複雑・ファジー小説
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- ス ト ー カ ー の 恐 怖 を 。
- 日時: 2016/06/09 23:38
- 名前: 美咲 (ID: cdCu00PP)
はじめまして!!
ストーカーを題材に書きたいと思っています!
グロ描写・過激描写にご注意ください笑
コメントくれたら嬉しいです!
よろしくお願いします!
プロローグ >>1
#01【 或る夏のこと 】 3 → 26
#02【 狂気 】 27 →
#03【 服従 】
登場人物↓
*佐倉 和 さくら のどか
建築会社で働くごく普通の女性。
出会い系サイトに登録したことをキッカケに生活が変わっていって・・・。
*久住 真 くずみ まこと
カメラマンのアシスタント。
出会い系サイトで和と出会い・・・。
*深町翔太 ふかまち しょうた
和の同僚。
だんだん変わっていく和を心配するが・・・。
*大和飛鳥 やまと あすか
出版社の雑誌記者。
ある事件を追って和たちに近づく。
- Re: ス ト ー カ ー の 恐 怖 を 。 ( No.27 )
- 日時: 2016/07/12 20:45
- 名前: 美咲 (ID: cdCu00PP)
#02 【 狂気 】
「和」
後ろから名前を呼ばれた。
あたしは何か冷たいナイフで背中を刺されたみたいに体中に痛くなった。
目は赤くて、涙でぐちゃぐちゃになった顔は、驚きに満ちた。
あたしは目を見開いたまま、その聞き覚えのある声の方向を見た。
わかっていた。
そこに誰がいて、どんな表情をしているのかなんて。
そこにいる人間に、自分がどんな気持ちを抱いていたのかなんて。
わからなかったのは、そこにいる人間が何を考えているのかということだけ。
振り向くとそこには、にっこりと笑った真君が立っていたんだ。
あたしが言葉も出せずにただ真君を見上げると、真君はニコニコしたまましゃがみこみ、あたしと視線を合わせた。
そして指であたしの涙を拭きながら「どうしたの、なんか辛いことでもあった?」といった。
どんな気持ちでそんなことを言っているのだろう。
あたしは状況が理解できずに、ただ黙ってそんな真君を見ていた。
真君はいつものように優しい笑顔であたしを顔を見ている。
わけわかんないよ。
なんであたしがこんな目に—————。
「和は、泣いた顔より笑った顔の方が可愛いよ。ねえ、せっかく遊びに来たんだから笑ってよ。何か美味しいものでも食べにいく?DVDでも見る?」
真君は当たり前のように一人で問いかけてくる。
「ねえ和。どうしたの?変だよ?」
真君にそういわれ、あたしはようやくかぼそい声で言った。
「・・・・・どう、いう・・・・こと・・・・・・?」
あたしがそういうと、真君は「え?なにが?」ととぼけた顔であたしの腕をさわった。
「触らないで!」
あたしはそう言って真君の手を振り払った。
真君は驚いた顔であたしを見る。
「和?どうかした?具合でも悪い?」
真君はそう言ってあたしの肩に手を伸ばす。
あたしは「触らないでよ!」と言いながら立ち上がり、風呂場を出た。
リビングへ行き、頭を抱える。
混乱しすぎて何がなんだかわからない。
「和、どうして逃げるの?」
真君はそう言いながらあたしに近づいてくる。
あたしは近くにあったクッションを投げて「来ないでよ」と言いながら寝室の方へ逃げる。
「和」
真君はついてくる。
「来ないでって言ってるじゃない!・・・あなた誰なの?なんなの?どうしてこんなこと・・・・」
あたしは後ずさりながらいう。
「なに言ってるの?和——」
真君はあたしを壁際に追い込み、あたしの腕を掴んだ。
薄暗くて彼がどんな顔をしているかよくわからない。
あたしは泣きながら必死に逃げようとする。
「離して!触らないで!ちょっと!」
あたしのそんな言葉を無視して、真君は言う。
「和、俺のこと好きだろ?なんでいうこと聞けねえんだよ?」
声のトーンが低くなった。
怖い。
「いや!離して!」
「和!」
真君はそう言って右手であたしの腕をつかみ、左手であたしの髪の毛を強く引っ張った。
「おい、俺に逆らえるとでも思ってんのか?」
あたしは泣きながら目をつぶり、真君の顔をさける。
————やだ。
まるで別人のような顔した真君は、あたしの髪の毛を更に強く引っ張り上げる。
「いやだ・・・・・」
「和!なんだよ、カメラ見つけたくらいでおかしくなりやがって。別にいいだろ?心配なんだよ!お前みたいなクソ女はな、いつ浮気するかわかったもんじゃねえからな」
真君は怒鳴るように言った。
「いいか、お前はもう俺の奴隷なんだよ。触らないで?笑わせんなよ。わかったら大人しくしろ」
真君は顔を近づけていう。
あたしは顔をそむけて、ずっと泣いている。
逃げなきゃ。殺される。
わけもなく、そんな気がした。
あたしはずっと逃げようと力を入れるけど真君の力には勝てない。
「おい、大人しくしろよ!」
真君はそう言って無理やりあたしにキスをした。
最初の優しいキスとは違って、強くて愛のないキス。
あたしは必死に顔をそむけるけどそれでも強引にキスしてくる。
「やめて・・・・!」
あたしの言葉なんか無視して、真君はあたしの胸を掴んだ。
「やだ!離してよ!」
あたしは胸を掴む手を叩く。
真君は無視してあたしの胸を触ったり、キスを繰り返す。
あたしは涙が止まらなくなった。
こんなのいやだ。
こんなはずじゃなかったのに。
「やだ・・・・・・・」
あたしが抵抗していると、真君は「うるせえな」と言うとあたしの髪の毛を掴み、そのまま洗面所へ。
「痛いっ!離して!」
あたしは引っ張られながら言う。
真君は舌打ちをしながらあたしの腕を二本まとめ、洗面所のタオルできつく縛った。
「うるせえんだよ」
真君はそう言ってまた髪の毛を引っ張ってあたしをベッドに投げつけた。
手をしばられたあたしは恐怖の目で真君を見る。
真君はあたしの前髪を引っ張り、あたしの顔をあげさせながら言った。
「いいか、さっきも言っただろ。お前は俺の奴隷なんだよ。お前はもう俺に逆らえないんだよ!」
真君はそう言って乱暴にあたしを投げ、すぐさま馬乗りになってあたしを動けなくすると、ポケットから携帯を出し、画面を見せてきた。
「これでもまだ抵抗するか?」
真君はそう言って狂気ともいえる顔で微笑んだ。
その画面に表示されていたのは、あたし。
トイレも、お風呂もすべて記録されたあたしの映像。
更には、ベッドの上で真君と抱きあいながらいやらしい声を出しているあたし。
あたしのすべてだった。
あたしは今すぐにでも死にたい気持ちになった。
真君は呼吸を整えながら微笑み、あたしを見下ろすと携帯を投げて言った。
「こんなのがネットに流れたお前どうする?生きていけるか?世の中の変態は喜ぶんじゃねえの?」
ハハハハって、ずっと笑っている真君を見て、あたしは涙が止まらなくなった。
「警察に言ったところで、証拠は俺が持ってる。さあ、どうする?」
ああ、あたしが悪いんだ。
翔太にやめとけって言われたときにやめなかった自分が悪いんだ。
神様はあたしに罰を下したんだ。
あたしは一生、このサイコパスの犬になるんだ———————。
- Re: ス ト ー カ ー の 恐 怖 を 。 ( No.28 )
- 日時: 2016/07/28 16:02
- 名前: 美咲 (ID: cdCu00PP)
朝の光があたしを照らす。
そのあとの記憶がない。
あたしは死んだように虚ろな目で、自分の体をいやらしく触る男をずっと見ていた。
何も思わず、抵抗もしなかった。
首や胸に痣ができていて、唇ははれ上がっていた。
手首には縛られた後。
頭がジンジン痛い。
乱れたシーツと、隣で眠る裸の男の姿は、あたしの絶望的な未来を映し出していた。
ああ、あたし昨日この男とセックスしたんだ。
へえ、痛みもなかったな。
だからか、シーツに血がついてる。
あとで洗濯しなきゃ。
って、あたしベッドの柱と腕縛られてるから洗濯もできないのか。
そっか。
泣きたいのに泣けない。
なんでこんなことになっちゃったんだろう。
あたしの人生なんてこんなもんだったのかな。
窓から漏れ出す光に、あたしは絶望しか感じなかった。
今日が土曜でよかった。
仕事だったら大遅刻だ。
あたしは今日からあたしのものじゃない。
この卑劣な男の言いなりなんだ。
あたしは二十四時間こいつの監視下にいる。
誰にも助けを求められない。
夢であってほしいって何回願ったんだろう。
それでもあたしが生きる意味なんてあるのだろうか。
死んだ方が楽なんじゃないか。
いいや、絶対そう。
出会い系サイトなんてやっぱりやらなきゃよかった。
あたしは何もない真っ白な天井を見上げ、そんなことを考えた。
後悔ばかり浮かぶあたしの頭の中は、今にもパンクしそうだった。
そのとき、隣で「んん」と声がした。
真君——それも本名なのか定かではないけど、久住が起きた。
名前も呼びたくない。
「おはよう、和」
久住は何事もなかったかのように、優しく微笑んだ。
あたしはそんな久住を見て、無言で天井に視線を戻した。
「服、着させて」
あたしはぼそっと呟く。
久住はだるそうな顔で「はいはい」と言って静かに起き上がる。
久住は先に自分のトランクスを履くと、ベッドの周りに散らかったあたしの下着とブラウス、スカートをベッドの上に投げると、ブラを手にとってあたしの目の前に座り込んだ。
「はい、起き上がって」
あたしは今更恥もなく、無防備に自分の胸を晒し、起き上がる。
「ずいぶんと素直だね、昨日とは違って。かわいい」
そう言いながら久住はあたしにブラをつけた。
久住は布団をはぎ、あたしの下半身を露わにした。
すると下着を手に取り、ゆっくりとあたしに履かせる。
まるで着せ替え人形のように。
下着だけの姿になったあたしを見て、久住はふっと微笑むとあたしを抱き寄せキスをした。
あたしは静かに涙を流しながらその唇を受け止める。
「・・・・手、ほどいて」
あたしがそういうと、久住は「やだ」とあたしを見る。
「そしたら抵抗するじゃん、お前」
やっぱり昨日の久住は本物だ。
こいつは昨日の久住と同一人物だ。
夢じゃない、現実だ。
久住はそう言い、再びキスするとあたしを押し倒し、せっかくつけたブラを外し、力強くあたしの胸を掴んだ。
「離してよっ」
あたしはそう言って顔をそむけた。
久住はそんなあたしを一度見てから、ため息をつくとあたしの胸から手をどかした。
どかした手の代わりに、あたしの胸には久住の唇があたる。
我ながら恥ずかしいと思いながら、声が漏れる。
「一生離さないから」
彼はそれだけ言って何もなかったみたいにただあたしの体を触っていた。
この歪んだ愛に、終わりはくるのだろうか———。
- Re: ス ト ー カ ー の 恐 怖 を 。 ( No.29 )
- 日時: 2016/08/08 00:30
- 名前: 美咲 (ID: cdCu00PP)
恋は人を狂わせる——。
なんて、耳にしたことない?
僕がその言葉を初めて聞いたのは確か、小学生の時だったかな。
どういうことかっていうと、『好き』って気持ちは目に見えないだろ?
でも自分しかわからない確かなもの。
他人にはどう説明したって理解のしようのない気持ち。
なぜ好きかなんてわからなくていい。
見た目だけじゃない。
理由もなく好きで好きで、どうしたらいいのかわからなくなる。
何も手につかなくて、顔を見るだけで胸の奥が熱くなって。
自分でもこれが好きってことなのかなんて、自覚するのに時間がかかる。
嬉しくなったり、悲しくなったり、その恋した相手たった一人のためにどれだけたくさんの感情に左右されるだろう。
相手といいことがあったってだけで、他のことも不思議と楽しくなって、嫌なことがたっても頑張ろうって思える。
逆に相手とうまくいかなくなったら、それだけですべてがつまらなくて、何も良いことがないように感じる。
人間ってバカだよね。
そんな目に見えないもの一つで、なぜこんなに表情を変えるんだろう?
アダムとイヴの話を知ってるかな?
アダムとイヴは神の手によって作られ、二人はエデンの園と呼ばれる場所に住んでいたんだ。
エデンの園はいわゆる楽園で、食料にも困らず、働かなくても楽しく生きられる場所だった。
ただし、エデンの園には一つだけルールがあったんだ。
それは、木になったりんごを決して食べてはいけないということ。
神は二人にそう言い渡していた。
リンゴには意味があって、それは『命の実』と『善悪の知識の実』の二つ。
しかしある日、蛇がイヴをそそのかして、イヴは禁断の果実に手を出してしまった。
リンゴを食べてしまったイヴはそれをアダムに勧め、アダムもリンゴに手を出してしまったんだ。
リンゴを食べた二人は、『知識』を得て自分たちが裸でいたことを恥じ、いちじくの葉を腰にまとった。
そのあと、掟を破った二人は神によりエデンの園を追放されたんだ。
追放されたアダムは働いて苦労しなければ食料を得られないようになり、イヴは出産の痛みを与えられ、二人をそそのかした蛇は地を這う生き物となった。
以来、人間は知識を得て、感情を手に入れた。
女性は妊娠し、出産するようになった。
これが人間の起源とされる神話。
アダムとイヴはリンゴを食べたことを、後悔していないのかな。
彼らは感情なんてなくても幸せな毎日を過ごしていたんだ。
それなのに禁断の果実を口にしたことで、色んな『苦しみ』を感じるようになってしまった。
働く苦しみ、出産の苦しみ。
それだけじゃなく、二人が裸でいることをやめた『恥』。
恋愛感情だって、そう。
彼らはリンゴを食べる前までは、お互いが裸でいることに対して何も感じていなかった。
お互いのことを何とも思っていなかったんだ。
感情を手に入れて、アダムとイヴは幸せだったのかな?
僕たちも、知識がないまま一生エデンの園で暮らせたらどれだけ楽だっただろう。
けど、『楽』が『幸せ』とは限られない。
楽するのが本当に幸せなのか。
いいや違う。
さっきも言ったように、相手とうまくいっただけで何でもできるような気になる。
確かに逆はつらいけど、辛さを知らず生きていたら僕たちはきっと、反対の幸せも感じることができなかったんじゃないかな。
まあ、あくまでも個人的な僕の意見に過ぎないけれど。
僕がアダムだったら、禁断の果実に手を出したことを、きっと後悔するだろう。
同時に、これでよかったとも思うだろう。
なんでかって?
もし僕に感情がなかったら、それは僕じゃない。
空っぽな僕の顔をした、ただの人形だよ。
君たちはどう思う?
リンゴは君たちにとって、不要なものだったのかな。
- Re: ス ト ー カ ー の 恐 怖 を 。 ( No.30 )
- 日時: 2016/09/18 19:18
- 名前: 美咲 (ID: cdCu00PP)
久住が仕事へ行ったあと携帯を見たら、翔太から不在着信がきていた。
そのあとにメールで『明日ひま?』ってもきていた。
なにかあったのかな。
あたしは翔太に折り返し電話をかけた。
コールが三回ほど鳴ったとき、翔太の声が聞こえた。
『あ、もしもし?』
「・・・もしもし」
声が思うように出なかった。
『お前昨日何してたんだよー。何回もかけたのに』
「うん、ごめん。どうしたの?」
『中原さんの話』
あ、ライン送ったんだっけ。
『急にどうしたんですか?ってラインきて、返すことなくて。なんて返信すればいい』
「・・・・中原さんはすっごく元気な子で・・・・何言ってもきっと・・・・」
いつの間にかあたしは泣いていた。
久住ではなく、他の人間の声を聞いた瞬間どうしようない気持ちがこみあげてきた。
『どうした?』
翔太の声が聞こえた。
「・・・・・なんでも・・・・ない・・・・」
あたしはそう言いながら左手で口を多い、涙声を抑えた。
『なんかあったか?』
言えない。
「ううん」
あたしはそういうと鼻をすすり、翔太には見えない笑顔を作って言った。
「昨日見た映画思い出して・・・感動しすぎてさ」
『は?なんだよそれ。・・・・ほんとか?』
「本当!嘘つく意味ないでしょ。ほら、昔翔太と観に行ったやつ」
あたしはそんな他愛のない話を繰り広げる。
いつの間にか涙も止まっていた。
「ごはんでも誘ったら?中原さん」
あたしがそういうと、翔太は嫌そうに言う。
『いやいや、急におかしいだろ』
「んーじゃあ、中原さんに仕事の用事は?」
『別にないけど』
「ないじゃなくて作るのよ」
『そんなもんねえもんはねえよ。会議の書類作ってもらうくらいだよ』
「それいいじゃん!」
『先週もう頼んだよ』
「バカだねー。頼んだこと忘れたふりしてもう一回いうの」
『なんだそれ、怪しくねえか』
「大丈夫、あたしを信じて」
『いや、まるで俺が中原さんのこと好きみたいな言い方やめてくれ』
ああ、これで明日里琴ちゃんから相談とか来るんだろうな。
はやくて今日。
ラインでも来るかな?
「いいじゃない、これで彼女ができるなら」
あたしがそういうと、翔太は『やめてくれよ』と呆れた声で返してきた。
『あ、そういえば。なあ、今日メシ行こうぜ!』
「は?なに急に」
『暇だからメシ誘おうと思って電話かけたんだよ。中原さんの件もあるし』
いつもだったら行くっていうところ。
けど翔太は久住に目の敵にされてるに違いない。
次翔太と二人でご飯なんて行ったらあたし何されるかわかんない。
「ああ、行きたいんだけど今日はちょっと」
仕方なくあたしは落胆した声で答えた。
『ちぇー。なにしようかな』
「今日!今日中原さん誘ったら?」
『バカ言えよ。急に何話していいかわかんねえよ』
「大丈夫、里琴ちゃん一人でしゃべるから」
『そんな大して仲良くない人間のマシンガントーク聞いて何が楽しいんだよ』
「楽しいよきっと。聞いたことないからわかんないだけで」
『そうかなあ。まあ、いいや。とにかくあとラインするわ。邪魔したな』
「はいよー」
そう言って翔太との電話は切れた。
翔太、今日里琴ちゃんとごはん行くのかな。
あたしが心配するのもおかしいけど、里琴ちゃんバカだから一緒にいて楽しいって人と疲れるって人に分かれると思うんだよね。
って、あたしは人の心配してる場合じゃないよね。
これからどうしようか。
あたしは静かになった部屋を見渡した。
ごちゃごちゃになったシーツや洗っていない食器。
開けっ放しのリビングのドア、風に揺れるカーテン。
いつもの変わらない風景で、昨日のことなんかなかったみたいなのに。
あたしの胸の中には昨日の恐ろしい記憶が蘇る。
その瞬間、呼吸が荒くなるほどの恐怖が込み上げてきた。
だめだめ、考えないようにしなきゃ。
考えれば考えるほどネガティブになって、精神が壊れそう。
どうやったらあいつから逃れられるか考えなきゃ。
でも逃れる方法なんてあるのかな。
って言っても、子供でもできちゃったら本当に別れられなくなっちゃう。
早急に考えなきゃいけない。
あーあ、なんでこんなことに。
せっかく晴れてるし、気分転換に散歩でも行ってこようかな。
あたしはそそくさと着替え、その部屋を後にした。
- Re: ス ト ー カ ー の 恐 怖 を 。 ( No.31 )
- 日時: 2016/09/22 13:29
- 名前: 美咲 (ID: cdCu00PP)
電話を切ったあと、すぐに『ばーーーーーか』とラインを送った。
最近なんだか和はノリが悪い。
というより、きっと何かあったに違いない。
映画に感動して泣いていた、なんて嘘だ。
あいつは昔から嘘をつくのが下手だった。
まあ、話してくれるのを待つのがいつもの俺だ。
付き合っていた頃から、俺がほとんど和に合わせてきたつもりだった。
けど、それは我慢ではなかった。
俺にとって、和に合わせることは幸せだった。
和はわがままだし、短気だし、理不尽だし、バカだし、注意力が足りな
いし、後先考えずに行動するし、喧嘩をしたときはいつだって屁理屈ばかりでいつも俺を苛立たせた。
だけど頑張り屋で、一生懸命で、一途で、素直じゃないけど可愛いところもあって、周りにはいつも笑顔で、気配りができて、人のために全力を尽くせる。
そんな和が大好きだった。
いや、大好きだ。
和とは、高校二年の時に初めて喋った。
一年の冬に友達が可愛いと言ってみんなでつるんで和を見に行った。
初めて見たとき、確かに可愛いと思った。
和は誰とでも仲良くて、俺のように見にくる男子も少なくはなかった。
俺には高嶺の花だとしか思わず、話しかけることすらしていなかった。
だけど二年でクラスが一緒になって、内心嬉しかった。
とはいえ最初はどうしていいかわからず、話しかけることもできなかった。
可愛いと思っているだけの、ただのクラスメイトのまま春は終わった。
初めて話したのは夏。
七月にあるスポーツ大会の種目決めをしているときだった。
男子は男子、女子は女子の種目を決め終わり、男女混合バレーの選手を決めるときの話し合いの時だった。
みんな優柔不断で決まらなかったとき、和は大きな声で言った。
「じゃあもうあたし決めていい?」
瞬間、全員和の方を見た。
和は笑顔で続ける。
「じゃあ深町くん!出てね」
真っ先に俺が指名され、俺は「俺?」と苦笑を浮かべた。
「うん。だって体育の時とか見てると深町くんスポーツ万能だし、だめ?」
そういわれ、なんだか嬉しくなったのを覚えている。
話したことがなかったのに、体育の時間など、俺のことを見ていてくれていたのだと。
俺は瞬間、いつものハイテンションで「しゃーねーな、いいぜ」と調子づいた様子で答えた。
和は笑顔で「よーし、じゃあ次はね———」と楽しそうにみんなを指名していた。
それ以降、話しかける勇気が出て、スポーツ大会の時もハイタッチをしたり、一緒に写真を撮ったり、急激に距離が縮まった。
それだけではなく、スポーツ大会が終わっても授業中や休み時間も話すようになり、ラインや電話もするようになっていた。
クラスでは付き合ってるんじゃないかなどと噂もたつようになり、嬉しいながらも和がどう思っているのかが怖くて気にしないようにしていた。
とはいえ、彼女に惹かれていたのは事実で、今度は見た目だけではなく、中身にも惚れていた。
だがあれだけモテるのになぜ彼氏ができないのかが謎でしかなかった。
彼氏など欲しいと思っていないのか、はたまた高嶺すぎて誰も手を出さないのか。
事実、俺も友達に止められたことがある。