複雑・ファジー小説
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- 学園マーシャルアーティスト
- 日時: 2017/12/12 17:46
- 名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)
どーも皆さん。青銅→白樫→大関です。
現在書いてる『気まぐれストリートファイト』が少々アイディアに詰まってしまい、リハビリ感覚で新しい小説を作りました。
下らない内容ですが頑張っていきたいと思います。
=ご警告
・荒らし、中傷はやめてください。
・パロディ等があります。
・かなり汗臭い感じになります。
・亀どころかナマケモノ以上に遅い更新です。
・やってる事は『気まぐれストリートファイト』と同じです。
・少々リメイクしました。
=登場人物(※注意:ネタバレ多々有り)
黒野 卓志 >>4
白石 泪 >>4
春風 弥生 >>4
佐久間 菊丸 >>11
愛染 翼 >>16
大道寺 重蔵 >>17
立花 誠 >>25
=バックナンバー
+日常編
第1話 武闘派学園生活開始 >>2 >>3
第2話 カチコミ退治も楽ではない >>5 >>6
第3話 番長見参 >>7 >>8 >>9 >>10
第4話 決死のタイマン >>12 >>13 >>14 >>15
第5話 "消える左"の天才ボクサー >>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24
第6話 黒野と弥生と空手部と >>26 >>27 >>30 >>31 >>32 >>33 >>34
第7話 電光石火の一撃 >>35 >>36 >>37 >>38 >>39 >>40 >>41 >>42
- Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.18 )
- 日時: 2016/05/18 21:37
- 名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)
=第5話 "消える左"の天才ボクサー=
日直で遅れる白石の代わりに弥生を連れ、ビラを片手に校門へと向かう黒野。校門に着くと、そこには人だかりが出来ており、黒野はその人だかりに気を取られていた。
人だかりは殆ど女子であり、その中心には人だかりの原因であろう数人の男が集まっている状況である。
「なぁ、弥生。あれって何だ?」
「ボクシング部の人達。とても人気がある人なの。」
「へぇ、あれだけ華がありゃこっちも人が来るんだけどな。正直うらやましいねぇ。」
その後はボクシング部の集まりから目を離し、ビラ配りに専念し始める黒野達。いつも通りに無視され続けるのだが、ボクシング部の部員が黒野達に気づいていた。黒野達の元へと近づくと、囲むように並んだ。
「んっ?ボクシング部が何の用でぇ。」
「ははっ、ちょっと目にとまってしまってね…可愛い子を連れて勧誘でもしてるのかい?」
ボクシング部の中心人物であろう男は弥生に目を向ける。どう見ても弥生への下心で接しているのが一目瞭然である。弥生もそれを察したのか、黒野の後ろに隠れるように身を寄せていた。しかし、当の黒野はあんまり気がついていない様子である。
「おいおい、見りゃわかるだろ?俺達は相撲部だ。まさかお前ら入部希望者か?うちは兼部OKだぜ。」
何であろうとも自分らの行いに興味を示した事に上機嫌なのか、何の警戒も無くビラを男に渡した。それを受け取り暫く見つめていた男は黒野の手にしていたビラを全てその手に取った。
「おろ?何だ?お前ら、何か知り合いに紹介してくれるのか?そいつは助かる」
次の瞬間、そのビラを徐に掴み、一気に破り捨ててしまった。彼らのそのパフォーマンスを見て周りにいた女子生徒達は歓声を上げる。しかし、当の黒野はそれに驚愕の声を上げ、地面に捨てられたビラの残骸を集めていた。
「て、テメェ何しやがんだ!紙代もタダじゃねぇんだぞ!」
「こんなデブのお遊びに興味持つ奴はいねぇよ。そんな事より…。」
男は弥生の手を取り、自らの元へ引きよせ、その眼を見つめる。哀れ弥生は不安と恐怖でその身を硬直させた。
「豚の隣に置いておくには惜しい女だ…我らがボクシング部マネージャーに相応しいね……。」
「ひっ……。」
「おいコラ!コイツは相撲部のマネージャーだ!余所様にくれてたまるかってんだ!」
地面のビラを集める黒野。その声を聞いて男は黒野の元へと近づくと、黒野の腕ごとビラを踏みつぶした。
「いてっ!」
「豚如きが天下のボクシング部に舐めた口聞いてんじゃねぇよ…お前らは丸い柵の中でじゃれあってな!」
黒野の顔面を蹴り飛ばし、体勢を崩させた後に無理矢理立ち上がらせ、他の部員たちが黒野を囲む。
「これが俺達ボクシング部秘伝……人間サンドバックよ!」
四方八方から黒野を殴り飛ばし、文字通りサンドバック状態にする。女子生徒達は黒野がボコボコにされているのを見ても何も思わないどころか、ボクシング部部員達の華麗なパンチに心を奪われていた。何ともクレイジーな光景であろうか。
数分後、殴りつかれた男たちはその手を止めた。崩れるように黒野は倒れ伏した。それを見た後、男たちは弥生の手を掴み、引っ張っていく。
「きゃっ……は、離してください!」
「暴れるなって。今日から君は我らがボクシング部のマネージャーになるんだ。しっかり働いてもらうよ。」
そのまま弥生を引きずるように去って行った。
数分後、黒野はその身を起こした。
「イテテ、派手にぶん殴りやがって……。」
殴られて痛む場所を押さえ、黒野は立ち上がる。その顔には青筋が立っており、如何にも怒っているのが目に見えて分かる。
「野郎、せっかく作ったビラが……そして弥生も……マジ許さねぇ。」
「おぅ、どないした黒野。」
怒りを見せる黒野の前に現れたのは番長こと重蔵であった。
「あぁ、番長。ちょっと聞いていいっすか?」
「おぅ、なんじゃ?」
「ボクシング部の事ご存じっすか?」
「ボクシング部か……。」
重蔵はその単語を聞き、顔をしかめさせた。その表情を見て黒野は何かを察したのか、さらにその口を開く。
「……何かヤバい系?」
「ヤバい系じゃな。この学校の格闘部でも上位に分類されるで。」
「(あんなのが上位ねぇ)」
先ほどの光景を思い出して黒野は思った。その時受けたパンチは確かに速く、重かったと言う記憶がある。しかし、重いと言っても大道寺程強いわけではない。先ほどの攻撃も偶然、顎にいいものを喰らったために脳震盪で倒れただけである。タイマンを張れば速さに苦戦はすれど倒すことは出来る。さらに言うならリングに立たせずに一気に倒せばいい話だ。
「で、そのボクシング部がどうしたんじゃい。」
「あぁ、今からカチコミに行くんで。」
「おいおい真昼間からカチコミかいな。何なら手ぇ貸すで。」
「番長の手を煩わせる必要無いっすよ。」
「そうか……ほな、気張ってけや。」
重蔵はその一言を言うと去っていこうとする。去っていく直前に、彼は黒野の方を向き、言った。
「お前さん……"消える左"には気をつけとけ。」
「何すかそれ?」
「詳しくは知らん。只、最近ボクシング部で名を轟かせとる奴じゃ。お前さんの相方なら詳しく知っとるそうじゃから、そいつに聞いた方が早いで。」
「OK。ご丁寧にありがとうございまっす。」
「そんじゃの。」
そして今度こそ、重蔵は去っていった。
「さ〜てと・・・気合入れていくか!」
- Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.19 )
- 日時: 2016/07/09 21:21
- 名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)
「そう言えばボクシング部の部室ってどこだったっけな……。」
意気込んでいたものの、転校して以来ビラ配りと稽古、そしてカチコミを撃退するくらいしかしておらず、他の部活動に自らカチコむのはこれが初めてである。
先ほど重蔵に聞いていれば良かったなと思いいつつ、黒野は部室棟を歩き回る。天下の格闘学科と呼ばれるだけあり、様々な格闘部の部室が所狭しと並ぶ。
此処から探すのは人苦労しそうだ。素直に人に聞くのが一番と考えた黒野は、部室棟近くの木の麓に目を移す。そこにはまだ少し顔に幼さがあり、黒野と比べると多少小さめで、着ているジャージには『一年 立花誠』と書かれた少年が昼寝をしていた。
「おーい、ちょっといいかー?」
「んぅ……?」
頬をペチンと叩き、少年を眠りから無理やり覚まさせる。寝ぼけ眼を擦り、その少年は起き上がる。
「誰なのさ……おいら気持ちよく眠ってたのに。」
「悪いな一年。手近な人間お前しかいなかったもんでよ。ボクシング部の部室知らねぇか?」
ジャージの少年、立花は質問に対し、まだボーっとする頭で状況を把握しようとしていた。
自分は寝ていた、そしてそれを目の前の人物に起こされた。目の前の人物はボクシング部部室を知りたい。
その状況を理解した立花は口を開いた。
「あぁ……それなら右から数えて4番目の列の真ん中にあるよ。」
「おっ、そうか。サンキュー!そんじゃ行くかぁ!」
「それじゃ、おいらはもう少し寝てるから……。」
返答を終えた立花は再び横になって深い眠りにつき、黒野は教えられたとおりの場所へと向かっていく。
一方、ボクシング部に拉致された弥生は先ほど部員たちをまとめていた男に詰め寄られていた。
「何度も言う主義じゃないけど、マネージャーになってくれるよね?」
「な、なりません!」
その言葉の直後、弥生は思い切り頬を叩かれた。既に何回も叩かれているようで、頬は赤くなり、多少はれ上がっていた。
痛みに堪えて涙目になっているものの、依然として首を縦には振らない。男は勿論、他数名も我慢の限界が近付いていた。
「なぁ、これだけやっても解からないのかい?君が首を縦に振るまでこのままだけど?」
「なりません!」
我慢の限界に達したようであり、男はその手にボクシンググローブを着け、思い切り殴り飛ばした。
練習用グローブであるため、ダメージは軽い。それでも華奢な弥生なら簡単に壁に叩きつけられる程の威力はあった。
「女子に本気で手をあげたくなかったけどしょうがない。ちょっと洗脳するか。」
数人で弥生を囲み、無理やり立ち上がらせる。先ほど黒野にも使った人間サンドバックを行うつもりであろう。
それぞれが最低限の手加減とばかりに練習用のボクシンググローブを着け、構えを取る。
その時だった。ボクシング部部室に高い音が響く。ノック音だ。
「誰だこんな時に……おい、誰でもいいから適当な理由つけて追っ払え。」
それを聞き、練習をしていた部員が一人指示に従って扉へと向かっていった。そして部員が口を開いた瞬間である。
部員は首根っこを掴まれ、叫ぶ間もなく引き寄せられた。入口付近から、ドカッとかバキッ等の鈍い音が響き渡る。
「なっ!誰だ!?」
その鈍い音に反応して扉の方に目を向けた。
「ちわ〜っす。カチコミで〜す。」
その声ととも入って来たのは黒野であった。黒野の片手には酷くボコボコにされた部員がぶら下がっており、それをまるでゴミの様に投げ捨て、男達に目を向ける。
「く、黒野君!」
「おぅ、弥生。悪いな遅くなって。何せ部室があまりにも多くてよ。」
頬を赤く腫れあがらせた弥生を見て黒野は軽く声をかける。しかし、軽いのは声と表情だけであり、その顔には青筋が数本立っており、腕をパキポキと鳴らして男へと近づいていく。
「ふんっ、飛んで火に入る夏の虫と言う奴だ。お前たち、コイツを追い出すぞ。」
その言葉を聞き、男達はグローブを外して構えを取り、黒野を囲む。男は様子見に徹するのか、一歩下がってその出方を窺う。
部員の一人は軽やかなステップで黒野へと近づきその拳を顔面に当てる。しかし、圧倒的な筋肉と普段から打たれなれている黒野からすれば、その程度の打撃などハエが止まったような感触である。
連続で殴るものの次の瞬間、部員の体が宙へと浮く。黒野の突っ張りで大きく吹き飛ばされたのである。部員は一発で気を失った。
「何だ、鉄砲柱にもならねぇや。次来な。」
その発言と共に部員達は次々と四方八方から黒野に向かっていく。しかし、殆ど全ての部員は黒野によって張り倒され、投げ飛ばされ、数分で中心である男を残し全滅。
「どうやら侮っていたようだ。」
「けっ、やっとわかったか。」
「それなら本気を出さざるを得ないな。」
男は黒野に向けてボクシンググローブを投げ渡し、リングへと向かっていった。
「それをつけたまえ。正々堂々と戦おうじゃないか。勝負形式は3分10ラウンド。勝った方がその子をマネージャーに」
リングロープに手を掛け、黒野の方へ眼を移したとき、彼の眼には天井が移っていた。話している途中で黒野の渾身の突っ張りを顔面に食らい、大きく吹き飛んだのである。その勢いでリング中央まで飛ばされた男は起き上がる事は無かった。
「な……何故……!?」
「お前はバカか。これは喧嘩だ。なに勝手にルール作ってんだよ。しかもテメェの有利な感じにしやがって……それに生憎俺様の拳はガラスでね。殴ったら最後、一ヶ月使えなくなるんだよ。」
黒野の発言はもっともな事である。
「さてと終わった事だし、戻ろうぜ。」
「う、うん。」
かくしてボクシング部に勝利した黒野は、弥生を連れてボクシング部部室を後にする。その時、何かを思いとどまるように立ち止り、ボクシング部部室前に戻っていく。
「迷惑料の代わりにコレもらっとこ。」
黒野が持って来たのは、その部の命とも呼べるべき看板である。年季が入っていることがわかる、少々古びた看板を手に今度こそ部室を後にした。
「貰って大丈夫なのかな……私、何か心配だけど……。」
「向こうが吹っかけてきた喧嘩なんだから文句ねぇだろ。それにこれを俺達相撲部の看板の隣に飾れば少しは実力も知られるだろ。丁度良い、新しいビラにも『ボクシング部に単身挑み勝利した』って書いとけば学校にも知られ渡るぜ。」
自らが描く未来を妄想しながら、上機嫌でその歩みを進める黒野。
部室へ戻る道中、此方へ向けて歩いてくる男が一人いた。黒野に部室を教えた人物、立花である。
「あれ?確かさっきの。」
「おぅ、一年。寝てるところ起こして悪かったな。」
「平気だよ、平気。で、手に持ってるそれってなに?」
「おぅ、これか!」
黒野はその看板を立て、立花に自慢するかのように見せつけた。
「さっきカチコミに行った時の戦利品だ。これでウチにも部員が来るようになるぜ!何つってもボクシング部を一人で全滅させたからな!」
「へぇ……良かったね。」
「そうとも!ガッハッハッ!」
まだ部員が増えると決まったわけでもないのに部員が来ると思っているのか、大きく口を開き、大笑いをする黒野。
それを見て立花は、多少顔をしかめて軽く口を開いた。
「まっ、頑張ってね……その時が来るまでね。」
「んあ?何だその時って?」
「その時のお楽しみだよ。それじゃサヨナラ。」
それだけ言うと立花は去っていった。その言動に一瞬黒野は不審がるものの、すぐにそれも気にしなくなり、再び上機嫌で歩みを進めていった。
「(そう言えば、結局番長が言ってた"消える左"って一体誰のことだったんだ?まぁ、あの中で最強の男なんだからあのキザな野郎だろ。うん、そうだな。)」
「どうしたの?」
「いや、ちょっとな。さてとビラ作るぜ!」
黒野の唯一の気がかりである、重蔵が言っていた"消える左"。その謎は依然として残ったままであった。
- Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.20 )
- 日時: 2016/07/09 16:00
- 名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)
翌日の放課後、部室前で黒野と白石は立ち止まっていた。
部室前で引き攣った笑顔を浮かべている白石を何だと言わんばかりに見つめていると言った状況である。
「ね、ねぇダンナ……。」
「おぅ、どうした。鳩が大砲喰ったような表情しやがって。」
白石が見つめていたのは、相撲部の部室に掛けられたボクシング部の看板である。黒野はそれに察したのか、白石が口を開く前にボクシング部の看板を外し、堂々と掲げる。
「お前が知らないのも無理はねぇな。こいつは昨日ボクシング部潰したときの戦利品だ。」
「昨日って……僕が日直だった時……ダンナ。」
「おぅ、なんでぇ。」
白石は懐を探り、自らの得物の特殊警棒を取り出した。それを伸ばすと同時に黒野の頭目がけて思い切り叩きつけた。
「あいたっ!テメェ何しやがる!」
「どうしてそう言う勝手な事するのかなダンナ!僕の身にもなってよ!」
「と言ってもあれはあっちが弥生を無理矢理マネージャーにしようとしたんだからよぉ……仕方ねぇって。」
「だからと言ってももうちょっとやり方があったでしょ!?何取り戻すついでに看板奪ってるのさ!『一応』上位陣にあらぬ形で喧嘩売って!」
「さりげなく『一応』を強調してるあたり、ボクシング部も案外大したこと無ぇみてぇだな……実際8人くらいの束で襲いかかってきたけど、そんなに強くなかったし……。」
いつも以上に強く警告をする白石に対し、一歩下がりながら黒野はその口を開く。その言葉を聞くとともに、やれやれと言わんばかりに顔を押さえて白石は言葉を続けた。
「そんな大したことないってねぇ……ダンナが戦ったのは差し詰め調子乗ってる新人か2年の中堅部員に過ぎないよ。弱かったらこの学校じゃ廃部コースだからね。」
「なんでぇ、やけに偉そうにふるまってると思ってたけど、一番上じゃなかったのかよ。」
「知らなかったとはいえ、此処まで来たら引き下がれないね。教えてあげるよ。ボクシング部の人たちを。」
そう言って白石は部室に入っていき、黒野もそれに続く。
白石は鞄から一つのファイルを取り出し、開いた。そこにはボクシング部の中心人物と、その一人一人の特徴を余すことなく書かれていたのである。
- Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.21 )
- 日時: 2016/07/09 15:58
- 名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)
「これにはボクシング部の中でも要注意の人物だけを乗せてるんだ。此処にダンナが戦った面子はいるかい?」
「いねぇな。」
「なら此処で覚えて。まずはこの人。」
白石が指を差した写真には、スキンヘッドで凄まじい体格の男が映っていた。
「ボクシング部副部長、『10tトラック』こと乃木 伸二。ボクシング界注目のヘビー級ボクサーさ。」
「ほ〜、こんなのいたのかよ。」
「持ち味は体格を生かしたインファイト。ダンナと同じく凄い威力の打撃を持つハードパンチャー。」
その言葉の後に、次の写真に指を動かす。こんどはやや長い髪をした二枚目で長身の男が映っている。
「ボクシング部部長、『イーグル・アイ』こと滝川 三郎。ライト級ボクサー。」
「また女子に受けそうな顔した野郎だな。こんなのがいれば」
「無駄話は後。アウトボクサーで相手を間合いに入れさせず、一方的に打ちのめす戦いを得意としてる人さ。2人ともその戦術はウチの喧嘩でも通用していてね……周りからも警戒される人さ。」
「まっ、大したことはなさそうだな。どっちも耐えてぶちのめせば簡単だ。」
「一人を除いてね。」
そう言うと次に指を差したのは文字だけの部分である。
それもそこには名前も書いておらず、名前の欄には『消える左』とだけ書かれていた。
「そしてそれが今言った一人、もっとも注意しなければいけない人。」
「消える左……。」
黒野は先日の事を思い出していた。襲撃する前に重蔵に言われた『消える左には気をつけろ』。その台詞が浮かんだ。
「番長も言ってたような……写真は?」
「残念なことに、写真は無いよ。僕も調べ始めたばかりだし。」
「ちっ……で、そいつはいったい何者だ?」
「一年の人さ。」
それを聞いて黒野は驚きを見せた。部長、副部長が強いのは解かる。しかし、白石が注視しているのは一年。それも最重要要注意人物としての扱いである。
「一年って……一年坊がそんなに危険な相手なのか?」
「今年ボクシング部に入部した超大型新人らしいんだ。体格は全17階級中、最も軽いストロー級(ミニマム級)。いくら重く見積もっても精々フライ級が限度って話さ。」
「そんな軽いのかよ。本当に警戒すべき相手か怪しいこった。」
「すぐに考えが変わるよ。と言うのも今しがた紹介した滝川部長とガチンコで試合した結果……1R52秒でマットに沈めたんだ。さらに副部長も体格のハンデをものともせず、たったの4RでKO勝ちしたんだよ。」
「ヘビー級相手にストロー級がKO勝ちだと!?そりゃ何かの間違いじゃねぇのか!?」
白石は無言で首を横に振った。それを見て黒野はやっちまったなと言わんばかりに天井を見上げる。
「これで分かったでしょ?自分が何をしたのかが。」
冷酷な言葉を黒野にぶつけた。しかし、黒野は笑みを浮かべ、白石へと目を向ける。
「……まぁ、どの道俺様がぶっ飛ばせばいい話じゃねぇか。」
「アレだけ忠告して結局そういう結論なるのね。」
「やっちまったもんは仕方ねぇ。俺様の実力を見せてやるチャンスでぇ。」
気持ちいいくらいスッキリと開き直った黒野に呆れる白石。そしてその声の直後、部室入口からさらに声が響いた。
「ほぉ……なら見せてもらうぞ。」
その声と共に黒野と白石が振り向いた先にいたのは、昨日倒された男であった。
「あぁ、こいつだ。昨日ぶっ飛ばした奴。」
「2年、山口 博明……なんて事の無い小物の為にボクシング部を相手にするなんて、本当にダンナも無謀だね。」
「俺を小物だと……!?」
今にも食ってかかってきそうな表情で山口と呼ばれた男は黒野達へと向かう。しかし、服を背後にいた人物に引かれ、止められてしまう。
「まぁまぁ、落ち着いてよ。先輩。」
「んっ、お前昨日の……確か立花だったな。」
後ろからひょこっと現れた小柄な男、昨日黒野にボクシング部部室を教えた一年こと立花 誠である。
「あれ?おいらの名前知ってるの?」
「ジャージにデカく書いてあったから嫌でも覚えられたわ。ついでにお前もボクシング部だったとはな。」
「へへっ、まぁね。それなのにシカトされるなんて、おいら結構ショックだったよ?」
その発言と共に軽く笑顔を浮かべながら、立花は構えを取る。そして彼はシャドーを軽く行い、ボクシング部である事をアピールした。
「そいつは一年とはいえ悪い事をしちまったな。今からでもやってみるか?」
「うんっ、そのつもりだし。」
その笑顔のまま黒野に向かって、そのバンテージを巻いた拳を突き出して宣戦布告。黒野も黒野でやる気満々であり、腕を鳴らして近づいていく。
「待ってダンナ!」
「あぁ?どうしたんでぇ?」
白石は間に入って黒野を止めた。中空に疑問符を浮かべる黒野を余所に白石は立花をまじまじと見つめていた。
「(ボクシング部1年、階級はストロー級、それに2年の人がわざわざ連れてくる……間違いない)」
「マネージャーさん?」
「君が……君が噂のボクシング部超大型新人…"消える左"だね?」
白石の発言に流石の黒野も多少驚いたような表情をあげる。さらに黒野と立花の間に山口が割りこむ。
「その通りだ。彼がボクシング部最強の新人、"消える左"こと立花 誠だ。」
「やっぱりね……その体格で薄々感づいていたよ。」
「止めるなら今のうちと言っておこう。彼は体格も力量も全くものともしない。君など直ぐに倒せる。」
絵に描いたような器の狭い男である。自分よりも年下の男の強さを盾に威張るとは。黒野も呆れた表情で山口に向かって口を開いた。
「なんでぇ、お前年下に負けてんのかよ。情けねぇとは思わねぇのか?」
「う、うるさい!大体こいつは正真正銘化け物だ!勝てるわけがない!」
「それちょっと傷ついちゃうよ先輩。それにそっちも年下だからって舐めてるとさ……一撃で沈むよ。」
調子の良さそうな声と共に、どこかドスの利いた響きが混ざった声で黒野に言い放つ。
「年の一つや二つ、喧嘩には一切関係無いよ。強い奴が勝つ。それだけ。」
「中々確信を突いてやがるな。ますます気に入ったぜ。」
白石と山口の二人を避け、立花の元へと向かっていき、睨みつける。それに対し負けじと睨みを返す立花。小柄ながらも力強い眼差しをしている立花を見て、さらに戦いと言う気持ちが高ぶっていく。
「よっしゃ!もうこれ以上面倒な事はいらねぇ!いっちょ戦うか!」
「うんうん。賛成!」
「はぁ……もうやるしかないか。」
互いの気持ちが一致し、晴れて戦う事を決めた両者は部室の外へと飛び出す。最早止めても無駄だろうと、白石もヤケクソ気味に腹を括って外へと出た。
そして部室の前で両者は構えをとった。
「立花よ。」
「まぁまぁ、任せて任せて。おいらがちゃんと看板取り戻すからさ。」
服を脱ぎすて、ボクシング部のTシャツ短パンスタイルとなった立花は腕のバンテージの巻かれ具合を確認した後、軽く返事をして構えをとった。
「ダンナ、今回の相手は菊丸君や番長とはわけが違う。近代スポーツ科学によって研究、改良を繰り返された格闘技の使い手だ。今までと同じだと思ってると痛い目食らうから注意して。」
「了解でぇ!セコンドは頼んだぜ!」
白石の忠告を聞き終わるとともに、こちらも上着を脱ぎすて、四股踏みで気合を入れて構えをとった。
「よっしゃ行くぜぇ!」
黒野が地面に両拳をつけると同時に勝負は始まった。黒野は頭を突き出して突進、立花もまた構えた状態で黒野へと駆けていった。
- Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.22 )
- 日時: 2016/09/02 19:13
- 名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)
お互いの攻撃が届く間合いに入り、黒野はその腕を引いた。そこから繰り出されたのは張り差し(フック気味の張り手)。黒野の剛腕も合わさって、当たれば相当なまでの破壊力を秘めた技である。しかし、それはボクシング相手にはあまりにも命取りな行動であった。一気に体を前に屈めるように回避すると同時に足を止める事なく間合いに入った。そこから繰り出されるのはボディとフックの連打。だがそこはストロー級の悲しき運命、連打は早いが一撃一撃は軽く、黒野の鋼の肉体を破るには到底足りない。
「その程度かよぉ!」
投げを狙って短パンを掴みにかかるが、それを立花は一気に体勢を低くして回避。掴むために振るわれた手は空を切った。その眼で空ぶったのをしっかりと確認すると同時に曲げていた足を思い切り伸ばし、勢いづけて強烈なカエルアッパーを黒野の顎目掛けて繰り出した。その一撃をモロに食らい、黒野は後ろへと下がる。立花は追撃をせず、ビーカブースタイル(自身の顎を両拳で覆う構え)で黒野の様子を見ていた。
「ちぃっ、今のはゴツいパンチだった。」
「ダンナ、あの構えを見る限り、相手はインファイター(超攻撃型)みたいだよ。」
「ストロー級でインファイターか……なかなか見ない野郎じゃねぇか。」
「だから単純な殴り合いなら体格で勝ってるダンナに分があるとは思う……だけど。」
「解かってるって、警戒は怠らねぇよ!」
解かっているのかいないのか、黒野は一言残すと真っ向から突撃し、ぶちかましの体勢に入る。インファイターではあるが軽量級の立花は流石に真っ向から迎え撃ちはしない。頭を突き出したのを見ると同時に横方向へと回避し、それを避けると同時に剥き出しの横、つまりは肝臓の部分目がけてストレートを放つ。
肝臓への打撃は鳩尾への打撃と同じく長く、それでいてしつこく残る。さらけ出された人体の弱点を突くと言う事は理に適った戦術と言える。しかし、驚異的に鍛えられた黒野のボディはそれを寄せ付けない。立花はそこを見誤ったのである。
「っしゃおらぁ!」
急ブレーキをかけて止まった黒野は立花の顔面めがけて突っ張った。ビーカブースタイルの体勢故にガードには成功する立花であったが、その衝撃は抑えきれない。後方へ大きく飛ばされて体勢を崩した。それを見た黒野は好機と言わんばかりに突っ張り続ける。いつもの黒野とは違い、一撃の威力ではなく腕の回転にものを言わせた連続の突っ張りである。立花も猛攻に対抗し、上半身を左右に振り、その勢いを利用したパンチの連打、所謂『デンプシーロール』を放つ。しかし、乱打ともなれば体格がものをいう。見て解かるとおり、黒野と立花とでは体格が桁外れに違う。故に次第に立花は押され、終いには打ち負けてその突っ張りをまともに受けてしまった。
黒野の猛攻は止まらない。立花の短パンを今度こそ掴み、そのまま引きよせてがっぷり四つ。そこから立花を持ち上げ、力任せに地面へと叩きつける。相撲48手の一つ、吊り落としだ。
「どうしたどうした!」
「ん……っ!」
それでも立花は立ち上がり、黒野に向けてストレートを放つ。それを黒野は額で受け止めた。ダメージを受けたのは立花の拳。黒野は全く何事もないように立っている。
「イタタ……くそっ!」
ダメージを受けても手は緩めない。頭がダメなら再び胴体。体制を低くして黒野の心臓へ、鳩尾へ、肝臓へと次々と連打を放っていく。しかし、先ほどの様にそのパンチは黒野の筋肉を破る事は出来ない。
「どうした?その程度じゃ俺は応えねぇぜ!」
それどころか黒野は立花の肩越しに手を伸ばして短パンを掴み、そのまま掴み投げで後方へと投げ飛ばした。
「まだまだ……!」
「まだやるのかよ……ストロー級だけどタフだなお前。」
再び顎を隠す様な構えで立ち上がり、黒野をキッと見据える。黒野もいつでも突っ張りを繰り出せるように構えた。
「(ダンナが押している……このままやれば勝てる……だけど、あんな闇雲に突っ込むやり方じゃ主将は勿論、ヘビー級の副主将を倒すことなんてできないはずだ……)」
あまりにも黒野が優勢すぎる。その不自然さに白石は感じ取った。彼は先の戦いで体格差を物ともせずにボクシング部副主将及び主将をキャンバスに沈めたはず、それならば黒野を手玉に取ることも決して不可能ではない。何故彼は押されているのか、白石は強く思ったその時だった。
「立花!遊んでるんじゃない!とっとと倒すんだ!」
「遊んでるだぁ?」
立花側のセコンド、山口が叫ぶ。それは『このパンチを放て』や『相手は○○が弱点だ』等の指示ではない。彼は言ったのは『遊ぶな』と言うものであった。
「(遊んでいる……今のあの状況を遊んでいるだって……!?)」
「ちぇっ、解かったよ先輩。」
ちょっと不服そうに立花は言うと、ビーカブースタイルの構えを解除した。その次にとった彼の構えは、左足を前に出し、右手を自らの顎の近くにおき、左腕は前に突き出した、ボクシングの最も基本的な構えであるオーソドックススタイル。
「構え変わったくらいで状況が変わると思ってんじゃねぇ!」
無警戒にも黒野は立花へ向けて突撃。乱打戦に持ち込みにかかる。しかし、その掌を振るう直前、黒野の体が浮き上がった。
再び向かっていこうとした時、その体が崩れ落ちる。片膝をついて持ちこたえたが、その足はガクガク震えていた。
「そんなバカな……ダンナを……。」
「どうした、相棒……俺はまだ……。」
「ダンナをジャブで……ジャブたった一発で脳震盪にするなんて……。」
そう、黒野は今のパンチで脳震盪を引き起こしていたのである。それもボクシングの基本中の基本、ジャブだけである。
「なに言ってやがる。よく見えなかったが、5発食らったぜ俺は……。」
「あの一瞬で5発も!?そうか、そうだったんだ……!」
「どうした!どういう事でテメェは慌ててんだ!」
白石は頭を抱え、自らを責めた。自らの迂闊さを責め立てた。急な行動に黒野は白石が正気かどうか確かめるために声をかけた。それを聞いて白石は口をさらに開いた。
「彼はインファイターなんかじゃない……そして『消える左』って言うのは、ジャブの事を指していたんだ……!」
「それがどうした!」
「ジャブってのは絶対回避出来ない、格闘技史上最速の技なんだ。それでも一瞬で5発、尚且つそれで脳震盪を起こすのは異常すぎる。恐らく彼はジャブを鍛えに鍛えたんだ……ジャブだけでKO出来るまでに……。」
「へへっ、御名答。」
その話を聞いていた立花は、本来の武器であるその拳を空に放ち、誇示するように拳を向けた。
「おいらの本領発揮だよ。もっと見せてあげるよ、だからまだ倒れちゃダメ。」
「けっ……上等じゃねぇか……。」
震える足で彼は校舎の壁に向かっていく。そこに寄り掛かるように立ちあがると同時に、壁に向かって思い切り頭を叩きつける。ガキン、と言う音が響き渡り、黒野の額から多少の血が流れる。
「これで少しは脳も落ち着いた……まだまだ行けるぜ立花よぉ!」
「そう来なくっちゃね、先輩。」
黒野は再び構えた。立花も軽やかにステップを踏みながら黒野を見据え、いつでも動ける準備をした。