複雑・ファジー小説
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- 脇役謳歌〜できそこないヒーロー【一話完結】
- 日時: 2014/04/02 03:14
- 名前: uda (ID: T3U4YQT3)
はじめまして、初投稿ということで右も左もわからないまま現状です。
一応長編を書いていきたいのですが。このような投降でよかったのかと不安です。
完結はさせるつもりですのでよろしくお願いします。
(はじめに)
・脇役が主役なれないのかという矛盾な事を考えて、気が付けば執筆していました。てにおはや誤字脱字などが酷いですが完結し次第修正を加えさせてもらいます。
・登場人物ですが主人公は結構中二病全開の痛い子ですが、隠された特別な力はありません。ましてやハーレムになることもありません。
脇役みたいなヤツなので仕方がないと暖かい目で見てください。
・タイトルはご覧の通りですが各章のサブタイトルも今書いている話が終りましたのでそのシーンが修正され次第、書かせて頂きます。
<一言メモ>
前タイトルはできそこないヒーロー(仮題)ですが、一応完結した為、脇役謳歌(できそこないヒーロー)にしています。ご迷惑かけるかもしれませんがよろしくお願いします。
只今、添削や誤字脱字を修正中です。何かありましたら,よろしければコメント等、ご指導してもらえるとたすかります。
オープニング >>001
・騎士とメイドの物語。
1 告白か果たし状か? >>002-003
2 泉の前で >>004-007
3 騎士は正々堂々と決闘をする >>008-010 >>011-012
4 これが憧れの同棲生活 >>013-016
4.5 喫茶店で打ち合わせ >>017
5 鍋最高 >>018-020 >>022-024
6 魔女の踊り場 >>025-028
6.5 レギオン >>029-030
7 どうすっかなぁ >>031-34 >>037
8 無駄な抵抗 >>038-040
9 脇役の後悔 >>041-045
10 そして彼は舞い降りる >>046-049
11 覚醒できたらいいよね >>050-056
12 ヒーローは登場する >>057-058
エピローグ >>059>>061>>062>>063>>064
- Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー ( No.55 )
- 日時: 2014/05/25 00:11
- 名前: uda (ID: .Gl5yjBY)
——嗚呼、暗い。
何も見えない視界の中、ゆっくりと光りが差し込む。木々の燃える焦げ臭さと血の独特の鉄のような臭いが鼻を刺激し、うっすらと目蓋が開いた。
——ここ数日気絶回数が多いよねぇ。
さて、どこだろうと考える前に鋭い痛みが走り、小さく痙攣すると同時に六原は勢い良く目が覚めた。
痛みですっかりと覚めた視界には体中から細長い氷の棒が生えていた。
——そうだった。オレは串刺しにされたのか。
身体から生えるようにある幾つもの棒状のものは月島が放った魔法、無数の槍の柄であった。
その見るだけで痛実や吐き気が強くなる光景に何故意識が飛んでいたのかを思い出す。数多くの魔法に右腕だけオートである六原は迎撃が間に合わず、槍が何度も体を刺し、そして刺された痛みに意識が耐えられず、ショックで意識を手放したのであった。
もはや何度目かも忘れるほどの襲いかかる激痛に涙目になりながら六原は低く呻いた。
——もう、全く幾らほぼ死なない体になったからって殺す気で来ないでほしいですよねぇ。
立ち上がることも出来ず、身体は蹲ったまま動くことも出来ない。
月島が打ち出した数々の魔法の中で槍の形をした魔法、六原の右腕だけでは打ち払うことが出来なかった様々な炎や雷、氷を帯びた不思議な槍が足首、肩、腹部を貫通し地面に刺さっているからだ。
——しかし、それでこいつが救えるなら望むところだよな。うん、そう思うとテンションが上がってくるわぁ。
一人気分を盛り上げる六原はもう一度動き出す為、首輪に静かに語りかけた。
——ウロさんお願いしますよ。
(はい、分かりました。)
痛みに構わず右手が勝手に動き、体に刺さる槍を全て抜き取る。激痛で視界が激しく歪む中、最早見慣れた光景となったように引き抜いた箇所から血が吹き出す。
全ての槍を引き抜くと六原は未だ流れる血を気にすることなく、前を見つめる。首輪の効果で吹き出した血は勝手に止まり、血を出しすぎた為にショックで閉じようとした視界と思考は急速にハッキリとしてくるようになる。
(では傷もふさがった事ですし、もう一度行きましょう。)
——おう。逝ってくるかなぁ。それにこういう痛みにも何か慣れてきました。
(どMの世界が開いてきましたね。)
——ハハハ、否定できないですわぁ。
首輪の力で傷が瞬く間に回復した六原は前を見る。やることは単純、月島の攻撃をかいくぐり彼女に触れることが出来れば、勝ちというルール。
——どうしてこんなルールになったのかは深く考える時間もないのでその場のノリということにしておこう。
目の前にはまるで彼女の前に壁になるように現れる無数の魔法陣が浮かんでいた。
——さっきのレギオンって奴らと比べ物にならないよな。
そんな力があるなら、ワーを助けて逃げられたはずなのに、いや、逃げなかったということはやっぱり救われたくなくなったんだなぁ。と六原は思案しつつ、全力で駆け出した。。
同時に魔法陣から現れた無数の弾丸が六原に向かって降り注ぐ。
「二度目はさすがに・・・ッネ!!」
素早く右に跳ぶ、弾丸となった魔法はすぐさま六原の跳んだ場所に狙いを修正する。そして、コレは先ほど気絶する前と同じ展開であった。
先ほども、途中まで打ち出された無数の攻撃魔法をかいくぐっていたが、彼女に辿り着く前に力尽きてしまったわけである。
——対策は考えた。ウロさん!!
(気絶しないで下さいよ。))
今度はそうは行かないと決め、身体が宙に浮かびそのまま着地する。その際に真っ先に右手を地面に付けた。首輪の力で強化された右手は五本の指先を地面にめり込ませ全体重を支え、六原の体を一瞬だけその場で制止させる。
瞬間、六原は叫び右腕に力を込めるのように促した。
「そぉぉりゃ!!」
自分とは思えない右腕は地面に押し当てられ、六原の体に反動が与えられる。
そして、まるでバネのように反対側に勢い良く吹き飛んだのであった。
全体重が右腕に掛かった瞬間にボキリという骨の折れた音がしたが首輪の力ですぐに再生した。
魔法で形成された弾丸は急激な方向転換に付いて行けず、六原に当たることなく、地面に雪崩落ちていった。
それは箒で使用した方向転換の応用であった。
魔法の弾丸とは反対方向の空中に飛んだ六原は着地の瞬間に右拳を地面に叩きつけるようにめり込ませ、スピードを落とすことで素早く着地をすると同時に再び前に走りだす。
続けざまにもう一度今度は氷の針が襲いかかるが先ほどと同じ方法で回避すると、月島に距離をつめる。
その距離およそ10メートル。最早目の前には魔法陣の壁しかない。
「六原パンチ!!」
(必殺技のつもりですか?)
壁に向かい、握り締められた右拳がぶつかった。
ガラスが割れる音がし、目の前の魔法陣にヒビが入り、あっさり砕けた¥る。
「よう。来たぞ」
いつもの調子で軽い笑みを浮かべ、砕いた魔法陣の間からようやく見えた月島に挨拶をする。
月島は無表情のままであった。その両手には何時の間に拾ったのか先ほどの戦いで六原が倒した魔法使いの杖を両手で構えていた。
——あれぇ?
そして、六原の目の前に紅く燃える炎が現れる。
今まで魔法陣で見えなかったが彼女の両手に握られた杖の先端は激しく燃え、炎の刃を形成していた。まるで、いつでも六原この場所に来てもいいように、待ち構えていたかのように……
この状況。六原の頭に嫌な考えが巡った。先程壊した大きな魔法陣。あれは防御するためではなく、視界を覆うためのものだったとしたら。
六原は独り言のようにつぶやいた。
「これは罠か」
(罠です。)
- Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー ( No.56 )
- 日時: 2014/05/25 04:54
- 名前: uda (ID: .Gl5yjBY)
「・・・・・・」
月島は躊躇なく、炎の刃が振う。避けられないと思った六原は左から迫る炎の刃を右腕で咄嗟に受け止めた。腕に巻いた札の力により、横からは勢い良く迫った炎を纏った刃は防ぐことは出来たが、衝撃は抑えることが出来ずに気が付いた時には六原の身体は宙に浮かされていた。
「グッ!?」
呻きながらそのまま横にふっ飛ばされると思った。
ジャラリと言う音がした。瞬間、右足に衝撃とバキリと音がし、六原の体は急に制止する。
「……!?」
無理矢理、右足に鎖をからめられ、空中で制止した為に折れた右足の痛みで目の前がチカチカしながら頭の中では警報が鳴り響いていた。
——やばい、やばいぞ。
無数の金属音が耳に通る。
何をされるのか分かったが、対応を考えるよりも速く、虚空の魔法陣から放たれた鎖が六原の体に巻きついた。
そのまま地面に叩きつけられたときには簀巻きのような姿になり、右腕も念入りに絡まれ、身体を少しも動かすことが出来なかった。
「・・・・・・」
無言でいる月島の両手に握られた炎の刃を形成していた杖は彼女の魔力に耐えられず、黒い墨と、灰になり崩れ落ちる。
代わりに、いつの間にか月島の右腕には只の木の棒にしか見えないような物を持っていた。先ほどから持っていた木の枝のような何か。何となくそれが何なのか六原には想像がついた。
「それって、もしかして辰野に壊された杖の一部か」
そこでようやく、月島は口を開く。
「ああ、そうだよ」
「杖のカケラでも魔法って使えるものなんだなぁ」
「とは言っても難しい魔法は使えないけどね」
難しい魔法というものが六原にはどういうものか分からないが先ほど針沼が長い時間をかけて使った魔法のようなものなのだろう。
「それで、六原さんの負けでいいのかな」
近づかずに問う月島に六原は簀巻き姿のまま考える。
何か出来ないのかと、だが、何か良い案も浮かぶことはなかった。
——嗚呼、確かにもうオレの力じゃこんなものか。彼女に何かを語りかけ、訴えたところで、先ほどからほぼ無言である少女の口を割らせること等もできない。ようするにこれがオレの限界ってトコロだ。
どんなに強く思ったところで、無理なものは無理なのである。
六原は考えを纏め上げ、そして、平然とした顔で言った。
「いやいや、何言っているんですか」
確かに全身が鎖で巻きつかれて動くことも出来ない六原であったが、一応出来る事はまだあった。
しかし、それはできればというより、死んでも使いたくなかったと思っていたこと。
——姉の力なんてなくても彼女と一対一なら勝てると思ったけどねぇ。
結局、姉頼みである自分が嫌になり一度小さく溜息をつくと六原は首輪に設定されている命令を送った。。
——ウロさん、札全部でお願いしますよ。
(全部ですか?弾け飛びますけど大丈夫ですか。)
——ええ。後その後にもう一度「オート」お願いしますよ。
(次はもう・・・)
無理なことは分かっているし、使えばどうなるかは分かっている。
ソレを理解しながらも六原は首輪に言い聞かせた。
——手段があるなら自分の命を懸けてでも使うのがヒーローってやつなんです。
(……使えても一分ほどですよ。)
——分かっています。だから、お願いします。
(分かりました。では、逝きます。)
これから来るであろう衝撃に耐える為、歯を食いしばった。同時に右腕に巻かれた札が光を放ち始めた。
「まさか……」
月島の目が札に注がれる。どうやら、彼女は六原の魔力の流れが見えているようであった。
——だけど、気付いた所で遅いよど。
魔力を体内に吸収する効果を持つ札に向ってウロさんが逆に札に魔力を送る。
六原は歯を食いしばった。札の光はさらに輝きを増す。
札は少しは魔力を吸収できるが許容量というものが存在していた。元々、札は首輪に魔力を供給するようにしてあったからだ。しかし、今、首輪の意思により溜められた大量の魔力が札内に逆流された。そして、結果として札は魔力に耐え切れず、
——耐えてくださいよ!!
爆発する。
「っ!?」
突如起きた爆風に左腕で顔を隠す月島を余所に、大きな破裂音と魔力が爆発した衝撃が右腕を襲い。鎖は弾け跳ぶが、札を巻き付けていた右腕は爆発に耐え切れず、跡形もなく弾け跳んだ。
爆発の勢いで体が横に吹っ飛ばされ、視界が勢い良く回転する。そして、ようやく、目の前が落ち着いた頃には全身の力が抜け、「オート」となった体はゆっくりと立ち上がった。
(では、副作用で貴方の体の回復力と極度の低下と私の使用は今後一切禁止になりますので・・・)
事務的に語りかける首輪の声に了承をしながら、六原は思う。
——嗚呼、出来る事ならしたくなかった。
「ハハハ」
痛みを紛らわす為に乾いた笑いを上げが、悔しさは紛れる事はない。
——自分の力で、助けたいなんてまだ思っていた。
だけど、何を言ったところで彼女には届かなかった。
力を少し借りたぐらいでも彼女に近づくことすら出来ない。
——嗚呼、畜生。
立ち上がり前を見ると、驚いた表情の月島がいた。
お前もそんな顔するんだなと少し意外であったが、まぁ、いきなり自爆して右腕を吹き飛ばしたら普通は驚くのかなぁと思いながら右腕を見る。爆発で焼け焦げたのか右腕から吹き出していた大量の血はほぼ止まっていた。
右腕はもうないはずなのになぜか指先が痛む不思議な感覚を覚えながらおぼつかない足取りで月島の元へと歩く。。
「多分さ、今の僕じゃあ。お前を救えないんだと思うわ。」
放たれる氷の槍を蹴り飛ばす。
「今は弱くてさ、僕のセリフもお前には届かないけど・・・」
「・・・・・・」
月島は何も答えない。容赦なく次の雷を帯びた鞭が迫る。
「正直、君を救う案の詳細もまだ決めれてないけど・・・」
両足を器用に使い、鞭を蹴り飛ばし、踏みつけ、叩き落す。触れるだけでなくかすれるだけで電流が体中に流れ込むが、点滅する視界の中では今まで気が付かない間に不審に消えた友人たちの顔が見えた気がした。
「絶対救うから」
月島が描く魔法陣の目の前に来る。魔法陣の先端から、六原を覆うような鎖の束が銃弾のように回転し六原の体を抉り取る。
「がぁ!?」
至近距離から放たれた鎖は避けることができず、六原の体にめり込む。小さな悲鳴を上げたが、唇を噛みしめ、六原は堪え、語り続ける。
「だからさ」
六原は鎖に貫かれた状態のまま前に歩みだした。鎖は傷口を広くし。六原の足元の血の水溜りをさらに深くさせる。
——前に、ただ前に。
ゆっくりと前に進み、目の前の魔法陣の壁を蹴り上げる。
ズドンと周囲に反響するような音がする。
「あ・・・」
小さな声が目の前からした。集中が切れたのか魔方陣は効果を表す前に四散していく。最早痛みは麻痺し出血が多すぎて視界が揺れる中、六原は彼女に声をかけ続ける。
「・・・だから」
手を伸ばす。鎖が邪魔で届きそうになかったがそれでも前に体が動き、痛みと傷口を開くことを引き換えに前に出る。
「お前は・・・」
だが、届かせたい言葉を言う前に体が鎖から開放され、ゆっくりと六原は前のめりに倒れこんでいった。
(「オート」、身体強化、完全に停止。残りの魔力を使い回復を進行します。)
首輪の声が頭の中に鳴り響きながら、六原は月島を押し倒すような形で倒れこみかけたが、彼女を押し倒すのには距離がなく。
六原は月島の目の前でそのまま倒れた。
「六原さん」
「ぜぇ、ぜぇ…おま、え、は」
近づき屈み込む月島に、六原は息も絶えながら、寝返ると小さな声で呟いた。
「もう、・・・・・・だよ」
聞き取れないほどの小さな声、実際、六原も何を言ったのか分からなかったが、伝わったのか暗くなっていく視界の中で月島はなぜか泣きそうな顔になっているようであった。
涙をぬぐってやろうと手を月島に伸ばすが、彼女に触れる前に、
——畜生。
視界は暗くなり、意識は途切れ。伸ばした手は力なく地面に落ちていった。
- Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー ( No.57 )
- 日時: 2014/05/29 09:45
- 名前: uda (ID: T3U4YQT3)
暗闇の中、倒れこんだ六原は少しも動く気配がなかった。
——これじゃあ。勝敗が分からないよ。
その場でぺたりと座りこむ月島は右手の感覚を確かめる。手の平には少しごつく、そして温かい六原の手が握られていた。
——もともと、負ける気もなければ、勝敗の約束も守る気もなかった。
それなのに、彼の左手が零れ落ちた時に月島はなぜかとっさに手を取っていた。
——興味がなかったのにどうして彼の手を取ったのだろう。
「・・・・・・どうしてなんだろうね」
六原に訪ねても気を失っている為答えない。代わりに蒸気のような湯気が立ち上り、六原の体に残る傷を目に見えるほどのスピードで回復していく。
月島は考える、気を失ったから彼の負けだろうか。いや、分からない。右腕を失いボロボロの状態の六原が目の前に現れた瞬間、月島はワタシの負けだと思っていた。だが、彼がワタシに触れれば勝ちということであるからソレは意味がない。
「どうすればいいの」
無論返事は返ってこない。
レギオンから逃げ続ける限り、月島は自分の親しい誰かに迷惑をかける。なら、いっそ逃げずに受け入れようとすれば彼やワーの様な者が命がけで助けに来る。
——やっぱり、ワタシは魔女だな。
人を惑わす異端の女、そこにいるだけで忌むべき存在なのか。忘れたはずの罪悪感が溢れだし、自暴自棄な考えが月島の頭の中でループする。
と、先ほどまでの月島ならきっとそんなネガティブな考えを思っていたのだろう。だが、今は心に響く痛みがそれを邪魔していた。
ずきり、ずきりと矢が刺されたような痛み。目で見る事は出来ないが確かに彼女の胸には言葉がぐさりと刺さっていた。
それは倒れる直前の六原の言葉。
——もう休んでいいのだよ。
だから、救わせてくれ。と無責任な言葉を後に付け足したような六原のセリフ。気を失う前に口にした彼のその言葉が月島の心に響いたかどうか月島自身もよく分かっていないが、体の力が僅かにゆるみ、なぜか安心してしまった。
「ねぇ、ワタシは、他者にひどい事をしてきたワタシは休んでいいのかな」
握られている手は放す気がないという意思があるかのように強く握られているのに答えは返ってこなかった。
実際、意識が朦朧としている中言ったセリフが六原自身、まだ三日程度しか会っていない少女の心の内を理解して言っていたとは到底思えない。
それでも少年が彼女を救いたいと思う気持ちは本物であった。
だが、彼女に届いたかどうかは月島自身にも分からない。自分の気持ちなのに分からなくなる。
——どうすればいいのだろうか。・・・・・・嗚呼、決まっている。
六原の右肩、腕を切り取られ辺りからは新たに右腕が形成され始めていた。
反対側の握り締めた手を見つめ月島がこれからどうするべきか答えを出し、まずは六原を病院に連れて行こうと考えた。
静かになった泉の周囲の岸辺で月島は膝を上げる。
聞こえるのは虫達や風邪のざわめきだけであった。
静寂の中、がさりと音がした。
月島の後方で茂みが揺れるその音に、立ち上がろうとした体はピタリと止まる。
「やれやれ、結局力尽きましたか。さすが姫様」
振り返れば一つの影がふらふらと現われた。
おぼつかない足取りで茂みの中から現われたのは針沼であった。六原に殴られる際に杖を盾にしたのか、真っ二つに折れた杖を両手で片方ずつ握締めていた。
「無事で何よりです」
吹き飛ばされてから地面を転がったのか顔は土で汚れ、数か所の擦り傷がみえる。
「姫様が倒されたのですか。いや、さすがです」
ボロボロのくせにまだ余裕があるように振舞う針沼は宝石の付いた先端を泉に向け、扉のような形をした魔法陣を描く。それは異世界に行く魔法を使うための最終工程であった。
「さて、邪魔ものも消えましたので何とか間に合いましたか」
針沼は杖を前に突き出す、同時に完成された魔法陣はゆっくりと前に飛び、泉の水面に浮かぶように張り付いた。
月光に照らされた泉が一面に青く光り輝く。
光は瞬く間に消滅した時には魔法陣は水面にはなく、代わり魔法陣と同じような形をした鉄の扉が現われていた。
「時間もありませんので、速やかに戻りましょう」
水面に浮かぶ奇妙な鉄の扉がゆっくりと動き始める。
重々しく開いた扉の先は泉の水面ではなかった。そこには青白い光りが覆われており先を見ることができなかった。
だが、その扉の光景こそが月島が無事に元の世界に戻る為の準備が完了したことを月島に伝えている。
「部下は後で回収いたしますので、急ぎましょう」
近づき手を差し出す針沼。
——ごめん。
衣服は汚れ、未だ六原とのダメージが残っている針沼。彼も月島をレギオンの元に戻すために命がけなのだ。針沼がどんな思いでレギオンに参加しているのか分からないが、少なくとも今回の針沼に対しての行動を月島は裏切る。
——ごめん。
答えはもう決まってた。だから、一度心の中で謝ると月島は塞いでいた口を開いた。
「すまない。私は戻らない」
手を差しだそうとした針沼の体が、石になったように固まる。
突然の言葉に針沼は少し驚いたが、すぐさまメガネの縁を指先で整えながら鋭い目つきで言い返した。
「・・・・・・それなら、無理矢理にでも連れて行きますが」
二つに折れた杖を無理矢理繋ぎ構える針沼、一方の月島の魔力はほぼ尽きており、六原のときのように魔法陣を描く力はもうあまり残されていなかった。
だが、臆することなく月島は淡々と言葉を言う。
「もう一度言おうか、私は戻らない」
「貴方無くして国の再建はどうするおつもりですか」
「それは。」
針沼の真剣な問いに月島は即答する。そして知っていた事実を、レギオンの行動にもう意味がないことを全て針沼に叩きつけた。
「今戻ったところで、あの世界にある祖国の平和は既に守られているのだろ。それに、私達の敵、魔法を使えないものを糾弾していた副王は勇者によって粛清されたらしいじゃないか。だから、もう、私達が戦う必要は無いんだ」
「しかし。それでもレギオンは・・・」
言いよどむ針沼、それでもまだ反乱を起こそうとしていると言いたいのだろうと思った月島は言葉を畳みかける。
「今のレギオンの上層部はただ、権力が欲しいだけさ。結局、反乱をした事によって、国は変わる。その為の処罰は王国内で行われるよ」
「我々が始まりだったのですよ!!」
「でも、見返りを求めても良い立場ではないはずだろ」
珍しく声を上げる針沼に諭す様に月島は言う。
関係ない人も巻き込んで内乱を起こし、傍から見れば周囲の状況に納得できず駄々をこね、挙句に死者まで出している組織に誰がお礼を言うのであろうか。
——ワタシなんて魔女と呼ばれ忌み嫌われているのだよ。
杖を構えたまま静かに針沼は問う。
「私達についてきてくれるのではなかったのですか」
「ごめん、けど、それだと無駄になってしまうから・・・」
握り締めていた右手をほどく、繋いでいた六原の左腕は力なく地面に落ちた。
体の傷は急速に回復していっているが六原は未だ目を覚ます気配はない。
それは数えることが出来ないほど何度も傷を負い、気を失い、痛みを堪えてまでに月島を救おうとした結果であった。だが、結局、彼の言葉も行動も今まさに針沼に無理矢理元の世界に戻されそうな状況では全てが無意味になろうとしていた。
考えるだけで、苦しくなりそうになった。
——何故か、嫌だよ。
月島には六原の行った行動が無駄になってしまうという事が耐えられなかった。
会ってまだ僅かでしかない彼について知っていた事はそれでも幾つかあった。
- Re:脇役謳歌〜 できそこないヒーロー ( No.58 )
- 日時: 2014/05/30 02:35
- 名前: uda (ID: T3U4YQT3)
月島のような非日常な位置に立つ多くの人々と交流が多いが、彼自身、魔力も剣術の才能もない事。
姉がヒーローと呼ばれる存在であり、そして、自分も才能がないのにもかかわらずヒーローになろうとしている事。
しかし、活躍も出来ず。
彼の周りで起きる奇怪な出来事は彼の姉や友人が解決していく。
結果、ナンとも役に立たない日々を送っている…
それらを全てまとめて彼の事をいうのならば、
要するに彼はいつも物語の脇役だった。
そんな彼の事情をワ—から知った月島は少し興味を持ち、そして彼の人生に惹かれた。
——与えられた環境になじもうと努力して、失敗してそれでも何度でも挑もうとする。そんな彼に憧れていた。ワタシもそうなってみたいと思っていたからだろう。
少女も夢があった。レギオンの象徴と言う人形ではなく祖国の平和を導く一団に、一人の英雄になりたかった。だから、レギオンの誘いにも乗ったのだ。だが、彼女はレギオンにとって唯の傀儡でしかみられていなかった。
そして、今とのなってはその願いはもう遅く、叶うことのない。
だから、せめて憧れた彼の願いは叶ってほしいと月島は思っていた。
——憧れである彼の願いを断ることは彼の行動が無駄に終わるという事になるのかな。
彼は六原は少女の英雄になりたいと言ったのだ。
そして、その言葉が嘘じゃないという行動や気迫も先ほど見せてもらった。
だから、もう、目の前から消えることなどもうできなかった。
まぁ、元々は救ってくれとワタシが言い出したことだけど。と自嘲気味に小さな笑みを浮かべる。
——まさか、私がワーに言われて渋々言った事がこんなことになるなんてね。
杖のカケラを右手に持ち、ペンを持つように握る。正面にいつでも魔法陣を描けるように構える。
体内の魔力も少ない。もう描ける魔法陣は数個ほどしかできない。それでも今の月島に諦めるという選択肢はもうなかった。
「スマナイけれど、力づくで納得してもらうとするよ」
——本当は途中から六原さんの活躍は全然期待していなかったのだが、ココまでされるとカッコいいと思ってしまうから不思議だ。そして、六原さんはワタシの為に頑張ってくれた。だから、ワタシももう少し努力してみよう。少なくとも目の前の相手ぐらいは倒そうかな。
「そんな状態の貴方が私に勝てると」
「もちろん」
「仕方ありません」
針沼は杖を握る右手を頭上に上げた。すぐさま月島は魔法陣を描きいつでも発動できるようにするが、針沼は魔法陣を描くことはしなかった。する必要がなかった。
——何。まるで何かの…
なぜなら、その行動は魔法を行う為のものではなく。
——サイン!?
只の仲間への合図であった。
「皆さん、出番です」
木々がざわめくような音が周囲を響いた。気が付くと林や茂みの中から勢い良く6つ影が飛び出す。
影はどれも黒いローブを着た人であり、すっぽりとフードを深く被っている為表情や性別も区別が難しい彼らは針沼の前に立つ。そして、それぞれの腕には杖が握られ先端は全て月島に向いていた。
「これでも貴方は勝てるとでも」
針沼は目を覚ましてから、何もしていなかったわけではない。気が付き、泉の前で戦いあう二人を見ると、ふらつく体のまま、茂みの中に一旦身を隠した。
そして、すぐさま、連絡用の魔法を使い警戒中の仲間にこちらに来るように連絡したのであった。二人のうち六原が勝っても、月島が勝った後反抗しきても対処できるように二人の戦闘が終るのを待っていたのであった。
得意そうに針沼は笑みを浮かべ月島を見る。もし、逃走するため、転移魔法を使おうとしても、コレだけの数がいれば月島が何かする前に抑えることが出来る。
——参ったね。とても、勝てそうにない。
冷静に周囲の状況と自分自身の状態から、勝てないと月島は判断した。得意の鎖の魔法さえ使えれば何とかなるはずであったが、六原を闘った後に残った僅かな魔力では発動できなかった。
だが、右手に握られた杖の欠片は手放すことはない。そして、勝てないと思っている自分に呆れる。同じような状況の中、月島の元まで来てくれた人が目の前にいるのだ。たとえ誰かの力を借りたのだとしても六原が来たことには変わらない。
そんな六原の前で諦めるというのはなぜか月島は嫌であった。
——さて、少しは彼を見習うとしようか。
だから、月島は表情を変えることなく、針沼に目を合わせると口を開いた。
「笑えるね」
精一杯の虚勢であった。
「まったく、この程度の戦力で魔女を狩れると思っているなんて」
素早く右腕を振るい、杖のカケラをペンのように虚空に奔らせる。瞬く間に現われる六つの魔法陣を追加させた。
コレで残りの魔力はほぼ空になったが月島は自信に満ち溢れた目で彼らを睨みつける。
「見せてあげるよう、魔女の力をね。」
「そんな強がりを言って・・・・・・諦めないのですね。」
「当たり前だろ」
チラリと月島は針沼の背後を見る、湖に浮かぶ鉄の扉、ゲートは未だ開いたままであった。
——あのゲートさえ破壊できれば・・・
元の世界に戻る手段がなくなれば、少しは諦めると月島は考える。
「ゲートは壊させないですよ」
「やってみないと分からないよ」
にらみ合う両者、そして、諦めたように小さな溜息を針沼は吐く。
そして、何故か笑みを浮かべ片手を上げると周囲の黒ローブの部下に指示を出した。
「皆さん、姫を拘束してください」
「「「「「「了解」」」」」」
重なる返事の後、六つの影は魔法陣を描く。そして、彼等は彼女のどんな動作にも反応できるように目の前に意識を全て集中させた。
だから、彼らは、六つの影は気付かなかった。
いや、気付いたところでどうにもならなかった。
ソレは止まらない。
彼らが一歩目を踏み出すよりも速く、
「いぃぃぃぃやっほぉぉぉぉおおおおおおおおお!!」
どこからか声がし、背後から巨大な破壊音が響き渡り、彼らは動きを止め背後を振り向いた。
ソレは上空から現われた。
先ほどまで上空の警備部隊を蹴散らしていたソレは空から隕石のように勢い良く降ってくる。その着地地点は泉のゲートの真上。ソレはためらいもなく落下の速度も加えた踵落としをくりだした。
振り下ろされた踵はソレの狙い通り泉に浮かぶ扉に叩きつけられる。
轟音が響き、湖に波紋が広がる。
そして、鈍く砕ける音が泉の周辺に響いた後、両足がくり出す重い衝撃に耐えられず、扉は真っ二つに割れた。
扉が破壊され周囲に大きな水しぶきが立つ。ソレは叩き付けた反動を利用して飛び上がると針沼たちのいる岸に背を向けて飛び移る。
水しぶきは止んだが未だ泉に大きな波紋が残るまま、飛び上がった少女は針沼たちの頭上を超え月島の正面に背を向けて着地した。
「話は全て聞かせてもらった」
皆が突然の出来事に驚く中で、凛とした透き通る声が周囲に響く。
「要するに君たちが彼女を諦めてくれればこの物語はハッピーエンドと言うわけか」
語り始めるソレの背を見ながら月島は思う。
——彼女は一体誰なのだろう。
声を聞く限り女性だろう、女性にしては背が高いこと以外白いローブを羽織っているため体型も顔もよく分からない。
「貴方は誰?」
「ふっ、良い質問ね」
月島の質問に、彼女はローブを勢い良く空に向って脱ぎ捨てる。そして、月島に向かい振り向くと、白く輝く歯を見せつけ笑みを浮かべ、親指だけをぐっと突き上げる。
「正体不明のヒーローだ!!」
「……あ、六原さんの姉ですか」
こんな場面で格好を付け、六原のようなセリフを言うことで月島は彼女の正体に予想が付いてしまった。
「・・・・・・え、あ、はい」
月島の質問にソレは、六原睦月は気のない返事で肯定した。
黒い薄手のコートに紺色のジーンズの女性、睦月は小声で、少しぐらいノってくれてもいいのになー。と小声で言いながら月島の頭に何気なく手を置く。
「しかし、月島君。君もよくこの場を逃げずに抗おうと頑張ったわね」
月島が避ける暇も与えずに頭を撫でる。くすぐったい間隔であったが、そのやわらかい手つきに優しさを感じ月島は抗えなかった。
「その決意は忘れないようにしておきなさい。君はまだやり直せる」
穏やかに言うと月島の頭から手を離し、針沼たちを見つめる。
同時に黒ローブの内の一人が牽制で放った火炎の弾を片手で握りつぶすことで打ち消した。
火球などなかったように振る舞い、睦月は目の前のレジスタンスに語りだした。
「では申し訳ないけど、サッサと終らせるから。歯を食いしばりなさい」
「「「「「「え、ちょ!?」」」」」」
驚く黒ローブに構うことなく腕を振り上げる。
そして、人差し指だけを伸ばし空に向けると、声を高らかに叫んだ。
「一分で片付けるわ」
そして言葉通り一分後、彼らは地面に伏すことになった。
「めでたし、めでたし」
敵を倒した後に満足そうに六原睦月は言った。
- Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー ( No.59 )
- 日時: 2014/05/30 03:33
- 名前: uda (ID: T3U4YQT3)
はいはい、皆様。こんにちはぁ。
六原 恭介だよ。皆さんにちょっと今の状況を簡単にざっくりと省いて言っておくね。
それから二日が過ぎた。
うん。これはねぇよ。
一週間も体がまともに動かない事を代償に戦ったのに、結局目を覚ましたら全てが終わっていた。
悔しさともどかしさで思わず叫びたくなるほどの感情があふれ出したが、いくら個室とはいえ病室にいる為そこはぐっと我慢した。
今回のオチが打ち切り漫画のラストみたいな急展開を感じるが、うん、けど、コレ本当の事だから仕方ない。、
ねぇ、叫んでいいかな。
うわぁぁぁぁぁぁぁああああって叫びたいんですけど
……まぁ、病室内ですからあきらめましょう。
では、手短にこの病室に担ぎ込まれた昨日の出来事を簡潔に語るとしよう。
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