複雑・ファジー小説
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- 学園マーシャルアーティスト
- 日時: 2017/12/12 17:46
- 名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)
どーも皆さん。青銅→白樫→大関です。
現在書いてる『気まぐれストリートファイト』が少々アイディアに詰まってしまい、リハビリ感覚で新しい小説を作りました。
下らない内容ですが頑張っていきたいと思います。
=ご警告
・荒らし、中傷はやめてください。
・パロディ等があります。
・かなり汗臭い感じになります。
・亀どころかナマケモノ以上に遅い更新です。
・やってる事は『気まぐれストリートファイト』と同じです。
・少々リメイクしました。
=登場人物(※注意:ネタバレ多々有り)
黒野 卓志 >>4
白石 泪 >>4
春風 弥生 >>4
佐久間 菊丸 >>11
愛染 翼 >>16
大道寺 重蔵 >>17
立花 誠 >>25
=バックナンバー
+日常編
第1話 武闘派学園生活開始 >>2 >>3
第2話 カチコミ退治も楽ではない >>5 >>6
第3話 番長見参 >>7 >>8 >>9 >>10
第4話 決死のタイマン >>12 >>13 >>14 >>15
第5話 "消える左"の天才ボクサー >>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24
第6話 黒野と弥生と空手部と >>26 >>27 >>30 >>31 >>32 >>33 >>34
第7話 電光石火の一撃 >>35 >>36 >>37 >>38 >>39 >>40 >>41 >>42
- Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.33 )
- 日時: 2016/08/06 17:22
- 名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)
数日たったある日の昼休み、相撲部部室で黒野と白石は集まっていた。
「んでもって相棒よ。須藤の調べがついたって聞いたんだが。」
「いや、これがとんでもないんだよダンナ。応援団の翼くんや菊丸くんにも協力してもらったんだけどさ……。」
須藤はカバンからファイルを取り出し、広げた。そのページの資料を取り出すと、そこには須藤に関する情報がビッシリと書き記されていた。
「学浜空手部主将にして、フルコンタクト空手(直接打撃制)の流派『清魂塾』の絶対的エース。それが須藤くんさ。」
「絵に描いたような空手野郎じゃねぇか。他は? 」
「前言ったとおり1年でGFCに優勝、その他にも空手部ではインターハイに優勝……まぁ、このくらいは学浜最強候補として当然のステータス。最大の戦果は、オープントーナメント全日本空手道選手権大会優勝、そして百人組手をクリアしたことさ。」
聴きなれない言葉に対し、黒野は中空に疑問符を浮かべる。
「百人組手って……何それ? 」
「読んで字のごとく、1日で100人と組み手を行う、清魂塾含むフルコンタクト空手の流派の修行さ。」
「なんでぇ、相撲だって似たようなことするぞ。」
「せいぜい30番勝負が限度の相撲と一緒にしてもらったら困るよ。それに相撲が足の裏以外着いたら負け。空手は攻撃がクリーンヒットしない限り一本にはならない。」
「はーん。」
ミニサイズの脳みそで黒野は何が大変かを理解しようと勤める。白石はさらに言葉を続けた。
「しかも須藤くんは、百人組手史上で初めて100人全てに一本勝ちしている。2時間休憩無し、有効どころか技ありも無し。そのスタミナには目を見張るべきものがあるよ。」
「………。」
「そしてオープントーナメント全日本空手道選手権大会……空手はおろか、ボクシング、ムエタイ選手などの選手の参加も認められる、立ち技格闘技の異種格闘技戦……これも1年の時に優勝している。さらに彼はアマチュアのK-1にも出場経験がある。この通り実践は数多く経験しているんだ。」
「聞けば聞くほど、スケールがデカ過ぎてイメージしきれねぇや……。」
黒野自身もアメリカで数多くのストリートファイトを経験し、日本に帰ってきた後も応援団の重蔵、菊丸、ボクシング部の立花など、様々な強者と戦い、様々な経験をして来たという自負がある。しかし、この男……須藤は黒野と余りにもかけ離れすぎている。数多くの『実践』の差を、黒野は到底埋めれる自信が無かった。
「そして須藤くんを強者たらしめているのは、その一撃の重さ。ダンナも見たでしょ?」
「あれか。」
黒野は先の戦いを思い出す。校舎の塀を砕き、黒野がぶちかましの鍛錬で使用していた木をへし折る一撃を。
「空手における永遠の目標、そして須藤くんが体現したもの、それが『一撃必殺』。」
「一撃必殺……。」
「頑丈な物を一撃の元で破壊する『物理的な一撃』、百人組手で全て一本勝ちする『技術的な一撃』、須藤くんはそれを若干17歳で極めているんだ……様々な大会で優勝する程の桁外れの実力、空手に対する飽くなき探究心、そして空手の目標を達成する圧倒的な才能、全てを考慮して皆は彼の事をこう呼んでいるよ……。」
白石は深く息を吐き、その視線を下に向ける。そしてもう一度息を吸うと共に、視線を上げ、口を開いた。
「『空手界の生きる伝説』と。」
寸分の迷いも無く、白石はその言葉を紡いた。さしもの黒野もこれには驚きを通り越し、寧ろ半分呆れたかのような表情を見せた。
「17で既に伝説かよ……とんでもねぇな……。」
「ダンナが戦ってきた人は十分強いよ。だけど須藤くんはそれ以上さ。さしものダンナも幾らなんでも分が悪すぎるよ。」
白石は、いつも通り黒野に忠告を行う。黒野も流石にこれには従わざるを得ないであろう。しかし、黒野はその言葉に対して笑みを浮かべる。
「けっ、上等だぜ。こっちだってバケモノだって言う自負はあらぁな。それに最強の座と部員確保の為には、嫌でも避けて通れない戦いだぜ。俺様は勝ってやるぜ。」
結局のところ、黒野は黒野。彼の頭からは『退く』なんて言葉は一切思い浮かばない。いつも通り白石は頭を押さえ、ため息をついた。
「ねぇ、ダンナ。本当に勝てると思って言ってるのかい? 」
「思わなかったら言ってねぇよ。それに別に時間は大量にあるんだ。対策くらい考えてやるぜ。」
慰めるように白石の肩を叩き、笑い声を上げる黒野。白石も、多少頭に痛みを抱えながらも、やれやれと言わんばかりに苦笑を浮かべる。
- Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.34 )
- 日時: 2016/08/09 18:52
- 名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)
放課後。野暮用で遅れる白石を置き、弥生と共に帰路に着いていた黒野の姿があった。
「それで空手部の須藤くんとは、もう大丈夫? 」
「まぁ、あれから関わりは無いな。もっとも、遅かれ早かれ喧嘩になるだろうけどよ。」
結局は喧嘩に発展する。そんな事を聞き、弥生は少し物悲しげな表情を浮かべた。
「ねぇ、黒野くん……やっぱり喧嘩しないとダメなの?」
弥生の表情の変化に気づいた黒野は、その言葉を聴き、少々申し訳なさそうな表情を浮かべて答えた。
「弥生の言いたいことは解かるぜ。そりゃ暴力は行けねぇだろうとは思うだろ?」
「うん……いつか黒野くんが、見ていられなくなるほどボロボロになるんじゃないかって思って……。」
「気持ちはありがてぇ。だけどよ、俺はガキンチョの頃に言ったはずだぜ。『最強になる』って。」
「だけど、それはもう小さな頃の話だよ……もう此処で相撲だけに専念してもいいと思うの……。」
「小さな頃……か。」
黒野は何かを思ったかのように、曇りかかった空を見上げる。そして少しの沈黙の後、その口を開いた。
「確かにデケェ夢を持つ奴は、成長すると現実見て捨てる奴が多い。だけど、全員が全員それに当てはまるわけじゃねぇ。中にはそれを捨てずに叶えようともがいてる奴もいる。結局のところ、俺の頭も……その『小さな頃』のまま成長が止まっちまってるんだよ。」
「黒野くん……。」
やはり弥生の言う事に思うことがあったのであろう。今度は黒野も物悲しそうな表情で天を仰ぎ、言葉を紡ぐ。弥生はそれを、ただ心配そうに見つめるしか出来なかった。しかし、黒野はその表情から一転し、笑顔を浮かべると弥生の方を振り向いた。
「だけどまぁ、心配するな。俺はこの程度じゃ、くたばりはしねぇよ。俺には弥生は勿論、相棒もいる。お前らのサポートがあったからこそ、此処まで強くなれたんだ。今更、此処で再起不能になっちまう程、ヤワな体じゃねぇよ。」
「えっ、でも……。」
「どーんとしてろって。心配してくれてありがとな、弥生。」
黒野は弥生の肩を掴んで引き寄せ、笑い声を零す。照れと黒野の笑いに釣られるかのように、弥生も笑った。
その時である。空からポツ、ポツ、と雫が落ちてくる。雨だ。
「えっ? 今日曇りじゃねぇのか? 」
雨はポツ、ポツ、と言うものから、次第に増していき、遂には本降りとなっていった。
「やべぇ! 走れ! 」
「うんっ! 」
濡れない様に急いで走る黒野と弥生。しかし、その間にも雨は勢いを増していく。
「雨強くなってきたよ! 」
「ちぃっ! どっかでやり過ごすしかねぇなこりゃ! 」
どんどん強くなる雨に対し、ずぶ濡れを避けたい黒野は雨宿りする場所を探していた。その時、ある場所が黒野の目に留まった。
「丁度良いや、此処でやり過ごすぞ! 」
「えっ!? ちょっと、此処は……。」
「どーせ雨宿りするだけだ! 濡れるより遥かにマシだぜ! 」
躊躇する弥生の背中を押し、そそくさと『その場所』に入っていく。
その姿を、ある人影が目撃したことに、黒野も弥生も気づく事はなかった。
=第6話 完=
- Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.35 )
- 日時: 2016/08/26 23:06
- 名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)
第7話 電光石火の一撃
どしゃぶりの通り雨の日から一夜が明け、相撲部で黒野は稽古に励み、白石と弥生がその近くで屯していた。
「いや、しかし昨日はとんでもない雨だったね。ダンナたち大丈夫だったの?」
「何とか凌いだぜ。お前は?」
「僕は野暮用あったから学校で雨上がるの待ったけどさ。ダンナたち何処で凌いだのさ。」
「あぁ……それは」
黒野は何処で雨宿りをしたのか、それを白石に伝えるために口を開いた。その時だった。
「黒野……だな……。」
「んっ?」
黒野たちはその声に振り向く。相撲部の元へ来たのは、須藤であった。須藤は険しい表情を浮かべ、黒野に歩み寄っていく。
「おぅ、どうした須藤。何かすげぇ怖ぇ顔してるが。」
「……黒野、俺が此処に来た理由……解かるか?」
「いや、さっぱりだが? 用件はなんでぇ。」
須藤はその言葉を聞き、全てを悟ったように瞳を閉じた。
「……最早、何も言う事は無い……貴様を……此処で潰す! 」
次の瞬間、須藤は構え、一気に黒野の元へ詰め寄り、黒野の側頭部目掛けて上段回し蹴りを繰り出した。黒野は間一髪、強烈な衝撃をまともに受けつつも、それを両腕で受け止めた。
「て、テメェ、いきなり何すんだ!? 」
「それはお前の胸に聞いてみろ! 」
足を黒野から離し、体勢を元に戻そうとする勢いを利用して横回転。その勢いのまま、手の甲をぶつける裏拳打ちを放つ。黒野は後ろに全力で下がっていき、それを回避する。
「外したか……。」
「おいおい、何だよ! 俺様の胸に聞けだぁ? こちとらお天道様に顔向けできねぇような事はしてねぇぞ! 」
「ほぅ、それならお前は、昨日のにわか雨の時、何処で何をしてた?」
「昨日の……にわか雨だぁ? 」
黒野はそれを聞き、頭を抑えながら何かを思い出そうとする。そして黒野は、自身の左掌に右拳を『ポンッ』と乗せた。何かを思い出したようである。
「あれか。」
「思い出したようだな……お前がやった事を……。」
「なんでぇ、別にキレる事でもねぇだろ。俺様は弥生と雨宿りしてただけだぜ。別にそれ以外は何もしてねぇぞ。」
「あの場所で雨宿りか……随分と口が回るようだな!」
「俺様はウソはついてねぇぞ!」
お互いに手を止め、口論がその場で起こされていく。その一方、先ほどの拳劇を見ている事しか出来なかった白石と弥生。口論が始まると弥生は顔を赤く染め上げていた。
「あれ? 弥生ちゃん? 」
「も、もしかして……見られてた……? 」
口論をする黒野と須藤、そして顔を赤くする弥生、この2つに疑問に思った白石は黒野の方へと歩み寄る。
「あのさ、須藤くん、ちょっと時間いいかな? 」
「構わん。」
「おぅ、どうした相棒。」
二人の間に割り込むように白石は立ち、黒野に 向けて口を開いた。
「何か、にわか雨の事でひと悶着してるみたいだけどさ……ダンナ、一体何処で雨宿りしたの? 」
「ラブホ。」
「馬鹿じゃないの!? 」
全ての謎が明らかになった瞬間であった。黒野はあろう事か、弥生と共にラブホテルで雨宿りをしていたのである。
「いやー、支配人が結構いい奴でよ。雨宿りの為に入ったら、タダで部屋貸してくれてな。お前、その後は雨が止むまでポケモンにスマブラにゲーム三昧で楽しかったぜ。」
「そんな所に入ったの見られてんじゃ、こんな誤解生むわけだよ! 」
「解かっただろ……俺が此処に来ているわけが! 」
「あ、あの……本当に何もされてないんです!だから……。」
何とか須藤の誤解を解こうとして、弥生も須藤の元へ向かい、口を開く。しかし、須藤はそれに対し、首を横に振った。
「解かっている……キミが黒野に脅されて口封じされていることを……。」
「おいおい、人聞き悪いじゃねぇか。別に攻められる筋遭いねぇぞ。なんてったって、俺様はよ……。」
黒野は徐に歩き出すと、部室近くに新しく植えられた木の細く、よくしなる枝を折り、それを口に入れた。
口の中でそれをモゴモゴと動かし、口から出すと、その枝は結ばれていた。
「誰がなんと言おうとチェリーボーイ(童貞)なんだからよ。」
「言ってる事と、やってる事が噛み合ってないんだけど!? 」
「これは『来る日に備えて準備中』と言うアピールだ。」
「状況を考えて行動しなよ! そんなもの見せられたら、ますます誤解されるよ! 」
「もう何も語るまい……最後に言い残す事はあるか? 」
そう言う間にも、既に須藤は構えていた。
「待ってってば須藤くん! 誤解されがちだけど、ダンナはこう言う場所でウソをつくような人じゃ」
「おい相棒。それに弥生。ちょっとだけ悪いが……いいか? 」
須藤をなだめ様と、白石は何か言葉を繋げようとする。それを黒野は遮るように言い放つ。そして黒野は、須藤に向けて歩み寄る。何も構えずに。
そして2人は互いに攻撃が届く範囲まで近づいた。しかし、黒野が構えないのは何故か、須藤はそう思った。
「何故、構えない。」
「今、此処で事を交えるつもりはねぇからだ。 」
黒野は、構えないまま、言葉を続けた。
「お前、俺をそんなにぶっ飛ばしてぇかい。」
「……婦女子にだらしが無い軟派な男、俺が一番嫌いな人種だ。お前は婦女子を押し倒し、あろう事か、如何わしい場所にまで連れ込んでいる。俺がお前を潰すには十分すぎる理由だ。」
その言葉を聴くと、黒野はどこか諦めたかのように口を開く。
「まぁ、確かにそれらは俺様に原因がある……そこは否定しねぇ。元凶である俺様の言葉は信用できねぇも良い。ただよ、弥生や相棒の言葉を信用しちゃくれねぇかい。」
黒野の言葉を終えると、白石と弥生は今度こそ、須藤に向けて言葉を紡いだ。
「……そ、そうだよ! 僕が証人になる! 僕はダンナと長く一緒にいるからわかる! ダンナは如何わしいことはやっていない! 出来るはずがない! 」
「私も証人です! 黒野くんは……確かに無茶苦茶だけど、悪い人じゃありません! 私は何もされていません! 」
2人は必死に言葉を須藤に浴びせる。それに対し、須藤は首を横に振った。
「正直に言えば、君達は正しい事を言っているのは俺でも解かる……しかし、それでも俺は……この男が行った行為を、見過ごすことは出来ん! 俺は何と言われ様が……黒野! 貴様を潰す! 」
「そうかい……そこまで言うなら、俺様ももう止めはしねぇ……。」
黒野は一つ、深呼吸をすると、右人差し指を天に向けて掲げる。掲げた指を、今度は須藤目掛けて差した。
「テメェがその気なら……一週間後に此処に来い! 俺様は逃げも隠れもしねぇ! 一週間後に此処で勝負してやろうじゃねぇか! 」
黒野は力強く、宣言した。その言葉に白石と弥生は驚きの表情を見せる。須藤は怯む様子はない。
「逃げるつもりか? 」
「テメェがそう思うなら、そう思っておいて結構。だがな、俺様がこの場で口走るのは事実だけだ。疑ってかかるんなら、一週間後の放課後に来てみろ。俺様は……此処にいるからよ。」
まだ疑う須藤に対し、黒野は一字一句迷うことなく、全て言い切った。互いに睨みあい、暫くの間、沈黙が走る。
「……その言葉、信じてみる価値がある。解かった。お前の言う通り、一週間待ってやる。」
「あぁ……一週間後、楽しみにしてるぜ。」
その言葉を聞いた須藤は頷き、そのまま背を向けて去っていった。
- Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.36 )
- 日時: 2016/08/28 21:16
- 名前: 大関 ◆C5p8guYtTw (ID: 9ihy0/Vy)
須藤が去っていき、黒野も須藤に背を向けて、白石と弥生の元へと戻っていった。
「黒野くん……。」
「とんでもない約束したね、ダンナ。」
心配する弥生を他所に、白石は黒野を責める様に言い放つ。
「どうするのさ、タップリあった時間が一週間に縮まっちゃってさ。ダンナのことだから、対策考えてないんでしょ? 今回ばっかりは」
「相棒。」
捲し立てる白石を黒野は一言で止める。その声は何かを決心したような、そんな声だった。
「なんだいダンナ。」
「悪いことは言わねぇ。お前、この喧嘩から降りろ。」
「えっ?」
黒野の言うことに、白石は耳を疑った。黒野は白石の手を借りずに喧嘩を行うつもりであるらしい。黒野はさらに言葉を続けた。
「この喧嘩の種を撒いたのは俺様だ。それに、今回の相手は空手部全体じゃなくて、正真正銘あいつ一人だけ。お前を巻き込むのは、筋が通らねぇ。」
「……ダンナ……。」
「ついで言うなら、此処まで好き勝手やって、お前に助け求めるのなんざ、あまりにも格好がつかねぇしな。まぁ、安心しとけ、吉報の一つくらいは」
「ダンナ!」
白石は黒野の言葉を遮る様に叫んだ。その声はかすかに震えており、怒りで満ち溢れているのがわかる。
「……ふざけるのも大概にしてよ……。」
「相棒……。」
「白石くん……?」
黒野はもちろん、弥生もいつもと違う白石の姿に、戦慄を覚える。それにあまり気にした様子を見せず、黒野は白石に口を開く。
「相棒、別に俺様はふざけちゃいねぇよ。俺様が勝手に売った喧嘩、お前を巻き込むわけには」
「それをふざけてるって言うんだよダンナァ!!」
白石は腹の底から大声で叫ぶと、懐から特殊警棒を取り出して伸ばし、怒りのままに黒野の頭を思い切り殴った。
「あいたっ! て、テメェ、何しやがんだ!」
「ダンナ……僕を舐めないでよ。」
「テメェ、言いたいことあるなら、ハッキリと物をいいやがれ! 俺様は頭悪いから、察しとかできねぇのは解かるだろうが! もったいぶってんじゃねぇよ!」
黒野はいきなり殴られたために、怒りと共に混乱も交えて、白石に言い放つ。白石は一瞬、何かを思ったかのように下を向くが、すぐに黒野に顔を向け、口を開いた。
「ダンナ、僕には心から決めている事があるんだよ。」
「そりゃ、一体何でぇ。」
「僕はダンナの不利になるような事を絶対にしないという事だよ。」
それを聞き、混乱を見せていた黒野は、一気に現実に戻された感覚に陥った。白石は言葉を続けた。
「僕はね、ダンナに借りがあるんだよ。返しても返しきれない大きな借りが。解かるでしょ?」
「それは……。」
「白石くん、もしかしてそれって……黒野君の家に居候させてもらってる事?」
「その通りだよ、弥生ちゃん。」
白石がなぜ黒野と常に共にいるのか、思えば彼が学浜に来る前に何故黒野と共にアメリカへと渡ったのか。それは簡単である。白石には実の両親がいない。彼が相当小さなころに、亡くなっているのである。故に彼は孤児院で育てられた。その孤児院生活で偶然出会ったのが、黒野一家であったのである。黒野一家と親睦を深めた白石は、黒野の両親の提案で、黒野の家に貰われて行ったのである。
黒野はその事を思い出し、はっとしたような表情をする。
「僕はダンナの家に貰われていった時から決めてるんだよ。ダンナが僕にいくら不利になるような事をしても、僕はダンナの不利になるような事をしない。僕はダンナの味方であり続けると。」
「………。」
「それに相手が一人だから、自分も一人で挑むだって? 冗談じゃないよ。相手は強すぎる。ダンナをみすみす見殺しにするのなんて、僕の決めたことに反するよ。格好がつかない? つかなくて結構だよ。僕はなんと言おうが、ダンナに協力するよ。だからさダンナ……。」
興奮しすぎてしまったのか、白石は深く息を吸い、それを一気に吐き出す。そして白石は、小さく口を開いた。
「お願いだからさ……僕を舐めないでよ。」
白石は己が思った事を全て、言い放った。それに対し、黒野は殴られた箇所を押さえていた手を下ろし、白石に頭を下げた。黒野は言った。
「相棒……俺はお前を軽く見すぎていた……お前を舐めきっていた……こんな俺を許しちゃくれねぇか……。」
重い口で黒野は白石に謝った。その後、しばらく沈黙が走る。その沈黙は、笑顔を見せた白石によって破られる。
「解かればいいんだよ、ダンナ。さっ、頭あげていいよ。」
いつもの天真爛漫な口調に戻った白石は、黒野の謝罪を受け入れる。言葉を聴いた黒野は、言われるがままに顔を上げた。
「さぁ、とりあえず対策くらい考えようか。どうせダンナの事だから、考えてないんでしょ?」
「あぁ、その事なんだが……。」
少々言いにくそうに、黒野は語りかける。白石は中空に疑問符を浮かべ、黒野の顔を見つめていた。
「いやー……威勢よく、啖呵切っといてアレなんだけどよ……実際、相棒を巻き込まなくても、赤の他人一人巻き込んでいたんだよな……。」
「ダンナ? どういう事なのさ。」
「……まぁ、いいか。どーせ、俺にそんな後先のことなんて考えられねぇしな。相棒よ、俺様は既に対策を考えてたんだよ。」
「えっ?」
- Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.37 )
- 日時: 2016/08/28 21:22
- 名前: 大関 ◆C5p8guYtTw (ID: 9ihy0/Vy)
既に対策を打ってある、その言葉に白石は反応を示した。
「対策があるだって? 一体全体、どんなのを考えたのさ。」
「ちょっと時間貰うぜ。」
黒野はポケットから電話を取り出し、誰かに連絡をした。
「おぅ、立花。今、空いてるか? 空いてるなら、急で悪いが、ちょっと来てくれ。」
そう言うと黒野は電話を切る。どうやら、彼の対策というのは立花を頼るようである。白石はこの時点で何かに気づいたような、そんな表情を軽く浮かべた。
数分後、立花は相撲部にやってくる。
「黒野先輩、おまたせ。」
「おぅ、立花。急に呼んで悪いな。そんでまたスマネェが……一週間、俺に付き合ってくれ。」
「いいよ。大会まだ先だし。」
「いや、立花くん、そんなあっさりと了承して大丈夫なのかい?」
内容すら聞かずにあっさりと黒野の頼みを引き受ける立花に、少々呆れ気味に白石は語りかける。それを黒野も立花も特に気にした素振りを見せず、黒野は不適すぎる笑顔を浮かべながら、白石に語りかける。
「相棒よ……俺が立花を呼んだ理由……解かるか?」
「……いや?」
白石は黒野の考えを既に見破っていた。だが、黒野から『知らないと言え』と言う、恐らく黒野も無意識のうちに発している圧を感じ取った白石は、その圧に任せたまま嘘をついた。
「そうかそうか……知らないか……。」
「一体何を考え付いたんだい?」
「さっき言ったことと矛盾したことを言うけどよ……相棒よ、俺様はサプライズが大好きだ。」
「へぇ、それで?」
「つまりだ!」
白石の後ろに回り込んだ黒野は、白石をそのまま押す。何がなんなのか、理解できずに押されるがままに前へと進んでいく。
「ちょっ、ダンナ!?」
「な〜に、お前にもトレーニングはつけてもらうつもりだぜ。だがな、今からやるトレーニングはお前へのサプライズのために極秘で行うやつだ。お前といえども見せるわけにはいかねぇんだ。だからお前には全力で隠させてもらうぜ。」
「それ隠すべき本人に一番言っちゃいけないセリフじゃん!」
「細けぇこたぁ、気にすんな。また後でトレーニング頼むぜ!」
そう言って、部室棟の外へと押した後、黒野は白石を置いて相撲部の部室へと戻っていく。白石はそれを、ただ見送るしか出来なかった。
黒野とすれ違うように、弥生も白石の元へと歩み寄ってくる。
「白石くん。」
「あぁ、弥生ちゃん……いやぁ、いつも通りとはいえ、ダンナも強引だねホント。」
「うん……黒野くん、何を思いついたんだろう。」
「まぁ、ダンナの事だから、わかりやすいよねこれは……。」
もう既に殆ど見破っている白石は、悟ったかのように部室棟を眺めていた。