複雑・ファジー小説
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- (合作)闇に嘯く 3話【執筆開始】メンバー急募中!
- 日時: 2018/02/10 14:46
- 名前: 闇に嘯く製作委員会 (ID: lmEZUI7z)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=8423
本小説は風死、狐、末端ライター、noisy、みすずによる合作です。
5人とも多忙の身でありますので、更新速度は早くはありませんが、どうか寛容な方々見守ってくだされば我々にとっても力となりましょう。
製作メンバー一同、知恵を結集し設定を造りあった作品です。出来うる限り皆様を楽しませようと頑張りますので、よろしくお願いします。
題名の件に関するカキコミ >>56
序幕————
行けども行けども、生きている人はいない。茜色に染まる夕暮れ時でなお、路上を覆う赤黒い液体、すなわち血液は目立つ。
誰もが事切れ、絶望に顔をゆがめている。誰もが五体はバラバラで、腸を吐き出し見るも無残に死滅しているのだ。
「神様、たすけてっ! たすけてよっ!」
走る少年とも少女とも取れる子供は叫ぶ。高い声が震え悲壮感を増す。誰も答えるものなどいない。しまいに子供は血に足を取られ、転倒した。痛みに涙を流しながら這いつくばるが、途中で動くのをやめる。
「小僧。悪(にく)いか。いな、小娘かも知れんが、とりあえず聞こう。この惨状を引き起こした犯人を殺せるなら嬉しいと思うか?」
「……何言ってんだ?」
どこからともなく、音もなく現れた渋い声の男。赤の世界にあってなお紅い衣に身を纏った野生的な顔立ちの偉丈夫(いじょうふ)。その人物の言葉が理解できず、子供は怪訝そうに口を動かす。絶望的な状況に心が動揺して、単純な言葉しかでてこない。
「俺がやったと言っている。我が名は世界。貴様は良い目をしているな。この絶望の中で反骨心に溢れているぞ。繰り返す。俺は世界、お前の住む町の全てを破壊した男だ。悪かろう、殺したかろう。なぁ?」
愉悦を含んだ男の唇は口裂けのように釣り上がり、恐怖ばかりが膨張していく。全身から大量の汗が吹き出てくるのを感じ、子供はこれは夢だとついに目を伏せた。しかし世界と名乗った男はそれを許さず。閉じた目を強引に上けながら、子供を背負う。
「名を何という。目を背ける振りをするな。貴様の中にある、強大な野心を俺は見逃していないぞ。そうか、これでは足りぬのか。あぁ、足りぬらしいぞ。なぁ、もう1人の世界よ」
「良い良い。では、見るが良いぞ。そちの世界が完全に消え去る様を」
「あっ、あぁ……」
独り言のようにつぶやく男の声に答える、人間のものとは思えない声。見上げるとそこには、到底見逃すとは思えない、強大な白銀の狐が宙を浮いていた。それに向かい、野性味溢れる男は跳躍する。
「そらっ、見ておれ。このひと吹きでそちの世界は、塵も残らず消えるぞ……」
軽く息を吸う。大気が揺れ、口腔から熱波がもれる。勢い良く狐が息を吐き出すと、それと同時に巨大な青白い炎が発射され。発射され——町に着弾。強大な渦を発生させたかと思うと、巨大な塔が如き火柱を上げ、次いで大海の荒波がごとく大地を蒼炎が飲み込んで行く。
飲み込まれた後は何も残らない。空にある雲すら食らうように、炎のアギトは大地を人を家を手当たり次第に食(は)み無と変えていく。弔いすらさせてはやらない、と無慈悲に。ただ生き延びてしまった子供は受け入れがたい現実に呆然とするしかない。
「許さない。俺は……あんたらを許さ、ないっ!」
「そち、名は?」
うわ言のように糾弾する子供に狐は問う。
「三重松潮(みえまつうしお)。あんたらを殺す、男の名前だ」
涙ながらに彼は宣言する。自らの名を、そして自らの宿業をそれと定め。3人兄弟の長男に生まれた責任感と、この故郷を強く愛した愛慕の情を胸に迷いもなく。その様を見た世界は笑みを浮かべ、2人とも一瞬で姿を消した。
————
木漏れ日の明るさに夢はかき消され、夢の中では小学生程度だったろう男、潮は目を覚ます。
「夢、か。今日も1日が始まるな」
カーテンを開け、10年前の悪夢から醒めた潮は目を擦る。今日も1日が始まる。命がけの戦いの朝だ。鏡に映る自らの顔を眺める。昔のあどけなさは最早微塵も感じられない、精悍で少し厳しさを感じさせる戦士の顔。それなりの修羅場を潜り抜けてきたと実感する潮。
「だが、まだ、まだ足りない。世界には全然遠い」
歯噛みするようにそう言って、彼はベッドから起きあがった。
————序幕終了
序幕は、風死がお送りしました!
注意事項
1.更新速度は決して早くはありません。ご了承ください。
2.少しグロテスクな表現などが含まれると思われます。ご了承下さい。
3.保留中も感想やご指摘はOKです。むしろよろしくお願いします。
4.物語に関係ないことや広告、荒しはご法度です。
以上です。
本編目次
第一話『徒波に響く』 狐執筆
現状更新レス
>>1 >>2 >>3 >>4 >>5 >>6 >>7 >>8 >>9 >>10 >>13 >>14 >>15
>>16 >>17 >>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25 >>26
第一話完結
第二話『暗く寒い夢の中で』 風死執筆
>>27 >>28 >>29 >>30 >>32 >>34 >>36 >>37 >>40 >>42 >>44
>>45 >>46 >>47 >>49 >>51 >>53 >>54 >>55
第二話完結
第三話『Unforgiven』 noisy執筆
>>58
お客様
書き述べる様
更新開始日:2015 5月5日 1話 執筆開始
2015 10月29日 2話 執筆開始
2018 1月30日 3話 執筆開始
- Re: (合作)闇に嘯く ( No.2 )
- 日時: 2015/10/11 13:59
- 名前: 狐 ◆4K2rIREHbE (ID: owa39mxZ)
「ところで、陰陽連から連絡はないのか?」
潮の問いに、琴葉は携帯を取り出し確認すると、首を左右に振った。
「ええ、前に聞いた事件の概要以外は、何も。詳しくは、郡長から聞けってことじゃないかしら」
「……そうか」
潮は、運転手に一礼すると、車の取っ手を握り、そのままドアを外へと押し開いた。
潮、琴葉の順で、激しい雨の中に降り立つ。濡れた草や土の匂いが、鼻をかすった。
車から降りた2人の姿を見て、宗像郡への入り口に立っていた村人の1人が、頭を下げる。
彼に導かれるまま、ぬかるんだ地面を進んでいくと、雨で霞んだ景色の中に、横に長い木造の屋敷が見え始めた。2人は、荷が濡れぬように身を縮めながら、小走りで屋敷へと上がり込んだ。
天井は低いが、引違戸(ひきちがいど)が取り外されているせいか、屋敷の中は思いの外広く感じられた。床の四隅に備え付けられた燈台の明かりがゆらゆらと揺れて、暗く沈んだ人々の横顔を照らしている。
広間には、茣蓙(ござ)が敷かれており、その上には5人の死体が並べられていた。それらは皆、一様に同じ作業服を纏っている──製鉄所建設のために来ていた、視察員であった。
この宗像郡に、新しく製鉄所を建てる話が持ち上がったのは、最近の話である。そして、そのために土地の下見に来ていた視察員や測量士達が、立て続けに首を吊るされた状態で発見され始めたのが、6日前のこと。郡の発展のためにも、製鉄所の建設を心待にしていた村人たちにとっては、由々しき事態であった。
潮は一通り死体を眺めると、壁際に並ぶ村人達の方に歩み寄った。
「郡長は、どちらか」
尋ねると、白髪混じりの中年の男が、一歩前に出た。軽く頭を下げた郡長に対し、潮と琴葉も会釈を返すと、潮ははっきりとした声で言った。
「改めまして、怡土郡(いとぐん)の陰陽寮から参りました、陰陽師の三重松潮と檜扇琴葉です。後程もう1人加わると思いますが……ひとまずは私共に、ことの詳細をお聞かせ願いたい」
潮の言葉に、村人達は驚きを隠せぬ様子で、騒ぎ始めた。妖怪退治にやってきた陰陽師が想像以上に年若く、動揺しているのだろう。
郡長は、少し戸惑ったように頷いて、死体を一瞥すると、潮を見つめた。
「……ええ、その……詳細と言いましても、ご覧に頂いた通りなのですが……。ここ5日、毎日必ず、製鉄所関係でこの郡を訪れた方々が、1人ずつ殺されておりまして……。原因等は分からないのですが、その殺され方が、木の高い位置に首を吊られているという奇妙なもので、おそらくは妖怪の仕業ではないかと、陰陽寮にご連絡させて頂いたのです……」
郡長の話した内容は、同じ件で製鉄所の職員達から陰陽寮に寄せられた依頼と、全く同様だった。
- Re: (合作)闇に嘯く ( No.3 )
- 日時: 2015/06/27 21:14
- 名前: 狐 ◆4K2rIREHbE (ID: ATRgYs44)
郡長がいい終えて、口を閉ざした時。屋敷の入り口あたりで、不意にざわめきが起きた。
一同が振り返ると、村人達にへこへこと頭を下げながら、1人の狩衣姿の男が、こちらに向かってくるのが見える。無精髭を生やし、ぱさついた髪を揺らしながら歩いてくるその男は、潮達よりは幾分か大人びて感じられた。
「おーおー、わりぃな。遅れちまって」
悪びれる様子もなく謝ってきた男に、潮は激しく顔を歪めた。そして、そのまま突進するように詰め寄ると、男の胸ぐらを掴み上げる。
「おい千里! いい加減にしろ。貴様はどれだけ任務に遅刻したら気が済むんだ!」
千里と呼ばれた男は、面倒臭そうに肩をすくめると、掴みかかってきた潮の手をぺしぺしと叩いた。
「うるせえなあ、そんなに怒るなって。遅れるといっても、ほんの少しだろ?」
「少しだろうがなんだろうが、遅刻は遅刻だ!」
「だって今日は急に雨が──」
「言い訳は聞き飽きた! そもそも、ちゃんと送りの車に乗らないのが悪いんだろう!」
やかましく言い合いを始めた二人をちらりと見て、琴葉は肩を落とすと、潮に代わって郡長に近づいた。
「騒がしくして、申し訳ありません。彼がもう一人の陰陽師の、飯塚千里(いいづかせんり)です。お見知り置きを」
「え、ええ……分かりました」
琴葉は、荷の中から資料を取りだし、それをぱらぱらと捲りながら口を開いた。
「……話を戻します。製鉄所の者は既に宗像郡を離れたとのことですが、それ以来あなた方には一切被害は出ていないのですよね?」
「はい、私達には何の被害も出ておりません。といっても、製鉄所の方々がいない夜を過ごすのは今晩が初めてですから、なんとも言えませんが……」
未だに取っ組み合いの喧嘩を繰り返す潮と千里を気にしながら、郡長は答えた。
「……なるほど。ということは、事件は、必ず夜に起こるのですか?」
「ええ、そうです。物騒だから夜は出歩かぬようにと呼び掛けているのですが、朝になると必ず首を吊られた死体が……」
一瞬、郡長の瞳に怯えの色が浮かんだ。これまで標的となっていた製鉄所関係の人間が撤退した以上、次は村人が狙われる可能性も十分に考えられるのだ。こうして恐ろしがるのは、当然の反応であった。
天候次第だが、今夜には動いた方が良いだろうと判断して、資料を荷の中にしまいこむと、琴葉は潮と千里の方に向き直った。
「千里くん、貴方の式に宗像郡全体を監視させてくれないかしら。何か怪しい動きがあったら、すぐに気づけるように……」
琴葉の声は、尚も不毛な言い争いを続ける2人の怒号に、簡単に飲み込まれて消えた。途端にきりきりと痛み出す胃に、琴葉は苛立ったようにその蒼髪をかきあげる。潮と千里のいがみ合いは今に始まったことではないが、日頃からところ構わず勃発するそれに、彼女の鬱憤(うっぷん)は着々と蓄積しているのだ。
「ほら、もう……みっともないでしょう。いい加減にしてよ」
多少声音を強めて言うも、やはり2人には届かない。これはもう、収束するのを待つしかないだろう。
琴葉は、ひとまず村人の解散を郡長に言い渡すと、再び並んでいる死体を見つめた。
- Re: (合作)闇に嘯く ( No.4 )
- 日時: 2015/06/09 23:20
- 名前: 狐 ◆4K2rIREHbE (ID: dfg2.pM/)
「我、汝を召喚す。
汝、遥かを見渡す、千の眼を持つものよ。
我が盟約に従い、来たれ──鷹の目!」
千里の詠唱に応え、姿を現した鷹型の妖怪──『鷹の目』は、現出してすぐに、弾けるようにして霧散した。それを見届けて、千里は満足げに笑む。
千里の式である鷹の目は、周囲に放った己の同位体の視覚情報を、主である千里に送る能力を持つ。これで、宗像郡全体に監視網を張れたようなものだった。
「おーし、やったぞ琴葉ー」
「ええ、お疲れ様」
ひらひらと手を振りながら、こちらに戻ってきた千里に返事をして、琴葉は潮を見た。
潮は、茣蓙に並ぶ死体を、屈んで観察している。村人たちが屋敷から出ていった今、遠慮をする必要はもうなかった。
「……どう? なにか分かった?」
問いかけてきた琴葉に、潮は、死体の顎を軽く持ち上げて、首に残った絞め痕を見せた。縄目がくっきりと刻まれているその皮膚に、既に血の気はない。
潮は、そっと死体の顎を元に戻すと、立ち上がった。
「首の痕からして一目瞭然だが……今朝見つかった死体の顔は、まだ鬱血(うっけつ)して腫れている。郡長の言う通り、死因は全員縊死(いし)と考えて間違えないだろう」
潮の言葉に、2人が頷いた。
「まあ、首吊り死体を木に下げるなんて、見せしめにしてるとしか思えん。大方、この辺りに棲みついてる妖怪が、製鉄所建設の話を聞いて、自分の住み処がなくなるってんで焦ってやったんだろ。あるいは、信仰されなくなって、妖怪化した土地神かなんかの仕業か?」
どこか他人事のように言った千里に、潮が表情を曇らせる。また喧嘩に発展しては敵わないと、琴葉は慌てて口を開いた。
「そうね、私もそう思うわ。製鉄所の人間ばかり狙われているという時点で、製鉄所の建設が原因であることに間違いはないでしょうし……ね?」
「ああ……そうだな。あとは、どう妖怪を捕らえて、始末するかだ」
考え込むように、潮が拳を額にあてる。すると、千里が肩をすくめて言った。
「おいおい、俺が何のために鷹の目を召喚したと思ってるんだよ。この宗像郡は、俺が見張ってる。夜まで待って、怪しい動きをする奴が現れたら、すぐ出ていって退治すりゃあいいだろ」
潮はすっと目を細めて、千里を睨んだ。
「怪しい動きっていうのは、つまり村人が犠牲になる瞬間か? それを目撃してから、俺達がその場所に間に合う保証なんてどこにある? 被害者が出てからでは遅いんだぞ」
千里が、微かに眉を寄せた。
「じゃあ、どうしろっていうんだ? 出現場所もばらばら、敵がどんな手を使うのかも分からん。俺達に今できるのは、一晩様子を見ることくらいだ」
「それ、は……」
千里の返しに、潮は詰まった。反論したものの、具体的な策は浮かんでいないのだ。
琴葉は、更に何か言おうとする千里を制して、潮を見つめた。
「潮くん、貴方の言い分はもっともだと思うけど、焦っても仕方がないわ。雨も止んだことだし、千里くんの言う通り、今夜一晩は様子を見ましょう」
- Re: (合作)闇に嘯く 1−4更新 ( No.5 )
- 日時: 2015/06/09 19:08
- 名前: 狐 ◆4K2rIREHbE (ID: O/vit.nk)
潮は、琴葉を一瞥してから、柔らかな光が射し込む引違戸の方を見た。先程の豪雨が嘘だったかのように、空には夕焼け雲が広がっている。
それでも、未だに腑に落ちない様子の潮に、琴葉は静かに息を吐いた。
「……大丈夫よ、敵の標的である製鉄所の人間は、もうこの郡にはいないんだもの。絶対とは言えないけれど、村人に被害は出ないと思うわ」
なだめるつもりで言った言葉だったが、しかし、潮はその瞬間、勢いよく顔を上げた。
「それだ! 琴葉!」
何のことか分からず、琴葉は首を傾げる。
「……はい?」
「だから、俺達が視察員(標的)に成りすまして、妖怪を誘(おび)き寄せればいいんじゃないか!」
興奮したようにそう叫ぶと、潮は早速死体が纏っている作業服を脱がしにかかった。
「えっ、ちょっと待ってよ。案があるなら、ちゃんと話し合ってから──」
「囮捜査だ!」
琴葉の制止を遮って、潮は名案だとばかりに目を輝かせる。
そんな彼を呆然と見ながら、千里と琴葉は呆れたように顔を見合わせた。こうして突っ走り始めた潮を止められないことなど、2人はよく分かっていた。
──────
空の蜜色が、完全なる群青に変わったころ。
潮、琴葉、千里の3人は、屋敷を出て、村の中心である十字路に集まっていた。
結局、様子見をしようという琴葉と千里の意見を潮が押し切って、囮捜査をすることになったのである。
「本当に、うまく行くのかしら……」
琴葉は、着込んだ製鉄所指定の作業服を見下ろして、小さく溜め息をついた。その傍らでは、千里が、琴葉と同じくどこか不満げな表情を浮かべている。ただし彼については、囮捜査に対して、というより、話し合いもせずに無理矢理自分の言い分を押し通した潮の態度に対して、不満を抱いているようだった。
囮捜査では、村を取り囲むように広がる森には立ち入らず、ひとまず村の中だけを回ることになった。今後の状況次第では、当然調べることになるだろうが、夜の森を歩くのは、あまりに危険だからだ。
「それでは、打ち合わせ通り、村の中を別れて巡回するぞ」
懐に忍ばせた火矢──矢先に火をつけて打ち上げる簡易的な花火を確認して、潮は言った。何かあれば、この花火を打ち上げて、他の2人に合図を送るのだ。
「私と千里くんはいいけど、潮くんは、いつもの武器がないのだから、気をつけてね」
「ああ、分かってる」
琴葉の忠告に、潮は素直に頷いた。
製鉄所の視察員を装う以上、帯刀するわけにはいかない。戦闘時、術の行使が中心となる琴葉や千里はともかく、日本刀を使う潮にとっては、使い慣れた武器が手元にないと言うのは、些か不安だった。代わりに短刀と呪符は服の内側に仕込んであるが、それでも心許ないのは確かだ。
「んじゃ、とにかくその辺りをほっつき歩けばいいんだな」
「ああ、何かあったらすぐに火矢で知らせてくれ」
「へいへい」
「2人とも、くれぐれも無茶はしないようにね」
一足先に歩を進めた千里を始め、3人は、それぞれ別の道へと歩いていった。
- Re: (合作)闇に嘯く 1−4更新 ( No.6 )
- 日時: 2015/06/10 21:47
- 名前: 狐 ◆4K2rIREHbE (ID: O/vit.nk)
夜闇の中、唯一流れてくる葉擦れの音を聞きながら、潮は周囲の気配を探っていた。物騒な事件が起きているわけだから、村人たちが誰1人として外出していないのは頷けるが、それでもこの静けさは異様だった。
道に沿って並ぶ家々からも、明かりどころか、人の住んでいる気配さえ感じられない。この静寂さは、まるで廃村を歩いているのかと錯覚してしまうほどで、これまで陰陽師として任務をこなしてきた潮からしても、不気味に感じられた。
(……それだけ、事態は深刻と言うことか……)
早く解決せねば、と心の中で意気込んで、空にぽっかりと浮かぶ満月を見上げる。
幸い、今夜は月光が強い。敵を見つけるには、好都合だった。
不意に、うなじにぴりりと鋭い何かを感じた。潮は、咄嗟に仕込んでいた短剣を引き抜くと、反射的に後ろに飛び退いた。
(現れたか──!)
確実に気配があった闇を睨んで、潮は身構える。しかし、睨んだ先に見えた影は、慌てたように手を左右に振ると、潮に近づいてきた。
「おいおい、落ち着けよ。俺だって、俺」
「……なんだ、お前か」
見慣れた無精髭を認めて、潮は肩の力を抜くと、短剣を鞘に納める。千里は、そんな潮に、やれやれといった様子で、肩をすくめた。
「ったく、危ねえなあ。気配感じただけで、いきなり斬りかかってくんなよ。俺だったから良かったものの、一般人だったらどーするんだ」
「……こんな状況下で、背後から近づいてくる方が悪いだろう」
諭すように言い返して、潮は千里に向き直った。
「……それで? 何の用だ?」
問いかけると、千里は腰に手を当てて、面倒臭そうに頭を掻いた。
「いやあ、別に。見かけたから声をかけただけだけど」
「見かけたから? そんな下らない理由で話しかけてくるな」
「だって仕方ねえじゃん、暇なんだから。やっぱ、今夜は何も出ねえだろ。事件だってこんなに頻発してんだ、製鉄所の建設だって先伸ばしになるだろうし。もっとゆっくりやろーぜ」
千里はそう言って、くわぁっと大きく欠伸をした。しかし、潮は千里の言葉に顔をしかめた。
「何を言ってる。製鉄所の建設は延期になどならない。だから今回は緊急の任務で、こうして急いでるんじゃないか」
「緊急の任務?」
怪訝そうに聞き返してきた千里に、潮の眉間の皺が深くなった。
「……そうだ。製鉄所側からの要望で、先延ばしにしたくはないから、早く解決してくれ、と。陰陽寮でそう説明を受けただろう」
「はは、そうだっけ?」
「……貴様、また眠りこけてたな?」
千里は、反省の色を見せることもなく、軽い調子で謝った。