複雑・ファジー小説

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【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~
日時: 2015/12/13 03:31
名前: IDL:Project (ID: EZ3wiCAd)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=70


『カミサマを信じてないわけじゃない』

『でも選ぶのは個々の勝手だろう』

『何に使って結果どうなろうが』

『それはあくまで手段に過ぎないのだから』

『使うも自由、使い道も自由』

『思うが侭に楽しめばいい』

『誰だって』

『自分の人生で』



『主人公だろう?』



◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆



【基礎情報】
タイトル:IDOL-A Syndrome 〜全世界英雄症候群〜
小説形式:リレー小説
投稿場所:複雑・ファジー板
ジャンル:複雑
投稿形式:順番制

【参加者様】
現在、リレーに参加している書き手=IDL:Projectのメンバーです。敬称略。
番号がそのままリレーの順番です。何かメッセージがあれば行間にどうぞ。
①空凡
「最近家事手伝いにはまった」
③戦崎トーシ
「こけおどしのししおどし」
④Satsuki
「そろぼち落としどころを考えましょうか」
⑤チャム
「忙しさは12月いっぱい続くんじゃ >年末に向けてバイトの日数増やしたら嫌がらせのような連日出勤の塊が生成されておりましたとさ。うわばらー」

休参者
②Orfevre(高坂桜)

【次回投稿予定者】
空凡     12/12経過
戦崎トーシ  12/18迄

【連絡事項】
参加者様や読者様に宛ててメッセージがある場合ここに追記していきます。
・プロローグが終わりました、これより本編に片足を突っ込んでいきます。
・現在、リク板スレにて追加参加者を募集しています。

【目次】
Prologue:>>1-12
Chapter 1「Mate is behind Team , cannot In」 >>13-36

>>1-36

Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.7 )
日時: 2015/08/29 01:05
名前: Satsuki (ID: V7PQ7NeQ)


 炎を操る。
 道理。知恵を駆使した遼火に対し、この男は「燃やす」という力技での解除をやってのけたのである。
 もう一度脳裏を過ぎる今朝の文字列。『イデア(英:IDEA)とは、人類が手に入れた超能力の一つである』。
 イデアに不可能はない。今のところは。人類が手にした力の、特に力らしい力としての用途を目の当たりにした。

 が。

「残念だが、今回そのイデアを使うことにはならないだろう」

 遼火はかぶりを振ってそう言った。
 なんでだよ、と言いかけた表情の赤い男を手で制し、

「火災報知機だ」

 と続ける。男の表情が奇妙に歪むことが三度ほど、なんとか納得を得られたようで頷きを見ることができた。

 イデアによって起こされた炎に火災報知機が反応するかは分からない。
 もし反応した場合。本当に火災が起きてなかったとしても、客の動揺は避けられないだろう。最悪の場合、客も暴徒になってしまう危険がある。その動きで事件が解決に進む可能性はあるが、それ以上に負傷者・死傷者の発生どころか増加もまた、避けられないだろう。
 テロリストどもの気を引きつけることができるのではないかと思ったが、監視カメラの充実度がその用途を見事に散らしてくれた。制御室を抑えない限り、簡単に居場所を特定されてしまう。少数は割けるだろうが、——少数に過ぎない。

「やっぱり、防災センター? ってのを見つけないと、ってことか」
「そうだな。残念だがフロアマップには書かれていなかった。……当然だが」

 地下か一階にある、と先刻は思ったが、しかしそれは大型建築物の一般的な思考に過ぎない。
 そう、一般的なだけであり、神北がそれに準じているとは限らない。その場合、このデパートの建築者は間違いなく変人だろうが。
 断定ができていない状態で、再び一階を通過するのは危険だった。

「≪メカメダ≫みたいにスタッフ名簿が店頭に貼り付けられてればな」
「メ……メガメガー?なんだそれ」
「言葉を慎みたまえ。……≪メカニックのカメダ≫は有名な家電量販店なんだが、知らないのか?
 今度この街にも新しく建つらしい。俺もようやく通販から店頭買いに仲間入りできる」
「そ、そうなのか……」

 話はこのあたりにしよう。
 そう小声で閉めて、遼火は物陰から少し顔を出す。

「レジを漁るぞ」
「さっすがだぜ知将さん、この隙に財布を潤すのかい」
「阿呆か。このデパートの店長に繋がる内線の電話機があるかもしれない。
 見つけたところで繋がるか、話せるかは分からないが——信頼性は一番高い」

 危険もあるが、危ない橋は今も渡っている最中だ。
 監視カメラは……避けられない。できるだけ身を屈めて、静かに、素早く、二人は手近なレジへと滑り込む。

 果たして——それはあった。

「見張っててくれ」

 909だな。手早くキーを押し、受話器を取って遼火はレジ台の下へと身を潜めた。傍にある籠の山から、赤い男が通路を見張っている状態だ。
 コールが鳴る。二度、三度、四度。ダメか? 五度、六度、七度、目で、コールが途切れた。 

 静寂。音を発さない。
 遼火は静かに反応を待つ。絶対にこちらからは声は出せない。
 誰かに繋がってはいる。誰だ。

 遠くで微かな会話の音が聞こえた。

『……店長の門松ですが』

 続いて聞こえたその声を遼火は待っていた。作戦の第一段階をまずクリアした。
 しかしすぐに計画は第二段階に突入する。たった一言でこの店長の信頼を得なければならない。非常事態とはいえ、機密情報を簡単に漏らすようでは管理職は務まらない。

 考えた、三秒。遼火は一番縋りたくないものに縋ることにした。

「江藤探偵事務所の元所長、江藤優大だ。本当に店長だな?」

『本当ですか? 先生この昼間に何をされに』

 第二段階クリア。少し声を寄せはしたが、非常事態という状況が違和感をごまかしてくれたらしい。
 しかもこの手ごたえ、先生という呼称。どうやらこの店長、過去に江藤探偵事務所と関わりがあったと見れる。

「今日は非番でな、久々にデザート土産に息子の顔を見に行こうとしたんだが、運の悪いことで」
『それはせっかくの機会に水を差すことになってしまい大変申し訳ございません』
「構わないさ、起きてしまうものは仕方ない」
「足音が来てるぜ……!」

 横から赤い男が絞った声をかけてきた。空いている片耳を寄せると、確かに遠くに響く足音——三つ。
 長話はできない。というかする気もない。ある程度の信頼の元、遼火は第三段階、本題を聞く。

「防災センターの場所を教えてほしい。今から抑えに行く」
『制御室でしたら地下一階です。一階のスタッフエリアから』
「ありがとう。奴らが来てるから切るぞ」
『分かりました。お願いします、先生』

 切れたのを確認し、遼火は受話器を静かに床に置いた。
 こうなっては受話器を戻す僅かな露出も許されない。なおも足音は聞こえている。少しずつ大きくなってくる。遼火たちのいる場所へと近づいてきている。

 遼火は赤い男を見た。赤い男は既に遼火を凝視していた。

「撃てるか?」
「初挑戦だぜ?」
「じゃあ撃つな。脅すだけで、腕で仕留めるぞ」
「お、おう……」

 息を"文字通り"飲んで、二人は待つ。
 足音が響く。三つ分、タン、タン、タン。
 小声ながら声も聞こえてきた。この辺りのはずだ。確かに声だった。売り場を探すぞ。

 大きくなる。大きくなる。決して離れることはなく、三つ分の足音が。
 大きくなる。おおきくなる。おおきクナル——

 床に三本の足が見えた

「動くな!」

 瞬間、遼火はレジから半身を出し、左腕を乗せた右手のベレッタをその中の一人の顎へと突きつけ

「うらあっ!」
「っ!?」

 それとほぼ同時に籠から身を乗り出した赤い男が勢い良く立ち上がり、別の一人の顎に強烈な右のアッパーカットを撃ち込む光景を捉えた。幸いにもそれは顔を隠した、すなわちテロリストの一人だったようで、仰け反りながら軽く宙に浮き、そして崩れ落ちた。
 ノータイムかよ! 二度目の舌打ちを内心に抑え、遼火も動く。遼火の標的もテロリストの一人だった。その手の拳銃が遼火に向けられ一瞬たじろぐが——引かれたトリガー、だが弾は出ない! その隙に遼火はテロリストの横へと滑り込み、ベレッタを持ったままの右腕を振り上げ、膝へと打ち落とす。テロリストが体勢を崩したところに膝立ちのまま背後を取り、左肩を掴んで引き倒し。

「恨むなよ」

 口だけ吐いて、思い切り首を締め上げた。みるみるうちに震え出す身体、もう限界かというところでその腕を放し、尻に蹴りを入れてレジ台の下にしまっておいた。
 気絶した二人のテロリスト。遼火は残った一人へと目と銃口を向ける。が、その服装がテロリストのような出で立ちではなく普通の一般男性のそれであると認識し、腕を下ろした。

「……何を、しているんだい?」

 呆然として呟いたその男は、遼火よりほんの少し上に目があるようだった。
 暗い中でもよく分かる白ワイシャツにスラックスのようなものを着ている。社会人だろうか。

「何をしてるかと言われると、そうだな……」
「ちょっとこの事件を解決しようとね」
「……解決とは違うが、ただ。まぁ、言いなりになるのは嫌でね」

 濁そうとしたところを赤い男に正直に暴露され、失った言葉を塗り替えるのに失敗した。
 そんな遼火たちを見て、社会人らしきこの男は、首をかしげた。呆れているようだった。
 半開きになっていた口を戻して、

「バカか、君たちは」

 正直に毒を吐いた。初対面に正々堂々と言われると、いくら闇を見てきた遼火といえど傷の一つはできる。

「こういうのはおとなしくしていればいいんだ。民の安全は司法が守る、警察が守る。わざわざ民間人が手を出すものじゃないよ」
「その警察に頼れないかもしれないから動いている。非常事態だ、許せ」
「いや、許すも許さないも僕は止める気まではないけどさ……」

 視界の端で動きがあった。赤い男が仕留めたほうのテロリストが起き上がり、かけたところに赤い男が再び腹部に蹴りを撃ち込み、彼もまたレジ台の下にしまわれることになった。

「悪に立ち向かっていける人間は二種類に分かれる」

 目線を男に戻し、遼火は言葉を発する。

「首を突っ込める奴と、首を突っ込みたい奴だ」
「君たちはそれに該当する、と?」
「俺は前者だ」
「あー俺も俺も!」
「お前は明らかに後者」
「えぇー!?」

 そりゃないぜ、と言わんばかりの赤い男の頓狂な声を一瞥だけで終わらせ、遼火は三度男に戻す。
 男は両手を軽く広げていた。やれやれ、と小さく呟いたのを捉えた。

「ご勝手に」
「ああ、勝手にする。シャッターを開けてやるから、下で待ってればいい」
「そうか……じゃあありがたくそうさせてもらうよ」

 そして男はエスカレーターの方向へ歩いていった。
 足音が小さくなり、別の硬いものに変わったことを確認し、

「俺達も動くぞ。このまま此処にいるのはまずい」
「おう」

 頷きあい、遼火と赤い男も滑るように行動を開始した。

Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.8 )
日時: 2015/09/03 19:27
名前: 戦崎トーシ ◆TYZSwCpPv. (ID: 9IfQbwg0)

 事態は一刻を争う。 
 着実と流れていく時間に、遼火は内心焦っていたが、表には出さずひた隠しにしていた。後ろをついて来る男にも焦燥感はあるだろうが、静かにしている。
 スタッフエリアは建物の西側にある。その近くには、人質が囚われているショーステージがあった。近道を選べばショーステージを横切ることになるので、やむを得ず遠回りをする。
 途中、ショーステージが見える場所があった。遼火はその場に屈み、遠くに見えるその様子をうかがう。人質の数は少し増えていた。テロリストは、依然、銃火器を携え人質や周囲に目を光らせている。死角になっている為か、2人の存在には気がついていないようだ。

「テロリストの数が減っている。急ぐぞ」

 恐らく、仲間たち——無論、遼火と男がシめた奴ら——が帰ってこないので、違和感を感じて探しにいったのだろう。テロリストが分散してしまえば、見つかる確率は高くなる。遼火は銃身に人差し指を沿え、慎重に立ち上がる。
 ふと、赤い男が呟いた。

「なあ、なんかアイツら喧嘩してねぇか?」

 遼火は動きを止める。
 確かに、ショーステージの方向から荒い声が聞こえる。かなり苛立っているようだ。一触即発。もしどちらかの逆鱗に触れてしまえば、発砲もあるかもしれない。口論の声以外は、何も聞こえなかった。その空間に、緊張の糸が張り詰めているのが分かった。

「多分、リーダー格の人間がどこかに行ったんだろう」 

 人質の中へ目を凝らす。表情は見えなかったが、柚子は端の方に座っていた。白いワンピースの少女は居ない。
 ——上手くいっているといいんだが。
 
 2人は再び立ち上がり、慎重に歩を進める。
 犯人達の監視の目は案外脆弱なもので、人気のないフロアを、難なく突破することができた。人手は上の階に集中しているのだろうか。
 遂に、スタッフエリアの防災センター、もとい制御室の前へ着いても、テロリストとは会うことはなかった。
 
「ここでシャッターを開放できるんだな。よし、開けるぞ」
「待て」
「ッ……なんでだよ」

 ドアノブに触れかけていた手を、遼火は制す。赤い男は不満げに遼火に問いかけた。 

「あまりにも監視の目がなさ過ぎる。おかしいと思わないのか」

 遼火は鉄製の扉から、何歩か退いた。レンズの奥の瞳孔は、その扉を睨みつけている。
 シャッターを開放されてしまえばひとたまりもない。それどころか、制御室は占領の拠点の筈だ。なのに監視が薄過ぎる。
 制御室が位置するのは、建物の隅。廊下にはそれなりの広さがあるものの、2人の左右には壁。十数m後ろにも壁。背後の壁の真ん中には、地下と階段を繋ぐドア1つ。それが唯一の出入り口だった。
 つまり、そこを閉ざしてしまえば、閉鎖空間が誕生する。
 
「……謀ったな」

 遼火の、掠れた声が反響する。
 逃げるべきか。300の命が懸かっているこの状況で、敵前逃亡は賢明ではない。それに、この熱い男が、何もせずこの場から立ち去りなどするだろうか。
 天井の蛍光灯の明かりだけが、その場の人間に陰影を作っていた。

 数秒と置かず。

 足元の影が揺らぐ。白い光と黒の影が網目状に分散した。一瞬にして、冷水が足首までを覆ったのだ。
 次いで、薄い水面を、速いスピードで波が駆け抜ける。足をとられそうになったが、踏ん張って耐える。波は目の前の扉から——否、その内側から押し寄せている。
 その波の力に倣い、強固な扉が開く。縁で水を砕きながら、中身を露にする。モニターはあらゆるフロアを映し出していた。その中には、遼火たちが通ってきた場所もあれば、ショーステージもあった。
 巨大な液晶から溢れ出るブルーライトを背に、男は振り向いた。
 頑丈に武装したその姿、門松ではないと即座に理解する。

「今の今迄お疲れ様、ってところだな。たかが一般人の分際で、ここまで到達できたのは褒めてやろう」

 男は眉と口角を歪め、卑しい笑みを浮かべた。

「だが、英雄劇はここで終ェだ」
 
 遼火は鋭い舌打ちをする。ここまでの警備を手薄にしていたのも、策略の内だろう。

「時間がない。端的に言わせてもらう——そこを退け」
「んな常套句で、はいどうぞと退く奴が居ると思うか?」
「居るさ。お前だ」
「調子に乗ってんじゃねェぞ若造」

 遼火たちの背後で水が渦巻く。うねりながら、円錐の塔の形を成していくそれは、刹那、槍のように2人に襲いかかった。寸でのところで二手に分かれ躱す。
 槍は床にぶつかり、飛沫をあげながら潰れた。水は再び空間内に広がる。
 波が起こる。赤い男が地面を蹴り、足技の態勢に入る。同時に波が一際大きく揺れた。

「やめろ!」

 遼火の声に怯んだのか、彼の右脚は宙をきっただけだった。
 テロリストの背後の壁を、水が、荒い音と供に勢いよく駆け上がる。拳をあげ、振り下ろす。テロリストのモーションに操られるが如く、天井まで到達した水は、赤い男へと牙を叩き付ける。

「ッ!!」

 赤い男はバク転で牙から逃れた。頬についた水滴を忌々しげに拭う。

「随分と愉快なことをしてくれるもんだなァ?」
 
 テロリストが手を横に振ると、水はまた2人の足首までを満たした。
 赤い男が遼火を見やる。

「……意味ありげな眼ェしてんな。さっきのだけで何か分かったのかよ?」
「……まあな」

 水かさは3度とも同じ。膝辺りまでかさを増せば、それだけで遼火たちの動きを阻害できる。できないということは、もしかすると——

「奴は、一定の水量しか操ることが出来ない。そして、奴は既に限界の水量を出している。だからこれ以上水が増すことは無い」

 更に、攻撃するまでが長い。攻撃に至るまでには、水を渦巻かせるなり、波立たせるなりする必要があるのだろう。攻撃に失敗した後も隙ができるようだ。
 
「何より、奴は高を括っている」
「そうなのか?」
「そんな顔してるだろ。頭の悪さと自信過剰さが滲み出た顔だ」

 そんな者に負けるほど、遼火も、赤い男も軟ではない。

「耳貸せ、オレに案がある」 

Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.9 )
日時: 2015/09/09 22:16
名前: 空凡 ◆qBiuWfql4I (ID: 4RNL2PA4)

 赤い男に手短に、テロリストに悟られないように作戦を伝えると、遼火は赤い男の後ろに立ちながらベレッタを構えるそぶりを見せた。
むろん、フリである。この状況でテロリストを正確に射抜ける射撃の腕があれば彼は最初からテロリストの脚を無慈悲に撃ち抜いていただろう。

二人がなんらかの策を決めたことを感じ取ったテロリストは、左手を水面へかざし、少しずつ水を集めていく。

「させっか!」

それと同時に態勢を極力下げた赤い男はテロリストに向かって走り出し、素の動きとほぼ同時に遼火も距離を詰めだす、滑りやすい床と水が合わさり機動力を奪っていたが、それでも二人の距離を埋めるのにそう時間はかからない。
攻撃の感覚が長いのであれば、波状攻撃で取り押さえるまで。その作戦をテロリストも理解できたのか、バックステップを取りながら二本の水の槍を作り上げた。当然、その槍は一本ずつ仲良く二人を襲うように作られたはずだ。
だがそれでは、折角二人して近寄った意味がない。
槍の完成を見た遼火は、視線を少しずらして赤い男を見た。

「——火力全開!」
「ッ!」

赤い男のその言葉とともに、薄暗かった周辺を照らす煌々とした炎が赤い男を包んだ。その光景に驚いたテロリストは非常に慌て、用意した二本の水の槍を赤い男のみめがけて発射してしまったのである。
それを待っていたといわんばかりに、赤い男は壁を蹴り勢いよく横に転びながら水の槍を回避した。
そのうちに、遼火は更に距離を詰めていく……、
遼火が赤い男に頼んだもう一つのこと、それは……

『とにかく気を引いて近寄っていってくれ、そのうちに距離詰めて捕まえる』

回避に徹し、その自慢のイデアを使って相手の狙いを集中させることであった。


このまま距離を詰めれば、もう一度相手が攻撃の準備を終わらせる前に赤い男の一撃がテロリストを襲う。
事実、赤の男はもえ反撃が間に合わないことを察して、回避の態勢を止めて炎を纏った拳を振りかぶっていた。

「ッ、消えろぉぉぉぉ!!」
「っわぶ!」
「ぅお!」

だが、テロリストは無理やり水をかき集めそれを使って小さな波をすぐさま作り上げて二人の態勢を崩した。特に近かった赤い男はその波を体の半分以上で受けてしまい、そのまま上半身を床につける形となってしまった。
ダメージは入らない程度の攻撃であり、すぐさま赤い男は起き上がって状況を見渡せそうとした。だが、そこへテロリストは追い打ちをかける。
だがそのテロリストの行動に、遼火は疑問を抱いた。

「消えろ、消えろ、消えろっ!」
「ぅぐ、ちょ、くそっ」
「(ただ水をかけているだけ……?)」

テロリストはゆっくりと下がりながら赤い男、というよりもむしろ赤い男が出した炎を執拗に、威力もないただの水をかけていた。赤い男もこの行動には驚いた様でうまく動けていない。そこにはイデアという、世界の根底を覆すような現象がないかのようにも見られた。


——イデアは、一説によると人の強い願いによって生まれる。例えば災害に巻き込まれた人は生き残りに長けたイデアを発現したり、人間関係に困ったものは精神的なイデアを手に入れたりと、決して本人と無関係のイデアが発現するわけではない。
とはいえ、軽く願っても手に入らないものであり、それこそ子供が「世界を消したい」なんて幼稚な願いを持ったとしてもそんなイデアは発現しない。

だとすれば、目の前のテロリストは何に願ってこの水を操るイデアを手に入れたのか、それは今のテロリストの状況から察することができる。

「("水を操ってまで何をしたかったのか"か)」

もしかしたら、火に何らかの恐怖を感じているのかと遼火は考えた。
そこで、またテロリストが水を放った瞬間に、思いっきり足に力を込めてテロリストへと詰め寄った。炎に夢中になっていたテロリストは反応が遅れ、なすすべなく遼火の接近を許す。

「調子に、乗るなガキ!」
「そっくり返す」

撃つ必要がないのであれば、それが一番いい、そう思った遼火は左足を軸足として踏ん張り、テロリストに対して強烈な足蹴りをお見舞いした。
その一撃は的確にテロリストの腹へ直撃し、テロリストはそのまま吹き飛ばされ冷たい水で浸されている床を何回も回転して、ようやく止まった。
同じ様に、足場が悪いところで蹴りを入れた遼火も蹴りの勢いのまま転んでしまった。

いけない、早くテロリストを捕えなければ、そう思い直ぐに立ち上がろうとすると、漸く執拗な水かけ攻撃から解放され、体を纏っていた炎は消えたものも怒りの炎を燃やす赤い男がそのままテロリストの元へと飛び込み型の崩れた寝技をかけた。

なんともまぁ、気の締まらないボス戦であったと、自嘲気味に遼火はこぼした。

Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.10 )
日時: 2015/09/17 15:28
名前: Orfevre ◆ONTLfA/kg2 (ID: D6FduTwT)

 テロリストを確保し、防災センターの自由を確保した。これで脱走と救出の手助けができる。ここで一つの不安が遼火の頭をよぎる。
「(観鈴、体力は大丈夫だろうか……)」
 緊張状態が続いていたことで、観鈴はかなり体力を消耗し、発熱しかけていた。体をこすりつけた時点でかなり体温が上がっており、脈も速かったことを遼火は思い出す。最悪の場合、警察に通報している途中で倒れている可能性もある。
 その不安はテロリストたちを確保してから、少しづつ大きくなっていく。観鈴はまだ帰ってこない。
「(俺のやれることはやった、あとは観鈴の番だ)」
 祈るように、信じるように、遼火は防犯カメラ越しに警察が来ることを待っていた。だが、その様子を見て、テロリストの男が言う。

「何かを待っているようだが、タイムオーバーだな」
 先ほど確保した男の一言と同時に足音が聞こえてくる。数人のテロリストたちが制御室にまで来ていたのだ。だが、それだけショーステージのガードが緩くなったことも示していた。遼火はシャッターの開放ボタンを押しす。援護に来たテロリストを対処している間に警察が来ては機動隊がシャッターを突破するまでに時間がかかり、結果的に救出が遅くなる。だが、テロリストたちがここに来てしまった以上、少々のリスクを抱えてでも、警察の到着が来ることに賭けるしかない。

「返り討ちにするしかないな」
「救出に来たとはいっても味方に当たるリスクがあるから、銃は使ってこないはずだ」
 視線で二人の男は会話し、テロリストたちと相対する。そして、向かっていく。2人の目論見通り、テロリストたちは銃を使ってこない。格闘なら、精通してない数人よりある程度の心得がある二人の方が有利、結果として、遼火たちは援軍に来た返り討ちにすることに成功した。

 それからしばらくして警察が到着した。人質は解放され、死傷者は結果的にいなかった。赤い男と遼火は警察から説教を喰らう。結果的に成功しただけで行動は危険極まりないと、そして警察官から、観鈴についても伝えられた。遼火の不安は的中していた。しかし、彼女は倒れそうになりながらも必死に通報してきたと……。

Re: 【合作】IDOL−A Syndrome ~全世界英雄症候群~ ( No.11 )
日時: 2015/09/20 00:29
名前: チャム ◆VFDOEYR7G2 (ID: 7c/Vukd1)

「ま、ありがとな。助かったぜ。そいじゃ、俺帰るわ」

 んじゃな。
 去っていく赤い男を見送った後で遼火は店内に戻った。しかし見送ってから、不思議とお互いに名前を名乗らなかったことに気が付いた。お前とかアンタで済んでしまっていたのが振り返れば面白く思えた。とは言え共に危機的状況を乗り切った相手の名前も知らないと言うのは何か惜しい気もしたが、まぁそんなこともあるだろうか。人生とは一期一会なのである。
 改めて見渡すと、店内は警察や客、店員たちでワラワラと渦巻いていた。しかしもう事件は解決したのだ。テロリストたちは一人残らず確保され、人々の顔には安堵が見える。
 遼火も一つ大きな溜息を吐いた。まさかこんな事態に巻き込まれるとは。回収した携帯で時刻を確認すると、既に22時を回っていた。
 警察の取調べもあまりの人数の多さに今日のところは行われないらしい。連絡先の確認だけ行われた後、閉じ込められた客たちは帰宅を許された。だが、帰宅する前に遼火は「彼女」のことを探す。
 郷烏柚子。彼女のイデアがあったお陰であの状況下で怪しまれずに作戦を練ることが出来、また決定打となった警察への連絡を担ってくれた橘観鈴を味方に引き入れることが出来たのだ。観鈴のことは既に警察が保護したとのことなので、せめて柚子には一言この場で礼を言っておきたいと思った。
 しかし、この人混みでは人一人を見つけるのは困難だった。いや既に帰ってしまった可能性もある。探すだけ無駄だろうか。数分探した後で諦め、仕方がなく遼火は店を出ることにした。世話になった礼を言いたい気持ちを飲み込み、店のエントランスを出て行く。



 辺りは既に暗く、少々肌寒くなっていた。道路脇の街灯が等間隔に灯り、行き交う車のヘッドライトが過ぎっては度々疲れの滲む遼火の顔が照らされた。
 「こーほく」からの帰り道をゆったりとした足取りで歩きながら、遼火は先ほどまでのことを振り返っていた。
 突然の停電に始まり、シャッター閉鎖、銃声、拘束、デパートごとジャックを始めたテロリストたち。
 しかし偶々知り合った人物たち、彼らはイデア能力者で、彼らの協力のお陰でテロリストたちの隙をつくことが出来、見事解決の糸口を見つけることが出来た。
 中々体験出来ることではない。しかし、上手く行ったから良いものの、実際危なくもあった。彼らが居なければ、少なくとも遼火一人だけでは解決は難しかっただろう。一体どうしてこんなことになったのか。今日あのデパートに行かなければ巻き込まれることは無く、今頃テレビのニュースで他人事として小さな感想を呟いていたに違いなく——。

「あ、買い物」

 ふと立ち止まる。自宅まであと少しといった地点。そうだ。そもそもの目的をすっかりと忘れていたことに気が付いた。

「……しょうがない」

 あんな思いをしてまで頑張った結果が空腹というのも癪な話である。面倒臭くは感じるものの、グルリと踵を返し、来た道を引き返す。但し目的地はコンビニである。この時間までやっているスーパーと言えば更に20分30分は向こうであるし、今日は今更そんな距離を歩く気にはなれなかった。
 ただ、コンビニで買うと何かと割高になってしまう。今日のところは最低限だけを買って、本格的に買い溜めをするのは別の日にすることにした。まぁそれはそれで出直しする必要があるので面倒といえば面倒なのだが。はぁ。溜息が漏れる。
 面倒と言えば、本日の件で後日警察からも事情聴取がされることになる。また、仕方が無かったとは言え、父親の名を出し店の店長と会話をしてしまったことも痛い。そこから情報が伝わり、遼火としては少々面倒臭いことになることは既に間違いないのである。だが、何かと忙しい学生身分としては余計に時間を割かれると言うのは何とも遺憾である。
 一言で言うなれば、今日の自分は全くついていない。

「イデアな」

 だが、今日は直接イデアに触れ、その有用性や驚きの点などがはっきりと分かった。イデアの研究を始めてから実際にそんな事態に遭遇すると言うのは寧ろついていたとも言えるのかも知れない。思わず考え込み、うんと唸る。過去、探偵業の中で多少バイオレンスな世界に片足を踏み入れていた経験もあるにはあるが、一応これでも研究熱心な一介の大学生なのである。
 再び出来事を振り返り、どんなイデアがあったのかを考える。
 それは、水や炎を操る能力。好きな場所へ瞬時に転移をする能力。日常と非日常とを相互に錯覚させる能力。それぞれの人物の顔や場面場面を思い出すと、あの奇異な状況の数々が目に浮かぶように頭に浮かんだ。自分が目にした以外にも色々なイデア能力者があの場には居たのかも知れない。
 遼火は考える。

 もしも自分がイデアを手に入れるのであれば、それはどんなイデアであろう?

 理想を願う気持ちから得られるらしいイデア。人間は誰しも何かしらそんな気持ちを持っているものだ。勿論遼火とて人間である。理想もあれば望みもあるだろう。
 しかし、今のこうしたイデアの存在する世界となって数年が経った今でも遼火自身にはイデアが現れていない。遼火だけでなく、イデアを手に入れていない人間というのもこうしたご時勢の中でもそれなりに存在するのである。イデア習得の条件や習得した者にどういった変化が起こるのか、そうした能力と引き換えに何らかの副作用があるのか、まだまだ様々な面で明らかになっておらず、遼火にとってはだからこその研究対象であると言えた。

「どうせなら、もっと色々な能力を調べられないものか」

 強いて言うのなら、それが今の遼火の望み。


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