複雑・ファジー小説

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脇役謳歌〜できそこないヒーロー【一話完結】
日時: 2014/04/02 03:14
名前: uda (ID: T3U4YQT3)

 はじめまして、初投稿ということで右も左もわからないまま現状です。
 一応長編を書いていきたいのですが。このような投降でよかったのかと不安です。
 完結はさせるつもりですのでよろしくお願いします。




(はじめに)

・脇役が主役なれないのかという矛盾な事を考えて、気が付けば執筆していました。てにおはや誤字脱字などが酷いですが完結し次第修正を加えさせてもらいます。

・登場人物ですが主人公は結構中二病全開の痛い子ですが、隠された特別な力はありません。ましてやハーレムになることもありません。
 脇役みたいなヤツなので仕方がないと暖かい目で見てください。

 
・タイトルはご覧の通りですが各章のサブタイトルも今書いている話が終りましたのでそのシーンが修正され次第、書かせて頂きます。


 
<一言メモ>

 前タイトルはできそこないヒーロー(仮題)ですが、一応完結した為、脇役謳歌(できそこないヒーロー)にしています。ご迷惑かけるかもしれませんがよろしくお願いします。

 只今、添削や誤字脱字を修正中です。何かありましたら,よろしければコメント等、ご指導してもらえるとたすかります。


オープニング >>001

・騎士とメイドの物語。
1 告白か果たし状か? >>002-003
2 泉の前で >>004-007
3 騎士は正々堂々と決闘をする >>008-010 >>011-012
4 これが憧れの同棲生活 >>013-016
4.5 喫茶店で打ち合わせ >>017
5 鍋最高 >>018-020 >>022-024
6 魔女の踊り場 >>025-028
6.5 レギオン >>029-030
7 どうすっかなぁ >>031-34 >>037
8 無駄な抵抗 >>038-040
9 脇役の後悔 >>041-045
10 そして彼は舞い降りる >>046-049
11 覚醒できたらいいよね >>050-056
12 ヒーローは登場する >>057-058
エピローグ >>059>>061>>062>>063>>064




Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー (仮題) ( No.9 )
日時: 2014/03/26 02:30
名前: uda (ID: T3U4YQT3)

 何てことは無かった。辰野の頭上から現れた何かが思いっきり辰野の頭をチョップしただけである。
——うん、充分おかしいよなぁ。
 あまり深く考えないようにしておこうと六原は思い、目の前で頭から地面に倒れた辰野の安否を見守ることにした。
「だ、大丈夫かぁ」
「……おう」
「まっタく、無駄話ばかりしテ、サッサと任務に集中しなさイ」
 現れた人物、一人の少女に六原は唖然とし、月島は、
「君も来ていたのかい」
 昔の知り合いに語りかけるように小声で呟いた。少女はこちらに顔を向ける。
「はい、お久しぶりですネ」
 そっけない返事をする少女は日常的に見ることのない出で立ちであった。
 長い髪は銀色に輝き太陽の光を反射しそうなほどに艶やかかな銀髪であり、見たところ均一取れたスタイルで身長は少し低めに見える。だが、それより、なによりも、辰野が引かれたのは彼女の服装であった。
 その服装に六原は歓喜の声を上げた。
「メイドさんだぁ〜」
 白いフリル付きのカチューシャ、首につけた黒いラバーチョーカー、足元まで隠れる黒いエプロンドレスはまさにメイドであった。
——ウハ!!すげぇ。本物のメイドだ。アレですよ!!萌えですよ、萌え。それに見たところ強気でしっかりした雰囲気がまたグッドです。やべぇ、何故こんな場所に来た理由や、少女が何者だろうとぜひお近づきになりたいねぇ。
「どうしたのだい。そんなニヤニヤして。・・・・・・気持ち悪いよ」
「おいおい、最後の一言は傷つくよ。何つーかあのメイドの破壊力に怖気づいています」
 月島は突然現れたメイドを一瞥すると小さく頷いた。
「確かに、アレはヤバイからね。気をつけたほうがいい」
 なんだ、お前もいける口か。と思いながらメイドを見る。メイドは辰野が未だ倒れている姿を見下ろしながら、少しアクセントの外れた不思議な口調で辰野に問う。
「マッタク、一人で戦いたいとお願いされタから任せてみれば、何をくだらない話で時間を無駄に使ってイマすか。さっと戦いなサイ!!」
 一喝するメイドの声に動かなかった辰野がピクリと震えた。そして、ゆっくりと地面に手を付き、めり込んだ頭を地面から抜き出した。
「・・・・・・ッ、だからって、後ろから本気で叩くことは無いだろうが」
 叩かれた場所をさすりながら剣を杖変わりにして身を起こす辰野に、大体、いつもいつも・・・という説教を捲し立てるよう語りだすメイド。
「さて、どうしようか。・・・・・・ん?六原君。」
 杖を構え、この間に一撃をぶち込もうかと思っていた月島の横をゆっくりと通りすぎ、美人メイドに大変興味を持った六原は辰野とメイドの間に割り込むように声を掛けた。
「あの、すいません」
「・・・何デスか」
 深々と頭を下げながら、ケータイを取り出した六原は叫ばずにいられなかった。
「おねぇさん。写真一枚いいですか」
「おい、マテや、コラ」
 思わず低い声で言う月島。メイドは頭を下げる六原を一瞥したあと辰野に再び視線を戻した。
「だから、もっと自分ノ使命についてどれほど重要かと言うことを頭にいれておきなサイ」
「・・・・・・え、あ、うん。次からは気をつける」
「……参ったな、無視ですよー」
 ざまぁ、と前にいる月島が小声で言う。思わずドキリとした。
——あら、意外とこの子毒舌なのかぁ。いや、別に毒舌の女性が好きと言うわけでない。何というかそういう子を見ると異性として意識してしまうだけである。
 などと自分自身に言い訳し、六原は少し悔しがりながらも相手の出方を見る。ある程度説教は終ったのかメイドは六原達と辰野の間に生まれた小さなクレータに歩み寄り剣を引き抜いた。
——あの攻撃はメイドさんだったのかよ。ということはあのメイドもかなりヤバイだろうなぁ。
 先ほどのクレーターが出来た際の攻撃を改めて思い出すと、自然と冷や汗を掻いていた。
——これで二対二。いや、正直オレは使えないから二対一かぁ。すげぇ不利じゃないかよ。

Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー (仮題) ( No.10 )
日時: 2014/03/26 02:49
名前: uda (ID: T3U4YQT3)

——この不利な状況を打開するにはどうしたものか。
 やはりオレも戦ってみようか。不思議な力でも覚醒するかもしれないし。と考えている六原の視線の先にいた辰野が刀を構え、ハッキリとした敵意をあらわにする。
「まぁ、少し場が締まらないが、俺の言いたいことは分るだろ」
 どうやら、完全に引く気もなければ話し合いもする気はないようだと察した六原は諦め真面目に語ることにした。
「魔女退治だろ」
「ええ、ソウです」
 辰野の変わりに答えたメイドは月島を見据えて言葉を続ける。
「レギオンの象徴ともいえル貴方は即刻拘束しなけれバなりまセン。拒否された場合強制的ニ連行いたしますので」
 冷静に言葉を続けるメイドに即座に月島は答えた。
「もちろん、断るよ」
 杖を構える。
「そして、ついでに君たちを倒しておこう」
「あらやだ。月島って意外とバイオレンスですなぁ」
「・・・・・・」
——やっぱり、無視は傷つくわぁ。いやいや、月島も無視することはないんじゃないのかなぁ。一応キミの味方になっているつもりなんですけどね。
「あのなぁ・・・」
 愚痴の一言でも言ってやろうとしたが月島の表情を見てやめることにした。僅かに見えた不安と緊張の混ざった真剣な表情にふざけている余裕はあまり無いようだ。
「何だ、六原」
 変わりに自分が話しかけられたと思った辰野が声をかける。だから、変わりに六原は辰野に向けて笑みを浮かべた。
——少しぐらい煽ってみようかなぁ。ここでオレの話術が炸裂だぜぃ。
「あのなぁ、こいつならお前らなんて一瞬で倒すぞ」
「そうなのか」
「何たってオレより強いんだぜ」
「・・・・・・ソレは当たり前だろう」
「六原君、少し黙っていてくれないかな」
「・・・うぃ」
——いやぁ、全然ダメだったなぁ。いつも通りで泣きそうだよ。
 少し涙目になりそうな六原を放って彼女は何かを呟きながら杖を振るった。杖は先端の宝石を発光させながらグルグルと図形を、魔法陣を描いていく。
 再び形成された幾重もの魔法陣。始めは一つだけであったそれは今や彼女の正面の周囲にも展開し、まるで壁のよう無数にも現れる。
対して辰野は剣を地面に突き刺し応える。
「いいだろう。その意思をこのオレに試してみろ。レイさんは手を出すなよ」
——おいおい、一対一でやるつもりか。畜生、カッコいいじゃないか。
 自分が有利なはずなのにフェアプレイを選ぶ辰野。 その言葉にメイドはため息を吐きつつ握っていた朱色の剣を腰に刺した鞘に収めた。
「分かりました。では、行きなサイ。わんこ、じゃないですネ、辰野様」
「最後で台無しになっただろうが!」
 まったくと小言を言いながら辰野は地面に突き刺した剣を鍵を開けるように捻った。地面をえぐるだけの動作。だが、なぜかガチャリと鍵か開く音がした後辰野は剣を引き抜くと同時に六原の視界に幻想的な風景が広がった。
——綺麗だ
 最初に思った感想は感嘆であった。
 剣先が地面から放れると同時に地面に光の線が浮かび上がる。
 地面の底から現われた光りの線は辰野の足元を生物のように這い回り一つの模様を描き出す。
 それは約1メートルほどした正六角形の奇怪な図形。

 俗にいう魔法陣が浮かび上がる。

 それは三ヶ月前に噛ませ犬のような大男をぶち飛ばした時に見た魔法陣と同じような図形であった。
「月島さん。あの魔法陣っぽいカッコいいヤツ何ですか?」
 戦闘に巻き込まれない為、月島の少し後ろに下がりつつ六原は問い掛けた。月島は辰野から視点を動かすことなく答えた。
「アレは***、嗚呼、すまない。この言語じゃ駄目だったね。アレは『疾風の陣』と呼ばれるもので、主に身体強化と風の属性を付与してくれるものだよ」
——嗚呼、なるほどね。
「・・・よく分らないけど分りましたよ。つまり、アイツが戦闘体制に入ってこれから本気で攻撃してくるってことですね」
「そういうわけだ。じゃあ、ワタシはちょっとあの騎士を倒してくるから君はその間に逃げるといい。どうせキミにはこういう戦いは不得意なのだろ」
——やっぱり、戦力外通告きましたよ。
「いや、だけど・・・」
 反射的に「違う」と六原は言いかけたが口を閉ざした。今日は話し合いだけだと思い、実際にこんなことになるとは思っていなかった。だから六原は全く準備をしていなかった。
 それに六原が戦いに参加すれば、静観しているメイドも戦いに加わるだろう。そして、今の状態で先ほど普通の人間業とは思えない剣の投擲をしたメイドの力を思い出すと勝てる気がしない。
——本当なら、こんな危機的状況で活躍する絶好の機会だ。力があるならすぐさま目の前の少女に協力してオレも活躍したい。だけど、今は完全に足手まといだよなぁ。・・・・・・畜生。
 今は、何も出来ないという歯がゆさを感じつつ。冷静に力になることが出来ないと六原は判断し、仕方なく首を立てに振った。
「・・・分った。」
——だが、諦めきれない気持ちも拭うことが出来なかった。
「けど、もう少しぐらい観客がいてもいいだろ」
 だから、あと少しだけ残っていようと思った。
「いいけど。危険と思ったらすぐに逃げるのだよ」
「まぁ、逃げられるのなら、逃げるよ」
 逃げる気など全く無い六原は吹き飛んでいたカバンを拾い上げ月島から少し離れた木々の辺りに向かう。
 同時にメイドも後は任せますと一言辰野に言うと高く跳び、近くの茂みに飛び込み姿を隠した。
——しかし、逃げてねぇ。
 月島は自分に彼を倒すと言った。
 だが、彼女は逃げろとも言った。
 もしかしたら、月島は負けると思っているんじゃないのかと六原は思っていた。
——だから、応援ぐらいはさせて欲しい。
 手も足も彼らには届かないけど、声は届かせる事が出来る。
——あれ、もしかしてオレ今カッコいいか?
 木陰で隠れながら自画自賛する六原の視線の先、湖の岸の前では二人が魔法陣と己の武器を握り締め構える。
 黒羽の周囲に浮かび上がる複数の魔法陣の先からは槍が現われる。よく見ればその槍は全て透き通った氷で出来ていた。
 突然現われた無数の槍の矛先が全て辰野に向けられる中で、辰野は落ち着いた動作で剣を腰に据え、地面と平行に構えた。
「じゃあ、行くぞ」
 小声だが、よく通る辰野の声が響き。
「嗚呼、そうだね」
 月島は短く答えた。瞬間、一直線に駆ける辰野と迎撃するように放たれた氷の槍がぶつかり合った。

Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー (仮題) ( No.11 )
日時: 2014/04/02 01:10
名前: uda (ID: T3U4YQT3)


 時間に換算すればわずか数分の出来事で、あっけなく魔女と騎士の戦いは幕を閉じる。
 少し前まで鼓膜を突き破るような爆発と剣撃の響き合う音は止み、今となってはその出来事があったとは思えない僅かな静寂が辺りを包みこんでいる。
 だが、先程までの目の前で起きていた戦いは現実である。その証拠に彼らの戦いの爪痕で辺りの木々は折られ、切り裂かれた抉られた地面の痕等が周囲に無数広がっていた。
——終わったのか。
 魔女と騎士による常識はずれの戦いは終った。
 騎士は敗者の前に近寄ると再び剣を向けて言い放つ。
「オレの、勝ちだ」
——やべぇ、
 目の前で起きた最悪の結果を只呆然と見ているだけしかできなかった六原は何ともいえないもどかしさに駆られていた。
——何の活躍も無く終ったじゃないかよぉ。マズイ、マズイって!何か、何かオレにできることは無いか。
 それにこのままだと近くで倒れている月島は捕まってしまう。彼女を助けようと思う六原はまず友人を止めようと思い、傍に駆け寄ろうとした。
「待って、オレが混ざってないからもう一回リトライで!!」

「・・・ストップ」

 いきなり、首筋に冷たい感触がした。
 瞬時に、頭の中で長年の経験がヤバイ、ヤバイという警告がささやき、体が石になったようにピタリと反射的に固まってしまう。
「・・・少シ黙りなサイ」
 背後からメイドの声がする。同時に首筋に冷たい感触をもう一度感じた。
——いつの間に。
 そこでようやくメイドが六原の背後に回わり、首筋に刃物を当てられていることに気付いた。
——まずいなぁ。どうしようかなぁ。
 何故か首筋やこめかみに武器を当てられることには少しばかり慣れがある六原の頭は意外と冷静であった。
 とりあえず抵抗してみるかと体に力を入れようとしたが、刃が首にめり込むスレスレまで押し込まれるという結果に終わってしまう。
「・・・・・・うへぇ」
——うん。無理。こりゃダメだ。
 素直に諦め、大人しく両手を挙げてみるが、首筋の刃は一向に緩む気配がなく、六原はその場に拘束された。
——嗚呼、畜生。まったく、どうしようぉ。
 少し弱気になりながらも、六原はあきらめず思考する。目線の先では辰野が身動きの出来ない六原を一瞥すると、剣の先端を月島に向け再び声を掛けていた。
「よう、まだ生きているか」
「これでも丈夫なのでね」
 月島が面を上げる。体を起こせず、仰向けに寝転がると頭上で話す辰野に何でもないように答えた。
——大丈夫なのか?
 六原は月島を観察した。あれだけ派手に吹っ飛んで意識があることには安心した。見た限りでも制服が微かに焦げ、土まみれになっているが月島に目立った外傷は特に無い。
 だが、疲労と傍から見えないところにダメージが蓄積しているのか、呼吸は荒く、一向に立ち上がろうとしなかった。
 辰野も月島がしばらく動けないと思っているのか拘束やトドメを刺さずに語りかけた。
「意識はあるのか」
「見て分らないのかい」
「そうか。なら、敗北を認め、我が王国に投降してもらおう」
「いやだと言ったら、どうするつもり」
 問いに辰野は刀を上段に大きく構え、答える。
「手足を斬ってでも無理矢理連れていく」
 冗談を言っている雰囲気ではない辰野に六原はつい横槍を入れた。
「おいおい、女の子を力ずくでは無いだろうが。」
「・・・黙りなサイ」
「・・・へい」
 しかし、メイドの一言によりこれ以上何も言えなくなった。
 月島はそうかと短く言うと辰野の攻撃によって折れた杖を握る。彼女の杖の先端の赤い宝石は最早光を放つことなく深く淀んでいた。
 辰野は抵抗しようとする月島に不思議そうに尋ねた。
「折られた杖にはもう力が無いだろうが。」
「・・・・・・」
「魔法でも使おうとするなら暴走するのがオチだぞ」
 質問に応えることなく魔女は宝石がついた杖を撫でる。
「ふふ」
そして、うっすらと微笑んだ。
 何でこんなときに余裕のような笑みなのかと六原は疑問に思うが、首筋に時折触れる刃物感触で落ちつかず、考えがまとまらない。
「こんなか弱い女性に対して手を上げるなんて騎士として恥ずかしくないのかい」
 上目使いでどこか妖艶な雰囲気を醸し出す魔女のセリフ。うわぁ、エロいっすね。と思う六原とは対照的に騎士は怯まない。
「か弱い女性が上級魔法の連発なんてしないだろうが」
 魔女は再び、もはや魔法を使うことが出来ない杖を撫でる。真紅の宝石は深い沼を連想させるように未だ濁っていた。
——何をするつもりだよ。
「・・・・・・まさカ」
息を呑む音が六原の後ろから、メイドから聞こえた。

「タツノ!!」

 メイドは魔女が何をしようとしているのか悟り、阻止する為に辰野に叫ぶ。
「その杖を奪い取りなサイ!!」
「え・・・おう」
 叫ぶメイドが何を言いたいのか分らなかく、一瞬迷ったが、それでも辰野はそのまま剣を振り下ろした。
 だが、その一瞬は魔女にとっては十分な時間であった

「全く女性に手を上げるなんて」

 彼女は宝石のついたほうの杖を頭上に放り投げる。
 そして、目を瞑り、迫る剣に気にせず言葉を続けた。

「魔女の罰が当たっても知らないよ。」

 ゆっくりと放った杖は振り下ろす辰野の剣に触れる前に全体にヒビが入り、砕けたガラスのような音がした。ピタリと辰野の体が止まった。
 同時に月島はその場から転がり退避する。
 辰野は月島が何をしたのかようやく気付き、叫ぶ。
「自爆か!?」
——何ソレ!?
 ひび割れた杖は最後の力を振り絞ってかけられていた自爆魔法を発動した。杖はまるで風船が割れるように軽快な音を鳴らす。同時に中から、膨大な煙と光が衝撃と共に溢れ出し、周囲を巻き込んだ。
「がぁぁ!」
 カウンター気味に入った爆発を辰野は後ろに大きく跳ぶことによって回避した。しかし、大量の光はまともに浴びてしまい、悲鳴を上げながら顔を片手で押さえ苦しむ。
「さよならだね」
 小さく月島は呟くと地面に寝ていた体勢から素早く起き上がると、後ろに飛び距離を取る。
 すかさず月島は残った片割れの杖を地面に突き刺した。地面に刺さる先端から無数の線が溢れ出し、結合し、重なり合い、様々な魔法陣が浮かび上がる。メイドは魔法陣の設置された場所を見ようとした。だが、魔法陣の位置や形を確認できる前に周囲は爆発で巻かれた白い煙に包まれた。

Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー (仮題) ( No.12 )
日時: 2014/03/28 13:30
名前: uda (ID: T3U4YQT3)

「おいおい、マジか!?」
 自爆魔法で生じた爆煙は近くにいた六原と月島、メイドを瞬く間に巻き込む。
 奪われた視界の中で再び正面ではかすかな発光や爆発が聞こえる。
「チッ・・・」
 白く染まる景色の中でメイドの舌打ちが聞こえる。すると、首に宛がわれていたナイフの感触が無くなった。
 不思議に思い。振り返ると目の前に先ほど月島の魔法で見た黒い腕の形をしたような物が地面から生えていた。触ってみようとしたが黒い手は一瞬で飛沫のようにはじけ飛ぶと消えうせる。
 いきなりの出来ごとに六原は少し動揺した。だが、すぐに自分が気に掛けることは別のことであると思い出し声を上げる。
「って、おい。月島さんどこだ!!」
 以外にも返事はすぐ傍で聞こえた。
「耳元で騒がないでくれないか。驚くじゃないか」
「うわっ!」
 右からいきなり何事も無かったように現れた月島にむしろ驚いたのはこっちじゃ。とツッコミをしようとしたが、それよりも早くいきなり腕をつかまれる。
「さて、逃げるよ」
 右手には真っ二つに折れた杖の片割れを握っていた月島は片膝を地面に着き、そのまま足元に杖が突き刺した。
 僅かにめり込ませた箇所が小さく赤色に発光する。赤い光は地面をなぞる様に奔り一つの円の描いた後、円の内側に滲みこむように赤い線で図形を描き、一つの魔法陣を完成させる。
「これは・・・」
「転移魔法ってやつさ」
 六原は疑問に思った。
「あれ、辰野が折れた杖は使えないっていってなかったかな」
——何か、さっきからバンバンぶっ放しているけど。
「そうだね、普通ならそうだけど。私の杖は特殊でね。バラバラになっても使えるのだよ」
「すげぇな」
「感心するのは構わないけど、私の腕を握っていてくれないかな。杖が折れているから触れていないと一緒に転移できない」
 六原の腕を離し、月島は白く染まる視界を見渡すと、淡々と言い放つ。
「さて、後、15秒ほど掛かるからそこが勝負かな」
「勝負?」
 疑問はすぐに解決する。

「待ちやがれ!!」

「……なるほど」
 怒鳴るような大声。
——つまり勝負とは無事に逃げられるかどうかの勝負ところかぁ。
 六原の正面から緑の魔法陣と共に剣を握り締め、戦いによりボロボロの制服になった辰野が突っ込んできた。その片足からは血が流れ落ちている。
「さて最後まで気が抜けないね」
 迫る辰野に向かい突き刺した杖を抜くと先端を辰野向け円を描き。魔法陣を発動させた。六原は言われたとおりに月島の腕を軽く掴むと残りの時間をゆっくりと数えた。
 
 残り10秒
 六原と辰野の間に火柱が現れ、辰野の行く手を阻む。

 残り9秒
 火柱は辰野の左手による魔法陣で防がれる。が、防御した為僅かに速度が落ちた。

 残り8秒
 続けざまに辰野の前後左右から黒い腕が現れ辰野の動きを防ごうと襲い掛かる。

 残り7秒
 辰野はまだ傷ついていない片足を軸に回転し、剣と魔法陣で四方から来る腕を打ち払う。しかし、そこで完全に動きが止まってしまった。

 残り6秒
 辰野は足元の魔法陣の向きを変更。瞬間、壁のように背後に現れる魔法陣を蹴り飛ばし突っ込む。

 残り5秒
 辰野は一直線に弾丸のように迫ろうとした。


 だが、それは叶わなかった。


 辰野の目の前に槍のようなものが放たれた。反射的に叩き落した瞬間、自分が何を斬ったのか理解した。
「・・・・・・ボンってね」
 槍のようなものは杖の片割れであった。
「しまッ」
 気が付いたときには杖は自爆し、今度はカメラのフラッシュのような鋭い光と爆発に、辰野は視界をやられ、バランスを崩し地面に倒れる。
 残り4秒
——何とかなったか。
 六原は緊張が解ける。
 瞬間。
 何かが視界の端を横切り、とすりというを音が耳に入った気がした。
「っ・・・」
 一拍の間のあと六原の耳に小さなうめき声が聞こえる。
 同時に月島の肩を掴んでいた右手が引っ張られた。隣を見れば先ほど杖を投げた月島が右手の甲を抑えうずくまっていた。
——そんな訳なかったじゃねぇか。
 
 月島の右手には一本のナイフが深々と刺さっていた。
 
 おそらく、メイドが投げ放ったものだと分かる前に、
「伏せろ」
 六原は反射的に月島を抱きしめ地面に押し倒した。
「大胆だね、キミは。離してくれないか」
 少しぐらい照れて欲しい、何も反応してくれないのは少し男としてへこむが六原は離す事無く月島に笑いながら言った。
「少しぐらい格好付けさしてくれぃ」
——だってさぁ、こんなときにあまりにも何も出来ない自分が許せない。さっきからアレ?オレ何もして無くないか?といういかにも役立たずな脇役のような立ち位置をさせられていたのだ。これぐらいはさせて欲しい。
 
 残り1秒

「やめて」
 かすれた声がした。だが、次に身に起きた痛みと熱で聞こえた言葉は吹き飛ぶ。
 冷たい感触が体に入り込んでくる感覚が腕、背中、ふとももに感じ、次の瞬間には煮え湯をかけられたように熱さが込みあげる。
——嗚呼、これが刺されるって感触か。・・・・・・感想は、そうだねぇ。
「イッテェエエエエ!!」
 六原は低い叫び声を上げた。
 電気でも流されたかのような痛みにより、視界がぶれる。
 途切れ途切れの意識の中で六原が見たのは紅い陽炎。
 それは地面に描かれた魔法陣が発動の為赤い光が強く放っていたからであった。
 赤い光りは一際強く輝き、転移魔法は発動される。不意に体が浮くような感覚が起きた後、六原は強い痛みに耐え切れず意識を失った。
——嗚呼、畜生。

Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー (仮題) ( No.13 )
日時: 2014/04/05 22:34
名前: uda (ID: T3U4YQT3)

*騎士とメイドの物語 04*

——また駄目なのか。一生懸命やっているのに。けど、相変わらず、暴力は怖いし、討論でも相手に意見を譲っちゃう。けど、頑張りたい。だって、憧れているから。それに少なくとも救われたいと言ってくれた少女がいるから。嗚呼、とにかく強くなりたい。
 先ほどまで閉じていた目蓋がゆっくりと開き目の前に見たことも無い白い壁が現れた。
——あれ?ここはどこだろう。
 目の前の状況が分からず、おぼろげな意識がはっきりとしていく。
——嗚呼、少なくともオレの部屋じゃないな。
 ようやく目の前の壁が部屋の天井だと分った。そして、六原は見知らぬベッドに寝かされ、先ほどまで意識が無かったという状況を理解した。
 首を動かし周囲を見渡す。部屋の広さは約六畳。六原の部屋と比べるとあまり変わらない大きさだが、なぜか広く感じた。それはベッドやデスク、クローゼットといった家具はあるが、何故かあまり小物類は置かれておらず少し生活感の無いように見えているからなのかもしれない。
 知らぬ間にどこか分からないところに連れて行かれていた状況に不安と疑問が浮かび上がる。
——まぁ、いいかなぁ。とりあえず、ゴロゴロしておきましょうかねぇ。……って、いやいや、駄目だろ。
 再び閉じかける瞼を無理やり開ける。
——何かソレって格好良くないからさ。テンション上げていこうやぁ。
 未だ寝起きの頭に気だるさと睡魔が同時に襲いかかってきている六原はベッドの上で深呼吸し、気持ちを落ち着かせたあと一気にテンションを上げた。
——やべぇ、いきなり目が覚めたら見知らぬ天井って主人公っぽくてカッコいいなぁ。うん、よし、オーケー。いつもの自分だ。さぁ、起きようじゃないか。
「・・・って、あらぁ?」
 調子も取り戻したところで六原は自分の体の違和感にようやく気が付く。
 体を起こそうとしたのだが、力が入らない。
 無理やり動かそうとすれば体全身がしびれて動けないような感覚である。それでも無理矢理動かそうと、右腕を支えにして起き上がろうとした。
 しかし、腕からは鋭い痛みが奔り、支えていた腕は崩れ、そのまま、ベッドに倒れ込んだ。
「イッテー」
 両肩がずきずきと痛むが倒れこんだ拍子に背中と片足からも痛みが響いてくる。おかげで未だ重かった目蓋が一気に覚め、視界がはれる。
——やっぱりイテェ。
 腕の激痛のお陰か、意識を失う前の自分の状況を思い出し。この痛みにも納得する。
——すっかり忘れていた。刺されたんだっけなぁ。
 気絶する前の出来事を思い出し、今更ながら背筋が寒くなった。
 知りたくもないのに痛む場所がナイフの刺さった箇所を教えてくれる。左腕、右ふくらはぎ、背中に2箇所、あと太ももの上、
——ケツかぁ。もうチョット左にずれていたら色々とやばかったな。主にアッー!!ッていう感じになりそうで。
 一歩間違えれば命を落としていた子も知れない危険な状況であったが、慣れているので飛び出した事に関してはそこまで悪い気はしない。むしろ、六原としては少しズ文が誇らしかった。
——しかし、改めて考えるとよく無事だったな。まぁ、女の子のピンチに体を呈して守るオレ。少し格好よかったと思うから別に後悔はしてないけどねぇ。つーか、なんだ。この格好。
 動ける場所だけを動かし六原は自分の格好を見れば、見覚えの無いジャージを着させられていた。痛みのない左腕を使いポケット等を探してみるが、入れておいたはずのケータイや財布が無くなっている。そして、体の感触と襟首と服の間から見るにナイフの刺さっていた箇所は六原が気絶している間に治療してくれていたようで、がっちりと包帯が撒かれていた。
 身動きが取れない状況の中、外の様子を知りたい為、寝転ぶベッドの近くの窓ガラスに視線を向ける。
窓からはカーテン越しに紅色の日差しが差し込んでいた。
——朝焼け、いや夕焼けか。
 肌寒さ等が特に無い事から夕焼けだと判断し辺りを見渡すと壁に掛かっている時計から十七時半だということが分かった。
——あれ、けどその時間帯って丁度月島と泉であっていた時間じゃなかったか。
 どういうことだと思いながら六原はもう一度ベッドから上体を起こし始める。
 覚悟していた鋭い痛みが体を動かすたびに奔る。
ある程度は我慢して動かしたが、やはり体が思うように動かずに起き上がる前に再び姿勢が崩れ、体はベッドに再び倒れこむ。
——こりゃ、駄目だぁ。マジで動けない。
 ため息をつくと六原は体を動かすことを諦めた。
途端にすることがなくなったので、とりあえず、体を休めておこう。悪いようにはされないはずだと思い。目を瞑った。
 重たい目蓋は今ではすっかりと覚めてしまったがこうしてジタバタしていても体力を無駄にするだけだと重い大人しくしておく。
 外からの雑音入らず静まり返る部屋の中で壁にかけてある時計の秒針の音が響く。
 どれぐらいそうしていたのかは分からないが、少しずつ体の力が抜け始めた六腹の耳に部屋の外からだろう断続的に響く低い音が聞こえた。
 音は少しずつ大きくなるにつれてそれが足音だと分かった。
——誰か来るのか?なら、寝ていられないな。まったく、せっかく一休みしようと思ったのになぁ。
 敵かも分からないこの状況で寝ていられず。六原は痛みを堪えながら上半身を起こす。少しふらふらするが、ナイフの刺さっていない方の手をベッドに置き支えることで姿勢を保った。同時に足を組みドアのほうに顔を向ける。
 体の満足に動かせない六原なりの警戒であった、
 どや、カッコいいだろう。などと必死になって余裕ぶっている体勢を整えるとそろそろ来るだろう人物を待つ。
 足音は近くまで迫ったかと思うと、部屋のドアノブが動いた。
 扉が開き、ゆっくりと現れた少女は六原が格好付けておきているのを見ても表情を変えず、少女の姿を確認しホッとしている六原に声を掛けた。
「なんだい。起きていたのかい」
 目の前の少女、月島は六原が起きていることに対して特に驚くことも無く。部屋に入った。最後に見たボロボロの制服姿と違い。白いカーディガンに黒のロングスカートと言った落ち着いた服装になっていた。
 訪れた人物が知り合いで良かったが、身を挺して庇ったのにあまり心配していなかったように感じる月島の口調に少し納得がいかなかった。
 六原は無理して格好つけていた体勢を解き、だらりと力なく上半身だけ起き上がらせた姿で月島に話しかけた。
「いや、もう少し、なんか反応があってもよくないかな」
「体は大丈夫?」
——うん、合っているけど、オレが求めていたものとは少し違う、もっとこう、涙目になりながら、「バカ。心配したんだから!!」って言われてぇな。
 思ったことを言った所でドン引きだとは理解しているので六原は黙っておくことにしておいた。まぁ、見ての通りだよ。と袖をまくり包帯に包まれた箇所を見せる。
 月島は短くそうかと言うとデスクの近くにあった椅子に腰掛こちらに向き直った。
「そういう、月島さんは大丈夫か?」
「何のことだい」
「ナイフが腕に刺さっただろ、それに、あの戦闘のダメージもあったじゃないか」
「嗚呼、その事か。私は大丈夫だよ」
 自分の身に関しての話題なのに対して、興味も無いようにあっさりと答える月島。しかしカーディガンの袖でよく見えなかったがその右手の甲には真新しい絆創膏が巻かれていた
——あれ。ちょっと待て。確か、ナイフが深く刺さっていたよな。それにもっと全身傷だらけだったと思うけど。何でこんなに傷がないんだよ。
 おかしいなと思いながら見る六原の視線に気付き月島は薄く微笑む。
「あの程度なら回復魔法で何とかなるから」
——便利だなぁ。回復魔法。
「まぁ、少し傷痕は残るのだけどね」
 言いながら右手の甲を見せるようにヒラヒラさせる月島。そこで、六腹の中で一つ疑問が浮かんだ。
「けど、それならオレにも回復魔法かけてくれないのですか。」
「嗚呼、それはね」
 一度言葉を切る。そして、なぜか言いにくそうに目を逸らしながら月島は答えた。
「かけようとはしたのだけどね。キミには魔法に対する適応、いや才能がなかったのかな。あまり効果をはっきしないのだよ」
「……そうか」
 まぁ、杖があれば話は別だったのだけどねと付け加える月島の言葉は六原の耳には残らなかった。


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