複雑・ファジー小説
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- 僕が贈る愛を【完結!】
- 日時: 2018/09/06 21:01
- 名前: モンブラン博士 (ID: mrjOiZFR)
構想期間半年以上を費やし、ようやく執筆する事ができました。
本作のテーマは「自己犠牲による愛の形」です。
更新もゆっくりですが、それでも読んでいただけますと幸いです。
タイトルはゆづさんのアイディアです!ゆづさんありがとうございます。
- Re: 僕が贈る愛を ( No.1 )
- 日時: 2016/08/12 21:36
- 名前: モンブラン博士 (ID: EBP//tx7)
ここは、私立北徒十字星(ほくとじゅうじせい)学園。
小学から高校まで一貫してあるこの学園の中等部二年に、全校生徒の注目を集めている生徒がいた。その生徒の名は、アップル=ガブリエル。
彼はアメリカのギムナジウム(中高一貫校)から一年の五月に転校してきたのだ。
どうして彼が遠い外国である日本の地に転校してきたのか。
それは、両親の経営しているケーキ店が店舗を拡大し、日本にも支店を出そうという話になり家族揃って引っ越してきたからである。彼は賢い子であったため、転校前から日本語を熱心に学び、日本に移住してきて僅か一か月で母国語である英語と同様に非常に流暢に会話をする事ができた。
彼は転校生——それも外国人であるため、皆の注目を集めた。
だが、普通の転入生ならばクラスメートの興味もすぐに冷めてしまうものだが、彼の場合は違った。なぜか。それは、彼の容姿があまりにも愛くるしかったからである。
首のあたりまでかかる、ふんわりと柔らかな金髪に、切れ長の水色の瞳、日本人よりも遥かに白い雪のような肌を持つ、誰でも彼の顔を見た瞬間に一目惚れしてしまうほどの容姿だったため、彼は女子は勿論男子にまで深く愛されるようになった。
当然ながら、それはルックスだけで成せる業ではない。
その外見に加え、彼の誰にでも分け隔てなく温かい優しさを注ぐその慈悲深さもあったため、皆は彼をすぐに好きになったのである。もし、彼がその外見で傲慢かつ嫌味な性格だったらどうだっただろう。いかに美形であったとしても、たちまち彼の人気は地に落ち、彼は孤独な毎日を過ごすはめになったに違いない。そうならなかったのは、彼が天に一物も二物も与えられていたからに他ならない。
さて、彼はそのような魅力を持つため毎日のように男女から愛の告白を受けていたが、その度に彼は悲しそうな顔をして、涙を流し、口を開く。
「僕を愛してくれてありがとう。でも、僕、好きな人がいるんだ。だから——本当にごめんなさい」
そんなアップル=ガブリエル少年が恋心を抱いている人物、それは読者の諸君には意外かもしれないが、同性であった。
- Re: 僕が贈る愛を ( No.2 )
- 日時: 2016/08/12 21:39
- 名前: モンブラン博士 (ID: EBP//tx7)
彼が誰よりも深く愛する人物。
それは彼より一学年上の中等部三年の剛力徹(ごうりきとおる)であった。剛力は所謂イケメンではなく、どちらかというと狼に近い顔立ちをしたワイルドな男だ。ボクシング部の主将かつ生徒会長も務めている文武両道な優等生であり、統率力に長けたカリスマ的存在の男である。常に冷静かつ無愛想でキザな一匹狼ではあるが、女性に対しては紳士的で女子なら誰であっても「お嬢さん」と呼ぶ礼儀正しさも持ち合わせている。彼の信念は「有言実行」である。
普段はキザな発言が多く、初対面の人間からすると気取っている印象を与えかねない彼であるが、言った事は必ず成し遂げるその行動力と実力が多いに教師側からも信用されている。
例えば、彼は以前「ボクシング県大会を全て1ラウンドKO勝ちで優勝する」と発言。そしてそれを見事にやってのけたのである。他にも「苛めのない学校にする」と言い、すぐさま手配をして苛めのアンケートだけでなくカウンセリング室の使用を積極的に呼びかけ、スクールカウンセラーの増員、監視カメラの設置などを提案し、自ら率先して動く事により、校内でのいじめは全くと言っても過言ではないほどに減少した。しかしながら、彼はそれでもまだ足りないと語る。
「登下校の最中に上級生や他の学校の奴らに目をつけられている奴もいるかもしれねぇじゃねぇか。だから、それも視野に入れて考える必要があるんだ」
冷静で的確な指示と、実行力で中等部をまとめ上げる彼に、いつしかアップルは憧れから恋にその思いが変わってしまったのだ。
アップルは転校して僅か二か月で彼の魅力の虜になってしまった。
彼にしてみれば、剛力はさながらスーパーヒーローのような存在だった。けれど、ある日それは自分と学年が違い直接会話をした経験がないため、そのような感情を抱いているのかもしれないと考えた彼は、勇気を出して彼のいるクラスに会いに行く事にした。
中等部の三年三組。そこに剛力は所属していた。クラスメートとは自分に仲間が依存しないようにと一定の距離は保ちながらも、仲良く楽しくやっていた。無愛想ではあるが根は優しく誰にでも平等に接し、上下関係を気にしない性格は、例え相手が高等部であったとしてもその中等部ながらに圧倒的な貫禄と迫力で決して物怖じしたりせず、理不尽な意見は真っ向から勝負に挑む事からもよく分かる。だが、それは同時に後輩に対しても権威で語らず対等に話すため、アップルが彼の元を訊ねてきた際も、快く歓迎したのである。
「お前がアップル=ガブリエルか……『中等部のアイドル』って噂はよく聞いているぜ」
彼がニヒルに笑うと、アップルもつられて微笑む。
「それで、俺に何か用でもあるのか?」
「はい……あの、もし時間が空いているのであれば、僕とお話していただけませんか?」
剛力は気づかれないように傍にいた補佐を務めている女子の生徒会副会長にアイコンタクトを送った。
『お嬢さん、悪いが、俺に宛てられた今日の用事は全部キャンセルして貰えますかね?』
『OKよ、剛力くん』
『感謝いたしますよ』
彼は態々来てくれたアップルを落胆させたくないと、用事を全部断って彼に付き合う事にしたのだ。相手を喜ばせるためなら、時には大胆に行動する場合もあるのが、彼の生き方である。