複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~
日時: 2015/12/13 03:31
名前: IDL:Project (ID: EZ3wiCAd)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=70


『カミサマを信じてないわけじゃない』

『でも選ぶのは個々の勝手だろう』

『何に使って結果どうなろうが』

『それはあくまで手段に過ぎないのだから』

『使うも自由、使い道も自由』

『思うが侭に楽しめばいい』

『誰だって』

『自分の人生で』



『主人公だろう?』



◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆



【基礎情報】
タイトル:IDOL-A Syndrome 〜全世界英雄症候群〜
小説形式:リレー小説
投稿場所:複雑・ファジー板
ジャンル:複雑
投稿形式:順番制

【参加者様】
現在、リレーに参加している書き手=IDL:Projectのメンバーです。敬称略。
番号がそのままリレーの順番です。何かメッセージがあれば行間にどうぞ。
①空凡
「最近家事手伝いにはまった」
③戦崎トーシ
「こけおどしのししおどし」
④Satsuki
「そろぼち落としどころを考えましょうか」
⑤チャム
「忙しさは12月いっぱい続くんじゃ >年末に向けてバイトの日数増やしたら嫌がらせのような連日出勤の塊が生成されておりましたとさ。うわばらー」

休参者
②Orfevre(高坂桜)

【次回投稿予定者】
空凡     12/12経過
戦崎トーシ  12/18迄

【連絡事項】
参加者様や読者様に宛ててメッセージがある場合ここに追記していきます。
・プロローグが終わりました、これより本編に片足を突っ込んでいきます。
・現在、リク板スレにて追加参加者を募集しています。

【目次】
Prologue:>>1-12
Chapter 1「Mate is behind Team , cannot In」 >>13-36

>>1-36

Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.22 )
日時: 2015/10/30 18:51
名前: 戦崎トーシ ◆TYZSwCpPv. (ID: /bs85MAK)

「こけおどし?」
「いやはや、お恥ずかしい限りです」

 虚仮威し、言い換えればフェイク。
 2台も設置するとなれば費用もそれなりの額になるらしく、ちゃんとしたものは購入できなかった、と神主は語った。しかし形だけでも抑止力になるらしい。事実、レンズの向こうは空ろだと分かっていても、監視カメラの『視線』をチリチリと感じる。
 
「おかげさまで、捨て猫の数は減りました」

 足袋を履いた足元を、赤い首輪を着けた猫がすり抜けていく。遼火は猫へ視線を落とす。しなやかな胴に生える橙の毛は、どれも同じ方向に流れていた。

「その子も捨て猫ですか? その割には、随分と綺麗に見えますが」

 彼は、遼火が見る方へ目を向けた。そこではさっきの猫が呑気に毛繕いをしている。「おそらく彼は『通い猫』でしょう」と、神主は言った。

「先ほども申し上げたとおり、ここには放し飼いの子も何匹かいます。ここと自宅を行き来きする子、餌を貰う為に幾つかの家を転々とする子、実に様々です。『通い猫』とは——私が勝手にそう呼んでいるだけですが——そのような猫たちのことです」
「なるほど……」

 後者は放し飼いと言えるのか怪しいものだ、と遼火は思う。
 赤い首輪の猫は、毛並みからしてきっと前者だろう。美しい毛並みは栄養が足りている証拠だ。モモコも同じなのだろうか。写真の中だと、栄養不足には見えず健康体といった感じだったが。

「彼は稀ですよ」
「そうなんですか?」
「どこで何を食べたのか分かりませんから。こちらで餌の量が把握できず、肥満になったり痩せ過ぎてしまったりする通い猫が大体なのです」
「モモコはどうでしたか?」
「そうですね……痩せていましたし、やや毛が荒れていたので、栄養不足だったのではないかと」

 遼火の脳裏に1人の依頼人の顔が思い浮かんだ。

 ——『市販のキャットフード、だけですね』
 ——『私が飼いはじめてからもう2年、3年くらいです』
 
 モモコに与えられていたのは市販のキャットフード。キャットフードについてはよく知らないが、猫に必要な栄養分がバランスよく含まれている筈だ。しかも彼女は猫を飼い始めたばかりではない。モモコの栄養管理ならある程度できていただろう。そもそも、

 ——『たまにベランダを開けるくらいで、普段はずっと室内で飼っていました』
 ——『あまり動きたがらない子で、だから、昨日もおかしい動きは何も……』

 モモコは室内で飼われていたのだ、ここに来られる訳が無い。なら、ベランダからこっそり抜け出していたのか。だとしても偶に、である。普段は部屋の中で動きたがらない、どちらかといえば肥満になりそうだ。尚更栄養不足は考えられない。
 もう1人の依頼人の顔が、脳内に描き出された。OLには怪しい点が多い。やはり飼い主は少年だろうか。
 それでも、遼火は引っかかりを感じていた。

 ——『だって、家族、だから』  
 ——『お母さんは?』
 ——『居ない』
 
 母の居ない隙間を埋める、大切な家族。夜中ずっと1人で探すくらいなのだから、彼の言葉に嘘は無い。だがいくら放し飼いにしているとはいえ、痩せて毛並みが乱れているのに、そのままにしておくだろうか。自分なら医者に連れて行くなり、室内飼いにするなりして、何か手を打つだろう。もしかすると、少年は猫が痩せていっているのに気がつかなかったのか。否、 

 ——『首輪の右のところに染みと擦り傷がある。擦り傷は触ってる時に僕が爪で付けちゃったんだ』

 気がつかなかったなど有り得ない。首輪の細かな傷を知っている、つまり、彼は首輪をよく見ていたのだ。だとしたら当然、猫が細くなって『首輪と首の間に隙間が出来ている』ことにも気付く。それに、

「わあ、君、美人だねー」
「ハリウッド女優みたいだよ」

 遼火の思考を容赦なく声が割り込み、彼は口元に当てていた手を力なく降ろした。
 完全に当初の目的を忘れている柚子と少年が、1匹の猫を抱きかかえ無邪気に笑っている。少年の腕の中に収まっているのは、さっきの赤い首輪の猫だった。

「お前ら……」
「見て見て遼火くん、この猫ちゃんすっごく綺麗だよ」
「僕、この子初めて見るなあ」
「モモコ探しはどうしたんだ……あと言っとくが、その猫はオスだぞ」
「えっそうなの?」
「神主さんが『彼』って呼んでたからな」
「でも首輪は赤色じゃんか。赤といったら女の子だよ」
「戦隊物の真ん中も赤色だぞ」

「あ、確かに」と少年が神妙な面持ちで呟く。至極どうでもいいことなのに、彼は深く納得しているようだった。齢の割にはませた子だと思っていたが、相応に単純な面もあるらしい。
 ふと、柚子が得意げな表情で遼火と少年を見る。 

「ふふふ……ではここで問題です。回答権は1回だけだからね。これから言う選択肢の中で猫に与えてはいけないものは、どれでしょうかっ!」

 一体自分たちはここに何をしにきたのか。何故
強制参加なのか。

「A、煮干し。B、鰹節。C、牛乳。さてどれでしょう?」

 少年は少し悩んだ後「C!」と答えた。「遼火君は?」と回答を迫られ適当にAを選ぶ。

「正解は——A、B、C全部でしたっ!」
「えーずるいよー」

 少年が抗議の声をあげるが、柚子は「うふふ」とにやにや悪戯っぽく笑うばかりだった。そして指を折りながら「イカ、ネギ、チョコレート、キノコ」と猫に与えてはいけないものを挙げ始める。
 遼火は周りを見渡した。どこを向いても視界には猫がいて、何とも不思議な感覚になる。その中に三毛猫を捉えることはなかった。

「それから、ドッグフードも駄目なんだよね」

 まだやってるのか、と何気なく彼女に視線を注いだその瞬間、彼は、郷烏の指折りが止まるのを見た。 

「あと、猫は柑橘系の匂いが苦手なんだよ…………あれ……?」
「どうしたの?」
「なんか……私、矛盾してること言ったような……」


 遼火は唐突に、無意識に過去を辿る。

「……柑橘系って、なんか、最近……」
「オレンジジュースのこと?」
「多分、それよりも前に……」

 ——ドアノブを握った。捻って押すだけの単純な
 ——壁で隔たれた向こうへ、室内の光が
 ——人物を明確にして

「柑橘系……シトラスの、匂い……?」

 そうして、郷烏より一足早く『そこ』に行き着いた。

 ——ドアを開け切ったその時

 ——『瑞々しい果実の匂い』が鼻腔をくすぐった
 ——『こんな時間にすみません……江藤探偵事務所って、ここですよね?』


「……香水、か」

 郷烏がハッと顔を上げる。

「香水、だよ、遼火くんそうだよきっと、ううん絶対。でもだとしたら……」
「猫を飼ってるのに、猫の苦手な『シトラスの香水』をつけてたって、こと、だよね姉ちゃん」

 彼女はこくりと頷き、遼火を見た。ごくり、郷烏の喉が動く。感動で声を震わせながら、彼女は思わずこぼした。

「遼火くん……なんかこれ、探偵っぽいね……!」
「住所も受け取ってるし、次は依頼人の家に行ってみるか……気になる点は、他にもあるしな」

 言葉尻と同時に一瞬少年を見る。少年はまるで郷烏の真似をするように、目を輝かせていた。来た時と同様に、元気な2人の後を追って再び鳥居の下をくぐる。
 時計の短針は11時以降を示していた。もうすぐで太陽が自分たちの真上に現れる。
「いーん、いーん、おん、おん」。時折セルフで間奏を入れながら、最早洗脳の呪文にも聞こえるCMソングを、こんな時でも2人は楽しそうに歌うのだった。泥濘で汚れた靴底で、コンクリートの道路上に薄い色の足跡をつけながら。


「そういえば、増えてたね」
「? 猫ちゃんのこと?」
「違うよ、足跡だよ」

 遼火と郷烏の足が、はた、と止まった。

「どうしたの? 早く行こうよ」 
「そうだね、行こっか」

 あの時、自分たちのほかに、境内に入ってきた人がいただろうか。
 それは、誰のものだ。

Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.23 )
日時: 2015/10/29 11:06
名前: Satsuki (ID: EZ3wiCAd)

 今更戻れない。
 仕方なく遼火は柚子と少年に歩みを合わせることにした。

「いーん、いーん」
「おん、おん」

 新しい謎だ。足跡が増えていた、しかし"三人はそれを目撃していない"。
 単に目に触れる前に立ち去ったとか、此方が気づかなかったとか、確かにあれだけ猫の視線を浴びていれば感じ逃すことも十分有り得るだろう。
 しかしそんな当たり前に思える情景が、その場所ゆえに当たり前にならなくなった。

「いーん、いーん」
「おん、おん」

 何者かは"来た"。その来た場所は神社である。そして猫猫パラダイスである。
 わりと奥まった場所に位置していたあの神社。お参りするにしろ、猫たちとじゃれあうにしろ、神主に縁があるにしろ、何かしらの目的がなければそうそう足を踏み入れることはないだろう。
 そして目的があって来たのならば、神主は遼火が目をつけていた、猫たちは柚子と少年が目をつけていた、"目撃しないはずがない"のだ。

「いーん、いーん」
「おん、おん、おーん」

 来た時点で目的は既に達成されていた?
 あるいは悟られずに完了できるくらいの簡単な目的だった?
 しかし先に挙げた他の目的があるか?



 尾 行 ?



「まさかな」
「ん、どうかしたの?」
「いや、何でもない」

 かぶりを振っただけのつもりが思わず声も出てしまった、振り向いた柚子に遼火は即答する。
 変なの、と苦笑いのような横顔を残して、彼女は少年との合唱を再開した。
 それを見て、遼火も再び物思いを再開する。

 尾行だなんて。その発想が浮かんだことに遼火は内心で笑ってしまった。
 最後にそんな依頼をこなしたのは何ヶ月前だか。それとももう年単位になるだろうか。
 懐かしいものだ。最初の頃はよく自販機や看板に激突したり、ゴミ箱を蹴り飛ばしたりして、ごまかすのに必死だったものだ。

 サスペンス系の漫画やアニメでよくあるようなベタな尾行シーンというのは、経験者であるから語れることだが、意外とリアルにもよくあるものだ。
 足が必要なものは足が要るし、足が要らないものはそれ以外でまた必要なものがある。徒歩による尾行も、未だどころか現在進行形で現役なのだ。

 さながらカーチェイスのようにわざわざ迂回かつ爆走などを平然とこなした親父には、もしかしたら理解されないかもしれないが。
 遼火が生まれる前の話はあまりしてくれないが、絶対に峠攻めはやっていたに違いないと遼火は思っている。

 閑話休題。

 得体の知れない者に素性を探られる、あるいは探られているかもしれない——といったことの気味悪さは、それを仕掛ける側だった遼火にもひしひしと感じられた。
 しかし、それに近しいものを感じた、だからといって安直に尾行と結論付けてはいけない。そういえば入る時にも誰かの視線を感じたような気がするが、きっとただの思い過ごしだ。経歴が過剰に反応しているだけだ。

 そう、いわゆる職業病だろう。いや遼火の職業は大学生のはずなのだが。

「そういえば遼火くん」

 そこで前からお声がかかった。遼火が顔を上げると、意外と近いところに柚子と少年の姿があった。少し歩みを遅め、遼火に合わせている。
 あのそろそろ眩暈がしそうになってきたCMソングが何時の間にか聞こえなくなったのを感じて遼火もちょうど前を向こうとしていたところだった。
 聞こえないくらいに先行していたわけではなく、単純に声が止まっていた。つまるところ二人もようやく飽きたのだろう。

「……どうした?」
「もうすぐ12時になるよね」
「……そうだな」

 何故その話を振ってきたのか、遼火はすぐに悟った。
 悟った上で、とりあえず待ってみる。

「お昼休みの時間だね」
「奢らないからな」
「えー」
「えー」
「待て、郷烏さんはともかく武瑠お前はもう少し謙遜しろ」

 本当は柚子にも謙遜をしてほしいものだが、——いややっぱり柚子宛てにも言っておくべきだった。

「たくさん歩いたから、喫茶店とかでゆっくりしたいな」
「僕はお昼はオムライスとか食べたいなー!」
「だから謙遜な!?」

 そのお金を出すのはどうせ遼火になるであろうことを考えると頭が痛くなる。
 しかし、確かに遅めだったとはいえ朝食の量が量、遼火も追加で何か胃に放り込んでおきたかった。
 はあ、ため息。出費が嵩む。幸い遼火はただちに困窮を極めるような財布状況ではないが、こう手玉に取られているのはなかなかよろしくない。

「ったく……コンビニでも喫茶店でもレストランでも、一番最初に目に入った所にするからな」

 せめて店くらいは自分で決めさせてくれ、という趣旨を込めてこう発言してみた。

「一番最初だって、姉ちゃん姉ちゃんどこか良いお店知ってる?」
「駅前とかけっこういい感じのお店が並んでたと思うな。確かその辺り通るはずだから……」
「そこ、丸聞こえだぞ」

 もうどうにでもなれである。何よりいよいよ空腹が身を刺し始めてきた。頭も上手く回らない。
 何も入れないという選択肢は無い。できるだけ安く済みますように、と願うばかりだ。

「ん?」

 そんな遼火の身体と頭、だがその目は前の視界に変化が現れたのを逃さなかった。
 前方から誰かが走ってくる。黒い服——スーツか? に身を包んだ人間が、前方から走ってくる。
 テレビ番組で似たような光景を見たことがある。確か芸能人がスーツの集団から逃げるような趣旨の番組があったはずだ。遼火はあまり興味が湧かない番組だったが。

 近づくにつれ男——おそらく男だろう——の全貌が見えてくる。身の丈は遼火よりも高い、黒いサングラスをかけていて目元が見えない、高い姿勢のまま走り込んでくる。
 その只ならぬ非日常感。柚子と少年も気づいたか、少し引き目でその人間を眺める。

 その男は三人の手前で止まった。失礼、と声をかけられ、遼火が顔を見やる。サングラスの向こうは見えない。

「この辺りに猫が集まる場所があると耳にしたのだが、ご存知か」
「それだったら、ちょうどこの道沿いに暫く行くと左手に細い道があるからそこに入ればいいよ」
「……ご協力感謝する」

 少年が伝えると、男は深々とお辞儀をした、と遼火が見た次の瞬間には男は再び姿勢の良い走り込みで三人を抜け、後方へと去っていった。
 それを見送った遼火、視線を戻すと、首を傾げて遼火を見つめる柚子と少年。

 そんな目で見られても、遼火も首を傾げることしかできなかった。

Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.24 )
日時: 2015/10/30 05:32
名前: チャム ◆VFDOEYR7G2 (ID: ugb3drlO)

「何にしようかなぁ」
「僕、このステーキの奴が良い。大きいの」
「何々? セットはライスかパンかで、今ならスープバーも付くんだって。でもサラダバーは別かぁ」
「サラダなんていいよ」
「武瑠君、サラダバーじゃないとね、ゼリーの食べ放題が、食べられないんだよ……」
「食べ、放、題……?!」
「そう。お値段にして590円。中々ね、高いよね……」

 値段を聞いて絶望する小学生にご所望してたオムライスはどこへ行ったと突っ込むべきか、まさに全力でこのランチイベントに立ち向かわんとする彼女に食べ放題の元を取るような時間は無いとキッパリ告げてやるべきか迷いつ、遼火は店員が用意したグラスの水にまずは一口付けた。
 訪れたのはファミレス。値段も手頃、大人も子供もお姉さんも大体の層が気軽に入れるという云わば庶民にとってのお決まりの店である。神社から10分程度の位置にあったのでそのまま入った。

「……姉ちゃん……違うよ……メイン料理を頼んだら……セット料金で280円になるんだよ……」
「……え? ウソだ……」
「……本当だもん。ボク見たもん……」

 ここ。そう言って指差す武瑠少年と砂漠の中で漸く見つけた植物の芽に対するように希望と愛おしさの満ちた目でメニューに微笑む柚子。

「ありがとう。約束された勝利のお店……」(ニッコリ)

 〈エクスカリバー〉と言う。柚子が発したのと同じ名称の上に小さくそうルビが振られているのだが、何度見ても意味は良く分からない。少々長い為、遼火としての呼称は「カリバー」である。略称は「エクス」だったり、何故か「スイカバー」などと呼ぶ者もいる。但し「約束された(略)」で呼ぶものはあまりいない。そう呼ばせられるのは自信過剰的な印象から腹が立つ所為なのかそれは分からない。
 まぁ何にしても。
 このファミレスは全国規模でのチェーン展開をしている店であり特にこの町ではよくよく見かけ、探偵時代は遼火も父親と共に度々世話になった店でもあり、今更メニューに対して目新しさなどは感じない。

「決めたか? 店員呼ぶぞ」
「遼火君は何にするの?」
「俺は」

 言われて視線をメニューに落とす。席の向かいに座る柚子と少年がそこに載る料理に視線を向ける。

「あ、ハンバーグだ」
「ふふふふ。遼火君は、ハンバーグが好きなのかな?」
「別に好きでもなんでもない」

 値段が手頃なのだ。来た時は選ぶ手間も掛けず凡そこれである。ライスとスープが付いても200g500円のワンコインで食べられる。シンプルではあるがこの店の人気メニューであるには違いない。

「サラダバーは? ゼリー食べないの?」 少年が意外そうに尋ねる。
「ああ」

 短く答えて流す。副菜として野菜があってもいいなとは思うが、まさか誰かさんの分の支払いがある所為だとは言えもしない。いや、そこまで切迫した経済状況と言う訳でもないのだが、かといってそこまで豊かだと言う訳でもないので気持ちはどこか節制に向かってしまっていた。そもそも唯でさえ外食というのは高く付くのである。

「良いからさっさと決めろよ。飲み物も頼むんだろ?」
「うん! ……うんと、うんと」
「私決めたよ。後は武瑠君だけ。タイムリミット15秒。1、2、3……」
「え!? うんと、うんと……!」

 そうこうして料理が運ばれて来た。内容は多種多様、十人十色。全員がバラバラである。

「それじゃあ、頂きま〜す」

 几帳面に手を合わせてから漸くまともな食事にありついた3人がそれを食し始める。ナイフを入れたハンバーグからは肉汁が溢れ、ソースの掛かった熱々のそれをフォークで口に運んだ後すかさずライスも放り込む。肉と肉汁そしてライスの絡み合った旨みにさしもの遼火も程々にご満悦な様子を見せる。
 実に空腹と体調に染み渡る美味さである。世の中のグルメな連中からは理解が得られないかも知れないが、この国の昨今の食糧事情から言えば最早味に値段などそこまで厳密には関係していないのだと実感する。

「美味しいね」
「うん!」

 柚子が少年に笑いかけ、二人共美味しそうに食べている。こうして見ると、親子というにはさすがに若すぎだが、精々歳の離れた姉弟、もしくは叔母と甥というところだろうか。そこにある朗らかな空気に決して悪くない気持ちを感じ、遼火は自分の食を進める。
 ぐるりと店内を見渡してみると、店内にはとてもゆったりとした時間が流れていた。窓からは明るい日差しが差し込み、老夫婦、子連れの母親、大学生のグループ、色々な客層が訪れている。休日の昼ということもあり、店員たちは急がしそうでもあり、暇そうでもある。
 他の客たちはこんな日に一体どこへ行くつもりで店を訪れているのか。遼火たちのように猫探しの依頼を受けている訳ではあるまい。

「モモコちゃん、どこにいるんだろうねぇ?」
「言っておくけど、あのおばさんの家には居ないよ? 絶対居ないからね」
「大丈夫だよ、武瑠君。あの人の家に行くのはあの人のウソを見抜く為に行くんだから」

 少年は自信を持った様子であの依頼人が飼い主だと言うことを否定する。柚子は今後の行動指標を固めるようにフォークをクルリと回しながら依頼人の矛盾する行為を挙げている。

「それにしても、あの依頼人がウソを吐いているんだとしたら、どうしてそんなウソを吐いたんだろうね?」
「吐いてるんだとしたらじゃなくて、完全にウソだよ」
「はいはい」

 柚子は笑いながら少年をいなす。
 どうしてそんなウソを。そう。問題はそこである。この謎を解明するに当たり、大きく焦点となるのはその動機である。あの依頼人の目的はなんなのだろうか。

「ただの猫好き?」
「それはアンタのことだろう」
「ちょっとー。そりゃあ私は猫好きだけど、猫嫌いな人なんて居ないよね? ねぇ、武瑠君?」
「でも、ウチの父さん、猫あんまり好きじゃないんだ。犬の方が良いって言って犬飼おうとしたんだけど、犬は母さんが好きじゃなくて反対されたんだ。だからウチには」
「えー、武瑠君のお父さん猫好きじゃないのっ? びっくりー」

 柚子は残念そうにしゅんとして、コップのストローを吸い上げる。

「まぁ、そこはおいおい調べるとしよう」
「さっきも猫の溜まり場の神社に行った時、沢山の猫ちゃん達に出会えて囲まれて時には引っかかれてそりゃあもう幸せだったよ!」
「ああ、まだ続くのか」

 そして、引っかかれたのか。てへへと笑う柚子の手の甲に小さく血が滲んでいるのが見えた。確かにあの時の柚子の顔は猫によっては敵とみなされてもある意味では仕方がなかったのかも知れないと思い返す。
 
「私はね、オシキャットもアメリカンショートヘアもロシアンブルーも好きだけど、やっぱり三毛猫ってカワイイと思うんだよね! さっきも2匹見つけてフェイント掛けながら思わず全力で追跡しちゃった」
「そりゃあ引っかかれるだろうな。仕方がないな」

 何となくL字型に急カーブを決めてもう片方の猫に追い迫る柚子が思い浮かんだ。

「どうしてあんなに無造作な色合いなのに心惹かれるのか、私はそれを大学の論文にしようと思ったことあるんだ」
「マジで?」
「うん。ウソだけど」
「ウソ吐くなし」
「えへへ」

 そして柚子はグラスを持って立ち上がりドリンクバーに向かい出す。それを見て遼火と少年も残りを飲み干し代わりを注ぎに続いていく。

 黒いケースに各種飲料のラベルが貼られたそれの前に立つ遼火たちに店員が「いらっしゃいませー」とか「ごゆっくりどうぞ」とかそういった台詞を投げかける。少年はより取り見取りのそれらの中から次は何を飲もうかじぃっと睨みつけている。
 3人並ぶと場所を独占したようだった。そして丁度、向こうを見ると老夫婦の老人が同じく飲料のおかわりを注ごう並んで待っているのが見えた。

「さっさと注いでしまおうか」
「ねぇ、知ってる? 混ぜたらトロピカルジュースになるんだよ?」
「え、やめ」

 その言葉から何をするのかすぐに察しが付いた遼火だが、言い切る前に柚子はグラスの1/5程度の量を次々混ぜて行く。

「おいおいおいおいおい」

 5種類の飲料の混じったそれは既に何色と呼べば良いのか何とも危ないカラーリングが施されてしまっていた。

「ふふふ」
「ふふふじゃねぇよ。は、恥ずかしいからそういうことは止めてくれ」
「ふふふだよ。もしかして、私のイデアを忘れてしまったのかな、探偵君?」
「!?」

 なんてことだ。というか、なんて無駄な力の発揮の仕方をするんだこの女は。
 確かに周りを見るとこちらに注目している者は誰一人として居なかった。タイミング良く店員達は全て奥に篭り、すぐ後ろに並んでいた筈の老夫婦も何故かドリンクを諦めスープバーでコーンスープを注いでいる。ドリンクのコップに。(それはおかしいだろ爺さん!!)

「うわぁ! 僕もやる!」
「やりなよやりなよ。折角だからね」
「奇特な状況を作り出して子供に変なことを教えるな!?」

Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.25 )
日時: 2015/10/30 05:35
名前: チャム ◆VFDOEYR7G2 (ID: ugb3drlO)


 席に戻ると、トロピカルジュースの味わいに涙を飲んだ二人が再びドリンクバーに向かい、やがて改めて席に戻って来た(尚、再び別の混合ドリンクに変貌していた。もう何も言うまいとばかりに遼火は突っ込むことを止めた)。

「よいしょっと」
「勘弁してくれ……」
「ふふふ。でも遼火君、言っておくけど私の能力はそこまで便利な物じゃないからね?」
「うん?」
「さっきのだって偶々だよ。私のイデアは思い込ませるだけだから。相手の行動まで変えさせてしまうほどじゃないんだよね」
「うーんと?」
「何の話?」
「うん。私のイデアの話。武瑠君知ってる? イデアって」
「うん。友達の兄ちゃんが持ってる。でも良くは知らない」
「じゃあ、武瑠君にも分かるように、ちょっとだけ私のイデアの復習をするね」

 そう言って柚子はテーブルの上のナプキンを一枚引き抜いて、ペンを取り出して簡単な図を描きながら説明していく。

「私のイデアは『一変』。どういう能力かって言うと、日常的なものを非日常に、非日常的なものを日常に思わせる能力なのね」
「ああ」「うん」
「それで、例えば私がここで遼火君のエッチーって叫び声を上げたとする。すると」
「待て」「兄ちゃんエッチなんだ」「うるさい乗るな」
「ふふふ。すると、普通ならなんだなんだ?ってなって注目を浴びると思うんだけど、私のイデアが発動すると注目されなくなるのね。ふぅ〜んって感じに」
「えー、すごい」「でしょ?」

 柚子は自慢げに両手を腰に当てた。

「で?」
「だから、さっきのも私たちがやっている行動に違和感を持たれなかっただけの話で、別に私のイデアが作用したから店員さんが奥に戻った訳でも、おじいさんがやっぱりスープバーを注ぎに行った訳でもないって事」
「じゃあ、店員は兎も角、爺さんはボケてただけだと?」
「そうなります」

 キリッとした顔つきで見詰め合う遼火と柚子と少年。そして一斉に笑い出す。「ハハハハハ!」

「いやいやいやいや。そんな時に限ってなんてノリの良い爺さんだよ」
「私としては、熱くなかったかそこだけが心配なのです」
「ジュースのコップにスープ入れたらダメなの?」
「一応熱で割れる可能性もあるからな」
「へぇー」

 …………。
 その後は何故か理科の実験的な会話になったり、再び猫会話になったりでドリンクバーを度々往復して時間が過ぎて行った。



「ところで」

 しばらく話した辺りで、ふと柚子が切り出した。

「うん?」
「遼火君は、明日は学校?」
「ああ。昼過ぎから。……そっちは?」
「私も、明日はお昼からちょっと行って来なくちゃいけなくって。夕方には戻って来れるんだけど」

 全く考えていなかった訳ではないが、遼火は「そうだろうな」と思った。お互い大学生という身であるらしいので、平日ならそういう話になるだろう。今日は偶々祝日であったので特に気にもせずそのまま朝から行動してしまっていたが。
 それに、猫探しとなると普通は何日にも及ぶので、腰を下ろしてじっくりと取り組んで行く必要があるし、その辺りに関してどうするか等は予め決めておく必要がある。

「じゃあ明日は一先ず昼までの捜索だな」

 夜の猫探しはさすがに無理だろう。それは今日にも言えることではあるが。

「武瑠君は?」
「…………」

 柚子が流れで少年にも尋ねる。とは言え、少年が今こうして共に居るのは半ば偶々のようなものであるので本来確認を取る必要は無いのだろうが。

「明日は平日だし、あるだろ」
「そうだよね」
「…………」

 しかし黙ったまま答えない少年。気になって遼火は言及する。

「……学校サボって猫探しするとか言うなよ?」
「明日、学校休みなんだ」
「あ、そうなんだ? いいねぇ」
「へぇ? 明日は創立記念日か何かか?」
「うん。だから休みで」
「どこの学校だ? 確認取ってみるから」
「え……」

 少年は明らかに動揺して言葉に詰まった。遼火はそれを少々厳しい目付きで突き刺すように見つめる。

「は、遼火君」

 柚子が思わず口を挟み、その言葉に遼火はハッとする。
 しまった。つい癖で突っ込んでしまったことに気が付いた。少年は持っていたコップから手を離し俯いてしまった。
 遼火はその様子と変わってしまった空気に一つ深く溜息を吐いて場を濁す。

「……ったく。ま、今日で見つかるかも知れないしな」
「…………」

 しかし、そう言った後で遼火は「惜しかったな」と頭の半分で考える。この様子では「何かある」ことは確かだと判断する。それがイコール「うちの猫」発言がウソだということにもならないが、このまま突っ込んで聞いてしまえば謎の半分がここで解明されたかも知れなかった。

「そうだ、武瑠君、ゼリー食べようよ。折角サラダバー付けたんだから食べなきゃ勿体無いよね。ほら、行こう行こう。あ、遼火君もお裾分け欲しい? 大丈夫大丈夫。ちょっとくらいなら怒られないよ。イチゴとメロンどっちがいい? やっぱり、……メロン?」
「……じゃあ——」

 サラダバーのショーケースに向かう二人の背中を見遣り遼火は考える。
 ……解明は出来たかも知れないが、言及することで折角の朗らかな空気を無くしてしまうのも何か残念にも思えた。2人より3人の方が賑やかだろうし、柚子の調子には遼火一人では耐えられないかも知れない。
 それに、別に少年の言い分がウソであったところで、またはいっそあの依頼人ですらウソだったところで、こちらとしては兎に角猫を見つけてあの依頼人に引き渡すことが仕事であり、それで目的達成なのだからどっちがウソであれ正直何の不都合も無いのだ。
 その場合どちらにしても少年の元には猫が行かないことにはなるが、少年の言い分がウソならそれは仕方のないことである。
 だがしかし、少年の言い分が本当だったと言うのなら……? 遼火は自分でも気が付かない内にうんと唸った。
 兎に角、この後依頼人の家に行けば少なくとも向こうの言い分がウソかどうかについてはもう少し分かるだろう。場合によって猫を飼っている形跡がなければそれだけでウソだと断定出来なくも無い。
 また、肝心の猫探しに関しては別の方面から情報を集めてみる必要がある。

 いつの間にか腕組みをして熟考してしまっていることに気が付くと、そこへ二人が帰ってきた。

「じゃーん! 取ってきたよ!」
「僕も!」

 どーん!!
 戻ってきた二人がそれぞれ抱える大皿には赤と緑で彩られたゼリーが山盛りに積まれてプルプルと揺れていた。ひょっとすれば、ケースのゼリー全てなのではないだろうか。
 遼火はあんぐりと口を開けて二人の財宝を見つけたような顔とその産物というか惨状というかを見比べてテーブルの上に崩れ落ちた。

「全部食えよ? お前ら責任持ってこれ全部きちんと食えよ?」

 自信溢れる二人の顔が真逆になるのにはそう時間は掛からなかった。

Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.26 )
日時: 2015/10/30 05:43
名前: チャム ◆VFDOEYR7G2 (ID: ugb3drlO)

「それじゃあ、先に依頼人に連絡してくるから会計頼むな」
「割り勘だからね? 後できちんと貰うからね?」

 人より散々食べてた奴がよく言うよ。心の中で呟きながら携帯片手に先に店を出る。
 外は先ほどとそう変わらない良天候だが、青暗い影の色合いの微妙な変化で時間が進んだことを理解する。携帯の時計を見ると時刻は14時前。何だかんだで結構長居をしてしまったようだ。
 依頼人の家に向かう前に予め本人に伝えておく必要がある為、遼火はノートから依頼人の連絡先を取り出し番号を打ち込む。
 呼出音が何度か鳴り続ける。1度、2度、3度、4度……。10秒ほど鳴った後留守電に切り替わった。携帯の番号であるので、この時点で留守電なら今から行っても会えない可能性がある。ガイダンス音声が流れ始め電話を切ろうとした時、ピッという音が鳴り相手の声が聞こえた。

『……はい?』

 依頼人の檜山綴(ヒヤマ・ツヅリ)の声である。何か警戒したように少々控えめな印象。また、電話口の向こうからは何かざわついた音が聞こえてくる。

「ああ、檜山さんですか? 江藤です。今朝方の猫探しの依頼の件でお伺い出来ないかと思いまして」
『……ああ、探偵さんですか。すみません。そちらの番号をまだ覚えていなかったもので。……もしかして、もう見つかったとか?』
「いえ。残念ながらまだ。ただ、猫探しをする上でもう少し情報があると助かると思いまして、それで」
『…………』

 依頼人は黙り、返答をしない。ざわつきは尚も聞こえてくる。

「檜山さん?」
『……ああ、すみません。これからですか?』
「はい。これからです」
『…………』

 依頼人は再び黙った。考えているようだ。

『申し訳ありませんが、今はちょっと都合が悪くて。別の日にして貰えませんか?』

 そう来たか。しかし想定内ではある。仮に来させたくない理由でもあったのだとしたら当然そうなるだろう。

「出来れば今日の方がありがたいのですが。今日であれば何時頃ならご都合が良いですか?」

 依頼人はまた少し黙ったが、今度は程なくしてからすぐ返事をした。

『……申し訳ありません。やはり今日は終日時間が取れませんので、別の日に』
「では、いつなら良いでしょうか? あまり時間が経ってしまうと、猫の足取りを追うにも難しくなってしまう可能性もありますので」
『……それもそうですね。ちょっと待って下さい? ……ええと、明日の、17時なら何とか。そんなに長くは取れませんが』
「それでは、明日の17時にそちらのお宅に御伺いさせて頂きますので」
『ああ、いえ。こちら家に戻る時間はありませんでして、町でお会いしましょう。どこか適当なお店で』
「……了解しました」

 それから数言を話して電話を切った。一先ず一々打ち込むのも面倒なので依頼人の番号をメモリーに登録しておく。
 しかしながら、それらしい理由を連ねて食い下がって尋ねてはみたが、結局家に上がることは出来そうも無かった。つまり、猫を本当に飼っているのかの点を調べることが出来ないということだ。これで会いに行くメリットが半分は失われた。
 しかし、何とか会うことは出来そうである。会った際には極力相手の矛盾を見つけ、場合によってそのまま言及する必要がある。
 ただ、今日は会えないとのことなので、今日のところは素直に猫探しをする他無い。
 もしくは無理やり押しかけてしまおうか? 近所で話くらいは聞けるだろうし、依頼人の家の様子からも色々情報が得られるかも知れない。
 尤も、恐らくそれで猫が見つかる訳でもないので、ここはやはり依頼人のウソを見抜くことよりもまずは猫を探し出す事を優先すべきだろうか? その場合、市役所にでも行けば何か情報を掴めるかも知れない。この町の「地域ローカルネット」を見るのも良い。この町独自の情報が色々更新されている便利な代物だ。

「ふう」

 携帯をポケットに仕舞い込み店内からまだ出てこない二人に視線を送る。二人は何やら楽しげにカウンターの前で会話をしている。
 手持ち無沙汰に辺りを見渡していると、ふと向こうに居た大学生グループと目が合った。こちらを見ているようだ。先ほど店内に居たグループである。正直あまり柄が良いとは言えない。

「調子こいてガンでも飛ばしてんのか」

 意気揚々とした若者というのはどこにでもいるもので、いい気はしないものの、だからと言って一々気にしても居られないので忘れることにする。

「遼火くーん、お待たせー」

 振り返ると柚子と少年が漸く店から出てきていた。二人の手には何かお菓子が握られている。

「エクスカリバー限定、遥か遠きナントカクッキー」
「……それ、俺の名前と掛けてるんだろ?」
「おー、よく分かったね!」
「さすが探偵だな兄ちゃん!」
「……まぁな」

 何か慣れてきた気がしないでもない。

「はい、レシート。割り勘だから一人1754円ね」
「…………」

 遼火が食べたのは精々税込み700円程度の筈なのだが、少年の分もあるので素直に財布から1800円を出す。釣りは要らないと言ってやった。自讃するほど男らしい姿に思えた。
 ただ、レシートよく見るとその御菓子代も含められている。500円。…………。
 ……こういうことを指摘しないことも果たして男らしさと言えるんだろうか。
 人生経験というのは20年経っても30年経ってもまだまだ足りないものだというのは父親の言葉である。

「因みに兄ちゃん、最近のファミレスのコップって耐熱性だからスープ入れても大丈夫なんだって」
「へぇ」
「兄ちゃん、探偵なのにそんなことも知らなかったんだろ? じゃあこれでちょっとは賢くなれたかな?」
「…………」

 小さな間。小さな笑顔。
 少年の米神を両サイドから拳が襲う。

 ゴリゴリゴリゴリ!!

 昼下がりのファミレス前で凡そ1000円分の子供の悲鳴が上がったが、偶然にも『一変』という名称の能力を持つイデア能力者が近くに居たので通報はされなかった。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。