複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

落ちこぼれグリモワール 第5話開始!
日時: 2015/07/03 01:44
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Nw3d6NCO)
参照: 7月3日更新いたしました。 ※後々全話加筆修正していきます。

※参照1000突破記念でオリキャラ募集始めました! 詳しくは【新リク依頼掲示板】で探してね! それとも>>40のURLから飛べるから確認してね!
題名「オリキャラを募集しております!」




【ご挨拶】
 クリックしていただき、まことにありがとうございます。
 ひっそりと再び小説の方を書いていきたいなぁと思い、ファジーにて最初気まぐれの超亀更新として始めていきたいです。
 順調に足並みが揃えば更新速度を少しずつ上げていく予定です。よろしくお願いしますー。

 あ、ちなみにコメディチック路線気味に加え、ラノベ調に近いものとなっております。ただ表現がグロテスクな場合等が出てくる恐れがあるので、ファジーにて書かせていただきます。ご了承ください。



【目次】
プロローグ【>>1

第1話:落ちこぼれの出会い
【#1>>2 #2>>4 #3>>6 #4>>7 #5>>10
第2話:天才と落ちこぼれ
【#1>>12 #2>>13 #3>>14 #4>>15 #5>>16 #6>>17 #7>>18
第3話:非日常の学園生活
【#1>>19 #2>>20 #3>>21 #4>>22 #5>>23 #6>>25 #7>>26 #8>>27
第4話:落ちこぼれの劣等感【事情により、#8と#9は連続してお読みいただくことを推奨します】
【#1>>28 #2>>32 #3>>33 #4>>34 #5>>35 #6>>36 #7>>37 #8>>38 #9>>39
第5話:恋と魔法と性転換
【#1>>40

Re: 落ちこぼれグリモワール ( No.1 )
日時: 2015/07/03 19:14
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Nw3d6NCO)
参照: この欄は作者の話したいことやあとがき的な要素で使います!

 人によって、好みや得意分野が異なる。
 仕方ないことなんだろうけど、それでも人並みに出来ることが出来ないことだってある。そして、それは好みや得意分野なんてカテゴリーじゃない。
 いわゆる、"落ちこぼれ"ってやつだ。


—プロローグ—


 気持ちの良い朝は清清しい太陽の光から始まる。
 カーテンの隙間から漏れる光によって目を細めて唸る。そうして何度か身を左右に揺らし、寝起きの間を彷徨うのだ。
 こうしている間がとても気持ちが良い。いつまでも寝たい気分になる。ふかふかの布団に抱きついて、今日もまた平和な一日を俺こと桐谷 咲耶(きりたに さくや)は過ごすのであったとさ。

「起きろーーッ!!」

 ……こんな騒々しい声が響くまでは、そう思っていたさ。
 いつの間にいたんだお前は、と言わんばかりに俺の顔は声の元、丁度ドア付近の辺りへ向いた。
 仁王立ちをし、腕を組み、イライラとしているのが寝起きでも理解できるようなご不満な顔で綺麗な黒髪をした少女が立っていた。

りん……お前、不法侵入だぞ……」
「合鍵、あんたの親から渡されてるからご両親の了解は得てるわよ」

 あぁ、畜生。せっかくの一人暮らしがこいつのせいで全部台無しになりそうだ。
 彼女の名前は佐上 燐(さがみ りん)。俺の幼馴染だ。今の今までいわゆる実家暮らしだった俺はつい一週間ほど前から一人暮らしをスタートさせた。何せ、これから通うことになる学園は実家からでは遠いし、両親から一人暮らしを経験しろと仰せつかったことも一人暮らしの理由の一つだ。
 さて。それで、昨日からこのお邪魔な奴である燐は俺の暮らす家の隣にあるアパートに住むことになった。
 その理由は燐も俺と同じ学校に通うことと、もう一つ"俺の近くに住む理由"があるわけなんだが……。

「そろそろ起きないと、お前に殺されそうだな」

 燐の右手には刀身の長い刀が握られて俺の方に向けられている。模造刀とは違う、綺麗な直刃の切っ先が俺の視界の丁度中心を圧倒的な存在感でそこにある。ああ、これはまさしく本物の太刀だ。
 分かってはいるものの、そこに本物の刀があるとなれば、溜まった唾を飲み込む力が不意に強くなる。これはさっさと起きた方が良さそうだ。最悪の目覚めではあったけどな。

「よく分かってるじゃない」

 俺が布団から急いで這い出るのを見て刀身を慣れた手つきで鞘に納める。

「お前な……仮にも"幼馴染"に対してその態度はないんじゃないか?」
「うるっさい。早く用意して下に降りてきて。でないとあんたの持ち物全部切り刻んでやるから」

 と、それだけ言い残すと燐は俺の部屋から出て行った。
 
「全く、朝っぱらから物騒な奴だな……」

 ため息混じりに呟き、昨日の晩に畳んでおいた今日から何年もお世話になる学生服を手に取る。
 ずっしりと重く感じる。それもそのはずで、この学生服には防弾性、ナイフなどの刃物から身を守るカット性。そして何よりも重要な"耐魔法性"の三種類を兼ね備えた優れものなのだ。
 そんな学生服はこれから俺や燐が通う学園である、魔法を使う者たちが集まる世界有数の魔法学園にしか完備されていない。

「意外と軽いな……」

 手に持った感触よりも、着てみれば意外と軽い。すんなりと着こなすことが出来、どっからどう見ても普通の高校生っぽい。
 藍色を基調としたブレザーによく似たものなので、本当に防弾性やら色々な耐性があるのかこれ。とか、本気で思ってしまう。

「しかし……憂鬱だ」

 いつの間にか呟いた言葉は、学生服を着たことによる新しい学園生活の憧れの念でもなく。ましてや、魔法を学べるという学生ならではの発想も頭の中には浮かんでなどいない。
 それどころか、本当に学校に行くのが嫌な、一日の始まりを寝起きとは一変して恨むような——不機嫌な顔を浮かばせた自分の姿がふと自分の部屋に備え付けた鏡に映った。

「あぁ、さすが俺だ。いい顔してる」

 自分を見つめて皮肉を言うと、ネクタイを首元へと軽く締め上げた。



 それから部屋を出て一階へ降りると、既に仕度を整え始めている燐の姿があった。

「ほら、急いで! 初日から遅刻しちゃうわよ!」
「そんな焦らなくても……」

 俺が一通り顔を洗ったりする内に燐の仕度は終わり、玄関でぶっきらぼうに俺を待っている。律儀に待ってくれてる辺りがなんというか……。
 用意を終えて燐の元へ行く。そして自分の手荷物を確認した後、燐の手荷物へと目を向けた。その中身は至って簡単。肩からかけるバッグに、左手には桜の模様が入った鞘に納められた太刀を手にしている。
 たったこれだけの、とはいってもバカみたいに物騒な太刀を左手に抱えている辺りでなかなか異常なのかもしれないが。

「やっぱり燐は魔技専攻か」
「当たり前じゃない。それ用の魔法しか使えないし」
「そっか」

 事前に準備していた荷物を拾い上げるようにして右肩にかける。

「……咲耶なら大丈夫よ。魔法なんてのは才能なんてものでも、何でもないんだから」
「あぁ、いいよ。全然気にしてないしな」

 多分、燐なりに励まそうとしていたのか。昔からの付き合いだから分かるだけの話だけど、まあ何となく俺は学園生活の予想が出来ていたのもこのせいだった。

「俺は落ちこぼれだからさ」

 ドアを開く。新しい生活が始まる。どんな生活か。俺にとってはまず、良いスタートではなかったはずだ。
 "魔法を全く使えない"桐谷 咲耶は魔法学園に入学する。

Re: 落ちこぼれグリモワール ( No.2 )
日時: 2015/05/07 01:08
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Nw3d6NCO)

 生まれてくる世界を間違えたのかもしれない。
 幼くして、そんなことを考えさせられたのは、自分に魔法の才能が皆無だったことがきっかけだった。
 どんなくだらないものでもいい。水が出せる、いいじゃないか自給自足が出来て。火が出せる、なんてファンタスティックなんだ。手から火が出て熱くないのか、どんな感触なのか、それが体験出来るだけでも十分だろう。

 そんなこんなで、魔法の憧れは小さい頃から勿論あった。
 血筋的にも、俺以外の全員は魔法が当たり前のように使える。それどころか、優秀な人材が出揃ってるからより一層自分が惨めに思えてくる。


 それでも俺が魔法学園に入れたのには、理由があった。





第1話:落ちこぼれの出会い





「うぉお……やっぱり凄い迫力だな、この学園は」

 目の前に広がる巨大な門に、それを遥かに超す校舎が奥の方に見える。門から入ってすぐ広がる色とりどりの花たちが新入生を出迎える。
 ここはまぎれもなく、世界有数の魔法学園だということを改めて俺は認識した。

「何を今更言ってるのよ。今日からここに通うのよ?」
「分かってるけど、何か……やっぱりすげぇなって思ってさ」
「わけわかんないこと言ってないで、早く入るわよ、みっともない」

 朝から不機嫌な燐が俺を急かしつつ、門の中に入っていく。勿論、俺たち二人だけじゃなくて、真新しい制服に身を包んだ色んな人達も巨大な門に吸い込まれていくかのように俺の隣を通り過ぎていく。

「遂に、入るのかぁ……」

 感慨深いってものでもないけど、まあぶっちゃけこの後のことが知れてるから、少しやるせなくはなる。
 けれど、言ってても始まらないし、とりあえず前を歩こう。燐も鬼のような顔をしてこちらを睨んでくるし。他の生徒が怖がっているぞ、燐。


————


 さて、入ったところで壮大な庭がお出迎えをし、新入生はあちら側へ、と案内の人が声を張り上げている。
 なんていうか、ここまでは全然魔法学園だという雰囲気は皆無だな、とか思っていた。

「お前が例の"ロクでなし"か!」

 そんな声がどこからともなく聞こえてきた。ふと、自分に通ずるものを感じたのか知らないけど、俺の顔がその方へと向いた。

「何とか言ってみろよ! この"ロクでなし"!」

 周りの新入生たちも怪訝な顔をしていたり、可哀想だと言いながらも先へ急ぐ人達。素知らぬ顔をして素通りする人もいる。
 その中で、一人の女の子と、それに対峙するかのように構える三人組の野郎共がいた。

「……邪魔なんだけど?」

 髪がショートめの女の子が言う。けれど格好は何故か男の制服を着ていて、何だか違和感を感じた。

「はぁっ!? なんつったよ、"ロクでなし"!」
「ロクでなしロクでなしって……それしか言えないのかよ、お前ら。もう一度言うけど、そこ邪魔だから、どけよ」
「て、てめぇっ!!」

 あぁ、何か女の子の方がややこしくしてるぞ。何でああやって突っかかるんだろうか。それにしても"ロクでなし"って……まあ、落ちこぼれも似たようなものか。
 逆上した男のイライラが険悪なムードを漂わせる。もうすぐ手が出そうだな、あれは。

「ちょっと、咲耶、あんた分かってると思うけど——」

 何か後ろの方で聞こえたけど、気にせず俺は進んでいく。
 横切る人ごみの中を掻き分けて、ようやく辿り着いてから両手を横に伸ばした。
 手のひらの先には、三人組の野郎共と女の子。何だこいつは、みたいな顔で見られるのは分かっていながらも、俺は言った。

「まあまあ、落ち着けよ」
「……誰だお前」

 すっげぇメンチ切ってくる男共三人がイライラとした口調で俺に問いかけてきた。

「あぁ。俺の名前か? 俺の名前は桐谷 咲耶だ。よろしく」
「んなことは聞いてねぇんだよっ!!」

 いや、聞いたじゃん。誰だお前って。
 男のイライラが女の子から俺の方に向いた。何がどうなっているのか分からない、といった様子の女の子に対し、俺はアイコンタクトで逃げろと送ったつもりだったけど、なおさらわけ分からんみたいな顔をされて心の中が一気にブルーになる。

「まあまあ。落ち着けって。"女の子"一人相手に、男三人でよってたかることないだろ?」
「はぁ? "女の子"? 何言ってんだお前。こいつは男だよ」
「え、男?」

 ちらりと横目で女の子の方を見る。何故か分からないけど、女の子は何も言わず、ただ驚いているのか何を思っているのか、よく分からない顔をしていた。

「いや、そんなはずはない。この子は女——」
「黙れッ!」

 え、何で女の子の方から黙れって言われたの?
 女の子は息を荒くし、俺を睨みつけている。なおかつ、今だに不満気な男共三人が俺を睨んでいる。あれ、俺に味方してくれる人いなくね?
 周囲がこの辺りでざわつき始めていたのにも関わらず、男共は気が治まらなかったのか、どこから取り出したのか、サバイバルナイフのようなものを右手で構える。
 あぁ、こいつも燐と同じ魔技専攻なのか——"可哀想に"。

「てめぇ……! 関係ねぇのに意味わかんねぇことベラベラベラベラと……!」

 あ、これはやばい。直感で何となく分かる。
 こいつ、"魔法"を使う気だ。何度も幼少の頃に体験した、この感覚。魔法を使ってくる感触がぞくりと自分の胸の中を浸していく。

「魔術式、第一開放……!」

 突如男共の周りが青い文字が渦巻く。それらはメビウスの輪のように輪を作り、男達の体の周りをゆっくりと回転する。
 当たり前のように魔法を使おうとしている。あぁ、本当にここは魔法学園なんだな、と思わず苦笑してしまいそうになるぐらいだ。
 こいつが使えて、どうして俺には使えないのか。そんなことも思ってしまうほどだった。

 この辺りで、周りの生徒たちのどよめきと共に被害を被らないように避難する雑踏が聞こえ始めていたけれど、俺はそれどころじゃない。
 詠唱が終わったのか、青い光は渦巻き、先頭の男の持つサバイバルナイフの切っ先にぐるぐると取り巻く。それを後ろの男達も続けて同じことをしているってなもんだから仲良しかよってツッコミを入れておきたいところもありつつ、なんだかんだで冷静を保っていた。

「てめぇには痛い目見てもらうぜ……! 喰らえっ、氷天斬戟ブリザードブレイドぉぉっ!!」

 思わず吹き出しそうになるほどの厨二な名称を大きな声で叫んでサバイバルナイフの切っ先に纏わりついた青色のそれは氷の結晶を瞬時に生み出し、氷柱のように伸びて水飛沫と共に俺に斬りかかろうとする。
 痛い目っていうか、いくらこの学生服でも迫力十分なこれをまともに喰らうとなると、相当な痛手になるんじゃないか。
 まあそんなことを考えながらも、俺はたった一つの鋭い風を感じた。それと同時に思ったことといえば、"可哀想に"の一言に尽きる。

 バキバキッ! と激しく何かが弾け飛ぶ音と共に、聞き慣れた声の主が俺の目の前に颯爽と現れた。

「な……! 俺の氷天斬戟が……!」

 先ほどの弾け飛ぶ音は男共三人の持つ……簡単に言えば氷の刃を一瞬にして右手に握り締められた太刀で粉々にした音だったというわけだ。

「……朝っぱらから、昨日あれだけ私が家に来るまでに用意してろって言ってたのにずっと寝てて、尚且つインターホンどれだけ鳴らしても起きないし……イライラが募ってる中でまたこんなしょうもないいざこざに自分から巻き込まれに行くし……」

 あ、そういえば昨日そんな約束をしたような……てか、燐さん、そんな理由で先ほどからずっと不機嫌だったんですか。

「ひっ……!」

 男共は何かを感じたのか、太刀を右手に持ってゆらゆらと左右に小さく揺れ動く燐を見て後ずさる。

「次に何か、魔術式の一つでも唱えてみなさい。……入学祝いが血で染め上げられることになるから」
「ひ、ひぃぃいっ!! お、お助けぇぇええ!!」

 男共は逃げ惑い、おぼつかない足取りで燐から逃げて行った。

「……あ、ありがとう、燐」

 一応、素直に礼を言ってみる。燐は緩やかな動きで太刀を桜刺繍の入った鞘に納めると、俺の方へ振り返——らないで欲しかったと後から後悔する。
 燐は般若を連想させるような恐ろしい表情で俺と顔を合わせた。これは、マジで怒ってるやつじゃないですか……。

「あんたねぇ……! 日頃からあれだけあれだけ面倒ごとには関わるな、私の仕事が増えるからって何度も何度も同じことを繰り返し繰り返し言ってるわよねぇ……!?」
「す、すみませんでした……」
「大体、助けたはずの当の本人はどっか行っちゃってるし、周りの生徒たちからは初っ端から目立ちたがりだとか絶対思われただろうし、何よりも入学する前は魔法は一切禁止されてるのよ!? もしあんたに何か危険があれば私も対抗しないといけないから魔法を使う恐れもあるって分からないわけっ!?」
「う……確かに、そうです……すみません……」

 ここは素直に平謝りだ。ここで色々と口を挟んでしまったは最後。視界全体が赤色に染まることだろう。 しかし、助けた当の本人とされる男装の女の子はどこかへ行ってしまっていた。まあ、無事ならばそれでいいんだけど。

「あとねぇ……! こうやって騒ぎを起こすと、学園の教官たちが駆け寄って来るに決まってるじゃない! 入学当日に教官に目をつけられるなんてたまったものじゃ——」
「あら、よく分かってるじゃないの」

 燐の言葉を遮り、その後方に立っていたのはまさしくその教官だった。
 とはいっても、俺のイメージしていた教官っていうものを根本から覆すようなナイススタイルの金髪美女がそこに立っていた。

「貴方たち、初っ端から元気が良いわね。とりあえず、教官室まで行きましょうか?」
「「……はい」」

 俺と燐の声が揃って返事をし、入学当日から教官室へと呼び出しを喰らうことになってしまった。


————


 まさか。なんで。どうして。
 そんな三つの単語が浮かびあがると同時にパニック状態にある自分の頭を冷静にしようと考えるが、どう考えてもそれを覆すことは出来ない。
 自分は"ロクでなし"と呼ばれる人間ではある。それは間違いない。だが、それを今更罵られたところで、何を思うこともない。あんな輩は初めてではないし、追い払うことには慣れていた。
 けれど、たった一つ。自分の中では隠し通せていたはずの事実があんな一瞬の出会いだけで見抜かれるだなんて思いもよらなかった。

「何で……何で、"男装"してるのがバレたの……!?」

 不意に素の自分である"女の子"としての自分が出てしまうほど動揺してしまっていた。
 隠し通せていた唯一のことが、どうして今更バレるのか。

「桐谷 咲耶とか言ってたな……あいつ……」

 男口調に戻り、落ち着いて確認する。
 これは彼——いや、"彼女"にとって間違いなく桐谷 咲耶は天敵だった。

Re: 落ちこぼれグリモワール ( No.3 )
日時: 2014/10/03 21:57
名前: 奏弥 ◆4J0JiL0nYk (ID: rtyxk5/5)

し、遮犬さん;;

誠にお久しぶりでございます。
というのも4年、カキコで物書きしているので名前を一歩的に私が知っているだけなのですが、同じような名前の方の小説がすごく好きだったので飛んでまりました。間違えていたら失礼なので先に詫びておきます(´・ω・`)

一番目の読者になれたんじゃないかと、今興奮を抑えきれない所存です。
揺るぎない一人称の安定さと、展開に早くも目が釘づけです。

たくさん感想を言いたいのですが、
今バツンと、ぶった切った形で身勝手なコメントしているのでここで。

更新を楽しみにしてます(´-`)失礼しました

Re: 落ちこぼれグリモワール ( No.4 )
日時: 2014/12/07 17:05
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: b/Lemeyt)

「……そう。何というか、お節介をしたわね、少年」

 事の有様を話すこと数分。さほど大した内容でもないので10分もかからなかったけど、返答は笑い飛ばされただけだった。
 それにどういう意味が含まれているのかは分からないが、恐らく喜ばしいことではないだろう。
 何せ、騒ぎを治めに行った俺がその場を解決したのではなく、燐がその場を治めたからだ。多分、燐がいなかったら俺は成す術もなく、残念なほどの厨二臭い技名の氷の刃に切り裂かれていたと思う。

「貴方たちは、主従関係にあるの?」
「似ていることは似ていますが、そこまではっきりしたものではないです。家と家の互いの盟約といいますか、なんといいますか……」
「なるほどね。どちらにせよ、いい幼馴染をもったわね
少年。遠目から見ていたけど、この子の動きは新入生のそれとは比べものにならないぐらい秀逸よ」

 遠目から見てたのなら助けてくれよ、と思いつつも燐については、とっくの昔に幼馴染として育ってきた俺が一番分かってる。
 燐の家は"魔技"と呼ばれる魔法のカテゴリー、といった方がいいのか。何せよ、その魔技を使いこなす優秀な家柄で、特に燐はその中でも才能が飛び抜けているという。
 燐のような優秀な家と俺の家が主従関係に似た盟約を結んでいるというのは、俺の家もそれに見合うような魔法の優秀な家柄だからだ。
 俺以外の人間は皆魔法が得意で、俺はこの家の子かと言うぐらい才能に溢れた人間ばかりいる。
 その所以あって、俺の家と燐の家は代々主従でもなく、盟友と呼ぶにふさわしい縁なのだが、魔法の能力の力自体に優れているのは俺の家で、そもそも魔技というのは魔法と武術を兼ね備えたものとしてあるので、武術に重きを置いている。
 ということで魔法の能力により長けた、より異能な方の桐谷家の方が主のような立場にあるらしい。正式上は、という話だけど。

 そういうわけで、小さい頃から一緒に育った俺たちは同じ学園に通い、パートナーとして近い場所に住むことになったわけだ。それなりに苦労も共にしているだけあって、信頼関係も深い。

「"優秀な燐"が助けてくれると思ってましたからね」
「……咲耶、あんたそれどういう意味よ?」

 隣で黙って聞いていた燐が怒り顔——ではない。それは多分、戸惑うような表情。

「ふぅん……熱い友情というか、愛情というか? 若いっていいわねぇ……」

 と、俺が燐に言葉を返す前に金髪美女な教官が組んだ足を組み替えながら呟いた。

「あ、愛情なんて! やめてください! 何で私が咲耶なんかと!」

 机を勢いよく叩いて面白いほど反応する燐。あぁ、良かった。俺の言葉からは意識が外れたようだ。

「ふふ、冗談よ」

 笑顔でそういうと、渋々燐も再び椅子に座り、俯いてしまった。
 俺はというと、ふとそこで金髪美女な教官と目が合った。ふっ、と嗤われたような気がする。何故かそれは何もかもお見通しだと言わんばかりの威圧を持っているような……だめだ、思わず目を逸らしてしまった。

「あら、素っ気無い」

 クスクスと金髪美女な教官は笑う。その笑みに、この人はなかなかやり手だと確信した。まずもう、目が笑ってないもの。

「あぁ、そういえば。自己紹介するのを忘れてたわね。白井 ユリア(しらい ゆりあ)よ。よろしくね、お二人さん?」

 白衣で身を包み、妖艶な笑みを浮かべる白井教官の自己紹介を聞いて、俺たち二人はただよろしくお願いします、と小さく声をあげることしか出来なかった。

「さて、話を聞く限りは二人共巻き込まれただけみたいね? ……まあ、もっとも、桐谷君の方は自分から巻き込まれに行ったようだけど」
「め、面目ないです……」
「ふふっ、正義感があるのはいいことよ? どんな相手にも立ち向かえる勇気がなくては、現場では犬死するだけだもの」

 さらっと厳しいことを言うな、この人。きっと、この多くの現場を見てきたうえで言っているんだろうけど、今日から入学すると決まった生徒に言う言葉じゃないだろう、とは思った。

「魔法も二人共使ってないようだし、ルール違反ではないわ。よって、今回の件は不問とするわね」
「良かった……」

 胸を撫で下ろす燐。余程最初から争い事を起こしたくなかったんだな。まあ、そりゃそうか。"燐からすると"。

「とはいっても、入学式は既に始まってしまっているし、申し訳ないけれど、先に二人には事前に指定されたクラスへ移動してもらうわ」
「え、もうですか?」
「入学式は途中で入れない決まりになっているのよ。それに、クラスだけ把握しておいて、少し学園の中を見回ってもいいんじゃないかしら。私が許可を与えておくわ」

 さらさらと、何かメモをするかのように紙に書くと、それを俺と燐の二人に一枚ずつ手渡した。
 見ると、学園視察許可状と書いてあり、一番下には白井 ユリアとサインがされていた。

「いいんですか?」
「クラスに行ったところで誰もいないし、暇だろうから、特別にいいわよ。これは争い事を止めた二人のお礼ということで受け取って頂戴」

 そこまで言うと、白井教官は椅子から音もなく立ち上がり、教官室の扉を開けた。

「さ、出ましょうか」


————

 
 教官室を出て、視察状の使用できる範囲の説明を受けた後は取り残されるようにして俺と燐の二人きりになった。とりあえず俺と燐はお互いのクラスに行くということで離れることになり、俺は現在、一人で校内を彷徨っている。

 クラス——どうしてそんなものを決めるんだろう。皆一緒に、同じようにしたらいいのに。
 そんな風に思っていた俺だったが、自分が落ちこぼれだと認識できるようになってからというもの、クラスごとに分けるという意味が理解できるようになってしまった。
 それは、出来るやつと出来ないやつが出てきてしまうからだ。
 いくらやっても出来ないやつと、一回見聞きしただけで習得してしまうやつ。そういう違いが根本的なものとしてある。
 俺でいうと、全く魔法の才能が開花しないというのがそれに当てはまるというわけだ。

「分かってはいるんだけどな」

 自分に言い聞かせるようにして呟く。
 燐と分かれてから、分かってはいたのだが——絶対的に離れ離れにならないといけないのがこのクラスというものだった。

 目的地にたどり着き、小さく深呼吸をしてから扉を開いた。目の前には、予想の出来た普通の光景が広がる。今までとさほど大した代わりはない。
 全く代わり映えしない黒板に、チョーク入れ。教壇に教卓、そして生徒たちの机が並べられている。

「さすが、"普通科"といったところだなぁ……」

 思わず呟く。あぁ、俺は今日からここで勉強するんだと。心の中では全くワクワクしていない、むしろ冷めた俺がいた。
 ここは魔法学園だ。勿論、魔法を学べる。魔法を応用とした訓練も出来る。魔法に関しての職にもつける。
 しかし、ここは魔法を学べる魔法科とは別に"普通科"と呼ばれるクラスが存在する。
 ここで何を勉強するか。簡単に言えば——ごく平凡的な学問。国語数学歴史英語科学とかその他諸々。

 魔法学園では魔法を学べるのは勿論、普通の学問を学ぶ一般の人も入学出来るように普通科も設けているのだ。

 何故このような体制をとっているのかというと、要するに金銭面が大きい。
 普通科でもここを卒業すれば魔法関係の仕事に就きやすくなる。そういうメリットが大きくある為、学費を払って入学するというわけだ。
 ちなみに、魔法科の生徒たちはほとんど学費免除。普通科は結構な額の学費を払って入学する。さすがは魔法の使えない、いわゆる才能のない人間の集まりってことだ。

「はぁ……」

 近くにあった椅子に座り、ため息をついた。
 本当に、何も変わらない。平凡。それでいいんだ。いや、それでいいのか。
 分からない。何をどうすればいいのか。魔法の名門の家系が魔法を学ばずに魔法学園で一般知識を学ぶ。これほど滑稽なものはない。

「何をやってんだ、俺は……」

 そうやって、天井を見上げて呆然とする。それがどれぐらいの時間を経過したのか分からないが、ドアが開く音と同時に我に返った。

「あ……」

 顔を見合わせて、一言。
 とても普通の、もう本当に普通としか言えないほど平凡そうな男の子が一人、ドアの向こう側に立っていた。

「あれ? 入学式……さっき終わったばかりなのに」
「あ、あー……ちょっと色々あって、入学式は出なくていいことになったんだ」
「え、そうなの?」

 と、こんな会話をして男の子が教室の中に入ってくる。見れば見るほど平凡そうな感じの子だ。
 そして俺の目の前に立つと、少しの間そのまま静止して……動かない?

「えっと……ここ、僕の席なんだけど……」
「あ、ごめんごめん、気付かなかった」

 指定席だったのかよ……。と、小さく心の中で思いつつ、席を譲る。
 安心したような顔をして男の子は俺の体温が残った椅子に腰を落ち着かせると、小さくため息を吐いた。

「……入学式、どうだった?」

 男二人きりで沈黙ってのに耐えられなかった俺は思わず聞いてしまっていた。ていうか、何で他の生徒は来ないんだ。早く来てくれたらこのシチュエーションも終わるのに。

「え、あぁ……凄かったよ。さすが魔法学園だなって感じがした。魔法を使える人とこんなにも近くで触れ合えるなんて、感動したよ」

 こいつは魔法が使える人間を神か何かだと思っているのだろうか。俺の周りでは燐を含め、家族全員が魔法を使える為にうんざりするほど魔法というものを見てきたけど、こいつは本当に魔法と無縁だったのだろうか。

「ずっとここに入りたかったんだ。昔からずっと魔法に憧れててね。環境だけでもいいから、魔法を近くで見ていたいんだ」

 まだ話を続ける男の子。しかし、そんなにいいものか、魔法ってのは。環境だけって、使えるから良いものなんじゃないのか、魔法ってのは。

「君はどうしてここに入ろうと思ったの? あ、やっぱり僕と同じような理由かな?」
「え……」

 急にふられた話題に戸惑いを隠せなかった。
 何て、答えようか。そう悩んでいる内に、俺の口は自然と答えていた。

「あ、あぁ……そうだよ。普通科に入るんだから、そうだろ……」

 何を言っているんだ、俺は。
 本当にこんなことを言いたかったのか。いや、違う。そうじゃない。何で、何で俺がこんな——

「やっぱりそっかぁー。凄いよね、魔法使える人達って! そうなると、惜しいなぁー。入学式、きっと君もわくわくしたはずだよ!」
「そう、かな……」

 言葉が詰まる。詰まって、喉の奥から空気しか出てこないような、むせ返りそうになるのを必死に我慢するように、俺は声が出せなかった。出せない。ダメだ、落ち着け、落ち着いてくれ——

「いやぁ、楽しみだね! "これからの学園生活"が!」
「どこが……楽しみなんだよ……」
「え?」

 言っちゃダメだ。そう分かっていても、抵抗も空しく俺の言葉が後に続く。

「自分で魔法を使えないのに、何が楽しみでここにいるんだよ」
「そ、それは……」
「平凡な人間なのに、魔法に憧れても仕方ないだろ……!」

 男の子は突然のことにあたふたとしていたが、やがてそれも治まると、俺に向けて苦笑を浮かべた。

「でも……"君もここにいるんだよね"?」
「ッ……!」

 そうだ。そうだった。俺に何も言える権利などない。何で俺は当たり前のように語ってるんだ。——まるで、魔法が使えるかのように。
 使えないんだよ。家が魔法の名門ってだけで、当の本人は使えない。そして俺はそれを声高らかには言わない。言えば、落ちこぼれだと分かってしまうから。平凡な、魔法の才能を持たない奴よりも可能性をもらっていながら、目覚めさせていない俺は、平凡な奴よりもよっぽど滑稽だ。
 いっそ、普通の家ならば。俺もこの男の子と同じ、平凡な家庭で生まれたのならば、後悔することも、魔法に対してこれほどまでに劣等感を抱くこともなかった。

「……ははっ、そうだった」

 顔を手で押さえて、俺は呟いた。何をしてるんだろう、俺は。
 こんなこと、分かっていたはずなのに。受け入れたはずなのに。少しでも、魔法の名門という家柄を潰さないように、せめて学校だけでも魔法に携わるように。そうして選んだ道じゃないか、これが。

 ふらふらとした足取りで、俺は教室のドアの取っ手を掴んだ。

「ど、どこに行くの? もうすぐ他の人も来るよ?」
「あぁ……ちょっと、便所だ」

 そう言い残すと、息苦しい教室を後にした。

Re: 落ちこぼれグリモワール ( No.5 )
日時: 2014/10/04 02:36
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: n71ZnujR)

>>3 奏弥さん

おお、お久しぶりですー。
奏弥さん、覚えてますよー! 一方的ではありませんでしたね!←
まんま何年か前と同じ名前で投稿してます。何年か前と変わらぬ遮犬です。証拠としましては、昔に書いてたやつと今のトリップが一緒なので、それで分かると思いますー。

一番目にコメントをいただきました、ありがとうございます、凄く嬉しいです本当に。
今現在、とても他で忙しいので、更新や返信は全て深夜ぐらいになってしまいますし、無理な時は一日中無理って時もあるので、不定期な更新に続いてプロットも作ってませんし、誤字脱字の確認もしていないので、相当雑になってしまうことを先に謝らせてください;

あぁ、感想をいただけるなんて、嬉しさ倍増です。
お気になさらず、どんな感想でも構いませんので、お待ちしておりますね。

ありがとうございます。完全に落ち着いたらゆっくり更新のペースもあげていこうかなぁと思っています。
再びこの場に戻って書かせていただくことをお許しください……。


コメントありがとうございました!


Page:1 2 3 4 5 6 7 8



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。