複雑・ファジー小説
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- 超能力者の落ちこぼれ 参照7000突破感謝!
- 日時: 2016/11/23 09:31
- 名前: ユッケ (ID: K4YD00a4)
科学の発展と共に能力開発に成功し、能力者大国となった日本。
首都東京は東西南北中央の5つの区に分かれ、能力者のみが通う学校があり、能力を使いこなして未来を担う人間の育成に重きを置いている。
能力者には階級が存在し、下から能力者・強能力者・大能力者・超能力者となる。
能力者の中でも最も貴重で上級種に位置する超能力者。
とある噂がある……その超能力者の中には、落ちこぼれがいる。
【第一章】
はじまりについて >>1
超能力者の噂 >>2
夕暮れの公園 >>3
僕は使えない >>4
ゴールデンウィーク1日目 >>5 >>6 >>7 >>10
ゴールデンウィーク2日目 >>11 >>17
ゴールデンウィーク3日目 >>19 >>20 >>21 >>22
ゴールデンウィーク4日目 >>23
今回の一件の後日談 >>24
【第二章】
赤く燃える >>27 >>28
月明かりの下 >>29 >>30 >>31 >>32 >>33
ダイアの心 >>34 >>35 >>36
夢の叶え方 >>38 >>39
心の奥底 >>44 >>46 >>50 >>56 >>57 >>60 >>62 >>63 >>64 >>65 >>67
今回の一件の後日談 >>71
【第三章】
闇の中で蠢くモノ >>73
シノノメグループ >>74 >>77 >>79
御影 鈴也 >>81 >>82
伝染 >>85 >>86 >>87 >>88
繋ぎ合う手 >>89 >>90 >>91 >>92 >>93 >>94
闇が光に変わる時 >>95 >>96 >>97 >>98 >>100 >>101
人形の世界 >>102
バジリスク捜索隊 >>103 >>104
パワーアンドドラッグ >>105 >>106 >>107
パワージエンド >>108 >>109 >>112
今回の一件の後日談 >>113
外伝 >>114
【第四章】
天使の園 >>115 >>116
東雲 凛人 >>117 >>118 >>119
兎の悩み >>120 >>121 >>122
兎の壊れていく日々 >>123 >>124 >>125
影、忍び寄る >>127
兎の壊れていく日々2 >>128 >>131 >>132
子供であること >>133 >>134
闇は囁き兎の涙は零れる >>135 >>136 >>137
今回の一件の後日談 >>138
【第五章】
悪逆無道 >>140
夏色バケーション >>141 >>142
A‐KISS >>143
星闇躍る夏祭り >>147 >>148 >>151 >>154 >>155 >>161
感情の種 >>162 >>165
中央能力学区の超能力者 >>169 >>170
ロシアのとある没落貴族の話 >>171 >>173 >>174
1番の重み >>175 >>176 >>178 >>179
ムーンライト・シャドウ >>180
Wolf Bite >>181 >>182 >>183
意識の奥、闇の中 >>184 >>185
王国の騎士 >>192 >>193
今回の一件の後日談 >>194
【第六章】
はじめに >>209 >>210 >>211
それぞれの夏休み最終日 >>212 >>213
二学期 >>214 >>215 >>216 >>217
それぞれの思惑 >>218 >>219 >>220 >>221 >>222 >>224 >>225 >>226 >>227 >>228
虚空の少女 >>229 >>230 >>231 >>235 >>236 >>237 >>240 >>241 >>242 >>243 >>244
空っぽ >>245 >>246 >>247
厚貌深情 >>248
動き始めた因縁 >>249 >>250 >>251
王国との激突 >>252 >>253 >>254
王国との激突2 >>259 >>260 >>262 >>263
最強の否定、最大の拒絶 >>264 >>265
降格者 >>268
今回の一件の後日談 >>269
登場人物紹介(能力など、ネタバレ含みますので、第二章以降に見ることを強くお勧めいたします)
三好 祐 >>76 >>172
千年 音羽 >>78 >>172
緋色 赤菜 >>80 >>172
宮本 みより >>99 >>172
一乗寺 クミ >>99 >>177
一乗寺 ミク >>99 >>177
御影 鈴也 >>126 >>177
七咲 千香 >>126 >>177
双葉 小春 >>126 >>177
レイラ >>206
東雲 三代 >>206
東雲 凛人 >>206
木戸 録 >>206
鷹東 キリエ >>207
式宮 アリス >>207
野上 鉄次 >>208
九十九 神矢 >>208
百目鬼 大地 >>208
どうも、ユッケです。
文体などメチャクチャですが、コメント・感想・メッセージ・指導などお待ちしております!
簡単ではございますが、よろしくお願い致します。
- Re: 超能力者の落ちこぼれ 参照4000突破感謝! ( No.242 )
- 日時: 2016/02/23 03:53
- 名前: ユッケ (ID: 3ib433J1)
溜り場の廃ビルから街に出る。いつもの事だが、裏路地から明るく賑わいのある道に出るので温度差というかギャップに飲み込まれる。
暗いところから急に明るいところへ出るので、少しばかり目が痛い。
コンビニやまだ営業中のお店から光が溢れてくる。おまけにファミレスや居酒屋からは食欲をそそるとても良い匂いが漂ってきている。
時刻は19時半。お腹も空く頃だ。帰ったら何を作ろう? 冷蔵庫にアサリがあったはずだし、ボンゴレビアンコにしようか?
献立を考えながら歩いていると、とある人物がふと目に映った。
「あれって……」
間違いない、今まさに裏路地に入って行った2人はまさしく、九十九 神矢と百目鬼 大地だ。
王国のメンバーであり、九十九 神矢は能力学区成績第2位の人物。そのうえレイラを目の敵にしていて以前激闘を繰り広げた。
「裏路地に入って行ったな……気になるし追ってみよう」
ということで2人を尾行してみる事にする。
迷いなくどんどんと奥に向かっていく2人、何度か角も曲がった。
適当にフラフラしているって感じじゃない。明確な目的地があって、ルートが頭の中に完全にインプットされている。
もしかしたら、王国のアジトに向かっているのか?
息も足音も殺しながら、2人の後をつける…………そして2人はとある廃ビルの中に入って行った。
(ここがアジトなのか? う〜ん、とにかく追ってみるしかないか)
そっとビルの中に入り、足元の物や大きなガラス片に気をつけながら身を潜める。
2人は足音など一切気にせずにどんどん上の階を目指し、4階に上って行った。
急に引き返されても困るので、僕は3階で息を潜めて待機する。しかし、ここまで何にもなかったし、他の王国メンバーがいたとかそういうのもない。いったいここに何があるんだろうか?
ますますに謎が深まってきたその時だった。
「ぎゃああああああああああああああああ!!!」
ビルの中に男の悲鳴が鳴り響いた。
気になった僕は急いで4階に上がり、廊下に面した部屋の中を壁に背をつけて隠れながらこっそりと覗く……。
「チッ! またダミーかよ。こいつらも可哀想にな。キリエに勝手にダミーにされちまってよ」
「キッヒヒ! ちがいないねぇ。でもまあ、弱いくせに粋がるからこうなるんじゃない? キヒヒ」
九十九 神矢の足元には5人の男が倒れている。その傍らには鉄パイプとか木刀が転がっていた。
九十九 神矢は超能力者だ。並の人間が束になっても勝てるわけがない。
だが、これでようやく2人がここにいる理由が分かった。千香からもチラっとは聞いていた。九十九 神矢がキリエのアジトらしき場所を潰して回っていると……なるほど、今日僕はそれを見つけてしまったわけだ。
「帰るぞ、ここにもう用はねぇ」
足元に倒れている男を一度踏んで、踵を帰して部屋を出ようとする2人。このままでは鉢合わせする!
(やばっ!)
いきなりの事だったので焦ってしまった。急いで階段を降りようとしたが、石ころを蹴飛ばしてしまい、石が階段を転がる音がビル内に響いた。
「誰だッ!!」
(ヒィイイイイイッ!)
半分飛び降りるように階段を飛ばして駆け下りる。
顔は見られてないから大丈夫! 外に出ちゃえば見つからないはず!
そんな簡単には追いつかれない———
「よぉ、チート野郎」
———と思っていた時期が僕にもありました!
目の前に空間を引き裂いて現れた九十九 神矢。遅れて後ろから百目鬼 大地が到着。
挟まれた! 万事休す!
「こ、こんなとこで奇遇だね。ははは……」
「そぉだな。アン時の借り、今返させてもらおうか」
「今じゃなくてもいいんじゃあ……」
「キヒヒヒヒヒ、終わったね」
じわじわと距離を詰めてくる2人。
コレは本当にマズイ!!
もうダメだと思ったその時、九十九 神矢の視線が僕から外れた。
「そこか!! 穏行緩んでんぞ!!」
何もない筈の虚空に九十九 神矢が空間を引き裂いて攻撃する。
何が起きたのか解らない。見えない何かがいるという事なのだろうか?
混乱していると何かに手を掴まれた。
「うわぁっ!」
「一緒に来て……」
そのまま一緒に走り出してビルから出る。
僕はいったい何に手を引かれているんだ?
「今あなたも私も透明になっているから、奴はもう追ってこれない」
「この声……もしかしてナギサさん?」
「そう、昨日会ったばかりなのに因果なものだね」
「あなたには聞きたいことがあるんだ」
「何を聞かれるのかな? とにかく逃げ切ってからね」
裏路地を透明のまま駆ける。
暫く走って、後ろを振り返ると闇が広がっているだけで人の姿は無かった。どうやら撒いたらしい。
「ハァ……ハァ……ここまで逃げれば大丈夫でしょ。透明になっていれば音も消えるの。まだ手は離さないでね。透明なのは触れているのが条件だから」
「うん、わかっ———!」
「テメェら、俺をナメてんのか?」
空間を引き裂き現れた九十九 神矢に、僕もナギサさんも能力でぶっ飛ばされる。
「なんで……見えないはずなのに……」
「ぁあ? んなもん俺が超能力者で、空間能力者だからに決まってんだろ、空間に生じる違和感に俺が気付かねぇわけねぇだろ。チッ! 最近やたら気配消して俺達のこと見てるなと思ったら、女かよ。
テメェ、キリエの差し金だろ? 覚悟しろよ? 女だからって容赦しねぇって言うけどよ、違うぜ、女だから容赦しねぇんだよ。手段はいくらでもあるからなぁ! 洗い浚い吐いてもらうぜ、キリエの情報をよぉ!」
- Re: 超能力者の落ちこぼれ 参照4000突破感謝! ( No.243 )
- 日時: 2016/03/02 02:02
- 名前: ユッケ (ID: 3ib433J1)
ナギサさんがキリエの差し金? って事は仲間? 驚きを隠せない僕をよそに、ナギサさんは立ち上がる。
「お前は何も解っていないんだな。キリエという人物の事も、この街の闇の事も。悪ぶったガキが遊び半分で踏み込んでいい場所じゃないぞ」
「んなこと知るかよ。とりあえず動けなくすりゃいいか」
九十九 神矢が空間を捻じ曲げ、ナギサさんを包囲する。これは僕も一度喰らった事がある。あの時はミクから借りた特殊骨格で鎧を作って身を守った。
あれは檻だ。しかも押し潰すように内側に向かって迫ってくる檻。
「ナギサさん!!」
「良い具合に潰れとけ」
「っ———」
ナギサさんが透明になって姿を消す。そうか、九十九 神矢の空間歪曲は能力を通す性質を持っている。全身が能力化するなら避けられる。
「……手応えがねぇ。空間に入り込んだのか? いや……チィッ! 後ろか!」
九十九 神矢が咄嗟に振り返り後ろへ跳ぶ。
「ほぅ、よく避けたな。空間の違和感は確かに感じるらしい」
「てめぇ、今のどう避けやがった!」
九十九 神矢がもう一度ナギサさんがいるであろう方向に向かって空間を引き裂いて攻撃する。
すると、攻撃が後ろへ過ぎ去ってから、ナイフを持ったナギサさんがその場に姿を現した。
「攻撃自体のすり抜けか……だがおかしいな、ここでの最初の一撃はしっかりと喰らっているはずだ」
「ふ、どうだか」
ナギサさんの能力は明らかに透明化。例えば僕やナイフ、自身意外も透明に出来るようだ。そして驚くべきは透明という概念そのもの。
透明とは存在しないに同義。ゆえに、いかなる物もすり抜ける。
存在の透明化。その概念。
しかし、九十九 神矢の言った通り、ナギサさんは攻撃を喰らっている。回数制限か、条件か、あるいは準備が必要なのか……完全無敵の回避能力では無いという事だ。
昨日の夜も、僕が不意にこけたから透明化していても、すり抜ける方が間に合わなかったのかもしれない。
「てめぇよぉ、俺の攻撃が避け続けられるとでも思ってんのか?」
「そっちこそ、私を捉え続けられるとでも?」
今にも始まりそうな血の大戦争。
張り詰めた空気が嫌に重い。
僕はどうすればいい? ナギサさんはキリエの仲間で、九十九 神矢は王国の仲間。どっちに付くとかそういうんじゃなくて、どうしたらいいのか解らない状態だ。
(どうしよう……これ……)
パニックの一歩手前、そんな時だった。
「学校サボって夜な夜な女の子とマジ喧嘩とは、ダッサイのよアンタ」
月夜にサラリと靡き光るプラチナブロンド。これはまさしく!
「レイラ!」
「やっと見つけたわよ。ね、皆」
暗いから解らなかったけど、雲から月が出てくれたおかげで見えた。
音羽も、赤菜も、みよりも、クミも、鈴也君も、千香も、小春ちゃんもいる。
「チッ! 邪魔が入ったか。流石にこの数は無理だな」
九十九 神矢はそう言うと空間の中に消えて行った。
「で、三好。そこの女の子が静原 ナギサなのね?」
「うん、彼女がそう。ナギサさん、彼女達は僕の仲間なんだ」
「そうか、キミの仲間か。敵の増援だったらどうしようかと思った」
「静原 ナギサ。その黒髪と金色の瞳から“黒猫”と呼ばれているらしいな」
千香がナギサさんの前まで来て言う。
「らしいね。そう言うアンタはバジリスクでしょ?」
「ああ、その通りだ。お前を捜して歩き回ったが、ついぞ仲間の1人も出てこなかった。何があった? 教えろ」
そう言えば千香がずっと言っていたな。仲間1人たりとも出て来ないのはおかしいって……。
「……仲間はキリエに殺された。今の私はキリエの駒だ」
- Re: 超能力者の落ちこぼれ 参照4000突破感謝! ( No.244 )
- 日時: 2016/03/02 18:00
- 名前: ユッケ (ID: 3ib433J1)
「え……仲間が……?」
仲間はキリエに殺された。淡々と言い放つナギサさん。
それでも……何で? 何で———
「ど、どうして! 仲間が殺されたのに……!」
みよりが耐え切れなくなって口を開く。
僕もみよりが先に言わなかったら言っていただろう……どうして仲間を殺したような人間の駒になっているのかと……。
「私の仲間は私の目の前で次々に殺されていった。奈々も沙良も小夜も愛梨も琢磨も伸二郎も、私の目の前で刺されて、撃たれて、飛び散って、潰されて、折られて、切り裂かれて、殺された。皆が私の目の前で鮮血を散らして—————」
「いやぁあああああああああああああああ!!」
みよりが耳を塞ぎしゃがみ込む。
想像しちゃったんだ……その最悪な凶行を……。
「みより! 大丈夫だから、な? ちょっと向こう行ってようぜ」
赤菜がみよりの肩を抱いてその場から少し離れる。
「何もそんなに詳細に説明しなくてもいいじゃないですか!!」
「そうッス! もっとこう……言い方ってのがあると思うッス!」
鈴也君が珍しく声を荒げる。それに同調して小春ちゃんもナギサさんを責める。
「すまない。怖がらせるつもりじゃなかった……私も思い出すのは辛いんだ」
ナギサさんにとって、それは強烈に脳裏に焼きついてしまっているのだろう。彼女も被害者なのだ。
「それで、黒猫にゃんこはなぜキリエ側についたのですか? 大体の予想はつきますけど」
「私は目の前で仲間が殺され、次は私だと思った時、彼に命を乞うたのだ。殺さないで下さいと、何でもするから殺さないでくれと」
「仲間が、殺されたんだよ? その男に……どうして命乞いなんかできるの?」
音羽の声は震えていた。それはナギサさんへの怒りか、それともキリエに対する怒りか……多分、両方だ。
「私は生きたい。ただひたすらに生きたいのだ。死ぬのは嫌だ。生きる為なら私は何だってする」
ナギサさんの言葉からは、死への恐怖と生への執着が溢れていた。彼女を非難するような事は出来ないと僕は思った。
目の前に、絶対的な死の恐怖があり、死がその影をこちらへ伸ばしてきた時、果たして僕は死を簡単に受け入れるだろうか…………。
「アンタがキリエ側にいる理由は解ったわ。聞きたい事はもう1つあるのよ。最近頻発してる犯人不明の連続殺人事件。犯人はアナタなんじゃないの?」
「人間の屑を殺しまわっている見えない殺人鬼……でしょ? 透明化能力を持っている私以外にいる?」
あっさりと認めた。隠す必要も無いと踏んだのか……。
「キリエの命令か」
「ええ、その通り。彼の邪魔者を排除する代わりに、私は生かされている」
「だから九十九 神矢も見張っていた?」
「……アイツの監視は私の仕事だったけど、今日は違う、私の独断である人物をずっと監視していた。結果アイツにバレてこうなっただけ」
「それって……」
「そう、監視していたのはお前。三好 祐。昨日私とぶつかって服に血が着いたお前」
「なるほど、警察に通報しようものならグサりと行ってたわけですな。僕っ子は九死に一生を得ましたね。セフトセフト〜」
「セフトってほぼアウトだよ! じゃなくて!! ナギサさんはこれからも僕を監視する?」
「どうだかね。でも勘違いされるような行動、言動は慎んだ方が良いと思うよ。私なら誰にも気付かれずに殺———」
バチンッ! と、乾いた音が夜に響いた……。音羽が、ナギサさんの頬を平手打ちしたからだ。
ナギサさんの頬は赤くなっていて、音羽は怒りの表情に涙を浮かべていた。
「死にたくない死にたくないって、どの口が言ってんの……仲間を殺されたんでしょ! 自分は死にたくないって命乞いまでしたんでしょ! そんなアナタがなんで簡単に人を殺せるの! ふざっけんなっ!!」
「…………何も知らないからそう言える」
「———! このォ……!」
もう一度ナギサさんに、今度は拳を握って音羽が殴りかかろうとする。
「だ、ダメだって音羽!」
「離して! 一発殴らないと気がすまない!!」
「千年さん! 落ち着いてください!!」
怒りが収まらない音羽を、僕と鈴也君の男手2人で止める。
「アンタの事情はよく解ったわ。静原……でもね、三好に手を出したら、許さないから」
「覚えておくよ。…………」
そう言ってナギサさんは闇の中へと歩いて行った。もしかしたら今日も、これから誰かを殺すのかも知れない……。
「私……! 許せないよ……彼女の事……!」
音羽はそのまま地面にペタリと座り泣いた。
ナギサさんには、ナギサさんの事情があった。僕は、音羽のように彼女を非難する事は出来なかった。
誰が正しいなんてきっと無い。
僕らも、ナギサさんも、この世界に呪われているのだから……。
「……痛い……」
静原 ナギサは赤くなっている頬に手を当て、呟く。
「知ってしまった……私にとってこの世界は地獄でしかない。こんな世界、壊れてしまえばいい」
続けて呟いた言葉に、闇の中から誰かが応える。
「知ってしまった……か、お前はこの世界の呪いに触れたのだな」
闇の中から現れたのは七咲 千香。バジリスクだった。
「バジリスク……なんだ、私を殺しに来たのか」
「理由が無い。お前と話をしに来ただけだ。お前、“何も知らないからそう言える”と言ったな」
「そうだ、あの子は知らないから……この世界が呪われている事を」
「お前、人形に会ったな」
「…………」
「奴の能力も知ったんだな……」
「やめろ!! 考えたくない!」
「私もそうだった。死んだ方がマシだと、生きていて何の意味があるのだと、絶望した」
「———っ!」
静原 ナギサはバジリスクの胸倉を掴み、壁に押し付けて叫ぶ。
「貴方に私を助ける義理がないのはわかっている。だが、私は生きたい! 私には何も価値がないが生きたいのだ。だから、どうか頼む。私を救ってくれ! 本当はこんな自分、変えたいのだ。人殺しなんか、本当はしたくないんだ! 頼むよ…………」
「黒猫……静原 ナギサ……私達の側につけ!」
「キリエを裏切れと言うのか! そんな事をしたら……!」
「大丈夫だ。現に私は生きている。キリエがお前を殺しに来る事は絶対にない。今の奴はそれどころじゃない。だから私を信じろ。私が信じられないなら三好を信じろ」
「な、なんで三好 祐を?」
「私が三好を信じているからだ。それに、あいつの飯は美味い」
- Re: 超能力者の落ちこぼれ 参照4000突破感謝! ( No.245 )
- 日時: 2016/03/07 03:02
- 名前: ユッケ (ID: 3ib433J1)
■空っぽ■
「何があったらくぁwsえdrftgyふじこlp;!!!!」
壮一郎が奇声を発しながら目の前で爆発している。壮一郎って言うのは……まぁ、説明しなくてもいいか……。ただのクラスメートだ。
「アレか! アレなのか!? 恋のAtoZか!? どこまでだ! どこまでやった! ZERO距離射撃のZまでかぁあああああ———ゲフッ!」
赤菜が暴走する壮一郎の頭を脳天から肘撃ちする。
「んなわきゃねぇだろ! なんだよZERO距離射撃って」
「んなもん×××に決まってんじ———イデデデデデデ!」
お、今度は関節だ。いいぞーもっとやれー。
「朝っぱらから何口走ってんだよこの変態!! ったく男って奴は」
「僕も男だけど、壮一郎みたいな人の方が珍しいと思うから安心して」
「え、祐って男だったの?」
「音羽ヒドイッ!!」
「今年の文化祭、三好はミスコン出場決定だからな」
「ちょっと聞いてないソレ!!」
ホームルームが始まる前の教室は騒がしく、少しでも日常が戻って来たのだという実感を得られた。というか視線とヒソヒソ話がグサグサ来てる。
僕と音羽と赤菜が何やら険悪なムードだったのは周知の事実であり、休み明けの月曜日、凄く仲良く教室で話してたらそりゃこうなる。
「とにかーく! これにて一件落着! 文化祭は大丈夫そうだな〜」
「まぁ、色々とありまして」
「え〜何なに〜? 色々って〜?」
キーンコーンカーンコーン
「フッ、命拾いしたようだな。だが次は無い! ファサァッ!」
安い悪役の様なセリフと、なぜかマントを翻すような仕草で自分の席に戻っていく壮一郎。
「さて、私達も席戻ろうぜ」
「そうだね赤菜ちゃん」
こうして僅かに戻って来た日常が始まっていく。
学校も授業も文化祭も楽しみだ。
こんな気持ちは久し振りかもしれない……誰より独りになりたかった僕が、今は誰とも離れたくない。
「祐……」
席に戻る前に、音羽が僕に耳打ちする。
「呪われた世界。やっつけようね」
「うん。必ず……!」
- Re: 超能力者の落ちこぼれ 参照4000突破感謝! ( No.246 )
- 日時: 2016/03/07 17:14
- 名前: ユッケ (ID: 3ib433J1)
学校が終わって放課後、音羽、赤菜と一緒に溜り場へ向かい皆と会う。
レイラの報告では、九十九 神矢はやはり登校していないらしい。
ナギサさんの件も、一旦保留になった。相手が透明なのでは仕方が無い。
もしかしたら、今も監視されているかもしれないのだ。警察への通報はしない方がいいだろうという事になった。
千香と小春ちゃんがキリエや王国について調べているが、進展はないようで、今日はそれだけで解散となった。
あまりにも実態が掴めない2つの勢力。
キリエ……彼はいったい何がしたいのか……。
王国……能力者優位の世界の実現……僕はコレに違和感を感じる。現人神 剣……彼の目的は……?
家に帰ってからもテレビをつけてニュースをボーっと眺めながら考える。
しかしいくら考えても、何も答えは出ない。情報が少なすぎる。解けないテスト問題を前に、時間が余っているから考えるフリをしているようなものだ。
寝てしまった方が有意義にすら感じる。
「〜〜〜っ! ダメダメ! いくら考えても、答えの出ないものは出ない! 気分転換、気分転換! 晩御飯作ろう! よし、そうしよう!」
冷蔵庫を開けて食材を眺めながら献立を考える。
「鱈の切り身はフリットにして、紫玉葱は他の野菜と一緒にマリネにしようか……おや?」
そうやって冷蔵庫の中身とにらめっこしていると、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。
おおよそ何かの勧誘なのだろうと、玄関まで行き覗き穴を覗く。
「え? ナギサさん?」
ドアの向こう側にいたのはナギサさんだった。意外な訪問者に驚きつつも、とにかくドアのロックを外して開ける。
「……こんばんわ」
「こ、こんばんわ。ナギサさん。今日はどうし———」
「話がある。上がってもいいか?」
「う、うん。構わないけど」
「そうか、お邪魔する」
そう言ってナギサさんが部屋に上がりこむ。
「冷蔵庫、開きっぱなしだぞ」
ナギサさんが開きっぱなしの冷蔵庫を指差して言う。
「ああ、晩御飯作ろうと思ってね。僕晩御飯まだなんだけど、ナギサさんは?」
「私もまだだ」
「そっか、じゃあ食べてく? そうだ、嫌いな物とかってある?」
「特に無い。……いいのか?」
「構わないよ。料理作るの好きなんだ」
冷蔵庫から食材を出しながら応える。
メニューはさっき考えてたやつで大丈夫かな。
「適当にソファに座ってて、テレビのリモコンはテーブルの上にあるから、出来上がるまで適当にテレビでも見てて。パパッと作っちゃうから」
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