複雑・ファジー小説
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- 脇役謳歌〜できそこないヒーロー【一話完結】
- 日時: 2014/04/02 03:14
- 名前: uda (ID: T3U4YQT3)
はじめまして、初投稿ということで右も左もわからないまま現状です。
一応長編を書いていきたいのですが。このような投降でよかったのかと不安です。
完結はさせるつもりですのでよろしくお願いします。
(はじめに)
・脇役が主役なれないのかという矛盾な事を考えて、気が付けば執筆していました。てにおはや誤字脱字などが酷いですが完結し次第修正を加えさせてもらいます。
・登場人物ですが主人公は結構中二病全開の痛い子ですが、隠された特別な力はありません。ましてやハーレムになることもありません。
脇役みたいなヤツなので仕方がないと暖かい目で見てください。
・タイトルはご覧の通りですが各章のサブタイトルも今書いている話が終りましたのでそのシーンが修正され次第、書かせて頂きます。
<一言メモ>
前タイトルはできそこないヒーロー(仮題)ですが、一応完結した為、脇役謳歌(できそこないヒーロー)にしています。ご迷惑かけるかもしれませんがよろしくお願いします。
只今、添削や誤字脱字を修正中です。何かありましたら,よろしければコメント等、ご指導してもらえるとたすかります。
オープニング >>001
・騎士とメイドの物語。
1 告白か果たし状か? >>002-003
2 泉の前で >>004-007
3 騎士は正々堂々と決闘をする >>008-010 >>011-012
4 これが憧れの同棲生活 >>013-016
4.5 喫茶店で打ち合わせ >>017
5 鍋最高 >>018-020 >>022-024
6 魔女の踊り場 >>025-028
6.5 レギオン >>029-030
7 どうすっかなぁ >>031-34 >>037
8 無駄な抵抗 >>038-040
9 脇役の後悔 >>041-045
10 そして彼は舞い降りる >>046-049
11 覚醒できたらいいよね >>050-056
12 ヒーローは登場する >>057-058
エピローグ >>059>>061>>062>>063>>064
- Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー ( No.24 )
- 日時: 2014/04/13 22:13
- 名前: uda (ID: T3U4YQT3)
部屋に入った際は本棚の影になって気が付かなかったが、壁に一本の銀色の竹箒が立てかけられていた。
箒は見たことも無い銀色の細い枝を密に束ね、先端にはリングがつけられ、先には黒いナップザックが取り付けられていた。
「魔女の箒かぁ・・・」
「ん?それはこの箒のことかな・・・」
見たままの感想を六原は口にした。月島は立ち上がると箒を手に取る。
六原としては目の前にいる魔女と呼ばれる少女に箒とくれば大体何なのか理解しているのであったが興味を引かれ聞かずにはいられなかった。
「なぁ、もしかしてその箒って空でも飛べるのか?」
「もちろん。それに名前もある。名付けて『魔法の箒』だ」
そのまんまじゃないか!!とツッコミかけたがあまりにも真面目な顔で言われたので六原は気が引かれた。
——しかし、魔法の箒かぁ。いいね!何というか凄くファンタジーな感じがするよね。
「六原さん」
月島はベッドから六原の脇を通り過ぎ、カーテンを開けた。
窓からの景色はベランダに続くガラス窓が鏡のように反射している為よく見えないが、周囲に建つアパートの光によって深い闇のように暗くはなく、ぼんやりと明るかった。
月島は外の景色を伺った後、振り返る。
少しだけ口元を緩めると語りかけた。
「今夜は月が綺麗みたいだ。良かったら六原さんも空を飛びに行かない?」
「行きます」
突然の誘い。六原は特に疑問を思うことなく目を輝かせた。
「おお、マジか。けど、あれ?オレでもその箒に乗れるのかなぁ」
——なんつーか、オレは月島が使う魔法に対して才能とかがない。なんて事を言っていた筈だがね。
「もしかして、魔力に対して心配しているのかい。コレはそういったものはいらないよ。コツさえあれば誰にでも使える物だよ」
「じゃあ、喜んで乗りたいです」
「では、場所を移すとしようじゃないか」
薄く微笑む月島は六原の横を通り過ぎると月島は本棚から大学ノートのような一冊の本を取り出す。よく見れば黒い表紙は厚みを帯びており薄い辞典のようにも見える本を月島はゆっくりと開き、ページを捲り始めた。
「ここでは飛ぶのは少し狭いからね。ふさわしい場所に行く為に、転移魔法を使おう」
「月島ってたしか、杖壊されたよな。魔法使えるのか」
「…・・・ふふ、あの杖の代わりとまでは行かないけれど、それができるのだよ」
笑うと跪き、床に箒を置く。そして、月島は開いたページを床に貼り付けるように設置する。そして床に押し込むようにすると一度だけ開いたページから光りがこぼれる。
「すげぇな」
瞬く間に本から幾つもの光りの線が伸びる。一瞬の内に以前一度だけ見たことのある魔法陣が完成する。それは裏庭から移動した際の魔法陣であった。
「世間では魔道書と言ったほうが早いかな。インスタント式の魔法陣の本だよ。まぁ、少し発動条件が杖に比べて面倒だけどね。さてと、靴も一緒に飛ばすとして・・・」
月島の言葉に従い靴も転移させる為に魔法陣から一本だけ光る線が伸び、部屋から出て行く。
「さて」
転移する準備が終わったのか六原の前で跪いたまま月島は箒を魔法陣の上に置くと片手を差し伸べた。
「招待しようか、『魔女の踊り場』にね」
——好きだなぁ、魔女と言う言葉がねぇ。というより、自分の魔女と言う存在にノリノリじゃないですか。
まぁ、そんな所は嫌いじゃないけどね。というのは思うだけでやめておこう。会話よりも先に今は早くこの箒に乗ってみたいのであった。だから、六原は月島の手を取った。
「なら、楽しませてくれよ。けど、大丈夫なのか騎士とかオレの呪いとかは・・・」
「あそこはこの町から少し遠いから勇者はいない筈だよ。呪いはあの場所にもこの部屋と同じように結界があるからある程度の空間なら問題ないはずだよ」
「それなら安心したけど、いいのかこんな夜遅くに・・・」
「なに、心配要らないよ。だって、魔女の夜はまだ長いのだから・・・では、行こうか」
——あら、やだ、カッコいい。
魔法陣が光りを強める。その光りに六原は昨日の気を失った時の最後の光景を思い出しながら、目を瞑れと言う月島の言葉に従い目を瞑った。
——さて、それじゃあ、さっそく空を飛んで見ましょうか。
そして、六原と月島は『魔女の踊り場』跳んだ。
跳ぶ前、扉が無理矢理こじ開けられる音と、ワーさんの「主、こんな夜中にこんな変態男と一人歩きはラメェ。」という叫び声が聞こえた事は知らない振りをしておこうと六原は思った。
——ワーさんとは出会ってまだ一日しだけど、かなり信用されていないよなぁ。
本当の敵はワーかもしれないと思っていると光が晴れる。同時に、部屋にいたときとは違う臭いと温度の低い空気が肌を覆う。
「さぁ、着いたよ」
繋いだ手を離され、目を開けるとそこは広々とした草原であった。周りには暗闇の中僅かに吹く風に身をうごめかせる木々に覆われ、ぽっかりと開いたこの草原は広場のように思える。
周りには街灯なんてものはもちろん存在しないがかといって目の前が真っ暗という訳ではない。街灯が無い為かまるで光を放つような月と星が六原たちを照らしていた。
僅か数秒で六原と月島は全く違う場所に移動したのであった。
——魔法ってスゲーなぁ。
「このままだと足元が汚れてしまうよ」
隣に立つ月島は足元を見るように言う、足元には僅かな光りを放つ魔法陣が二人を囲む。
その魔法陣のお陰で裸足の二人は足元を地面に触れることは無かった。 そして、二人の足先にはそれぞれの靴が置かれていた。
——本当に靴も転移させたのかぁ。すごいなぁ。
お互いが靴を履くと魔法陣は傍にあった切り株を中心に消えうせ、代わりに足元にやわらかい地面の感触がした。どうやら切り株にあらかじめこちらに移動できるように魔法陣が描かれていたようだ。
——便利だとは思うけどいろいろと法則があるみたいだなぁ
転移魔法について後で詳しく聞いてみたいと思いながら六原は隣の月島が動き出したのを感じた。
「ようこそ」
いつの間にか芝生のような短い草の上を月島は歩きながら、六原の前に立っていた。
月明かりの光が彼女の背を照らし一層神秘的に見える。
「ここが、『魔女の踊り場』さ」
箒を抱えつつ片手を広げて自慢げに言う彼女の表情に、嬉しそうだねぇ。と六原は思い。少し幻想的な雰囲気のするこの広場で早速、空を飛ぶ箒の使い方を学び始めた。
- Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー ( No.25 )
- 日時: 2014/04/15 00:49
- 名前: uda (ID: T3U4YQT3)
*騎士とメイドの物語 06*
——足場が無いと言うのはこんなにも不安になるものなのかぁ。
それが初めて箒で空に飛び上がった六原の感想であった。
月島から最初に自転車でいうならば転ばないようする為の左右のバランス感覚を習い、後は軽いブレーキと基本的な操縦の仕方を教えてもらった後、さっそく箒に乗った六原はロケットのように垂直に地面から飛び上がった。
飛び上がった勢いを端から見れば振り落とされてもおかしくないのだが、箒にしがみつく六原にはあまり激しい反動というものを感じていない。
空を飛ぶのは初めてある六原であるがここまで加速したのに反動が来ないことが不思議なことだとは思っている。そして、箒に乗る事に対し予想外の事はコレだけではなった。
月に向かって一直線に飛び上がっているのだが、風の頬を掠める冷たさも風圧も思った以上に六原には感じられなかった。
——まぁ、聞いた通りだね。
理由は分っていた。つい先ほどに渡され身につける事になったマントと帽子を思い出した。
飛び上がる前に身に着けるのだよ。と言いながら月島から渡されたのは黒いマントと尖がった大きな帽子であった。持って来たナップザックの中に入っていたソレらは身に着ければ魔法使いを彷彿させる出で立ちにさせられる。
ただし、纏ったマントと帽子は只の飾りではない。飛び上がった瞬間にどういう構造をしているか分からないが、一度だけ煌めくと六原体を振り落とそうと押し寄せる風がただの心地よいそよ風にしかならなかった。
(ご主人様。高度確保完了です。飛行角度、垂直から滑空に変更してください)
銀色の箒の先端から機械的な女性の声が聞こえる。箒の意志であるようなその声の正体は六原の飛行を補佐する箒内の使い魔であった。ただし、ワーのような人格万能型の使い魔ではなく無人格補助型と月島は言っていた。
六原としてはよく分からなかったが深く聞いた所で分からないものなので使い魔にも色々種類があるのだなと思っておくことにした。
——やはり、御主人様と言ってくれる様にして正解だったな。何故か気持ちが高ぶるよ。
御主人様という言葉を言われる度、六原は心なしか胸がこそばゆい感じであった。
先ほど、魔女のよって言語と契約を変更し、仮登録のような形ではあったが六原がこの王気の所有者となっている。月島が言うにはこれによって空を飛ぶ六原の手助け、場合によっては口答の命令でさえも箒を使い自動で動いてくれるとの事である。
(ご主人様。飛行角度の変更をして下さい。)
「嗚呼、ごめん、ごめん。了解ですよっと」
月島に教えられたことを思い出しながら六原は箒の後部、現在踏み込んでいる両足のペダルをゆっくりと戻す。車などでいうアクセルの部分であるペダルを戻すことによりと少しずつ速度が落ちる。
同時に体重を箒の先端にかけ、垂直に飛び上がって箒の向きをを地面と平行にするように横たえた。
(お見事です。)
「どうも」
短いお礼の後にようやく一段落した六原はふと、後ろを振り返る。箒の後部、銀の枝が包まれた場所からは二つの光りが吐き出されていた。恐らくこの噴出で空を飛んでいるのだろう。
(ご主人様は初めて箒に乗るものだと聞いておりますので、当初の予定通りここからはスピード最低速を維持したまま簡単な平行運転とカーブとターンを教えていきます。)
「了解」
まずは低速で空を飛びまわりましょう、ということでゆっくりとした速度で辺りを飛び回る六原。度々箒からの指摘を受けつつも難なくその場をループする。
飛び回ることに落ち着いた安心感からかそこでようやく下を見た。
——怖ッ
まるで深い闇そのものだと六原は思った。
地上は遥か下にあり、自分たちが山に囲まれている場所にいたことが理解できたが、街灯もないこの場所での下の景色は暗く自分が先ほどまで立っていた場所や、月島の姿すらも確認できなかった。
——いやいや、怖くない怖くない。手の震えは気のせい気のせい。オレはやれば出来る子。
手を離して下に落ちれば大変なことになると改めて飛ぶことに集中し、六原は慎重に箒の体重移動を行ないつつカーブした。
箒の進行方向の指示を聞きつつ、ゆっくりとカーブし終えた六原の耳に少女の声が響いた。
「なかなか、上手いじゃないか」
「だろ。やれば出来る子ですか・・・ら」
つい反射的に返事をして振り返る、六原は唖然とした。地面の無い空中に何故か月島が立っていた。
「えっ、飛べるんですか」
「まぁ、コレのお陰かな」
そう言って魔術書の黒いノートを右手で弄ぶ月島は六原の横にいつしか浮かんでいた。
いつの間にか六原と同じマントと帽子を纏っていた。
「飛んでいるわけじゃなくて浮かんでいるようなものだけどね」
空に浮かぶ月島は飛行ではなく浮遊であった。
足元には彼女の足場になるように円形の魔法陣が浮かんでいる。魔法陣は六原の後を追う月島の動きに合わせるように移動する。
六原のように箒にしがみつくことなく、月島は只宙に浮かび歩いていた。
——優雅ですねぇ。
「あれ?」
月島の姿を眺めていた六原は目の前の光景に一つの疑問が浮かび上がり月島に訪ねた。
「魔法で飛べるなら、どうして、こんな箒があるのかな」
「ワタシも昔はこの魔法を使えていなかったんだよ。それで、今使っている魔法が扱えるまでの代用と、もし魔力が尽きた際にこの箒によって逃走したりしないといけないから一応取っておいたのだよ」
「色々大変だったんだなぁ」
月島の苦労話の一部を聞き、素直に慰めの言葉を言ったが、やはり月島はどうでもいいようにそうだね。という言葉が返ってくるだけであった。
「それで、箒に乗ってみた感想はどうだい?」
「何か、バイクみたいですねぇ」
バイクには乗った事は無いのだが、乗り方やバランスの取り方は自転車に近く、魔力を糧として自動で前に動く箒は六原としてはバイクと感じた。ちなみに空を飛ぶ前に箒には月島によってが魔力注ぎ込まれていたので魔力に関して何の知識も無い六原でもこの通り簡単に飛べることができる。と月島は説明してくれた。
——何と言うか誰にでも乗れるって事実は少しがっかりですねぇ。何というか、こう選ばれた人間が乗ることができるのだよーって感じが良かったんだけど。けど、そんな風に選別されるものだったらオレみたいな半端モノは無理だったかなぁ。
乗れることに関しては正直嬉しいので、まぁこういうことはやぶ蛇なので言わないでおく。
「バイクね……確かに、実際箒のほうがこの魔法よりスピードも出るし小回りもきくから合っているといえばそうなのかもしれないね」
「なるほどね。ちなみにこっちのスピードはどのぐらいまで出るんですかね」
今が最低速で感覚から察するに早足で歩いているぐらいのスピードである。なので最高のスピードは自転車ぐらいかなと六原は考えていたが、予想は外れた。
「大体この世界の車ぐらいは出ると思うよ」
「すげぇな」
——しかし、その速度で電柱にぶつかったりしたら一発で死ぬだろうな。いや今のうちに思いっきり飛ばしてみるのも一つの手かなぁ。
「先に言っておくけど初心者に乱暴な運転をしないように箒の使い魔にリミッターを掛けているから、スピードはあまり出ないよ」
「ですよねぇ」
等と月島と話し、少しずつリラックスしていく六原は難なく森の上空をぐるりと回りながら一周した。
(では、コレより8の字型に五周して下さい。)
「了解。∞(無限)のループを五回ですね」
「・・・何故言い換えたのだい?」
「その方がカッコいいし、テンションが上がる!!」
右手でガッツポーズをしながら、六原は言われたとおり左右に体重をかけながら8の字型に曲がりくねった。
空中に浮かんでいる為、今どういう風な位置にいるのかキチンと∞型に回れているのかという不安はあったが、箒の指示の元最初はゆっくりと無事に回ることができた。そして、そこから徐々にスピードを上げていく。
「そうそう、そこで体重をゆっくりと入れ替えるんだよ」
「了解でーす」
細かいところは月島に注意されたりはしたが概ね問題なく最後の一周を回る。
「ちなみにブレーキとかって無いの」
「一応あるよ。只緊急用のブレーキのようなものだから基本的には使わないほうがいい。詳しいやり方は箒の方に聴いてみれば分かるよ」
(ご主人様。只今月島様が言っているのは「魔陣壁」というシールド型の方向転換装置で、これは使用者の体にも負担がかかるのでよっぽどのことが無い限り教えません)
——そこまで言われると逆に気になるがねぇ。
「そうなのか。まぁ、病み上がりの内はやめた方だいいけどね。また、その内教えてくれよ」
等と話しているうちに最後の一周も終わりを迎える。
——いやぁ、意外と簡単ですね。
と余裕が生まれ始めた六原に箒は無事5週回ったことに対しての連絡をする。
(オーケーです。では次は捻りを加えた空中の一回転をしましょう。)
「あれぇ、何かハードルが上がったな」
頭の中でジェットコースターのぐるりと縦に回る映像が思い出され、冷や汗が流れてくる。
——コレってもし、回っている最中に手を滑らせたら、地面に真っ逆さまだよなぁ。
少し不安そうな顔をしていた六原の傍に月島は魔法陣を使い歩み寄るとその肩を叩く。
「大丈夫だよ。何かあればワタシがたぶん何とかするから」
「『たぶん』じゃなくて『きっと』と言って欲しい」
「まぁ、そこは何とかするよ。さぁ、チョットカッコいいところをワタシに見せてくれないか」
「絶対にこの状況を面白がっていますよねぁ」
——しかし、・・・・・・そう言われたら断るわけにも行かない。
全く持って乗せられやすいなと自分でも理解しつつ六原は箒の説明を聞きながらアクセルを踏み込んだ。
「じゃあ、チョット格好付けてみましょうか」
一気に上半身を箒から離し、今度は箒の先端がこちらに来るようにと引っ張り上げ軌道を上に修正する。最後に覚悟を決めて、足元のペダルを少し強く踏むと六原は大きく回る為に体に捻りを加えた。
- Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー ( No.27 )
- 日時: 2014/04/14 02:48
- 名前: uda (ID: T3U4YQT3)
「もう、無理っすよー」
力の無い声と共に六原は地面に向かい倒れた。先ほど敷かれたレジャーシートの冷たい感触がマントを通して伝わった。
どうやら、マントと帽子も箒から降りれば先ほどまで発動していた防風、防寒の能力はなくなってしまうことらしい。
嗚呼、このままだとマントにシワが残ってしまうと思い、六原は起き上がるとつけていた帽子とマントを外し、綺麗に畳むと傍に横たえた箒の近くに置いた。
「けど、何とかできました。捻りを咥えた一回転半」
箒の柄を何度も上下左右に動かしながら、落ちないようにしっかりと握り締めていた為予想以上に腕が疲れたが、それでも六原は何とか数え切れない失敗の後、なんとか形なりにも成功したのであった。
そして、明らかに疲労の見える六原の様子に休憩しようかと月島は提案した。
真っ暗闇の中、月島の放った打ち上げ花火のような光の弾で下を大きく照らし、いきなり本番ではあったが箒の指示の元何とか着地することができた。
その後、いつの間にか月島が用意したというこの広場にある唯一の建築物である山小屋のような建物から持って来たレジャーシートの上に倒れこんでいた。
「最初にしては上手かったよ」
疲れ等は全く無くみられない月島は先ほどの箒の運転に感想をつけるとそのまま六原の隣に座り込んだ。
——やっぱ魔法っていうのは便利に見えるよなぁ。
向こうは魔力と言うものをかなり消費したのかもしれないが、六原が見る限りどちらかというなら箒で空を飛ぶより、月島のように空を浮遊したほうが疲れていないように感じた。
——それにしても上手いかぁ。少し照れる。
けどなぁ、と同時に思ったことを聞いてみた。
「マジか!?やっぱり才能ある?」
わざとらしい声に月島は苦笑いを浮かべる。
「・・・・・・大体中の上ってところかな」
「そうですか」
それは六原の予想通りの回答であり、彼にとってはいつも通りの相手の反応であった。何をやっても中の上、人並みにはできる六原であったが、器用貧乏である為、何をやってもそれ以上に上手くならない。
——いっその事、こう、いきなり謎の力によって覚醒とかすれば便利なんだけどなぁ。
等という六原の自己満足的な思いには気が付かない月島は上を向いていた。釣られて見ると少しだけ欠けた綺麗な月が空に浮かんでいた。
箒に乗る前はまじまじと見ていなかったが、町で見る夜空とは一味違う、輝く夜空につい感嘆の声を上げてしまう。
「いい景色ですなぁー」
そうだね、と月島は感想に嬉しそうに相槌を打った。
「うん、悪くないな、魔女には良い月だ。」
月を見上げ嬉しそうに言う月島の言葉とは逆に六原は考えるように低くうなりながら頭を掻いた。
——だからさぁ、どうして、魔女と自慢げに言えるのな。一般的に魔女は忌み嫌われる存在なのだから、やめて欲しいですよ。
まるで月島自身が嫌悪の対象のように言われているようで何故か六原は感に触った。
「・・・あのさぁ」
六原は少し気になりを聞いてみた。
「どうして、そんなにノリノリで魔女だと言えるんだ」
辰野や他の敵からもだと思うが魔女と言われているのに何故、嬉しそうに言えるのか。
月島は少し考えた後、月を見上げたまま答えた。
「カッコいいじゃないか。魔女だぞ。ダーク系だぞ」
「いや、いまいち納得できないけど・・・」
もう少し、問いを投げかけようと思った六原であったがその前に月島に逆に問われた。
「逆に聞きくけどね、どうして、キミはヒーローに焦がれるんだい?」
六原は何も考えずに、月島を見ると答えた。
「カッコいいじゃないか。ヒーローだぞ。英雄だぞ」
「つまり、そういうことだよ」
「そういうことか」
——何となく話をはぐらかされたような気がしたのだが、まぁ、誰にだって好みの違いや、言いたくない事だってあるからね。オレとかも姉に何をやっても最終的にボコボコにされているなんて言えるわけが無いかなぁ。
少し苦い思い出が脳裏を掠める。
「ねぇ、六原さん?もう一つ質問があるのだけど、いいかな」
こちらを見ずに月島は問い掛ける。その表情は未だ頭に被る黒い三角帽の淵で良く見えなかった。
疲れた腕を軽く揉みながら月島にどうぞと促す。少し、肌寒い風が吹き一呼吸置いた後、月島は問い掛ける。
「六原さんと出会ってから二日しか経っていないのだけど、どうして、そんなにヒーローになろうとするのだい」
再び同じ問いに六原は言いよどむ。
「それは・・・」
カッコいいからだ!!と言う六原の不真面目な回答を口にする前に、月島は問いを重ねる。
「キミがヒーローに憧れて結果として情報収集が得意になったということは知っているよ。けど、キミは諦めた方が良かったのじゃないかな。だって、キミは只の普通の人なのだから」
——参ったな。あまり、こういう本音トークは苦手なのですがね。
上手くはぐらかそうにもここまで質問を投げかけられたのは初めてでありどうすれば納得してもらえるか分らない。
——まぁ、別に減るもんじゃないし、只チョットだけ本音で話すことが恥ずかしい。
しかし、彼女の声は真剣だと感じたから。
——だけど、言いくるめることは無理だなぁ。
仕方ないよね。と六原は覚悟を決めて本音を語る。
「だってさぁー」
頭の中で様々な昔の光景が蘇る。今まで見てきた景色や人物の思い出。何故覚えているのかと言う原因、ソレはたった一つの感情が震えていたから。
「悔しいじゃないか」
ソレは只の嫉妬であった。多分呆れるだろうなと思いながらも、月島に語り続けた。
「ヒーローになりたいっていう夢を、身近でかなえた奴がいた」
もし、普通に生きていたら、非日常的なことに関わることの無い生活を送っていたなら、ヒーローになりたいとはこの歳まで本気で思っていなかったことだろう。だが、タイミング悪いと言うのか六原がヒーローに憧れた頃には姉は既に英雄と呼ばれていた。
同じ体質なのにどうしてオレは脇役のように巻き込まれて終わりなのだろうかと疑問に思うと同時に、身近にいる姉でもなれたのだから自分もなれるはずだと諦めきれないでいる。
「そしてなにより、こんなに身近に危険になった友人も救えない。それが嫌なんだ。だから、体が勝手に動いてしまう」
いつも空周り。
いつも役立たず。
気が付いたら物語は終っている。
未だ何も活躍したことの無いが、目の前で苦しむ知り合いがいれば手を差し伸べ、助けてやりたいとお人好しの六原は考えてしまうのだ。
そんな自分だからこそ人々を助けるヒーローになりたいという思いがあった。
「と、まぁ、そういう個人的な理由だよ。」
——実際、宿命とか運命というカッコいい理由ならどんなに良かったのか。この後はきっと「凄い自己中心的な理由だね。」なんてバカにされるのだろうな。
だが、月島は何も言わなかった。
静寂と夜風が六原の体を包む。
——あれ、もしかして、オレすっごいドン引きされている。「何というか反応に困る。」とか言われそうだ。
やがて、月島はゆっくりと口を開いた。
「・・・何ていうか、反応に困るね」
「デスヨネー」
もしここで、箒の疲れが無かったら、転がりながら森の中に身を隠そう。というほどの恥ずかしさが六原を襲い顔が熱くなっているのを感じる。
気落ちする六原に続けて感想を月島は語る。
「・・・けど、」
月島は六原に振り向いたその表情は穏やかな笑みで、
「カッコいいじゃないか」
「・・・・・・・」
数秒の沈黙の後に一気に顔が熱くなる感覚が襲う。
「あ、ありがとうござます」
——やべぇ、いきなりそんなこと言わないでくださいよ。すげぇ、照れるじゃないですか。つーか落として持ち上げるなんて卑怯ですって。初めてそんな風に好評か貰ったし、姉なんて鼻で笑った話なんだよ。何ていうかこちらが反応に困るわー。
頭の中がミキサーで混ぜられたように乱れ、言葉が頭に浮かんでくるが口が動かない。何とか、小さくお礼だけを言ったときには頬が上気するほどの熱さを感じていた。
「もしかして、照れているの?」
「い、いえ!!全然ですよぉ」
——このままではいかん、理由は分らんがイカンのです。
一旦話題を変えなければと反射的に思い、慌てたように六原は話題を変える。
照れ隠しというだけではなかった。六原はこのままだと言ってしまいそうであったからだ。
何故ヒーローになろうとしたという理由を。
——だけど、それは言ってはいけない。
その考えは自己中心的な考えだからである。自分でも分かっているどうしようもない理由を呑みこみながら、六原は別の言葉を口にした。
- Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー ( No.28 )
- 日時: 2014/04/15 00:16
- 名前: uda (ID: T3U4YQT3)
「そ、そういえば。月島はどうしてオレみたいなヤツに頼ったんだ?自分で言うのもなんだが、オレより適任な奴って一杯いるじゃないか」
適任なヤツと言う言葉で出てくるのは姉なのだが六原は名前を出したくなかったのであえて伏せておくことにした。
——まぁ、明日、辰野に聞くことにしても、どうしてオレなんかに月島が頼ったのかはコイツ自身に聞かないと分らないからなぁ。それと、オレを月島に紹介したヤツとか少し聞きたいからね。
照れ隠しの為に適当に振った話題。だが、月島は真剣に答えてくれた。
「元々はワーが勧めて来てくれた話なんだよ。ワーが騎士のいる学園を調べていたときに偶然だけど君の事を知ったらしくてね。それで提案してきたのだよ、ワタシの通っている学園に力になってくれる人がいるってね。」
——嗚呼、なるほどね。
口には出さないが何となく察した。
「そうなのか。しかし、ワーさんからは扱いは酷いほうだったが・・・・・・いや、言わなくいい。理由は分った。」
——多分、ワーさんの想像以上に役に立たなかったんだな。今のところ対して何もしていないし。
六原にとって安易に想像できた答えであった。
月島は言葉を続ける。
「後、君を選んだ理由を挙げるとすれば私が気になったのからだよ。自分の周りの環境に合わせようとも合わない人間。だけどそれでも逃げずに諦めない君がね」
迷っていた。何にという疑問はあったがそれよりも六原は違う言葉に引かれた。
「えっ、気になるなんて。照れるじゃないかよ」
「・・・・・・」
本日何度目かの静寂だが空気の重さが一味違った。明らかに何か外したような冷たい空気が流れる。
月島は溜息を吐くと、顔を逸らした。
「・・・もう、バカだねぇ」
「バカとはなんですか」
何がろうねぇと話を流すと月島は持っていた魔術書を地面に置き地面に魔法陣を描く。
「さて、疲れも取れただろう。もう一飛びしてから、帰ろうじゃないか。」
「そうだね」
立ち上がり、地面から微妙に体を浮かべ始めている月島の後を追うように箒に跨り片足でペダルに足をかける。
一呼吸の間をおいて箒の先端部に拳ぐらいの大きさの魔法陣が現れる。その魔法陣の中心を親指で押さえた。
ガチャリと鍵が外れるような音がすると魔法陣は弾け跳び、機械的な女性の声が聞こえる。
(認証確認。こんばんは、ご主人様)
「はい、こんばんは」
(それでは発進します)
足元に魔法陣が勝手に浮かび上がる。ふわりと一瞬だけ体が浮遊する。その間に両足をペダルに乗せるのを合図に箒にエンジンがかかり、眩い光りを吐きながら一気に上空に飛んだ。
「二度目にしては上手だよ」
無事、平行に箒を傾け、滑空した姿に隣に並ぶように飛ぶ月島は賞賛した。
「ありがとうねぁ」
「お礼を言うのはワタシのほうだよ」
近づき、箒を撫でる。
「この子も新しい主が出来てよかった。」
何のことを言っているのかすぐには分からなかったが、少しの間を置いて六原は意味を理解し、驚き声を上げた。
「え!?くれるん?」
急いで六原は月島を見ると、月島はゆっくりと首を縦に振った。
「魔力等は私が持ってきてくれれば入れておくから心配は要らないよ。それとも、いらなかったのかい」
箒がまるで捨てられることを心配したようにびくりと震える。六原はなだめるように箒を撫でると、月島に首を大きく横に振ってみせた。
良かったよ。と小さく月島は呟いた。
「私はあまり構って上げられなかったからね。だから、ありがとう」
(マスター、今までありがとうございました。)
小さな声で箒が言う。マスターと呼ばれた少女、月島に届いたのか分からない言葉だったが、きっと届いたのだろうと六原は思った。
(では、ご主人様、張り切っていきましょう。まずは地面擦れ擦れのさかさま飛行なんていかがでしょうか。)
「だから、なんでそんな危険な飛び方しか教えないんだよ」
それからある程度飛び、寒くなってきたところで打ち切り、オレ達は魔女の部屋に帰ることになった。飛びながら最後に彼女の笑顔に見とれてしまったことは胸の内にしまって置こうと思った。
しかし、帰るとワーさんが恐らく鬼のような表情で待っていることはできれば忘れておきたい。
まぁ、ともかく初めての夜間飛行は楽しかった。
- Re:脇役謳歌〜 できそこないヒーロー ( No.29 )
- 日時: 2014/04/15 00:51
- 名前: uda (ID: T3U4YQT3)
*騎士とメイドの物語 06.5*
早朝は肌寒く、どこかでスズメが鳴いていそうな日常的な朝であった。
瑛集学園がある市、天文市。広い市であるが為に東西南北中央の五方向で、地帯の建物の傾向が大きく偏っている。
様々な学園や住宅街等の居住スペースが密集する西側とは違い。南側には幾つものビルや工場が立ち並んでいた。
その中でも南側地区の中心では日の光を隠すほどの高層ビルが数多くそびえ立っていた。
竹林のようにコンクリートから生い茂るビル達の中の高層ビルの一つ。できたばかりだろうか真新しい白い壁、鏡のようなガラスが貼られた二十階ほどもある建物がある。
正面玄関には観葉植物がいくつか植えられており、向って正面には大きな銀色の看板に「有限会社マギクセキュリティ」と社名が記されていた。
十五階「会議室」。
長机が綺麗な線のように長く横につなげられ四角状に並べられている。そして、机を囲むように椅子が一つの机に二つずつの均等な間隔で置かれている。
電気をつけていいない為か、周囲は薄暗く、少し不気味な雰囲気であったが会議室には夜明け前の時間帯にもかかわらず大勢の人が座っていた。いずれも皆スーツ姿や白衣の姿の男女で早朝から呼び出されたのか何人かは眠たそうに目蓋を手で擦っていた。
誰もが座り部屋にある壇上を見上げる、視線の先には白いスクリーンを背に一人だけ立つ男性がいた。
三十手前であろう少し細身の男性はきっちりとした高級スーツに身を包み、四角いメガネを掛けていた。鈍く光る銀縁メガネの奥はまるでナイフを思わせるように鋭い瞳をしており、動物にたとえるなら狐のような印象を与える。
男性は周囲を見渡した。
「フン、全員揃ったようですね」
敬語だがどこか棘のある口調で言う男性に彼の一番近くに座っていたオールバックの男性が小さく手を上げて発言した。
「社長。いきなり緊急招集なんてどうしたのですかー?」
上司に対して少しやる気の見えない間延びしたセリフであったが特に気にする様子も無く社長と呼ばれた男は質問に答えた。
「キミ。ソレは今から話すよ」
社長は一度めがねの縁を指で押さえ軽く支え直した。
「今日君たちに集まってもらったのは他でもない」
一度、小さく深呼吸をして気分を落ち着かせると社長は口を開く。
「ついに姫を発見することができました」
はっきりと口にした姫という言葉に周囲がざわつく。
「落ち着け、君たち。」
予想通りという反応に頭が痛くなる社長は落ち着くように皆をなだめた。
「社長。姫というのはやはり」
「そうだ。会社のことではない。我ら『レギオン』の事だ」
「ずいぶん、急な話じゃないですかー」
「最初の目撃情報があったのは二日前でしたのでね」
社長は右手を軽く振るう。
「では、君達。詳細情報を話しますよ」
振るった手の内から一本の棒が現われた。よく見るとそれは棒ではなく先端に紫の宝石の付いた黒い三十センチほどの杖。突如として手の平から杖を出すといった非現実的な出来事が起こったのにも関わるず、部屋の中にいる者達は何一つ驚いた様子は無かった。
社長は小さく唇を動かすと、紫の宝石は白く光る。
先端から放つ光を社長はプロジェクターのように正面に置かれたスクリーンに光を当てた。光は細い線をなりスクリーンを縦横無尽に動き回り一つの魔法陣を作った。だが、魔法陣は形が崩れていき四角い枠組みが形成され、その内側に細かな光りの線が入り乱れ、線の動きが止まった時にはこの辺りの周囲の地図が出来上がっていた。
魔法使いのあまりいないレギオン内部、その組織内でも半数以上が魔法使いで構成されている異質の部隊隊長でもある社長にとってこのぐらいは目を瞑ってでもできるほど、彼は魔法に長けていた。
地図が出来上がると社長はスクリーン内の一点を杖で叩く。途端にその場所に光りの線が入り瑛集学園という文字と叩かれた場所が赤く点滅した。
「相変わらず凄いですね」
「キミ、当然だよ」
「いいから、早く始めてください。この後別会場で会議なんですから」
「う、うるさい。分かっているよ」
全くとメガネの縁を指で押さえると社長は説明を始めた。
「二日前。この学園にある裏庭にて大規模な魔力による戦闘があったと本部から連絡があったのですよ。そこで私独自で調べてみたところ姫が所有している杖の残骸が現場から発見されました。このことから、姫がこの学園にいるのではないかと推測できます」
分りましたか君たち。と高圧的な一言を付け加える。
「それで、発見できたというわけですか」
奥にいるスーツ姿の女性の言葉に口端を吊り上げ自信満々に社長は答える。
「当たり前でしょ。ボクの力を持ってすればコレぐらいの事は造作もありませんからね」
実際には社長一人の力によるものではないのだろうと何人かの社員は思っていたが、口にすれば機嫌を悪くした社長による高圧的な話や、愚痴がさらに長くなる事は長い付き合いである皆は予想できたので何も言わずに社長の次の言葉を待った。
部下を使い、戦闘があった周囲に聞き込みとどのような人物がいるのか調査を行ったことで、姫の居場所を掴むことができた社長は杖を振るう。先端から放たれる光が一度ぶれ、再びスクリーンに映されたときには先ほどとは違う地図に変わっていた。
もう一度杖でスクリーンを叩き、地図内の一手を光らせる。紅く光る点はどこかの住宅街らしい建物の一つを照らしていた。
「姫の居場所は調査の結果この住宅外周辺のアパートに住んでいることが分かりました。また、彼女はこの世界に来てから月島 小夜子と名乗って普通の女子高生として瑛集学園に通っています」
いや、社長あの学園に通っているなら普通の女子高生じゃないでしょう。彼の社員たちの多くは内心社長の発言に突っ込みかけるがどうせ言った所で少し照れながら怒鳴ってくるという何とも面倒臭い状態になるので皆胸のうちにしまっておいた。
そんな彼らを社長は一瞥し、フンと小さく鼻で笑う。
「何か言いたいようですが、時間もありませんので話を続けるとします」
そして、社長は傍に座らせていた秘書を呼び、彼のデスクの上に置いてあるA4用紙の書類を配るように促した。
皆に配られた書類には瑛集学園の制服に身を纏っている少女の写真と彼女の使う魔法の種類、対策を簡潔に纏めた物。また、今回の姫の身柄の確保についての作戦、役割等が細かに描かれていた。
「社長。いくらなんでも女子高生の盗撮は・・・・・・」
「違う」
「チョットした場所から仕入れただけだ。ボクじゃない」
社長の言葉に周囲がざわついた。
「女子高生の写真を仕入れって・・・・・・引くわー」
「おい、今引くって行ったヤツ前に出ろ!」
「社長時間が・・・・・・」
「分かっている!」
秘書の声に語気を強めて叫ぶ。そして、一度気分を落ち着かせ社長は作戦内容についての話を続けることにした。
「あー、じゃあ説明するから聞いてくださいね」
「「「わっかりました」」」
返事だけは一人前になったな。と社長は思ったがどうせ言ったところでいじられるだけなのでやめておくことにした。
そして、社長は社員たちの書類に目を通させるように促しながら今回の作戦について説明を始めた。
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