複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました！使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例）鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 超能力者の落ちこぼれ 参照７０００突破感謝！
- 日時： 2016/11/23 09:31
- 名前： ユッケ （ID: K4YD00a4）
科学の発展と共に能力開発に成功し、能力者大国となった日本。
首都東京は東西南北中央の5つの区に分かれ、能力者のみが通う学校があり、能力を使いこなして未来を担う人間の育成に重きを置いている。
能力者には階級が存在し、下から能力者・強能力者・大能力者・超能力者となる。
能力者の中でも最も貴重で上級種に位置する超能力者。
とある噂がある……その超能力者の中には、落ちこぼれがいる。
【第一章】
はじまりについて >>1
超能力者の噂 >>2
夕暮れの公園 >>3
僕は使えない >>4
ゴールデンウィーク1日目 >>5 >>6 >>7 >>10
ゴールデンウィーク2日目 >>11 >>17
ゴールデンウィーク3日目 >>19 >>20 >>21 >>22
ゴールデンウィーク4日目 >>23
今回の一件の後日談 >>24
【第二章】
赤く燃える >>27 >>28
月明かりの下 >>29 >>30 >>31 >>32 >>33
ダイアの心 >>34 >>35 >>36
夢の叶え方 >>38 >>39
心の奥底 >>44 >>46 >>50 >>56 >>57 >>60 >>62 >>63 >>64 >>65 >>67
今回の一件の後日談 >>71
【第三章】
闇の中で蠢くモノ >>73
シノノメグループ >>74 >>77 >>79
御影 鈴也 >>81 >>82
伝染 >>85 >>86 >>87 >>88
繋ぎ合う手 >>89 >>90 >>91 >>92 >>93 >>94
闇が光に変わる時 >>95 >>96 >>97 >>98 >>100 >>101
人形の世界 >>102
バジリスク捜索隊 >>103 >>104
パワーアンドドラッグ >>105 >>106 >>107
パワージエンド >>108 >>109 >>112
今回の一件の後日談 >>113
外伝 >>114
【第四章】
天使の園 >>115 >>116
東雲 凛人 >>117 >>118 >>119
兎の悩み >>120 >>121 >>122
兎の壊れていく日々 >>123 >>124 >>125
影、忍び寄る >>127
兎の壊れていく日々２ >>128 >>131 >>132
子供であること >>133 >>134
闇は囁き兎の涙は零れる >>135 >>136 >>137
今回の一件の後日談 >>138
【第五章】
悪逆無道 >>140
夏色バケーション >>141 >>142
Ａ‐ＫＩＳＳ >>143
星闇躍る夏祭り >>147 >>148 >>151 >>154 >>155 >>161
感情の種 >>162 >>165
中央能力学区の超能力者 >>169 >>170
ロシアのとある没落貴族の話 >>171 >>173 >>174
１番の重み >>175 >>176 >>178 >>179
ムーンライト・シャドウ >>180
Wolf Bite >>181 >>182 >>183
意識の奥、闇の中 >>184 >>185
王国の騎士 >>192 >>193
今回の一件の後日談 >>194
【第六章】
はじめに >>209 >>210 >>211
それぞれの夏休み最終日 >>212 >>213
二学期 >>214 >>215 >>216 >>217
それぞれの思惑 >>218 >>219 >>220 >>221 >>222 >>224 >>225 >>226 >>227 >>228
虚空の少女 >>229 >>230 >>231 >>235 >>236 >>237 >>240 >>241 >>242 >>243 >>244
空っぽ >>245 >>246 >>247
厚貌深情 >>248
動き始めた因縁 >>249 >>250 >>251
王国との激突 >>252 >>253 >>254
王国との激突２ >>259 >>260 >>262 >>263
最強の否定、最大の拒絶 >>264 >>265
降格者 >>268
今回の一件の後日談 >>269
登場人物紹介（能力など、ネタバレ含みますので、第二章以降に見ることを強くお勧めいたします）
三好 祐 >>76 >>172
千年 音羽 >>78 >>172
緋色 赤菜 >>80 >>172
宮本 みより >>99 >>172
一乗寺 クミ >>99 >>177
一乗寺 ミク >>99 >>177
御影 鈴也 >>126 >>177
七咲 千香 >>126 >>177
双葉 小春 >>126 >>177
レイラ >>206
東雲 三代 >>206
東雲 凛人 >>206
木戸 録 >>206
鷹東 キリエ >>207
式宮 アリス >>207
野上 鉄次 >>208
九十九 神矢 >>208
百目鬼 大地 >>208
どうも、ユッケです。
文体などメチャクチャですが、コメント・感想・メッセージ・指導などお待ちしております！
簡単ではございますが、よろしくお願い致します。
- Re: 超能力者の落ちこぼれ 参照７０００突破感謝！ ( No.297 )
- 日時： 2017/06/18 14:54
- 名前： ユッケ （ID: Ru7e1uoX）
それから何日経ったか分からない。ただ裏路地を這いずり回り逃げ続ける日々。相手も俺を殺すまで追い続ける気なのだろう。休む間もなく追われ続ける。
何発か銃弾が体をかすめ、肉が抉られた。
能力をフルに使い、傷を癒しながら逃げ続け、月明りに照らされぬよう俺は身を潜めた。
「あっちに逃げた。ポイントFの奴らをF4に移動させ挟撃する」
「了解。ポイントF応答せよ。F4に移動し目標を向かい撃て。繰り返す———」
息を潜めながら物陰から様子を伺う。どうやら上手く騙せたようだ。全く別の方向へ黒服達が走っていくのが見える。
「はぁ……はぁ……」
その場に座り込み暫し呼吸を整える。
これからどうやってそのルートで逃げる？ 仁道鎧にはどうやって辿り着けばいい？
（クソッ！！！）
声を出せない代わりに地面を殴りつける。手に血が滲みジンジンと痛みが伝わる。まだだ。まだ痛みを感じるなら冷静だ。
思考を止めない。休んだらまた走らなくては、能力は温存する。銃に立ち向かうには命令式が必要になる。
（よし、行くぞ）
その場を立ち上がったその時だった。目の前に少女が現れる。これが俺と姫の出逢い。
式宮 アリスとの出逢いだった。
「やっと見つけたわ。キリエ」
（ッ！！ 子供？！ 駄目だ巻き込んでしまう！）
「追われているのね。可哀そうなヒト。でももう大丈夫よ。私がいるもの」
「早くここから離れるんだ。俺はキリエとやらではないし、今はお前を守ってやれる自信はない。俺は誰も守れないんだ。さぁ行け」
「だめよ。あなたは私のものなんだから。お兄ちゃんを捜すのを手伝ってほしいの」
「人捜しなら警察へ行け。俺はもう行くぞ。お前も今すぐここを離れ———」
「いたぞ！ ポイントF、ポイントC応答せよ！ 標的を発見！ 囲んで殺す！」
「班長、子供です！」
「構うな！ 証拠は残さん！ 諸共処理する！」
「キサマら！ 子供にまで容赦が無いとはッ！！」
駄目だ！ 自分だけ逃げてもこの子が殺されてしまう！ 俺は彼女を庇う様に黒服と対峙し、能力を発動させる！
「撃て！ 撃て！」
「ウォオオオオオオ！！！！」
何でもいい！ 後ろにいるこの子だけでも守らなければと、能力をフルに開放し、周りにある廃材やゴミ箱、石ころに命令式を組み込んでいく！
銃弾が放たれる前に組み終わらなければ！ 早く！ もっと早く！
引き金が引かれようとしたその刹那———
「「「！！！！！！！！！！」」」
黒服達が全身から血を吹き散らしながらバタバタと倒れていき、血の雨が降り注いだ。
「邪魔しないで、殺しちゃうよ？ ……アレ？ もう死んでる？ そっか、暗くてよく見えなかったわ。くすくす」
「これは……いったい……」
「行きましょうキリエ」
「キミはいったい……」
「私？ 私はアリス。そうね。嬉しくってつい何の説明もしてなかったわ。私の話、聞いてくれる？」
こうして俺は彼女の能力と過去、捜し人の事を知った。
アリスが捜しているのは、兄妹という意味のお兄ちゃんでは無い。そもそも彼女は捨てられた子であり、身内の存在は不明だ。
彼女が捜すお兄ちゃん。それは彼女の理想の人物だ。理想の人と２人きりの世界を創る。それが彼女の目的。愛を知らないが故に、愛に飢えた彼女のただ１つの希望、そして光。
「キミの事は解った。だが俺はこの通り追われる身だ。復讐を遂げなければならない。だからキミの力にはなれない」
「えー！ だってあなたは理想のキリエなの！ やだー！ キリエはあなたじゃないとやだー！」
目の前で駄々をこねる少女。こうしている内は彼女も普通の子供だ。この子をあんなに簡単に人を殺す怪物にしてしまったのは、俺……そしてこの世界。
能力開発がもっと進んでいれば、彼女は暖かい家庭で愛を学んだかもしれない。世界がほんの少しずつでも優しければ、彼女は学校に行き、友人と笑いあい、勉強をし、成長できたのかもしれない。
だが、そうはならなかった……。
「キミを手伝うことは出来ない。諦めてくれ。そもそも、キリエって何だ？ 俺は男だ。ロシアなら女性名にキリエというのがあるが」
「これよ！ この本！」
彼女が満面の笑顔で絵本をこちらに見せつけてくる。本の題名は……アリス。この子と同じ名。
「この本のお姫様に仕えているのが、キリエというナイトなの！ だから私がお姫様で、あなたがナイト！ キリエなの！」
面食らって片手で頭を抱えてしまう。彼女の願いは大層だが、こっちの理由はしょうもないな。
彼女が強力な能力の持ち主だとしても子供は子供だ。正直、このまま放って置くわけにもいかない……さて、どうしたものか……。
「復讐したいんでしょ？」
「っ！？」
冷たい声、先ほどの子供の無邪気さは欠片も感じない、怪物の声。
「私が手伝ってあげる。できるのよ。私がいれば。それはキリエも解っている。だからね？ 交換条件。私が連れて行ってあげるから、あなたの復讐が終わったら、あなたはキリエになるの」
- Re: 超能力者の落ちこぼれ 参照７０００突破感謝！ ( No.298 )
- 日時： 2017/06/18 14:58
- 名前： ユッケ （ID: Ru7e1uoX）
どうも、ユッケです！ お久しぶりです
突然の更新再開失礼しました！
これからも不定期ではございますが、完結に向けて書いていきますので、閲覧やコメント、お待ちしております！
それでは、次の更新でお会いしましょう！
- Re: 超能力者の落ちこぼれ 参照７０００突破感謝！ ( No.299 )
- 日時： 2017/06/26 22:47
- 名前： ユッケ （ID: Ru7e1uoX）
- 参照： https://twitter.com/Shige_mekakushi
■鷹東 キリエ■
個人が使うには広すぎるように感じる豪華な部屋には文部科学省大臣、仁道鎧と1人の黒服の男がいる。
「残るはユーリ・ガウクただ1人ですが、抹殺には至っておりません。F、B、C班が全滅。通信記録に気になる内容が……」
男が通信を再生させると、ノイズ交じりに「班長！ 子供です！」とそれだけ再生された。
「子供だと？ 見られたのか？ なら証拠は全て消せ！」
「いいえ、その子供の死体は確認されておりません。ユーリ・ガウクと共に行動している可能性が高いと見られます。彼ならその子供を守ろうとするはず」
「なんでもいい！ さっさとガキ諸共殺せ！」
「この男、なかなかに曲者です。命令式、あの能力は厄介だ」
「我々は何としても技術を守らねばならない！ あんな男に何を手こずっている！」
「あんな男っていうのは、こんな男か？」
「「！？」」
２人しかいなかったはずの部屋、その隅にいつの間にかユーリとアリスが立っていた。
「い、一体どこから？！ 転移能力か！ しかし貴様の能力は転移ではないはず！」
「どうでもいいだろそんな事、さぁ……エドモン・ダンテスが地獄から復讐しに来たぜ」
「こ……このぉっ！」
「お下がりください大臣。まさか標的から来てくれるとは有り難い。捜す手間が省けた。この館内にいるのはどいつもエリートの大能力者でね、俺を含め全員が大臣をお守りするためのガーディアンなのだ。そして、キリングマシーンでもある」
部屋に次々と黒服が入ってくる。合計は５人。選ばれた大能力者達。銃を構えユーリとアリスを包囲する。
「姫、自分の身は自分で守れるな？ 銃には気を付けてくれ———」
ユーリが言い終わる前に、黒服達は噴水となった。真っ赤な血を大量に噴く噴水だ。５人分の血で床が天井が壁が染まり、強烈な鉄と臓物の臭いを充満させた。
「ヒィィ！！ ヤァァ……！！」
仁道鎧は腰を抜かしその場に崩れ、声にならない悲鳴を上げている。
「こいつらに用は無いでしょ？ 早いとこ済ませちゃいましょ？ あなたの復讐を……私達の始まりを」
「フッ……やれやれ、すまないな仁道鎧。うちの姫様はじゃじゃ馬でな」
「はッぁッ！ ……や、やめッ！ ———ッ！ グゥァアッ！」
ユーリは仁道鎧の髪を後ろから掴み、そのまま床に頭を押し付けた。顔が黒服達が撒き散らした真っ赤な血で染まり、折れた鼻からも血が噴き出した。
「これが、血の匂いだ仁道鎧」
「ぶッ！ バハッ！ ゲホッ！！」
「溺れているのか？ じきお前もこの部屋の染みになる」
「クスクス……」
「た、助けてッ！！」
「…………」
そこからは何度骨を折り、どれだけの血を流させたのか分からないほど殺してやった。姫が能力で仁道鎧を殺さないよう治癒をしながら、生きながらの地獄を見せてやった。
痛みだけは消さず、死にたくても死ねない。殺されても死なない。
だが痛みだけは永遠に続く……部屋が一面真っ赤に染まり、血で床全体が水溜りになったところで、俺は……ソレを床に放り棄てため息をついた。
「クスクス……あはははは！ こんなにすごい光景は初めてよ！」
「俺もだよ」
「そいつ、生きてるけど精神が死んでるわ。生きながらに何十人分の血を流したのかしら？ 数えてなかったわ」
「なぁ、姫……復讐はやっぱり虚しいもんなんだな。どれだけやってやろうと、何も帰ってはこないし、満足もしない」
「そうね。もうあなたが満たされることは無い。そうなってしまった……私もそう……だからね、私は世界を殺して新しくするの」
「その世界に、俺はいないんだろう？」
「そうよ。私とお兄ちゃんだけの世界だもの。あなたは駒。使い終わったらしまってしまうの」
「そうか…………いや、それでいいんだ。俺がお前を幸せまで連れて行ってやる。捜そう、お前の想い人を」
「ありがとう。キリエ」
「ああ、今日この瞬間から、俺はキリエ。姫の駒だ」
仁道鎧のを頭を自前の銃で撃ち抜き、これで復讐は終焉となった……。
月明かりが照らす裏路地。そこで俺は初めて煙草をふかした。
「ゲホッ！ まだ練習が必要だな。これは……ゲホッゲホッ！」
「何してるの？」
「煙草だよ。どうだ？ 悪役っぽいか？」
「形から入るタイプなのねキリエ」
「意外だったか？ それと、キリエだけじゃ不便だな。苗字が欲しい……ん〜どうするか……」
そう言って考えながら顔を上に向けると、古く錆びた看板が目についた。鷹東建設と描かれた看板だ。
「思いついた？」
「鷹東……鷹東 キリエ。これでいこう」
「うぇぇ変なの〜」
「式宮 アリスも似たようなもんさ、あとはそうだな……この顔はもう使えないもんな……ハーフは目立つし……」
命令式を使って顔の骨格を変え、自身の顔を整形していく……。
「これでどうだ？」
「あはははは！ 悪役っぽーい！ いいわキリエ！ 最高よ！」
「じゃあ行くか、姫」
「ええ、キリエ」
これが、誰も知らない俺と姫の始まり。
ユーリ・ガウクが鷹東キリエになったその話だ。
「ユーリ！ 逃げて生き延びろォオオオオ！！！！！！」
橋本は撃たれる前に叫んだ。ユーリに危機を知らせる為に。直後発砲音と共に橋本の体は穴だらけの死体となった。
「橋本ォ！！ ふざけやがって！ …………ッ！ な、なんだコレは！？」
橋本が背にしていたのはデスク。その上には大量の資料と３台のPCが立ち並んでいる。デスクには所長の立て札も見える。
その３台のPCのうち、銃弾を免れ生き残った画面に映っていた。ソレが映っていたのだ。
それはユーリ・ガウクの記録。膨大な資料と共にネットの海に流された【原初ユーリ・ガウクと降格の事実】を証明する情報と記録！！
「橋本ォオオオオオオ！！！ ふざっけるなキサマァアアアア！！！」
ネットに流れた情報を全て削除することは不可能だ。だが槙野はPCに喰らいついた！
「全部が無理でも1部なら！ いや！ 九割は消す！！！」
槙野は持てる知識と技術で即座にこの情報を消しにかかる。だがやはり全てを消し去ることは不可能だった。
「噂程度は立つだろうが、所詮噂だ。くっくっく！ どぉだ橋本！ あの世で悔しがるがいい！！」
「…………」
高笑いする槙野に、黒服が銃口を向ける。
「な！ 何をしている！ ぜ、全部消すのは誰であっても不可能だ！ それにこれでは証拠にはならない！ 俺は全力でやれるだけの事はやった！」
「いいえ、そんな事をしようが関係ないのです。あなたも消すよう初めから命令されておりますので」
「な……な……っ！ 次の所長は俺だと言ったのは嘘だったのか！ 仁道鎧！」
この事件は表沙汰にはなっていない。闇に葬られた事件だ。
だが、橋本が放った2発の銀の銃弾は、1発はユーリを救い、もう１発はネットの中に食い込んだ。
それは今なお鈍く怪しげに輝いている。
「ねぇ、原初って知ってる？」
「知ってる！ でも誰なのかは誰も知らないんでしょ？」
「そうそう！ でね、降格者っていうのもあるんだって！」
「能力が下がるってやつ？ こわ〜い！ 下がるとかヤだよね〜」
「超能力者の落ちこぼれってあんじゃん？ 降格者ってそうっぽくない？」
「ありえる！ そんな気してきたし！」
そう、噂程度には…………。
- Re: 超能力者の落ちこぼれ 参照７０００突破感謝！ ( No.300 )
- 日時： 2017/07/04 16:31
- 名前： ユッケ （ID: Ru7e1uoX）
- 参照： https://twitter.com/Shige_mekakushi
■暴走■
誰もいない裏路地をキリエは煙草をふかしながら歩く。
アリスから下った命令は三好 祐以外の排除。さて、順番はどうするか……考えながら煙と共に歩く。姫のシナリオももう佳境だ。どれだけの時間姫の駒として動いてきただろう……それももう終わる。
（その前にまだ、やる事が残っているがな……やれやれ来訪者とは面倒だ）
まだ残っている煙草を足元に捨て踏みつぶし火を消す。キリエはその存在に気付いたのだ。目の前の空間の僅かな歪みに……。
そこに向かって鉄材が飛んでいく。何本もの鉄材が空中に刺さっているかのように止まっている。いや、これは実際に突き刺さっているのだ。
「空間に限らずこの世全ての物には綻びがある。そいつは一見見えないが、俺ほどになるとこうして綻びを見つけ崩すこともできる」
目の前の歪みが大きくなり砕け散る。空中にあった鉄材がカランカランと音を立て地面に落ち、九十九 神矢が現れる。
「テメェには超能力も効かねェッて事かよ」
「いや、お前が弱すぎるだけだ」
「ブッ殺すッ！！」
「ふん、あのまま寝たふりを続けているならば見逃してやったものを……残念ながらお前は姫のシナリオには入っていない。脇役でも端役ですらもない。存在もしていない」
「なめてくれてんじャねェよ！！！ だが、俺の目的はテメェじゃねェ……」
「レイラ・レオンチェフか。ならなぜ俺の所に来た」
「命令式（プログラミング）。俺はそいつに用がある。あらゆる物に命令式を組み込み操作する能力。そして一時期は超能力にまで至っていたその能力。そいつを組み込めばよォ、俺を強化できるだろ！ 俺をレイラより強くしやがれ！」
「面倒だ。断る。俺には姫から仰せつかった大事な仕事があるんでな。お前の私怨に付き合っている暇はない」
「なら力づくでテメェを従わせるまでだ！」
「……ぁぁ……そうか、従わせる……か」
キリエは何かを思いついたのかニヤリと不敵に笑みを浮かべる。
「気が変わった。いいだろう。お前を強化してやる。九十九 神矢」
「ァあ？ んだよ、はじめからそうしときャいいんだよ」
「暴れるなよ？ すぐに終わる……」
「レイラァ！ 殺してやるぜェ！———ッ！！？？ ———なッ！？ ——————」
「くっくっく、命令式組み込み……全削除（オールデリート）。組み込み、限定解除（リミットオーバー）。解放、抑制値。コードワイルド。組み込み、NO Target 三好 祐……」
九十九 神矢はもう言葉すら発していない。キリエが組み込んでいく高度な命令式によって全て削除されてしまったからだ。
全削除、邪魔な情報を全て消し……。
限定解除、抑制値の解放、能力を暴走状態にし……。
三好 祐だけを攻撃しない存在にする。
つまりただの機械。九十九 神矢の人間性や人間としての彼の記憶は一切を削除され、キリエが組み込んだ命令式通りにしか動かない機械へと成り果てたのだ。
「…………」
「さぁ行け。存分に殺してこい」
- Re: 超能力者の落ちこぼれ 参照７０００突破感謝！ ( No.301 )
- 日時： 2017/07/05 15:02
- 名前： ユッケ （ID: Ru7e1uoX）
- 参照： https://twitter.com/Shige_mekakushi
■空間消却■
いつものように、僕たちは溜まり場の屋上に集まった。
レイラが原初について解ったことがあるからだ。
「鷹東 キリエ。彼の本名は恐らく、ユーリ・ガウク。ロシアと日本のハーフで原初であり降格者。能力開発に携わっていたらしいのだけど、情報も記録も完全に抹消されているみたい」
「じゃあやっぱり都市伝説でしか語られていない原初や降格者の話は、何者かが意図的に消去した可能性がある？」
「そうでしょう。もし鷹東 キリエがユーリ・ガウクなら、自分の存在を消すためにわざと自分の記録を消去した可能性もあります。もしくわ、何かに巻き込まれた後、消されたか……」
「どちらにせよ、奴が危険なのには変わりない」
「千香はキリエの事アタシらよりは知ってるんじゃねぇのか？」
「いいや、前にも言ったと思うが、奴は素性が知れない。今回銀髪がそれを暴いたようだが、まだ解らない事は多い」
「プラチナブロンドよ！ あと、キリエの能力についても解ったわ」
「何！？」
「命令式（プログラミング）。命令式を書き込み、埋め込む事で式通りにあらゆる操作を可能にする能力ね。硬さ重さ形状法則、何でも操作するみたい」
「うひぇええ！ とんでもない能力でありますよ〜！」
「まさに超能力って感じだね。今は違うみたいだけど」
鷹東 キリエ……王国を襲った闇の世界の危険人物。僕たちがやっと掴めたのは彼のほんの少しの素性と能力。でも、１番大事な事が解らない……彼の目的。なぜキリエは写真を湯ノ沢に？ なぜキリエは王国を襲った？ なぜキリエは式宮 アリスと一緒にいる？
そもそも、式宮 アリスは何が目的なんだ？
———バンッ！！
荒々しく屋上の扉が開く。そこには、九十九 神矢の姿があった。
「っ！？」
「またあの人でありますかー！」
「ほんとしつこい！」
「九十九 神矢！ 一体何をしに来た？」
「…………」
返事はない、ただ虚ろな瞳が僕たちを捉えている。
「な、何なんだアイツ」
「様子がおかしい、用心しろ」
「はいッス！」
「攻撃……して来ない……ね？」
「…………」
「静かだとこう、逆に怖いですね」
「待って！ 何か……呟いている？」
「消去……消去……消去……■■■■■■■————————！！！！！！」
音としてあまりにも耳障りな叫び声。咆哮。
何を言っているのかも解らない理解不能な音。
喉がちぎれそうな叫び声と共に、彼はやっと言葉を放った。
「空間消却（バニッシュメント）！！！！！！！！！！！！！！」
「ッ！？ 逃げ————」
突如として僕たちの視線が下がっていく。この感覚は、落ちている！
屋上の瓦礫と共に僕たちは落ちていく。
そこでようやく僕たちはビルが屋上を残して消えたことに気付いた。
「全員の位置を捕捉！ 空間操作！」
僕は能力を発動させる！ 泉川さんの空間操作能力だ。
全員のいる空間を地上の空間と入れ替える！
「うわっ！」
地面に着地するもバランスを崩して転んでしまった。皆も同じような感じだ。
目の前に瓦礫が落ちていく。出来るだけ落下物からは離れた所に移動させたから瓦礫は大丈夫だ。
「先輩助かりましたぁ〜」
「いえいえ、でも多分まだ終わってないよ！」
「■■■■■■■————————！！！！！！」
「アイツ！ 何なのよもう！！」
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60