複雑・ファジー小説
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- (合作)闇に嘯く 3話【執筆開始】メンバー急募中!
- 日時: 2018/02/10 14:46
- 名前: 闇に嘯く製作委員会 (ID: lmEZUI7z)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=8423
本小説は風死、狐、末端ライター、noisy、みすずによる合作です。
5人とも多忙の身でありますので、更新速度は早くはありませんが、どうか寛容な方々見守ってくだされば我々にとっても力となりましょう。
製作メンバー一同、知恵を結集し設定を造りあった作品です。出来うる限り皆様を楽しませようと頑張りますので、よろしくお願いします。
題名の件に関するカキコミ >>56
序幕————
行けども行けども、生きている人はいない。茜色に染まる夕暮れ時でなお、路上を覆う赤黒い液体、すなわち血液は目立つ。
誰もが事切れ、絶望に顔をゆがめている。誰もが五体はバラバラで、腸を吐き出し見るも無残に死滅しているのだ。
「神様、たすけてっ! たすけてよっ!」
走る少年とも少女とも取れる子供は叫ぶ。高い声が震え悲壮感を増す。誰も答えるものなどいない。しまいに子供は血に足を取られ、転倒した。痛みに涙を流しながら這いつくばるが、途中で動くのをやめる。
「小僧。悪(にく)いか。いな、小娘かも知れんが、とりあえず聞こう。この惨状を引き起こした犯人を殺せるなら嬉しいと思うか?」
「……何言ってんだ?」
どこからともなく、音もなく現れた渋い声の男。赤の世界にあってなお紅い衣に身を纏った野生的な顔立ちの偉丈夫(いじょうふ)。その人物の言葉が理解できず、子供は怪訝そうに口を動かす。絶望的な状況に心が動揺して、単純な言葉しかでてこない。
「俺がやったと言っている。我が名は世界。貴様は良い目をしているな。この絶望の中で反骨心に溢れているぞ。繰り返す。俺は世界、お前の住む町の全てを破壊した男だ。悪かろう、殺したかろう。なぁ?」
愉悦を含んだ男の唇は口裂けのように釣り上がり、恐怖ばかりが膨張していく。全身から大量の汗が吹き出てくるのを感じ、子供はこれは夢だとついに目を伏せた。しかし世界と名乗った男はそれを許さず。閉じた目を強引に上けながら、子供を背負う。
「名を何という。目を背ける振りをするな。貴様の中にある、強大な野心を俺は見逃していないぞ。そうか、これでは足りぬのか。あぁ、足りぬらしいぞ。なぁ、もう1人の世界よ」
「良い良い。では、見るが良いぞ。そちの世界が完全に消え去る様を」
「あっ、あぁ……」
独り言のようにつぶやく男の声に答える、人間のものとは思えない声。見上げるとそこには、到底見逃すとは思えない、強大な白銀の狐が宙を浮いていた。それに向かい、野性味溢れる男は跳躍する。
「そらっ、見ておれ。このひと吹きでそちの世界は、塵も残らず消えるぞ……」
軽く息を吸う。大気が揺れ、口腔から熱波がもれる。勢い良く狐が息を吐き出すと、それと同時に巨大な青白い炎が発射され。発射され——町に着弾。強大な渦を発生させたかと思うと、巨大な塔が如き火柱を上げ、次いで大海の荒波がごとく大地を蒼炎が飲み込んで行く。
飲み込まれた後は何も残らない。空にある雲すら食らうように、炎のアギトは大地を人を家を手当たり次第に食(は)み無と変えていく。弔いすらさせてはやらない、と無慈悲に。ただ生き延びてしまった子供は受け入れがたい現実に呆然とするしかない。
「許さない。俺は……あんたらを許さ、ないっ!」
「そち、名は?」
うわ言のように糾弾する子供に狐は問う。
「三重松潮(みえまつうしお)。あんたらを殺す、男の名前だ」
涙ながらに彼は宣言する。自らの名を、そして自らの宿業をそれと定め。3人兄弟の長男に生まれた責任感と、この故郷を強く愛した愛慕の情を胸に迷いもなく。その様を見た世界は笑みを浮かべ、2人とも一瞬で姿を消した。
————
木漏れ日の明るさに夢はかき消され、夢の中では小学生程度だったろう男、潮は目を覚ます。
「夢、か。今日も1日が始まるな」
カーテンを開け、10年前の悪夢から醒めた潮は目を擦る。今日も1日が始まる。命がけの戦いの朝だ。鏡に映る自らの顔を眺める。昔のあどけなさは最早微塵も感じられない、精悍で少し厳しさを感じさせる戦士の顔。それなりの修羅場を潜り抜けてきたと実感する潮。
「だが、まだ、まだ足りない。世界には全然遠い」
歯噛みするようにそう言って、彼はベッドから起きあがった。
————序幕終了
序幕は、風死がお送りしました!
注意事項
1.更新速度は決して早くはありません。ご了承ください。
2.少しグロテスクな表現などが含まれると思われます。ご了承下さい。
3.保留中も感想やご指摘はOKです。むしろよろしくお願いします。
4.物語に関係ないことや広告、荒しはご法度です。
以上です。
本編目次
第一話『徒波に響く』 狐執筆
現状更新レス
>>1 >>2 >>3 >>4 >>5 >>6 >>7 >>8 >>9 >>10 >>13 >>14 >>15
>>16 >>17 >>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25 >>26
第一話完結
第二話『暗く寒い夢の中で』 風死執筆
>>27 >>28 >>29 >>30 >>32 >>34 >>36 >>37 >>40 >>42 >>44
>>45 >>46 >>47 >>49 >>51 >>53 >>54 >>55
第二話完結
第三話『Unforgiven』 noisy執筆
>>58
お客様
書き述べる様
更新開始日:2015 5月5日 1話 執筆開始
2015 10月29日 2話 執筆開始
2018 1月30日 3話 執筆開始
- Re: (合作)闇に嘯く 2−6執筆中 ( No.34 )
- 日時: 2015/11/20 11:56
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: 3rsK9oI3)
「オウマガドキを起こしたのは、陰陽連だってことは知ってるか?」
『今、何を言ったこいつ?』
唐突に発される驚愕の事実。潮は感情が追いつかず、頭が真っ白になる。
「聞こえなかったかな。オウマガドキは陰陽連が起こしたって言ったんだが」
察しているのかいないのか、祝幻は髪を整えながら丁寧にも同じ趣旨の言葉を重ねる。潮は唾を飲む。この場で一緒に聞いているはずの都子は、この事実を知っているのだろうか。ふと彼女のほうを見やる。動揺は多少見えるも、それは潮のように驚愕というものではなく、むしろ潮自身を案じての感情に見えた。
「陰陽連が潔白だなんては、最初から思ってはいなかった。いなかったが」
重い口を開く。しかし、出てくる言葉は形をなす前に水泡へと消えた。潮はあまりの衝撃に顔を覆う。陰陽連の全てが正義とは確かに思わない。それだけで組織を運営していけるほど甘いとは思わないし、何より建前を持って殺戮を繰り広げている集団なのは間違いない。
「衝撃的か? そうだよな。やっぱ知らねぇよな……上の連中は隠し事ばかりだぜ」
だが自らの隊を率いる者が口にした言葉は、余りに深く鋭く。潮の体を貫いた。オオマガドキ——それは、陰陽連に名を連ねる者なら知らぬ者は居ない現象。妖怪たちが人類に渾名す要因。
元々強暴だった妖怪を更に暴力的に変え、温厚だった者すら人間への強烈な悪意や食欲的な渇望を与えた。陰陽連が経営する陰陽師養成学校陰陽寮にては、それは最上級に位置する大妖怪皆尽(みなつき)という者が引き起こしたとしている。
皆尽は強大な力を有していて、無類の選民思想の持ち主だった。それが全ての妖怪を掌握し、圧倒的な力で人類を蹂躙し家畜としようと企(くわだ)てた。それが陰陽寮の教科書に載っている定説だ。
「皆尽(みなつき)は? まさか本当はそんな奴存在さえしない、のか?」
恐る恐る問う。最上位に位置する大妖怪など、末端の者たちが本当に存在を確認できるはずもない。潮は運が良く、いな悪くというべきか、世界という大妖怪に遭遇しているが。本来ならそれが異常だ。ならばそんな妖怪の出自など幾らでも改竄(かいざん)できるではないか。
「成程。勘が良いな。そう皆尽なんて妖怪はいない。あるのはそういう名前の術式だ」
皆月は人類を滅ぼすため、自らが持つ強烈な感情操作能力にて、妖怪たちに人間への悪意を植えつけたという。しかしそんな妖怪は存在しない。
「術式?」
潮は問う。心の中ではその術式が何なのかは、分りきっていた。
「そりゃぁ、あれだよ。オオマガドキを起すための術式しかないだろう? 開発したのは芦屋道満。教科書じゃ陰陽連創設時のメンバーで、悲劇の英雄って感じで載ってたかな?」
否定したいのだろうと察した祝幻は、潮の小さな希望を押し潰すように、直接的な物言いで応じる。芦屋道満、それはオオマガドキが起こったとき皆尽に挑み、それを封印するに成功するも。大妖怪の術にかかり第2のオオマガドキを引き起こそうとし、陰陽頭に殺されたとされる天才だ。そう教科書では記載されている。つまりそれさえも嘘ということだ。
「なぜ奴はその術式を開発した?」
口唇を震わせて、問う。
「妖怪でまともに、金儲けするためさ。戦うために命を散らしてちゃ、話にならないだろ?」
今までにない冷厳とした口調で祝幻は答えた。心の底から汚らわしいという風情だ。潮はなぜそこまで嫌悪(けんお)するのかと思う。生きる上で金は大事だし、そもそもその制度が崩れたら今よりはるかな混沌が生まれるのは分りきっている。いな分りきっては居るのだ。金を儲けるという理由だけのために、危険な者たちを更に増やすなど、言語道断だというのは。
「知ってるか。昔は陰陽師ってなぁ、使い潰されて殺されるために居た人柱だったらしい」
「どういうことだ……」
話が繋がらない。潮は訝(いぶか)しがる。使い潰されてしまうほどに、人手が足りていなかったということだろう。ならばなぜ、金が足りないなどということが、起こるのだ。
「そのまんまさ。妖怪は昔っから居た。教育を受けたところで、奴らと戦える輩は少ない。そう、戦える奴は強引に国主から、陰陽師にされ死ぬまで戦わされる」
つまりは弱い陰陽師でも戦えるような、弱い敵を作るということらしい。そうでなければ、無下に戦力が殺害されていくだけだからか。妖怪にも、ある程度の同族意識はある。
つまり強者の一振りで息絶える弱者が、辺りかまわず跋扈(ばっこ)すれば、凶暴化しているとはいえ、強者もそう簡単に暴れられなくなるわけだ。相対的に事件は増え、その案件の難易度は基本的に下がっていく。それは国民の安全にも繋がる。
「理屈は通ったか?」
「あぁ」
しかしならば、現状で良いではないか。わざわざ滅ぼそうとする理由が、分らない。
「まだピンと来ていないって感じだな。じゃぁ、単刀直入に聞くが、てめぇはこの術式は永続すると思うか?」
「ガタが来ているのか?」
祝幻は目を細め、至極常識的な問いを投げかけた。陰陽師にとっては重要な、術の効果持続時間という問題。潮は目を見開く。
「今年で皆尽きが発動して1000年だ。今年中に、この術式は決壊する。いつかは分らないがな」
そう述べて、祝幻は一切れの紙を置く。そして去っていった。都子はチラリと潮を一瞥するが、何も口にすることはない。どうやら事前に打ち合わせをしていたようだ。恐る恐る潮は紙切れを見る。
「……隣町の山間部? 何が」
その時、都合よくまた携帯の着信音が鳴り響いた。
- Re: (合作)闇に嘯く 2−7執筆中 ( No.36 )
- 日時: 2016/02/03 09:57
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: B594orir)
「今度は誰だ?」
少し苛立たしげな声で潮は問う。
「何だよ、機嫌悪そうだな潮? 何かあったの?」
瞑目し5秒。心を落ち着かせる。声の主は千里のものだ。少し低めでざらついた分り易い性質。仲間であると同時に、ライバルでもある奴だ。弱みや情けないところは、見せたくない。
「ねぇよ。お前こそ朝から疲れてるみたいだが、まさか今回も朝までポーカーか?」
千里を知る人間なら、誰もが知っている。彼は無類の賭け事好きだ。それこそ非番、仕事帰り問わず通い詰めるほどに。潮にはそれが軽薄で身勝手に見えて、忌々しい。陰陽師としてあるまじき行為だとすら思う。
「残念ながら、九十九霊(つくもりょう)にマンションが襲撃されてね……」
忌々しさが滲み出た言葉を、千里は軽く聞き流す。そして嘆息を交え、驚愕すべきことを告げる。
「何————」
予想外の返答に潮は言葉を詰まらす。九十九霊というのは、本来無力な存在だ。
能力としては、憑くことのできる対象——中級程度までの力を持った妖怪、ないし霊力の宿った古い道具——に、憑きそれを自在に操作するというものだが。
千里のマンションは、陰陽寮直轄にあり、九十九霊程度の輩が襲撃したところで、徹夜になるような騒ぎになるはずはない。例え彼等が憑(つ)ける位階にいる妖怪で、最も力強い存在に憑依したとしても、だ。
「まぁ、ありゃぁ、普通じゃなかったね。確かに九十九霊だったのは間違いないが——」
思慮深い口調で、千里は言葉を続ける。正確には最初こそ冷静だったが、後半は少し不信感が覗いているような、少し震えた声音になっていたが。彼の言葉に潮は眉間に深く皺を寄せた。最近妙なことが続く。夜太郎の件に始まり、祝幻の来訪。そして今回の九十九霊騒動だ。
「普通じゃない九十九霊? それが、俺に情報が伏せられていた理由か?」
つとめて平静な声で、潮は問う。そして都子によって注がれた緑茶で、口を湿らせながら、瞑目(めいもく)し思考を深める。
「いや、お前、連絡定期的に見ろよな?」
「待て。どこをどう確認してもそんなものは……報告されていないが」
基本的に陰陽連関連の施設が襲撃された、などといった重要な情報はすぐに連絡が届くようになっている。それは潮のような若手の陰陽師でも例外ではない。そもそも若手といえでも、それなりの実績と陰陽寮最上位で卒業した幹部候補である彼が、簡単に無視されるはずもないのだが。
だが携帯のどこを確認しても、そのような情報は掲載されていなかった。報告が入ったのなら、メールにしろ通話にしろ情報が保存されているはずなのだが。見事にその情報はない。潮は始めに何らかの理由があって、情報が届けられなかったのかと考えるが。数年陰陽連で活躍してきて、そのような経験はない。もしや自分の携帯自体に問題があるのか、と疑い始めた時。携帯から声が響く。
「……そいつは可笑しいな。壊れてるんじゃねぇのか? 何なら今日付き合うぞ?」
心配げな声だ。面倒事はさっさと解決させたいと言う感情が丸見えだな、と潮は毒づきながらも。昨夜の事件、本当は自分も招集が掛かっていたのかも知れないと、思い立つ。しかしそれはすぐに打ち消された。それほど重大な案件なら、式を飛ばすなり直接据え置きの電話に通話するなり、するはずだ。そう揺らいだ心に言い聞かす。
「すまないが、今回は大事を取って、休ませて貰う」
咳払いをして、少し聞き取り辛い声で潮は言う。
「…………ん? どういうことだよ?」
妙に歯切れの悪い同期に、千里は疑問符を浮かべる。潮と言う男は、基本的に言いたいことを、平然と口にするタイプだ。相手のことを慮ることが苦手で、自制が効かない所があると、と言えば分るだろうか。最近は多少なりと、人に気を使うことも出来るようになってきたとはいえ、流石に妙だと思う。
「いや、少し熱が酷くてな。任務に支障をきたしそうだ」
潮はわざとらしく、低くしゃがれた声を出す。先程までの声音を聞けば、嘘なのは明白なのだが。そこは見逃してやるのが、大人の関係だろうと思い、千里は彼の虚言(きょげん)を黙殺すると決める。
千里は身勝手さが目立ち、一々波風を立てる潮と言う男が苦手だ。しかし、それには相応の理由があることも知っている。彼の過去を知れば、恨みや憎しみが先行するのも当然というものだろう。
そして潮は基本的に勤勉で熱心だ。嘘をついてまで仕事を休むということは、相応の理由があるに違いない。妙な信頼が生まれているな。そう心の中で1人ゴチ、千里は軽い口調で。
「ったく、体調管理くらいちゃんとしろよな。携帯壊して気付かなかったり、弛んでんじゃねぇ?」
皮肉を口にする。
「貴様にだけは、言われたくない!」
案の定、過剰反応気味に潮は怒鳴り、電話を切った。
- Re: (合作)闇に嘯く 2−8執筆中 ( No.37 )
- 日時: 2016/09/04 09:12
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: 7PvwHkUC)
突然、潮に電話を切られ、少しの間思考停止させる千里。溜息を吐き、ボロボロになった自分の寮を眺めた。
「参ったね、どうも」
思わず愚痴が飛び出す。野宿なんて嫌だ。しかしだからと言って、違う寮に移動するにしても手続きがあるし、泊めてくれる仲間もいない。正確には、潮の寮などゴメンだ。かと言って琴葉は実家通いだが、下民の自分があんな豪邸に泊めてもらえるはずなどないと思う。といった所だ。
「お早う! 遅くなった。千里君待たせちゃったね」
「…………」
そんなことを取りとめも無く考えていると、後ろから声が届く。聞き親しんだ同胞の、快活で少し高めの声だ。
「千里君?」
しかし千里はすぐに反応できない。寝食の場所をどうするかに夢中で、気付かなかったのだ。改めて名を呼ばれ、慌てて振り向く。
「ははっ、ヒデェ有様だろ? 俺、今日からどうしよう」
そして指で崩落した自分の寮を指差す。あくまで飄々とした態度だが、表情からは嫌気が見て取れる。
「うーん、流石に手配されていると思うけど」
あまり同情などしても面倒なことになるだろう。そう判断したらしい琴葉は、あくまで冷静な口調で心配するほどでもないだろうと、一応の慰めを要れる。
「確かにこれは凄いね。本当に九十九霊がやったの?」
そして改めて倒壊した建物を見ながら、つぶやく。
「……だろ? 九十九霊に力を与えて、命令をくだした奴がいるってのが、大方の見立てだよ。あいつ等の引き出せる力じゃなかったからな」
本来、九十九霊の力は弱い。憑ける対象は精々が中級の下位程度まで。それらの妖怪も100%の力を発揮させれるわけではないのだ。むしろ強い妖怪を乗っ取るほど、開放できる力は減る。
それを加味した上で現場に居合わせ、襲撃に対処した陰陽師達はある結論に至った。それは裏で霊たちを操っている存在がいるということ。彼等の憑依力を増大させ、引き出せる力を強化した ということだ。
「おっ、2人とも盛り上がってるなぁ」
成程と、顎に手を当てながら思案する琴葉。そんな彼女の肩を何者かが叩く。突然のことに驚き竦(すく)み上がりながら、琴葉は護符を胸元からとり、振り向く。目の前には、彼女の良く知る存在。彼女の兄にして、陰陽連の最高幹部が1人、檜扇祝幻その人。
「このような事態なのに、到着がいささか遅くないですか?」
苛立ちを唾(つば)とともに飲み、態とらしい笑みを浮かべながら琴葉は言う。声音には険が滲む。
「……俺も忙しいんだよ、色々さ。例えばこの程度の案件で、一々足を運んでられないって、程度には」
意にも介さないような口調で祝幻は答え、遠くを見つめる。まるでこの場の惨状など、眼中にないのだろう。
「心中お察しします」
またぞろ、嫌味でも吐きそうな琴葉を制しながら、今度は千里が応える。余り話が長引くのも面白く無い。実妹である琴葉は勿論、自分もこの男が好きではない。何を考えているのか図れない上に、有能な人物など厄介で仕方ない。
口ぶりから察するに、今も何かしら部下には言えないような案件に関わっているのだろう。それが自ら達にどのように関わっていくのか、など今の惨状で考えたくもないし。何より、そもそも降りかかってきてなど欲しくない。厳命が下れば下の立場だ。従うしか無いのだが。
「まぁ、君のもな。残念な報告だが、1週間程度は寮を用意できそうになくてね」
「はぁ、金銭的に野宿ってことですね」
祝幻から舞い降りる凶報に、千里は溜息を吐く。自分以外の寮から通っていた者達も、恐らく絶望することだろう。既にこの情報を得ている者は、既に仮宿を探しているだろうか。鬱屈とした吐息が、さっきの今で漏れる。
備蓄が多いわけでもなく、信頼できる仲間が居るタイプでもないゆえ、本気で千里は野宿を考えた。案外気楽かもしれない。雨風は術である程度防げるし、元より人の多い場所での生活は、それほど好きではない。いっそ、神格に守れた山奥からでも通おうか。
「いや、流石にそれじゃ可愛そうだろ? 俺は慈悲深い男でね。君が嫌じゃなければ1つどうかな? 俺の家に泊まるというのは」
だが、野宿の覚悟を固めていた男を見かねたのか、祝幻が1つの提案を持ちかけてくる。当然ながら、それは琴葉の家ということでもある。他にも妾(そばめ)なども沢山いるだろう。琴葉のほうを見ると、嫌そうではあるが、完全否定はしないという感じだ。
実際願ってもないチャンスである。卑しい家の出である自分が、大豪邸で上手い飯を食い、ふかふかの布団で眠れる。しかも下手をすれば、男性であることを考えれば、夜伽を用意などということも有り得る。ここは同僚の琴葉と既成事実を得、結婚などという手も。
「おっ、おぉ、迷ってる迷ってる」
悩む若い部下を、祝幻は楽しそうに眺める。そして思い出したように。
「あぁ、琴葉に手を出したりしたら、お前次の日の朝焼けは拝めないと知れよ」
「はっははは、分ってますよ。それにしても嬉しいですね。まさか、名家にお暇できるなんて!」
「いやぁ、俺も喜んでもらえて嬉しいよ。そういや君は1人の時間を大事にするタイプっぽいから、ちょっと不便な部屋になるかもしれないけど」
「いいえ、ご厚遇感謝します!」
祝幻は笑顔だが、心の底から本気に違いない。彼と親交のある部下なら皆が知っている。祝幻が相当な妹贔屓であることを。本施設とは離れの部屋を用意するというもの、本当は妹に近づけないためだろう。苦笑いしながら千里は約束を了承し、快く家に停めてもらうことを受け入れた。
- Re: (合作)闇に嘯く 2−9執筆中 ( No.40 )
- 日時: 2016/10/10 12:05
- 名前: ダモクレイトス ◆MGHRd/ALSk (ID: 7PvwHkUC)
「と言うわけで、今日からよろしくな琴葉」
不器用な笑みを浮かべ、千里は琴葉に握手を求める。これから同じ屋根の下で過ごすのだ。仲良くすべきだろう。正直、潮と言い彼と言い、独断専行が目立ったり、浪費癖が目立つせいで彼女には良く思われていないが。
潮より先に、関係改善をするのも悪くはない。正直、千里としては潮と同等扱いされるというのは、苦痛以外の何でもない。1歩2歩で良いので、琴葉からの評価は上で有りたいのだ。
「ちょっ! 調子に乗んないで欲しいんだけどっ!」
あっけらかんとした口調で言い寄る千里を、非難がましい目で見ながら琴葉は後ずさる。
「いやぁ、仲が良いことで重畳。さて、と。俺はそろそろ行かないとな」
どこをどう見たらそう取れるのだと、苦虫を噛み潰したような顔で琴葉は睨む。しかし、そんな妹の目線すら、ご褒美だと言わんばかりに、体をくねらせながら祝幻は踵(きびす)を返す。
「えっ、ちょっと、お兄様っ。どこに行くの!?」
思わず手を伸ばす。ほんの僅か、祝幻の体に琴葉の指先が触れる。それと同時、祝幻は立ち止まり溜息を吐く。
「俺はお前らと話をするためにここに来たわけじゃないんだなぁ。そこのところ察してくれよ?」
そして、まるで感情のない機械かのような、冷たい声で言う。琴葉は思わず、身を竦ませ後ずさりして、石につまづく。
「あっ、転ぶ」
琴葉の後ろにいた千里がそう口にしたと同時に、祝幻は彼女の体を支えていた。千里は驚くより先に、理解が追い付かず目を白黒させる。祝幻と自分では明らかに自分の方が近かったのだ。それに彼女は千里のほうへと倒れてきたのだから、抱えやすいのどう考えても千里のほうである。
「琴葉。兄の前で余り危ない真似をしないでくれよ。お前が疵物(きずもの)になったりしたら、俺は辛くてたまらない」
上目遣いで琴葉は自らの兄の顔を覗く。いつも通りの少しイラッと来る笑顔。それなのにわざわざ支えてもらったというのに、体からは嫌な汗が流れ出す。神経が泡立つというのだろうか。蛇に睨まれた変えるというのは、こういうことを言うのだろう。
しかし、彼は殺気も出していないのに。そもそも彼女を溺愛(できあい)しているこの男が、彼女に本気で殺気をむけるはずもないのだが。陰陽師の気迫——妖怪なども発する霊力と呼ばれる力——は、そのまま圧力となる。そして下位の者は、上位の者の気に充てられると酩酊状態になったり、恐慌状態にすらなる。とされるが、それは大きな差が有っての場合だ。本気で力をむけられてもいないのに。
「申し訳ありません祝幻様」
最初から理解していた。故にこそ彼と率先して触れ合わないようにもしていたのだ。会釈して琴葉は彼の腕から離れていく。祝幻は長い溜息を吐いて、改めて歩き出す。自分には行為があっても、あちらが慣れてくれないのならどうにもならない。
「なぁ、千里君よ。妹を護ってやってくれないか」
「当たり前ですよ。何せ同じ部隊ですしね」
敵意のある目で千里は、祝幻の背中を見ながら言う。勝手に溺愛する勝手な男が、どの口で言う。胸中で叫ぶ。檜扇家にお暇すること自体は大歓迎だが、祝幻は嫌いだ。
遠く高い壁を感じながら。紅一点の肩を抱いて。誓う。蛇に同胞が食われないように、強くなると。そんな格好をつける千里だが、結局、彼が去って10秒もしないうちに琴葉から、裏拳をくらい這いつくばることになるのだが。
————————
一方、その頃、潮は疑念を胸に抱えながら、祝幻に言われた場所へと進む。地図を片手に、自慢の身体操作術を駆使し文字通り一直線に。
『準備はした。あの男を信じたわけじゃない。これが罠だとしても、逃げに徹すれば』
最近、潮は伸び悩んでいる。都子曰く、才能量はまだまだ有るらしい。修行が実を結ばないように見えるときは、タメの時期に入っていて、効果が一気に出る前兆だと言っていたが。潮としては、そんなまどろっこしい時間が耐えられず。
「力だ。力が欲しい」
絶望的な力を見た。止まっている暇はないほどの。全ての才能を早いうちに開花させていかなくては。世界には絶対追い付けない。
「なぁ、若いの。そう、急ぐなよぉ。そんなに時間がねぇのかい!?」
真後ろから声が響く。ねっとりと纏わりつく低めの声が。
『後ろを取られた!?』
「貴様、何者だっ!」
振り向きざまに抜刀するが、刃は剣で防がれるどころか、片手で受け止められていた。
「江鯨刃輝(えげい ばき)!」
この辺では珍しい衣装に身を包んだ白髪交じりの髭を生やした男が、自らの名を叫ぶ。それと同時に裂帛の波動が遊(すさ)び、潮は吹き飛ばされる。しかし、彼はすぐに空中で体勢を立て直し、大木を蹴り牙輝と名乗った男へと切りかかる。
「威勢は良いみたいじゃぁねえか。だが、お前の剣、軽いぜ」
潮の剣を刃輝は先ほど同様、片腕で弾く。
『コイツ……強い!』
潮は苛立ちを露わにしながら、もう一振りの剣に手をかけた。しかし、その瞬間、脇腹に蹴りが入り、潮は吹き飛ぶ。
「ふーん、肉体強化の術は中々良い感じじゃぁねぇの」
軽い口調で男は言う。
- Re: (合作)闇に嘯く 2−10執筆開始 ( No.42 )
- 日時: 2017/03/05 21:25
- 名前: ダモクレイトス ◆MGHRd/ALSk (ID: 7PvwHkUC)
牙輝の痛烈な一撃を喰らい、脂汗を流す潮。森林内にある叢(くさむら)に落ちた彼は、息を整えながら考える。全く気取らせず後ろを取った隠密能力といい、潮を圧倒する格闘能力といい明らかに格上だ。普通に突っ込むだけでは勝機はない。
『冷静になれ。三重松潮っ! ここであんな奴に殺されるようじゃ、あいつにはとどかない!』
脳裏に浮かぶは、怨敵の姿。名を世界という。あの天変地異と比べて、対峙している存在の強さはいかばかりか。推し量る。
『あぁ、全然弱ぇ。あいつだったら、幾ら手加減されてても最初の一撃で死んでる』
考えるまでもない問答に頭(かぶり)を振って、潮は顎に手を当てた。つまりはこの程度の相手に、梃子摺(てこず)っていては話にならないということ。人生は短く、世界という怪傑もまた、成長を止めないのだ。この男と対峙している間に、自らは敵対者を超えねばならない。そう、心に言い聞かす。逃げるという選択肢は最初からなかった。なぜなら、目的の場所はここである。
「よぉ、考えはまとまったかよ?」
手を地面について、体を強引に起こそうとする潮の後ろ。先程の男の声が響く。悠長に立ち上がっている場合ではないらしいと知り、潮は素早く飛び退る。それに呼応するように江鯨牙輝は、武器を抜く。
『あれは……二丁拳銃かっ!』
「チャカは良いよな……遠距離からバンバンやれるが、弾数に限りがあるから、無駄打ちをしちゃいけねぇ」
黒光りする銃口を凝視しながら、潮は唇を噛む。今まで武器を抜かずに戦ってきた相手が得物を手に取った。唯でさえ実力差があるのに、その差が大きく広がったのを痛感する。得物が銃ということは、本人としては格闘技術は高くないと言っているようなもの。それで潮を圧倒している。
『ヤバいぜ。どうするよ……』
十中八九、実弾は存在せず、空気中に存在する霊子を吸収凝縮して射出するスタイルだろう。弾足や威力、相手の射撃精度がどの程度か。とりあえず分かっているのは、このまま棒立ちでいることは良い的だ。
今は全神経を逃走に注ぐ。目の前の男以外に伏兵はいないか。地の利は相手にあり、罠が張られているかもしれない。不安になる要素は幾らもあったが、今この瞬間、正対して江鯨に対抗する手段が浮かばない。
「逃げるか。賢明な判断だ……一時の恥より、命が大事さ。何せお前には目的があるしな」
背を向けて、全力疾走する潮を見詰めながら、男は呟く。元より彼としては青年を殺すつもりはない。頭目たる丸子の命を受けているからだ。彼の役割は、今の潮に実力不足を思い知らさせ、そして彼に足りないものを自覚させることだ。ある程度距離が離れたところで。
「さて、と。始めるか」
江鯨は跳躍し木の枝を足場にして走り出す。高所にいるほうが有利だ。人間は元より上より前から下を見るようにできている。ゆえに相手にとっては上は死角となり、追跡者にとっては相手を探し易い。ほどなくして江鯨は逃走する彼を見つけ出す。訓練された戦士らしく、なるべく草丈の高い場所を通り、相手の狙いをつけられないようジグザグで。
「成程。中々様になってるじゃないか。逃げるのは嫌いなほうだと思ってたが。しかしよ……この山から逃げられるわけにはいかねlのよな」
江鯨は軽い口調で嘯きながら銃を撃つ。彼は昔、陰陽連に在籍していたことがある。その際に当然ながら逃走術も学んでおり、その基本も熟知してる。つまり穴を知っているということだ。それを計算に入れ、時間差を想定。所謂相手を理解した上での余地射撃だ。
「ぐっ! あぁぁっ! くそっ! 当たった……どこから狙ってやがる?」
3発程度放った弾丸は、見事に1発が潮の肩を貫く。全て江鯨の計算通りだ。当然江鯨としては全力で撃った弾丸ではないが、潮の張った霊力の壁を軽々と貫く。地べたに這いずり潮は嗚咽(おえつ)しながら辺りを見回す。風上をとられた上に、相手は此方を上から俯瞰している。
木々が成長していて、茂みが邪魔で相手を確認はできないが、確実に優位なポジションを取られたと言って良いだろう。3発程度で攻撃を命中させる精度。そして、足に霊力を集中させていたとはいえ、最低限の防御壁は張っていた。それを軽々と貫通する銃撃の威力。
『ヤバイ……嵌められたか!? いやっ、俺なんかを嵌める理由が思い浮かばない。じゃぁ、何だ? 狙いが……』
一瞬で理解する。逃げることはおそらく適わないだろう。当然、逃走すら困難な相手に勝てるはずもない。地の利もあちらにあるはずだ。脂汗が噴出す。そして、祝幻の言葉にまんまと乗せられたことを後悔して俯く。
「おいおい、簡単に諦めすぎじゃねぇかぁ? お前、世界を倒したいんだろう? あいつは俺なんかより遥かに強ぇぞ?」
すぐ近くだ。敵対者の声が響く。案外近くから狙撃されたのか。否、おそらくは違う。発砲された音と着弾する時間から、それなりに距離があったはずだ。だが、今は明らかに付近にいる。10メートルも離れていないだろう。つまり、少しの間立ち止まり痛みに悶えている間に、相当の距離をつめられたことになる。
大きな差だ。現状では小細工を労じたところで勝ち目がないほどに。どうやら相手はそれなりに此方の事情を知っているようだ。恐らく祝幻から情報を得ているのだろう。彼の言葉に潮は苛立つ。その通りだ。こんな所で立ち止まっていては、絵空事と嘲笑されて当然。あの日見た仇敵の力。決して抗うことができないような神の炎と神速の剣術。
「……勝てなくても、無理でも! 俺はっ! 立ち止まってちゃいけないんだ!」
拳を強く握る。現状の差は嫌になるほど知っている。しかし、彼は諦められない。決してあの九尾を許せないのだ。家族や友を、隣人を暇つぶしのために皆殺した不倶戴天の怨敵。相手の強さと自分の弱さを知るほどに、復讐心は強まっていく。
潮の言葉に江鯨は笑う。無茶苦茶な子供の戯言と、大概の大人なら切り捨てるに違いない。しかし、江鯨はそれが好きだ。強い意志に満ちた、魂の炎が宿っている瞳。自分も強い意志を持って、陰陽連を抜け出したことを思い出す。
「なら、力が欲しいだろう」
先程までの挑発的で軽薄な口調とは打って変って、厳かな声で江鯨は言う。直接的に受けておれば、それは力を与えてやるということだ。