複雑・ファジー小説
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- 学園マーシャルアーティスト
- 日時: 2017/12/12 17:46
- 名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)
どーも皆さん。青銅→白樫→大関です。
現在書いてる『気まぐれストリートファイト』が少々アイディアに詰まってしまい、リハビリ感覚で新しい小説を作りました。
下らない内容ですが頑張っていきたいと思います。
=ご警告
・荒らし、中傷はやめてください。
・パロディ等があります。
・かなり汗臭い感じになります。
・亀どころかナマケモノ以上に遅い更新です。
・やってる事は『気まぐれストリートファイト』と同じです。
・少々リメイクしました。
=登場人物(※注意:ネタバレ多々有り)
黒野 卓志 >>4
白石 泪 >>4
春風 弥生 >>4
佐久間 菊丸 >>11
愛染 翼 >>16
大道寺 重蔵 >>17
立花 誠 >>25
=バックナンバー
+日常編
第1話 武闘派学園生活開始 >>2 >>3
第2話 カチコミ退治も楽ではない >>5 >>6
第3話 番長見参 >>7 >>8 >>9 >>10
第4話 決死のタイマン >>12 >>13 >>14 >>15
第5話 "消える左"の天才ボクサー >>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24
第6話 黒野と弥生と空手部と >>26 >>27 >>30 >>31 >>32 >>33 >>34
第7話 電光石火の一撃 >>35 >>36 >>37 >>38 >>39 >>40 >>41 >>42
- Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.28 )
- 日時: 2016/07/25 18:53
- 名前: Orfevre ◆xf1U3qaRb2 (ID: eIGY/Ct6)
山下さんのスレでは色々ありがとうございました。Orfevreです。
このたびはスピンオフを描くことにしたので、よろしくお願いします。
宣伝だけだと、アレなので感想を書かせてもらいます。
面白かったです。割と連載初期から読んでいた(カキコ学園戦争で名前は知っていた)のですが、異種格闘戦といえど、決して読者を置いてけぼりにすることはなく、しっかりと描写されているので、いいと思いました。
これからも頑張ってください。
- Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.29 )
- 日時: 2016/07/26 16:22
- 名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)
>>28
コメントありがとうございます。スピンオフの件、了解しました。
そして面白いと思ってくれて、自分感無量です。これからも書かせていただきます。
- Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.30 )
- 日時: 2016/07/28 18:17
- 名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)
それから数日後。
ボクシング部を倒した後も相変わらず寂しい相撲部。黒野は寂しそうに部室近くの成木を相手にぶちかましの練習をする。その周りには白石の他にも、立花が相撲部の練習風景を見に来ているが、あくびを一つ浮かべ、退屈そうにしていた。
「ねぇねぇ黒野先輩。部員いないの? 」
「見ての通りだよコンチキショウ。」
ストレートに痛いところを突かれ、若干涙目になりながら頭を成木に打ち付ける。立花の口はまだまだ止まらない。
「ひょっとして……いや、ひょっとしなくてもさ、お相撲って人気ないの? 」
「はうっ! 」
「だってお相撲さんって嫌でも太らなきゃいけないよね。それに人ってやせたほうがかっこよくみえるでしょ? おいら、ボクシングやってるから、やせた人のかっこよさってわかるんだ。それに服も着ないで組みあうのって、なんか気持ちわるそうだし、それにおしゃれも出来なくて色々と不自由で」
「立花くん! それ以上はいけない! 」
容赦が無い相撲への評価に、流石に白石もまずいと思ったのか、立花の口をふさいだ。しかし、時既に遅し。黒野は悲壮感によって全身をプルプル震わせ、悲しみの涙を流す。
命を賭けているものを否定されたら、デリカシーの無い黒野でも流石に凹む。本気で凹む。
「ひでぇよひでぇよ……そりゃ確かに相撲は太らなきゃならねぇし、裸で抱き合わないといけねぇよ……常時浴衣だからおしゃれもできねぇよ……だからって……だからってよぉ……。」
「それに何かさ、今のお相撲ってさ……モンゴル人のためのスポーツでしょ? 」
立花は白石を引き剥がし、黒野にトドメを刺した。その一言に黒野は本気で泣いた。
「ちくしょおおぉ! どうせ俺様が角界入りするまで相撲はモンゴルに支配される運命なんだよおお! 」
「さり気無く自分の強さアピールしてるあたり、ダンナも割と前向きだね。」
本気で悲しんでいるのか不明だが、少なくとも涙は本物である。大量の涙を流して彼は走った。全力で彼は部室棟を走りぬいた。部室棟の曲がり角へと差し掛かった時だった。
「えっ? 」
「おっ? 」
曲がり角の死角から人が一人歩いていた。黒野は今現在、全速力で走っている。その前に急に人が出てくると言う事は、聡明な方ならお分かりであろうが、全力で走っているのを急に止めるのはまず不可能である。飛び出した人の方もそのスピードに反応したときは既に遅い。結果、黒野の努力も空しく、2人は衝突。下敷きになるのは飛び出した人、その上に黒野は覆いかぶさる形で倒れた。
「アイタタタ……すまねぇ、大丈夫か……。」
「だ、大丈夫です。スミマセン、飛び出してしまって……ってあれ? 黒野くん? 」
「んおっ? 弥生? 」
飛び出した人影の正体は弥生である。黒野は不安により、退くと言う行動を忘れ、さらに言葉を続ける。
「おい、本当に大丈夫か? お前も俺様のパワー知ってるだろ? 挫いたり骨折とかしてないか? 」
「え、えーと……今感じてる限りは、大丈夫だよ? 」
「本当だな? 」
「黒野くんが直前で止まろうとしてくれたみたいだから、打撲するほど衝撃も無かったし。」
「そうか……良かった……。」
「あの……黒野くん。」
「どうした? 」
弥生は頬を紅色に染め、覆いかぶさる黒野から目をそらし、少々震える口で黒野に語りかける。
「その……そろそろ、どいて欲しいな……。」
その言葉に黒野は我に帰った。よく考えたらさっきから覆いかぶさったままであったことを思い出した。
「……スマン。」
全てを察した黒野は、自分が情けないと感じながら、弥生からどこうとした。その時であった。
「何を……している……? 」
「んっ? 」
突如として横から何者かの声が響く。その声のする方向を黒野は振り向くと、そこには角刈りの男が、顔に青筋を立て、怒りの表情を浮かべていた。その男は学浜空手部の主将、須藤である。
「誰だお前? 」
「何をしているかと聞いているんだ……! 」
怒りの形相を浮かべた須藤は、黒野の質問に答えず、己の質問を続けた。いきなり現れたその男に、黒野は戸惑いを隠せない。
「おいおい、何をそんなに鬼みてぇな顔してやがるんだ。大体、質問する前にお前、名前くらい」
「きゃっ!?」
「……んんっ?」
黒野はとりあえず弥生から退こうとして、先ほどまで上げていた片手を地面に着けようとしていた。しかし、彼が着いたのは地面ではなかった。『ふにっ』と言う、柔らかく、温かい感触が掌に伝わる。明らかに地面のそれではない。黒野は須藤に向けていた視線を地面に向けた。
黒野の目に映ったのは、地面ではなく、弥生の……ほどよく成長した胸に置かれた自分の掌であった。これを見た黒野は正気を保てず、顔を赤く染め上げた。一瞬にして弥生から退き、弥生に背を向けて胡坐をかいた。
黒野と同じ顔色の弥生も一瞬で起き上がり、黒野に背を向けて正座をした。
「す、すすすすスマン! マジでスマン! 本気の本気でスマン! 弥生!! 」
「う、ううん! 大丈夫! 大丈夫だよ!! 」
黒野は慌てつつ、全力で弥生に対し、謝罪を行う。黒野同様に慌てて正気を保てない弥生は、思いつく限りの言葉を何とか言葉に紡いでいた。
互いに茹でダコのような表情を浮かべ、互いの背中をつけるだけで、それ以上はもう言葉も無く、互いが自分で自分を落ち着かせようとしているだけであった。
その後、暫くは沈黙が走っていた。
「ダンナ! 横! 横!! 」
「んっ? 」
2人の間に走っていた沈黙を、白石は破るように声をかけた。その声の質はただ事でない。何かを必死に伝えようとしているみたいだった。
黒野は白石の焦るような声を聞き、横を向いた。彼の目に映ったのは、此方へ全力で走り、その足の裏を黒野に叩きつけようとする須藤の姿であった。
「あぶねぇ! 」
「わわっ!? 」
黒野は咄嗟に弥生を掴み、共に伏せるように身を倒して前蹴りを回避した。
「弥生! 逃げろ! 」
黒野はそう叫ぶと、弥生から遠さがるように自らの身を転がした。須藤は黒野に向けて迷い無く、真っ直ぐに向かっていくと、転がる黒野を踏みつけにかかる。黒野は踏みつけを両手で掴むように受け止め、そのまま自らの身を起こしつつ、須藤の足を押し上げ、その身を倒しにかかる。須藤は後ろに倒れる寸前に自らの身を極端に反り、見事なバック転で黒野から距離を離しつつ、構えを取った。
「テメェ、いきなり何しやがる! 」
「黙れ! 淑女を押し倒し、さらに陵辱を働こうとする諸行、見過ごすわけにはいかん! 」
「あぁ、あれか……あれは話せば」
「問答無用! 」
今の須藤には聞く耳を持たない。黒野を全力で叩き潰さんとばかりに向かっていく。
- Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.31 )
- 日時: 2016/08/29 19:51
- 名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)
須藤は黒野に向かって再び向かっていき、自らの体を側面を黒野に向け、その体勢から一瞬で靴を脱ぎ捨て、裸足となった足の裏全体を叩き込むような横蹴りを黒野に見舞う。黒野はそれを腕と腹筋で押し止めるが、その一撃は不自然なまでに重い。黒野は大きく後退した。
それを須藤は距離を詰め、足を上へと振り上げ、一気に黒野目掛けてそれを振り下ろす。踵落としだ。黒野はそれも受け止めにかかるが、なんと言う衝撃だろうか。ミオスタチン関連筋肉肥大で常人を遥かに上回る怪力を持つ黒野が、衝撃に耐えられずに片膝を地面についてしまった。
(こいつ、何て重い攻撃くりだしやがる……!)
「ちょ、ちょっと待ってよ! 落ち着いて! 冷静になってよ!」
脇で見ていた白石と立花が喧嘩を止めるために向かっていき、2人とも抑えるように須藤の肩を掴む。
「邪魔を……するな!」
「うっ! 」
須藤は背後の白石の腹部目掛けて、体の向きを変えないまま肘を叩き込む。強烈な一撃を喰らった白石は、その場にうずくまった。立花は須藤から手を離し、白石の方へと移動した。
「白石先輩!」
「相棒! テメェよくも……ぶっ飛ばしてやらぁ!」
これには黒野も怒りを見せた。先ほどまで防戦一方だった黒野は須藤に向けて走り、渾身の突っ張りを放つ。それに対し、須藤は腕全体でそれを上方へと受け流し、踏み込んで顎めがけ、アッパー気味に肘を打ち込んだ。
「あだっ!」
仰け反る黒野。追い討ちをかけるように、側頭部に左拳を打ち込む回し打ち、逆の腕でもう一度回し打ちを放ち、間髪いれずに黒野の腹部に拳を打ち込む。
黒野は多少ダメージを受け、後退し、学園を囲う塀を背にした状態になりながらも、それらを持ち前のタフネスで耐えていく。
(流石に重いが、馴れちまえばどうってことも無ぇ……全部耐えた上でぶっ飛ばしてやる!)
「………。」
須藤は左の掌を黒野に向け、右の拳を思い切り引いた。
「へっ、こんなもんで沈む俺と……でも……。」
黒野は今から繰り出されるであろう、その攻撃も耐えようとした。しかし、突如として黒野の体に強烈な寒気が襲う。それはまるでアフリカの象が遠くの嵐に気づくかのように、あるいは沈没する前にネズミが船から逃げ出すように、本能が危険を察知したのである。
黒野の生存本能は黒野自身に語りかける。『その攻撃を受けてはならない』と。
「せいやぁっ!!!」
放たれた渾身の正拳突き。黒野は咄嗟に地面に座り込み、それを回避した。須藤の拳は黒野の髪の毛を掠り、黒野の背後の塀を……コンクリートで作られた頑丈な塀を、いともあっさりと粉々に砕いた。
「あ、あの分厚い塀を……。」
「な……なんて野郎だ……。」
黒野はもちろん、脇で見ていた3人も映し出された光景に戦慄した。そして黒野はこの学園に編入して初めて恐怖と言うものを味わった。こんなものを受けてしまったら最後、どうなってしまうかは想像するのは難しくない。黒野のミニサイズの脳みそでも、その結果を容易く想像できた。
「……はっ!」
「ちょっ! 待てって!」
須藤は攻撃の姿勢を崩さない。黒野に踏み付けで追撃。黒野は何とかそれを横に転げて回避したが、攻撃的な姿勢から一転していた。
「逃げるな!」
「それ聞いて止まるバカはいねぇよ!」
先ほどの攻撃に怖気ついた黒野は、須藤の攻撃から逃げた。その蹴りから、突きから、徹底して逃げた。しかし、須藤も只、闇雲に撃っていたわけではない。黒野をあえて後退させるために技を放っていた。
やがて、黒野はその術中にはまった。相撲部の一応の練習器具ともいえる、部室近くに植えられた成木を背にしてしまったのである。
「やべっ……。」
「せいっ!」
「ほいっと!」
追い詰めた黒野に向けて、須藤は中段回し蹴りを繰り出す。だが、黒野は逃げるのを諦めなかった。丁度良く頭上に生えた太めの枝。黒野はそれに目掛けて跳躍して、しがみついた。結果的に須藤の蹴りを回避し、そのまま黒野は木に上ってやり過ごそうとした。
「降りて来い! 降りてこないか! 卑怯者が!」
「卑怯者呼ばわり大いに結構だよ……ったく。」
黒野は須藤の言葉に耳を傾けない。黒野はそのまま須藤の怒りが収まるまで、木の上でやり過ごす算段である。
(おぉ、怖ぇ怖ぇ……ったく、とりあえず待つか)
そんな時だった。黒野の耳に『ニャア』と言う鳴き声が聞こえてくる。その声をする方向に目を向ければ、ノラネコが怯えるようにたたずんでいた。
「何だネコ。上って降りられなくなったか?」
ネコは黒野の言葉に答えるように、もう一度鳴いた。黒野はそのネコを優しく抱えた。
「なーに、そう怖がるなって。下にいる怖い奴が帰ったら、一緒に降りようぜ。」
ゴシゴシとちょっと粗いが、安心させるように黒野はネコをなで、笑顔を見せる。
「ダンナ!」
「先ぱーい! なにか来るよ!」
「あぁ?」
白石と立花の声に何事かと、黒野は下を覗いた。そこには、学ランとボトムを脱ぎ捨て、目を瞑り、構えを取った須藤の姿が映っていた。
- Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.32 )
- 日時: 2016/08/09 18:58
- 名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)
「な、何やるつもりだ? 」
「……たりゃあ!!! 」
カッと目を開き、叫び声と共に、成木に向けて丸太の如く鍛え上げられた足で上段回し蹴りを繰り出した。その破壊力は、周りにいたものの想像を遥かに上回っていた。成木は蹴りの衝撃に耐えられず、太く頑丈な根元付近から、『バキバキバキッ』と音を立て、ゆっくりと倒れていったのである。
「ウソだろぉ!? 」
黒野は倒れていく成木から、ネコを抱え、転がり落ちるように地面へ脱出した。
「イテテ……ま、マジかよ。」
「もう逃げられん……覚悟しろ! 」
転がり落ちて座り込む黒野に対し、須藤はトドメを刺さんとばかりに黒野に一歩ずつ近づいていく。黒野もまた、少しずつ下がっていき、追い詰められていた。
そんなときであった。先ほど黒野と共に転がり落ち、その後は黒野の後ろに隠れていたネコが須藤の前に立ちはだかった。
「ね、ネコ……? 」
須藤は黒野に対して向かっていた足を止め、ネコのほうに視線を向けた。
「ネコよ……一体どうしたんだ? 」
その場にしゃがみこみ、ネコに手を差し伸べる。ネコは須藤の手を噛んだ。
「……っ。」
須藤に噛んだネコは再び黒野の下へと走って行き、黒野の胸に飛び込む。ネコはそのまま体を反転させ、須藤の方を向くと、須藤に唸り声を上げる。
「一体どうしたんだ? そいつは悪い奴だぞ。」
「(ま、まさかこいつは……賭けてみる価値あるぜ)」
黒野の脳裏に、ある考えが浮かんだ。黒野は早速それを実行すべく、口を開いた。
「けっ! 人を悪人呼ばわりしやがって! 俺様がいなかったらこのネコ、今頃あの木の下敷きになってたぜ! 」
「なに? 」
「どうも今の行動察する限り動物には優しいみてぇだが、てめぇの行動がどれだけ動物に迷惑かけてるか……ちったぁ、考えたらどうだ? 」
黒野は『こいつは動物には手を出さない奴』と言う考えの下、言葉を紡いで須藤を落ち着かせようとした。
「……すまない。」
目論見は見事、成功。須藤は臨戦態勢を解除し、黒野に頭を下げる。
「けっ、もう一つ言うけど、てめぇがキレてた件もだ。実際やっちまったから、俺の口からじゃ信用できないだろうが、好きでやったわけじゃねぇよ。」
「………。」
「疑いの目を向けるなら、本人に直接聞きな。言っておくが、脅しによる口封じはしてねぇからな。」
黒野はここぞと言わんばかりにさらに捲くし立て、弥生に向けて指を指す。須藤は立ち上がり、弥生の元へと向かっていく。
そして弥生の前に立つと、彼は口を開いた。
「君は……君は本当に、陵辱されていたわけじゃないのか? 」
「は、はい。曲がり角をよく見ずに歩いてたら、ぶつかっちゃって……それでさっきみたいな体勢になっちゃったんです。」
聞かれた内容に対し、弥生は一字一句全て嘘偽りなく、須藤に伝える。
「さっき君が声をかけなければ、ダンナは弥生ちゃんの胸を触らなかった。君の誤解がなければ、こんな荒事にはならなかったはずだよ。違うかい? 」
さらに白石が言葉を続ける。此処まで言われてしまえば、須藤も戦う意思は完全に消えうせる。
「黒野と言ったな……俺はお前たちを誤解していた。すまない。」
須藤は黒野や白石に対し、頭を下げ、己の非を詫びた。
「わ、解かりゃいいんだよ。人間誰でも失敗くらいあるぜ。」
「………。」
「とっとと行きな。こっちもこれからやる事があるんでな。」
「解かった……失礼する。」
須藤はもう一度、一礼をすると脱いだ服を拾い、そのまま去っていった。
「やれやれ……ひでぇ目にあったぜ。相棒、立花、それに弥生、お前ら大丈夫かよ。」
「うん、私は大丈夫。」
「おいらも大丈夫さ。白石先輩はひどい目にあったけど……。」
「流石に向こうも加減したみたいだからね。僕はダンナのほうが心配だけど……あの人と合間見えて平気かい? 」
「紙一重だが、何とかな。相棒、あの空手野郎一体なんだ?」
黒野は白石に問う。白石はその質問に対し、口元を手で隠すように覆い、話すのを躊躇った。
「……悪いが、やべぇ奴ってのは対峙した俺様が一番よく解かってる。その上で聞くが、あいつは誰だ? 」
「まさか、こんなに早く彼と相対するなんてね……彼こそ学浜最強候補が一人、空手部主将にしてGFC前年度王者……須藤 茂。」
重い口を開いた白石が語った。男の名前、そして最強候補と言う肩書きを。
「最強候補だと? それにGFCって……一体なんだそりゃ? 立花、お前知ってっか? 」
「ううん、知らない。」
「流石にダンナも知ってると思ってたけどね……まぁ、いいや。この際知ってもらえれば後が楽。教えてあげるよ。」
————GFC。
正式名称『学浜・ファイティング・チャンピオンシップ』。天下の格闘学科と世界一の格闘部の多さを誇り、喧嘩が自由に認められている学浜。その学浜が誇る最大の格闘技イベントこそが、このGFCである。
数日かけて戦うトーナメント式の大会であり、『リング内でどちらかが倒れるまで戦う』と言う、至ってシンプルなルールにまとめられている。これに優勝した者こそが『学浜最強』の称号を手にすることができるのである。
「という事。まぁ、大会後に消耗したところをやられる例が殆どなんで、最強といってもあくまで目安の話ではあるけどね。只、須藤くんは優勝して以来、無敗らしいんだ。彼は間違いなく、今の学浜で最強クラスの存在さ。」
「……確認しとくけど、番長もやられたのか? 」
「いや……菊丸くんから聞いた話だけど、どういうわけか番長は参戦して無いみたいなんだ。」
「あぁ、そら良かった良かった。しかし、読めたぜこれは。」
重蔵が敗北したところを考えたくは無かったのか、重蔵が未参戦と聞くと安心したような笑みを見せ、直後に何か良からぬことを考えているような表情を浮かべる。
「何を考えたのさ。」
「あいつを倒しちまえば相撲部に箔がつく。しかも既にボクシング部を倒したって実績もあるから、ラッキーパンチと思う奴も消える。あいつさえ倒しちまえば、一気に部員ゲットできるぜ。」
「悪いけど今の段階じゃ不可能だよ。」
部員ゲットの未来を夢見る黒野を、白石はバッサリと切り捨てた。
「てめぇ、どういうこった。」
「ダンナが一番理解してるでしょ。途中から怖気づいて逃げに徹したダンナに、須藤くんを倒せる算段は無いよ。」
「うぅ……今回ばっかりは否定できねぇ。」
流石に自分が怖気ついた事から目をそらす事が出来ず、普段なら此処で強気に反論する黒野が珍しく弱気な姿を見せた。
「で、でもあれだ! どうせ時間はタップリあるんだ! その間に稽古積んで改めて挑んでやらぁ! 」
「まぁ、そんな考えに至るとは思ってたよ。しょうがないから、とことん付き合うけどさ。」
「よく言った相棒! 勝ち逃げされたまま終わりにするなんて、それでこそ男が廃るってもんでぇ! 俺が決めた道、貫き通してやろうじゃねぇか! 」
己の決めた事……須藤にリベンジすることを高らかに宣言し、黒野は己を鼓舞した。やれやれと言わんばかりの表情でありながらも、直後に笑みを浮かべて白石はそれを了承し、弥生と立花の2人もそれを聞き、思わず拍手を送った。
そんな中、黒野の足元に猫が擦り寄ってくる。それは先ほど、黒野が助けたノラネコである。
「自分の生き方宣言するのもいいんだけどさ、ダンナ。その足元の猫どうするの? ダンナに懐いてるみたいだけど。」
「猫かぁ……言っちゃ悪いけど、俺様は手前の為だけに生きてるようなもんだからなぁ……責任持てねぇんだわ。おい猫、俺様に飼われると遅かれ早かれ、最悪の事態になるからやめとけよ。」
動物を飼うことに、珍しくシビアな考えで反対の姿勢を見せる黒野。黒野は見放したように、背中を向けて逃げようとするが、猫はそんな黒野に近づいて擦り寄ってくる。
「……相棒、弥生、立花、どうすりゃいいよ。」
「責任持つしかないじゃない? 」
「私もそう思う。」
「おいらも。」
「絶対に出来ねぇ。おい猫、お前自分で餌取れるなら兎も角、俺らに恵んでもらおうだなんて」
その時、猫はその言葉に反応したかのように、黒野から背を向けて塀に登り、その塀に止まっていたスズメに飛び掛り、咥えて降りてきた。そこから猫は、自然の摂理に乗っ取り、咥えたスズメをそのまま噛み潰す。
「……相棒、お前ら、どうやら大丈夫みてぇだな……。」
「だね……。」
自然の摂理であるとはいえ、その光景に戦慄を覚える4人。とはいえ、餌の問題はなくなったようで、再び擦り寄る猫を黒野は持ち上げた。
「まぁ、餌を自力で取れるくらい強ければ相撲部に置いてやってもいいな。今日からお前は俺ら相撲部のマスコットだ! 頼むぜネコマタちゃん! 」
「ネコマタちゃん!? 」
※ネコマタ=江戸時代〜明治時代の大関、猫又三吉より抜粋。
「さぁ、ネコマタちゃんを添えて明日も勧誘と稽古よ!」
「はぁ……まぁ、いつも通りだからいいや……。」
こうして本日の部活は終了し、4人はそれぞれ帰路に着いた。