間は明後日までですが、来ていただけますね?」
維持の悪い男だ。断ればどうなるかわかっているだろうに。足早に退席する亜麻色の髪の女の顔にははっきりとそう嫌悪感と一緒に書かれていた。
「参考人」達が退出すると、同僚たちが入ってきた。みな当然「クサい」と思っているだろう。最も得をする人物は彼女なのだから。しかし証拠はどこにもない。あの女は兵隊がどこでなにをしているのかもその記憶力で全て把握しており、明確なアリバイがあった。
とすれば殺し屋に依頼をしたと考えるのが最良だが、金の流れすらわからなかった。
(少し、空気を変えようかな)
そうしよう、と青年は思い立った。暫く中断していた、あの事件の当事者についての捜査も並行してやっていくのも悪くない。
- Re: 【キャラ募集】Re Becca【再開】 ( No.162 )
- 日時: 2013/11/15 22:31
- 名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: 0i4ZKgtH)
傷がほぼ治り、頭痛も安定したので鍛錬を再開した時、リヒトは自分の体の衰えに苛立ちを隠せなかった。以前走れた距離を同じ速度で走れない、持ち上げられた重いウエイトを持ち上げられない、心肺機能は低下し、いつもどおりのトレーニングを課すと筋肉痛が全身を襲った。
(元通りになるまで、どれくらいかかるんだろうなあ)
汗にまみれ、顔を充血で真っ赤にしながらそう何度も呟いた。貯金は十分にあるのだが、一方で仕事はこなしていかなければならない。この衰えた肉体——ベストな状態なら人間を持ち上げられることくらい造作もないのだが——で行うとなると安く簡単な仕事からはじめなくてはならない。幸い技術はそこまで衰えておらず、筋肉をいかに早くつけるかが課題だった。
リヒトもフリーの個人事業主である。この日の昼食は栄養などを考慮して全て自分で作ったものだった。できたてのそれを口に入れ、よく噛み、飲み込む。それを何十回と繰り返していくうちに、皿に並々と盛られた食事は消えていった。しかし腹が満たされているというのに顔はどこか晴れない(元々明るい顔でもないが)。
(あの娘に料理を教えてもらうべきだったかな)
脳裏に浮かんだのは明るい金髪の少女。彼女が作る食事は美味かった(と、彼の旧人格と共有する記憶がそう認識させている)。少々作るメニューに偏りはあるが食材のバランスも良くしっかりと味付けされていて、どれも簡単なプロセスで作られていた。大した才能だ、きっと忙しい中で美味しい物をいかに速く、簡単に作るかをあの年齢で考えたのだろう。
などと考えて食べていたら、皿にはトマトソースを絡ませたスパゲッティがすっかり無くなっていたことに気がついた。「明日あたり料理本でも買おうかな」と考えながら、リヒトは食器を片付け始める。時刻はちょうど13時になろうとし、部屋の外に植えられている木の枝からは枯れ葉が落ち始めていた。
※※
医師より休養を命じられ、軽い火傷を癒すために体を包帯で巻かれたレベッカの右頬には湿布が張られていた。先日女医の地雷を踏んだ結果である。彼女は言いつけどおり大人しく家で過ごし、多くの時間をアート集の閲覧やギター、支障が無い範囲内で肉体を維持するためのトレーニングを行っている。ある意味で、遺族年金と遺産で暮らすという建前上の彼女の姿と合致していた。
レベッカが家にいるから、といってフレデリカの負担が減るわけではない。元々レベッカは家事全てを彼女任せにしていたし、負傷したことで包帯の取替えを行わなくてはならないため余計に忙しくなっていた(そのためか少々掃除に関しては手を抜いているようだ)。彼女にとってはレベッカが仕事から離れている日が続くというだけでも嬉しく、気分が良かったのだがやはりストレスと無縁というわけでもなく、時々イラっとしてしまうようで彼女に許可を得て地下室にある軽いサンドバッグを叩いている。
料理に関しては簡単『だった』。ヘルガが食事療法のために指示したもの——レバーや魚、レモンといったビタミンと亜鉛を多く含むもの——を中心にすれば良いのだから。
しかし、時間が経つに連れ問題が起き始めていた。怪我人がまるで体にいい、ということで母親に無理やり食べさせられる子供のように料理に飽きだしたのだ。
「今日もマたレバー? 明日ハ鱈? デ、明後日ハ牡蠣?」
と、さすがにそこまで食事にこだわりの無いレベッカも決まって繰り返される料理に悪態をつきはじめていた。何せここ5日間夕飯は牡蠣、鱈、レバー、鱈、レバーがメインなのだ。しかもいずれの料理にも絞るためのレモンが備え付けられている。
「駄目だよ。速く治りたいんでしょ?」
と子供を言い聞かせるように言うのだが、
「人間ヲ蛋白質とビタミンダケで語るヨウじゃマだ二流ネ。食事を楽シめル生物ナノよ?」
決まってレベッカは屁理屈をごねてみせる。眉が下がって眉間にしわが寄り、どうでもいいことにすら噛み付く……不機嫌の証だった。性格とは真反対に活動的な生活スタイルのためか、安静を命じられるとどうも調子が狂うようだ。
「……じゃあ明日は野菜中心で何か作るよ。いいよね?」
「レモンじゃナいワネ……?」
「…………」
もう、とデリィは洗濯物を詰めたかごを詰めて二階へ上がっていった。頭脳も肉体も自分より成熟しているのに、妙なところは子供のままだ。
少しすると、1階、レベッカと話していた部屋からギターを弾く音が聞こえた。不機嫌であるにもかかわらず音色は優しくゆったりとしたもので、それにつられるようにフレデリカは足取りを軽やかに家事を続けた。
「……今度ギター教えてもらおうかな」
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