複雑・ファジー小説
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- 【祝】Re Becca【一周年】
- 日時: 2014/05/23 13:02
- 名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: Ii00GWKD)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs/index.php?mode=article&id=608
申し訳ないのですが現在掛け持っている小説につきましてはお休みさせていただきます。根暗な性格なのでどうもほのぼのとしたお話が書けないんです。。
今回のお話は殺し屋の女の子のお話です。香ばしい設定ですね(
グロと少々のエロ(暗に思わせる程度)が大丈夫な方はどうぞお読みくださいまし。
主要人物
レベッカ・L(ローラ)・シャンクリー Rebecca Laura Shankly 女 16歳くらい
フリーの殺し屋。根暗、陰気、毒舌、金の亡者、人間不信と人格的に大いに問題あり。幼少期に両親に喉を潰された為、人工発声器なしには声を出すことが出来ない。
表向きは両親が遺した遺産と家でひっそり暮らしていることになっている。典型的な中上流階級のアクセントや家の規模からして、現在の職業の割にはそこそこ金持ちの生まれだったことが伺える。
パンクロックやメタルが好みで、ファッションにも現れている。
フレデリカ(デリィ)・ジョイナー Frederika Joyner 女 14歳くらい
レベッカの同居人。明るく生活力の無いレベッカの身の回りの世話をしているものの陰気で自己中な彼女に振り回されている。
レベッカの職業を知っているが、拾われた恩義と良心の板ばさみにあって悶々としている。
家事の中では料理が一番得意。
依頼人がネタ切れ仕掛けなので何人か募集しようかと主思います。なお登場はかなりあとになる予定ですが、それでも良いという人はどうぞ。
名前:
綴り:
年齢:
性別:
容姿:
性格:
職業:
武器:出る可能性ほとんどなし
依頼内容:。
備考:
サンボイ
レベッカの暗殺ルールみたいなもの
・依頼人と標的の思想信条を問わない
・依頼金は原則前払い。1人につき500~1000万フリントが相場
・連絡法は依頼人が一般紙に広告を出してコンタクトを試みる。
・依頼内容に偽りや裏切りが発覚した場合依頼を中止して報復を行う
・単独犯。同業者と組むことは無い
・依頼人になる資格が無い上侮辱をした場合殺害する
・依頼遂行後のいかなる結果に対して責任を負わない
※レベッカのイメージをあげました。
>>67
強さ度みたいな
>>77
身長、体重、カップ
>>130~142
頂いたイラスト
- Re: 【キャラ募集】Re Becca【再開】 ( No.148 )
- 日時: 2013/10/07 22:38
- 名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: aq6f.nuq)
- 参照: www.kakiko.info/oekaki_bbs/data/IMG_002861.jpg
『手話教室開講のお知らせ。
当方は聴覚障害者、発声障害者の社会進出と周囲の方々の理解の普及のため手話教室を開講いたしました。年齢が若年であるほど習得は早く、また……』
会見はホテルの一室だった。レベッカは分厚い壁を背に座り、依頼人のラヴィはソファーに腰掛け対面している。彼の隣にいるのは外国人で、この国の言葉がおぼつかない彼のための通訳だった(移民とその子孫を自認する人間だけで15%もいるこの国では、この国の言葉が不得手な人間の存在は珍しくはない)
ラヴィが殺し屋に自分の母語で話しかけると、通訳の体が前かがみになった。
「『靴に大きな石が入っててな。是非取り除いてもらいたい』」
「……ドンな石?」
「アレクサンドル・ヨー」
聞いたことのない名前だった。といってもこのラヴィが裏社会の人間という情報も、身にまとう空気もないのだから当然かもしれない。
「『俺の事業を奪い取った鯰野郎だ。殺し方は任せるよ』」
「500万フリントね。口座に振り込マレ次第仕事をスルわ」
望みがかなうことに満足したらしい。浅黒く皺の深い顔が笑むとさらにしわくちゃになったようだった。その顔を保ったまま通訳と話し込んでいる姿は、やはりかたぎの人間なのだろう、とレベッカに思わせるに十分だった。そして「こういった仕事」を何回か依頼しているであろうことも。
「『あんたは龍だ。幸運の龍だよ』」
『龍』という言葉がジュースを飲むレベッカの耳に引っかかった。落としていた視線が急に依頼人の方を向き、真意を確認したがっていることを示した。通訳も彼女の変化を敏感に感じ取ったようで、
「龍は俺達の国では神聖な生き物だよ」
と付け加えた。一方この国では魔術に使役されたり、人間を襲う不吉な魔獣である。40年ほど前、東洋の国のある貴婦人が弾圧政策に抗議した僧侶の焼身自殺について「僧侶のバーベキュー」と発言し、この国とその近隣諸国を中心としたメディアは『ドラゴン・レディ』と彼女を渾名したものだった。レベッカにとっての『龍』も、無論後者のものである。
その貴婦人は軍事クーデターによって追放され、世界各地を逃げ回るように転々とし、去年死んだ。支持者からの援助や不動産で築いた遺産は200億フリントであるといわれている。彼女の故国の平均的な庶民の年収は28万フリントであるというのに。
「まァ、当たッテるわネ」
どっちの龍で解釈、発言したのかはレベッカだけがわかることだった。
依頼人No.50:ラヴィ・バーイー 66歳 男
職業:不動産業者
家族構成:妻と息子2人
特徴:移民一世で複雑な話は通訳を介する。年齢以上に皺くちゃ。
料金:500万フリント
依頼内容:敵対業者の排除。殺害方法不問
**
首筋に鋭く熱い線が走ったのを感じると、テオンはそこから赤い花が咲き乱れたのを見、突っ伏した。べちゃりと地面に転がった「元人間」を見下ろすのはレイ・カーマイケル。その顔は涼やかで呼吸も整い、汗一つかいていない。その手には鋭利なナイフではなく、血で汚れたカードがあった。
レベッカの暗殺依頼の件は依頼人の死によって終わったため彼の評判ががた落ちになることはなかった。しかし失った評判を取り戻すには築き上げた評判の倍くらい働かなくてはならない。そのため今回の仕事も上納金を払い渋ったチンピラの始末を200万フリント、彼の本来の相場である400万フリントの半額程度で行ったのだ。
「いつぶりだろうなァ、こんなに働いているの」
ここ最近は休むことなく働いている。そこまで働かなくても良いのだが裏社会というのは面倒な世界で直ぐに裏切るくせに堅気の世界よりも信頼がものを言うのだ。彼らの社会では、縛る法も無いため信頼と言うモラルが重んじられ、破った者には強い侮辱と報復を受ける可能性が待っている。レイもそんな世界の住人であり、信頼というのを大切にしていた。
地面に広がる赤い液体から出る鉄の匂いが鼻腔を刺激した。殺して得た信頼を、再び殺して取り戻そうとしていることを実感するときだった。こんな生活がまともな結末を迎えるわけがない、と理解しながらも若き殺し屋は依頼人に「終了」を告げた。
- Re: 【キャラ募集】Re Becca【再開】 ( No.149 )
- 日時: 2013/10/09 21:41
- 名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: aq6f.nuq)
- 参照: www.kakiko.info/oekaki_bbs/data/IMG_002861.jpg
——2日後
曇り空、誰も寄り付かない街中の廃ビルの屋上にレベッカはいた。その両手には普段あまり使うことのない狙撃銃M24(盗品)が握り締められている。無防備な一般人をさっさと殺したい場合、レベッカは決まってこの銃を使うのだった。金目的のチンピラや暴漢の仕業に見せかけて拳銃で撃ち殺すのも問題はないが、わざわざスナイパーライフルで殺すことで「意味のある殺人」を演出できる。
調べたところによると標的は敵対業者を何人も潰しているという。そういった人間には露骨に意味のある殺人が違和感なく行え、それゆえ単純で野蛮な殺害方法よりも遠距離で、かつ逃走経路をより考慮した計画が立てられる。
(…………)
屋上の風にあおられた髪が覆いかぶさる緑色の瞳が右手首にはめられた腕時計——職人が全て手作業で作った自動巻時計——を見た。時刻は11時56分。標的、アレクサンドル・ヨーは敬虔な信徒で、毎週日曜日の礼拝を欠かさない。その最も無防備な状態を狙えば確実に殺せる、というのがレベッカの算段だった。
レベッカの家もそれなりに熱心な信徒の家庭で、礼拝後の気の緩み、高揚感というものをよく知っていた(彼女自身は幼少であったため退屈なものに過ぎなかったが)。そしてこの時刻は……
ゴーン ゴーン
廃ビルから約600m南の距離にある教会、標的がいる場所から鐘が鳴った。殺し屋がスコープに目を通すと、確かに教会の上部に備え付けられている鐘が揺れているのがわかった。すかさずスコープをそのまま下にずらすと木製の扉から信徒達が出てゆくのが見えた。その数の多さにレベッカの目が細まり、手渡された写真と依頼人の言葉を思い出すよう脳が回転し始めた。
「『奴は禿頭の東洋人だよ。あと足が悪くて右足を引きずって歩くんだ。東洋人ってのはあの地区に東洋人は少ないからすぐに見分けられるだろうな』」
仲良く娘と思しき女性と談笑しながら歩くびっこ引きが教会から出てきた。その黄色がかった肌、掘りが浅く細い目の男……その頭は禿げあがり、太陽光が肌を照らしていた。
澱んだ瞳が獲物を見つけた。瞬間、人差し指に力が加えられると耳を突き刺すような轟音と共に肩に衝撃がのしかかった。弾薬が鼻腔を刺激する。
スコープ越しにいた東洋人の頭骨と脳髄が吹き飛び、体が崩れ落ちたのが見えた。無意識に殺し屋の顔がほころぶ。間白い父なる神の家の階段と突然の出来事にわけもわからず泣き叫ぶ娘の顔は、愛する父の内容物で見事に化粧されていた。
鐘はまだ鳴っている。
「……!」
その娘を見たレベッカの瞳は大きく見開かれた。眉も吊上がり、動揺を示している。普段のレベッカならばその光景に何も感じずに去るはずである。しかしこの時ばかりは——犯行現場から足早に去ってはいるのだが——明らかな不快感を感じているようで足取りは荒かった。肉塊となった父の死体にすがりつく娘を見てだ。
歯をぎりぎりと噛み鳴らし、先程見た光景を振り払おうとするが離れない。いつもなら殺害したときの記憶などさっさと忘れることができるというのに。
すべてはレベッカの価値観、人生からは考えられない行動が行われていたせいだ。親の非業の死に子が泣き叫んで悲嘆に暮れるというのはどこでもあることで、人間として当たり前の感覚である。しかしこれはレベッカにとっては吐き気を催すような、あるいはわずかな羨望の対象でしかない。
レベッカは親子愛というものを知らないのだ。むしろ親から与えられたのは永遠に消えることのない障害なのであり……。
怒りと吐き気を堪えようと噛み締めていた唇が裂け、口内に鉄の味が広がる。傷口から朱が垂れ、顎まで伝っていった。しかし体はいつもどおりに動き、近くの地下に設けられた駅へと潜り込むと逃走経路を完成させたのだった。どちらが本当の彼女なのだろうか。
- Re: 【キャラ募集】Re Becca【再開】 ( No.150 )
- 日時: 2013/10/12 22:13
- 名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: aq6f.nuq)
- 参照: www.kakiko.info/oekaki_bbs/data/IMG_002861.jpg
「あ、おかえり!」
「えエ」
「ご飯できてるよ。もう食べる?」
「……今日はイいわ」
その言葉に同居人は首をかしげた。腹筋が割れるほどに鍛え、体を酷使する仕事をするレベッカは基本的にほとんど食事を怠ることなくしっかりと摂るのだが。その視線は落ち、自分の部屋へと上がる足取りもどこか重い(しかも荷物を玄関に置かず、ちゃんと持って行っているのだ)。
(嫌な事、あったのかな)
フレデリカから見れば人を殺す仕事など嫌なことづくめだ。彼女自身自分だけが強盗殺人で生き残ったという記憶からいまだに魚をおろすことはできないし、傷を作って帰るレベッカの面倒をみるだけで動揺してしまう。
しかしレベッカは殺すという点においてデリィに対して強烈な不快感を見せたことがなかった。まるでスーパーマーケットのパートタイムから帰ってくるかのように涼しい顔(ほとんどの人間から見ればいつもどおりの陰気臭い顔なのだが、そうデリィは感じている)をして戻ってくる。
かつてヘルガが「どうしてああなっちゃったんだろう」とボヤくほど、レベッカは歪んでいた。それが殺し屋を始めてからなのか、それとも以前からなのかは定かではない。
家の主人がいるのにフレデリカが一人で食事を摂るのは数ヶ月ぶりだった。以前レベッカが背中に刀傷を受け、炎症を起こしてまともに食べられなくなったどころか起き上がるだけで激痛に悶えていた時以来。
そこまで口数が多くはない彼女とワイワイ楽しく食べるわけではないが、ごく一時期を除いてデリィは同居している人間全員で食べるのが当たり前の習慣になっている。それができないというのは気分が悪いし、何よりも
(大丈夫かな……)
彼女は自分の友人が心配だった。傷を作ることはしばしばだが、あんな態度を見せたことなどほとんどない。その彼女が沈むのだから、何か大きなことがあったのだろうか。
今は作ってある夕飯を食べ、やや汗臭い体を風呂に入って清めてから話を聞こう、と金髪の少女は決心した。口に含んだ鱈のフライは、モルトビネガーの甘酸っぱい酸味が効いて美味かった。
デリィの部屋と同じくレベッカも自分の部屋に鍵をかける。恐ろしくて眠れないという同居人とは違い、レベッカの場合は「人にあまり見られたくない」事をしている——銃の手入れなど——事が多いため閉めている。この時は……
「レベッカ、入るよ?」
返事がない。しかしトレーニングルームのある地下室にも、浴室にも彼女はいないということは、この部屋にいることは確実。本来了承もなしに部屋に入ることは褒められたことではないが……
ギィ……
鍵は珍しく空いていた。しかし中は暗く、廊下の明かりが部屋に差し込んでようやく中をうかがい知ることができた。家具の位置も変わらず、ほとんど散らかっていない今日自分が掃除した部屋そのままだった。
「レベッカ……?」
黒髪の殺し屋はベッドの上に体育座りをしていた。その顔は膝に埋められ、足を抱える手は万力のごとく固く組まれている。足の指は何かをこらえるようにぎゅっとたたまれていた。
「……どうしたの? お腹が痛いの?」
デリィは近づいて彼女の腕をさすった。思春期を迎えている女の子らしくない、筋肉が発達した腕だった。それに反応するかのようにレベッカの顔が上がった。いつものように暗く、表情に乏しい顔つき。しかし顔は珍しく少々赤みを帯び、目の色は一層落ち澱んでいる。
「……ねェ」
「?」
「親子って、ソンなニイイもノなのカシら」
フレデリカは答えに窮し、顔を固めた。彼女は「レベッカの前で親子の話は絶対してはいけない」とヘルガから忠告を受けており、ごくたまについ滑る以外口にしたことがないのだ(その場合決まってレベッカは不機嫌になる)。
「……何があったの? レベッカ、親子の話なんて全然したことないじゃん」
裕福な家に生まれながら、彼女が決して幸福な、むしろ目を覆いたくなるような家庭生活を送っていたことを知るからこそ、彼女のための良い答えが出ない。
「今日、1人殺しタわ。そイツの娘の目ノ前デ」
- Re: 【キャラ募集】Re Becca【再開】 ( No.151 )
- 日時: 2013/10/14 21:31
- 名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: 0i4ZKgtH)
- 参照: www.kakiko.info/oekaki_bbs/data/IMG_002861.jpg
「え……?」
碧眼が思わず見開かれた。人を殺したということ関しても驚きを隠せなかったが、より彼女に大きな驚きを与えたのはレベッカが殺しの話しを自分にしたということだった。今まで、職業こそ教えたものの彼女は自分に対して仕事の内容を打ち明けたことなどないのだから。
「……その人、どうしたの?」
心なしか緑色の瞳の視線が下がったような気がした。
「泣いテタわ。子供のヨうニ叫びナガら」
肉親を目の前で殺された人間がなきがらにすがりつき泣き叫ぶ……聞き手に回るフレデリカからしても、世間一般の常識からしても至極当然なことであった。しかし
「それを見て気分が悪くなったんだね?」
レベッカの頭が縦に振られた。無論これは自分が犯した罪に対する悔いではない。子が親の死を嘆き悲しむという行為を見て憎悪と羨望に苛まれて吐き気を催すという、レベッカならではの性向が引き起こしたことをフレデリカは理解していた。
そして同時にやりきれない気持ちになる。どうして16歳の女の子が、青春を謳歌し、好きな人と手を繋いで歩きたがるような年齢の子が、他人に対する共感力を大きく失い、それどころかそれに対して吐き気を感じるようになる目に遭わなければならなかったのだろうと。
「親子ッて、イイもノなの?」
答えを求める友人に対し、正直に思っていることを言うしかレベッカの同居人には残されていなかった。
「私は幸せだったよ。9年間しか一緒にいられなかったけれど、お父さんもお母さんも私と弟を愛してくれてたもん。……皆死んじゃったけれど、あの時間を忘れることなんて出来ないよ」
レベッカに反応はない。昔を思い出したのか声がやや上ずっているデリィの話に静かに、生気の無い視線を下げながら耳を傾けている。
「…………」
「レベッカがお父さん達に可愛がってもらえなかった、可哀想な生活をしてたことはわかってるよ。……でも親子って、家族って多くの人にとってはそういうものなんだよ? 失ったらすごく悲しいものなんだよ?」
いつの間にかレベッカに対する禁句を口走り、腕を握る手の握力が強くなっていたが今のデリィの言葉にはそれすら忘れるほど熱が篭っていた。普段自分の考えを強く押し出そうとしない彼女がこのような行動に出ること自体が、レベッカに対して驚きとストレスを与えているのだが……
「ねえ、もう止めにしようよ。人を殺す仕事をしてても、レベッカが苦しむだけだよ? 誰も幸せになれないんだよ……?」
レベッカから答えは無かった。それでもフレデリカは少しはレベッカの心に響いて、引退を考えてくれるのではと期待した。ここまで繊細な面を見せる彼女を見たことが無いのだ。もしかしたら、と期待を寄せるのは無理も無いことだった。
しかし、金色の髪の少女は見落としていた。レベッカは、彼女が幸せになることを目的に殺し屋の道を選んだのではないということを。
※※
「あの娘がねぇ……」
遠戚が脆い部分を見せたことなど殆どないらしく、ヘルガも思わず手を顎に当てて唸った。健診を終えたレベッカは今、地下で汗を流している。
「私にそういったのを見せたのは、人工発声器を作って与えた時くらいかしらね」
「そうなんですか?」
紅茶の入ったマグカップを手にしながらフレデリカが尋ねた。対面する女医は腕を水平にし、それを胃あたりの位置まで下げて答えた。
「まぁね。あの時はこぉんな小さい子供だったんだけれど」
それがああなっちゃったのよ、と頭をかいて苦笑いをしてみせた。彼女にとってはいつも陰気臭く、人間を信じようとしない患者が見せた人間らしいところを見ることができて嬉しいものだったらしく、語る姿は生き生きとしていた。
「にしても、あんたも成長したのね」
「えっ?」
ヘルガが身を乗り出すように机に両肘をかけ、デリィに微笑みかけた。その視線を感じ取ったデリィは顔を赤くして自分の胸板——未発達な——に視線を落とし……
女医の呆れ顔。
「胸じゃないわよ、性根よ性根。今まではレベッカに気を遣い過ぎてたのに、少しは自分の考えを言えるようになったじゃない」
「…………」
「だからあの娘も込み入った話をしてもいいと思うようになったの。以前言ってたわよ?『他人ばかり尊重しようとしている人間とは大事な話しをする値打ちがない』って」
半分本当で、半分嘘だった。レベッカがそんなことを言った事はないし、基本的に心にズケズケ入られることを嫌う。しかし、目の前にいる碧眼の女の子が確かに成長していることは確かで、ヘルガ自身それを嬉しく思っていた。だからこそ、わざと元気付けるための嘘をついたのだった。
- Re: 【キャラ募集】Re Becca【再開】 ( No.152 )
- 日時: 2013/10/17 21:31
- 名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: 0i4ZKgtH)
- 参照: www.kakiko.info/oekaki_bbs/data/IMG_002861.jpg
「これを?」
「そう、ここの親方に鍛え直してもらいたいんだけど……」
客の注文に渚は窮し、手を顎に当ててその感情を暗に伝えた。親方、ルーカスは今出張中であり、この店を預かっているのは自分だったのだから。
「今親方は出張中で、一週間は戻らないよ。俺が代わりに鍛えてもいいけど?」
長身の弟子の申し出に灰色の瞳の客が愛想よく笑う。
「ありがとう。でも、この辺だとルーカスさんが一番だって聞いているから」
別に君じゃ駄目、ってわけじゃあないんだけれど、と付け加え、固辞した。無論この弟子の腕も良いのだろう、彼の手の平に刻まれている傷や肉刺がそれを訴えていた。しかし、自分の得物はやはり最高の職人に診てほしい、おいうのがアギトの考えであった。
「うーん、じゃあ電話番号を教えてくれる? 親方が戻ったら連絡するよ」
「いいって、適当な時にまた来るから、さ」
予想外の答えに渚は首をかしげる。何故わざわざ面倒な方を選ぶのだろうか、しかもこの一見ドコにでもいそうな女性が何故、こんなもの……刀を鍛えて欲しいなどと。
ふと見事な装飾と業物の刀に落としていた視線を上げると、赤毛の女性がにこやかな顔つきでこちらに微笑みかけている。情熱的で異国情緒あふれる赤毛と灰色の瞳に射止められた鍛冶見習いの顔は、少々高潮し目の置き場に困った。彼、渚は男臭い世界にずっと身を置いていたためかこういったシチュエーションが苦手だった。
「な、何か用……?」
「君、東洋人?」
彼女から発せられた言葉は、自身が良く受ける質問だったことに渚の脳は冷やされた。確かに彼の顔立ちには東洋人特有の面立ちが認められる。青緑の瞳と金髪で堀の深い顔立ちこそこの国の人間のものだったが、やや浅黒く、瞼は一重で少々切れ長、そして彼女が言うには下半身の筋肉のつき方が東洋人のものだという。
「うーん、だけどねぇ」
頭をぽりぽり掻きながら鍛冶職人が返答する。その答えにアギトは眉を寄せた。
「やっぱりね。うん、やっぱり刀を持つのは東洋人が似合うよ! 私だと馬鹿なアクション映画のヒロインみたいになるしね」
まあそうかもしれない、と渚は心の中で呟いた。よく小さいころから親方や仲間から遊び半分で模造された刀を持たされおちょくられたものだ(その度に仕返しに振り回してやったが)。東洋人は大抵大人しく勤勉か卑屈、というイメージがあるためかこういった商売では重宝されるため、悪い気分になることはあまりないものではあったが。
「じゃあこの刀どうしようか。持ち帰るには重くない?」
「一応家宝だからさ、ちゃんと家に持って帰るよ」
「ああそう(どうせ預けて鍛えるんだから代わらないんじゃないか?)。じゃあ一週間後ね」
「うん、じゃあ」
手を振って別れを告げる赤毛の女性の笑顔は魅力的だった。同じ女性でもあの根暗そうな女とはこんなに違うものなのかと、渚は苦笑しつつアギトの退店を見送った。
※※
レベッカが仕事から帰ってから2日後——
アナウンスが響く駅のターミナルに立つリヒトの青い瞳には3人の女性が写る。少々俯き気味な幼馴染と平静を装う主治医、そして離れた所で絶えず警戒し、殺意を放つあの同業者が。その半身は頑丈な鉄柱に隠れており、肌寒い冷気から体を守るコートの懐に左手を突っ込んでいた。目隠しをし、わざと遠くの街の大きな駅に連れて行かせてもなおレベッカは疑い、警戒していた。
「じゃあ、もう行くから……」
「……うん。気をつけてね、リヒト」
答えたフレデリカの顔は、リヒトと合わせていなかった。一体どっちのリヒトが行くというのだろうか。言ったのは知性的な方ではあるが……。
「はい、これ処方した薬。切れそうになったらまた来なさい」
「ええ」
そういうとヘルガが少年に瓶詰めのカプセル薬を手渡した。内にいる彼が暴れてもせめて痛みを起こさないようにと彼女が適切であると考えた薬品だった。本来ただの頭痛と精神安定のための薬であり、対多重人格に関しては全く未知数ではあった。
“まもなく、13 番線から……”
13番線、4人がいるプラットホームから彼の住む部屋がある地へ行く電車が発車する。それを告げるアナウンスをキャッチすると、自然とリヒトは「じゃあ」と軽い挨拶をすると電車の扉へと歩を進めた。離れた距離にいるレベッカからの殺意も、心なしか緩んだように感じた。
(色々あった数週間だったな)
幼馴染と再会し、自分の違う人格を発見し、危険な同業者に殺されかけ……本当にすさまじい時間だった。そして理非との関心はそれから、席に座るといつもの一番の興味である「仕事」について考え始めたのだった。まずは落ちた自分の評判を立てなおさなければ、と。
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