複雑・ファジー小説

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落ちこぼれグリモワール 第5話開始!
日時: 2015/07/03 01:44
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Nw3d6NCO)
参照: 7月3日更新いたしました。 ※後々全話加筆修正していきます。

※参照1000突破記念でオリキャラ募集始めました! 詳しくは【新リク依頼掲示板】で探してね! それとも>>40のURLから飛べるから確認してね!
題名「オリキャラを募集しております!」




【ご挨拶】
 クリックしていただき、まことにありがとうございます。
 ひっそりと再び小説の方を書いていきたいなぁと思い、ファジーにて最初気まぐれの超亀更新として始めていきたいです。
 順調に足並みが揃えば更新速度を少しずつ上げていく予定です。よろしくお願いしますー。

 あ、ちなみにコメディチック路線気味に加え、ラノベ調に近いものとなっております。ただ表現がグロテスクな場合等が出てくる恐れがあるので、ファジーにて書かせていただきます。ご了承ください。



【目次】
プロローグ【>>1

第1話:落ちこぼれの出会い
【#1>>2 #2>>4 #3>>6 #4>>7 #5>>10
第2話:天才と落ちこぼれ
【#1>>12 #2>>13 #3>>14 #4>>15 #5>>16 #6>>17 #7>>18
第3話:非日常の学園生活
【#1>>19 #2>>20 #3>>21 #4>>22 #5>>23 #6>>25 #7>>26 #8>>27
第4話:落ちこぼれの劣等感【事情により、#8と#9は連続してお読みいただくことを推奨します】
【#1>>28 #2>>32 #3>>33 #4>>34 #5>>35 #6>>36 #7>>37 #8>>38 #9>>39
第5話:恋と魔法と性転換
【#1>>40

Re: 落ちこぼれグリモワール ( No.11 )
日時: 2014/10/14 19:08
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: xMxTbxuA)

 まことに勝手ながら、コメントは1人1レスで返したいところですが連なった場合はまとめて1レスでコメントの返答をすることをご了承ください。
 それと、どうしてもコメント返信が長くなるクセがあるので……それもご勘弁ください(汗





>>8 風死さん
思いっっっきり覚えてますよ! お久しぶりです、風死さん。
どうでも良くはないですよー大切な出会いです。改めて遮犬のことも覚えておいてください。そして逆にこんな奴めを覚えていただき、嬉しくてたまりません。

こういう落ちこぼれです。あー確かに、イレギュラーですねぇ……。うむむ、落ちこぼれという意味は、まさにそれかもしれません。単に生まれてから気付いたというわけではなく、気付いたらこうなっていた、と。
落ちこぼれ一つにしても様々な解釈で……。
主人公さん、結構皮肉たっぷりですよね。仕方ないと分かっていても比べちゃうんですよね。それもそういう環境にいることに慣れたと思っても慣れなかったり。それに気付いているようで気付かないふりをしている主人公さんです。
文章力はマジで皆無なので……設定も一昔のラノベだな、とよく言われますw

駄文だらけですし、更新と修正が不定期すぎてどうしようもありませんが、どうか見守っていただけるとありがたいです。

コメントありがとうございました!





>>9 瑚雲さん
うぉぉぉおお、瑚雲さん! お久しぶりです、遮犬です。

ちょ……そんな葛藤があったんですかw謎の葛藤……声をかけてくれるだけでも相当嬉しいです。
カキコで書こうと、その意思と憧れを持たせてくれた瑚雲さんにこうしてまた長い月日を越えて会えるとなると、やっぱりこういった繋がりは大事だなぁと身に染みて思います。
いつでも声をかけてきてください! やっぱり、一度お話した方とはもう一度会いたいものですし、話したいものです。
あ、勿論新規の方も本当に話したいのでコメントしてくd(ry

本当、暇潰しに読んでいただけたら、程度の作品なので恐縮なのですけども、読むことに苦がないようにラノベな空気感を作り出すことに必死です……。
過去のお話も話が進めばだんだんと明らかにしていく方向なので……そこまで更新が続けばいいのですが……(汗

いやいやいや! こっそりというより全然カムバックしてくださいよ!?
表だって応援していただけると本当に嬉しい限りです。またいつでもお顔を覗かせてくださいね。

コメントありがとうございました!

Re: 落ちこぼれグリモワール ( No.12 )
日時: 2014/10/15 11:46
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: b/Lemeyt)
参照: やっとコメディチックにもっていけた……。

 チュン、チュン、と小鳥のさえずりが聞こえる。
 あぁ、心地いいなぁ。これがまともな朝か。静かだ。
 けれど、時刻はいつもの時間とは程遠い、昨日燐が来た時刻より2時間は早い。ぶっちゃけ、太陽が昇ったのはついさっきの話だ。
 それで、今何をしているかというと。

「ふん、ふふーん、ふーん♪」

 軽快な鼻歌が聞こえてくる。シャワーの音があるにも関わらず、その女の子らしい高めの声は俺のいるリビングまで届いていた。
 あぁ、心地いいはずなのになぁ。なんでだろ、どうしてこうなったんだろ。
 振り返っても、よく分からない。どうしてあの女の子は——テレス・アーカイヴと名乗るあの少女は俺の家の、それも俺の部屋で寝ていたのか。

「……ダメだ、思い出せない」

 何度頭の中を駆け巡っても、少女と会った形跡がない。それどころか、思いっきり初対面なはずだ。
 なのに、何であの子の方は俺のことを知っていたんだ。本当にこれ、色々と俺やらかしてしまっているんじゃ……。

「なんでや……なんでこうなったんや……」

 思わず普段は全く口にしないし、全く地元でもないのに関西弁が出てしまうほど俺は動揺してしまっていた。

「とにかく……聞くしかない、よな……」
「あっがりましたー!」
「だあああああああ!! だから服を着ろっ!!」

 全裸でリビングに入ってきた自称テレス・アーカイヴに傍にあったクッションを投げつけた。





第2話:天才と落ちこぼれ





「ず、ずずずず……」

 うん、静かな朝だよ。うん。
 俺の目の前で即席の味噌汁をすする銀髪の少女。しばらくそうしてすすった後、ぷはぁと声を出して器をテーブルに置いて俺と顔を合わせる。

「美味しい!!」
「そうか。そりゃ何よりだ。外人っぽいから、和食が合うか不安だったんだけど」
「おかわり!」
「うん、図々しいな!?」

 はぁ、とため息をついてまた即席の味噌汁を入れに行く。ちなみにこれが初めてじゃない。かれこれ味噌汁だけで三杯目突入だ。
 給湯器の中身もなくなってきたので、新たにお湯を沸かすために水を入れ、蓋を閉じる。その一連の動作を少女は見ていたようで。

「それは何?」
「見れば分かる通り、給湯器だよ。水をお湯に変える魔法の道具さ」

 とか、冗談を言ってみると。

「ふむ……魔法の道具……」

 ってな感じで考え始めたので、冗談だと言ってやったら「なんだ、そうなのか……」とちょっと落ち込んだ様子を見せた。
 味噌汁を目の前に差し出してやると、再び目を光らせて飲む。そんなに美味しいか、この即席味噌汁が。

 俺の服を一時的に着させているため、サイズは合わずによれよれの状態だが、裸でいられるより全然マシだろう。ていうか、そこに対して恥じらいってものはないのだろうか。

(あぁ……こんなことしてる場合じゃなくて。とりあえず聞いていかないと……)

 頭を左右に振って思い起こすと、決意したように俺は少女に向き直る。

「あのさ、聞きたいことが——」
「ぷはぁ、おかわり!」
「もうねぇよ!!」

 思わず机を叩くと同時に言い放っちまった。それを聞いて少女はしょんぼりとした表情を見せる。
 即席の味噌汁ばっかり飲みやがって! それだけの為に俺の家に来たのかよ! とか何とか思いつつ、気を取り直してもう一度。

「聞きたいことがある!」
「うん? 何かな?」
「どこから来て、何で俺の家にいたんだ?」

 とりあえずこれ。本当にこれ。ぶっちゃけこれを聞くのが一番怖かったけど、俺の家にいる理由がまず知りたかった。
 でないと、俺の過ちとか色々あった場合が……。

「あぁ! それなら、ずっと"見てたんだよ"!」
「え、見てた?」

 どういうことだ。あれか、エスパー的なやつか。魔法の中にも相手の心を読み取るものがあることはあるけれど、そういうやつか? でも遠くの対象のものを読み取るとかってのは聞いたことがないぞ。

「うん、"あれの中"で見てたんだよ」

 "あれの中"?
 色んな考えが渦巻いていたのにそれらを一瞬で溶かし、代わりに少女は俺の手元に置いてある例の青い水晶を指した。

「え、これ?」

 と、持ち上げてみせる。少し重みを感じる。しかし、昨日より輝きが減ったような気がするのは気のせいだろうか。

「うん、その中に私は入ってて、君のことを見てたんだよ」
「い……いやいやいやいや! そんなまさか、聞いたことない」

 ぶんぶんと手を左右に振って少女の言葉を否定する。
 だって、本当に聞いたことがないのだから仕方ない。水晶の中に人が入っているだなんて、確かにそういった閉じ込める系の魔法はあるが、それ相応の、閉じ込める対象ほどの大きさを持たなければそれは可能にならない。
 それなのに、この少女は俺の人差し指ほどの大きさの水晶の中に入っていたというのだから、そりゃ信じられるはずもないだろう。

「本当だよー。えーと、確かそれを拾ったのって図書館、みたいなところだよね? 確か周りに本が見えたからそんな感じしたんだけど」
「え……い、いや、確かにそうだけど……なんで知ってるんだ?」
「だから、この水晶の中から見てたんだよ! ここに帰って来た後、わけわかんないほどパニックになって、それから本を開いて何か書き始めたと思ったら何か唱えだすし!」

 そんなまさか。少女が言ったことは、昨日俺が覚えている内容だった。つまり、水晶の中から見ていたということは、視界みたいになっていたってことなのか。
 ……ということは俺の魔法発動の瞬間も知っている?

「そ、それじゃあ、俺は……」

 ぐっ、と喉に言葉が詰まる。聞きたい。けれど、怖い。でも、確かめたかった。"俺は魔法が使えたのかどうか"。
 結果として、水晶はここにあるから、成功はしなかったのかもしれない。けれど、あの魔法の発動する瞬間を見たのなら。
 自分に、魔法の才能が残されているのかもしれない、と思ったのだ。

「俺は……魔法を使えていたのか……?」

 おそるおそる、初対面に等しい少女に尋ねる。どういう答えが返ってくるのか——

「わかんない!」
「……は?」
「君が何かを唱えた瞬間、意思の存在だけだった私に肉体が出来て、まぶしい光に包まれて、気がついたら君の部屋にいたんだよ」

 つまり、俺が感じた魔法発動の瞬間の時にこの子も何かしら異変が起きていたのか。
 そして、俺と初対面ではないような口ぶり。その原因は水晶の中から俺のことを見ていたから、ということか。
 確かに辻褄が合う。違和感も特にない。けれど、水晶の中に入っていたという信じられない内容と、俺の魔法発動、そしてどうしてこの子はかの有名な魔術師テレス・アーカイヴの名を名乗るのか。

「君は、テレス・アーカイヴ……さん、なんだよな?」

 本人だったら怖いので、一応さん付けしてみる。

「うんうん、そうだよ! テレス・アーカイヴ……だと思う!」
「え?」

 何だ、今の確信を得ない言葉は。

「君が唱えて、私に肉体が宿ったとき、思い出した名前がテレス・アーカイヴって名前だったんだよ。だから、私の名前だと思います!」

 どや顔でそう言われても。ということは、この子はテレス・アーカイヴじゃない、よな? でも確証は持てない。
 なぜなら、テレス・アーカイヴは魔術を営むものなら誰しもが知るほど有名なのに対し、外見は勿論、性別さえも不明なのだから。

「……本当のテレス・アーカイヴなら、自分の魔法ぐらい、言えるよな……?」
「うん?」

 いつでも読めるように備え付けてあるテレス・アーカイヴの魔学書をすぐ傍の本棚から取り出し、少女に見せた。

「この魔法! 使ってみせてくれ。本物なら出来るはずだ」
「あー……出来ないよ」

 俺がなんで、と言葉を交わすよりも先に、少女が原因を言う。

「だって、記憶喪失みたいだから」
「記憶喪失……?」
「うん。自分が本当にテレス・アーカイヴかも分からないし、それ以外の人物かもしれない。ただ、私はその水晶の中で目を覚ましただけ。何者って自分で分かっていたら苦労はしないだろうし……」

 すごい軽い感じで言われたけれど、まあ確かにそうだよな。自分が何者か分かるなら、すぐにでも自分の居場所に戻りたがるはずだし、見知らぬ男の即席味噌汁を三杯もいただいてないだろう。

「でもって、多分だけど、分かったことがあるんだよ」
「分かったこと?」
「うん、それは——」

 ピンポーン。
 俺にはこの音が、地獄の呼び鈴かと錯覚してしまうほどだった。
 時刻を見る。何でこういう時に限って時間が過ぎるのって早いんだろうね。残酷にも時計の針は燐が訪れる時間帯を差していた。

「ちょ、ちょぉおおおお!」

 パニくりすぎてわけ分からん雄たけびと共に立ち上がる。どうしよう、マジでどうしよう。そうだ、考えてなかった。燐のことを。
 昨日の出来事があったから今日は来ないかと少し油断してたらこれだ。多分、昨日のことなんて何てことなかったかのように来る。これが燐さんですよぉぉおお! うわあああ、分かってたのに気付けなかったあああ!
 この状況、なんて思うだろう。燐なら、説明したら——無理か。言い訳無用で手持ちの太刀で一刀両断ってとこだろうな。どうしよう、マジでこれどうしたらいいの。

「何をそんなに焦ってるの?」
「大変な状態なんだよ今!」

 ピンポーン。もう一度鳴り響く地獄のカウントダウン。あ、そういえばあいつ合鍵持って——
 ドアが、開く。その時、少女から「仕方ないなぁ」という言葉が聞こえたけど、それはどういう意味か分からず、とにかく俺は走る。

「はぁ、本当に懲りな——」
「うおおおおおおおおお!!」

 ドアにほとんどタックルするような形で俺は廊下を駆け抜ける。驚いた表情の燐。そして止まらぬ俺の脚。

「なっ——にっ、してんのよっ!!」
「ひでぶっ!!」

 思ったとおり左手に持っていた太刀を俺の頭上に振り落とし、俺はノックダウンする。ごちんっ、と凄い音が俺の額と床の間で響いた。
 あぁ、終わった……俺の服を着た見知らぬ少女の姿とか、もう何も言い訳……あぁ……。

「一体何をして……って、脱いだら脱ぎっぱなしだし……どんだけ味噌汁飲んでんの?」
「いや、本当……そこにいる子は違うんです……」
「はぁ? 何言ってんのよ。ったく、ちゃんと片付けなさいよね」

 ……あれ? 何か会話が噛み合ってないぞ。
 俺の予想だと、リビングを見るや否や、俺に斬りかかってくるかと思ったのに。どういうわけだか、燐は全く少女のことに関して触れない。
 不思議に思い、激痛の奔る頭を抱えながら無理矢理体を起こし、リビングへ。

「あれ……?」

 少女の姿が、ない。おかしい。どこにも隠れるスペースはないというのに。
 玄関からリビングまですぐだから、隠れる時間さえもなかったはず。なのに、どうして少女はいないのか。

「一人でこんだけ味噌汁飲んで、もっと他に食べ物あったでしょ……」

 誰が一人でそんだけ味噌汁飲むかよ。と、つっこみたかったが、それは紛れもなく少女がいた証だ。なのに、どうして少女の姿が——
 と、目に映ったのは青い水晶だった。輝きを帯び、綺麗なそれを見る。
 ——もしかして。

「珍しく起きてると思ったのに、奇声あげながらタックルしてきたり……そんな暇があるなら、さっさと用意してきなさいよ」

 呆れた様子で言われる。それに従い、洗面所に向かう。青い水晶を持って。
 洗面所に到着し、俺はいちかばちか、言ってみた。

「おい……もしかして、聞こえてるか?」

 独り言のように、水晶に向けて話しかける。少し虚しい感じがしたが、そういえば水晶から俺の方に干渉は出来ないんだっけ——

『聞こえてるよ!』
「うおっ!!」

 突如、少女の声が頭の中に響いた。なんだこれ、テレパシーみたいな感覚か?

『びっくりした? さっき言おうと思ったんだけど、気付いたことっていうのは……私は肉体を持っているようで、そうじゃない存在だってことだよ!』
「あぁ? どういうことだ?」
『つまりね、この家の中だけに限ると思うけど、実体化することが出来るみたい!』
「いや……なんでそんなこと言い切れる? まだ外に出た試しもないのに」
『うーん……なんでだろ? 理由は分からないけど、私はなんだろ……人間、生命体、ううん、それとはまた別の——』

 コンコン、と軽いノックが遮る。

「咲耶? 誰かと話してるの?」
「え、い、いや? 何言ってんだよ」
「いや、何か一人で喋ってるから……独り言なら相当だと思うんだけど……」
「だ、大丈夫だから! すぐ用意するから待っててくれ!」

 燐がこちらの部屋に入ってくるのを阻止し、胸を撫で下ろす。

『あはは、心配しなくても、私の声は君以外には聞こえないと思うよ?』
「だから……どうしてそんな言い切れるんだよ」
『君としか私は干渉してないから。この水晶は特別なものみたいで、君と私を繋ぎ止める媒介みたいな役割をしてるんじゃないかな』
「媒介……」

 その言葉は親しみのある言葉だ。媒介を通して魔法を具現化するわけだが、それにあてはめるとこの水晶を介して少女は具現化出来てるってことか?

「そうなると……一体、何者なんだ」
『それは、私にも分からないよ。けれど、こうして君と繋がることが出来たってことはその一歩にも繋がったってことじゃないかな?』
「まあそれはそうかもしれないけどな……」

 何だか、えらいものを拾ってしまった気がする。この水晶、返さないといけないはずなのに、どうしてだかこのままこれを手放さない方がいい気もする。
 少女が中に入ってます、なんて紅さんたちに言っても気付かないだろうし、第一昨日の夜に何が起きたのかまだ定かでもない。
 とりあえずのところ、俺と少女が繋がることが出来たその原因を探るか。それからでも、返すのは遅くないはずだ。

「っと、やばい、このままだと燐に殺される!」

 時刻を見て焦った俺は急いで学校へ行く準備に取り掛かった。

Re: 落ちこぼれグリモワール ( No.13 )
日時: 2015/05/07 01:24
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Nw3d6NCO)
参照: 参照200突破ありがとうございます;

「はぁ……」

 ようやく教室の前に辿り着いた俺はため息を吐いた。

『何か疲れてるね?』
「お前のせいだよ!!」

 思わずつっこんでしまうほど、苦労をした登校だった。こいつの存在は言ってしまえば、俺からすると相当しんどいもので、なおかつ隠すことに必死なわけで……。

「何か隠してない?」

 何度この言葉を燐から言われただろう。そのたびに俺は焦り、動揺し、答える。

「い、いや、別に何も——!」
『あっ、初めまして!』
「うるせえええ!」
「……やっぱり何か隠してるでしょ!?」
「隠してねえええ! あ、いえ、隠してないです、ごめんなさい。だからその右手に握り締めた太刀をどうか下ろしてください」

 ……という会話を繰り返していたわけだ。
 どうにも、この結晶の中にいるこいつの声は俺以外の他人には聞こえないようで。それを試すかのようにこいつは何度も燐に声をかけようとする。
 そのたびに俺の脳内に鳴り響く高い声色に頭が痛む。それを含んだうえでの燐からの質問と疑念。それらを誤魔化して誤魔化して……ようやく逃げるように学校に辿り着くや否や、俺は自分の教室へと全力失踪してきたというわけだ。
 急いできたってこともあったし、俺が既に起きていたってことも併せて普通科の生徒はまだ誰も登校していないようで、辺りには誰もいない。

「何で朝からこんなに疲れないといけないんだよ……! お前な、少しは静かにしててくれよ、頼むから」
『そんなことを言われても、つい言葉を交わしちゃいたくなるものなんだよ? 今まで見れなかった景色が見れて、伝わらなかった言葉が伝わると嬉しいものだよ!』
「俺にしか伝わってないけどな……」

 諦め気味に呟き、手に握り締めたままの結晶をポケットの中にしまおうとする。

『あぁっ! 手に持っててよ!』
「はぁ? ずっと持っていれるわけないだろ」
『景色が見れないじゃない!』
「景色って……あぁ、そうか。水晶の中から視界として見れるのか。……今さっきまでよくも俺を悩ませてくれた罰として、ポケットの中に入れようかなぁー……」
『ええ! ちょっと! それだけはやめてー!』

 なるほど、つまりこいつにとっては周りの景色が見れなくなることほど辛いものはないと。まあ確かにそうかもな。暗闇の中でずっといろとか、俺なら絶対嫌だね。
 だからこそ、俺はこれがこいつへの"抑止力"になると思った。教室に入れば、多分こいつは色んなことを口に出すと思うからな。同じように頭の中ではこいつの声で周りからは他の声、なんて俺の頭がイカれちまう。

「よーし、まあとりあえず……暗闇の中にいたら黙るだろうし、やってみるのもありかなー?」
『えええ!』

 予想通りの反応。よしよし、このまま焦らしていけば——と、考えていた。

『こうなったら……!』
「さーて、どうしたものか……って、うん?」

 こうなったら、って言葉が微かに聞こえたから嫌な予感がした。けれど、そんな疑念を抱くのは既に遅くて。

『うりゃあっ!』

 そんな掛け声と共に、水晶が一瞬光る。

「うぉっ! 何だっ!?」

 思わず水晶を手放してしまうところだったが、それよりも驚いたのは。

『わ、すごーい! 幽霊みたいに透明になってる!』

 俺の目の前に現れたのは、うっすらと背景に混ざるように半透明化した銀髪の少女の姿が立っていた。いや、"浮いていた"。

「お、おま……! な、何したんだよ!」
『うーん、水晶の中に入れるってことは、外に出ることも可能だよねって思って、念じてみたら出れちゃった!』
「出れちゃった、じゃねぇよ! これ他の人に見られたら——!」

 半透明化したこいつと話してる最中、俺は近づいてきている人影に気付くことが出来なかった。

「あれ、桐谷君……だよね?」
「えっ……! 羽鳥さん!?」

 そう、ふと気付くと、近くに羽鳥さんの姿があった。昨日と同じように栗色の髪で、綺麗で大きな瞳のおかげで際立つ童顔が特徴的な羽鳥さんが——

『あはは、大丈夫だよー。私の姿は見えないし、多分私から干渉も出来ない』
「ちょっと待て、お前何をする気だ……!?」

 半透明化した銀髪の少女、自称テレス・アーカイヴが羽鳥さんへと近づいていく。

「え? 何が?」
「あ、いや! 羽鳥さんとは関係な——って待てお前! 何をしようと……!」
「どうしたの? 桐谷君。何だかおかしいよ?」

 ふふっ、と笑い声を出す純粋な羽鳥さん。そしてそれに近づいて何をしようとするかと思えば、羽鳥さんのその小柄な体を触ろうと——!

「や、やめ……ッ!」

 と、俺が制止の言葉を発する前に、その結果は既に出ていた。
 銀髪の少女の体は羽鳥さんを貫通し、通り抜けていた。

『ほらね? だから私は君以外の人に干渉出来ないし、それどころか、幽霊化できても君が感知できない範囲には一人で行けないみたい』
「お、お前は本当に一体何なんだ……」
「え? は、羽鳥 優です、けど……桐谷君、私のこと覚えてくれてないの?」
「あ……! ち、違うんだ! これは羽鳥さんに向けた言葉ってわけじゃなくてその!」
『うわー、それにしてもこの子、凄い可愛いねー』
「………」

 何度も羽鳥さんに触れようと何度も試みるこいつを見て、俺は絶句する。
 自己紹介の日から、翌日。既に俺は羽鳥さんに変な人ポジションを与えてしまった。


————


 本当に勘弁してくれ。こいつはどれだけ好奇心旺盛なんだ。
 入学式から次の日、早速自己紹介を始めることになった。俺と羽鳥さんの二人、いや半透明化の奴を足すと三人で教室にいたわけだけど、誤解をしていないか羽鳥さんに何度か問いかけてみると

「ふふ、桐谷君って面白い人なんだね」

 との言葉が。それだけでハートブレイクだよね。
 もう俺の心はズタズタだ。そんなわけで、俺は羽鳥さんの不思議がる表情を避けて、自分の椅子に座り落ち込み、居てもたってもいられずに男子トイレへ——。

「ってちょっと待て」
『どうしたの?』
「お前は中を覗いたらダメだろ!」
『どうして?』
「………」

 とまあ、男子トイレというものを指南する必要もあり。何かと難癖つけてはこいつを結晶の中に引っ込ませたりと俺はえらくしんどい思いをしたのよね。
 ただ、分かったことがある。こいつはずっと幽霊化できないってことだ。
 何故だか今のところ分かっていないけど、こいつが幽霊化するには条件か何かがあるようで、ずっと出っ放しというのも無理なようで。

『まだ自分の正体も分かってないから、仕方ないなぁ……』

 というのがこいつの見解だが、それは俺なりにはほっとしている。だからこうしてこいつを結晶の中に入らせ、今はおとなしくしてくれている。
 これはもう、正直お手上げだ。こいつが名乗ったテレス・アーカイヴとか、もうどうでもいい。今はただ、こいつを元の場所に返そう。そうしたらこんな大変な日々を送らないで済むんだ。

「えーと……次は、君かな」

 教師に見られ、俺は立ち上がる。あぁ、自己紹介の途中だったな。俺の番か。

「桐谷 咲耶です。趣味は……読書です。一年間、よろしくお願いします」

 とまあ、こんな程度で留めておいて。俺は着席する。周りのクラスメイトたちからのささやかな拍手を浴びて、俺は安堵した。
 今の頭の中は、こいつを早いこと元の場所に返すことだ。もう紅さんに怒られようが斬られようが関係ない。とにかく、戻す。

 それから順当に自己紹介は進んでいき、勿論羽鳥さんも自己紹介を行った。

「え、えっと……羽鳥 優です。趣味は……お料理と裁縫です。よ、よろしくお願いしますっ」

 緊張気味に言う羽鳥さん超可愛い。そんな風に思いながら拍手を送るが、俺と同じ考えをしているのか、周りの男共もにやけ顔で拍手を。畜生が、くたばれ。

「えーと、次は——」
「はいはい! 俺でーす!」

 高いテンションで立ち上がるのは、予想通り堺 怜治だった。

「堺 怜治っていいます! 趣味は……友達作りですかね! まあ友達いっぱい作れたらなって思います! よろしくぅっ!」

 やべえ、こいつ強いわ。色んな意味で。
 キャラが濃いせいか、皆も若干引いた部分はあったが、やはり何せあのコミュ力。既にクラスメイト全員に話しかけ終えたのか、拍手は他の人よりも多く聞こえた。

「えー……次は」

 と、教師のだるそうな声に従って立ち上がったのは、俺がこの教室を訪れて、初めて話したあの子だった。

「古谷 静(こたに せい)です。趣味は……特に、ありません」

 それだけ伝えて、すぐに着席した。その表情は、俺の位置からは見えにくい。どうにも、昨日話した時とは別人のような雰囲気を醸し出していた。
 その異変に気付いたのはどうやら俺だけで、他の人からのまばらな拍手を浴びるのにも気にせず、古谷はただまっすぐと、何を思っているのか分からないまま、前を見つめていた。


————


『ねぇ、そろそろ話してもいいかな?』
「あぁ、いいぞ」

 俺は許可を出しつつ昼休みになるや否や、速攻で教室を飛び出し、例の図書館へと向かった。
 その道中、入れっぱなしだった水晶を手に持ち、ずんずんと迷うことなく進んでいく。あれ、こんなに俺この学校の位置取り理解してたかな、というぐらいに、もうずんずんと。

『どこに向かってるの?』
「あぁ、それはな。お前が元いた場所にだよ」
『あの図書館のこと?』
「よく分かったな。まあ名残惜しいとは思うけど、残念ながらお前はお前で色々よろしくやってくれ。俺を巻き込むな」

 そこまで言葉のやり取りをしたところで、例の教室のドアを開く。ていうか、無防備に空いているんだよな、ここ。
 機械仕掛けの扉を押し開け、気持ち悪い感覚を乗り越えてから、ようやく例の図書館にたどり着いた。

『巻き込むって言われても、私はただ自分が誰か分かろうとしているだけだよ?』
「その結果、俺を巻き込んでるんだよ。俺の体に干渉か何かしたのか知らないが、そのせいで俺に迷惑がかかってるんだ」

 そこで、図書館の内部に見たことのなる後姿を見かけた。紅さんだ。

「紅さん!」

 少し遠目から声をかける。すると振り向いてから、訝しげな表情をした後、こっちに近づいてきた。

「お前……昨日の普通科の奴か。お前に紅さんと呼ばれる筋合いはないが……もうここには来るなと言ったよなぁ?」

 声色がちょっと怖い。けど、俺はひるまずに目的と用件を言う。

「あの! これなんですけど……」
「うん? 水晶か? いや、それにしては綺麗すぎるな……」

 紅さんに水晶を手渡すと、それを目の前まで持っていってじっくりと凝視する。

「これ、実は……」

 事の顛末を一通り話す。
 俺がこの図書館に来て、テレス・アーカイヴの本を手に取ったこと。それを不注意で落としてしまって、その中からこの水晶が出てきたこと。紅さんたちが来て、慌てた俺は水晶を無意識の内にポケットに入れて隠れたこと。それから家に戻ってから水晶の存在に気付き、どうにかして返そうとして自分の書いた魔術式を唱えたら……

「銀髪の少女が出てきたんです!」
『そうだよ! 私が出てきたんだよ!』
「……ほお?」

 だめだ、完全に信じてない目だわこれ。紅さんは何言ってんだこいつ、と言わんばかりの表情でいる。——ていうか、勝手に喋るんじゃねぇよ自称テレス・アーカイヴ。

「俺にしか干渉出来ないみたいで、こいつは俺にしか見えないんですよ!」
『そうだそうだ! 見えないんだぞー!』
「お前は黙ってろ!」
「うん……お前は私に殺されに来たのか、それとも……」
「いや、違うんです! これはその! 銀髪の少女が……!」

 ああああ、やばい、ややこしくなってしまった。こんなことなら、紅さんに相談することなく勝手に元の場所に戻したらよかった。
 紅さんは今にも俺にぶちキレそうな雰囲気を醸し出してるし、どうしたらいいんだこれ。ていうかどうしてこんなことに巻き込まれたんだよ俺は……!

「——なるほど、興味深い話ですね」

 そこに颯爽と現れたのは、ニールさんだった。

「おい、ニール何しているんだ。こんなところにいる場合じゃないだろ?」
「まあそうですけど、桐谷君の話がとても興味深かったので……あ、また会っちゃいましたね、桐谷君」

 笑顔を見せて俺に語りかけてくるニールさんが天使に見えた。良かった、まともに話が通じそうだ。ていっても、俺がもし紅さんの立場だとしたら、紅さんと同じような反応をしたと思うんだけど。

「ちょっとそれ、貸してください」

 水晶が紅さんからニールさんへと手渡される。輝きを放つその中には未だに少女が存在しているのだから、不思議に思う。

「ふむ……なるほど。これは——」
『わ、凄い童顔!』

 じっくりと水晶を見つめるニールさんに、あいつの声。さっきから反応ないな、とか思っていたら、やっぱりまだ水晶の中にいたのか。

「何か分かったのか? 私にはただの"綺麗すぎる水晶"にしか見えないんだけどな」
「それですよ。綺麗すぎる……これは、"この時代のもの"ではありませんね」

 水晶を俺に返しつつ、ニールさんは言葉を続ける。

「つまり、それはこの時代に存在するのは"有り得ない"もの、ということになりますね」
「この時代に存在しない……? そんなものが、どうしてここに?」
「それは分かりかねますが、恐らくその水晶はただの水晶などではありません。アーティファクト(文化遺物)……それも昔に失われた魔法が関連しているような気がします」

 そんなまさか、とは思ったが、言われてみれば見たことも聞いたことも無い。
 こんな小さな結晶の中に人間サイズのものが入ったり出たり、それも完全な人間じゃない。俺の家の中だけ人間で、外に出たら幽霊化する? 意味が分からない。そんなものは聞いたことがない。

「長年、魔法学について研究をしていますが、このようなものは初めてです。それも、この"アンノウン"と呼ばれる図書館の中で発見されるとなると、なおさら……」
「おい待て。アーティファクトって簡単に言うが、もしこれがそれだけの代物ならこれまでの発見の中で最大の発見になり得ることだぞ?」
「ええ。桐谷君の言うことが事実だとすれば、それは本当かもしれません、が……まだそうとは言い切れない部分もあります」

 と、ニールさんは真面目な表情で俺を見つめてきた。真剣な表情をされると、俺の心が萎縮されてしまうから、少しやめて欲しいと思いつつ。

「貴方が唱えたというその魔術式……見せていただけませんか?」
「あ、はい……これです」

 こんなこともあろうかと持ってきていた自作の魔法書をニールさんに手渡した。それから問題の術式が書かれているページを提示する。

「……なるほど。これは"物を別の場所に転移させる魔法"としての構築ですか」
「あ、そうです……けど、一度も発動したことがなくて、というのも俺に魔力や魔法を扱う才能がないからだと思うんですけど……」
「……もう一度、唱えてみましょう」
「え?」

 ニールさんは魔法書を俺に返し、再び言い放つ。

「この魔法をもう一度、唱えてみましょう。今ここで」

Re: 落ちこぼれグリモワール ( No.14 )
日時: 2014/11/14 00:04
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: b/Lemeyt)
参照: やっと更新出来た……。お久しぶりです;

「もう一度、魔法を唱える……?」
「ええ、そうすれば……何か分かるかもしれません」

 確かにそうかもしれないけど、もし唱えて何も無かったら……俺の言っていたことは嘘だということになりかねるんじゃないか?

『それ、私も思ってたよ!』

 突然の声。その声の主は勿論、銀髪の少女からだった。

『もう一度唱えてみれば、何か発展があるのかもしれないし、どんな魔法かも分かってないし! 今はこうして他の人が見ててくれてるから、どういう効果があるのかも分かると思うよ!』

 そりゃそうだ。そりゃそうなんだけどさ。
 何故だか、魔法というものに対して億劫になっている自分がいる。一人でいる時は、あんなにもノリノリで——というか、皮肉たっぷりに唱えていたというのに、いざ人前でとなると、嫌な思い出も蘇るってものだ。

「どうした? ……"震えてるぞ"?」

 紅さんが俺に声をかける。無意識の内に体が震えていたようだ。情けない。なんて情けないんだ、俺は。

「だい、じょうぶです……! 唱えてみます……!」

 何とか根性でトラウマを跳ね返す。蘇る、魔法が使えないことによる周りからの残念そうな表情。何ともいえない表情。そして期待されたことによる、落ちこぼれになった途端の手のひら返し。
 あぁ、沢山だ、魔法なんて。こんなにも魔法に対して恐れを抱いていたのか。どうしてこんなに震えてる。治まれ、落ち着け。落ち着くんだよ、俺。

 震えた手で魔法書を開く。あの時は普通に唱えることが出来たのに。なんで。
 こんなにも躊躇いながらも、俺は少女と俺の奇妙な関係をぶっ壊したいと思うと共に、自分のトラウマが重なる。逃げたい、けど、向き合わなければ、俺は何も踏み出せない……。

「いきます……!」

 決意を固める。
 魔法書を構えて、紅さんとニールさんの目の前で魔法書を掲げ。

「魔術式……第百番を、開放する……ッ!」

 その瞬間、まぶしい光が俺を——
 ……あれ? 包み込ま……ない?

「何も、起こらない……?」

 目の前には、変わらない、紅さんとニールさんの姿。俺はただ、魔法書を構えているだけ。

「ふむ……まあ、そうですね……残念ながら貴方が本当のことを言っていると確証は今の現状では……」

 ——あぁ、これだ。懐かしいこの気分。罪悪感、劣等感、期待をぶち壊した感覚。こんなもの飽きるほど浴びてきた。何度も、何度も。それでも拭えないこの強烈な雰囲気。俺の中の何かが崩れていきそうな感覚。
 ただのそこらの劣等生程度ならまだしも、俺は正真正銘の"落ちこぼれ"だ。そんな俺がこの程度のことで崩れ去るわけもない。落ちこぼれの格が違うんだよ、格が。

「で、出来なかったですけど……! と、とにかく、この水晶はここのものなんですよ! だから、返しにきたっていうか……」
『待ってよ! 本当に返しちゃうつもり!?』
「うるせぇ! キンキン鳴り響くからやめろ!」

 はっ、とここで気付く。二人の白けた視線を感じ取ったのだ。

「ニール……こいつはあれか? ほら、巷で流行りの厨——」
「違います違います! 何とかそこには陥らないように頑張ってきた努力を踏みにじらないでください!」

 紅さんが超絶白けた表情をしていて、ニールさんは確証が得られない以上はどうも出来ない、といいたげな申し訳なさそうな表情をしていた。
 俺が一番申し訳ないんだけどな……ありのままに起こったことを伝えるっていうのは難しいよなー。落ちこぼれだからってお前じゃ絶対出来ないって何事も決め付けられたのはいつの話だろうか。——まあ本当に出来なかったんだけどな。

『失敗しても、状況によって変わるかもしれないし! 私が二人に見えてないだけで、私はここにいるよ!』

 だから、見えてないことが問題なんだよ。お前がいるって証拠も何もない。ただお前は幽霊っぽい状態で俺に憑いているに過ぎないんだよ。

「貴方の話が本当ならば、それはアーティファクトになり得るほどの代物に値しますが、そうでないとするなら、僕の研究対象にもなりませんし……」
「え、ええ! じゃあ受け取ってくれないってことですか!?」
「こう見えてもな、キリギリス君だかなんだか知らないが、私たち二人は忙しいだ」
「桐谷です! キリギリスって最初のキリしか名前あってないですよね!? わざとですよねそれ!?」

 くっそ、このままじゃこのうるさいやつから離れることが出来ない……。受け取ってももらえなかったらぶっちゃけかなり困る。どうにかして、何とかして……!

「ほ、他の魔法なら発動するかもしれないです!」
「えー……っと、それなら君がただ単に魔法が使えるよっていうだけにしかならないですけど……」

 確かに言われてみればそうだった……。この水晶がアーティファクトだっていう証拠を見せないといけないんだったよな……。
 ……ダメだ、何も思いつかない。この場に少女の姿が召還できないことには、俺はどうしようもない。手の施しようがないとはこのことだ。何も、出来ない。

「すみませんが、また方法を考えたら、でよろしいですか? 少し用事がありますので」
「あ……はい……わかりました……すみません……」
「はい。それでは、失礼します」

 図書館の奥へ立ち去っていくニールの後を追う紅。残された俺はただ落胆するばかりだった。


————


「ていうか、いいのかニール。方法を考えたら、ということはまたあいつをこの図書館に招くことになるぞ」

 歩きながら先頭を歩くニールに問いかける紅。ニールは軽く微笑んで歩きながら言葉を繰り出した。

「紅は、あの子が嘘を言っているように思えましたか?」
「え? ……いや、どうだろうな。ただただ必死……という印象ぐらいか」
「まあ、確かにそうですね。彼はただの幻聴を聞いているだけなのかもしれない。おかしな話ですが、それもあります。けど、何よりも"彼が本当のことを言っているという証拠"ならあります」
「ほう、それは何だ?」
「そうですね、まず簡単なことで言いますと……彼はどうやら、"特別"なようですよ?」
「特別?」
「ええ。この図書館、アンノウンへ来たことも、ただの偶然ではなく……必然のような気がします。彼が……いや、彼の言う"少女"が呼んだのか……それとも」

 そこで言葉を切り、紅は不審そうにどうしたと声をかけた。
 立ち止まり、振り向き、ニールは言う。

「彼は会うべくして我々と……会ったのかもしれないですよ?」
「うん? ……私にはよく分からんなぁ」

 紅が頭をわしわしと掻きむしる最中、発信音のようなものがニールの方から漏れる。
 ポケットから取り出したのは、小型の端末でその画面に映し出された内容を見つめて呟く。

「……"魔人"が付近で発見されたようです」
「何? どこのどいつだ?」
「名称はありません。ただの野良ですが……どうも特徴が掴めないようです」
「ふむ。上手くやり過ごしてんのかねぇ」
「……少し嫌な予感がしますね。誰か向かわせましょう」
「誰かって、活動時間じゃないのにそんな都合よく——」

 紅が言葉を留める。その原因は、薄暗い研究室のような部屋から出てきた一人の少女の姿を見たからだった。


————


 絶対何か隠してる。
 何年の付き合いだと思っているんだろう、と佐上 燐は考える。

「何かに巻き込まれたりだとか……」

 そう考えてもおかしくない。また、あの"バカ"は迷惑をかけたくないなんて思っているのか肝心なことを教えてくれない。頼ればいいのに、頼ろうとしない。
 頬杖を高級そうな木の机でついていると、いつの間にか自分の周りに人が集まってきていることに気付いた。

「あ、佐上さん。昨日はちゃんと話せなかったよね」

 とんでもないイケメンスマイルと共に、一人の青年及びその他の面子がわらわらと寄ってきた。数は5,6人辺りだろうか。
 このイケメンスマイルを放つ美青年の名は東雲 春人(しののめ はると)。茶髪の王子様な雰囲気を放つ彼は入学初日からそのカリスマ性を放っていた。
 勿論、魔法の才能も長けている。このAクラスに所属しているということ自体だけでも魔法の才能がそれほど長けているということになるのだが、一部その中でも飛びぬけた生徒がいる。その一人が燐でもあり、東雲もそれに当てはまるらしかった。

「昨日は忙しかったみたいで自己紹介出来なかったけど、僕の名前は——」
「東雲 春人でしょう? 知ってる」
「あぁ、覚えてくれてたんだ。ありがとう!」
「……それで、何か用なの?」
「え、いや……」
「考え事してるから、あまり関わらないで」

 燐の言葉に東雲を除いた取り巻きが顔を強張らせる。

「おい、お前……!」
「いいんだ、大丈夫。……ごめんね、邪魔しちゃったみたいだ。また後で話せたら嬉しいな。同じAクラスとして、仲良くしていきたいからさ」

 そう言い残すと、しつこく付きまとうわけでもなく東雲はその場から去っていった。悪態をついた取り巻きもそれに続く。これでいい。別に慣れ親しむ必要はない。そんなものは特に必要もないからだ。
 そんなことよりも、燐の頭の中には咲耶のことでいっぱいだった。

(変な胸騒ぎがする……)

 何故こんな気持ちになるのだろう。何か良からぬことに巻き込まれていたとしたら、私が助けなくて、誰が咲耶を助けるというのか。
 早く放課後になって、今すぐにでも咲耶の元に駆けつけたいと、そう思っていた昼の終わり頃だった。

Re: 落ちこぼれグリモワール ( No.15 )
日時: 2014/11/17 10:08
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Ft4.l7ID)

 結局、この水晶の正体も、謎の少女と離れることも叶わなかった。
 確かに、よく考えてみれば普通には信じがたいものだよな。少女が水晶の中にいて、俺にしか聞こえないとか、見えないだとか。分かっていたけれど、現実として声は俺に届き、見えてしまったり実体化まで可能となったところを目撃したのだから俺が存在を否定することは出来ない。

「本当に、お前は一体何者なんだ……」

 不意に呟く。時刻は昼休みの終わりを迎えているせいか廊下には人の姿はあまり見えず、教室の中が騒がしい感じだった。

『私が知りたいぐらいだけど……でも、何となく私は自分の存在が何か、分かってきた気がするよ』
「へぇ? それは是非とも聞いてみたいところだな」

 すると水晶が光り、少女が目の前に幽霊として出てきた。これで数回目だけど、未だに慣れないな……。

『思うんだけど、私は君の——』
「うん? あれは……」

 少女の言葉よりも外に見えた一人の男子生徒の姿が気になった。
 生徒は、最初にクラスで話した古谷 静。昨日とまるで違った今日の態度といい、雰囲気といい、彼にはどこか違和感のようなものを感じる。

『ちょっと! 話聞いてるの!?』
「うるさいな、少し静かにしてくれ。……少し気になるな。もうすぐ昼の授業が始まるのに……」

 少女は俺の言葉に文句をぶつぶつと言っている最中、俺は考えていた。迷うことなく、彼は校門の方に向けて歩いていく。その後姿がどこか自分と似ているような気さえもする。あれは劣等感、いや……まさかな。
 その時、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り響いた。本当にサボる気なのか、それともまた別の用事なのか。
 何故こんなに気になるのかも分からない。いつもの変な正義感のせいなのか、俺は下駄箱のある方へ自然と歩いていた。


————


 早く終われ。憂鬱な顔を窓の外に向け、燐は思っていた。今日の予定はまだ、入学したばかりなので実戦的なことも何もしない。ただ単純に魔法学園の魔法科の生徒として守るべき秩序などを説教されるぐらいだ。この辺りは基本的に普通科の座学とそう変わらない。
 昼休みも終わりを迎え、次の授業がもうすぐ始まる。授業といっても、またどうせ部隊の勧誘だ。

 部隊というのは、これから実戦的に魔法を駆使して任務にあたる際に行動を共にするチームのことだ。単独行動は厳重に禁止されているゆえに部隊が存在する。
 また、部隊にはそれぞれ顧問教官がおり、その顧問教官が自分の部隊に授業の時間を潰して勧誘しに来るのである。

「失礼するぞー」

 騒がしかったクラスが途端に沈黙し始める。総勢30名ほどしかいないAクラスに颯爽と登場したのは黒髪ロングで長身の女性だった。その美貌にクラスの中の数人の男子か小さくため息を吐くほどだ。
 女性は教壇に立つと、クラスを見回した。そして、一言。

「……なるほどねぇ、今年はなかなかして何とも言えないような雰囲気醸し出しちゃってるな」

 何が言いたいのか、黒髪の女性はそんなことを言い出した。にやりと口元が歪んだ表情にはどういう意図が含まれているのか分からない。

「おっと、自己紹介を先にするべきだったな。私の名前は黒石 美鈴(くろいし みれい)だ。まあよろしく頼む」

 腕を組み、辺りを挑発するかのような笑みで見ている黒石に対して、燐はさほど興味もなく、窓を眺めるばかりだった。
 興味がない。部隊なんて、どこも同じだ。特に何も変わりはしない。部隊や何かよりもまず先に——

「えっ……?」

 目を疑った。窓の外に見えた見慣れた人影の姿に思わず驚愕の言葉を発してしまっていた。
 どうして、あんなところに。今日の朝不審な感じがしたから"アレ"をつけておいたが、こんな形で役に立ちそうになるとは思わなかった。
 というより、今は授業中のはず。普通科も魔法科と同じぐらいには座学を受けるはずだ。それなのに、何故。

「そんなに外を見つめて、何か良いものでもあったか? 佐上 燐」

 そこでようやく教室の一番左端の後ろの席である燐の傍まで黒石が来ていることに気付いた。夢中になっていたせいか、今の今まで近づいてきていた気配すら感じなかった。

「……いえ、別に」
「ははっ、素っ気無い奴だな。……今にも授業を抜け出したくてたまらない、と言いたげな顔をしているが」
「っ……なら、抜け出させてくれるんですか?」

 見抜かれている、だからこそ挑発するつもりで聞いてみる。

「ああ、構わんぞ」

 だが、予想外の答えが返ってきた。その返答に、周囲の生徒もざわつき始める。

「ただし、条件がある」
「……何でしょうか?」

 すると、黒石は先ほどの笑みとはまた別の、意地悪そうな笑みを浮かべて、

「私の部隊に入れ」


————


 あぁ、俺何してるんだろ……。
 何で尾行なんかしてるんだ、俺。普通に話しかけて、どこ行くんだよ、とかでも良かっただろ。
 王道に電信柱の後ろに隠れてこそこそとマークする俺。学園は住宅街よりも離れにある為、あまり人目につきにくいのはつきにくいのだけれど、俺的にはなかなかして恥ずかしい。
 しかしどこに行くんだろう。時々立ち止まったりして、何だか怪しい動きを見せている古谷。どうにも話しかけにくいし、でも気になるし……っていうか、もうすぐ環境の揃った地区を抜けて"荒廃地区"に行きそうになってるけど、これってやばくないか。

 荒廃地区とはその名の通りに荒廃となった地区のことで……その原因は魔法のせいである。
 魔法は利害をもたらすが、土地や環境に被害を加えることが多々あり、そのせいで地区は荒れ、まだ修復に至っていない、つまるところ人間が住める環境でない地区のことだ。
 そういった地区はどういう者が暮らすかといえば、例えば行くあての無い人や……それならまだいい。一番恐れているのは魔法を使う凶悪犯罪者や一般的に"魔人"と呼ばれる"人ではないが似ている別の生物"などが住み着いている恐れがある。
 危険度があまりに高い為、荒廃地区は誰も近づきたがらないし、まず立ち入り禁止とされているので入ることも容易ではないはず。

「何しに行くんだよ、そんなところに……」

 間違いない。古谷は完全に荒廃地区の方へ向かっている。何かを確かめるかのようにして時々立ち止まってはまた歩き始めるの繰り返し。

『何か、嫌な予感がするよ……』

 初めてこいつの弱気な言葉を聞いた気がした。確かにそれは俺にもあるけど、でもこのまま一人で行かせるっていうわけにもいかないだろ。
 検問所のような場所まで辿り着く。しかし、荒廃地区と目と鼻の先のせいか、門番のような役割の人間はいない。白い壁に覆われ、金網でコーティングされている。門番がいなくてもここから先に行くことを拒めている。
 立ち入り禁止、と大きく赤文字で書かれた壁の少し下まで行って古谷は立ち止まり、周りをキョロキョロと見渡し始めた。

「あっぶね……」

 何とか間一髪隠れることが出来た。隠れる場所が少ないから結構焦ったが。
 それにしても、魔法学園からなかなか近い場所に荒廃地区はあるんだな。逆に魔法学園があるからここまで警備されていないのか。
 魔法学園からここに来るまでに他人と出会ってない。やはり疎外されているのだろう。

 ところで、古谷は何をしているのかと思えば、突然壁をゆっくり蹴り押した。すると、その部分の壁がごっそりと抜け、通り道が出来た。まさかそんなところに通り道があるとは思わなかった。
 初見の俺でこれってことは……

「あいつ、これが初めてじゃない……?」

 怪しい。怪しすぎる。これは、追いかけるべきか。いやでも、何かあったらどうする。
 拳に力が入る。いつもの変な正義感か今回も行ってやれと俺を招いていた。


————


 何度も何度も来たことがあるけれど、ここは絶対に慣れることはない。来るたびに嘔吐しようになるものを飲み込みながら、息も絶え絶えに訪れている。
 訪れている、いや訪れなければいけない。何も出来ない、自分の贖罪の為にここにきているのだ。

 古谷 静はこの荒廃地区にかれこれ何度も来たことがある。初めてここに訪れたのは、家族とだった。まだここは荒廃地区だといわれてなく、人もまだ住んでいた。
 家族構成は父親、母親、妹を含めた4人家族だった。仲の良い家族で、楽しい毎日を過ごしていた。
 ここは花が綺麗なことが有名で、その花畑を見る為に訪れていた。丁度幼い妹が見たがっていた花の咲くシーズンだったのでその日を選んだのは自然なことだった。——ただ、それが一生の後悔になるとも知らずに。

程なく歩いて、目的の場所に辿り着く。誰もいないが、その代わりにここで起きた悲惨な様子がまだあの時のまま残っている。
 削り取られた壁、至るところにこびりついた血の痕。まだこれでもマシな方だ。あの時、地獄というものを始めて見た。

「ただいま……父さん、母さん、美樹みき……」

 床が赤で染められた場所に向けて、虚ろな表情で呟く。何を思うわけでもない。ただ、そこには深い後悔と悲しみが取り残されていた。
 あの時の記憶のまま。あの惨状は今でも残っている。いつまでも、胸の中にあり、そしてこの場に残されている。

 ——助けて、お兄ちゃん。

 最後に聞いた妹の言葉が離れられない。妹が無残に殺される姿を、ただ——見ていた。

「なんで……なんでもっと、早く……」

 なんでもっと早く、駆けつけてくれなかったのか。でも、自分の命を助けてくれた彼らに不満を言うべきではないことは分かっている。一番責めるべきなのは、自分の無力さだ。
 何も出来ずに、ただ家族を殺された。握り拳に力が入る。口元からは血の味がした。

 古谷 静は、魔人に家族を皆殺しにされた"被害者の生き残り"だった。

「こんなところに、お一人ですか?」

 そこに訪れた一つの影。古谷を見つめ、微笑みを浮かべながら近づいてくる老人の姿。
 ぞくり、と古谷の中の何かが危険を感じていた。


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