複雑・ファジー小説
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- 超能力者の落ちこぼれ 参照7000突破感謝!
- 日時: 2016/11/23 09:31
- 名前: ユッケ (ID: K4YD00a4)
科学の発展と共に能力開発に成功し、能力者大国となった日本。
首都東京は東西南北中央の5つの区に分かれ、能力者のみが通う学校があり、能力を使いこなして未来を担う人間の育成に重きを置いている。
能力者には階級が存在し、下から能力者・強能力者・大能力者・超能力者となる。
能力者の中でも最も貴重で上級種に位置する超能力者。
とある噂がある……その超能力者の中には、落ちこぼれがいる。
【第一章】
はじまりについて >>1
超能力者の噂 >>2
夕暮れの公園 >>3
僕は使えない >>4
ゴールデンウィーク1日目 >>5 >>6 >>7 >>10
ゴールデンウィーク2日目 >>11 >>17
ゴールデンウィーク3日目 >>19 >>20 >>21 >>22
ゴールデンウィーク4日目 >>23
今回の一件の後日談 >>24
【第二章】
赤く燃える >>27 >>28
月明かりの下 >>29 >>30 >>31 >>32 >>33
ダイアの心 >>34 >>35 >>36
夢の叶え方 >>38 >>39
心の奥底 >>44 >>46 >>50 >>56 >>57 >>60 >>62 >>63 >>64 >>65 >>67
今回の一件の後日談 >>71
【第三章】
闇の中で蠢くモノ >>73
シノノメグループ >>74 >>77 >>79
御影 鈴也 >>81 >>82
伝染 >>85 >>86 >>87 >>88
繋ぎ合う手 >>89 >>90 >>91 >>92 >>93 >>94
闇が光に変わる時 >>95 >>96 >>97 >>98 >>100 >>101
人形の世界 >>102
バジリスク捜索隊 >>103 >>104
パワーアンドドラッグ >>105 >>106 >>107
パワージエンド >>108 >>109 >>112
今回の一件の後日談 >>113
外伝 >>114
【第四章】
天使の園 >>115 >>116
東雲 凛人 >>117 >>118 >>119
兎の悩み >>120 >>121 >>122
兎の壊れていく日々 >>123 >>124 >>125
影、忍び寄る >>127
兎の壊れていく日々2 >>128 >>131 >>132
子供であること >>133 >>134
闇は囁き兎の涙は零れる >>135 >>136 >>137
今回の一件の後日談 >>138
【第五章】
悪逆無道 >>140
夏色バケーション >>141 >>142
A‐KISS >>143
星闇躍る夏祭り >>147 >>148 >>151 >>154 >>155 >>161
感情の種 >>162 >>165
中央能力学区の超能力者 >>169 >>170
ロシアのとある没落貴族の話 >>171 >>173 >>174
1番の重み >>175 >>176 >>178 >>179
ムーンライト・シャドウ >>180
Wolf Bite >>181 >>182 >>183
意識の奥、闇の中 >>184 >>185
王国の騎士 >>192 >>193
今回の一件の後日談 >>194
【第六章】
はじめに >>209 >>210 >>211
それぞれの夏休み最終日 >>212 >>213
二学期 >>214 >>215 >>216 >>217
それぞれの思惑 >>218 >>219 >>220 >>221 >>222 >>224 >>225 >>226 >>227 >>228
虚空の少女 >>229 >>230 >>231 >>235 >>236 >>237 >>240 >>241 >>242 >>243 >>244
空っぽ >>245 >>246 >>247
厚貌深情 >>248
動き始めた因縁 >>249 >>250 >>251
王国との激突 >>252 >>253 >>254
王国との激突2 >>259 >>260 >>262 >>263
最強の否定、最大の拒絶 >>264 >>265
降格者 >>268
今回の一件の後日談 >>269
登場人物紹介(能力など、ネタバレ含みますので、第二章以降に見ることを強くお勧めいたします)
三好 祐 >>76 >>172
千年 音羽 >>78 >>172
緋色 赤菜 >>80 >>172
宮本 みより >>99 >>172
一乗寺 クミ >>99 >>177
一乗寺 ミク >>99 >>177
御影 鈴也 >>126 >>177
七咲 千香 >>126 >>177
双葉 小春 >>126 >>177
レイラ >>206
東雲 三代 >>206
東雲 凛人 >>206
木戸 録 >>206
鷹東 キリエ >>207
式宮 アリス >>207
野上 鉄次 >>208
九十九 神矢 >>208
百目鬼 大地 >>208
どうも、ユッケです。
文体などメチャクチャですが、コメント・感想・メッセージ・指導などお待ちしております!
簡単ではございますが、よろしくお願い致します。
- Re: 超能力者の落ちこぼれ 参照6000突破感謝! ( No.292 )
- 日時: 2016/11/05 07:23
- 名前: ユッケ (ID: KjYpxfgY)
「この抑制値の研究は進んでいるんですか?」
「いいや、我々には課題が山積みだからね。深くはまだ研究されていない。それよりも今は、キミの能力、命令式をチェッカーにどう組み込んでいくかだ。チェック段階での能力階級の開示には皆も期待している。それに、能力階級がハッキリすればキミが超能力者であると証明出来るかもしれない」
「現段階では能力階級が区分されているだけで、階級を証明できる方法ってないですもんね。でも絶対にユーリは超能力者だよ!」
「まぁ、それもこれも研究を進めて、トライアンドエラーを繰り返していくしかないですね。命令式をチェッカーに上手く組み込んでいくのは、高校の時に思っていたよりずっと難しい……」
そもそもが未知の研究。いくらユーリが天才だからと言ってもエラーは多い。命令式が間違っていればチェッカーは作動しなくなったり、チェックの正確さが下がったりと、埋め込みと調整の連続だ。
「ユーリのおかげで研究が進んでいるのは事実だ。だからキミには私を含め皆が期待している。今日はもう休みたまえ、夜も遅いしキミ達はまだ学生だ」
「いえ、俺は残ります。研究室でも眠れますから」
「研究室のベッドは堅いだろう。自室に戻って休みたまえ、これは上司からの命令だ」
「ユーリ、ちゃんと休むのも大事だよ。体壊しちゃ意味ないし」
「……わかりました。では今日は上がります。お疲れさまでした」
「ああ、お疲れ様。柊もお疲れ様」
「……というわけで家に帰された」
「アハハハハ! そりゃ上司の方が正しいわ! んで? 柊は? いないの?」
「いるわけないだろ。なんだその想像は」
自室に戻ったユーリは大輔と通話をしていた。柊は柊で自分の部屋に帰っていった。
大輔は高校卒業後、ユーリ達とは別の大学へ進学。元々英語が得意な事もあって海外の大学だ。ユーリからロシア語も教わっており、今は中国語とドイツ語を勉強中なのだとか……国際化が進んでいる。
「まだ付き合ってないのか? 大学生だろ? 同じ研究室だろ?」
「そんな事より今は研究だ」
「知ってんだろ、柊の気持ち」
「ああ、小学生の頃からずっとな……」
「お前なら、研究も恋愛もその先も、きっと上手くやるさ」
「いいや、俺は大輔のように器用じゃない」
「へへん、そこだけは唯一お前に勝ってるとこだかんな。でもなユーリ。柊はお前を選んだんだ。選び続けたんだ。どっちにしろ、早く答え聞かせてやれな。それがお前の責任だからな」
「ああ……そうだな」
「さてと、俺はそろそろ学校行かなきゃだ。こっちは1日の始まりだかんな〜」
「そうだな。また電話する。じゃあな」
「はいよ〜おやすみさ〜ん」
- Re: 超能力者の落ちこぼれ 参照7000突破感謝! ( No.293 )
- 日時: 2016/11/23 23:13
- 名前: ユッケ (ID: Oi8lQRRm)
それから少し月日が経ち、ユーリが研究室に入って1年目の12月25日。街はイルミネーションで飾られ、冬の夜なのに暖かな光が明るく彩っている。
その日ユーリは珍しく研究室を早めに出て、柊と共に華やかな夜の街を帰っていた。
「イルミネーションすっごくキレイだね!」
「ああ、本当にな。なぁ柊、ちょっと寄り道して行っていいか?」
「うんいいよ! 今日はなんだか珍しいね。こりゃ槍でも降るかな?」
「危ないなぁ。それを言うなら雪が降るだろ? いや、これだけ気温が低いわけだし雪が降ってもおかしくはないのか」
「で、どこ行くの?」
「すぐ近くだよ」
しばらく、他愛のない会話をしながら2人で街を歩く。するとより一層豪華なイルミネーションが飾られている場所に辿り着いた。アーチや噴水が聖夜の夜に光り輝いている。
「わぁー! こんなところあったんだー!」
「思ったより人がいるな」
「そりゃクリスマスだもん! み、皆カップルだったりするのかな? なんて……ハハハ」
嬉しそうに笑ったり、照れたように顔を赤くしたり、柊はあわただしく表情が変わる。ユーリはそんな彼女が愛おしくて仕方がないと、改めて思った。
「柊……」
「うん?」
柊が振り返り、噴水を背にする。ユーリは彼女の瞳を真っすぐに捉え、ポケットから小さな箱を取り出し、跪き、箱を開く。
「っ!?」
意味を理解した柊の瞳に涙が溜まり、溢れて頬を伝っていく。
「これは近い将来の話だ。俺と恋人になって、それから柊が良ければ俺と結婚してほしい」
箱の中には1粒のダイヤがあしらわれた指輪。結婚指輪が輝いていた。
「もし嫌になったり俺を嫌いになったら、その時はこの指輪は好きにしてくれ。この指輪は柊の物だ。自由にしてく———」
「ユーリ、着けて」
「ああ!」
涙を拭いながら柊が差し出した左手、その薬指に指輪をそっと嵌める。
「待ってるよ。今までも、これからも。ユーリの事」
「いいのか? 俺はずっと柊の好意を知っていながら明確な答えを出さず、逃げ続けていた男だぞ」
「それでも待つよ。それに、ユーリはこうやって将来を約束してくれた。今はそれだけで幸せなの!」
「それでも、待たせてばかりですまない。今している研究が1段落したら、恋人として付き合っていこう」
「はい! よろしくお願いします! でもアレだな〜、ユーリに先に告られちゃったな〜。いつか私から言うつもりだったのに」
「そこは俺に言わせてくれ。それに、彼女のいない研究室の同期や上司が柊を見る目が気に入らない。ギラつかせてやがってるからな。奴らに柊を渡したくなかったんだ」
「あー、薄々気付いてたかも。じゃあさ、指輪研究室に着けてきてもいい?」
「指輪は柊の物だ。自由にしてくれ」
「うん、じゃあ着けてくる。えへへ〜男除け〜」
「柊……」
そっと柊を抱き寄せるユーリ。身を任せる柊はユーリの胸に顔を埋める。彼女のまだ乾かない涙は儚気で、暖かさと幸せをその身に、心に感じていた。
その後手を繋ぎながら2人は聖夜の街を歩き、帰路についた。
- Re: 超能力者の落ちこぼれ 参照7000突破感謝! ( No.294 )
- 日時: 2016/12/08 23:41
- 名前: ユッケ (ID: v1PUoFnc)
それから5年……ユーリを中心とする研究チームは、遂にチェッカーに能力階級を区別できるようプログラミングを終えた。
「これでキミの能力階級もハッキリする。いやいや、超能力者である事は疑いようの無い事実だ。怖がることはない」
「橋本所長……」
この5年で橋本は所長に出世。ユーリや柊が最も信頼する上司になっていた。
「ユーリ、調整終わったよ。いよいよだね」
「ああ、柊。待たせてすまなかった」
「言ったでしょ? それでも待つって」
申し訳なさそうな表情のユーリに、彼女は笑顔で応える。あの日のクリスマスの日から約5年……彼女にとって今日は待望の日なのだから。
「それでは始めよう諸君!! 私はこの研究チームを誇りに思う!! 皆よくやってくれた! 今日ここに我々の成果が歴史に刻まれる! 世界初の超能力者の証明と誕生の時だ! 世界初の超能力者……そう! 原初だ! 原初ユーリ・ガウクだ!!」
「「「「「オオオオオオオオォォ!!!」」」」」
研究員達の歓声に包まれながら、人ひとりが入れる大きさのカプセルの中にユーリが入る。
「さあ起動したまえ柊!」
「はい!」
チェッカーが起動され、プログラムを読み込み、処理を終わらせていく……値を出し、計算し、ユーリの能力を調べていき、また計算し、値を出す。
何度も何度も繰り返し、計測完了の音と共にモニターに結果が表示される。
Name:ユーリ・ガウク
ESP:アリ
Rank:超能力
歓声! 先ほどよりも大きな喜びに満ちた叫び声!
研究者たちは互いに功績を褒め称え、握手を交わし涙する。所長橋本は男泣き。あの日の、高校生だったユーリを思い出していた。
柊はカプセルから飛び出したユーリと抱き合い、嬉しさのあまりに涙し、ユーリは彼女に感謝を伝え、彼女の唇にキスをした。
「おっとこうしちゃいられないな! 私は上に報告してくる!」
そう言うと橋本は研究室を走り去っていった。彼の胸は興奮で張り裂けそうだった。原初の誕生だ! 超能力の証明だ! 日本は大きく変わるぞ! 歴史に刻まれるべき大成を成したのだ!!
「なぜです!!!」
怒声と共に橋本は机を拳で殴りつけた。
報告をした数日後、橋本は文部科学省に呼び出された。そこで告げられたのは〝原初については秘匿とし、公言公表を一切禁じ、発表をしない″という決定だった。
「言った通りだ。チェッカーの精度はまだ完全ではない。いくら今のチェッカーが超能力と判断しようと信用は出来ない。後から超能力でないと判断された時、間違えましたではすまされないのだ」
「彼の超能力は本物です!! 彼はその超能力で科学技術が10年以上は進歩しました!! それが超能力でなく何だと言うんです!!」
「しつこいぞ橋本君。チェッカーの精度、それが全てだ。下がりたまえ」
「納得できませんぞ!! 仁道鎧(ニドウガイ)大臣!!」
「連れ出せ!」
大臣仁道鎧の号令により黒服が橋本を外へと追い出す。抵抗しようとも声を出そうとも、橋本は強制的に外まで追い出されてしまった。
「フン、原初が日本人とロシア人のハーフだと? ふざけおって……能力開発の技術により他国より優れている日本人の〝ブランド″は上がる。それは国の財になる。日本人は労働力として優秀、それこそが重要なのだ。
日本人が金を生み、他国を圧倒する事こそが重要なのだ。その最上級、最初の超能力者が他国とのハーフでは意味が無い! 他国に技術を盗まれるわけにはいかんのだ…………絶対に」
- Re: 超能力者の落ちこぼれ 参照7000突破感謝! ( No.295 )
- 日時: 2017/01/11 23:09
- 名前: ユッケ (ID: yycNjh.Z)
世界に超能力者が実証された。しかし、厳しい緘口令によりその事実が世間に知られることは無かった……。
「すまないユーリ。すまない皆、何度も大臣を説得に行ったが聞いてもらえず、挙句科学省への立ち入りも禁じられてしまった」
研究所からは悲嘆と怒りの声があげられたが、ユーリは静かだった。
「橋本所長。俺は原初なんて肩書が欲しくて研究してるわけじゃないですよ。確かに成果を認められないのは悔しいです。ですが、チェッカーの精度が完全でないのもまた事実。なら、今度こそ俺達で完成させましょうよ!」
「ユーリ……キミは、全く研究者の鑑だな。もちろんこれで終わるつもりは毛頭ない! 有無を言わさぬ完璧な研究結果を今度は奴らに見せつけてやろうじゃないか!」
この出来事により、現場の士気は結果的に上がっていった。研究はより一層進んでいくこととなる。
「正直意外だった。ユーリはまた研究に没頭するかと思ってたのに」
ある日の休日、ユーリと柊は買い物をするため街を歩いていた。
「約束だったろ? 研究も大事だけど、俺にとって一番大事なのは柊だから」
ユーリの超能力が実証されてから、2人は正式に付き合い始め、今は同棲している。この2人の関係も進展していた。
「あはは! 嬉しーぞー! 私は!」
「それに、もっと先の……将来の事も視野に入れていかないとな。柊、俺頑張るからな」
「うん! 大丈夫! ちゃんと支える!」
ユーリはまさに順風満帆であった。仕事では超能力、命令式により研究は着々と進んでいき、プライベートでは柊との関係を深めていった。
しかし、数年後…………彼の身に人生最悪の事件が起こる。
この事件は表沙汰にはなっていないが、ネットの噂で秘かに囁かれている。
降格者(ダウナー)…………能力階級が下がってしまった者がいる。
その人物こそユーリ・ガウク。原初である。
(……ッ!?)
いつものように複雑な命令式を組もうとしたその時だった。
(式が崩れる?! 落ち着け! 俺の力なら出来るはずだ!)
何度やっても同じ。今まで出来ていた式が組めない。
(そんな馬鹿な!!)
研究室にあるチェッカーを起動させる。カプセルの中に入り、深呼吸を繰り返す。
「? ユーリ、どうした? チェッカーを勝手に起動させるなんて……———ッ!? 何だコレはッ!! どうしたんだユーリ!!」
チェッカーから送られた結果データを見て橋本が声を荒げる。その表情、声色から最悪の結果は想像できた。
「嘘だ……なんで……こんな事に……」
チェッカーに繋がれたPCの画面には無情に結果データの表示が映し出されていた。
Name:ユーリ・ガウク
ESP:アリ
Rank:大能力
- Re: 超能力者の落ちこぼれ 参照7000突破感謝! ( No.296 )
- 日時: 2017/06/18 09:55
- 名前: ユッケ (ID: Ru7e1uoX)
ユーリは超能力者ではなくなった……。
橋本はその事実を隠匿し、これを知るものは信頼における研究所内の人間のみであった。
なぜ隠匿したのか、橋本はすでに気付いていたからだ。文部科学省大臣仁道鎧がユーリの事をよく思っていない事に……。
(今も大臣の手の者がユーリを監視、嗅ぎまわっている……。もし、降格の事実が知れてしまったら……ユーリは……)
しかし、その【時】はあっさりと、無慈悲に訪れてしまう。
「所長、いけませんな。ああ、これは良くないな。ユーリ・ガウクの能力が下がっている。こんな歴史的大失態を秘匿するなど、汚職!そう、汚職ですよ橋本所長!!」
「まさかキミも仁道鎧大臣の手に落ちるとはね、槙野君! 副所長としてキミはユーリの何を見てきた!」
薄暗い研究所内で橋本は追い詰められていた。前には裏切りの副所長牧野、そして銃を持った数名の男達。
「彼ね……ああ、彼は、んーそうだな。日本人ならよかったですな」
「ッ!! キミが言っている事は! 人種差別だ!! 軽蔑するぞ槙野君!! 即刻今の発言を取り消せ! 日本もロシアも他の国も関係ない! 才能に国境は無い! 科学技術に国境は無いんだ!」
「吠えますな所長。すぐにユーリもそちらへ行く、先に逝って三途の川を渡る船でも用意しておけばよろしいかと」
ガチャリと男たちが銃を構える。引き金が引かれようとしたその時。
『もしもし、ユーリです。こんな時間にどうしたんです? 橋本さん』
橋本の携帯のスピーカーを伝って所内にユーリの声が響き渡る。一瞬、その一瞬の虚を突いた時間稼ぎが、橋本が最後に放った魔物を刈る銀の弾丸となる!
「ユーリ! 逃げて生き延びろォオオオオ!!!!!!」
電話越しに聞こえる幾つもの発砲音。耳元で何かが壊れていく轟音。最後には踏みつぶしたような音と共に携帯の通話が切れた。
突然の事で頭が回らない。どうして? 何が起こっている?
今のは、橋本さんが殺された? なぜ最後に自分に電話を?
逃げて生き延びろという事は……自分も狙われているという事。
目的は……俺の抹殺? ではなぜ橋本さんを先に?
違う俺じゃない! 俺の関係者全員?
何者かが俺達を殺しに来る理由……橋本さん……俺……まさか、降格の事実を知る者?
「柊!!!」
そうだ、ならば柊が危ない! 俺は今家にいない。帰宅途中だったのだ。走る走る走る!
走りながら柊に電話をかける。…………コール音コール音コール音…………頼む出てくれ!!!
能力を発動させる! 命令式! 自分にプログラムを組み込んでいく。
速度を上げ、疲れないよう体を効率化させる!
走る走る走る! まだ遠い! もっと速く!
柊! 柊! 柊!
今まさに、俺と柊の家から撤退しようとした男2人を嬲り殺し無残に四肢を引き裂いてやったところだ。
出来るだけ苦しめて殺してやった。殺したが、そいつらが自分の命欲しさに仁道鎧の事を勝手にベラベラと喋りだした。
聞いてねぇよそんな事。それよりももっと聞きたいことがある。なんで柊を……!!!!!!
「ごめんな……柊……ごめん……いつも待たせてばかりで、今日も待たせてしまった。俺はいつも間に合わなくて……柊……ごめんな……」
血に濡れた彼女を抱きしめながら俺は泣いた。泣いて泣いて後悔し、謝りながら泣き続けた。
彼女は何も言わない。
その眼をそっと閉じてやり、眠らせてあげた。
暗い暗い夜に、俺は眠る彼女を抱き抱え、漆黒の中に消えた……。
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