複雑・ファジー小説
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- 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~
- 日時: 2015/12/13 03:31
- 名前: IDL:Project (ID: EZ3wiCAd)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=70
『カミサマを信じてないわけじゃない』
『でも選ぶのは個々の勝手だろう』
『何に使って結果どうなろうが』
『それはあくまで手段に過ぎないのだから』
『使うも自由、使い道も自由』
『思うが侭に楽しめばいい』
『誰だって』
『自分の人生で』
『主人公だろう?』
◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆
【基礎情報】
タイトル:IDOL-A Syndrome 〜全世界英雄症候群〜
小説形式:リレー小説
投稿場所:複雑・ファジー板
ジャンル:複雑
投稿形式:順番制
【参加者様】
現在、リレーに参加している書き手=IDL:Projectのメンバーです。敬称略。
番号がそのままリレーの順番です。何かメッセージがあれば行間にどうぞ。
①空凡
「最近家事手伝いにはまった」
③戦崎トーシ
「こけおどしのししおどし」
④Satsuki
「そろぼち落としどころを考えましょうか」
⑤チャム
「忙しさは12月いっぱい続くんじゃ >年末に向けてバイトの日数増やしたら嫌がらせのような連日出勤の塊が生成されておりましたとさ。うわばらー」
休参者
②Orfevre(高坂桜)
【次回投稿予定者】
空凡 12/12経過
戦崎トーシ 12/18迄
【連絡事項】
参加者様や読者様に宛ててメッセージがある場合ここに追記していきます。
・プロローグが終わりました、これより本編に片足を突っ込んでいきます。
・現在、リク板スレにて追加参加者を募集しています。
【目次】
Prologue:>>1-12
Chapter 1「Mate is behind Team , cannot In」 >>13-36
>>1-36
- Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.2 )
- 日時: 2015/08/04 19:25
- 名前: 戦崎トーシ ◆TYZSwCpPv. (ID: 9IfQbwg0)
下を見れば灰色のコンクリート。右を見れば3羽のカラスがゴミを漁っていて、左を見れば寂れた理髪店の窓ガラスに黒塗りの自分が映っている。恐ろしい程、世界は単調なモノクロだった。
——あれ以外はな。
遼火は薄墨色の空を仰ぐ。
部活帰りだろうか。スポーツバッグを肩に掛け、真っ赤なジャージに身を包んだ少年が『空を飛んでいる』。飛行用の装備などは一切ない。道端ですれ違ってもおかしくない様な装いのまま、平然と『空を飛んでいる』のだ。
しかし遼火の表情は変わらない。彼は、上空を飛行する少年を眺めながら、ほんの数十分前に読んだ文章を思い出していた。
——『イデア(英:IDEA)とは、人類が手に入れた超能力の一つである』
過去、人間が生身で空を自由自在に飛ぶことはできなかった。ただ、空を飛びたい、と願うことしかできなかった。人間は理想だけを持っていた。
だが、ある日を境に理想は現実のものとなる。
3年前、人類は『イデア』を獲得した。
人々は最初は戸惑ったが、同時に直感した。どうやら『イデア』というものは、理想を具現化するものらしい、と。
空を飛びたい、と願っていた者は「飛行」のイデアで空を飛べるようになり、速く走れるようになりたい、と望んでいた者は「疾走」のイデアで人知を超えるほどの俊足を手に入れた。
このまま時が進めば、スターやアイドルといったものは消え、オリンピックも肉体や技術だけを競い合うものではなくなるだろう。一定の年齢に達すれば、誰でも理想の姿になれるのだから、当然だ。
法の改正、常識の変容、セオリーの崩壊。時代は今、さながら舞台転換の最中にあるのだ。
とはいっても、遼火にとっては論文のネタの1つに過ぎないのだが。
飛行少年に対する興味も失せたのか、遼火は再び歩き始めた。
目指すのは1年前に創業開始した最寄のデパート「グランマガザン・神北」。グランマガザンとは、フランス語で百貨店の意味を持つらしい。
しかし、専ら近隣住民からは「こーほく」と地名をとっただけの通称で親しまれている。
白を基調とした、近未来的なデザインの建物が見えた。
次の瞬間には、丸い水滴が遼火の鼻の頭を叩いた。続いて幾つかの水滴が、ディムグレーの頭を叩いた。
雨だ。灰色の地面に、ぽつり、ぽつりと斑点模様が描かれていく。
傘は差さず、歩調だけを速める。
「うわっ最悪。今日、傘持ってないのに」
「雨宿りしていく?」
「そーだね」
2人組の女子高生が、鬱陶しげに空を見上げていた。
道行く人々も、突然の雨に文句を言ったりしながら、みるみる内に「こーほく」の中へ吸い込まれていく。
遼火が建物から突き出した屋根の下へ入ったのと同時に、雨脚は一層強くなった。厚い雲の隙間から、白い麻糸が零れている——そう形容されそうな雨だ。
ジャケットについた雫を適当に払い落とす。自動ドアの向こうからは、黄色のような白のような光が漏れていた。
「結構、人居るんだな」
エントランスを埋める人の数を見て、思わず呟いた。休日の午後ほどではないものの、平日の午後にしては多い方だろう。それほど繁盛している、ということだろうか。
モスグリーンのエプロンの店員が、せっせと傘袋を用意していた。「いらっしゃいませ」と優しげな笑顔で声を掛けてきたので、軽い会釈で返す。
よく磨かれたフロアには、行き交う老若男女が足元から映りこんでいた。
「……さっさと買い物済ませるか」
この雨だ、これからもっと人は増えるだろう。それを見越して、遼火は迷わず食料品売り場へ向かう。混んで買い物ができなくなったり、レジで長い間待たされるのは嫌だからだ。
白いタイルの上を早足で闊歩する。すると、遼火の目の前を、派手な炎髪を持った少年が横切っていった。その奇異な外見に、思わず目で姿を追う。
「あっ」
注意が逸れていた為か、誰かとぶつかった。下を見れば、モノクロのギンガムチェックのワンピースを着た女と、ぶつかった衝撃で落としたらしいノートとボールペン。「すみません」とそれらを拾って渡すと「ありがとうございます」と声が返ってきた。
テンプレートのようなやり取りだな、と、再びPCの白い画面を思い浮かべる。
『イデア』。
まだまだ謎は多いが、3年も経てばそれも常識化してくる。当時は混乱も多かったが、今では殆どが「あるのが普通だ」と認識しているだろう。
政治家や学者はともかく、デパートに居るような一般人の大半は、『イデア』の起こりも、その原理も気にしてはいない。
——ッ!?
黒。瞬時にそれが脳内を塗り潰した。曇天の、星1つない深い闇のように。
この感覚を遼火は知っている。暫く遠ざかっていた、これは——ここにあるべきではない、醜い悪意。
立ち止まり辺りを見回したが、怪しげな人物は見られない。もうすでに人混みに紛れてしまったか。彼の鋭い舌打ちも、そいつに聞こえたかどうかは定かではない。
気のせいだといいんだが、と心の中で思う。
面倒なこと、ましてや、人の道に外れたことさえ起きなければいい。一瞬蘇りそうになった過去の記憶に蓋をし、また歩を進め始めた、
その時。
- Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.3 )
- 日時: 2015/08/06 18:48
- 名前: 空凡 ◆qBiuWfql4I (ID: 4RNL2PA4)
多方向から何かが閉まる音がして、館内を照らしていた光が消えた。
それを受けて、周りにいた人は悲鳴を上げた。
すでに日は沈みかけている時間帯、照明を失えば屋根をもつその建物の中は少し歩けば転んでしまいそうなほど暗くなるのであった。
突然の事態に慌てた客たちは声と近くのものだけ見える視界を頼りに状況を把握しようとしている。
「なんだ停電か!?」
「おかぁーさーん、どこー!」
「ちょっとどうなってんのよ!」
怒声、鳴き声、そんな声が入り混じっては混沌へと飲まれていく。
そして多くの人たちは少しでも明かりをとスマートフォン片手に入口へと少しずつだが移動しようとしている。
そんな中、遼火は先ほどの醜い悪意を感じたこととこの状況は無関係といえるのか、考えていた。
だが、いくら考えたとしても彼にできることは限られている。とにかく今は外へ出なければ、そう思い遼火もまた周りの動きに合わせようとして、一つの疑問が浮かび上がった。
「(暗すぎないか……?)」
いくら天気が悪く外の日の光が弱かったとしても、入口周辺は館内内部よりかはよほど明るいだろう。
遼火が歩いてきた方向を振り返れば、薄暗くとも入口が見えていてもよいはずなのだ。しかし、どこを向いたとしても暗さは一定で、あるはずなのだ。
嫌な予感がする、と思った時、その疑問を解消する最悪な答えが聞こえてきた。
「全員動くな!」
店の予備電源が働いたのか、少ないながら照明が付いた時、
遼火たちは銃を持った男たちに囲まれていて、入口があったと思われた場所には屈強なシャッターが立っていた。
人数だけで言えば、銃を持った一団の方が圧倒的に少ない。
だからどうだ、そんな人数差を覆して客たちを封殺てぎるほど獲物の差が大きかった。もし皆が勇気を出してテロリストたちに向かっていけば、犠牲を出しつつもテロリストたちを捕まえることはできたのだろう。
だができない、いくら数の差があろうが、犠牲が出ることを考えてしまうとそれが自分になるのではないかと考えて、足がすくんでしまうのだ。
それは恥ずることではない、それが種として、人間としての本能であり、限界なのだ。
「いいかお前ら!少しでも変な動きしたら命はないと思え!」
十数分後、遼火たちはデパートの中央部、普段ならばピエロでも来ているショーステージを中心に集められ座らされていた。
その際に皆携帯を没収されていて、無いと誤魔化そうものならば全身をくまなくチェックされ、それで見つかったのならば見せしめのようにテロリストたちは暴行を加えた。
そして持ち物検査を受けると、皆両手をプラスチックの結束バンドを使って前に縛られてしまった。
この手の拘束は確か思いっきり腹に打ち付ける形をとればバンドが負荷に耐え切れず、簡単に敗れると知っていた遼火は、周りで銃を構えているテロリストたちも観察していた。
「(それにしても……何が目的だこいつら)」
金品をせしめようともせず、政治的メッセージを持っているようにも見えない。宗教的色も見せないテロリストたちの目的は昔その身を探偵家業の中に置いていた遼火であっても分からない。
その考えを進めながら、自分の周り座っている人たちの顔を見る。その殆どは顔を青ざめて、これからどうすればいいのだといった表情を浮かべている。
その中で唯一、顔色一つ乱れないでどこか一点を見つめている女性が気になった。余りにも遼火の視線が露骨だったのかただの偶然なのか、女性はゆっくりと遼火の方へと顔を向けた。
遼火はその顔に、既視感を覚えた。それが先ほどぶつかってノートとボールペンを拾った女性であることに気が付くのもほぼ同時であった。
そして、小声で話しかけてきた。
「どうかしたかな?」
「……随分と落ち着いていると思ったんでな」
「そうかな、結構私も慌ててるんだけどな」
そう見えないから見ていたんだが、と遼火はこぼしそうになって飲み込んだ。そして周りのテロリストたちがこちらの会話を気にしていないか確認する。
だが、そのように少し顔をそらしたことの意味を気にも留めずに女性は話しをつづけた。
「私は郷烏 柚子(さとう ゆうこ)、貴方は?」
「……江藤遼火だ、というかもう少し声を小さくしたほうがいい」
そう宥めるように話してひとまず女性、柚子の口を止めた。その時、少しだけ声が大きくなってしまったことに気が付き遼火は再びテロリストを見た。しかし、テロリストは全くこちらを気にしていない。先ほどから話声に気が付くとすぐさま銃を構えるほどだったというのに、と遼火は疑問を持った。
柚子は首を少し傾けた後、遼火の行動の意味に気が付いたのか少し口元を緩めてまた口を開いた。
「監視なら大丈夫だと思う、この程度なら"日常"のはずだから」
そう自身を持って告げる柚子に、遼火はそれが虚構ではないことに気が付いた。試しに、声を少しだけ大きくしてもテロリストはこちらを気にしていない。
そして少し遠くにいた人に対して「喋るな!」とまた銃を向けていた。
明らかに、こちらの方が声が大きいにも関わらずだ。そのことを確認して再び柚子の方を向くと、優しい目をした柚子がこちらをみている。
遼火はこの事象に対し、3文字の回答を出した。
「——イデア、か」
「日常を非に、その逆もまたしかり。それが私のイデア……一変。私の近くのことだけなら誤魔化せると思うよ」
遼火はその柚子の言葉に、近くにいた人々の眼に希望が宿ったことを感じた。そうだ、イデアならばこの状況を打破できるかもしれない。柚子の近くにいる人たちはそう思って、近くに強力なイデア保持者がいないかどうか静かに探し始めていた。
そのことが少し離れていた白いワンピースの少女に伝わるまで、時間を要さなかった。
- Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.4 )
- 日時: 2015/08/18 19:49
- 名前: Orfevre ◆ONTLfA/kg2 (ID: dUayo3W.)
こーほくにて突如発生したデパートジャック事件。イデアによって解決を試みようとする遼火と柚子は、白いワンピース姿の少女に声をかける。少女の名は橘観鈴。書店で買った本の袋を抱えている彼女は転移のイデアを持っていることを二人に明かす。
「これなら……」
「うん」
目があった遼火と柚子は同じ結論に達してうなずく。観鈴による脱出と、柚子によるそれの日常化。この二つを組み合わせることによって、全員を逃がしたうえで、警察に通報し、テロリストたちを袋のネズミにすることが出来る……。が、観鈴はこれを固辞する。この作戦において遼火と柚子には誤算があった。
「わたし以外を飛ばすのは1往復が限度です」
観鈴といえど、自ら以外を飛ばすことに体力を使う転移のイデアは無限に使うことはできない。イデアといえども、万能でも無限でもない。大きな力には相応の代償が求められるのだ。
「確かに、仮に警察に連絡したところで、機動隊が到着するまでには時間がかかるし」
「そもそも、いたずら扱いされて相手にしてもらえない可能性もありますね」
結果として、考えられた作戦は廃案となる。いかにすれば、犠牲者を出すことなく、テロリストたちを追い返すか……。
その答えを模索している間にも、時間は過ぎていく。
- Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.5 )
- 日時: 2015/08/24 01:20
- 名前: チャム ◆VFDOEYR7G2 (ID: 6vRIMW/o)
ふと、上階、2階へのエスカレーターから複数の足音が聞こえて来た。それは上階に居た客や店員、彼らに銃を突きつけた何人かのテロリスト達であった。新たに捕まった客と店員は合わせて40人ほど。ざっと見、これで凡そ全体で300人ほどが捕まったことになる。これで今日この時間帯に居た店内の者たちの全てであろうか? さすがに遼火たちの集まっていたショーステージどころか、辺りも人で埋め尽くされてしまっている。
「これで全員か?」
「ええ、大体は。しかし、まだ全階調べ切れてません。何せこのデパート、広さもあれば人数も多いですし、隠れていたりされたら、俺たちだけじゃ探し切れません」
「ならもう一度探し直せ! 隅々まで! それに他のチームにも急がせろ!」
遼火は納得する。先ほどからもこの犯人たちの人数がやけに少ないと感じていたが、やはり上階にも分散していたのだ。今戻ってきた人数は3人。そして他チーム。それを踏まえると、最初に1階に居た人数を合わせて相手の人数は20か30だろうか? 多いと言えば多いが、この規模の建物と人間を制圧するには少々数に欠けるようにも思える。いや、少ない方が撤退の際のリスクも少なくて済むと考えるべきだろうか。兎に角、少人数でこの人数を制圧する為には一箇所に集中させる方が都合が良いのは間違いなく、そのつもりなのだろう。そしてその後奴らがこれをどうするのかはまだ分かりかねるし、こちらの方が人数こそ多いが、まさか自分が撃たれる可能性もあるのに無闇に逆らう者もやはり居ないのだろう。その上、数だけ居てもその意思を一つに纏めるのは数が多ければ多いほど難しい。この際不可能だと言っても差し支えはない。更には人の目を気にして動き辛くもなる。単純ながらも人間心理を見事に利用して反抗させないストレートな作戦だと遼火は考える。
尤も、それが普通の人間相手であるならば、ではあるが。遼火は知り合えた二人の仲間を一望する。
「どうせならこいつらにも手伝わせたらどうすか?」
「なるほどな」
犯人たちがこちらを向いて誰を連れて行くかを物色し始める。
「どうしよう。何かするみたいだね」
テロリストたちの様子からして、上階での客たちの捜索に1階に集めた者たち、特に男を選んで連れて行くようだ。
それを理解した遼火は何かピンときた様子で考えを巡らし、すぐに二人に耳打ちを始めた。
「橘さんって言ったよな? やっぱりそのイデアで抜け出して警察に連絡を取ってくれるか?」
「でも」
「俺に考えがある」
柚子は先ほど話したことで遼火に異を唱えようとするが、遼火はそれを遮り、遼火がすぐに行動に移すと何も言えなくなった。
遼火の見遣る視線の向こうでは、テロリストたちに見繕われた男性客、そして男性店員らが時には怯えながら抵抗の意思を見せ、テロリストたちはその者に対して再び暴力で従わせようとしていた。
「死にたいのかっ?」
「ひ、ひぃ!」
「よせよ」
「あん? なんだてめぇは? 黙ってろ!」
「暴力とか、止めろよ。……嫌がってる、じゃないか」
その場に立ち上がり、テロリストたちに数歩近づいて意見をする。周囲の客たちは驚きつつも、人によっては馬鹿なことをするといった表情で遼火に対して迷惑そうに目を逸らす。勇気のある若者、そのように見た者も中にはいたかも知れないが、この状況で下手に口を開き目立とうとする者は誰も居なかった。
しかし、そうして連れて行かれようとする男性店員を守る為に口出しをした遼火だが、まるでビクビクと怯えたような消極的な口振りで意見をするその様子に柚子と観鈴は少々の違和感を感じる。
「お、お前ら何が目的なんだ? そ、そうやって何でも殴って黙らせられると思ってるなら殴ればいい! 殴ってみろよ!」
「ハハハ。それじゃあ、お望みどおり……オラァ!」
「うぐっ……!?」
遼火は思い切り右頬を殴られ勢い良く後方に倒れこむ。口の中を大きく切ったようで口元からはダラリと血が流れた。倒れた遼火に柚子と観鈴が近寄り声をかける。
「生意気なガキめ」
テロリストの一人は唾を吐いて踵を返し、再び先ほどの男性店員を連れて行こうと乱暴な口振りで立てと命令をする。
「……ま、待て。それなら、俺が行く。どうせ誰でも良いんだろ? 俺が代わりに——」
「黙れっつってんだろぉ?」
尚も口を開いてくる遼火に腹を立て、そのテロリストの男は再び遼火に近づき続けて殴り掛かろうとする。
「早くしろ! 良い! そいつで良いから早く連れて来い!」
しかし、リーダーらしき男が部下である遼火を殴ったその男に命令すると、男は舌打ちをして「付いて来い」と遼火に吐き捨てた。
「遼火君!」
「大丈夫だ。言ったろ? 考えがあるって。それと」
「……え?」
遼火は観鈴の方へ振り返り、突然観鈴の体に顔を埋めるように彼女の体を抱き寄せた。
「?!」
観鈴は顔を赤くし狼狽える。横に居た柚子も何が起こったのかと目を丸くしている。
少しの間ギュギュリと遼火が顔を押し付けて顔を引き離すと、彼女の白のワンピースの凡そ肩の部分に先ほど流した口の血がいくらか染み込んだ。
「……これで良い。この血を見れば、警察もそう悪戯だとも思わないだろう」
「あ、あー……」
「な、なるほど……」
柚子が声を零す。観鈴も自分の真っ白な服に付けられた鮮明な赤色を見て理解をする(尤も、赤いのは服だけではなかったが)。
「それじゃあ、頼んだ」
「えと、私は?」
柚子が自分を指差して尋ねる。
「アンタは、俺が戻ってくるまでここで奴らの様子を見ていてくれ。何か良い隙が得られるかも知れない。俺は、あいつらに付いて行ってあいつらの銃を奪ってみる。それに脱出口の確保もな。橘さんは、悪いが警察に連絡したらまた戻って来てくれ。君の能力が勝利の鍵になるかも知れない」
「うん。分かった」
「は、はい。気を、つけて」
「早くしろガキ!!」
さすがにこれ以上は話していられない。遼火はテロリストたちのチームに続き、上階へと向かうエスカレーターへと向かっていく。
- Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.6 )
- 日時: 2015/08/24 01:44
- 名前: チャム ◆VFDOEYR7G2 (ID: 6vRIMW/o)
2階3階にはもう誰もいなかった。さっき連れて来られたのは2階3階に居た者たちだったのだろう。遼火はテロリストたちの指示通りに客たちを探しながらも上階の様子を調べていた。但し、隠れている者が居ないかを調べる為にもあちこちを吟味するように調べられるのは遼火にとっては都合が良かった。
まず、階段にもシャッターが下りている為、テロリストと遼火たちはエスカレーターから上階に上がることになっていた。勿論動いてはいない。エレベーターも同様に停止している。スイッチを押してみてもピクリともしない。また、窓にすらシャッターが下り、外の景色を見ることすら出来なかった。真っ暗になる筈だと納得する。
遼火は天井に備え付けられた火災報知機などの機器を確認すると、その内の監視カメラを見上げた。
それにしても最新のデパートだけあってこの建物は全て電子制御がされているようだった。恐らくどこかにそれらの制御室がある筈だと遼火は推測する。要は、そこさえ抑えてしまえば脱出のチャンスは大いに高まるということだ。今頃観鈴が知らせてくれている警察の突入もし易くなることだろう。機動隊の到着までは時間を稼ぐしかない。
「次は4階だ。……おら、急げ!」
一緒に連れて来られた客の一人に拳銃を突きつけ、一同を更に上の階へ進ませる。
4階に到着し、再びテロリストたちが指示を出す。今この場に居る銃を持ったテロリストたちは6人。遼火たちは2人のテロリストに2人ずつ付いて3つに分かれてその階を探し始めた。
遼火と一緒に行動することになったのは、先ほど一度見かけた赤い男だった。高校生くらいだろうか? 背丈は遼火とそう変わらない。赤い男は遼火たちと同じように手前で両腕をプラスチックバンドで拘束された状態で、渋々ながらも黙って従って歩き出す。
探し始める前に、エスカレーター横のフロアマップを確認する。この階は主に雑貨や文房具を扱う階のようだ。大人向けのシックな店や子供向けのカジュアルな店など、幾つ物テナントが入っており、あちこちに客の目を引きそうなデザインの飾りや商品が置かれている。
その他、既に下の階でも確認したことだが、このデパートは8階建てで、地下は3階まで。地下1階には食品売り場があり、地下2階以降には駐車場が広がってはいるが、これは社員用であるらしく、客用駐車場は主に建物の横に並列して建つ立体駐車場である。立体駐車場へはどの階からも移動出来るが、当然のことながらこちらもシャッターで通路が塞がれており、緊急脱出用の避難口も恐らくそのシャッターの向こうである。
兎に角テロリストたちは制御室を占拠したことでシャッターを下ろした筈。それならば脱出の為にも、または警察の突入にもやはり制御室を何とか確保する必要がある。制御室の位置は、恐らく地下か1階か。少なくともマップを見る限りでは、2階から4階までには無さそうであった。
「居たぜ!」
文具店の奥のスペースに客と店員合わせて5人ほどが詰め込んで隠れていた。
「おいおい、野郎が一人でこんなに女を侍らせてハーレムのつもりかよ?」
「へへへ、美人揃いじゃねぇか。少しくらい良いか。……おい、お前ちょっと来い」
止めようとした男性客を殴り倒し、嫌がる女性客の腕を掴み下卑た笑いを浮かべるこのテロリストの一人が何を考えているのかは手に取るように分かる。テロリストの一人は女性客の体をまざまざと触り、女性客は悲鳴を上げながら助けを求める。しかし、ここで助けに入ることは難しい。幸い奴らの状況を考えるとそう時間も無いのだろうし、この女性客には多少のことは我慢して貰う他ない。遼火は黙ってそれを見逃そうとする。
しかし——。
「いい加減にしな!」
なんと遼火と共にこのテロリストの2人に同行していた客の男が、それを止めるのに女性の腕を掴んだテロリストに「殴り」掛かっていた。
「ちぃっ」
遼火は舌打ちした。そして、両腕の拘束バンドを例の方法で解除し、その赤い男に銃で狙いをつけたもう一人のテロリストの後頭部に延髄蹴りを食らわせて、気絶させた。
遼火が振り上げた足を戻し終えた頃、赤い男が殴りかかったテロリストも小さな呻き声を上げて倒れていた。
「やるじゃねぇか」
「……」
こちらを振り向いて笑みを浮かべる赤い男に対して、遼火は一つ溜息を吐いて見返した。
——。
「何事だ?」
少しすると、分かれて探していた他のテロリストたちが集まってきた。
「あ、あの、私たち」
「……何だ客か。おい、黙って死にたくなかったら俺らについて来な」
「は、はい」
やって来た別のテロリストたちは、ここに隠れていた客しか居ないと判断するやそのまま彼女らを連れて踵を返して行く。助けた女性客が心配そうにこちらをチラリと見て、遼火はテロリストたちがこちらに気が付かれないか警戒するが、無事気付かれず去っていった。息を殺して身を潜める遼火と赤い男は、彼女らが遠くに行くまで店内の監視カメラの死角となる物陰で、倒れたテロリスト2名の体を押し込んで呼吸すら堪えて見守った。
「……ぷはぁ! 危なかったな」
「誰の所為だ」
「でもあそこは助けるところだろ?」
「そのお陰でこっちの目的は台無しだ」
「目的? なんだよ? 案でもあるのかよ?」
遼火が自分の考えを説明をする。
まずは各階の様子や構造を知っておきたかったこと。次に、隙あれば奴らの銃を奪うこと。なら目的の一つは丁度達成したなと赤い男が喜び、遼火もそれには頷く。
「あとは、こういうデパートには、防災センター、……つまりシャッターやカメラ、電気システムを制御する制御室があって、そこさえ確保出来れば、あちこちのシャッターも解除出来ていくらでも脱出することが出来る。それに、さっき知り合った客の中にテレポートの出来るイデア能力者が居て、警察に連絡するよう伝えてあるから、あとは突入口さえ何とか出来れば」
「助かるって寸法か! やるじゃねぇか」
「まだ何にもしてねぇよ。そしてお前のお陰で、それがやり難くなった」
どうせならこのまま8階まで調べてからアクションを起こしたかったのだと内心で愚痴る。
「おいおい。折角さっきの姉ちゃんたちに囮になって貰ったんだぜ? 頑張ろうぜ。へへへ、ま、大丈夫さ」
「どこからくるんだその自信は」
「銃も手に入ったしよ。なぁに、何とかし難い状況を何とかするのが男、そして燃える展開さ」
「楽観的だな」
完全に肉体派だろうこいつは。
「今脳筋だと思ったろ?」
「鋭いな」
「ま、逆にアンタは脳みそ使えるタイプみたいだな。 ……んじゃ、知将さんよ」
赤い男はさっきのテロリストたちから奪った銃をガチャリと構えて笑みを浮かべる。
「この後どうすればいいのか考えてくれよ」
腕節は確かなようだし、この状況では特にありがたい戦力ではある。しかし、同行するにしても先ほどのように考え無しに動かれたのではこちらの身すら危うい。この男の言う通り、何とかして自分が頭を振り絞らなければならない。
全く。遼火は自分も銃を握り締め、まずは銃を確認する。
ベースはベレッタの様だが、やや異なっている。恐らくフィリピンかどこかで密造されたコピーだろう。弾の装弾数はマガジンに15、……ということは、まだ装填されていない? スライドを引いて確認してみると装填され、引き抜き直したマガジンからは1発分減った。
(素人かよ)
ガシャン。マガジンを戻す。
銃口は向けるくせに装填すらしていないとなると、あのテロリストたちはプロではなさそうだと直感する。
「……銃使ったことあんのか?」
扱い慣れているかの様子を見せる遼火に赤い男が尋ねる。
「どう思う?」
薄ら笑みを浮かべて肯定も否定もしない。
「いいとこのお坊ちゃんか何かなのかね? ……それともヤクザの御曹司さんで?」
「どっちも違う」
そう言って恐々とたじろぎ一歩引く赤い男の言葉を否定するものの、筈だ、と内心で付けたし、そして彼の方の銃にも装填するよう伝える。
赤い男は初めての銃を直に手に入れたことで少しはしゃいでいる様子である。
「けどよ、さっきの動きと言い、ただの一般人の動きじゃなかった気がするぜ?」
「そっちこそ、あのバンドの取り方よく知ってたな?」
そういう知識があることに驚きつつ告げる。少し前まではバンドが付いていたのは間違いないので、遼火も気付かない速度で素早くあのバンドを解除して殴りかかったことになる。
「あれか? へへ、あれはプラスチックだったからな。ラッキーだったぜ」
どういうことかいまいち飲み込めない遼火に対して、待ってましたかといったような顔をし、
「ああ、そうだな。例えば——」
そう言って近くの商品の消しゴムを手に取って、その指に触れた部分から「赤く煌々とした火の揺らめき」を出すと、消しゴムは見る見る内に消し炭になって消えていった。
「?!」
しかし、遼火はすぐに合点が行った。
「炎を操る。それが俺のイデアさ」