複雑・ファジー小説

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学園マーシャルアーティスト
日時: 2017/12/12 17:46
名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)

どーも皆さん。青銅→白樫→大関です。
現在書いてる『気まぐれストリートファイト』が少々アイディアに詰まってしまい、リハビリ感覚で新しい小説を作りました。
下らない内容ですが頑張っていきたいと思います。

=ご警告
・荒らし、中傷はやめてください。
・パロディ等があります。
・かなり汗臭い感じになります。
・亀どころかナマケモノ以上に遅い更新です。
・やってる事は『気まぐれストリートファイト』と同じです。
・少々リメイクしました。


=登場人物(※注意:ネタバレ多々有り)
黒野 卓志 >>4
白石 泪 >>4
春風 弥生 >>4
佐久間 菊丸 >>11
愛染 翼 >>16
大道寺 重蔵 >>17
立花 誠 >>25


=バックナンバー
+日常編
第1話 武闘派学園生活開始 >>2 >>3
第2話 カチコミ退治も楽ではない >>5 >>6
第3話 番長見参 >>7 >>8 >>9 >>10
第4話 決死のタイマン >>12 >>13 >>14 >>15
第5話 "消える左"の天才ボクサー >>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24
第6話 黒野と弥生と空手部と >>26 >>27 >>30 >>31 >>32 >>33 >>34
第7話 電光石火の一撃 >>35 >>36 >>37 >>38 >>39 >>40 >>41 >>42

Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.3 )
日時: 2017/12/10 16:21
名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)

「黒野君!」
「ダンナ! 大丈夫かい!?」
「おい」
「んっ?」

白石が振り向くと、そこには改造した学ランを着用し、髪を染めたりして尚且つ部室を壊したときに使ったであろう鉄パイプを持ったガラの悪い生徒数人が青年の方を向いていた。その中に一人、ソフトモヒカンの髪の毛にカラスマスク(黒いマスク)を着け、不自然に発達した上半身をした、恐らくは首領格の男が白石に口を開く。

「……えーと、僕達に何か御用ですか?」
「テメェらか? 新しく作った部活の部員は」
「滅相もございません。僕達は只の一般生徒でして」
「見え透いたウソ吐くなコラ! そこの部室から出て来たのはなんでだ!?」
「うぅ……言い訳するには無理があるみたいだね」

完全に部員だと見なされている上に胸倉を掴まれ、もう逃げることなどできない。
今の状況を彼は嘆いた。

(うぅ……こんなことになるなら竹刀やバールっぽいものでも持ってくればよかった……武器あれば負けないのに)
「運が悪かったな……俺達はこうやって新人潰しするのが大好きなんだよ。テメェも部活建てなきゃこんなことにならなかったんだがなぁ」
「それにこの通り可愛いスケもいるしな」
「ひっ……」

ガラの悪い生徒は白石だけでなく弥生にまでも絡みだす。
それを見た白石は祈るように片手を顔の前まで上げ、そして口を開いた。

「……見逃して♪」
「見逃すかコラァ!」

今、白石に向けて拳が振り上げられる。あぁ、もうダメだ。そう思った瞬間だった。
振りかぶった男の横から何かが投げられた。巨大な木片である。それが男の顔面に命中して男は伸びてしまった。
それを投げた男はそう、先ほど部室が崩壊した際に巻き込まれた黒野だった。

「だ、ダンナ!?」
「黒野君! 大丈夫!」
「へーきへーき……ったくよぉ、カチコミは予想できたけど、せっかく貰った部室をいきなりぶっ壊されるなんてな」

瓦礫から黒野は何の問題もなさそうに脱出し、腕をパキポキと鳴らしつつ近づいていく。

「テメェら覚悟出来てんだろうな?」
「……あっ、そうだ。皆さん、あの人です。あの人が創立者です。僕達、あの人に脅されて」
(白石君!?)
(静かに)
「そうか」

そう言うと先ほどまで白石の胸倉を掴んでいた男は起き上がり、黒野の方に歩み寄る。

「そんな悪い奴なら尚更ぶっ飛ばさねぇとなぁ」
「ったく相棒の野郎……また何か吹き込みやがって」
「ダンナ。前」
「んっ?」

黒野が気づいたとき、目の前が突然真っ黒になり、自らも後方へと下がっていた。そう、殴られたのである。

「イテテ……何だ、もう始まってんのか……」
「その通りだ」
「凶器使ってるの見ると格闘部じゃないな……なら楽勝だぜ」
「はっ?」

そう言うと黒野は再び歩み寄り、どちらも殴れるような間合いまで詰めて止まった。

「ほれ。もう一度打ってみろや」
「んじゃ、お言葉に甘えて……!」

そう言うと男は先ほど部室を壊すときに使ったであろう鉄パイプを手に取り、黒野目がけて振り下ろす。しかし、黒野が鉄パイプ目掛けて頭を突き出したとき、鉄パイプはたちまち弾かれ、地面へと落ちた。

「なっ!?」
「それで終わりじゃねぇだろ?もういっぺんやってみな。頭だけじゃなくて何処でもな」
「野郎……!」

落とした鉄パイプを拾い、男は黒野の頭、肩、首、腕、胴体、足を狙って滅多打ちにする。だが、黒野は全く動じない。寧ろ黒野は笑顔でそれを耐え抜いていた。
打ち続け、握力が限界に達した男は鉄パイプを落とした。

「ぜぇ……ぜぇ……何でだ……」
「教えてやるよ」

男が落とした鉄パイプを拾い、黒野は答えた。

「俺はこう見えてな……病人なんだ。俺を蝕んでる病気ってのがよぉ、それが珍しい病気でな。その名も……」

その一言と共に黒野は鉄パイプをまるで飴細工のようにぐにゃりと曲げ、さらにそれを丸めて地面に落とした。

「ミオスタチン関連筋肉肥大だ」

——ミオスタチン関連筋肉肥大。またの名をミオスタチン欠乏症。
通常、筋肉はミオスタチンと呼ばれる物質を持っている。ミオスタチンには筋肉に必要以上の栄養が行き届かないように調整し、筋肉を適度に成長させ、余分な栄養素を脂肪に変える役割を持っている。そのミオスタチンを筋肉が受容しなければ、ミオスタチンの生成量が極端に少なくなったらどうなるか……筋肉に栄養が止まることなく流れていき、結果筋肉は無限の成長を行う。

黒野は一見すると腹が少し突き出ており、小太りに見える体型をしている。しかし、黒野の体脂肪率はわずか3%。その太っているような体の殆どが筋肉で構成されているのである。その筋肉に違わず、黒野は非常に腕力が強く、非常に打たれ強い。

「俺の筋肉量はそんじょそこらの奴とは違ぇ。その搭載量、なんと常人の2倍。この鋼の肉体を鉄パイプ程度で何とかできると思ったら大違いってこった」
「は、ハッタリだ! 妙なハッタリかましやがって!」
「ハッタリ呼ばわり大いに結構。だがな、これ喰らってよ、ハッタリだと思ってられるかよぉ!」

そう言うと黒野は大きく振りかぶると大きく開いた掌で相手の顔面を思いっきり張った。
体力の消耗からか、男は逃げることもままならず、錐もみ回転しながら吹き飛び、気を失った。

「おっ、ダンナの勝利」
「……さて、どうやって落し前つけるかなぁ?」

そう言って黒野は残った不良達の方を向く。不良達はそれを聞くや否や倒れた男を担ぎ、一目散に逃げて行った。

「ちゃんと持って帰るあたり人望はあるみてぇだな」

しっかりと連れていかれたリーダー格を見て、彼は率直に思った。その黒野を心配するかのように弥生は見つめていた。

「黒野君……」
「心配すんな。こっちはこの通りピンピンしてらぁ」
「やっぱり余裕だったね、ダンナ」
「相棒よ。お前ぶつかり稽古だ」
「えっ? 何で?」
「何でじゃねぇよ! テメェ吹き込みやがって!」
「あぁ……あれね……だけど余裕だったからよかったでしょ?」

まるで他人事のように彼はそう言い放つ白石の胸倉を掴み、笑いながら怒りを見せる黒野。
何とかそれを弥生は宥めて一応は収束。

「さて、部室壊れたけどどうする?」
「部室くらいなくてもどうにかなるだろうが」
「そうかい?」
「あたぼーよ! なんつったって俺様こそ、日の下開山!黒野卓志様でぇ!!」
「よっ! ダンナ! 日本一!」

黒野は自信満々に名乗り声を上げ、それに便乗するように白石が煽てる。

「さて、茶番はこれくらいにしてスカウトでもしてくるか……」
「いってらっしゃーい」
「テメェも行くんだろうがボケ!」
「ちぇー」

何時の間にかに作られたビラを片手に黒野と白石、弥生は行く。
彼らのちょっと変わった学園生活、これよりスタートである。

Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.4 )
日時: 2018/03/11 23:22
名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)

・黒野 卓志(クロノ タカシ)
使用武術:相撲
年齢:17
性別:男
容姿:黒い坊主頭で二重瞼にやや日焼けした肌。仁王像のように発達した筋肉を持ち、その身体は極めてガッシリとしている。身長174cm、体重138kg。
性格:天上天下唯我独尊。直情的で非常に単純だが、豪快で兄貴肌な江戸っ子気質であり、情に熱い。脳みそまで筋肉で出来ているので頭を使うことは大の苦手。

概要
本作の主人公。相当幼い頃、弥生に向けて『最強になる』と宣言。それを目指して頑張っていたが中学卒業とともに家庭の都合で渡米。その1年後に日本に帰ってきた彼は最強になるために荒くれ者が集う学館浜隆高校に転校し、相撲部を創立させるも部員集めは難航中。
生まれながらにミオスタチン欠乏症を患っており、その筋肉量は常人を遥かに上回る。筋肉はパワーや筋持久力などの機能は勿論のこと、ボディビルのような『美しさ』と言う観点から見ても非常に高いレベルを持つ。


戦法
並外れた怪力とタフネス、それを生かして相手を真っ向からねじ伏せる真正のパワーファイター。怪力も去ることながら、退く事を知らない頭と根性によってひたすら前に前に進む戦いを行う。
但し、決してパワーだけの男ではなく、持ち前の相撲テクニックは怪力抜きでも圧倒的であり、多彩な投げ技を得意とする。


・白石 泪(シライシ ルイ)
使用武術:剣道、古流剣術
年齢:17
性別:男
容姿:目元を隠すように伸びる白い髪、隠れて見えないが鋭い目。スラッとした体系。身長167cm、体重51kg。
性格:陽気で親しみやすく、天真爛漫な性格。だがその一方で時折極めて冷徹な一面を見せることもある。

概要:
黒野の親友であり、同時に唯一無二の相棒。黒野を『ダンナ』と呼ぶ。既に両親は他界しており、施設入居を経て現在黒野の家に居候している。黒野と違って頭が良く、学浜に転入してからは相撲部運営やトレーニングなどのサポートに回っている。また、古今東西ありとあらゆる格闘技、武術の知識や理論などを網羅しており、それらの知識を駆使して黒野のセコンドを買って出ている。その他、日常における黒野のストッパー役も勤めるが当の黒野が大味な性格なのであまり止められない。

戦法
特殊警棒やゴルフクラブなどの得物を使い、剣道や古流剣術の技術で戦うが、古流剣術の体術技法で武器無しでもそれなりに戦うことができる
剣道は通信教育で2段。剣術は様々な流派を付け焼刃で習得しており、練度そのものは低い。その分非常に豊富な格闘技の知識を生かし、それぞれの格闘技の傾向対策を徹底的に行うことで低い技術をカバーしている。
但し、技量が低いとはいえ一般的な格闘家相手なら束になろうと敵わないくらいの戦闘力は保有している。




名前:春風 弥生/ハルカゼ ヤヨイ
年齢:17
性別:女
容姿:セミロングで明るめの茶髪。少々垂れ気味の目。スレンダーな体。身長は161cm、体重46kgと3人組の中では一番小柄。
性格:ナイーブで内気ではあるが、心が強くて優しい性格。少なくともガサツな黒野に比べればよっぽどしっかりしている。
備考:黒野の幼馴染。昔からいじめられっ子で度々黒野に助け舟を出してもらっており、黒野が最強になろうと思ったそもそもの原因はその弱さに見かねてのものだったという。黒野が渡米した後も最強になる夢を応援し、帰ってきた後は相撲部マネージャーとして黒野を支える。格闘技経験は皆無だが頭は良く、格闘技に関する知識も豊富。

Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.5 )
日時: 2017/12/10 16:33
名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)

=第2話 カチコミ退治も楽ではない=

部室棟に建てられた掘っ立て小屋、そこが黒野率いる相撲部の部室である。
相撲部が創立されて5日が立つ。ありとあらゆる手段で勧誘してみるものの、誰一人として入部を希望する者はあらわれない。

「何故だ……何故一週間も勧誘しているにも関わらず入部希望者が来ない!」
「相撲と言うスポーツ事態に人気がないから仕方ないね。アハハ」

部室内で怒りを露わにする黒野に対し、茶化すかのように白石は言い放つ。
火に油を注ぐとはよく言ったもの。白石の頭上に黒野の肘が落とされたのであった。

「こっちも気にしてるっつっただろうが!このボケ!!」
「アイタタタ……悪かったってダンナ……」

白石は殴られた頭を抑え、部室の片隅に足を運ぶ。片隅に置かれていたのは山ほどに積まれた勧誘用のチラシ。それを持ってくると黒野に半分ほど渡す。

「ほら、まぁ人気云々言うより勧誘行こうよ」
「テメェが先に人気云々言ったんだろうが……」

文句をブツクサと呟くが、黒野は奪い取るようにチラシを手にすると白石とともに外へ出向く。







「やっと出て行ったか……」

部室棟の影から現れたのは、ソフトモヒカンにカラスマスクを着け、不自然に発達した上半身をした男を筆頭に創立日に相撲部を襲撃したヨタモノ達。彼らは鉄パイプを持ち、その部室である掘っ立て小屋の前に集まった。

「あ、あの、高山さん。此処って相撲部の部室ですよね…何しに来たんすか此処に」
「テメェら忘れたわけじゃないだろ? 5日前にやられた時の事を……」

高山と呼ばれた男は5日前に殴られた個所(顎)に手を当て、手下達に向けて何をされたのかと言う事を誇示する。それを見た手下達は、何をするのかと言う事を直感で察した。彼らもまた、あの時の事を覚えている様子であり、身を震わせるものもいるが高山が怖いのか、誰一人としてこれからやる行動を止める者はいない。

「あの、それで俺達にはどうしろと」
「決まってんだろ……まずはこの部室をもっかい壊す! そこでお前たちの出番よ」
「まさか……」
「そのまさかだ…お前たちの役目はそれだ。さぁ、やれ」

高山が手下に命令すると、手下達は戸惑いながらも手にした鉄パイプで部室を壊していく。流石に掘っ立て小屋であるが故に脆く、瞬く間に壊されてしまった。その部室だった場所に高山は紙をくくりつけた棒を立てて、満足げな表情をする。

「本当に勝算あるんですか?」
「この間はしくじったが、所詮は相撲。弱小格闘技に負けるはずはねぇよ。この勝負は貰ったも同然だ!安心しな!」

戦う前にも関わらず既に勝ち誇ったかのような言葉を口にし、高笑いしながら部室を後にした。






「なぁ、相棒よ……」
「何だいダンナ」

勧誘は失敗に終わり、黒野達は部室へと戻っていた。戻った先には部室の影も形も見当たらず、そこにあったのは木屑だけであった。

「俺達の部室を再び壊した奴はどこのどいつだ……!」

黒野は激怒した。必ず、この部室を破壊した奴をぶっ飛ばさなければなければならぬと決意した。そんなメロス並みの決意を固めている最中の黒野を余所に白石は何かを見つける。それは紙が巻かれた棒っきれ。
随分と古めかしい事をしてくれる。白石はそう呟きながら、紙を手に取って読んでみた。

「はぁ……あの人たちか……」
「おぅ、どうした相棒。シケた面しやがって」
「はい、ダンナ宛てのお便りさ」

渡された紙に書かれているものを黒野は読む。


—弱小相撲部の部長さんへ
この通り、部室はまた破壊させてもらった。悔しいと感じたのならば屋上へ来い。5日前の借りを返させてもらう。もっとも、弱小格闘技の使い手だから来なくても恥ずかしがることはない。所詮はその程度の格闘技なのだから
2年 高山 安則—


読み終えたのか、読み終える前に堪忍袋の緒が切れたのか、ぶちぎれた黒野は手紙を力任せに破り捨て、鬼の形相で白石を見つめた。

「許さん……相棒!!」
「何だいダンナ?」
「屋上行くぞ!ついてこい!」

返答も聞かずに黒野は校舎へと、大股で足を進めていく。そんな黒野を、やれやれと言うように白石はついていった。


Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.6 )
日時: 2017/12/10 16:41
名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)

「おらぁっ! お望みどおり相撲部部長の黒野卓志が来てやったぞっ!!」

屋上への扉を蹴破り、黒野と白石は屋上に足を踏み入れる。そこには鉄パイプで武装した不良達が集まっており、その中心には恐らくはリーダー格であるソフトモヒカンの男が佇んでいた。
ソフトモヒカンの男は黒野の方へ、黒野もまた男の方へと歩み寄っていく。

「テメェが部室破壊した奴だな?」
「おぉ、もちろんよ。名乗って無かったな。俺は高山 安則。ここいらじゃ……。」

一瞬の間をおき、高山は黒野に向けて拳を振るう。その拳は黒野に目の前、紙一枚分と言うくらいギリギリの所で止められる。それを察知していたのか、それとも精神が図太いだけなのか、黒野は動じない。その黒野の目に映ったのは只の拳ではない。その拳には明らかに何かを装着されていたのである。

「『ブラスの鬼』って呼ばれてるんだ……」
「ブラスナックル(メリケンサック)か…アメリカでよく見たぜ。懐かしいってもんよ」

高山はその拳を開き、黒野を手招きして挑発する。その直後に今度は掌を下に向け、先ほどとは反対にあっちいけというようなジェスチャーを見せた。

「ほらよっ、逃げるんなら今のうちだぜ?当たったらタダじゃ済まないんだからよ」

さらに挑発まで投げかけ、黒野を煽っていく。
それに構わず黒野は気合入れの意味を籠めて四股を踏み、顔をパシンと叩き、地面に拳をつける。要するに相撲の立ち合いの姿勢である。

「テメェみたいに実力の無いくせに悪知恵と口が回るようなカスが、己の身の程を知らずに無様に負けることを想像出来ない……違うか?」
「んだとコラ……」
「こんな野郎に金星渡す程、こちとら半端な稽古は積んでねぇよ。構えな」
「……上等だぜ」

一方の高山もボクシングに似た構えを取った。いよいよ喧嘩開始である。

「ほらよっ!」

先ず黒野は、その体勢から強烈なぶちかまし(頭や肩でぶつかる体当たり)を繰り出す。しかし、相手もこれを簡単に受けるわけはない。

「単純単純。相撲は最初は突っ込みからはいるからな」

高山は大きく横に移動して回避し、黒野は大分進んだ場所で急停止して振り向いた。振り向いた直後に高田のブラスナックルが映る。黒野はそれを突っ張りでカウンターを取ろうとするが、相手のほうがリーチが長かった。

「そして相撲にパンチもキックもねぇ!あるのはリーチが短く、威力の出ない掌だけだ!」

意気揚揚と相撲の欠点を語り、黒野の顔面に見事ブラスナックルをぶち込んだ。

「ギャッハッハッ!どうだ!これが俺の実力よ!」

十分に力を籠めて繰り出し、確かな手ごたえを感じ取る。まさしく最高の一撃。有頂天になった高山は高笑いをする。

「さて……付き添いよぉ、テメェも生きて返さないぜ?」
「ふぅ……よそ見は厳禁だよ」
「あん? 俺の勝ちだろ?」
「君は確かに相撲の欠点知ってるみたいだけどさ、相撲の長所も見た方がいいよ。相撲は150㎏から200㎏ほどもある人達相手に頭からぶつかりあう……その瞬間的な威力は2t。つまりさ……」

その先を話す前に黒野は相手の腕を払いのけた。その顔は多少鼻血が出た程度であり、全く通用していない。鼻血を払いのければ不思議も不思議、まさしく無傷の状態である。

「そんなモン効くか」
「この通り、半端な攻撃じゃ動じない」
「抜かせコラ!」

高山は屋上の入口付近の壁をブラスナックルで殴打した。殴られた箇所はものの見事に砕けており、ブラスナックルの威力を物語っている。

「このコンクリも壊すブラスナックル!この程度で済んでたまるか!」

そのブラスナックルを装着した腕を振りかぶって黒野の方へ走り寄る。そしてその拳を黒野の顔面をしこたま殴りつける。5発、6発、7発と留まることなく。

「ヘヘッ…どうだ!」

その腕を黒野から離し、その顔を拝む。黒野の顔面はやはり鼻血が多少垂れているだけであり、それ以外に関しては全くの無傷であった。その鼻血に関しても軽く拭きとられ、何事もなかったかのような表情で黒野は高山を睨む。

「な……なっ……!?」
「ブラスナックルなんざアメリカのストリートで何度も食らってらぁ。大した物じゃなかったぜ」
「くっ……くそがぁ!」

今度は黒野の腰を掴み、足を引っ掛けて黒野を転倒させようとする。しかし、黒野の足はまるで根を生やしているかのようにがっしりと地面をとらえ、全く動じない。

「今度はテイクダウンか?」
「倒せば勝てると思ってるのかい?甘い甘い。相撲は地面に足の裏以外がついた時点で負けなんだ。倒れないように足腰を極限まで鍛えるのは相撲の基本さ」
「まっ、そう言うことだ」

黒野は高山の胸倉を掴み、自分の顔の高さと同じになるように引き寄せる。そして混乱している高山を睨み、口を開いた。

「教えてやるぜ。相撲には蹴りはあるし、投げ技もある。無いのはパンチと寝技だけだ。そしてお忘れの様だからもう一度刻み込ませてやる。確かにリーチは短い……がっ!」

高田の胸倉から手を離す。高田はよろけるように黒野から離れていく。が、次の瞬間、高山の見ている光景は目まぐるしく変化を起こす。まるで竜巻に巻き込まれたかのように景色が回転していく。体が宙に浮いている。
そう、黒野の渾身の張り手を受けて再び空中を錐もみ回転して吹っ飛んだのである。その体は屋上の金網に激突してようやく止まり、地面に叩きつけられる。完全にその気は失われていたのである。

「誰が威力じゃパンチに劣るっつったよ……ってもう寝てるし」

黒野は頭を掻きながら、今度は周りで観戦していた不良達に睨むように目を向ける。その余りの迫力に不良達の体は硬直。その直後、黒野はその眼のまま笑顔を見せた。

「さてお前ら」
「は、はい……」
「……部室の建設……頼んだぜ?」

そう言っただけで黒野は白石とともに屋上の入口へと足を進ませる。

「あぁ、そうそう……明日までに直ってなかったら、お前ら全員高山クンの様になるぜ……肝に銘じておくんだな」

屋上から出る前に黒野は不良達に恐ろしげな表情を見せつつ、そう告げた。不良達は誰一人として黒野に口答えする事はなく、屋上から去っていく黒野を見届けた。






翌日

「全く……やっぱり掘っ立て小屋かよ」
「まっ、そこは大目にみようか」

部室は再建され、不満をこぼしつつも満足げな表情を見せて部室の中へとはいっていく。

「まぁ、内部も再現されてるし見逃してやるか。さて、少しは名の知れた奴を倒したんだから部員希望も来てるだろ?」
「いや、全く来てないけど?」

素早い返答に対し、黒野はガックシとうなだれてしまった。

「おいおい……」
「まっ、嘆いてないでさっさと勧誘に行こうよ」
「しょうがねぇ……速攻で集めてやらぁ!」

黒野と白石の二人はビラを持って部室から走って出て行き、部室棟を後にした。

=第2話 完=

Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.7 )
日時: 2016/05/18 20:56
名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)

=第3話 番長見参=

ある日の放課後の話である。いつものようにビラを手に校門付近で勧誘に励んでいる黒野と白石の二人。
その校門には、学ランが制服の学浜と違うブレザーの制服を着た、素行の悪そうな6人の集団が屯していた。

「なぁ、相棒。」
「何だいダンナ。」
「あのブレザーの集団は一体何なんだ?」

迷惑そうにブレザーの集団を見つめながら、黒野は白石に問いただす。

「あれは此処のご近所にある西海大学付属高校の生徒だね。」
「他校のチンピラってわけか……ご丁寧に校門の前に集まって、ハッキリ言って勧誘の邪魔だぜ。」

ブツクサと他校の生徒の集まりに聞こえないくらい小さく文句を言いつつ、ビラを配って回る黒野達。しかし、いつも通り誰も相手にすることなく、来る人来る人素通りされてしまう。
いつも通りの事だが彼も落胆は隠さない。通り過ぎるたびにガックリと頭を垂れ、また配ろうとしては素通りされて頭を垂れるを繰り返している。
学浜の生徒達は全員、黒野の勧誘に見向きもせずに校門に向かうが、そこで待ち構えていたのは、例の如く西海大学付属高校の不良生徒たちである。不良達はカツアゲを目的に校門前に集まっていたのである。

「おら、優しくしているうちに出すもの出しな。そうすりゃ痛い目は見ないぜ?」

一般生徒達は次々と西海大付属の不良達に絡まれ、金を出すか暴行を受けるかの選択を迫られているところだ。

「やれやれ、何かこうなると思ってたぜ。」
「で、助けるの?」
「勧誘無視した奴ら助けるのは野暮ったらしいが、此処で活躍しちまえば相撲部も少しは名が知られるかね。」

手にしたビラを白石に渡し、腕をパキポキと鳴らしつつ黒野は西海生達へと向かう。
しかし、ノンビリと向かっている間にも、一人の一般生徒が西海生に逆らっている様子である。

「い、嫌です……これは今月の」
「お涙ちょうだいはいらねぇよ。払わねぇならこうするまでだ。」

西海生の男のうち、一人が腕を振り上げる。容赦なく殴り飛ばして金を奪う算段なのだろう。
黒野もこれを見て、急いで生徒を助けようと駈け出し、殴るのを止めるために叫ぼうとする。
その瞬間彼の横から、かなり古めかしいリーゼントパーマをかけ、サングラスと長い学ランを着用した男が走っていく。その男は黒野よりも速く、生徒達の所へ向かうと生徒と不良を遮る様に立ち、自ら不良の拳を頬に受けた。

「な、何だ?」

突然の出来事に黒野は立ち止まり、呟く。それだけではなく、その場にいた全員が突然入ってきた男を前に一瞬体を硬直させた。

「な……て、テメェ……テメェは誰だ!?」

硬直から解放された西海の生徒は一歩下がり、現れた男に指を差した。
男は西海生に対し、サングラスを外して睨みつける。その眼は蛇のように鋭く、睨まれた者を怯ませるほどの圧力に満ちていた。
サングラスを懐にしまった彼は、ドスを利かせた声で言い放った。

「ワシか、ワシは学浜3年の……大道寺 重蔵ちゅうもんじゃ。」

自らの名を名乗った男、重蔵はその言葉の後、西海生の男の胸倉を掴み自らの目の前まで引き寄せる。
そもそも軽く離れた位置からでも半端じゃないくらい強烈な眼力だったのが急激に目の前で睨まれる形になり、先ほどまで威勢が良かった西海の生徒は黙りこみ、生まれたての小鹿の如く震えた。
そして殴られる寸前に助けられる形になった学浜の生徒は震える口を開く。

「ば、ば、番長……!」

恐怖しながらも尊敬の念を込め、呼んだ敬称は彼の事を正確に表しているものであった。その敬称で呼ばれた大道寺は学浜生徒の方に軽く顔を向けた。

「此処はワシに任しとけや。」

その一言が終わると同時に胸倉をつかまれていた西海生徒は、番長の頬目がけてパンチを放った。
しかし、胸倉を掴まれた不格好な状態では力を十分に籠める事など出来ず、大したダメージを与える事は出来ない。
パンチをくらい、一瞬その場は静まりかえる。しかし、すぐさま重蔵の返しの鉄拳で沈黙は破られ、同時に西海生徒は地面に叩きつけられ、気を失った。

「野郎!」

倒れた仲間を見て、西海の生徒達は重蔵を取り囲む。しかし、重蔵はそれでも動じた様子は見せない。
全く構える様子を見せず、掌を上に向けた右腕を突きだし、手招きして挑発を行う。それを見た西海の生徒は一斉に襲い掛かった。

「オドレら、甘いんじゃい!」

重蔵は目の前から来た相手が拳を振るう前に顔面目掛けて足の裏を叩きつけた。強烈な前蹴りの前に先ず一人が倒れる。
さらに右から来た相手に対しても強烈なフックともストレートとも取れる軌道のパンチで倒し、さらに後ろから襲ってきた相手にも向きを変えずに蹴りを膝に食らわせ、怯んだところを鼻っ柱目がけて鉄拳を繰り出し、倒したりと大立ち回りを見せていく。

「バカが!くらいな!」

その内の一人が懐から得物の特殊警棒を取り出し、背後から重蔵の後頭部目がけて振り下ろしにかかる。
しかし、振り下ろす前に彼の横から凄まじい衝撃が走り、ブロック塀の壁に叩きつけられた。
その衝撃の主はそう、黒野である。

「なんじゃワレ……。」
「悪いな……勝手に助太刀に入らせてもらうぜ。」

返答を聞くまでもなく、黒野は残り二人のうちの一人相手に突っ込んでいき、ベルトを掴んで壁まで寄って行く。大道寺もまた、向かってくるもう一人の男の方を向き、構えた。
黒野はそのまま相手のベルトを掴んだまま離さない。相手はどうにかして脱出しようと肘打ちや耳目がけて打撃を放つがその程度で離すほど黒野は虚弱ではない。黒野は一瞬息を整え、その後一気に引っ張り込み、下手投げで投げ飛ばした。かくして男は気絶。
重蔵もノーガードの打ち合いを繰り広げる。西海の生徒は次々と拳をぶつけていくものの、重蔵の拳の方が明らかに威力は上で既に足はガクガクと震えている。それを見越した重蔵は間合いを詰め、強烈なアッパーカットで男を空中に浮かした。男は後頭部から地面に落ちて気を失った。

「始末完了じゃのぉ。」
「あ、あの……ありがとうございました。」
「次は絡まれんよう気をつけるこっちゃな。」

礼を述べる学浜生徒に軽く忠告をした後、重蔵は黒野の方へと歩み寄っていく。そして彼は黒野に向けて口を開いた。

「お前さん、名ぁなんて言うんじゃ。」
「名前?俺は黒野。学浜2年相撲部の黒野 卓志ってんだ。」
「そうか……。」

それを聞くと彼は黒野に向けて頭を下げた。

「さっきは助かったで。お前さんがあん時入らなかったら袋にされてたかもしれんかったからのぉ。」
「いや、俺は勝手に助太刀に入っただけで……。」

重蔵は礼を述べた後、頭をあげ、黒野の話を聞くことなく校門から立ち去った。

「じゃあの。縁があったらまた会おうや。」

去り際に一言だけ残して。黒野はその背を見送り、白石の元へと戻っていく。

「ダンナ、大丈夫だったかい。」
「どうってことねぇよ。ところで相棒よ。あの人誰だ?」
「リーゼントの人かい。あれはここ学館浜隆高校の番長、大道寺 重蔵先輩さ。」
「そうかそうか……えっ?番長?」

黒野はその発言に対し、目を丸くしながら白石に問い詰めた。

「おい、番長ってことはあの人がこの学園最強ってことか?」
「そう言うわけでもないね。此処での番長って肩書は無所属の不良さん達を統率している人を番長ってさしてるんだ。他校との戦闘の際も大抵番長率いる不良さん達が率先してるから昔ながらの意味合いも込めてるけどね。」
「要するに?」
「帰宅部主将。但し、番長は応援団々長も務めてる。」
「納得。」

解かりやすい(?)解説に黒野はまぁまぁ理解した様子である。

「しかし、番長か……まさに漢って奴だ。」
「また殴りあいたいのかい?」
「また会えた時には持ちかけてみるか。」

強さと男気に感服したようであり、黒野は空を見上げながら、白石と談笑して帰路についた。


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