複雑・ファジー小説

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【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~
日時: 2015/12/13 03:31
名前: IDL:Project (ID: EZ3wiCAd)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=70


『カミサマを信じてないわけじゃない』

『でも選ぶのは個々の勝手だろう』

『何に使って結果どうなろうが』

『それはあくまで手段に過ぎないのだから』

『使うも自由、使い道も自由』

『思うが侭に楽しめばいい』

『誰だって』

『自分の人生で』



『主人公だろう?』



◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆



【基礎情報】
タイトル:IDOL-A Syndrome 〜全世界英雄症候群〜
小説形式:リレー小説
投稿場所:複雑・ファジー板
ジャンル:複雑
投稿形式:順番制

【参加者様】
現在、リレーに参加している書き手=IDL:Projectのメンバーです。敬称略。
番号がそのままリレーの順番です。何かメッセージがあれば行間にどうぞ。
①空凡
「最近家事手伝いにはまった」
③戦崎トーシ
「こけおどしのししおどし」
④Satsuki
「そろぼち落としどころを考えましょうか」
⑤チャム
「忙しさは12月いっぱい続くんじゃ >年末に向けてバイトの日数増やしたら嫌がらせのような連日出勤の塊が生成されておりましたとさ。うわばらー」

休参者
②Orfevre(高坂桜)

【次回投稿予定者】
空凡     12/12経過
戦崎トーシ  12/18迄

【連絡事項】
参加者様や読者様に宛ててメッセージがある場合ここに追記していきます。
・プロローグが終わりました、これより本編に片足を突っ込んでいきます。
・現在、リク板スレにて追加参加者を募集しています。

【目次】
Prologue:>>1-12
Chapter 1「Mate is behind Team , cannot In」 >>13-36

>>1-36

Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.12 )
日時: 2015/09/20 00:37
名前: チャム ◆VFDOEYR7G2 (ID: 7c/Vukd1)

 ……考えていると、突然雨が降って来た。そういえば本日の空は雨模様であった。

「……あ」

 改めて思い返すと、傘をデパートに忘れてきたことに気が付いた。忘れてきたと言うか、そもそもどこに行ったのやら。テロリストに奪われた携帯は回収したものの、傘の方はあの騒ぎの中で完全に行方不明である。取りに戻るにしてもしばらくは警察の捜査で店に入ることも出来ない。
 しかしそうしている間にも雨足は強くなり、遼火は走り出した。雨は粒も大きく、次々服に染み込んでいく。
 なんでこんな突然大雨が。冷たいし、寒いし。くそっ、やっぱり今日はついてない!
 地面を大きく打ち付ける雨の道を全力で走り、コンビニへ向かおうとする。しかしそのコンビニが見つからない。この町は大都会と違い、客の取り合いになるばかりでさして意味を感じないほど互いに乱立しているような町ではないのだ。お陰でコンビニが中々視界の中に現れない。探している間にもどんどん体が濡れていく。背中を伝ってパンツの中にも雫が滑り落ちて一瞬ビクリと背筋が跳ねた。
 ああ、水を操って雨に濡れないようにしたい。炎を操って体を温めたい。いっそコンビニまで転移したい。ハ、ハ、ハクション! ……決して風邪を引かないイデアというのも案外便利かも知れない。
 一に急いで、二に急ぎ、三四も急いで兎に角コンビニへ。そうして50m走ったところで道路の対岸に漸く青看板のコンビニを発見する。しめた!
 ところがそんな時に横断歩道は赤。くそ。律儀に立ち尽くすこと1分。ブォン、ブォン。パプー、パプー。時速50kmは出ているであろう車共がやけにモタモタしているように感じてしまう。ウフフ。アハハハ。更に現れた楽しげな会話をする道行く傘差しカップルが今はやけに腹立たしい。いや別に嫉妬などではないのだが。こちらは既に全身はまるで行水のようにずぶ濡れで平然と構えている余裕は微塵もないのである。そして未だに信号は変わってくれない。ああもう早くしろ。ザァザァ、ブォン、パフー、ウフフフ、フフフ、アハハのハ。おいそこのバカップルさっさと失せろ。

「ええい!」

 痺れを切らし、右見て左見て、横断歩道を無視して対岸へ走る。向こう側の道路でギリギリ車と接触しそうになったがなんとか無事歩道に着艦。コンビニの入り口を目指す。
 そしてついに到着——。

「いらっしゃいま……」

 コンビニの中へ入ると、入店に合わせた店員からの挨拶が途中で止まり、レジに居たその愛くるしい女性店員が残念そうな目を遼火へ向けた。
 ポタポタポタ。体中から雫が店の床に滴り落ちて小さな水溜りが出来る。カゴを手に取り、一歩二歩歩いたものならその度に濡れた足跡が店内に形成されていく。店員にはその後微妙に視線を逸らされた気がした。

「……」

 こんな時、あのイデアはさぞかし便利だろうな。
 遼火は夕食分と翌日のパンとチョコレートと、あとは傘を取って会計に向かう。
 どうか忘れてくれと心の中で呟きながら、相手の顔は出来るだけ見ないよう目を逸らしつつ。


【Prologue・完】

◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆


 ……。
 ピン、ポーン。それは時刻にして丑三つ時。雨に濡れた体を乾かし、疲れ切り熟睡していた遼火は、ふとその常識外れな音に無理やり起こされた。

 ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポン——。

 こんな真夜中に何度も鳴らされる呼び鈴に、さすがに苛立ちながら玄関に向かう。
 一体誰なんだか。さっきの事件のことでやって来た警察か、既に辞めた事も知らずに過去の噂だけを頼りに訪れてしまった哀れな依頼人か、果ては——?

 ガチャリ。

「あのな、一体何時だと思って——」 
「こんばんは。それともおはよう? えっと、江藤さん? 江藤君? あ、遼火君かな?」

 そこには、何やら色々詰め込んでいるらしい大きなバッグを両手にぶら下げながら、何か期待を込めた目でこちらを見て立っている「郷烏柚子」が居た。

 …… …… …… ……。

「……は?」


【To be continued...】

Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.13 )
日時: 2015/09/22 22:39
名前: 空凡 ◆qBiuWfql4I (ID: 4RNL2PA4)

 時間は少しだけさかのぼる、
雨の中帰宅した遼火は疲れた体を何とか動かし、探偵事務所の名残であった黒いソファに体を託した。コンビニで購入した夕食分の食材とチョコレートは既に冷蔵庫の中へ雑に仕舞っている。パンに至ってはしまう気すら起きなかったらしく冷蔵庫の前に置いているレジ袋の中に居座っている。

シャワーを浴びてある程度温もりを取り戻したとはいえ、今日は心も体もくたくたとなっていた。伊達眼鏡を寝ながらソファの横にある机の上に置いて、そのまま腕を目を隠すように被せれば、直ぐに意識が遠のいていくような気がした。ただ、意識が遠のく中……探偵の手伝いをしていた性かいくつかの疑問が脳裏をよぎる。

結局、何故彼らはデパートを占拠しようとしたのか

便宜上、頭の中で彼らを"テロリスト"と置いていたがテロリスト、テロリズムを持って行動していたのであれば彼らには何らかの政治上訴えたいことがあったのだろうか?やったことといえば罪もない市民を暴力で脅して、ただ閉じ込めていただけだ。
そして彼らの結束は少し見ただけで分かるほど脆かった、暴行を働こうとしたり、リーダー格を失っただけでいざこざを起こしていた。まるで、彼らには"何の目的もなかった"かのように遼火には思えた。

「(じゃあ、何でまたあんな大掛かりな犯罪が起きたんだ? 人は、武器は、どこ...か...ら......)」

ただ、その考えを続けるにはいささか遼火は疲れすぎていたようで、その思考を回し解へと導こうとする前に遼火の意識は夢の世界へと連れ去られていた。



——イデア(英:IDEA)とは、人類が手に入れた超能力の一つである

『日常を非に、その逆もまたしかり』

——カミサマという存在から啓示を

『炎を操る。それが俺のイデアさ』

——イデアとは人類の新たな

『私は、飛ぶことができます』

——事件の複雑化において

『見ろ遼火、ここが俺の事務所だ』



「(……誰だ、うるせぇな)」

思考が飛んだかと思えば、何度も事務所に響くしつこいチャイムによって意識を引きずり出された。少しけだるげにソファから起きて、周りを見れば明かりを落とさずに寝てしまっていたことに気が付いた。時計の短針は2を指していることと、窓から見える景色が今は丑三つ時……つまり午前2時であることを示していた。
机に無造作に置いてあった伊達眼鏡をかけながらまだ鈍い頭を回転させていく。そしてその間にもチャイムはなり続ける。

「(警察……、いや依頼人か? どちらにしたって文句の一つぐらいは言ったっていいよな)」

チャイムに急かされる様に扉へ向かって、遼火は次第にその扉の奥の人物へのいらだちを高めていた。
ただ、その苛立ちは扉の向こうにいた人物を視界にとらえた時に霧散していた。

「あのな、一体何時だと思って——」
「こんばんは。それともおはよう? えっと、江藤さん? 江藤君? あ、遼火君かな?」

少し視線をさげて、入ってきたのは亜麻色のきれいな長い髪、どこかつかめない雰囲気を携えた彼女、郷烏柚子《さとう ゆうこ》がそこにはいた。遼火はあまりの衝撃にしばらく言葉を失い、ただ状況を把握しようと視界に入るものを分析し始める。
彼女の他に人はいない、そして彼女はパンパンに膨らんだ大きなバッグを両手に提げ、何かを要求するような顔つきで、それでいて優しい笑みを浮かべている。

この状況は何だといえばいいのか、寝起きでなかったとしても遼火には導き出せなかったであろう。
少しお邪魔するね、そう言って郷烏は茫然としている遼火を尻目に少々強引に玄関に押し入った。そのマイペースさに、遼火はついつい何も言わずに郷烏の侵入を許す。
遼火は押されるがまま、靴を脱いで玄関を上り、郷烏は重かったであろうバッグを玄関に置いて、呼吸を整えた。

「……何の御用でしょ」
「ここが探偵事務所?やっぱりどこか違うね」

遼火が言葉を出そうとしたが、郷烏のマイペースな発言につぶされてしまった。郷烏はそう言うと珍しそうに周りを眺めている。本当に何をしに来たのかと、言おうとした時、郷烏は思い出したかのように玄関の外に出て、またすぐに戻ってきた。その手にはどこか見覚えのある、濡れた黒い傘が握られている。
遼火の傘だ

「これ……どこで」
「デパートの外に出るとき、また雨降りそうだったから私の傘を探そうとしたんだけど……見つからなくてたまたま落ちていた傘を拾ったのよ。そしたらこのバンドの部分に"Halequa"って書いてあったからもしかしたらって思って」

傘をなくしたら、もう戻ってこないだろうという風に考えていた遼火は少々うれしい気持ちになった。郷烏はキョロキョロと傘入れを探し、見つけそこに差し込もうととして、遼火が先ほどコンビニで購入した傘に目をくれた。その傘はピンク色のデザインが施されていたり、熊のデザインがされていたりと少々女性の、幼い子向けの傘であった。
遼火が購入しようとした時には急な雨もあってか、普通のビニールが差は売り切れていてこれしかなかったのだ。
黒い傘を傘入れに戻すと、郷烏は遼火に向けて何とも言えない笑みを浮かべた。

「……言っておくが、俺の趣味じゃない」
「そう? 可愛いけどね」
「お譲りしましょうか」
「いえ、遠慮しておくね」

思った通りの返答が来たと、遼火がうんざりしていると郷烏の体が震えた。よく見れば、それだけ大きな荷物を雨の中持ってきたというのに荷物はあまり濡れておらず、反対に郷烏本人の髪や体は濡れていた。
それに気が付いた遼火はこの雨の中傘を届けに態々来たのかと気が付いて彼女をあげた。

Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.14 )
日時: 2015/09/22 22:43
名前: 空凡 ◆qBiuWfql4I (ID: 4RNL2PA4)

 どうせこの時間にまた寝たら寝起きが悪くなると、遼火はこのまま起き続けることを覚悟してコーヒーを淹れた。その間に郷烏にはタオルを渡してあり、郷烏はタオルで体をふきながら部屋の様子を興味深そうに眺めている。
暫く使っていなかったお盆にコーヒーカップ二つ乗せて、ソファに座っている郷烏の元へと持って行った。

「コーヒーです」
「ありがとう」

郷烏はコーヒーカップを受け取るとその温もりを感じるためカップを両手で持っていた。遼火は向かい側のソファへと座り、郷烏へといくつかの質問をぶつけた。

「ところで、ここについてどうやって?」
「江藤探偵事務所、で検索したら直ぐに出てきたけど」
「……昔の名残か、あとで教えてくれ、連絡して消しておいてもらう」

どうやらまだどこかのネットサイトにこの事務所の情報がのっていたらしい。とにかく、これで江藤探偵事務所へのたどり着き方は分かった。では次だ、

「何でそのワードを?」
「店長の門松さん? だったかな、その人に電話をかけたよね」
「えぇ」
「あの時たまたま私が近くにいたからさ、無線を他の人に悟られないように少し」
「……"一変"だったか、あの時も助けてもらっていたのか」

ばれる可能性は元々低かったけどね、と郷烏は付け加えた。
しかしその可能性を少しでも0に近づけていてくれたのなら、彼女に感謝すべきだと遼火は思った。
つまり郷烏はその店長との会話を聞き、江藤探偵事務所というワードから遼火の正体を突き詰めたということだった。
だがいくら正体を突き止めたとはいえまさかその日に傘を返しに来るなんて、と遼火は郷烏の行動力にいささか疑問を持った。

漸く飲める程度の温度になったコーヒーを郷烏は少しすすり、その苦さからか、眉を少し寄せた。

「そういえば、今は休業中なんだって?」
「閉業です、もうやりません」

そう少しきつく返すと、遼火はコーヒーをすすった。その返しに郷烏はあまり気にしていないのか、そのまま言葉をつづける。

「この広い事務所、今一人で住んでるんだね」
「えぇそうですね……」
「じゃあ、少し頼みがあるんだけど」

そのトーンを変えない願い事に、遼火は少々嫌な予感を抱きつつも聞いた。その頼みは、トーンは変わっていなかったものも、先ほどの話とは明らかに様相が違った。

「私、非日常的なことがどちらといえば好きなんだ。それで、今日の事件とかも、普通じゃなくて」
「……それで?」
「君が元探偵って分かった時も結構楽しかったんだよね……だからさ、


—— 一緒にやらせてくれないかな、探偵」

その言葉をはっするとき、郷烏はじっと遼火の目を見ていた。
一方、遼火は思いもよらぬ頼みが来て混乱していた。まさか知り合ったばかりの人が来て探偵を一緒にやろうなんてことを言うとは考えていなかったのだ。普段の遼火であったのなら、すぐに断りの言葉を述べていただろう。遼火はもう探偵業にはうんざりしていたのだから、
だが、郷烏のマイペースさに今遼火はのまれかけている。
何とかこの目の前の人物を納得させることができる理由はないだろうかと、視線だけ動かして部屋の中を見渡せば、今は電源の入っていないパソコンが目に入ってしまった。

——イデアに関する論文、そういえばまだ完成には程遠かった。あまりにイデアに関する情報が少なすぎてろくに進んでいないのだ。
そして目の前には、イデア保持者がいた……

もし彼女の協力が得られれば、この論文は進むだろうか。と考えて、慌ててその考えを打ち消す。そんなことをするよりかは一度この論文を捨てて別の題材を見つければいいだけの話だ、と自分を納得させようとする。

「ねぇどうかな」

そう心の中で格闘している遼火に郷烏が追い打ちをかける。簡潔に「いやです」といったとしても、この女性は食い下がるだろうと既に理解している遼火は必死に否定するための理由を探すが、どうしても肯定的意見ばかりがわいてくる。
何故だ、もしや既にイデアが干渉しているのかとまで疑ったとしても、思考がうまくいかない。その間も郷烏はじっと遼火を見つめている。
試しに自分はもう探偵にはうんざりしていると告げたが、郷烏はやはりどうしてもといって食い下がった。


「……探偵じゃなくて、何かの手伝いレベルだけなら、いいぞ」

コーヒーを何度も口に運び、遼火がその返事を絞り出したのはおおよそ30分たった後であった。

Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.15 )
日時: 2015/10/05 21:38
名前: 戦崎トーシ ◆TYZSwCpPv. (ID: bU2Az8hu)

「そっか」

 郷烏柚子の反応は案外そっけなかったが、表情を見るからに、嬉々としているのは明らかだった。
 遼火は冷めてしまったコーヒーを飲み干し、コトリ、とカップを机に置いた。郷烏を見れば、既に空になったカップを両手で包み、持ち手を人差し指でしきりに撫でている。おかわりが欲しいのだろか、と遼火は腰を上げた。
 そのモーションの途中で郷烏が口を開いたため、腰は再び、ソファーに降ろされることになったのだが。

「遼火くんは、探偵が嫌いなの?」

 逡巡。ぶつかった目を僅かに伏せた。

「もし、俺が『探偵が嫌い』だと言ったら」
「駄目だよ。契約はもう成立してるんだから」

 遼火の言葉を遮り、彼女は、依然にこにこと微笑んでいる。想像通り、郷烏は1度決めてしまえば、そうそう引き下がらない人物のようだ。
 遼火は溜め息を吐き、窓の外へ視線を向けた。雨脚はすっかり弱くなっている。雲の隙間に星が現れるのも、時間の問題だろうか。
 …………。
 秒針の音が一定のリズムで流れる。部屋の外、コンクリートに降り注ぐ雨音でさえ、はっきりと聞こえるほどお互い何も話さない。
 初対面の男女同士で盛り上がれる話題が、近くに転がっている訳でもなく——デパートジャック事件のことで盛り上がるのは、さすがに嫌だ——ただ、向かい合って座るだけ。
 否、強いていえば、両者とも相手の様子を伺っていたのだ。素性もよく知らないまま、遼火は「郷烏柚子」や「探偵」から遠ざかりたいと思っていたし、郷烏は郷烏で、「江藤遼火」や「探偵」を逃すまいとしていたのだ。
 遼火の方は、悪あがきでしかない、と半ば諦めてはいたが。
 
「一緒に探そうよ、楽しいこと」

 十数分の静寂の後、郷烏はぽつりと呟いた。遼火がおかわりのコーヒーを注いでいる時のことだった。
 インスタントの安っぽい匂い。室内は広く、すぐには充満しない。

「君は『探偵』をよく思っていないかもしれないけど、これからが、今までと同じとは限らないよ。ましてや『一変』の私がいるんだから」
「随分な自信ですね」
「せめて、自分のイデアだけは信じていたいもの。イデアがなかったら、君と知り合えなかったんだし」

 カップを郷烏の前に置く。自分の顔が映っている。波紋によって表情は読めない。
 ふと、遼火は彼女の脚の脇に置かれた大きなバッグが気になった。ボストンタイプのそれは、旅行以外ではほとんど使わなさそうな代物だ。日常では活躍の場がないような、そんなものが何故ここに。
 
「あ、ところでさ、一緒に住んでいいかな?」
「どこに?」
「ここに」


 恐ろしく明瞭な空耳だ。お陰でつい聞き返してしまった。 
 

「できれば、ここに住まわしてもらいたいんだけど」
「……は?」


 住む? 一緒に? ここで? 
 きょとんとする遼火を尻目に、郷烏はのほほんとコーヒーを味わっている。

 いやいやいや。
 いやいやいやいやいやいやいやいや。自分が言った台詞の意味分かってるのか。異性で、ましてや初対面の人間に「住まわせて」なんていう奴がどこにいるんだ。そしてどうしてそんな、のん気にコーヒーを飲んでいられるんだ。
 ……おい待て。ということはあの大きなバッグの中には、衣服や日用品なんかが入ってるんじゃないか? もしかしたらこの人の目的には、『居住権を獲得すること』も含まれてたんじゃないか? 
 いくら聡明な遼火とて予測し得なかった事実に、正直なところ、彼は混乱していた。訳が分からない。普通じゃない。

 脳内の整理をつけ、少し落ち着いた遼火が申し出の理由を問うと、彼女は何てことないように答えた。曰く、1人暮らしで部屋を借りるより、一緒に住んで家賃を折半する方がお財布に優しいから。
 意外と庶民的な回答は、更に遼火を困惑させた。

「……ここに住むってことは、よく知らない異性と一つ屋根の下で過ごすことになるが」
「遼火くんは変なことしなさそうだし大丈夫かなーって」

 それは、会って1日もしない間に、強い信頼をおかれたということか。それとも高速でなめられたということか。できれば前者であって欲しい。前者であったとしてもいささか厄介だがな。
 兎に角、諸々の理由により、同居を易々と認めることは出来なかった。

「大学院に通ってるから日中は居ないし、家事も人並みにはできるけど」
「…………」
「できるだけ、迷惑かけないようにするし」
「…………」
「プライバシーも大切にするからさ」
「…………」
「どうかな」

 ひたすら沈黙を紡ぐ遼火に、彼女は問いかけ続ける。先程よりも押しが強い。だが遼火も先程より渋っている。
 すると突然、郷烏のハシバミの両眼が、思考する遼火の視界に飛び込んできた。反射的に逸らすが、また眼前に現れる。郷烏は遼火と目を合わせようと、躍起になって彼の周りをぐるぐる回り付き纏う。遼火もその双眸から逃れようと、うろうろと歩き周り顔を多方向に向ける。2年前と4年前に20を超えたれっきとした成人2人がやるには、不毛で下らない駆け引きを続ける内に、遼火はだんだんと虚しくなってきた。

 
しかし、暫く続いた駆け引きも、本日2度目の音であっけなく中断する。


 ——ピーン、ポーン……

Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.16 )
日時: 2015/10/05 21:34
名前: 戦崎トーシ ◆TYZSwCpPv. (ID: bU2Az8hu)

時刻は既に4時手前。2人は、案外簡単なことで顔を見合わせる。このチャイムの音は、あいつか、警察か、それとも——。少し目線を落とせば、郷烏の瞳が期待に輝いているのを捉えることができた。
そこで彼は直感した。自分が厄介に思うことの大抵は、彼女にとっては至高の刺激であることを。

——ピーン、ポーン……

遼火はドアノブを握った。捻って押すだけの単純な動作。壁で隔たれた向こうへ、室内の光が徐々に漏れ出していき、人物を明確にしていく。
ドアを開け切ったその時、瑞々しい果実の匂いが鼻腔をくすぐった。

「こんな時間にすみません……江藤探偵事務所って、ここですよね?」

そこに立っていたのは、背の高い女性だった。
20代後半だろうか。グレーのレディースーツに身を包み、髪はひっつめられ頭の上でシニヨンにされている。

「それが、江藤探偵事務所は今、閉ぎょ」
「はい! 確かに江藤探偵事務所です! ご依頼ですか?」

1人で勝手に話を進めないで欲しいんだが……ほんの1、2時間前に『何かの手伝いレベルだけなら』と言ったばかりじゃないか。深刻な依頼だったらどうするんだ。
遼火は思わず溜め息を漏らす。
立ち話もなんだということで、女性を室内に入れた。が、遼火は直後に奇妙な『もの』を目にした。

ずっと下から見上げてくる、無垢な両眼。
女性の背後には、少年が立っていたのだ。

「この子は……」
「さっきそこで会ったんです。まだ暗いのに独りきりでうろうろしてたので、心配になって、連れてきたんです」

女性はハイヒールを脱ぎながら答える。どうにも違和感しか感じないが、違和の理由が分かる筈もなく、取り敢えず少年も部屋に上げた。推定8歳前後の子供を外に放っておくのは、さすがに良心が痛んだ。
訪問者2人を同じソファに座らせ、遼火と郷烏は向かいのソファに腰掛ける。
女性は出されたコーヒーを啜り、すぅと息を吸うと、至極真面目な表情で放った。

「猫探しをお願いしたいんです」
「……猫?」
「……探し、ですか?」

拍子抜けする遼火と郷烏の前に、おずおずと写真が差し出された。そこには、桃色の首輪を着けた猫が写っていた。よく見れば、首輪から下げられた金属プレートには、モモコ、と刻印されているようだった。
白い毛に、茶や橙や黒の独特な模様、所謂三毛猫である。

「うちで買っている猫なのですが、昨日の夕方に逃げ出してしまったみたいで。私も探してはいるのですが、なかなか見つからず……だからこうして、探偵さんに捜索をお願いしに来たんです」

女性はどうかお願いします、と丁寧に頭を下げる。その隣で少年が不思議そうに、オレンジジュースが注がれたコップを見つめているのは、なかなかにシュールな画だ。
「では、昨日のことについてお聞きしてもよろしいですか」と遼火が切り出した時。


「この人の猫じゃないよ」


周囲の大人たちの視線を一身に集めた少年は、もう1度言った。


「この人の猫じゃないよ。その猫は僕ん家のだよ」


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