複雑・ファジー小説
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- 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~
- 日時: 2015/12/13 03:31
- 名前: IDL:Project (ID: EZ3wiCAd)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=70
『カミサマを信じてないわけじゃない』
『でも選ぶのは個々の勝手だろう』
『何に使って結果どうなろうが』
『それはあくまで手段に過ぎないのだから』
『使うも自由、使い道も自由』
『思うが侭に楽しめばいい』
『誰だって』
『自分の人生で』
『主人公だろう?』
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【基礎情報】
タイトル:IDOL-A Syndrome 〜全世界英雄症候群〜
小説形式:リレー小説
投稿場所:複雑・ファジー板
ジャンル:複雑
投稿形式:順番制
【参加者様】
現在、リレーに参加している書き手=IDL:Projectのメンバーです。敬称略。
番号がそのままリレーの順番です。何かメッセージがあれば行間にどうぞ。
①空凡
「最近家事手伝いにはまった」
③戦崎トーシ
「こけおどしのししおどし」
④Satsuki
「そろぼち落としどころを考えましょうか」
⑤チャム
「忙しさは12月いっぱい続くんじゃ >年末に向けてバイトの日数増やしたら嫌がらせのような連日出勤の塊が生成されておりましたとさ。うわばらー」
休参者
②Orfevre(高坂桜)
【次回投稿予定者】
空凡 12/12経過
戦崎トーシ 12/18迄
【連絡事項】
参加者様や読者様に宛ててメッセージがある場合ここに追記していきます。
・プロローグが終わりました、これより本編に片足を突っ込んでいきます。
・現在、リク板スレにて追加参加者を募集しています。
【目次】
Prologue:>>1-12
Chapter 1「Mate is behind Team , cannot In」 >>13-36
>>1-36
- Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.17 )
- 日時: 2015/10/09 23:47
- 名前: Satsuki (ID: EZ3wiCAd)
「昨日といっても、いつもと変わらない一日でした。私も会社員ですので、お仕事から帰ってきてからお買い物に行こうとしたら、玄関からするりと抜け出してしまって。あいにくこのスカートですので……」
「すると、この猫は室内飼いで?」
「そう、ですね。たまにベランダを開けるくらいで、普段はずっと室内で飼っていました」
広げたノートにメモを取っていく遼火。時折ペンを弄びながら質問をし、それに女性が答えていく。
実に嫌そうな目をした先刻とは打って変わって、いざ始めてみれば遼火の目は真剣に事にあたっているもので、探偵という仕事の重みがひしひしと感じられる。
柚子の出る幕は、どうやらなさそうであった。割って入る余地もなく、両者を交互に見返すばかりである。
「普段の食べ物とかは何をあげてました?」
「餌ですか? 市販のキャットフード、だけですね」
「けっこう大人しい子でしたか? 猫のほうで何か変わった挙動とかは、ここ最近でありましたか?」
「そうですね、あまり動きたがらない子で、だから、昨日もおかしい動きは何も……」
成る程、と呟き、遼火はペンを走らせる。その動きを見ているだけの柚子、何かできないかと周りを見る。
とはいっても、何か動くものはない。女性は相変わらず静かに腰掛けており、少年は今もコップをつついている。
「ちなみにこの猫さんのご年齢は」
「けっこういってる、と思います。私が飼いはじめてからもう二年、三年くらいです」
「そうですか? この写真を見ると、まだまだお若いかと思うのですが」
「飼いはじめた頃にはもう成熟しているぐらいでしたので……」
「成る程、それでしたらよほど大切にされていたようですね、分かりました」
柚子は部屋に目を移す。ソファの空いた一角に薄型のテレビ、使われているのかも分からないラジオデッキ。食器棚の中にはその大きさと部屋の広さに反して中身はあまり入っていない。
このくらいの広さなら水槽でもありそうなのだが、どうやら遼火にその趣味はないようだ。
と思って目線を戻すと、遼火のペンを持った右手がある一点を指していた。
怪訝に思ってその先を見てみると、少年だった。——否、少年が手に持っているコップだ。空になっている。
何時の間に飲んだのだろう。そして遼火はいつそれに気づいたのだろう。慌てて冷蔵庫へと向かう柚子に
「お茶でいいよ」
後ろから少年の声。なんとおませな少年だ。オレンジジュースではなくガラスボトルを取ってきて、空のコップに注ぐ。
注ぎ終わってから一回濯いだほうがよかったのではと思ったが、少年は特に気にすることもなくお茶を飲んでいた。
柚子が席に戻った時にはどうやら女性への聞き込みは終わったようで、遼火が別のメモ帳を取り出して女性に差し出すところだった。
「畏まりました。それではこちらでも捜索させていただきます。もし見つかったり有力な情報が入ったら提供しますので、お名前と連絡先をいただいても構いませんか?」
それに女性が軽く記入し、返されたメモ帳を遼火が受け取る。一瞥し、それを机に置いた。
女性はコーヒーをもう一口啜り、それからおずおずと口を開いた。
「あの、依頼料についてなんですけど」
「ああ、前金は結構です。こちらでいただくのは報酬だけ、というスタンスですので。特に今回は猫探しということですし」
「え、いいんですか……?」
「いえいえ、探偵というのは結果ありきの商売ですので、お気になさらず。何十何百とは求めませんので、ご安心ください」
「……ありがとうございます」
女性の一礼を受けて、遼火は子供へと目線を移した。
少年はコップを軽く回し、お茶にできる小さな波紋をただただ見ていた。不思議な奴だ、と遼火は思った。
「この子はこちらで預からせていただきます。そちらも夕方からお疲れでしょうし、よろしければ今日はお帰りください」
「あ、でしたら……甘えさせていただきます」
また頭を下げた女性に遼火は目線を戻し、それでは、とソファから立ち上がり、玄関口へと歩く。
それに柚子もついていった。ドアノブを握り開けて、振り返った遼火の目は、まだ鋭い視線を放っていた。
ありがとうございます、と言って、女性はハイヒールを履いて、外に出た。
「無事に見つかるよう、こちらも頑張らせていただきます。では」
「お手数をおかけします、よろしくお願いします」
お互いに一礼をして、女性が玄関から出て行った。それを少し確認して、遼火はドアを閉めた。
ため息ひとつを吐いて、ドアノブから手を離し、振り返ると柚子の目線と合った。
「どうかな?」
そう訊く柚子。遼火は片手を口元に当てて少し考え込むが、半ば諦めたかのようにその手を翻した。
「違和感はあった。重要なところを避けられたな、謎は深まるばかり……。
と、思うだろうが。ただ、今回はその謎が解決の鍵になりそうだ。喜べ、猫を探すだけじゃ終わらなさそうだぞ」
「じゃあ、やるの?」
「……仕方ないだろ、探偵としての仕事はこれっきりだからな」
一瞬だけ目元を翳らせてみたが、しかし遼火が顔を上げると柚子の満面の笑みがそこにあった。完全に乗せられたな。
もう一回、わざと大きくため息をついて目を逸らしてみたが、柚子の表情は全く変わらなかった。その表情のまま首を傾げたのが面白くて遼火は咽ることになった。
「でも、あの子はどうするの?」
そんな遼火の様子に気づかい無しに柚子が問う。遼火は深呼吸して呼吸を整え、言う。
「……そのためのお引取りだ。"依頼人"には平等に話を聞かないとな」
そしてソファに座ったもう一人、詳細不明の少年を見やる。
ちょうどコップのお茶を飲みきったらしい少年が、笑みを浮かべてコップを傾け、二人に空の器を見せてきた。
- Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.18 )
- 日時: 2015/10/12 21:49
- 名前: チャム ◆VFDOEYR7G2 (ID: k6jJPJUp)
もう一度コップの上から1cmほどの高さまで並々と注がれたコップを引き寄せ口につける少年の正面に座り、改めて“もう一人の依頼人”への質問を開始する(尤も、この少年は偶々やって来ただけで別に依頼をしてきた訳ではないのだから、厳密には依頼人ではないのだが)。
「まずは名前と年齢から」
「加藤武瑠(カトウ・タケル)。8歳」
「何でこんな時間に外をうろついてたんだ?」
自分に関する簡潔なその質問に少年は端的に答える。しかし、続けてされた次の質問に少年はしばし黙り込んだ。
「……猫を探してて」
「猫を探すにしても、ちょっと遅くないか? 4時だぞ? 一晩中探してたのか? 親だって心配するだろ? 親は何も言わないのか?」
それは率直に非常識であろう。それまで敢えて聞かずにいたことを遼火はここで容赦なく少年にぶつけ始める。
「だって、家族、だから。それに、父さんは今出張中で家に居ないし」
「お母さんは?」柚子が尋ねた。
「居ない」
少年は少しだけ力強く答えた。それがどういう心情からの強味なのか、それは推して然るべきものだろう。
遼火は心の中でなるほどと呟いた。片親で、代わりに普段一緒に居る猫が居なくなって心配したと。確かに一見理屈としては通っている。
しかしまだ足りない。遼火は質問を続ける。
「で。この猫、君のなんだって?」
「うん、そうだよ。うちの“モモコ”だよ」
写真を手に持ち少年に見せながら尋ねる。この写真は先ほどの女性依頼人が持ってきたもので、つまりは彼女が探して欲しいと言った彼女の猫の写真であり、それは当然この少年の飼う猫の写真である筈も無く、にも拘らずはっきりと自分の猫だと言い切る少年に遼火は改めて小さな溜息を吐いて改めて写真をテーブルの上に置く。
「探していたと言ってたが、どうして?」
「……放し飼いにしてたら、雨が凄くて、それで帰って来なかったから雨が止んでから探しに行ったんだ」
それを聞いて横で柚子が「雨凄かったもんねー」と頷く。その凄さは他でもない遼火自身が一番知るところでもある。確かにあの雨なら猫もどこかで必死に雨宿りをしていることだろうし、夜ならそのままどこかで休んで戻ってこないだろう。ただ子供であれば見つかる筈の無い猫を延々と探し続けるというのは理解出来なくも無い。
「でも、さっきの人も自分の猫だって言ってたんだ。この写真を持って来たのもさっきの人だ。君が勘違いしてるんじゃないのか?」
「知らないよ。僕も写真を見てビックリだったもん。でもそれは絶対にうちのだし」
「ふむ」
間違いなくうちの猫だと言い張る少年に、遼火はこのままでは埒が明かないと感じ始める。
他猫の空似ってことはないだろうか? それに何せ子供の言うことでもある。だが、名前まで同じというのはあり得るのだろうか?
「首輪の色も同じなのか?」
「勿論。ピンクの首輪だよ」
「毛の模様も?」
「うん」
なんと首輪まで同じらしい。また、念の為聞いてみたが毛の模様も。
「ウソだと思ってるんでしょ? ウソじゃないよ」
「他に何か特徴は分かるか? ……そうだな、この写真を見ないで言って合ってたら信じてやる」
「……」
少年は黙り込んで幾らか減ったコップの中に視線を落とし、程なくしてから視線を上げ直して口を開いた。
「……首輪」
「首輪?」
「首輪の右のところに染みと擦り傷がある。擦り傷は触ってる時に僕が爪で付けちゃったんだ」
写真を見ると、一見分からないが目を凝らすと確かに染みのような物があるように見える。少年も先ほどから少なからず写真を見はしていただろうが、間近でじっくりと見ない限りこの染みに気が付くことはないだろう。これはそれだけ微妙な色合いの染みであり、今さっき初めて見ていきなりこんな染みに気が付くとは思えなかった。
なら本当に飼い主なのだろうか? ただ、擦り傷に関してはこの写真では良く分からない。毛で隠れてしまっているのかも知れない。
しかし、もしもウソなら、見つかった時すぐばれるようなことを言うだろうか? しかし子供なら? だが、先ほど言った染みは確かにあるように思える。
では、仮に子供が本当の飼い主だとすれば、あの依頼人の女性は何なのだろうか? 向こうの方が勘違いをしている? 似ている別の猫、この場合少年の猫を写真に撮ってしまったのだろうか? しかし、本当にそんなことがあり得るのだろうか? 名前も首輪も毛の模様まで同じなどということが。普通に考えれば、金をかけてまで猫探しをする依頼人が正しく、子供がウソを吐いていると考えるべきか。……。
考え込んだ遼火が黙り込むと、室内はやけに静かになった。少年も柚子も同じく口を開かず、時計の音だけが室内に響いていた。
女性依頼人の連絡先を書いたメモとコップのお茶を飲み干しガラスボトルからおかわりをしようとする少年の顔を交互に見比べながら遼火は考える。
ただの猫探しの依頼が来たかと思えば、何故か偶々やって来ただけの筈の少年が自分の猫だと言い張り、ただの猫探しではなくなってしまった。
一体どちらが本当の飼い主なのだろう? どちらも自分の猫だと言ってはいるが、今のところそれが本当であるのかどうかの確証は無い。
「あー…………」
遼火はソファーの背もたれに深く倒れ込んで頭をボリボリと掻きながら呻き声を出した。
「どうかな?」
それを柚子が真上から覗きこんで尋ねてきた。少々顔が近い。
しかし分からない。こんな情報だけでは分かる訳が無い。というか眠たいし頭も働かない。忘れていた訳ではないが、今の時刻は健常な生活を営む者なら夢の中で愛おしく安らいでいる時間の筈なのである。特に昨日と言うか今日と言うかは、あの事件や大雨の所為で体力を根こそぎ持っていかれてしまっているのだから、頭などまともに働く筈も無い。率直に言えば、疲れた。
「いよし」
- Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.19 )
- 日時: 2015/10/12 21:46
- 名前: チャム ◆VFDOEYR7G2 (ID: k6jJPJUp)
遼火は気合を入れて上半身をソファーから起こした。柚子は察して顔がぶつかる前に逃れて後ろに下がった。
とりあえず話は聞いたのだから、今日のところは切り上げることにした。時計を見ると5時を過ぎている。
「武瑠君はどうする? 泊まってく?」
家主でもない柚子が少年に尋ねた。というか彼女は既にここに住まう気でいるのだろうか。柚子のことも実はまだ許可を出してはいない筈なのだが。
一応遼火にも家主としてのプライドがあるので、少年が答える前に自分でも質問することにした。
「家は近いのか?」
「分かんない」
「は?」
「探してたら、来た事ないところまで来てたから。……僕、泊まっていきたい」
「そうだねぇ。この時間じゃ危ないしね」
結局、そろそろ朝だとは言え帰り道も分からないような子供をこの時間に一人で帰すというのも大人として問題があるので泊めざるを得なくなった。送っていくにしても、とりあえずもう寝て起きてからにしたい。
「……泊まってもいい?」
「うん、勿論。ここに住んでる私が許可します」
「待て。まだあんたのことは許可してない」
やはり彼女の中では既に確定されていたのか、咄嗟に突っ込みを入れる遼火。確かに探偵(厳密には違うと言いたいが、この際一先ず探偵ということで構わない)の手伝いは許可したが、住むことにはまだ同意していない。
「じゃあ、追い出す……?」
「え? こんな時間に?」
柚子が悲しげな声を出すと、少年が反応して驚いた声を出した。
「外、暗いよね」
「うん、それに寒いよブルブル」
「震えるくらい寒いなら、きっと風邪引いちゃうね。雨も降ってたし」
薄暗い窓の外を二人で見ながら、全く同じタイミングで恐る恐る遼火に振り返る柚子と少年。
「「チラリ」」
「待て。その子が震えてるのは単純に水分の取りすぎだろう」
あまり気にしていなかったが、ここに来てからの1時間弱で一体何杯飲んでいたと思っているのか。
「イタタタっ、お腹痛いっ」
「大変! 遼火君、薬は無いのかなっ?」
「さっきから何なんだその息の良さは?! とりあえずトイレはあっちな!」
勢い良くトイレに駆け込んで行く少年の後を追って柚子も付いて行く。
妙に息ピッタリな二人に手玉に取られているような気持ちで見送りつつ律儀に薬を取りに向かう遼火は、ふと“郷烏柚子”のことを考え始める。
彼女が言うには、非日常が好きで探偵に興味があるということだが、偶々事件の最中に知り合ったというだけで突然押しかけてきて、一緒に探偵を、それも住み込みでやらせて欲しいなどと言うのは少々不自然ではないだろうか?
彼女には何か別の思惑があるのだろうか? だが、正直不思議と遼火自身その不自然さを受け入れかねない奇妙な心境に陥り始めている。
日常を非日常に変える『一変』のイデア能力者。これもそんな彼女のイデアの成す結果の一つなのだろうか?
疑念を抱きつつもそれを確かめたくなるのは染み付いた職業病故なのか、彼女の持つイデアに対する興味の所為なのか、それとも。
トイレの前から戻ってきた柚子に遼火は話しかける。
「……郷烏さん。とりあえずなんだが、住んでも構わない。けど——」
「本当っ? ありがとう!」
言い切る前に向けられた不意を突くような満面の笑みに、一瞬思わず言葉を失ってしまう。胸の音が確かにドキリと言ってしまったような感覚。何かグッとした衝撃に、言葉と共にほんの短い間、遼火は時を奪われた。
しかし直後我に帰る。まさか江藤遼火としたことがこんなことで意識を奪われるとは不甲斐ない。ただの笑顔だ。自分を叱咤するように一度深呼吸し、目を逸らしながらも続きを告げる。
「その代わり、この依頼の間だけだ。終わったら出て行って貰う。やっぱり若い男女が同じ屋根の下というのはな、こっちとしても何かと問題が——」
だが彼女の姿は既にそこには無く、どこか恥ずかしさを堪えながらも言ったその台詞は柚子には全く届いていなかった。
「ねー! 紙無くなったぁー!」
「遼火君! トイレットペーパーの買い置きどこなのかなっ?」
「…………」
- Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.20 )
- 日時: 2015/10/12 23:55
- 名前: チャム ◆VFDOEYR7G2 (ID: k6jJPJUp)
翌朝、江藤遼火は、実にげんなりとした面持ちで燦々と照る午前10時の日差しがキラキラと煌きながらもその実かなりの紫外線を下から上へ照り返しているような凶悪なコンクリ地面の上を闊歩していた。その隣では郷烏柚子と昨日の少年とが仲良く手を繋いで最近人気のCMソングを歌いながら歩いている。
「隠者(いんじゃ)ー、隠者(おんじゃ)ー」
「隠者(いんじゃ)ー、隠者(おんじゃ)ー」
「隠ー(いーん)、隠ー(いーん)、隠ー(いーん)、隠ー(いーん)」
「隠(おん)隠(おん)隠(おん)隠(おん)、隠ー(おーーーーん)」
「てれれっ、てれれっ、てれれー」
「……」
聞き覚えこそあるが、自分では特に歌いたいとは思わないそのリズムを楽しげに歌う二人のことを、楽しそうだなぁとか鬱陶しいなぁとか色々思っても良さそうなものだが、どうやら遼火の顔はそれを特に気にしていない様子である。つまり感想無し。何とも人としての情と書いて人情を欠いた反応である。
いや、彼の名誉の為に言えば、それは気にしていないのではなく気にする余裕が無いの間違いである。何故なら現在時刻は午前10時。そう、10時である。お分かりだろうか? 就寝したのは5時過ぎ。あの後二人に空き部屋を紹介してすぐ自室に戻って倒れて即座に眠りこけたものの、まさか起床してすぐそれも3人もの人間が即座に外に出て朝の散歩を開始する筈も無いので、当然起床したのは10時より前。はっきり言えば9時8分である。
「隠者(いんじゃ)ー、隠者(おんじゃ)ー」
「隠者(いんじゃ)ー、隠者(おんじゃ)ー」
そう、4時間弱。それしか寝ていないのだ。何故そんな時間に起きる羽目になったのかと言えば、単純に少年と柚子に叩き起こされたからである。他に何の理由も無い。遼火としては本来、昨日は大分疲れたし今日のところは昼過ぎまでは寝て昨日の疲れをしっかり取ってからじっくり取り組むかぁーと言った内容だったのだが、探偵仕事がそれほど楽しみらしかった柚子に、半ば旅行気分で知らない他人の広い家にお泊りしてテンションの高い少年という二人によって布団ごと安眠を奪い取られた。遼火には、今日最初に視界に入った二人の笑顔に見たアレを「狂気」と呼ぶに何の躊躇いも無い。
よって、眠たい。頭がぼーっとする。激しく眠たい。いくら柚子が訪れてくる前から寝ていたとは言え、途中で起こされて1時間も経てばはっきり言ってそれまでの睡眠度合いはほぼ0へリセットされる。いや、本当にそれまでの睡眠が科学的に無駄になるのかは定かではないが、そんな気がする程度には眠たい。そう、眠たい。
「隠ー(いーん)、隠ー(いーん)、隠ー(いーん)、隠ー(いーん)」
「……」
「隠(おん)隠(おん)隠(おん)隠(おん)、隠ー(おーーーーん)」
「……」
対して二人はあの10時の太陽の眷属と説明されてもあながち疑いが出ないような元気の良さ。男一人だけが実に暗い。沈んでいる。因みにこの男、服まで黒い。
「うるせぇ……」
「あ、反応してくれた」
「やっと反応した」
「服のことは、馬鹿にするな……」
気に入っているのだ。世の中服は様々にあれど、自分とそれほどフィーリングの合う服にめぐり合うと言うのはそれだけでレアである。遼火にとってそんな希少で且つ気に入っている服がこれなのだ(というか、至って普通の服なのであるが)。
「でも、私も服のことはどうでもいいかな」
「うん。どうでも良い」
「どうでも良いって言うな。寂しいだろ……」
低い。今の遼火のテンションは激しく低い。その上折角のフォローも天邪鬼で無下に返す。いっそ性格すら変わってしまっているようにも見える。
「遼火君、疲れてるみたいだね。でも大丈夫。これから猫猫パラダイスに行くんだから。きっと癒されるよ。ね?武瑠君。猫沢山いるんだよね?」
「うん。いるよ。30匹くらい!」
数を聞いて柚子が「すごいすごい」と盛り上がる一方、遼火は想像する。30匹。完全に猫の独立国家じゃねぇか。遼火は入国した途端に手厳しい歓迎を始める猫たちの様子を脳内クリエイトして背筋を振るわせる。その際のやられ役は自分だ。このメンバーでは致し方が無い。
「居ると良いね、モモコちゃん」
そもそもどうしてこうして歩いているのかと言えば、この少年の言う「手掛かり」とやらがその場所だからである。つまりは、
『モモコはいつも猫の溜まり場に遊びに行くんだ』
ということなのである。
なので、遼火たちはそこへ向かい、まずは直にモモコを探すことになってしまったのである。
場所はと言うと、幸いそれなりにご近所とも言える距離のようだった。
「……しかし俺としては、まずネットで町の預かり情報を確認してからだな」
「探偵は足! 足を使えない探偵は駄目な探偵だって、某有名探偵も言ってたんだから」
この探偵を良く知りもしないお嬢様に中途半端な知識を植えつけた有名探偵は一体どこの探偵様なのか、小一時間説教してやりたい心境だった。お陰でこの二人に狂気を孕んだ行動を招き、遼火の睡眠及び体調が悲惨なことになっているのだ。
にしても、頭がぼーっとする。昨日の雨でやはり微風邪を引いているのかも知れない。おまけに朝食もロクに食べていないのだ。昨日コンビニで買ってきた食料は結局三等分され、そして尽きてしまった。お茶も昨日(というか今朝)少年一人に飲み干され、水分は水だけだ。中々に侘しい。猫探しと言うのは根本的に体力仕事なので、こういった状況ははっきり言って最悪の部類である。
「腹減ってるんじゃない? 兄ちゃんもガム貰えば? クチャクチャ」
「要る?」
差し出されたメロン味のガムを素直に受け取って口に放り込み、その味で舌と腹を誤魔化することにする。口に入った瞬間それは空きっ腹に染みるほどの甘酸っぱさ……甘酸っぱくはない。メロンだからである。どちらかと言えばメロンは甘い。果物の中ではマイルドな甘さがある。ただ今は甘酸っぱい方が良かった。気分的にである。甘酸っぱさこそフルーティと呼ばれる味わいの正体だろう。ひいては快活への招待状。快活な自分という大舞踏会へ行く為にはフルーティな甘酸っぱさが必要不可欠なのだ。快活を求めたかった。快活によって自分も日の当たる世界に相応しい住人として住民登録されたかった。
クチャクチャ。
しかし、噛めども噛めどもメロンはメロン。甘酸っぱくはならない。
クチャクチャ。
途中で自販機でもないだろうかと探す。しかし無い。はっきり言って皆無だ。
何なんだこの町は。自販機の一つくらいポンポコ置いておけよ。昨日のコンビニが中々見つからなかったことと言い、内心で愚痴る。ただ、快活の代わりに苛立ちによってせめて頭だけは冴えて来た気がしないでもない。
そしてそれを自覚した頃、丁度目的地に到着したようだった。
「あそこだよ! あそこ!」
- Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.21 )
- 日時: 2015/10/25 18:09
- 名前: 空凡 ◆qBiuWfql4I (ID: 4RNL2PA4)
少年が指でさししめしたのは一本の細道だった。建物と建物の壁の余白にできた道の奥には、神社のようなものが見える。
ここが件の猫猫パラダイスとやらなのか、少年に聞こうと遼火がきこうとするときには、少年は我慢できなかったようですでに走り出していた。
それにつられ、郷烏もテンションを上げて続いていく。体長の悪さからか、遼火は悪態の一つもつかずゆっくりと二人を追おうとして、
「……ん?」
後ろで何か動いた気がして遼火は首だけ回してみたものも、そこには何もなく、気のせいだったかと思い直し歩を進めた。
◇
密閉感ある道を進んで行く、地面は舗装されておらず下は昨夜の雨によってぐちゃぐちゃになっていた。こんな所を走っていけば、転びはしなくても足回りが汚れるだろうと思いながら歩いた。足元には3組の靴の跡が刻まれる。
十数m程度歩くと、隣に立って居た壁の代わりの様に大きい鳥居が現れた。先ほど、ここに来たはずの二人は恐らく礼もせず通りすぎたのだろうかなどと思いながら、遼火は頭を少し下げて鳥居をくぐっって境内へと入った。
境内には、人影が二つ、無論先ほど走り出した二人だ。
そしてそこに集まる無数の猫たちがいた。
「ごめんなぁ、今日はおやつ持ってないんだ」
「君は……可愛いなぁ」
少年と郷烏はゆっくりと来た遼火を一瞥すると再び目的の猫を探し始めた。が、郷烏の方は頭の中の目的が「モモコを探す」ことから「猫を愛でる」ことに移り変わろうとしているのか、少年よりも動きが遅く一匹に時間をかけている。
遼火はその光景を見て、あることに気が付いた。
猫は二人に寄ってきている、というよりかは猫たちは少年を中心に集まっていた。それを裏付けるものとして。境内に入ってきた遼火に寄ってくる猫はいなかった。
「(武瑠君は猫に懐かれる程度にはここを訪れてるのか)」
"モモコいつも猫のあそび場に行く"と言っていたからそれを迎えに行っていたのだろうか?はたまた、彼自身ここがお気に入りだったのだろうか。
とりあえず猫探しはこの二人に任せてておこうと脳内の中で決めて、遼火は神社本殿へと向かう。道のわきにいくつかエサ入れが置いてあることからここの人が餌をやっているのだろう。
そう考察していると、丁度本殿の方から紫色の僧衣を纏った神主さんが現れた。どうやらこちらの気配を感じて出てきたらしい。
遼火は昔やらされた探偵業で培ったせいぜいの営業スマイルを持って挨拶をした。
「こんにちは」
「こんにちは、今日は……」
神主さんはゆっくりとお辞儀をし、遼火たちに目的を訪ねた。遼火は一旦"江藤探偵事務所"の単語を言いかけて、それを胸にしまって、代わりに胸ポケットからモモコの写真を取り出した。
「実は猫を探していまして……この猫なんですが」
「拝見します……ああ、この子ですか。この写真よりかは今は細いですが、よく灯篭に上って日向ぼっこをしていますよ」
お坊さんは写真の猫をモモコと言うと、境内の中に立っている灯篭を指さした。灯篭の中からはモモコとは違うが黒猫がこちらをのぞいている。
その横では二人が今もせっせと辺りの猫を確認しているが、成果はいまだ出ていない様だ。
「今日はいない、みたいですね?」
遼火の問いに、神主さんは無言で答えた。
とにかく、これで一つの証言が崩れた。
何故そんな嘘を吐く必要があったのか、と今考えてもしょうがないので、遼火は少年がこちらに意識を向ける前に神主さんに問いをぶつけた。
「ここの猫たちはすべて野良猫なんですか?」
「いえ、多くは境内の周辺に住んではいますが偶に放し飼いの猫なども来ますね。少し昔私の趣味で猫に餌をやり始めたら集まってしまって……中には夜のうちにここへ来た猫もおります」
そう少し悲しむようにしてお坊さんは猫たちを見た。つまりは捨て猫だろう、猫が多いところならばちゃんと飼ってくれるだろうと無責任な飼い主が捨てていったのだろうか。
ふと視線を上げると、境内には似つかわしい近代的なカメラが2台、こちらを見ていた。あれの映像を使えばモモコを追えるかもしれないと思ったが、それと同時にカメラに遼火は少しの違和感を抱いた。
その視線に気が付いたのだろうか、お坊さんは声をつづけた。
「そちらは一時期、捨て猫が急増いたしましてつけさせていただきました」
「……しかし、二台とも」
そう言いかけて、遼火は神主さんをじっと見つめた。
お坊さんもまた、少し恥ずかしそうに頭をかいた。
カメラは、何も映していなかった。