複雑・ファジー小説
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- 落ちこぼれグリモワール 第5話開始!
- 日時: 2015/07/03 01:44
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Nw3d6NCO)
- 参照: 7月3日更新いたしました。 ※後々全話加筆修正していきます。
※参照1000突破記念でオリキャラ募集始めました! 詳しくは【新リク依頼掲示板】で探してね! それとも>>40のURLから飛べるから確認してね!
題名「オリキャラを募集しております!」
【ご挨拶】
クリックしていただき、まことにありがとうございます。
ひっそりと再び小説の方を書いていきたいなぁと思い、ファジーにて最初気まぐれの超亀更新として始めていきたいです。
順調に足並みが揃えば更新速度を少しずつ上げていく予定です。よろしくお願いしますー。
あ、ちなみにコメディチック路線気味に加え、ラノベ調に近いものとなっております。ただ表現がグロテスクな場合等が出てくる恐れがあるので、ファジーにて書かせていただきます。ご了承ください。
【目次】
プロローグ【>>1】
第1話:落ちこぼれの出会い
【#1>>2 #2>>4 #3>>6 #4>>7 #5>>10】
第2話:天才と落ちこぼれ
【#1>>12 #2>>13 #3>>14 #4>>15 #5>>16 #6>>17 #7>>18】
第3話:非日常の学園生活
【#1>>19 #2>>20 #3>>21 #4>>22 #5>>23 #6>>25 #7>>26 #8>>27】
第4話:落ちこぼれの劣等感【事情により、#8と#9は連続してお読みいただくことを推奨します】
【#1>>28 #2>>32 #3>>33 #4>>34 #5>>35 #6>>36 #7>>37 #8>>38 #9>>39】
第5話:恋と魔法と性転換
【#1>>40
- Re: 落ちこぼれグリモワール 第4話スタート! ( No.31 )
- 日時: 2015/03/17 01:07
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: nQ72gOzB)
- 参照: コメントに感謝感激と、いつの間に参照700超えて……!?
ぐああああ、やっとカキコ覗けた……。色々と忙しくてパソコンを触ること自体があまりなく、時間がとれなかったです……申し訳ございません!
何とか更新してまいりますので、どうかお許しを……。
コメントをいただいておりますので、お先にそちらの方からお返しした後、更新分を書いていきます!
>>29
瑚雲さんんんんn(ry
いやもう……コメントくださって嬉しいです! 何度も来てくれて構いませんのに←
ああ……凄い曖昧なままにしてしまってる謎な魔力の設定ですね!w
それに関して色々書いていきたいのですが、自己満足の世界に浸ること間違いなしなので、かなり頭捻って書いてます……。自分で考えた設定だけに、読んで伝わるのか心配なところなのでどうにか頑張って伝えていけたらと思います;
最初にコメディチック路線でいきます! みたいなことを言ってる手前、頑張ってその路線に……←
もっとクスッときていただけるように頑張りますねw
そ、そんな嬉しいことを言っていただけるとは……! これは更新頑張らないといけん……!
もうかれこれ何年前からかのお知り合いになりますが、やっぱり安心しますね……。たびたび来てくれると本当に色々相まって喜びます。カキコで書こうと思うのはそれですよね……。嬉しい限りです。
コメントありがとうございました! またいつでもお待ちしておりますよ!!←
>>30
書き述べるさんやないですか……!
お、おおおお初にお目にかかります……。とは言っても、僕としては風猫さんのSS大会等でもお見かけしてますし、何度か作品も見てたりするのでとても初めてな気がしないのが本音ですw
こうして会話するのは初めてですので、凄く嬉しいです!
見つけてしまいましたか……。そうなんです! ひっそりと書き始めまして……最初は別ネームで書こうかと思ってたんですけどねw
また色んなお知り合いの人と繋がりたいなぁ、と思いまして、また遮犬の名前で書かせていただいていますっ。
読んでくださっているだけで感無量ですよ……本当に! そしてコメントをいただけるという……コメント見た瞬間「お、え、うぉうぉーい!?」って変な声が出てしもうた……。
コメントありがとうございました! いつでもお待ちしております!
—————
【以後、ちょっとしたお話】
いや、本当に。コメントをいただきまして、ありがとうございます!
コメントをまとめさせていただきまして、申し訳ございません……!
色んなお話やり損ねましたし……(正月、バレンタインデー&ホワイトデー、節分など)まだ書き始めたばかりなので、キャラ等が安定するまでそういった企画は書いていないわけなんですけども……惜しい!
それでそれで、あれなんですよ。コメント……なんというか、話の流れ切らない云々はぶっちゃけ……気にしなくていいんですよ!
だって亀更新ですし、話の流れを切るというよりもコメント純粋に嬉しいですし……。
それとほら……お知り合いとかでなくても、初めての人にも来てもらいたいんですよねー……。どうしたら来やすくなるんだろうか、ううむ……。いやむしろ、見てもらえるんだろう……(泣
とまあ、そんな感じでそろそろ長くなってきたのでこの辺で!
元々雑談に停滞してた人間なので話し足りないのか……更新以外にもこんな風に個人的なお話とか入れてみたりしてもいいかもなぁ……。
そんなわけで今後とも宜しくお願いいたします!
- Re: 落ちこぼれグリモワール ( No.32 )
- 日時: 2015/03/17 02:15
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: nQ72gOzB)
- 参照: 話がややこしくなってきたような……。ようやく更新です;
俺としては、初めから目的は一つだったはず。俺に憑いた謎の魔力生命体(?)である少女、テレス・アーカイヴと切り離してもらうこと。
しかし、何となくその目的は不透明になっている気が自分でもしている。それは自ら本当に望んでいるのかさえ迷っているといっても過言じゃないと自負してしまっているからだ。
最初は巻き込まれた、俺は被害者だという印象が強かった。しかし、最近になって思い始めてきた。俺は、俺に憑いているこの少女に関して"誤解"をしている、と。
色んな考えが駆け巡るが結局のところは何も分からず仕舞いに終わる。そういえば、燐のこともあるな。どうしてあいつは今日の朝起こしてくれなかったんだろう。あの魔人の事件以来、俺は疑問に思っていた。
第一、あの事件に関しても学園側は何も言ってこない。巻き込まれたことも無かったことにしようとしているかのように。後から聞いた話だが、クラス:ボーダーによって処理した事件は全てニールさんが後始末をするらしく、ほとんどの場合学園側から接触してこないとか。
(何だかここに入学して以来、俺は平穏な生活を求めたはずなのに、いつの間にかわけの分からねぇことに巻き込まれてるな……)
古谷のこともそうだし、テレスのこともそうだ。古谷はあんな過去があるとは知らなかった。気軽に人に言えるようなことでないとはいえ、普通科の生徒にそんな人間がいるということさえも驚きだ。
テレスも、何だかんだでこうして共同生命体の如く一緒に活動しているが、結局俺に対してどうしたいのかハッキリしないままだ。あの魔人の事件以来、どうも引っかかる。
これらのこと全てが運命付けられたかのように必然のようにも思えて。何だか、とても偶然とは思えない……むしろ誰かに仕組まれた、何て——
「ま、そんなわけないか」
と言葉を吐いた最中、俺の服が後ろから引っ張られて身体ごとビンッと一気に後ろへ持っていかれる。
一体何だ、と後ろを振り向くと、そこには銀髪の髪をした少女。相変わらずの無表情のロゼッタがそこにいた。制服姿には当然のように普通科、魔法科どちらの学科の刺繍も入っていない。これで校内歩いてたのか、ひょっとして。怪しまれなかったのか心配だ。
「……来て」
「え、え? いや、ちょっとまっ——」
ぐいっ、とそのまま引っ張られたかと思いきや、連れて行かれそうになるのを何とか堪え、声を絞り出す。
「一体どうしたんだよ!?」
そこで一旦止まり、俺の方をちらりとロゼッタは見る。その目は大きくて、とても綺麗な瞳をしていた。見れば見るほど、吸い込まれそうになる。
「"敵"が出た」
「へ?」
目に惹かれていた俺は情けない声を出してしまう。しかし、それが俺のクラス:ボーダーとしては初めての魔人出現のお知らせだったことに気付いてから急に顔が青ざめていくのを感じた。
—————
いきなりすぎる知らせに戸惑う暇もなく、急遽俺とロゼッタはアンノウンへ急行した。といっても、俺はアンノウンに元々寄るつもりではあったので近くだったわけだけど。
アンノウンにはニールさんと紅さんが既に待っていた。
「あ、来ましたね。古谷君はもう準備してますよ」
あいつ、いつの間に……。そう思っていた矢先、奥の方から古谷らしき人影が見えてきた。
その格好は先ほどまでの普通科の学生服ではなく、それによく似たデザインながら、見た目はとてもスタイリッシュで動きやすそうな印象の受ける服に着替えていた。
何回も左手をグーパーグーパーと繰り返し、颯爽と登場してきた。
「とまあ、古谷君用のスーツみたいなものです。この方が彼の左腕を機能しやすいかと思いまして」
へぇ、何だかすげぇな。とか他人事のように思っているのは勿論俺は戦闘に参加しないからだ。そういう約束だったし。
「出現したのは力の弱い魔人です。桐谷君達が出会ったあの魔人よりも力は弱いですね。ただ、魔法を使えない人々にとっては危険性が極めて高いので処理します。それもこの魔人、そういった人々の暮らす方面へ向かっている形跡がありますので」
「あの、力が弱い魔人ってのは……」
「ああ、イメージが出来ないか。んー、みーちゃんよりも弱いだろうし、そこらの犬とでも思っておけ!」
そんなアバウトな……。そんな犬程度でも魔人って存在するものなのだろうか。
「紅のはあまりにアバウトすぎて参考になりませんが、犬ほどではなくても力を持たない人に対しての殺傷能力は極めて高く、戦う術を知らない人々では相手になりません」
つまり、テレスの魔力がない俺は木っ端微塵にされるというわけだな。なるほど分かりやすくて危険な香りがこれでもかというぐらい匂う。
「軽い相手なので、古谷君の丁度良い練習相手にもなるでしょう。ロゼッタはサポートにまわってもらいます」
「ショボい相手には気が乗らんからな。私は観戦させてもらうぞ」
なんつー理由で休んでるんだこの人。紅さんらしいっちゃらしいけどさ。
「魔法学園より北方にある都市へ向かっているようです。この様子だと、捕食する為でしょう。完全に"魔人本来の姿"で走行しています。魔法学園は荒廃地区から都市部を守るようにして出来ているので、関所を突破しなければいけませんが、恐らくこの間桐谷君たちが襲われたあの関所を通行して出てきてしまったのでしょう。壁の修理の手続きの間に運悪く通過されてしまったようですね」
「まったく、見張りの魔術師ぐらいつけてくればいいのにな。処理するのはこっちだというに」
説明を聞きながら、俺は何となく荒廃地区やらの"仕組み"について思い出した。
世界各地に魔法学園は存在するが、その設置場所はどれも荒廃地区から魔人が人々の住む都市部を守るように形成されている。力を持たない人々に襲い掛かる前に魔法学園がどうにかするという感じだ。
荒廃地区への隔たりはこの間俺が通過したように白い巨大な壁によって分断されている。これには特殊な魔法がかけられており、魔人に対しての一時的な結界のようなものだ。普通ならば早々と破壊されることはないのだが、壁に魔法をかける魔術師の力に応じて壁の力も相応となる為にそれよりも強い魔人がいれば壊されてしまったりもする。
その修復と見張りは派遣されて当然のことなのだが、今回は突然のことであったので申請が遅れているらしい。
そこで思い出したが、確か対魔人を相手にするのは何もこんな秘密裏にやっていることじゃなかったはず。ちゃんとそれ相手に認められた者たちがいて……名前は——
「それって、"シュヴァリエ"のことですか?」
俺よりも早く古谷が口を挟んだ。
シュヴァリエとは魔人を相手にする特殊部隊と聞いたことがある。魔法学園の主に高学年が担当していて、その中でも特に優秀な成績を持つ者にしか所属は許されない。先ほど言った壁の見張りを勤めるのは彼らの責務でもある。
公に魔人を相手にしていると公表しているのはシュヴァリエで、彼らは世間一般では良く知られる部隊なわけだが、魔人による被害等がそもそも都市部に至るまでに出させないことが目的なので一般市民には名前だけが伝わり、魔人は存在する"らしい"というぐらいの認識だった。少なくとも、俺はここにちゃんと入学するまではその認識だったな。
「はい、そうですよ。彼らは魔人を相手にする部隊です」
「それだと、クラス:ボーダーと目的が被るんじゃ……」
「大雑把な括りで言えば、な。公に公言出来るレベルがその程度、といった方がいいのか……」
おお、何だか紅さんが難しいことを言っているぞ?
「とにかく、我々の目的はシュヴァリエたちと同じではありません。強いて言うならば、彼らは"魔人を相手にする"のであって、我々のように"魔人を殲滅する"のではありませんから」
「それって、ほとんど一緒のことじゃ……」
「ふふっ、言いたいことはだんだんと分かってきます。それよりも、今回は我々が実際に相手にしなくても、シュヴァリエでどうにかなるような相手です。だからこそ、古谷君の初陣にさせました」
そこまで言うと、ニールさんはいつものように裏のありそうな満面の笑みを浮かべると、
「とにかく、出撃しましょうか。——いざ"初陣"にね」
—————
ただ家畜を呼ぶだけ。そうするだけで、今日の"飯"が自分から現れる。魚釣りのようなもので、エサにかかるが如く、獲物は現れるだろう。
何より、抵抗もしない人間を隠れていたぶり、痕跡を残さずに食うのも飽きた。より強く、より鬱陶しい存在を自ら血祭りにあげ、その甘美な旨みをこの舌の上で味わいたい。
ああ、待ちきれない待ちきれない。いつになれば来るのだ。早くかかってくるが良い。何度でも、何度でも味わいたくなるその味を。私は早く再び、この口の中で味わいたいのだ。ゆっくりと、唾液で溶かすように、私の存在がそれによって昇華するように、私の感情も高ぶるのを止められないあの"情動"をもう一度——
「これだから、人間は面白い……!」
姿形は誰が見ても人間と答えるだろう。
だが、その瞳の奥に妖しく光る"それ"はまさしく怪物。人食い。化け物。何に例えようとも、それはおぞましい。
作られた平和の中に潜む恐ろしい狂気がそこにはあった。
- Re: 落ちこぼれグリモワール コメント返し&更新しました! ( No.33 )
- 日時: 2015/03/20 00:29
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: nQ72gOzB)
- 参照: ほのぼのとしたシーンが書きたいのに遠ざかっていく気がする……。
入学式から既に何日も経った今現在。彼——いや、"彼女"にとって最大の天敵と思わせたお節介焼きの男のことについて全く調べがついていなかった。
「あー……! 一体どこのどいつなんだよ!」
つい言葉を荒げてしまうほど、彼女にとっては重大なことだった。
一見、男子用の制服を着ていて顔も中性的に見えなくはなく、身体は細身な上に出るとこは出ていないタイプの身体つきの為か今までバレることはなかった。声も、顔と同等にソプラノな声色と貫けば深追いされることもない。
しかし、あの男だけはすぐに自分の正体を見破った。彼女にとって、自分の身に備わった"ロクでなし"は男に備わった者だということにしたいのだ。
そもそも、ロクでなしという名はここまで広まることはなかった。しかし、入学試験で見せた彼女の異能によってある程度齧った程度の生徒がちらほらと居ただけの話。入学式の朝での揉め事も大抵の生徒は何の話か分かってもいないということだ。
それを……あのお節介のせいで大事みたいになってしまった。だからあの場から彼女は逃げたのだった。
ただ、今思えば探して見つけたところでどうしようかと彼女は思ったが、それはそれで自分の"ロクでなし"の能力で痛い目を見せればいいのではないかと考えていた。しかし、それはあの男が"魔術師ならば"の話ではあるが。
「そうする為にも、あいつを見つけないと話にならない……」
ぶつぶつと彼女は言いながらも今日の課題をこなそうとする。
手元にはいくつもの魔術書と課題である魔術式の構成が記されたもの。彼女はこれでも魔法科クラスであり、ランクは最弱のFクラスではあるが、一目置かれた存在ではある。
何分、こういった魔術式の構成等は得意であり、各魔法に対する理解が群を抜いている。ただし、彼女自体は"ほぼ魔法が使えない"。どころか、使えるように"見せている"というべきか。
「え、えと、ごめん陸君。何か考え事でもしてた、かな?」
凄く申し訳なさそうに彼女に近づいてきたのは同じFクラスである間口 ののか(まぐち ののか)だ。彼女とは入学式の当初から話すようになり、女子としての趣味が合うことから仲良くしている。
ちなみに、男として入学した彼女の現在の名前は高科 陸(たかしな りく)。勿論、本名ではない。
「いや……大丈夫。それより、何?」
元々の性格も相まってか、彼女のキャラとしてクールっぽい感じになっている。
「クッキー焼いたんだけど、食べる?」
「……た、食べる……」
しかし、甘いものが好きだったり可愛いものが好きだったりする彼女にとっては間口の誘いはどれも凶悪なものばかりで、よく素が出てしまったりする。本当にクールだと思ってくれているのか本人も気になるところだ。
「良かった! いっぱい焼きすぎて困っちゃったんだよー」
凄い嬉しそうに間口は近づいてきて、彼女の隣に座った。これが本当の異性同士ならかなり青春しがいのあるシチュエーションではあるが、思いっきり同姓である彼女たちは全くそんな雰囲気は出ない。
間口はバスケットを彼女の机の上に置いた瞬間、蓋も閉じられないぐらいに一杯入れられたクッキーがぼとぼとと机の上に散らばった。
「あぁっ、ちょっと気をつけて! せっかくのクッキーが!」
「大丈夫だよぉー。まだまだ沢山あるし……陸君、いっぱい食べてね!」
ニコニコしながらクッキーを一つまみして言う間口。彼女から見ても間口の人懐っこさはとても可愛らしいものだ。決してぶりっ子とはいえない、しかし特に天然だというところも見せない、絶妙なラインを維持するほんわか系の間口に若干の憧れを持ったりするほどだ。
「と、とりあえず……いただくよ」
「はい、どーぞー?」
間口のサクサクというクッキーを噛み砕く音に誘われるがごとく、彼女もクッキーの山から一つクッキーをつまみ上げる。
上手く出来ている。それも非常に。自分の作るクッキーは全体がチョコで出来ているのか、それとも炭で出来ているのかの二択しかないほど真っ黒に出来上がるというのに、同じぐらいの材料でここまで鮮やかな狐色をしたクッキーが出来上がるのかと彼女は唾を飲み込みながら思った。
美味しそうな匂いをなお放つそれを思い切って一口齧る。サクッサクッと軽快な音と共にクッキー独特の食感と甘さがほんのりと口の中で蕩けた。
「美味しい?」
「……凄く」
「でしょぉー? ちょっと頑張ったかも?」
間口の作るお菓子に翻弄されながらも、ただっ広い教室の中で彼女は話を切り替えることにした。
「課題、やったの?」
「いんやー、まだだよー。今陸君がやってるやつだよね?」
「あぁ、まあね。多分、間口だと出来なさそうだし……」
「よく分かったねー!」
「……どうせ、俺に教えてもらおうとクッキーをエサにして来たんだろ?」
「そこまで分かっているなら話は早いね! 早速教えてもらいたいでーす!」
どこに隠し持っていたのか、課題であるレポートの山を間口はバスケットの隣においた。ほんわかしていると見せかけて、間口はなかなかのやり手でもあるのだ。
—————
Fクラスは基本的に、上位のクラスのように魔法を応用して犯罪者を取り締まるようなことはしない。何せ"魔法が弱すぎるから"である。
つまり、実戦には向かないほどこのランクは低くなる。幻術の類の魔法があるが、それらも実質的な攻撃力としてではないのでランクはどうしてもAなどに比べたら落ちてしまったりする。ちなみに、間口の魔法はレベルで表すとマッチ棒レベルらしい。
ゆえに、課題は出されるがそれこそ普通科と似たレベルでの境遇であることは間違いなかった。魔法としての訓練は勿論あり、魔法を上達することは出来るが、ほとんどその見込みはないとされているクラスでもある。
「それ、違う。構成が逆だよ」
彼女は指示を飛ばしながら間口はそれに従って課題を完成させていく。素直に解いていく間口は教える側としても気楽でいい。聞き分けもよくて、一度聞いたらすんなりと解けたりする。実は分かってるんじゃないかと思うぐらいだ。
「よし、出来たー!」
間口が完成の合図を出す。それと同時に彼女はため息をついてやっと終わったかと時計を見る。
ああ、もうこんな時間か。そう思うと同時に、彼女はまたしても今日も無駄な時間を、そしてあの男を捜すことが出来なくなったと思っていた。
「ありがとうね、陸君! 今回も課題乗り切れそうだよー」
「まだ入学して間もないのに課題一つぐらい自分で出来るようになってよ……」
帰る仕度を自然にし始める。間口もそれを見て課題をまとめると立ち上がった。
「クッキー、全部あげるよ! 私また太っちゃったからさ!」
二度ほど華奢な腹部を軽く叩いて笑う。
「じゃあ何でこんなに作ったんだよっ」
「陸君、食べるかなーって思って! だって男の子だし!」
「そ、そうだけど……」
実際は女の子なのだが、言えるはずがない。男の子だからといってこんなにバスケット一杯のクッキーをまるごと食えないだろう。
間口らしいこれが感謝の気持ちなのだろう、と受け取ることにしておいた。
「陸君、この後何か用事ある?」
「いや、特に……」
特にない、と言おうとしたその矢先。ふらっと立ち寄ったある人物の姿を見た。確か、あれは……。
「ごめん、やっぱりちょっと用事ある、かも」
「あー、そうなんだ? 分かった! それじゃまた明日ね!」
聞き分けの良い子でよかったと彼女は胸を撫で下ろす。教室から先に出た彼女はその廊下で出会った人物に挨拶を交わして立ち去って行った。
荷物をまとめ、自分もその人物へ挨拶する為に廊下へ出た。
「こんにちは、白井教官」
金髪の目立つ女の教官。白井ユリアがそこにいた。
「あら……"偶然"ね?」
白井ユリアは不自然に感じてしまうほど綺麗な笑みを零して言った。しかし、その目は笑っていないようにも見えるが。
この教官は情報通との噂もある。その真偽は定かではないが、もし出会うことがあれば聞いてみたいと思っていた。
「あの……聞きたいことがあるんです」
「何かしら?」
「入学式の日……中庭でもめた騒動のことについてご存知ですか?」
「騒動というと……魔法を使った野嶋 源五郎(のじま げんごろう)のこと?」
あぁ、自分に言いがかりをつけてきたあの男の名前は野嶋というのか、と今初めて知ったと同時に僅かな希望を抱く。
「はい。その騒動を止めに入った人のことを知りませんか?」
「止めに入った……? 確か、野嶋は腕試しという目的で魔法を使ったと聞いたのだけれど?」
「腕試し……ですか?」
そういう風に出来上がっているのか。いや、まさか自分があの場から逃げたところでそんなに事実と捻じ曲げられているということがあるのだろうか。そこまで詳しく目撃者などを探っていなかったのかもしれない。
「ええ。何せ、私は人づてに聞いただけで、実際に"その件には関わっていない"しね……」
「そう、ですか……」
またしても何の情報もなしか。いつになればあの男の居場所がつかめるのだろうと苛立ちが募る。
しかし、その時白井は急に思い出したように言い始めた。
「止めに入ってはいないけれど、確か巻き込まれた子はいたかしら」
「! その人の名前は!?」
「名前までは聞いていないわね。けれど……今日その子がいたのを見たわ」
「どこでですか?」
「魔法学園から北方にいった……都市部の方に向かっていったのを見たわ。何か買い物でもするつもりなのか分からないけれど」
「ここから北方の……。分かりました、ありがとうございます!」
彼女は例を言ってからすぐに白井から背を向けて走り出した。
——上手くいった。
- Re: 落ちこぼれグリモワール ( No.34 )
- 日時: 2015/04/09 13:43
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: nQ72gOzB)
- 参照: 古谷君無双モードと思いきやの……。
部屋一面には沢山のモニターと機械。夢にまで見たSF映画の司令室みたいな場所がアンノウンの奥には存在した。
「ようこそ、クラス:ボーダーの司令室へ」
ニールさんがそう言って俺を出迎えるが、あまりの雰囲気の違いに俺は圧倒されていた。
「……ここ、本当にアンノウンなんですよね?」
「そうですよ? アンノウンの一部機能としてここは成り立っています」
これでも一部の機能なのか……。そう考えると、ここは一体どういう場所なのかと考えていた。
そもそも、前からおかしいとは思っていた。これほどの大規模な図書館、今までバレずに存在し続けること自体が難しい話だ。それはニールさんが色々と細工を施したのかもしれないけれど、それでもニールさん一人で不特定多数と相手するのは困難を極めるだろう。
なおかつ、ただの図書館ではない。みーちゃんとの戦いの最中でもこの内部の物が壊れるといったことはなかったし、それどころか掠り傷さえしなかった。このアンノウンという"空間"そのものがおかしく思えてくる。
「ふふ、謎に満ちた表情ですね……」
「まあ、色々と思うことはありますよね……」
「お察しします。ですが、まだ語れることは少ないですよ。何せ、まだ君はクラス:ボーダーの"仮入学者"なのですから」
ああ確かにそうだった。若干忘れていたといえば嘘ではないが、俺はここに仮入学として入ったんだったな。
『何だか、これに似た何かを見たことある気がする……』
テレスが突然喋りだしたかと思えば……。そんなわけないだろ。俺だってここに入るの初めてなんだから、テレスに至っては機会そのものがないじゃねーか。
『確かに、そうだけど……』
それでも心当たりがある感じのテレス。しかし俺の意識は紅さんの言葉で取り消された。
「よぉーし! 聞こえるか、二人共!」
機械のごちゃごちゃした中の一部、マイクに向けて紅さんが話し始めた。勿論、会話の相手は古谷とロゼッタだ。
《な、何とか……。けれど、かなり吐きそうではあります……!》
「あー、それは仕方ないことだ。最初はその"ワープ"は方向感覚やら色々な感覚が狂うからな。しかし、最初だけだ。我慢しろ」
先ほどサラッとワープという言葉が出てきたが、これは魔術式による移動を駆使した魔法と機械による魔科学が生み出した産物らしい。どうやらこれもアンノウンに元々あったもののようで、次元を超えて物を移動させる仕組みらしい。俺がテレスを思わぬ形で召喚したのと一緒のようなものだ。
それでもそこまで便利なわけでもなく、仕組み自体が現代には全くないものらしく、様々な感覚が一時的に狂うわ移動先がズレるわ、多少のハプニングはつき物らしいが。
《ろ、ロゼッタさんは大丈夫なの……?》
《……慣れた》
《僕は慣れそうにないよ……》
なんて話し声が聞こえる。聞いたところ、古谷の気分の悪がり様は異常なぐらいだ。さっきから嗚咽に似た何かが古谷から聞こえてくる。現場はどうなっているのか非常に興味が湧いてくる。けど、あまり見たくはない……。
「とりあえず、二人の通信機器は良好のようですね。お二人共、現在の場所を伝えてください」
《……もう既に目標は北方の都市部より少し離れた外部に侵入した模様。動物に変化して街中を物色している最中》
古谷は応えられないのか、ロゼッタが応答する。彼女も感覚は狂ってるはずだけど、全く声色共に変化は見られない。慣れって怖いんだなー。
「分かりました。目標を見失わないように。まだ外部にいる内に撃破します。敵は一匹のみですが、気をつけて作戦を行うようにしてください」
《了解、しましたっ》
古谷が若干気分が悪そうに言うが、何とか持ちこたえたようだ。相当気分が悪くなるようだな……。
モニターには3D化された地図が形成されてある。外部といえど、人が住む場所や建物は存在し、そこにいる人々にも危険性が高まる。迅速に目標を撃破しなければ魔人がどこの誰を襲うか分かったもんじゃない。
「何事もなければいいんだけどな……」
テレスの癖が移ったのか。
変な胸騒ぎが俺の心をくすぶっていた。
—————
「結構速い……!」
一方、現場で小型の魔人を追いかけている最中である古谷は魔人の動きについていくのに必死だった。
本当に見た目は人間ではなく、犬のような姿形をしている。全体が黒く、目は赤黒く光っているのが見えた。外部は比較的に建物はあるが人間は少ない為目撃されることは少ないとはいえ、これだけ逃亡劇を繰り広げればいずれは人間と出会い、その刹那この犬の姿をした魔人は食い殺すかもしれない。
魔人の残虐性に関しては普通の人よりも何倍と分かっているつもりであった古谷はそんな不安を心の中に押し込める。被害者を出す前に目的を排除すればいいだけの話だ、と。
そんな古谷に比べて、ロゼッタは魔人を見失うこともなく、古谷も驚く程の機敏な動きで追跡を続けていた。現在では、そんなロゼッタと魔人を追うだけになってしまっている古谷は我ながら自分が選んだ道のりは険しいと思った。
ロゼッタという少女に関して、まだ沢山のことを聞いたわけではないが……少し話を聞くだけでも恐ろしい才能を秘めた少女だと分かっていた。ニールによれば、彼女ほどの"魔人を殲滅することに長けた人間"はいないと断言できるほどだそうだ。外見ではそんな風に見えないが、実際に現場で見れば圧巻の動きだ。
「あれぐらい、出来るようにならないと……!」
復讐など、無理な話だ。ただでさえ何の力もない非力な人間であった自分。険しい道のりだということは分かっている。しかし、己の決めたことであり、逃げ道はとっくに消えてしまった。——この左腕を自身に装着してから。
まだ上手くなれない身体強化を左腕に備わった充填魔力装置と呼ばれるもので賄っている。どれも初めて使うものであり、未だに不安定さが残る。現にこの程度の追跡で息切れしてしまっているのが証拠だった。
「追い、つけっ!」
足に力を込めて地面を蹴り上げる。ニールが用意したスーツは全身に馴染み、本来の脚力よりも数段上の力を発揮できるように出来ている。これも、自分が"ただの人間"という立ち位置を捨てたからこそのことだ。
大きく跳躍し、屋根の上へ着地する。不安定な力のため、一瞬よろけてしまうが何とか持ちこたえる。だが、身体の中に残った例の"酔い"が発作のように全身を襲ってきた。
「ぐ……っ、負けるかぁっ!」
再び蹴り上げて前へ進む。丁度その頃、作戦の目的地であったA地点に到着する頃であった。
単に魔人を追いかけていたわけではない。ロゼッタは追跡していることをわざと魔人に知らせるかのように追いかけ、知らぬ間に道を誘導していたのだ。
そのA地点と名付けたポイントは八方塞の場所であった。
見渡すところ高いビル群が聳え立ち、円状に広がった場所は住宅と呼ばれるものは存在しない。その上戦いやすい程度に広めの土地であり、周りに気にするようなものは存在しない。
ただ一つ、欠点があるとするならば、そこからすぐ北に向かった場所に都市部がある。つまり目の鼻の先には人々が大勢暮らす土地が存在しているといったところだろうか。ただ、そこは巨大なビルに隠れて道はないようなものであるが。
日当たりも悪く、誰もいないこの場所は事の始末をつけるにはもってこいの場所だった。
犬型の魔人は困ったようにキョロキョロと逃げ道を探す。古谷がその場に着地する頃には既にロゼッタが目的をA地点に誘導したことを知らせる指令をニールに送っていた頃だった。
《了解しました。それじゃあ、古谷君が主に殲滅、ロゼッタがそれのサポートをお願いします。迅速に撃破をお願いします。でないと、シュヴァリエの人たちに怒られてしまいますから》
シュヴァリエの人たちに怒られるというのは本来シェヴァリエの仕事だったものを横取りするようなことをしているからだろうかと古谷は考える。が、今はそんなことに時間を割いている場合ではない。
見たところ、本当に弱そうな魔人だった。素人の目から見てもそこらの犬とそう変わりはない。ドーベルマンのような格好をしていて、目が赤くその中にある黒目が不気味に思えるぐらいを除けば魔人だと判断できる材料は無いと言っても過言ではないぐらいだ。
しかし、一般の人間にとってはこの程度の魔人でも脅威になり得る。それに例え自分達が討伐できなかったとしても、都市部と外部を隔てる役目を担っている"関所"を突破しなければ都市部へ進入することは出来ない。そういった意味でも、古谷は落ち着いて魔人と対峙することが出来た。
一方、ロゼッタは何も言わず、ただ魔人と対峙しているだけ。それも、いつの間にか古谷よりも一歩後ろに退いている。指令通りロゼッタはサポートに徹するらしい。古谷はそれを判断して、更に一歩前へ出る。魔人はこちらに威嚇している、ようにも見えるがそれは怯えや恐怖からのもののような気もする。
《それでは……お願いします》
耳につけた端末からニールの指令が下ったことを合図に、古谷は一気に駆け出した。それはほんの一瞬の出来事だった。
「スラッシュモード……!」
古谷は低く唱えるようにして呟くと、左腕が魔方陣に包まれてほとんど一瞬で変形し、刃幅が広く鋭い白刃の大太刀が現れた。
そして変形させたかと思いきや古谷は次の一歩で大きく跳躍する。ニールのこしらえたスーツと左腕の魔装篭手によって身体能力が大きく向上したニールは人間とは思えない跳躍力を見せる。
およそ数メートル飛び上がり、そのまま真下の目標に大太刀を叩きつけるようにして構える。
「うぉおおおおっ!!」
掛け声と共に大太刀を魔人に目掛けて振り下ろす——が、魔人は咄嗟に横に飛び退いてそれを避ける。避けたと思いきや、魔人も反撃を仕掛けようと体勢をすぐさま立て直した後、飛び掛るようにして古谷に襲いかかった。
「——バスターモード!」
古谷の掛け声を魔人が耳にした時に既に左腕は小型大砲のような形に変形されていた。その銃口は飛び掛ってきた魔人の顔面を真っ直ぐ捉えている。
甲高い音が一瞬。その刹那の出来事で古谷は小型大砲から風によって出来た銃弾を発射し、見事魔人を捉え吹き飛ばしたのであった。至近距離から当てられた風の銃弾は何度も魔人の小柄な身体を地面にバウンドして叩きつけた。
だが、クリーンヒットしたものの肝心の風の銃弾の威力はみーちゃんへ撃ったあの時よりも弱い。一瞬の出来事だった為にあまり集中する時間がなかったのである。
「ナックルモード!」
それを見越したうえで古谷は次なる一手を打っていた。
左腕の装甲が分解されたかと思いきや、魔方陣が何重にも重なり、瞬く間に白く光るガントレットの形を形成する。
変形させた直後、それを魔人に向けてかざす。すると、その手のひらから風が集約されていき、球体に変化していく。
魔人が満身創痍の状態からようやく立ち上がった時には既に古谷は風の球体を投げる構えをとっていた。
「追い討ちだっ!」
キュィィイン、と甲高い音を鳴らし、球体は吸い込まれるようにして犬型の魔人の元へ。そして、直撃した瞬間、球体は解放されたかのように竜巻上にうねりをあげ、魔人の身体をその中に取り込んでいく。竜巻の内部は風が何重にも鋭く縦横無尽に駆け巡り、魔人の身体を切り刻んでいく。
ようやく竜巻が消える頃には、魔人は全身に傷を負って地面へ倒れ込んでいた。
「上手くいった……」
古谷は安堵のため息を吐いた。
みーちゃんとの一戦以来、新たな力である魔装篭手の使い方を熟知しようと時間をかけて幾度も試した結果、三種類のモードを生み出すことが出来た。
スラッシュモードは近接戦闘型。強靭な刃で接近戦を有利する為のモードだ。
バスターモードはスラッシュモードと相反して遠距離型のモード。自分の技量次第で風の魔法が発動出来るモードでもある。
最後に、ナックルモード。これは新しく改良したモードだった。ガントレットの形状をしていて、全体に風の魔法が行き渡ることで普通に殴ったとしても魔人並の攻撃力を発揮できる。尚且つ、魔法を使うことが出来、遠距離にも対応できている。つまり遠近両方で使える万能型であるが……。
「やっぱり、まだ形状を維持出来ないか……」
左腕のガントレットは今にも分解しそうなほどボロボロになってしまっていた。
このナックルモードのネックは"何度も連続で魔法が使えない"ことである。一度使うだけで今のように装甲が崩れてしまい、修復するには魔装篭手の魔力が自然充填するまで待つ必要がある。とはいっても、別のモードに変えることは可能なのだが、"未完成"の状態で形成されてしまうといったことになるのだ。
しかし、実戦登用が初めての割には上手くできたものだと古谷的には大変満足していた。
(この調子ならいける……! 魔人を……家族を皆殺しにした、あの魔人にも……!)
拳を握り締め、その感触を実感していた古谷に対し、ロゼッタはどこか違和感を察知していた。
「何かが来る……?」
サポートといっても特に手出しをすることなく終わった犬型の魔人であるが、それとはまた別に何か別の気配を捉えていた。
と、その矢先。突然音を立てて耳元の端末が狂い始めた。
《ど……した……ですか……? 聞こ……ますか……!?》
ニールらしき声が微かに聞こえていたが、突如端末は音を立てて使い物にならなくなってしまった。
「これは、一体……!?」
古谷は何が起こっているのか把握できていない様子だったがロゼッタは把握していた。これは、ある"特有の魔人"と接触した時のものだと。
「来る……っ」
ロゼッタが小さく呟いたが、その声も突然の拍手によって消されてしまう。
乾いた音が一定のリズムで刻まれる。それに、周りの様子がおかしい。まるで時が止まっているかのような感覚に陥るこの状態。世界はまるで、自分達だけしかいない……そう錯覚させるには十分な世界がそこにあった。
「ブラボー……! さすがは魔法学園の申し子たちですねぇ。実に面白そうで歯ごたえがあって——美味そうだ」
声の主は屋根の上にいた。都市部の方にいたその人物は軽やかに飛び降りて音も無く地面へ着地した。
古谷は、その者の"違和感"を感じ取っていた。見た目は普通の男。20代ぐらいだろうか。タキシードのようなものを着ている。普通の、人間のように見える。しかし、その者から発せられるそれは嫌でも感じてしまうほどの"魔力"。
犬型の魔人とは比べ物にならないまでの、まさに"魔人"呼べる存在が対峙していた。
「だ、誰だっ!!」
「誰だ、とは……また変な質問をする人ですねぇ。勿論、貴方たちのような下等生物……おっと失礼、人間たちが目の敵とする……いわゆる"魔人"と呼ばれる者ですよ」
ふふふ、と不気味な笑みと共に笑い声をあげる男。どことなく嫌悪感を催してしまうほどの"何か"がそこにはある。
「いやぁ、このたびは我が"ペット"を思う存分いたぶってくれたようで……さぞ気持ちが良かったでしょう?」
「な……! この犬型の魔人は……」
「ええ、私のペット……いえ、眷属とも言っておきましょうか。私のような高等な魔人には眷属といわれる下等な魔人を従える素質を持つのですよ……」
男は大きく両手をあげてアピールし、更に言葉を続ける。
「ふふふ! 分かりますよ……。弱い者を虐める気持ちは! ええ、君も十分に味わったでしょう……? 私にも味あわさせていただきますよ? せっかく我がペットが命を代えてまで私の元に"エサ"を運んでくれたのですから、さぞかしそれはいたぶって味わって美味しくいただきますをしなければ——! ッ、……ぁ?」
ずぶり、と男は自分の体に"何か"が突き刺さる感覚に思わず言葉を止めた。
見ると、そこには氷で出来た鋭い槍が突き刺さっていた。ごふっ、と口から血を吹き出して次は対峙している者の姿を見る。
一方、古谷はその槍を投げた者の姿を凝視していた。槍は、古谷の隣にいつの間にか移動していた——ロゼッタが投げたものだった。
「……くどい」
「ッ、おのれ、小娘の分際がぁああああっ!!」
わぁ、くどいとか思ってたんだぁ……と、混乱しつつもそう思った古谷。
男は先ほどまでの優雅な印象を振り払い、突き刺さった槍を引き抜いてロゼッタへ放り投げる。だが、その速度は尋常ではない。古谷には見えないそれはロゼッタには"見える"。
いつの間にか、ロゼッタは手持ちの黒く鋭いシンプルな槍を振るい、氷の槍を叩き落していた。
「何……!?」
魔人はその動きに驚愕を露にする。槍をくるっと一回転させて手元に馴染ませるように一閃振り払った後、ロゼッタは一言。
「サポート、するから」
「え……? えぇ……!?」
これはロゼッタがメインで戦った方が早く終わるんじゃないのか、とか様々な思いを抱えたまま、古谷はとりあえず目の前の魔人と向き合うことにした。
- Re: 落ちこぼれグリモワール ( No.35 )
- 日時: 2015/04/30 16:04
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: nQ72gOzB)
- 参照: 久々に更新っっ。遅れて申し訳ないです……。
音を立ててモニター画面と音声が途切れた。あまりに突然の出来事だったが、モニターが切れる直前に多数のモニターの中から一つの画面にくっきりと映る謎の男の姿を俺は目撃していた。
「新しい魔人……!?」
単純な予測を口に出したはいいものの、今の俺はアンノウンの中にいて、ニールさんや紅さんといった安全な人たちの中で俺はその様子を"視ている"に過ぎない。つまり、何も出来ない。
「どうやら、"魔境"を張られたようですね」
「魔境……?」
ニールさんが言った言葉を反復するようにして言う。何せ、聞いたことのない単語だったからだ。
「はい。魔境とは、高等な魔人が行う魔力を用いて空間を切り離すことです。簡単に言えば、この世界とは別世界に切り離された、というべきでしょうか。何にせよ、魔境が張られた中で行われていることはこちらの世界からは視えません。別世界は場所がループする空間なので内部に巻き込まれた人間が脱出するには魔人を倒すか、もしくは魔境を張る為の仕組みを壊すかのどちらかぐらいしかありません」
「……要するに、古谷たちは別の魔人によってどこかに閉じ込められたってことですか?」
「そうですね、魔法を使えない人間からすれば入ることの出来ない世界……それが魔境です。様々な用途で使われるんですが、かなりの精神力や魔力が必要なので、高等の魔人ぐらいにしか使えないはず」
「あの……さっきから魔人に"高等"や何だって言ってますけど、魔人にそんな違いってあるんですか?」
「勿論だ」
てっきりニールさんが引き続いて返してくれると思ったが、まさかの紅さんが割り込んできた。
「基本的に魔人は血の代わりに魔力を力として生きているようなもんだ。肉体というより、ありゃあ魔力の塊だな。だから魔力が壊滅するまでぶっ倒したら消え失せるってわけだが……まあそれはともかくだ。魔力=魔人にとっての力と置き換えた方が分かりやすいな」
「つまり、魔力を膨大に秘めた者ほど強く、また精神力も高い。ゆえに知識も相応についており、より高等な魔人が生まれる……というわけです」
「ということは……さっきまで追いかけていた犬型の魔人は下等の魔人で、魔境を張った魔人は高等の魔人……?」
「まあそういうことになりますね」
「なりますね……じゃなくて! それじゃあ古谷たちが危険なんじゃ……!」
俺がそれを言うと、何を思ったのかニールさんと紅さんがお互い顔を見合わせ、次にニールさんが口を開いた。
「え、気になるんですか?」
「そりゃ気にもなりますよ!」
「どうしてです?」
「そりゃあ……!」
と、言葉を紡ごうとしたが……あれ、出てこない。
確かに気になるのは気になるけれど、そこで俺は気付く。俺には古谷たちを気にする"理由"がないことに。
第一、俺は巻き込まれた側の人間であり、本来ならばここにいなくてもいい存在だ。それなのに、いつの間にか自分から望んでここにいる。そのことに気付いた時には、既にニールさんが言葉を吐いていた。
「もしかして、桐谷君は……我々と"関わりを持とう"としていませんか?」
「う……」
そういわれたら、何も言い返せなかった。俺の行動は、まさにそれだ。自らクラス:ボーダーに関わろうとしている。
今ここにいるのはクラス:ボーダーに仮とはいえ入れられたから。自分の気持ちからじゃない、とどこかで否定して。面倒だ、何だといってテレスを遠ざけ、自身の現状から逃げようとしていたはずだというのに。
「この作戦では魔境を使うほどの魔人が現れることは想定外です。なので、それ用の"通信方法"を用意しておりません。ですから、このままここにいれば、二人が無事かどうか確認できるのは見事魔人を討ち果たした時だけですね」
それだと、意味がない。そう言いたいんだ、この人は。そして、俺にそのことを分からせ、俺がどうするのか窺っている……そんな風に見えた。
相変わらずというか、ニールさんは本当に策士だと思う。何ともいえない笑みを崩さないから全く考えが読めないけれど、何が言いたいかは伝わってきた。
二人の安全を確認したければ、自分で現場に行って見て来いってことなんだろう、どうせ。
「何もかも、お見通しってわけですか……」
「ふふ、そんなことはないですよ? 私はただ、貴方の強い"正義感"の後押しをしているだけですから」
「よく言いますね、ほんと……」
目の前には二人が入っていったワープ装置がある。ほんの数秒の間に不安定な座標といえどワープすることが出来るこの装置を起動させれば、自分も現場に駆けつけれる。
ただ、俺が駆けつけたところでどうなるんだ。何も出来ないんじゃないのか。だって俺は、落ちこぼれだ。俺が言っても何も出来ない——
が、俺の思考は全て背中からの強烈な衝撃によって掻き消された。
「つべこべ考えてないでさっさと行けっ!!」
「うぉぁっ!!」
紅さんの声だった。衝撃をそのままに、俺はワープ装置にへばり付くような形で中に入る。そして後ろを見ると、ニールさんがワープ装置をピポパポと色々触っている最中だった。
「ちょっ!!」
「お前の中ではもう"答え"は決まってるんだろうが! それならさっさと行けよ! 私はお前みたいな"いくじなし"は大嫌いだ!」
いくじなしとまで言わなくても……。それも紅さんにここまでボロカスに言われるのは初めてで、少しのショックもあったりして。
「自分の正義を貫かないでどうする。それじゃ、お前はいつまでたっても"いくじなし"だ。いいから行って、お前の度胸を見せてやれよ!」
確かに、色々考えすぎなところはある。ただ、それは言い知れない"何か"を感じているからなのかもしれない。
第一……いくじなしは、まあ、いくじなしかもしれないけど。俺のレッテルはいつも、どこでも。
「俺は——……!」
それよりもお先に、"落ちこぼれ"と呼ばれています。
意識はどこか遠くに遠のくように、最後に見たのはニールさんの、読めない"笑み"だった。
—————
やっと"あいつ"に会える。
魔法科のどこを探しても見当たらなかったあいつ。私の性別を見破ったあいつは一体どこにいるのか。
しかし、移動しながら思う。我ながら、よく"白井ユリア"の助言を頼りにしてきたものだ、と。
なぜならば、あの教官に関しては良い噂がないからだ。謎に満ちた教官。生徒の間でひっそりと噂になっている白井ユリアという人物は良からぬ噂ばかり。本当は犯罪者と通じているのではないか、とか。まあ色々あるのだが、どれも根の葉もない噂程度のように思えるようなことばかりだ。
それでも、Aランクの部隊を受け持つ教官であるというから驚いた。その部隊の連中は彼女のことをどう思っているのだろうか。
いや、今はそんなことを考えている暇はない。急いであいつの正体を突き止めて、それで……どうするんだろうか。記憶を消す、っていうのが一番やりたいことだけど、そんな高度な魔法を使えるわけもないし、第一"ロクでなし"さえなければ自分はただのFランクの魔法学生だ。単純に、自分は男だということを貫けばいい。どこぞの誰かにバラされる前に、早く。
Fランクであっても少しの身体強化は使える為、普通の人よりも多少走っていても大丈夫だが、さすがに走りっぱなしで疲れてきた。もうそろそろ都市部の関所が見えてきてもいい頃じゃないかと思った矢先のことだった。
「うっ……! 何? この"悪臭"……」
突如、彼女の鼻につくような強烈な悪臭が辺りを漂っていることに気付いた。しかし、この臭いは単に人間が嗅げる"それ"ではなくて、彼女の"ロクでなし"特有のものだった。
「まさか……この辺りに、"魔境"が張られてる……?」
辺りを見回しても単純な外部の町並み。確かにここは人があまりいない域ではあったが、強烈な臭いは魔力の高さを表している。
「多分、それだとこの辺りに……」
ゆっくり、優しく触れるようにして空間へと手を差し伸べたその時。
「————うぉぉおおおおおぃいいいっ!!?」
「えっ——ッ!?」
頭上から声。そしてその声の主は待ち望んだ人物の声だった。
その人物の名は桐谷 咲耶。またの名を"落ちこぼれ"である。
「そこ、どいてぇえええええ!!」
「き、きゃああああああっ!!」
ぶつかる。その瞬間の出来事。突然紫色の光を帯びたかと思えば、拒絶するように反動を受け、咲耶は地面に転がり落ちる。高科 陸は何事もなかったようにその場に立っていた。
「え……この拒絶反応……!」
「うごぁ……! い、いってぇええ……! 何だ今の光……。てか俺よく生きてたな、あの高さから落ちて」
「あ、あんたっ!!」
「え?」
突然何か知らないが怒鳴られ、振り向く咲耶。彼女はわなわなと震えた指を咲耶に向けて、
「正体は、"魔人"だったのっ!?」
「……はい?」
あれ、また何かわけわかんないことに巻き込まれたな、と咲耶はそこで自分の運にガッカリするのだった。
—————
咲耶がワープされた後、一息吐いて紅がニールの方へ振り返った。
「で? 何であいつを行かせたんだよ。別に行かなくても"ロゼッタ"がいるから大丈夫だろうに」
「そりゃ勿論、クラス:ボーダーに入れるきっかけ作りもありますし……それと」
「それと?」
ニヤッ、とニールはいつになく笑みを崩して、
「"巡り合わせ"のため、ですよ」
と、言葉を零した。