複雑・ファジー小説
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- 落ちこぼれグリモワール 第5話開始!
- 日時: 2015/07/03 01:44
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Nw3d6NCO)
- 参照: 7月3日更新いたしました。 ※後々全話加筆修正していきます。
※参照1000突破記念でオリキャラ募集始めました! 詳しくは【新リク依頼掲示板】で探してね! それとも>>40のURLから飛べるから確認してね!
題名「オリキャラを募集しております!」
【ご挨拶】
クリックしていただき、まことにありがとうございます。
ひっそりと再び小説の方を書いていきたいなぁと思い、ファジーにて最初気まぐれの超亀更新として始めていきたいです。
順調に足並みが揃えば更新速度を少しずつ上げていく予定です。よろしくお願いしますー。
あ、ちなみにコメディチック路線気味に加え、ラノベ調に近いものとなっております。ただ表現がグロテスクな場合等が出てくる恐れがあるので、ファジーにて書かせていただきます。ご了承ください。
【目次】
プロローグ【>>1】
第1話:落ちこぼれの出会い
【#1>>2 #2>>4 #3>>6 #4>>7 #5>>10】
第2話:天才と落ちこぼれ
【#1>>12 #2>>13 #3>>14 #4>>15 #5>>16 #6>>17 #7>>18】
第3話:非日常の学園生活
【#1>>19 #2>>20 #3>>21 #4>>22 #5>>23 #6>>25 #7>>26 #8>>27】
第4話:落ちこぼれの劣等感【事情により、#8と#9は連続してお読みいただくことを推奨します】
【#1>>28 #2>>32 #3>>33 #4>>34 #5>>35 #6>>36 #7>>37 #8>>38 #9>>39】
第5話:恋と魔法と性転換
【#1>>40
- Re: 落ちこぼれグリモワール ( No.21 )
- 日時: 2014/12/13 09:00
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: b/Lemeyt)
- 参照: こんな遅くに更新の理由は2、3回展開を書き直したからです……。
放課後になると俺は急いでアンノウンへと向かった。
一応、視線とかを気にしながらではあったけど、まあ多分大丈夫だろう。
『私が見てるから大丈夫だよ!』
「あぁ、そりゃ安心だわー……っと」
『全然安心そうじゃないっ!?』
文句を垂れるテレスはおいといて、教室の扉を開く。ガラガラ、簡単に開いた扉の置くには機械仕掛けの扉が——
ふわり、と風がどこからか吹き荒れる。一人の人影が、教室の真ん中にあった。乱雑と置かれた机の真ん中に座る少女の姿。
綺麗だ——不覚にもそう呟いてしまいそうになる。銀髪の髪、そして自分と同じ制服を着ていることを疑いそうになるほどの、日本人離れしたその白い肌や容姿に心を奪われたように立ち尽くしてしまう。
地毛なのか、ふんわりと巻き毛になっている長めの銀髪の髪をした少女の片手には似合わない分厚い本が一つ。青い瞳が印象的すぎて……と、俺は何をしている。というか、何でこんなところにこんな美少女が……。
「あ、あの……」
思い切って声をかける。すると、少女は俺の存在に気付いて、ゆっくりと俺を見た。真正面から見つめ合っている。そう考えただけで俺の心は鼓動を早くする。どこまでも澄んだ青い瞳が俺を見つめて——
しかし、何を言うこともなく少女は机の上から小さく飛び降り、音もなく着地した後、さも当然のように機械仕掛けの、アンノウンへと続く扉へ向かい手を扉の表面に触れた。
「え、ちょっと……!」
「……来て」
こちらに再度は振り向かず、扉を押す。カチッ、と音がして機械が動き出す。沈んでいくように扉の方へ消えていく少女。俺はその後を追いかけるように後を追う。
『何だか、あの人……』
呟くテレスの声に気にも留めなかったが、そういえばと思い返した。
テレスも、銀髪だったな、と。
アンノウンに辿り着いた時には既に少女は前を歩いていた。迷うこともなく、アンノウンへと一直線だ。といっても、そこに通じる道しかないわけなんだけど。
扉に手をかけ、開いていく。突き進む少女の姿に戸惑いながらも俺はついていくしかない。というより、元からここに来るつもりで来たわけなんだし。と思うわけだが、この少女は一体何者なんだ。見るところによればこの少女は……制服は同じだけど、"普通科と魔法科のどちらの刺繍も入っていない"。
つまりこの子は部外者なのか? そうなるとやばくないか、この状況。
「あ、いらっしゃい! 桐谷君!」
しかし、そんな不安も一瞬で解消されることになった。
ニールさんが無邪気に手を振る。相変わらずのぶかぶかの白衣姿に俺はどこか安堵していた。
「ニールさん……あの、この子は……」
俺はまず最初にこの少女の存在を確認する。ニールさんはちらりと少女の方を見て、
「ロゼッタ、自己紹介しなかったの?」
「……しなかった」
ふぅ、とニールさんはため息を吐く。ロゼッタと呼ばれた少女は翻り、俺の方へ向き直るが、その視線は俺と合っていない。少し下の床の方に目線はいっていた。
「それじゃあ僕が紹介するけど、この子の名前はロゼッタ。君や佐上さん、古谷君を助けた助っ人だよ」
「え……この子が!?」
嘘だろおい、と俺は思わず言葉を呟いてしまいそうになった。こんな華奢な銀髪の少女が、あの化け物から俺達を助けた? そんなまさか。
「信じられないかもしれませんが、実際にそうなんですよ」
しかしまあ、何となく分かった気はした。教室で俺を見た瞬間、聞くこともなくついてこいと言ったのは、俺を助けているから顔を知っていたわけか。
ていうか、テレスはこの子の姿を見ていないのか。
『んーとね、私も咲と同じタイミングで意識が途切れちゃったの。気付けば水晶の中にまた戻ってたけどね』
へぇ、そんなことになってたのか。意識が途切れるって、魔力使い果たしたってことなのか、ひょっとして。
『うーん、わかんないけど、また水晶から復活できたよ!』
つまりあれか。ひょっとして不死身なのかよ、お前は……。
「ふふ、お話中で申し訳ありませんが、こちらも早速本題に入らせていただきます」
俺がテレスと話しているの分かったのか、というような表情をするが、それよりもニールさんは話を続ける。
「本題というのは……桐谷君、君を"クラス:ボーダー"に勧誘したいのです」
「クラス:ボーダー?」
初めて聞いた単語に訝しげに聞く。単刀直入に言い切ったニールさんは、ハッキリと返事をした後、言ったわけだ。
「クラス:ボーダー……それは、あまりに危険で、"存在してはならない"……"魔人"を相手にした専門のクラスのことです」
俺の運命はやっぱり、どこかから狂ってしまっていたようだ。
————
「……すみません、誰を、どこに勧誘すると?」
「あれ? 聞こえませんでした? 桐谷 咲耶君……及びその人体に憑依した状態でもあるテレス・アーカイヴさんをクラス・ボーダーに勧誘しているんです」
正気かこの人。魔人を専門に相手にするって、聞いたことがない。まずそんなクラスがあるなんて。
魔人そのものを直接見たのは昨日が初めてだったが、あの化け物は世界的に有名で、俺も勿論知識として知っていた。
魔法を使えるのは勿論、人外の存在であり、それは人を喰らうことによって魔力を供給し、存在を維持する。魔人による被害は留まることを知らず、今もなおその被害は拡大している一方でどうして魔人がこの世界に現れるのか判明していない。
本当にいた、というのは昨日が初めてであり、同時に絶望した。本当にこのような化け物が存在するのだ、と。
「どうして、俺を……」
「それは桐谷君はあの状況で逃げることもなく、魔人と戦うことを決意し、友人を守る為に立ち上がったからですよ」
「そんな理由で俺を選ばないでください! そもそも、俺はこの水晶とテレスをどうにかする為にここに来たんです! 何で勧誘に変わってるんですか!」
「ああ、そうだったね。確かに君は"そうだった"。現にそうしてくれても良いけど……実際に君とテレスの関係は不明のままだ。仮定として現在の関係を決めているけれど、実際にはどうなっているか不明なわけなんです。だから引き取ったところで、今の状況は何も変わらない」
「確かにそうですけど、それとこれとは……」
「……ふむ。仕方ないですね。それじゃあ、"彼"に登場してもらいましょうか」
「彼?」
まさか、とは思った。けど、そんなはずはないって。
「どうぞ、"古谷 静"君」
奥の方から出てきたのは、どこからどうみても古谷の姿で。なおかつ、斬られたはずの左腕は元の通りに戻っているようにも見えた。
「こ、古谷? 無事だったのか!」
思わず話しかける。古谷はどこか照れくさそうに頬を掻く。
「桐谷君……話は、聞いたよ。僕を追いかけてきたんだって? ……それで、巻き込んでしまって。……本当にごめん!」
と、古谷は頭を下げる。俺はそんな、と言葉にしようとしたが、古谷が「でも」と言葉を紡ぐ。
「もうそんな無茶はしないでくれ。魔人相手に、あの時の君は……テレスという存在があったから助かった。けれど、普通の君なら殺されていたよ」
冷たい目。古谷は冷静にそう語る。確かにそうだけど、他にどうすることも出来なかった。現に助けられたのは事実だし。
「助けてくれて、こう言うのも何だけど……君は魔人をなめている。大体、何で僕を追ってきたんだ」
「なめているって、言われても……。俺はただ、心配で……」
「正義感だけじゃ、誰も救えないよ。……最初に会った時に言ってたよね? 魔法も使えないのにって」
「ッ!」
「そうだよ、魔法を使えない……それはすなわち、魔法を使う者に対しては無力なんだ。君は理解していたのに……」
俺は、確かにそうだ。言われても仕方がない。自分で理解している。力がないことなんて。俺は落ちこぼれだ。普通科に通う、普通の学生。なのに俺は……。結果がこうなったから。いや、そもそもニールさん達が助けに来なかったら、俺は関係のない燐まで……。
"魔人をなめている"その言葉が深く突き刺さる。正義感だけじゃどうしようも出来ない壁がそこにあった。
「……僕の家族は、ある一体の魔人に殺されたんだ」
「え……?」
古谷は、失ったはずの左腕を見つめながら。その瞳は遠い、しかし忘れられない記憶を映し出していた。
「僕の家族は花畑を訪れるのが好きでね。あの荒廃地区は綺麗な花畑が有名だったんだ。のどかな場所だった……。魔人なんて、これっぽっちも想像していなかった。日常の中に、常にその存在はあの頃もあったのに」
あの壊れた廃墟の傷跡。そして血の痕。至るところに当時の惨劇を映し出す手掛かりがあそこにはあった。
「僕の家族だけじゃない。そこにいた人間も皆殺された。その魔人はただ、自分の存在を残す為だけに。いや、ただの快楽もあったかもしれない。僕が見た、奴の顔は——嗤っていたのだから」
身体を震えさせて古谷は話す。先ほどまで和やかな表情をして、そして冷たい表情、今は憎しみを帯びた——まるで別人の古谷の姿に俺は身震いした。
人は、こんなにも変わるものなのか、と。
「だから僕は、魔人を殺したい。魔法学園に入学したのもそのせいだ。魔法の才能がないから、家族を守れなかった。ならば、魔法のノウハウをつけ、無力な自分でも魔人を殺せるものを作ろうと」
「古谷、お前……」
「……その中で、昨日の出来事があり、僕は左腕を失ったかのように思えた。けど、それは違ったよ。ニールさんは、僕に"武器"を与えてくれた」
と、古谷は左腕を差し伸ばす。その左腕は光を放ち、魔方陣が一気に展開される。メビウスの輪が何度も交差し、左腕の手のひらが変形していく。それは刃物状に。鋭く、どこまでも透明なそれは何物も切り裂く凶器と化した。
「古谷君の左腕は、"魔装篭手と言う最先端の魔法学と科学を駆使した最新の"魔装"だよ」
「"魔装"……?」
「……魔装とは、身体の一部を犠牲にして人体の生命力を魔力に変換させ、魔法と同等の力を生み出す……兵器のこと」
俺が聞き慣れない言葉に反応すると、先ほどまで無口だったロゼッタが説明をを淡々とした口調で行ってくれた。
「まだ発明段階だけどね。僕の発明品の一つかな。彼にはそれの"実験体"となってもらった。それ相応のリスクを覚悟して、ね」
「そんな……リスクって……」
「例えば、魔力出力をあげすぎたら自分の身体が木っ端微塵になる、とかね」
あっけからんと言うニールさんに怒りさえ思える。まるで、本当にモルモットのように古谷を扱っているようで——
「勘違いしないで欲しい。これは、僕の意思だ。僕は自分で戦えることなら自分で戦いたい。願ってもないチャンスなんだよ」
左腕にまた魔方陣が浮かび上がり、何度か左腕を覆った後、左腕は元の人間の形に戻る。
「まだ、実戦はしてないけど、僕はクラス:ボーダーに入り、魔人を殺すよ」
その目は、真剣だった。あの時見た目と同じ。必死で生きようとする人間の目だった。
「……さて、桐谷君。考えるのは自由だ。決断するのも勿論。けれど、このチャンスは一度きりだよ。僕が勧誘するのはここまでです。何故なら、部外者にこのアンノウンの存在とクラス:ボーダーの存在を知られているままではまずい。君の記憶を一部消すことになるでしょう」
ニールさんは記憶を消すことも出来たのか。ということは、燐もそれと同じ方法を使ったということか……?
魔装篭手なんていう代物を生身の人間につけることが出来るぐらいだ。記憶を消すということも出来かねない。けど、記憶を消された方がいっそ楽なのか? もしかすると、テレスは勝手に消えるかもしれないし、記憶を失えば何もかも逃げ出せるかもしれない。
……本当にそれでいいのか。迷う自分がいる。
燐は、いつも俺を守ってくれた。今もそうだ。でも、あの時。俺は守りきれなかった。倒れてしまった。あのままだったら、燐は死んでいただろう。それは、俺が何も出来なかったからだ。
落ちこぼれだと、自分はその現状から何をするわけでもなく、ただただ甘えていただけ。……最低だ、俺は。何も力がないのに、正義感だけを振りかざして……。
握り拳に力が入る。そんな俺をニールさんは見つめ、そうだ、とまるでひらめいたような言葉を口にして言うのだ。
「それなら、"体験入学"なんてものはどうですか?」
——やっぱり。ロクでもない提案をだしてきた。
- Re: 落ちこぼれグリモワール ( No.22 )
- 日時: 2014/12/07 04:14
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: b/Lemeyt)
- 参照: ちょっと展開に迷ってる感がある……。てか話全然進まない……。
「では、そういうことで桐谷君、クラス:ボーダーへようこそ!」
「いやいやいや、待ってください! 俺一言も認めてませんし、体験入学どころか本当に入ったみたいになってますよ!?」
「うーん、この流れでもダメですかぁ。でも体験入学というのはいいかもしれませんよ? どちらにせよ、我々の傍にいてくれなければ君に憑くテレスさんをどうにかすることなど到底出来そうにもないですから!」
ぐ……確かに何もしないままだったら現状は変わらないけど……。
「……戦闘とかはしませんよ?」
「あっははは、当たり前じゃないですか! 何も訓練していない状態で戦闘なんて、犬死しに行くようなものです。体験入学ではサポートについてもらいます。というか、とーっても安全な場所から眺めていてくれるだけでいいですよ。どうですかねぇ? デメリットはないように思えるのですが……」
そうだけど、ニヤニヤと笑うニールさんがどうにも怪しいんだよなぁ……。どうかしましたか、と言わんばかりに笑顔のまま首を傾げてくるけど、多分俺の心の中なんて読めているんだろうな。
「が、害がないなら……で、でも、条件があります!」
「ほう、何でしょうか?」
「いつでも俺の独断と偏見で辞めさせてくれること!」
「全然いいですよ?」
当たり前だ、というような感じでニールさんは肯定してくれた。反論する材料が見つからないんだけど……。
それよりも、古谷が過去から逃げずに前を踏み出す姿を見て意地のようなものまでが俺の心の中に纏わりついてくるのだ。
仕方ない。テレスが俺に憑いた原因はそもそも、俺が"百番目の魔術式"を発動してしまったからなわけで……せめて少しぐらいは責任持ってやろう、とか思ったりするわけで。
「決まりだね?」
ニールさんはやはり俺の考えていることを読んでいるような、そう思わせるほど、言葉にしなくても答えを先に出してきた。
————
「改めまして。クラス:ボーダーの指揮官、ニールです。体験入学だとはいえ、よろしくね、桐谷 咲耶君」
「あ、よろしくお願いしま——」
「おい待て! そんな話は聞いてないぞ! ニール!」
と、奥からずかずかと歩み寄ってくるその人物は、俺も見たことのある人だ。
わしゃわしゃと豪快に綺麗な赤髪を掻く紅さん。しかし、その表情は少し怒ってる、のか?
「紅ですか。丁度いいところに来ましたね。紹介します、彼は桐谷 咲耶と言って——」
「そんなことはいくら私でも分かっている! ほら、あれだろ! 昨日一昨日ぐらいにここに紛れ込んできた普通科の学生だろ?」
「よく覚えていましたね」
「まあな! ……いや、そんなことよりだ! こいつの件はもういい! それよりも、何故勝手に魔装篭手を装着した!」
さっき罵られたような気もしたんだけど、紅さんはどこか得意気に返事を……まあ気にしない方がいいか。
「あー……面倒臭いですね、相変わらず。ちょっと紅、こっちに来てください!」
「何だ? 何か文句でも……」
とまあ、何だか分からないままニールさんと紅さんは少し離れた場所に移り、数十秒もしないうちに戻ってくると。
「ははははっ! 悪かったな! よろしくな、桐谷! 古谷!」
どういう変わり様だよ。急に態度が一変したけど、ニールさんは何を言ったんだ?
「彼女は単純なんですよ」
ニールさんは小声で俺と古谷に伝えた。なるほど、見た目のまま紅さんの頭は単純なのか……。
「そういえばお前ら二人……どっちも"谷"がついてるな! ははははっ! 谷コンビだな!」
超絶笑えないが、これは笑っていた方がいいのか? 気分良さそうだし、一応愛想笑いだけ浮かべることにした。
「紅、自己紹介お願いします」
仲裁を保つようにニールさんが指示を出した。助かった、このままこんな風に苗字の"谷"が重なっただけで弄られるのかと思うとしんどいところだった。
「おお、そうだったな! 私はクラス:ボーダーの教官兼リーダーでもある紅だ! 頭脳ではニールに任せているが、戦闘面では私になるな!」
なるほど、そういう分けられ方してるのか。紅さんに指揮官なんてやらせると、一斉突撃とかしそうだもんな。
「で、次に……」
と、ニールさんが隣に突っ立っているはずのロゼッタの方へ目をやる、がそこには彼女は律儀に立っておらず椅子にかけてまたしても分厚い本を読んでいた。本が好きなんだろうか、この子は。
「ほら、ロゼッタ。自己紹介は?」
「……ロゼッタ。よろしく」
ただそれだけ。本から顔を逸らしてこちらを見たかと思うとそれだけを告げるとまた本を読み始めた。なんていうか、見た目が凄く美人で清楚な感じがある分、とても画にはなるのだが文学少女という雰囲気でもない。独特の世界観がそこには展開されているような気がした。
「まあ……彼女はいつもこんな感じだよ。ロゼッタは一応クラス:ボーダーの中では随一の能力を持つんだ」
こんな静かな子が、ねぇ。あんな化け物を相手にしたらどうにも出来なくなっちゃいそうな感じするけどな。
「そして古谷 静君。まあ彼のことは分かるかな。先ほど見てもらった通り魔装篭手を使う。彼も入って間もないからサポートからだけどね」
本当にこんな危険なものを自らやろうとしているのか、古谷。どことなく俺は不安げな気持ちを抱える中、古谷の決心した表情に揺るぎはない。復讐の為に、自分の命を削る。俺なんかでは計りきれないほどの決意がないと出来ないことだ。
「……さて、今いるクラスメイトの紹介は終わったけど、まあ他のメンバーはまだ数人いるんだけどね……中には勧誘中の生徒もいるんだ。桐谷君のようにね」
俺のような人が他にもいると考えたらいいわけか。しかし、意外と少人数だ。もっと人数がいて、魔人を倒すのかと思った。だって、あんな化け物に対してだぞ? 燐でさえも不意打ちとはいえやられてしまったほどだ。Aクラスの他の連中でも相手が出来るかどうか怪しいところなのに……。
そういえば、クラス:ボーダーにはどれほどの実力者が揃っているのだろうか。せめてあの魔人と戦えるほどの力がなくては話にならないわけだしな。
「他のメンバーはまた追々紹介するという形で……。あぁ、そうそう。活動自体は基本的に放課後。緊急の場合は授業中であろうとも連絡を送るよ。その時その場にいるメンバーで魔人を討伐する。基本的にはロゼッタや僕や紅は居るよ」
そこまで話すとニールさんは俺の携帯の連絡先、古谷の連絡先などをいつの間にか登録済みにしてある携帯を見せ付けてきた。
「な、何で俺の連絡先を知ってるんですか!」
「一応これでも魔法学園の教官サイドの人間だからね。生徒の個人情報なんて頑張ればたやすく手に入るわけですよ」
ニールさんは自慢げに言うが、それって職権乱用というものではないのか。
そんなことを思っていた矢先、ふと小さく声が頭に響いた。
『……私は』
何か言いたげな感じを醸し出しているテレス。いつもの調子ではないのは明らかだ。しかし、ニールさんが話を続けている為、テレスの相手をしている暇はない。
「ということで、魔人情報がきたらバシバシ送るから授業中でもなるべく抜け出して来るように!」
「あの……それっていいんですか?」
「あー、そうかぁ、二人は普通科の生徒だったね。それじゃあそうだな、適当に理由つけてバックれたら後は僕が何とかするよ」
何とかできるものなのか……。適当に理由つけるのにも限度ってものもあるし、回数を重ねれば言い訳のしようもなくなってくるんじゃ……。
「そこは安心してくれたらいいよ」
断言するようにニールさんは言うので多分大丈夫なんだろうけど。
「あ、それと。他の生徒には"絶対にクラス:ボーダーの存在を知られないようにすること"。これは二人共、守るようにお願いするよ」
"絶対"と念を押すからには、それだけ秘密裏にされているということなのだろう。
「あと一つ。分かってるとは思うけど君達は普通科の生徒だ。普通科の生徒は魔法を使えないことを理由に入学を許可されている一面もある。もし魔法が使えることを誰かに知られでもしたら……退学になるから、そこらへんは気をつけてね」
笑顔で忠告するニールさんだが、結構重要なことだ。でも俺は別に魔法を唱えることなんてないだろうし、どちらかといえばテレスと肉声で会話して怪しい人認定されないかが心配だ。
「桐谷君は魔法なんて人前で唱えないかもしれないけど、自覚しておいて欲しい。君は、もう"普通の生徒じゃない"。超人的な魔法を扱いきれてはないものの発現することが出来る人間なんだ。だからこそ、僕は君を勧誘したんだ。……それは重々承知しておいて欲しい」
今度は、目元が笑ってなかった。なんともいえない気迫に圧されて俺は黙って頷くことぐらいしか出来なかった。
自分で分かっているのか、分かっていないのか。自分の今の立場を考え、曖昧な気持ちを抱えたままで。少なくとも、俺じゃない力で、俺は魔法が使えて。……まさか、自分がこんなことになるなんて。
色んな考えが廻るけど、今は考えたくない。とにかく俺は普通の日常を……そうだよ、普通の、日常を求めているんだった。
「……はい! それじゃあそろそろ解散しましょう! 放課後はここにまた集まるように!」
ニールさんの掛け声で今日のところは解散となった。
————
やばい。非常にやばい。
忘れていた。なんてことをしてしまったんだ、俺は。
時刻は既に一昨日帰った時刻よりも一時間半は過ぎていた。あまりに色んなことを説明されたせいで俺の頭が混乱していた。……いや、言い訳だ、そんなものは。ああそうさ、すっかり忘れてましたよ。——燐と帰りの待ち合わせしてることなんて!
いよいよ燐と待ち合わせしていた場所へ辿り着く。あれは、まさしく燐だ。左手に桜の刺繍の入った太刀を抱えているなんて燐以外に見たことがない。
これは決意を固めるしかない。一時間も律儀に待ってくれた鬼……——じゃなくて、燐に対して誠意を見せるしかない!
「ごめん!! 遅くなった!!」
ズザァッ! と華麗な土下座スライディングで燐の目の前でばっちり決める。……沈黙。沈黙だ、超怖い。やばい、心臓が破裂しそうだ。これは殺される……!
「……ふぅ、やっと来たわね。帰りましょ」
しかし、俺の思った通りではなく、軽快な足取りで土下座している俺の横を通り過ぎていく燐。あれ、怒ってるのか怒ってないのかいまいちよく分からないんだけど……。
季節は春のおかげもあってまだ周りは明るい。とはいっても下校する生徒はもう全然いなくて、夕日も沈もうとしている頃だった。
「え、その……怒って、ないの?」
思い切って聞いてみる。すると、燐は振り返る。その後ろには夕日の光が照らされ、燐の姿と桜の刺繍が入った太刀、全てが同化して——綺麗だった。
「別に? 早く帰ろ!」
燐は笑顔で言った。その言葉から数秒、立ち上がることも出来なかった。
「……何してるのよ?」
「い、いや、何でもない」
急いで立ち上がる。夕日が暮れようとしている。燐は、笑っていたけれど。どこか悲しそうな表情というか……。
「今日はカレー作るから、家片付けておいてね」
「え、俺の家で食うの?」
「当たり前じゃない。あんたも食べるでしょ?」
しかし、そんな考えも燐の作る激マズカレーによって払拭されたのであった。
————
(咲は……本当は、どうしたいのかな……)
小さなテレスの気持ちは、誰に聞かれることもなく、言葉にすることもなく、ただそこに零れただけ。
咲にしか見えず、咲に憑くことでこの世界を視ることが出来る自分の存在。自分が何者なのか、そして咲はどうしたいのか。
テレスは、抱え込んだ不安、そして孤独に苛まれていた。
- Re: 落ちこぼれグリモワール ( No.23 )
- 日時: 2014/12/25 01:09
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: SyxKXH7O)
- 参照: 参照500突破ありがとうございます!ほのぼのとした日常感も味わっていただけたら。
廃墟の連なったとある荒廃地区に一人の男が佇んでいた。何をするわけでもなく、男はただ廃墟の中心に立ち、上を注視している。
男の風貌は茶髪のオールバックに、サングラスをかけ、全身黒尽くめのスーツを着ている。その細身ながら筋肉質な身体はしなやかさも兼ね備え、相当鍛え上げられていることが分かる。
「へぇ、なるほどねぇ」
何が分かったのか、男はぼそりと呟いた。上をただ見上げていただけに過ぎないのに、男は分かったような口調で言い残すと次は地面の光景を注視し始めた。
惨状。この一言が似合う光景はこれの他にあるだろうか。血で大きく水溜まりのように広がった染みや、建物が何か鋭い爪のようなもので削られたような痕、そして死体のような腐臭が辺りを漂わせている。
死体は既に撤去されたはずなのに、そこに染み付く腐臭は消えない。しかし、男は腐臭を気にすることもなく、ただ辺りを見回していた。
「何か分かったのか?」
男の後方、そこにも一人存在していた。しかし、それは"声だけ"。存在自体は確認出来ない。後ろにいるはずなのに、まるでそこには"無い"かのような感覚。男はその存在をよく知っていた。
「はっ、分かるも何も、こりゃあ"食いしん坊"の仕業じゃねぇのか?」
「我々も疑った。しかし、これは食いしん坊の仕業ではない」
「へぇ、マジかよ。この暴飲暴食っぷりはまさしくあいつじゃねぇの? どうして断言できる?」
「食いしん坊も"同じく喰われた"からだ」
"声"に反応し、男は振り返る。しかし、そこには何もない。だが、男の顔は先ほどのおどけたような表情ではなく、真剣な顔つきになっていた。
「おい、冗談だろ? 食いしん坊は食べるのは好きだが、食べられるのを好むほどドMじゃなかったはずだぜ?」
「……奴の胴体、足首、共に引きちぎられた形跡が視られた。魔力が枯渇すれば存在そのものがなくなる。我々が発見した時はまだ部位は残っていた。残された部位が消滅するのは時間の問題だが、ということはその他の部位を喰って逃げたということだろう」
「なんつー化け物だおい……。食いしん坊相手にそこまでやれるのか。本当にそいつの正体は掴めてないのか?」
「ああ。ただ一つ、"魔人相手に魔人が捕食している"ということだけしか分かっていない」
男はため息を吐き、天井を仰ぐ。何を考えていたのか、数十秒そうした後、再び男は声の聞こえる方へ向き直った。
「純度の高い魔人同士で共食いとはなぁ。そもそも、魔人って魔人に対して食欲が湧かないんじゃねぇのか?」
「それは分からん。我々としても異例の事態として重く受け取っている。また、早く討伐出来れば良いわけだが、全く正体も掴めない上にかなりの強さであることは間違いない。だからお前に協力を依頼したんだろう——アスクレピオス」
「俺は部位に散らばった死体には興味ねぇ。それに探偵じゃないんだぜ、俺ぁ」
冗談を言う口ぶりで"声"に言う男だったが、反応がないのに対してまた小さくため息を吐いた。
「ったく、やればいいんだろ? でもなぁ、最近は魔法学園とやらの動きも活発化してきてるし、あそこの生徒に殺された無能な魔人共も大勢いるらしいぜ?」
「何が言いたい」
「こんなわけの分からねー化け物を追うよりも、まずはそういう身近な敵から排除してもいいんじゃねーかってことだよ。ま、俺はあんたらの言うように"共食い野郎"を追っかけてはみるけどよ」
「……余計な口出しをするな。調査を続けろ」
それだけ言うと、"声"の反応はこれ以上ない。存在がなくなったことを確認してからアスクレピオスは両手を広げ、首を傾げた。
「まったくよぉ、俺も暇じゃねぇんだけどなぁ。でも死体集めをするにもあいつらとは仲良くしておかねーとやり辛ぇしな」
文句を垂れながら茶髪の髪を掻き、再び惨状の広がる光景を目にする。サングラスを外し——男の赤色の瞳は妖しく光を帯びていた。
「さーて……どうすっかなぁ」
————
眠ればそりゃあ朝が来て、一日が始まるのは当然のことなんだけど……考えることを放棄したい気分の俺にとっては一日の始まりが辛い。むしろ何も考えなければずっとこのまま布団の中で過ごせるんじゃないかな、とか思い始めてくる始末。
昨日は燐のカレーを食わされて、案の定腹を壊し、トイレに何度駆け込みたかったか。けれど燐がそれを許すはずもなく、我慢し続けた結果燐が帰宅した後はトイレで何時間か篭りっぱなしにもなった。
「だから今ちょっと気分が悪いのか……」
朝の目覚めがこれほどまで悪いのは久々だ。とはいっても、個人的にはもう少し遅く起きたい。でも燐が早めに来る。だから起きるのだ。身体がほら、こうして何も言ってないのにちゃんと起きやがる。身の危険を察知してのことだろうか。
小鳥のさえずりさえ耳に入らず、ただお布団の中から出たくないと思いながらも身体を無理矢理起こした。
あぁ、まだ眠いよチクショウ。出来ることならこのまま寝たいところだ。
「ん……?」
何か違和感を感じた、と思いきや、そうだテレスだ。あいつ、確か家の中では自ら実体化出来るはずなのに、何で今日は実体化していないんだ?
「おーい、テレス?」
『……ん? どうしたの?』
ああ、いた。返事が少し経ってからだったから気になった。って、何で俺は気になってるんだ。こいつがいて迷惑被ってるんじゃなかったのか。
「いや、いるならそれでいいんだけどな」
『……うん』
何だ、そのいかにも元気のない返事は。何かあったのだろうか。そういえば、昨日から少し様子がおかしい部分はあったような気もする。
「実体化出来るのに、今日はしてないな?」
遠まわしに聞いてみることにした。まずは実体化のことから……。
『んー、気分じゃない、かな』
何だそれぇえええ……。気分じゃないから実体化しないって、理由にもクソにもならんよ……。何か知らんけど、複雑な乙女心ってやつなのか、これが。
「な、何か、ごほん。……悩んでるのか?」
『悩み……かぁ。またそれとは違うかもしれない』
難問すぎませんか。はぁ、俺にはどうしようもなさそうだな。
「そうかよ……ていうか、ご飯も食べねぇの?」
『それは食べる』
「こいつ……」
結局ご飯を食べる為だけに再び実体化したテレスは昨日の作り置きして行きやがった燐のカレーを食べてもらった。
一口、二口と食が進む。それを見守る俺だったが、どこか俯き加減のテレスは味というものを気にしないままそれらを全部平らげた。驚いたな、何食か分残ってたはずなのに。ていうかそもそもあの味でよく食えたな……。
「不味くなかったか?」
「え? 何が?」
「いや、カレーだよ、カレー」
「これ、カレーっていうの?」
ああ、カレーも知らないのか。記憶喪失とはいえ、そういう日常的な物事はテレスの知識の中にある。だから赤ん坊状態というわけではないのは確かなはずだけど、カレーを知らないとなると現代っ子ではないということになるのか。
ということは、テレスはどの時代の人間なんだろう。カレーを知らないなら……相当前だよな。
「クセはあるけど、食べれるよ?」
あぁ、燐のカレーがテレスの中で標準的なカレーになってしまう……本当はそんな不味くないんだよ、カレーってものは。もっとな、カレーの味がして、色んな野菜とかの味が染み込んでて……そんな若干抵抗感のある液体じゃないんだよ、カレーってのは。
「ご馳走様でした。……そろそろ、燐ちゃん来るよね? 私、戻るね」
「お、おう……」
いつになくテンションの低いテレスは淡い光を帯びたかと思うと水晶の中へ戻って行った。それも燐のことを燐ちゃんって呼んでるなんて、初耳だ。
何を考えているのか分からないが、いつものやかましいテンションがここまで落ち着いてくれるとなると俺の頭痛の悩みが減って大変よろしい。しばらくこの状態で居てもらいたいもんだが……何かこう、物足りなさがどこかにあるな。
「いやいや……何言ってんだ俺。っと、早く支度を済ませるか」
そうしている内にいつもの如くインターフォンが家の中に響いた。
————
案外普通の会話。本当に燐は魔人との云々は記憶にないのだろうか。そう思ってもおかしくないほど燐は通常だった。ただ少し無愛想に、不機嫌で、それとなく気にかけてくれている。どこからどう見てもいつもの燐にしか見えない。
学園までの道のりは徒歩では案外遠めだ。舗装された道を通る為、あまり住宅街などではなく、白を基調とされた歩道を通学路としている。といっても、その道を通るようにと魔法学園からの通達もある。
理由としては、一般人とプライベート面などで関わる機会は出来るだけ避けさせる為であることと、魔法による被害などを減らす為だ。
魔法学園は凶悪な魔法を使った犯罪者などを相手にするので危険が多い。その為、魔法学園の周りはこうやって舗装された道などで通学路が決められていたり、魔法学園に通う生徒用の寮などが配備されている。一つの"学園都市"といえばそうかもしれない。
そういうわけで、舗装された道を歩く中で他の人と接触することはまずない。魔法学園の生徒と接触する、ということも有り得ることは有り得るわけだけど、生憎俺と燐は通常よりも結構早めに登校しているせいもあってか入学から数日経った現在のところ、まだ登校中に魔法学園の生徒を見かけたことはない。
となると、必然的に二人で話す時間が多くなる。まあ毎日こうして一緒に登校していれば話のネタも無くなり、次第に無言になったりするが双方ともに長く付き合いのあるせいかそんな間も全然普通になっている。
でも、一つ気になることはある。燐についても違和感はあるっちゃあるが……テレスのことだ。さっきから黙ったままの幽霊少女の異変にさすがの俺も気にかけていた。
何も話そうとしないし、どうすればいいのか正直俺にも分からない。急にそんな塞ぎこまれても燐と違って短い付き合いなもんだから対処方法に困る。
……まあ、話してくれるまで待ってみるか。
「それじゃ」
燐の一言で校門の前まで辿り着いていることに気付く。あぁ、と返事しようとしたところで燐の方が先に言葉を繰り出してきた。
「今日から"演習"があるらしいから、放課後は一人で帰ってて」
「あ……うん、分かった」
「じゃあね」
踵を返すと燐はそのまま俺の方へ振り返らずに歩いて行った。
演習、というと確か魔法科の生徒には個人の運動能力や魔力などを測る為に演習を兼ねて様々なトレーニングをするとか何とか……。なおかつ、燐はその中でも武具や身体に魔法をかけて戦う"魔技科"の方なので結構ハードな形になるんじゃないかと思う。怪我しないといいけど、燐の相手の人が。
でもまあ丁度良かったかもしれない。放課後はニールさんに来るよう言われていたし、魔法科で演習があれば遠慮することなく放課後は過ごせる。どうにかバレる心配はなさそうだ。
「さて、俺も行きますか」
静かで、なおかつ広大な中庭を一人、普通科の校舎を目指して駆けていく。今日はなかなか気持ちの良い朝だな。
————
「えー、クラスの委員長を決めたいと思います」
朝のHR。気だるそうな先生の声。クラスメイト達はその一言でざわつき始める。その中でも誰がなるんだよ、早く誰か決めようぜ、立候補しろよ、などと身勝手な意見が多い。
ああ、これよくあるよなー、と心の中で思い返す。学校あるあるに挙げてもいいんじゃないかってぐらいだ。
ちなみに俺は魔法に対して小学生、中学生時代もご覧の通り落ちこぼれまっしぐらだったので普通の一般の学校へ入っておりました。だから燐とは幼稚園と魔法学園でしか実は一緒になったことがないんだよな。
「立候補したい人はいますか?」
先生の声が教室中に広まったはずだが、一向に返事が返ってくる気配がしない。
委員長、といわれればなかなかして面倒臭い仕事だ。それも何かと色々あったりでもしたら委員長という肩書きだけで目の敵にされたりする。踏んだり蹴ったりでご苦労様ポジションというのが俺の中の委員長印象だ。
あー、誰か立候補してくれよ。思うだけで口にはしない。皆そう思っているだろうからだ。
「あ、あの」
と、ここでまさかの挙手がきた。女の子の声だ。ここでまず俺は羽鳥さんを想像する。委員長してそうなイメージが確かにある。もしかして、と頭に過ぎったが違うようだ。漆黒の髪色がそこで見えたからである。
すらっと伸びた若干短めの腕に、小さな手。しかし真っ直ぐと挙げられたその子の姿は印象的だった。
「私、立候補してもいいでしょうか……?」
何故疑問文。皆たぶん願ったり叶ったりだと思うけど。
先生もやってくれるか、といった感じで笑みを浮かべた。って、このだるそうな担任の笑顔見るのがこれで初めてだし、少し不気味な笑みだな。
「雪ノ風! やってくれるか!?」
「は、はい。やっていい……でしょうか……?」
「ああ、やっていいやっていい! それじゃあ、委員長は雪ノ風 此方(ゆきのかぜ こなた)で決定だな!」
フルネームで担任が紹介し、黒板に大きく雪ノ風 此方と書く。それを見て少し赤面しながらクラスメイトの拍手と共にぺこぺこと頭を下げる彼女の姿はとても可愛らしかった。
あんな子もいたんだな、と俺は心の中で思う。いくらクラス:ボーダーに仮で入っていたとしても、俺は普通科の生徒なんだ。普通科のクラスメイトたちに対して興味を持たなくてはこれから先やっていけそうにないな。
「よーし、後一人なんだが……」
「はい、僕がやります」
雪ノ風が委員長に決まった途端、即座に手を挙げる人影。こんなにさっさと決まるんだったらもっと早くに出来たろうに、とか思った最中、その人影の正体に俺は驚いた。
「おお、やってくれるのか古谷」
まさかの古谷だった。いや、おま、え、委員長とかやるのってかやっていいのか。
「はい、せっかくなので」
どういう理由だよ。考えて喋った方がいいぞ古谷。
とにかく後で問いただすとして、何か理由はあるんだろうと拍手が送られる教室の中、自分一人で納得しておいた。
「何だ、やれば簡単に決まるじゃないか。さて、もうそろそろ一限だな……それじゃ、HRはここまでだ」
用事が済むとそそくさと先生は帰っていった。何にせよ、委員長とか魔法学園でも決めるんだな。まあ、普通科はそりゃそうか。
「あー、もう少しテンポずれてたら立候補してたかもねぇー!」
堺、お前は少し黙っておいた方がいい。
- Re: 落ちこぼれグリモワール ( No.24 )
- 日時: 2015/01/10 01:53
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: MDTVtle4)
【新年のご挨拶等々】
あ、あけましておめでとうございます!
今更かよ、という感じが物凄いですが、久しぶりにカキコを覗くことが出来たので書かせていただこうかと思います。
最近はなかなか私情によってパソコン自体を開くことがなかったり……あ、基本的にパソコン、というよりもパソコンからしか更新などはしません。ですのでパソコンを開かない=更新できない、みたいな点がありまして、兎にも角にも、こんなにも更新が滞ってしまって申し訳ないです……。
少しですが生活のリズムがとれ始めていき、何とか少しずつまた更新していくと思われますが、せっかくの年越しがこんなにもあっという間に過ぎるとは……最近では時の流れに圧倒されることが本当に多いです。
そして、もう一つ、更新が滞ったのには理由があります。ええそうです。特有のアレです。ごめんなさい、いつものアレです。完結云々させる前に来るアレです。多分、書いている人にはわかるような話かもしれません。
ああ、あれ書きたいこれ書きたい。しかしこれがある、あれがある。それを繰り返してきた結果が完結もしない駄作連発……ううむ、本当にクソみたいな作者です、すみません。
ただ……それとは別に、自分の中にわだかまりがあるのはあります。今まで終わらせてきた、といっても途中で私情云々や色んなことが重なったこともあったりしてやめてしまった作品達。その中でも特に思い入れの強い作品が二つほどあります。
そのタイトルの名前は【暴風警報のちのち生徒会】と【白夜のトワイライト】というものです。ええ、すみません……面白くなさそうな題名ですよね。
とはいっても、この二つの作品は思い入れが物凄いわけです。実際にこの二つに関しては何回もプロットを組み立ては考え直しを繰り返して作ってたりしてます。それだけ思い入れが強い作品だということが伝われば光栄です……。
それで、どうしても二つの作品が書きたい! それが無理でも一つは書きたい! みたいに思うわけですが、この作品があることと、もう一つ自分の中で引っかかっているのは既にこの二つの作品はリメイクとしてカキコで書いたことがあるということなのです。
いやぁ、本当に情けない……。リメイクしてるのに完結させないってどういうことや、と。私情が挟んだとはいえ、自己嫌悪になるほどの有様で言い返す言葉もございません。
ただ、書きたい。けれど、またこれか、と思われるだろうと思っています。それは今もあります。古参の方がかなり少なくなった今、誰も知っている人がいないと思います。けれど、自分の中にあるのです。こう、何といいますか、罪悪感ですかね……。それと同時に、また終わらせられなかったら、という思いもありますし、面白くないと言われまくるんじゃないかとも思っています。
ただ、書きたい。そこまでして思うのは、自分自身の中でもケリをつけたい物語であることと、昔に頂いたコメントのおかげですかね。
今はまだ書けるような状況でないのは自分でも分かっていますが、いつかまた書きたいと思います。その時は応援してくださると嬉しいです。新年を迎えたと同時に、去年は色んな苦しみを味わいました。それに区切りをつけたい部分もあり、こういう決断をしたかったわけです。
……と、まあ長く重い話はここまでです!
ごめんなさい、もう少しだけ書きます! そしてこれ書いた後は更新分書きます!
この作品ですが、いつの間にか参照が500を超えていて驚きました! ありがとうございます! いつもページの参照欄からしか感謝の言葉を告げられずにいたのでこの際に言わせていただきます!
つまらなくとも読んでくださっている方はいるんだなぁ……とかしみじみ思ってしまって、自分で情けない……。
それも新年も明けまして……何もしなくていいのか、ということになったわけでして、前から思っていた【オリキャラ】の方を本当に数名だけ募集することと、後何か正月の話題をした【番外編】とか書きたいなぁと思っています!
オリキャラの方で何で数名なのかと申しますと「レギュラー格」を募集しようと思うからです。プロットを組んでいない利点でもありますね! レギュラー格を募集いたしまして、物語と濃く接点させていく代わりに多分人数としては「2、3人」になると思います。
とはいっても、今はまだキャラ数も少ないですし、これからという場面でもありまして……せめてある程度まで進んでから行おうと思います! もうしばらくお待ちください!
そんなわけで、今年も「落ちこぼれグリモワール」を宜しくお願いいたします!
- Re: 落ちこぼれグリモワール 遅い新年のご挨拶など ( No.25 )
- 日時: 2015/01/12 00:14
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: MDTVtle4)
- 参照: お久しぶりに更新です。説明するところが多くて申し訳ない……。
「クラス委員長になるように提案したのは僕です」
放課後、呆気なく古谷が委員長に立候補した理由がニールさんから告げられた。
「クラスの委員長になるということは、どういう行事ごとがこれから行われるか一早く情報を入手できる。その方が今後魔人が出ても対策できる場合が増えると思ったんですよ」
プラプラと相変わらずサイズの合っていない白衣の袖を揺らすニール。言われてみれば、確かにまあ理には適ってるか。
放課後は早速古谷と共にアンノウンへと出向くことになったわけで、そうしたらニールさんはいつものようにアンノウンにいたので聞いてみたのだが、この様子だと他にも何か古谷に提案を組み込んでそうだな。
「で、今日は何をするんですか? せっかく集まったところで、肝心の魔人が現れていないんじゃ……」
それも、今現在ここには俺と古谷とニールさんしかいない。紅さんやロゼッタの姿は見えない。こんな状況ならなおさら疑問に感じるだろう。
「あはは、何も魔人を駆逐することだけがクラス:ボーダーのやることじゃありませんよ」
普通に考えてそうか。ずっと魔人が出ることはない。むしろ、魔人は隠れている場合が多い。人間の中に混ざって生活をしている者もいると聞いたことがある。分からないように、人を殺し、喰う。そうすることで魔力の枯渇を留めているらしい。思えば思うほど、あの相対した魔人の姿が脳裏に浮かび、つい身震いしてしまう。
「まだまだ、君達二人は魔人について知らないことが多すぎます。このまま以前のように対峙した場合、今度こそ一方的に殺される恐れもあります。なので、予備知識として魔法、そして魔人について"授業"をします」
「ええっ」
「どうしました、桐谷君?」
「い、いや……」
マジか。やっと学校の授業が終わって勉強という名の苦しみを終えたと思った矢先だっていうのに、またしてもそれが繰り返されるのか……。
「ふむ……まあ、魔法については簡単な説明でも良いかもしれませんね。基本的な"主属性"については二人共習ったと思います」
"主属性"というのは、火・水・雷・風・土の五種類の魔法のことを指している。名前の由来としてはそのまま、主に基本として使われる魔法のことだからだ。何を唱えるにしろ、必ずこの五種類の魔法の中の一つを混ぜ合わせなければ魔法は具現化しない。
……まあ、こんなことは今時ならば小学生でも知ってるような魔法学の知識だ。主属性は魔法の基本の基本、世界の基本ともされるようなものだしな。
「そして、"副属性"の存在。これは主属性の応用のような形でもありますね。つまり、主属性の"特徴"を捉えて組み合わせている魔法のことです」
"副属性"とは主属性の補佐的な役割のことだ。細かい分類といってもいい。だから種類の範囲に決まりは存在しない。例えば、ただ単純に火の玉を出すとして、それを五つに分ける、といったことに副属性が絡んで来る。
主属性の"特徴"というのが鍵だ。火なら火を想像する、情熱的、燃え盛る、範囲を広げる。まあそういうような流れのイメージ。抽象的な存在なのが副属性ともいえる。ちなみに細かいものから大まかなものまで様々であって、別にこの場合はどうだとかは決まっていない。イメージが重要であって、あくまで特徴を掴むことが必要なだけだ。
「本来ならば詠唱することで魔法は形に具現化していたわけですが、従来の詠唱式から魔術式に代わったことで魔法の利用がよりスムーズに行われるようになりました」
詠唱式は元々声に出してイメージを作り上げ、それを形にして具現化をするという流れだったが、魔術式では既に文字としてイメージが構築されている為、発動され出来ればすぐに具現化される。一見、詠唱式のショートカットのようでメリットしかないように思えるが、魔術式にもちゃんとデメリットはある。それは至極単純なことで、魔術式は事前準備が必要だということだ。
魔術式の発動は第一に構築された魔術式が文字として用意されていなくてはならない為、戦闘中にこの魔法を使いたいとなっても手持ちの魔術式しか活用できない。とはいっても、実際にこうなって困るのは魔法を直に放つ魔閃の方だと思うし、最近では文字の表現も色んな種類があるみたいだから、そこまで困らないのかもな。
ところで、どうして俺はこんなにも魔法学について詳しいのかと言われれば、魔術式を書くことを趣味にしているというのもそうだが、一応は魔法の名門に生まれた存在である以上そこそこの英才教育は受けている。しかしいかんせん、魔法を使う才能には恵まれなかったわけだが、魔法学だけは性に合っていてそれの勉強だけは人よりも優れていたというわけだ。……他の科目は目を逸らしておいて欲しい。
「そういえば、桐谷君は趣味として魔術式を書いていましたね?」
「え、そうなの?」
おい、何でそこで古谷は驚いたような声を出す。久々に喋った割には随分と失礼じゃないかそれ。
「趣味ですよ……。一応、少しは人よりも勉強していたんで。……魔法学だけ」
「なるほど。それなら、魔法学については桐谷君にはあまり必要ないのかもしれませんね。基本的なことならば既に熟知しているでしょうし……」
魔法学に関してだけなら、ここの先生にも負けない気がするぐらい基礎は知ってるぞ、多分。無駄な自信だけは一丁前についてやがる。
「魔法とは無縁な生活を今まで送ってきたので、魔法学園に入って魔法学を初めて学びましたが……桐谷君、君は一体」
「ああ、そういえば古谷君には桐谷君のことについて何も話してませんでしたね。彼は一応、ただの一般人ではなく、家柄としてはかなりの名門の長男にあたる人なんです」
何故だろう、凄く皮肉っぽく聞こえるのは。ニールさんが言ってるからだろうか、それともニールさんが笑顔で言うからだろうか。
「なるほど……道理でクラス:ボーダーに。あ、でも普通科にいるのは……」
「彼は落ちこぼれで、魔法が使えなかったのですが、このたびテレス・アーカイヴさんが桐谷君に憑いたおかげで魔法が使えるようになったのです」
「そ、そんなハッキリと落ちこぼれって言わなくても……まあ、事実なんですけども……」
いざ他人から面と向かって言われるとなかなかキツいものが俺にもある。言われ続けてきたからこそ、こうして改められるとなぁ……。
「……ごめん」
「え? いきなりどうした?」
突然謝りだした古谷に俺は疑問を抱くが、実は少しその原因に勘付いていたりもした。
「いや、君に初めて会った時、僕は君にとってとても失礼な言葉を……」
だろうと思った、と口に出して言うところだったが抑える。何よりも、本当にすまなさそうにされているのが逆に申し訳なくなり、苦しくなってくる。
「いや、気にするなよ。悪気があったわけじゃないし……あの時、古谷の言い分に確かになって思ったんだよ。だから謝ることじゃない」
事実なわけで、それに逃げたかったわけで。つまり自分を認めたくなかったから、俺はあの時否定して逃げた。いや、"否定も出来ずに"、か。事実だったから。現実がそうだったから。それに向き合い、古谷は自分の左腕を武器にしてまで自分の成すことを成そうとしている。その姿勢に今改めて凄い奴だと思った。
「まあ実際、魔術式を書くのはそう容易いことじゃないからね。魔法学をいくら学んでいるからといっても、特殊な文字を使うわけだし、別の学問も必要になる上に構成自体が現役でも難しい。サンプルを真似てオリジナルティを出していくのが主流だけど、桐谷君は一から構成をして組み立てているんですよね?」
「え、えぇ、まあ……」
「だとしたら、それは凄い才能でもありますよ? 誰でも真似できることじゃない」
「あ、あはは……そ、そうですか?」
めっちゃ褒めてくれるニールさんに俺も満更でもない。褒められること自体が人生の中でも少ないが上にこうしてすぐに上機嫌になってしまうのだろうか。
「けれど、それはあくまで自分で作成したものを使えたら、の話ですけどね。使えない限りは構成を組み立てたところで何もならないですし」
「その上げて落とすのマジでやめてもらってもいいですか……?」
薄々感づいてはいたが、ニールさんはとんでもないドSだ。上げて落とすという手法を使う相手は決まってそういうタイプに違いない。俺の人生経験がそう物語っている。
「一つ質問なのですが……」
「はい? 何でしょうか古谷君」
「僕は魔術式を使いこなす必要がありますか? 魔法を発動する際、必要なのでは……」
「ああ、それですが、古谷君の使う魔装篭手は基本的に昨日見せてくれたように刃物状に変形する以外に主属性が"風"なので風の魔法が使えます。けれど、それは既にプログラミングされていて、古谷君の使いたい時に指令を送れば簡単に使えることが出来ちゃいます」
「なるほど、それは便利ですね……」
左腕を持ち上げ、それを見つめる古谷。一見、普通の腕にしか見えないそれは昨日、人を容易く一刀両断に出来そうな鋭利な刃物へと変貌して見せた。その印象が強い俺にとって、古谷の左腕は別の何かに見えて仕方が無い。その上、風の魔法まで使えるとなると、まさに昨日説明に受けたように"兵器"なんだ、と再確認させられる。
「ただし、そんな万能わけもなく、使用する魔力は古谷君の生命力を還元して生み出している代物なので、使いすぎると左腕がぶっ壊れるどころか、古谷君自体が生命の危機に陥る可能性があります。なので、使用しすぎは気をつけてくださいねー」
物凄い軽い感じでニールさんが説明したわけだが、結構シビアな内容だったように思う。生命力を代替する時点で相当危険なのは理解できるはずだ。
「分かっています」
と、古谷は頷いてみせる。諸刃の剣をどう使うも古賀の勝手ではあるけど、自分を傷つけてでも成し遂げる復讐の先に何があるのだろうか。
俺の視線に気付いた古谷が俺の方へ向くとキョトンとした表情から一変、微笑んだ。
「はは、そんなボーッとした顔して、どうしたの?」
「え? い、いや、別に……」
俺そんな顔してたのかよ……。結構頭の中ではシリアスなことを考えていたものなんだけどな。いや、もしかすると、"わざと古谷はおどけてみせたのかもしれない"。
「さて、話を戻すけど、今まで言った内容は全て魔法の基礎中の基礎。主属性だけではなく、別の属性である"希有属性"は今は省いておきますね。……続いては、お待ちかねの魔人についてです」
魔人といえば、あの化け物のことか。あの時はがむしゃらだったからよく分からないけど、そもそもどういう存在か詳しいことは知らない。荒廃地区になる理由が魔人の被害だということも幼少の時にはよく分からなかったが、今なら理解できる。現に起きて、その惨状の被害になった人物が俺の隣にいるのだから尚更だ。
「魔人について詳しいことまでは判明されておりませんが、ただ一つ、その存在の維持には魔力が不可欠ということです。我々人間は魔力を維持出来る身体を持っていますが、魔人は存在自体がそもそも"存在するはずのない存在"だとされており、この世に存在するには人を喰うことが必要不可欠、と最近までは言われていましたが……それが必要な魔人とそうでない魔人がいることが判明されてきました」
「それは……どういう違いがあるのですか? 例えば、高度な知恵を持っている、とか……」
「我々が独自に調べた結果ではその傾向は高いです。実際に喰うことを必要としない魔人は高度な知識を持ち、人間の生活の中に潜んでいる……とされています。ただ、その高度な知能ゆえに人間を凌駕する部分があり、彼らの一部は集団行動をとって我々人間の生活を脅かしていることも現にあります。正体は未だ不明ですが、実際に存在していることは事実としてあります」
「謎の魔人組織……ですか。ならば、そいつらを叩けば、魔人たちの駆逐に大きな成果が……」
「確かにその通りですが、甘くはありません。知能も人間を凌駕している者が多い上に戦闘能力も人間の比ではありません。君達が実際に相対したあの魔人は中でも下位クラスの者で……要するに下っ端ですね」
「あれで下っ端かよ……」
思わず呟いてしまう。あの恐怖は未だに身体の中にある。容易く古賀の左腕を吹き飛ばしたあの巨体。それも自動再生するチートのような身体を身につけている奴だったはず。奴ですら下っ端クラスの存在であることに驚きを隠せない。それは古谷も同じようだった。
「今のままでは、奴等に対抗することさえままならない……ということですか」
悔しそうに握り拳を震えさせ、唇を噛み締める古谷。それに比べて、俺はどこか心の中で"別に俺は戦わなくてもいいんだ、良かった"と安堵している部分があった。思わず俯いてしまう。何か、情けないな……。
「"今のままでは"という話です。クラス:ボーダーは魔法学園における最強の魔人討伐隊と言っても過言ではありません。魔装篭手のサンプルとは言いましたが、古賀君にはとても期待していますし、僕も力添えをします。なのでそう悲観することはありませんよ」
プラプラとぶかぶかの白衣を着た人に言われてもな……。事実、ニールさんは華奢だし、中性的な顔立ちのせいかそう強く見えない。というより、研究者という一面が強いからだろうか。紅さんは物凄い、何というか……わからない、本当に強いのかどうかなんて。
大体、ロゼッタに関してもまだ半信半疑だ。化け物の圧倒的な強さの印象が強い中、そう思うのも無理はない部分はある。何にせよ、俺はテレスの件をどうにかしたい一心で……。
……本当に、そうなのだろうか。
「まさに魔人は神出鬼没ですし、どんな能力を秘めているかも分かりません。魔法も勿論使ってきますしね。なので、対策をする為、二人にはある程度"訓練"しようと思いまして……」
「え、訓練って……俺は確か、見とくだけでしたよね?」
「はい、そうですが、一応"仮"とはいえど加入しているわけですので、魔人と対峙した時にどうこう切り抜けるようにはしておいても損はないのではないかと!」
「な、なるほど……?」
何か上手い感じに丸め込まれている気がするんだけど、気のせいかな……。
「と、いうわけでして! 二人には今から実際に"戦ってもらいます"!」
「「はい??」」
俺と古谷の声が合わさる。誰と、そしてどこで。そんな疑問も束の間、"訓練相手"が颯爽と奥から登場してきた。
「あっはっはっは! 私が訓練相手だ! よろしくな!」
「く、紅さんが!?」
仁王立ちして、まさに今から戦闘モードと言わんばかりの軍服に似た仕様の教官服を着込んだ紅さんが笑みを浮かべている。何の笑みなんだよ、怖いよ!
「い、いきなりすぎますし、場所がここだとやばいんじゃないですか!?」
「ああ、それなら安心してください! ここは強力な魔法によって守られているので、大抵の魔法や打撃や斬撃程度ではかすり傷一つさえつきません!」
「いやいや待ってください! これって魔人とか云々関係なくないですか!? ただ単純に紅さんと戦うだけなんて俺は——!」
「そろそろいいか? 始めるぞ! "谷コンビ"!」
「全然この人話聞いてねぇ!」
紅さんが右手のひらを床にかざす。すると、魔術式特有の魔方陣の羅列が紅さんの右手に現れ、床にそれは反映される。猛烈な風が紅さんの周囲に漂い、その渦の中心で紅さんは叫んだ。
「来ぉぉぉいい! "ミーちゃん"!!」
……何て言った、今。
物凄い暴風で俺の考えは遮られ、そして突然の暴風が過ぎ去ったと思いきや、目の前には——巨大な熊が突っ立っていた。
「んな……!?」
「紹介しよう! この子は私のペット、ミーちゃんだ!」
「グォォオオオッ!!」
すげぇ雄たけびで俺たちを威嚇するミーちゃん。熊のくせして何だその可愛い名前は。ギャップ萌えとか求めてんのか、と。
そんな風に思ったのも些細なひと時。俺は古谷の呼び声でようやく気付く。目の前まで、既にミーちゃんが襲ってきていることを。
「うぉおおおお!!」
何とか飛び退き、ミーちゃんの振るう猛威の爪を間一髪避ける、が今のは当たっていれば脳天から裂けて終わりだっただろう。
「こ、これって……訓練ですよね?」
「はい。クラス:ボーダーの訓練です。何とかしなければ、下手すると——"死にますよ"?」
「私のミーちゃんは容赦ないから、気をつけろよー!」
俺と古谷の表情が歪む。
そんな理不尽なことって、あります……?