複雑・ファジー小説

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脇役謳歌〜できそこないヒーロー【一話完結】
日時: 2014/04/02 03:14
名前: uda (ID: T3U4YQT3)

 はじめまして、初投稿ということで右も左もわからないまま現状です。
 一応長編を書いていきたいのですが。このような投降でよかったのかと不安です。
 完結はさせるつもりですのでよろしくお願いします。




(はじめに)

・脇役が主役なれないのかという矛盾な事を考えて、気が付けば執筆していました。てにおはや誤字脱字などが酷いですが完結し次第修正を加えさせてもらいます。

・登場人物ですが主人公は結構中二病全開の痛い子ですが、隠された特別な力はありません。ましてやハーレムになることもありません。
 脇役みたいなヤツなので仕方がないと暖かい目で見てください。

 
・タイトルはご覧の通りですが各章のサブタイトルも今書いている話が終りましたのでそのシーンが修正され次第、書かせて頂きます。


 
<一言メモ>

 前タイトルはできそこないヒーロー(仮題)ですが、一応完結した為、脇役謳歌(できそこないヒーロー)にしています。ご迷惑かけるかもしれませんがよろしくお願いします。

 只今、添削や誤字脱字を修正中です。何かありましたら,よろしければコメント等、ご指導してもらえるとたすかります。


オープニング >>001

・騎士とメイドの物語。
1 告白か果たし状か? >>002-003
2 泉の前で >>004-007
3 騎士は正々堂々と決闘をする >>008-010 >>011-012
4 これが憧れの同棲生活 >>013-016
4.5 喫茶店で打ち合わせ >>017
5 鍋最高 >>018-020 >>022-024
6 魔女の踊り場 >>025-028
6.5 レギオン >>029-030
7 どうすっかなぁ >>031-34 >>037
8 無駄な抵抗 >>038-040
9 脇役の後悔 >>041-045
10 そして彼は舞い降りる >>046-049
11 覚醒できたらいいよね >>050-056
12 ヒーローは登場する >>057-058
エピローグ >>059>>061>>062>>063>>064




Re: できそこないヒーロー ( No.19 )
日時: 2014/04/06 19:20
名前: uda (ID: T3U4YQT3)

 このような宴会が始まったそもそもの理由は月島の一言から始まった。
「六原君。鍋をしようじゃないか」
 いきなり買い物袋を両手に抱えて帰って来た月島の第一声を聞き、六原は突然のことに頭が追いついていかなかった。
 ベッドから体を起こし、ドアの正面に買い物袋を持つ月島の姿を見て、ある程度状況を理解した六原はあえて断ることも無く。まぁ、月島の背後に立つワーの一睨みによって断ってはいけない気がしたこともあったが・・・
——鍋はオレも好きだからねぇ
 という、安易な理由の元に快く御呼ばれしているといった状況である。
 その後、チョットお互いの呼び方の変更や鍋の準備等があったが、概ね目立ったことは無く。痛みもほとんど治り、通常とあまり変わらない程度に体を動かすことが可能になった六原はこうして、リビングに呼ばれて鍋をいただいていた。
 
 

とりあえず、お互いの回復祝いで作られた鍋は素直に旨かった。
「アンタたち、鶏肉が煮えたからサッサと食べときな。おいおい、そこの白菜はまだ煮えきってないから反対側の豆腐をとりな」
「へーい」
 こうして、鍋奉行ワーさんの取り仕切りのもと管理された鍋は綺麗に鍋の具材を順当に減らしていっている。
——姉との鍋とは大違いだ。
 以前姉と二人で鍋をしたときはお互い自分勝手に具を取ってしまったためか、底に豆腐等の具材が沈みつぶれてしまったことや、煮すぎてボロボロになったモノがあり、その失敗した具材をお互いの皿に投擲すると言った軽い戦争をした。最後は具材を顔面に押し付ける辺りになったところで帰宅した父の拳骨で戦争は終結したが、その日から二人で鍋はもうしないと決めている。
「六原さん。体の調子はどうなのだい?」
 ワ—から取ってもらったアツアツの豆腐を受け取りながら月島は尋ねた。
「激しい運動まだ無理そうだけど、一応普通の生活が送れるレベルまで体は回復したよ。つーか凄いね。この回復術、あの怪我が大体二日ぐらいで治るのかよ」
 六原の怪我の箇所にはまだ包帯が巻かれていた。その間にはシップのようなものが肌に張られているのが見える。
 簡単な説明は聞いていたがそれでも寝ている際にこの不思議なシップについて非常に気になっていた。そして、ワーに詳しく聞いた所によると治癒系の魔法陣が描かれた札が貼り付けているとの事であった。
 このシップは魔法陣の力と遺跡の薬草の効果によって人の回復速度を尋常なまでに上げている効果を持っている。一応デメリットとして、一週間前ぐらいから事前に作っておかなければきちんとした効果の出るものが出来ないこと、副作用として、酷い眠気と治癒魔法の耐性ができ次回からは効きにくくなるとのことであった。一応、回復魔法が効かない人向けの手段らしいのであまり使わないほうが良いとのことであった。
「けど、回復魔法のほうがもっと早いからね」
 酒が入った為かやけに上機嫌にワーが答える。
 回復魔法という言葉に、ふと六原は月島の腕を見る。昨日見た時に巻かれていた包帯は既に無くなっている。見たところどこにも怪我はない。
 それに比べて六原は未だ傷だらけである。嗚呼、やはり回復魔法を使った方が便利なのだろうと思い直した。
「まったく、主が血だらけの見知らぬ男を拾ってきたときはどうしようかと思ったよ」
 一升瓶をラッパ飲みする豪快なワー。顔も赤くなってきており大丈夫なのかと思ったが、月島に心配するそぶりも無いので大丈夫なのだろうと思っておいた。
「いやぁ、本当にお世話になりました。この恩は必ず。あっ、スイマセン。そこのネギとってくれませんか」
「何か緊張感の無い子だね〜。あたしの姿を見た時もそこまで驚いていなかったじゃないか」
 丁度ワーのそばにあるネギ。六原からはとりづらい位置にあった。
「一応、驚いたつもりですが」
「いや、何かわざとらしさを感じたんだがね。ほれ、とりな」
「ありがとうございます。しかし、わざとらしさ、ですかぁ」
 湯気が漂う出汁をたくさん含んで柔らかくなったネギを器に入れもらい。軽く礼を言うと六原は他の鍋の具材を箸でとる。
「まぁ、慣れていますからねぇ」
——あ、ちっ、ネギうめぇ。
 熱い具材を息で冷ましつつ食べながら答える。その言葉に先ほどまでに背筋を伸ばし上品に食べていた月島が反応した。
「やはり、こういったことに色々と巻き込まれているのかい」
 月島の言うこういったことが多分非日常のような存在とのどこかファンタジー小説の物語のような事を指しているのだろうと思った。
 咥えたネギをすぐに飲み込むと六原は答えた。
「まぁ、大体月に一度のペースだけどね」
「それは多いね」
——そうなのだろうか。いまいち姉のせいで基準が良く分らない。
 そして、六原の言葉に獣のように一度ピクリと耳を動かしたワーは日本酒をテーブルに置き六原のほうを向く。
「主から色々変わった人生を歩んでいると聞いてはいたが。そいつは凄いね。酒の摘みに最近面白い出来事は無いのかね」
「そうですねぇ」
——しかし、ワーさんマジで大丈夫か。さっきから鍋に手をつけずにずっと酒しか飲んでいないのだが。後さ、ビンごと飲んでいるけど大丈夫なのか?
 お酒とはおいしいものなのだろうかとお酒を飲んだ経験の無い六原にとってそれは未知の領域である為、少し湧いた興味を理性で抑えながら六原はワーの要望に応える事にした。
 いつもなら、そんな話をされたところで他のファンタジーな話をするのは何と無くだが危険の予感がするのでやめていた。だが、今回は一宿一晩の恩といったこともあり、お礼ぐらいに話しておくのも悪くないと気まぐれに思ったからであった。
——さて、何から話そうか。

 記憶を掘り返せば真っ先に出てくるのは一ヶ月前の出来事。それはイケメン怪盗とツンデレ少女の物語。

——うん、却下。あれはツンデレ少女が怪盗に対してのデレッデレぶりが酷すぎて個人的に少しイラッと来るからパスで。
 
 記憶を振り替えれば次に出てくるのは二ヶ月前の出来事。それは古の武器に宿った精霊を保護する青年の物語。

——うん、却下。アイツ、精霊の中でも少女型の精霊にしか興味が無いただの変態だった。
「あかんな」
「頭を抱えたりしてどうしたのだい」
 まともに話せるものが無いな。というのは言わないことにしておく。仕方が無いので昔話はやめにして六原は少し考えた後、「魔法使い」について語ることにした。

Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー ( No.20 )
日時: 2014/04/06 19:29
名前: uda (ID: T3U4YQT3)

「魔法使いって意外と色々いるものでしてねぇ」
「ほぉ」
「それはワタシも含めているのかな」
「まぁね。ちなみに正式には何ていうのかね」
「××××って日本語じゃ何ていうか分らないね。まぁ、いいよ。魔法使いでも・・・」
 どこかの外国語のような聞いたことのない流暢な言葉を月島が諦めたように言うと諦めて鍋を食べながら話を続けてくれるように促す。
「なんか見た感じである程度な想像でしかないけど、あの魔法みたいなやつは陣を描いて発動する、陣は様々な種類があり、その書き方によって発動する魔法も全く違う・・こんなところだけど大体あっているのかな」
「まぁな。陣は魔法を発動する基本だよ。正直コレが魔法を生み出す基礎や地盤となり、様々な自然界の魔法を使うことができる」
 酒を飲みながらワーが説明する。簡単に説明したが、正直六原としてはどうして、陣を使うことで魔法を発動できるとか、どんなエネルギーを使っているのかとかは言われても良く分らなく。だって魔法は不思議でファンタジーだからね♪ということで一人納得しておくのでワーのような簡単な説明のほうが良かった。
——さて、そろそろ肝心な事を話そうか。「規制」は、まぁ、大丈夫でしょ
 同じ体質である姉と交わした「規制」、それは色々なファンタジーな世界に巻き込まれていく中で、その世界観を一変するような情報を安易に渡してはいけないと言うことである。
 例えば、吸血鬼同士のいざこざに巨大ロボットを出撃させ…
 例えば、人の恋の願いをかなえることが出来る天使に、古い神社に伝わる人との縁を繋げることができる糸の情報を教え…
 こんないきなり常識を覆すようなことをすれば、きっと取り返しの使い無いことをいつかやる。と六原姉弟たちは思ったのである。だから、出来るかぎり、相手に悟られない範囲で力を借り、相手がそれ以上知る事が出来ない限りの情報を開示して言っているのであった。
——だけど、まぁこの情報を言った所で彼女達にはこれ以上知るすべが無い
 そう結論付け、六原は話した
「それが、魔法陣が無くても発動するやつも世の中に入るんですよねー」
 ぴたりと先程まで聞き耳を立てながら鍋を食べていた月島の腕が止まる。
「・・・・・・そうなのかい」
——おっ、興味ありですかぁ。
「それはどんなものだね」
「例えば、呪文や言霊に反応する魔法とか体内の魔力(笑)を扱う魔法、呪文書や杖を媒介にしての魔法とかかなぁー」
 今まで色々な不思議な出会いがあった六原だが、その中で魔法使いのような存在と出会ったのは両手では数え切れないぐらいであった。だから、最初に魔法を使う月島を見たときにテンションが上がりはしたが実は良く見慣れた光景であった。
「色々あるのだね」
「後、魔法の種類も色々あるんだよ。例えば月島たちは炎とか水とかの自然的な魔法を使うんだよな。だけど、人によっては神秘的な獣、人などの召還や、機械の遠隔操作、ジャミング、何かを代償にすることで力を獲る物、まぁ、後スカートをめくる魔法とかかな」
「なんだい、最後の!?」
「だから、スカートをめくる魔法だね。そうだろ、六原」
「スイマセン!!空気を読みます」
 いきなりニコリと笑顔で呼び捨ての声に場が凍ったように感じ六原は素直に謝罪した。
——つーか、こういう風に家族以外の異性と飯を食うのが初めてなんですけどね。正直会話で何を言って良いか分らん。てか、ワーさん普通にこういう会話に入ってきているけどオレの話を信じているのかなぁ?
・・・・・まぁ適当にやるか。
 考えても仕方が無いとすぐに諦め、話を続けた。
「とにかくそんな魔法使いみたいな奴らがクラスに結構いるんですよね。最近なんてアレですよ。魔法使いの学園からやって来た何ていうなぞの転校生(自称)が一問題起こしましてね。お陰で学園が崩壊しかけたってことがあってね」
「嗚呼、それは私も知っているよ」
「エッ、お前のクラスにも来たのか、あのバカ」
「まぁね。何か魔女裁判みたいなことをひらこうとした瞬間に、他の教師に取り押さえられていたけどね」
「うちの友人がスイマセンでした」
 一応アレでもいいところもあるのですよ、例えば、ツンデレっぽいところ。等と少しフォローを入れておきつつ、ワーさんが良く分っていなかったので、とりあえず自称魔法使いみたいな奴が軽く学園でテロをしたとこの学園ではよくある事を軽く説明する。
 話を聞いて少し呆れたように溜息をつく。
「何か、やっぱりこの学園に主人を入れたのは間違いだったかね。悪い噂ってことは無いんだが、毎回、信じられないような出来事しか聞かないからなぁ。」
「けど、本業である学業はきちんとしているよ」
「そうしないと校長がマジギレするからな」
「そうなのかい?」
「まぁね。ワタシも転校時に会ったことがあるけど、中々迫力がある人だったね」
 一応あの学園で誰が強いかと言われれば校長が最強という話である。目からビームを出したり、巨大化したり、銃弾が筋肉によって跳ね返されたりなどというまさしく生きる伝説と言われるマッチョな爺さんだ。
 文句があるやつはかかって来いと言ってワシが法だと言う割には何だかんだで良い人である。
 そして、校長曰く、ある程度の学業は修めろとのことであった。一応毎年何人か反発するものが現れたがそいつらも校長によって粛清されている。まぁ、それ以外の校則はゆるいので皆好き勝手な事をしているといった具合である。
「・・・でさ、一つ聞いていいかな」
「なにかな」
 大体腹八分目まで程よくおなかが膨れてきた六原は目の前の土鍋の中を覗き込む。そこにはまだまだ具財が残っていた。
「この鍋多くないかい」
「そうかい?」
——いやいや、あきらかに量多すぎだろ。月島にいたってはもう箸置いているし、食べる気がゼロだよ。
「つーか、ワーさんも酒だけじゃなくて手伝ってくれませんか」
 ワーは酒ビンを一度テーブルに置く。ビン一杯に入っていた日本酒はもう半分近くしか入っていなかった。
「よろしいので」
「うーん、いいんじゃないか」
 月島が了承したところでようやく、仕方ないねぇ。とワーは呟くと箸を取り、鍋に向き直る。
「じゃあ、ちゃちゃっと頂くとするかねぁ」
 その口からはギラリとした犬歯が見えた気がした。

——・・・・・・結論から言おう。ワーさんすげぇわ。
まさかあれだけ余った残りを全部食べきるとは思わなかった。

Re: できそこないヒーロー (仮題) ( No.21 )
日時: 2014/01/28 21:44
名前: 希捺 (ID: NhgkHXib)




初めまして、ここに投稿失礼します。
お話とっても面白いです!
私も小説を書いています(どうでも良いですね((汗
お友達とかになれたら嬉しいです←

更新楽しみにしています。

長文、失礼しました。 希捺,

Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー ( No.22 )
日時: 2014/04/08 02:54
名前: uda (ID: T3U4YQT3)

 鍋を食べ終えた六原たちはテーブルの上を片づけた。その後は特に目立った出来事も無くリ、ビングでのんきに世間話をしながら時間を潰し、順番で風呂(六原は気を遣ってシャワーだけ)に入った。その後はのんびりしているともう夜も遅くなったので各々の部屋で寝ることにした。
 静まり返ったリビングのソファーの上で六原は寝転がっていた。
——いきなり来た怪我人をかくまう部屋があるなんて、考えて見ればおかしな話だよな。まぁ、なんというか、自分が今日ゴロゴロしていた部屋は実はワーさんの部屋であったわけで、オレはワーさんのベッドを使っちゃったわけですね。
 嗚呼、ロマンのカケラも無いな。せめて月島のだったら少しは嬉しいねぇ。というのは口が裂けても言葉に出来ないので胸の内にしまっておく。
 寝転がっている六原は傍の机の上に置かれた毛布を掛けることも、そして目も瞑ることなく只ボーとしていた。
——そろそろ良いだろうかなぁ。
 部屋にある蛍光灯は消され、小さな電球だけが灯されたうっすらと暗い部屋の中、再びワーさんから貰った新しいジャージに着替えた六原はズボンのポケットに入れておいたケータイを取り出す。
 開いたケータイの画面時刻を確認するとソファーの上に寝転がってから軽く一時間は経っていた。
——んじゃ、そろそろ動きましょうか。
 ゆっくりと六原はそして、足音をあまり立てないようにしながら廊下に繋がる扉ではないもう一方の扉に向った。
 これからやろうとしていることは、ワーさんの目から見ればよくて逢引、悪くて只の夜這いに見えるのではないか。とふと脳裏を過ぎったが、慌てて忘れようと思考を振り払う。
 どのみち、明日から学校である。大丈夫うまくできるさ。等と自分に自信を付けながら六原は扉の前に立った。
——前もって連絡はしているけどなぁ。
 少し前、二人で話をしたいと言った時のことを六原は思い出す。
 ワーが風呂に行っている際に月島に後でお前の頼みについて話があるから時間を取れないかと六原は訊ねた。
 本当ならその時にでも話せばよかったのだが、いつワーが風呂から上がってくるか分らなかったのかということがあった事と、せっかく月島達が鍋をご馳走してくれた後のこの少し穏やかな空気を壊すのが申し訳なく、もう少し落ち着いてからにしようという六原なりの気遣いであった。
 この提案に対して月島は承諾し、なら、ワーが寝静まってから私の部屋に来てくれないか。とリビングの扉を指差した。
——つまり、いきなり女の子の部屋に誘われたと言うことだ。こんな風に言うとすごくいやらしく聞こえるねぇ。まぁ、そう聞こえるのはオレ的には大変良い事であるがね。
 さてと、行きますか。と何故か少し気合を入れながら。六原はマナー的に扉に小さくノックをした。
 数秒後、どうぞ。という月島の声がする。六原はお邪魔します。と小さく言いながら、扉を静かに開け、すぐに部屋の中に入るとすばやく扉を閉めた。もちろん物音は立てない。
 どうやらワーにはバレずに入れたようであった。
——よっしゃ、侵入成功だぜぃ。
 思わず、六原は胸元で拳を握る。
 その何とも奇妙な行動に呆れながら月島は目を細めた。
「なんだい、その動き。まるで泥棒みたいじゃないか」
「いや、ワーさんにバレたら何を言われるかわかんないから」
「・・・・・・それもそうだね」
「納得してもらった用で何より」
——来ましたよ。女子のお・へ・や。たまらんわぁ。
「・・・どうしたのだい」
「いえ、別に」
 振り返るとデスクのそばにある椅子に月島は腰をかけてこちらを見ていた。デスクの上には教科書が広がっている。
「スマン。まだ勉強中だったかな」
「いや、いいよ。大体区切りが付いたところだから」
 行く時間ぐらい言っておけば良かったと思う六原の目には開いていた教科書、ノートを丁寧に片付けると月島の姿が映っている。
 いつも通り長い髪を後ろで結った髪形をしているが、服装は違っていた。
——これは、その、何ともまぁ。
 寝間着なのだろうか。思春期の男の子にとっては目の前の凛とした少女の緑ジャージといった姿は色々と考えさせられるものであった。
——ネグリジェとまではいかないが。かわいらしいパジャマを、着て、欲しかった。
 六原がくだらないことを考えている横で月島は本当に勉強のこと等気にしていないように淡々と教科書を閉じるとデスクの横に掻けていたバッグに詰め込む。
——しかし、ワーさん並みにシンプルな部屋だな。いや、綺麗に整いすぎているっていったところか。
 普通よほどの綺麗好きで間ない限り、少しはどこか片付いていないものがあるのかと思うのだが、月島の部屋には見られなかった。
 もともと、この部屋に机と椅子とベッド、そして、本棚ぐらいしかないという事もあるがそれを含めても、六原はこの整いすぎた部屋はどこか寂しげに感じた。
「女性の部屋をじろじろと見るものではないよ」
 恥ずかしがる様子もなく月島はさらりと語った。
「あ、嗚呼、それはスマン」
「それにそんなところにボーと突っ立っていないで隣に座ればいいじゃないか」
「……エッ」
 月島のセリフに、思わず六原は言葉に詰まらせた。
「マジで!?」
——えっ、何で?そんなに月島さん積極的なんですかね。死ぬの、オレが?
 教材をしまい終わった月島は椅子から立ち上がると近くのベッドに腰掛ける。
——ベッドの横に隣同士で座る男女。・・・・・・もう、死んでもいいかなあ。
 そして、月島はどうぞと空いた椅子に座るように促した。
——知ってたし、一瞬でも月島と同じベッドの横に座われる何て思ってなかったから全然平気ですよぉ。畜生。
「うぃ」
 言われるままに月島と向かい合うように椅子に座った。
「それで話とはなんなのだい」
 いきなり本題に入るジャージ姿の月島。色気のカケラもなかった。
——オレのときめきを返せ。
 部屋に入った際の興奮は既に冷え切っていた。
時計を見るとそろそろ夜も遅くなりそうな時間帯である。
——手早く済ませたほうがいいよな。
 六原は椅子の前で足を組み、メガネの縁を押さえるような動きをする。そして、一度コホンと声に出した咳払いをすると口を開いた。

「良い話と悪い話どっちから聞きたい」

Re: できそこないヒーロー (仮題) ( No.23 )
日時: 2014/04/11 11:37
名前: uda (ID: T3U4YQT3)

「話す前に行っておきたいのだけど・・・・・・」
 淡々と月島は言った。
「六原の自慢げに言うその顔にイラッと来る」
 ちょっ!!と表情を崩し、いつものように六原はヘラヘラと笑った。
「いや、だって一度言ってみたいだろう」
「すまないけど、よく分らないな」
「・・・えー何でぇ」
「君の頭が」
「マジかよ!!・・・・・・嗚呼、やめてね、そんな冷たい視線で見るの。ちゃんと真面目にやりますから」
 まったく、少しぐらい余裕があったほうが人生楽しいのにな、と思いつつも六原は頭の中で調べた情報を整理して話し始めた。
「一応、今日調べる限りの事は調べ上げたよ」
「何についてだい」
「月島、キミについて、そして、キミがいた世界の状況に関してもかな」
 あとはと付け加えるように六原は最後の一つを言う。
「レギオンについて・・・・・・」
 小さくだが、あまり表情に変化の無い月島はゆっくりと溜息を吐いた。
「そう・・・」
 短く答える、月島。
——嗚呼、やっぱりやめておくか。
 これから、いろいろと自分が調べた事に裏づけをしようと思った六原であったが、聞く気が失せた。
 なぜかと問われれば六原も良く分らないが、一瞬だが、目の前の女性の表情が悲しく見えたからなのかもしれない。それがどうして悲しんだのか気になったが、それ以上にこれから彼女の事で暴いた事実をぶつけることが嫌になった。
——それに月島に聞かなくても何とかなるしね。
 だが、それでも一つだけ訊ねておきたかった。
「呪いは明日には解けるんだったな?」
「そうだよ」
六原は先ほどまで考えていたのとは別のプランを提案した。
「なら、明日学園に行ってくるとするよ」
「学園に言ってどうする気の気なのだい」
——まぁ、半日で考えた計画だけど、コレしか方法が浮かば無かったしねぇ。
 下手をすれば六原自身がまた危険な目にあうかもしれない。しかし、そのぐらいヒーローには付き物だと前向きに思うことにし、六原は覚悟を決め計画の内容を話した。
 それは実にシンプルな捻りの無い計画。
「辰野に会ってちょっとお前を見逃してもらえないか話し合ってみる」
「・・・いきなり斬られるかもしれないよ」
 予想通りの反応である。昨日突然現れ一方的に斬り合った相手と話し合い等できるのかと思うのは当然かもしれない。
 しかし、月島がそう考えるのは辰野スバルという人間を深く知らないからである。
 彼の友人でクラスメイトの六原は大丈夫だと言った。
「アイツとは友達だからよく知っているけど、辰野君は何だかんだで優しいからね、いきなり斬りかかっては来ないよ」
「だけど、昨日はいきなり襲ってきたよね」
「いや、多分アレはあのメイドだよ」
 辰野の付き人のようなメイド思い出すとあの時に首筋に当てられたナイフの冷たい感触が蘇り身震いした。
——ワーさんといい、最近の付き人は暴力的で怖いっすね。
「あのさ、辰野について月島はどれくらい知っているのかな」
「敵って事と、近距離戦の攻撃、強化の魔法を得意としているってところぐらいだね」
「じゃあ、性格とかは知らないって事だろ」
 どういうことだい?と投げかける月島に簡単に説明する。
「アイツ、辰野スバルはあんな乱暴な口調だけど正義感が強くてね。正々堂々とか平等が好きなんだよ。だから、昨日の襲ったところだけど・・・」
 一応想像だけどと付け加えたところで六原は昨日の辰野による襲撃の事の発端を話した。
「あのメイドが不意打ちをしようとしたところを辰野は止めようとしたんじゃないかな。だが、間に合わず不意打ちしてしまったので、正面から堂々と現れて一騎打ちを申し込もうとしたって思うんだよ」
 普通なら、あの敵の姿の見えない状況で一方的に辰野達が攻撃すれば六原たちはやられていたのだ。なのに姿を現した、その理由が、辰野 スバルが本当に正々堂々が好きだという証拠であった。
「しかし、話し合いに応じたところで上手く丸め込めないかもしれないだろ」
「そこは五分五分と言ったところかなぁ」
 けど、月島をこれから無理矢理上手く丸め込んで必要な情報を聞くことや、説得するよりは簡単だろう。と六原は思ったが、伝えず代わりに別のことを言う。
「これでも、あの野郎には多少借りがあるからね。それに話し合うことができるならまだ交渉の余地があると思うんだよ」
 そして、聞いておかなければいけないことを六原は月島に問う。
「一応、簡潔に、とりあえず、聞いておきたいけど、月島はもう魔法の国に戻ってまたレジスタンスみたいな活動をしたいのかい」
 たどたどしい言葉を繋げた質問で彼女の想いを聞く。月島はしばらくの沈黙の後に小さな声で答えた。
「・・・ワタシは、したくはないと思っているよ」
 なら大丈夫だ。と言うと親指だけ伸ばし自分自身を指差しながら笑顔で六原は言った。
「このオレに任さなさい!!」
——決まったね、オレ!!
これで歓声でもくればいいのだが、月島の反応は全く逆であった。
「・・・無理だよ」
——あれー、おっかしいなぁ。
 小さい、聞き取れない程の小声の返答。だが、聞き返さずに入られなかった。
「何でそう思う」
「・・・言いたくないな」
「なら、オレは明日予定通りに動くだけだ」
 少しの間空気が凍てついたように固まった。
お互い何も言わない中、再び訪れた沈黙を破ったのは諦めたように溜息を吐いた月島であった。
「なら、ワタシはもう止めないよ。・・・・・・いや、そもそも私の為に動いてくれているキミを止める必要なんて無かったのかもしれないね」
「まぁ、そうだな。だって、コレは君を救うことになるからねぇ」
——ヤバイ。オレカッコいい。
 と内心、自画自賛する六原に月島は口元を薄く微笑む。しかし、月島の思ってもいない返答に六原は驚くことになった。

「嗚呼、コレを解決すればキミはヒーローさ」

——・・・チクショウ、向こうのほうがカッコいいじゃないか。
 予想していなかったセリフに六原は戸惑い視線を月島から逸らした。
 すると、視線の先に見慣れないものを見つけた。


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