複雑・ファジー小説
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- あなたに出会う物語
- 日時: 2017/09/16 12:43
- 名前: ももた (ID: b9FZOMBf)
小さな手……小さな温もり……
あなたはもう一度、私に会いに来てくれたのね。
あなたに最初の贈り物をあげましょう。
あなたの名は……
***
こんにちは、気まぐれなももたです。初心者で、更新は不規則ですが、頑張って書いていきます!
〈注意〉
本作は多少のグロ表現、下ネタ等を含みます。嫌な予感がした方は、ブラウザバック!
〈目次〉
Chapter1……>>1-5
Chapter2……>>6-11
Chapter3……>>12-25
Chapter4……>>26-32
Chapter5……>>33-39
Chapter6……>>40-45
Chapter7……>>46-54
Chapter8……>>55-
〈主要登場人物〉
以下、ネタバレを含むことがあります。本編を読んでからの閲覧を推奨します。プロフィールはストーリーの進行に合わせて更新します。
スノウ・ヴァイス(18)
ベース:白雪姫
呪い:???
反動:氷を操る
雪のように白い肌、黒檀のような黒く長い髪、血のように赤い唇の美しい少女。赤ん坊の頃から孤児院で育ち、周りからは優しく礼儀正しいと評判。
フレッグ・ポンド(18)
ベース:カエルの王様
呪い:満月の夜にカエルの姿になる
反動:身体能力が高い
短いブロンドの、麗しい青年。しかしある理由から、強いコンプレックスを抱いている。少し卑屈な面もあるが、勇敢な性格。ハンスから『ケロちゃん』と呼ばれるのを嫌がっている。
ハンス・クーヘン(28)
ベース:ヘンゼル
呪い:兄妹のどちらかが死ねば、もう片方も道連れに死ぬ
反動:悪魔を払う武器を操る
赤い巻き毛で、長身の美しい青年。革命軍のリーダーを務めている。陽気でいたずら好きな性格。
マルガレーテ・クーヘン(28)
ベース:グレーテル
呪い:兄妹のどちらかが死ねば、もう片方も道連れに死ぬ
反動:悪魔を払う武器を操る
ハンスの双子の妹で、容姿が兄によく似ている。ハンスの右腕となって、常に彼を支えている。兄よりも男前な性格で、面倒見が良い。愛称は『メグ』
ローザ・フォン・ルーク(14)
ベース:いばら姫
呪い:悪夢しか見ることができない
反動:人の悪夢を盗ることができる
白銀色の髪に、赤い瞳が特徴的な美少女。身体があまり丈夫でない。穏やかで物静かな性格。実はとても寂しがり。
ジャクソン・ビーン(26)
ベース:ジャックと豆の木
呪い:豆の木に身体を寄生される
反動:身体を植物のように扱える
癖っ毛の黒髪で、あごひげを生やしており、右目に眼帯をつけている。女好きな性格で、マルガレーテに会うたびに口説いている。また、フレッグのことをいつも気にかけており、弟のように思っている。愛称はジャック。
アーサー・アルビオン(5)
スノウとともに、孤児院で育った子供。やんちゃ盛りで、遊ぶことと食べることが好き。人懐っこく、今や革命軍のマスコット。
イザーク・ゲルハルト(24)
ベース:死神の名付け親(落語『死神』の元ネタ)
呪い:???
反動:病気や怪我を、瞬時に治す
メガネの青年。誰にでも敬語で話し、大人しそうな印象がある。スノウの過去を知る人物で、過去には能力を活かして父の病院を手伝っていた。
エラ(18)
呪い:誰かを憎まずには生きていけない
反動:炎を操る。
リリスの娘で、スノウの双子の姉。見た目はスノウとそっくりだが、エラの方がボーイッシュ。リリスに育てられ、パンドラやスノウを憎むようになってしまった。
リリス(42)
国を治めるている。白雪姫の魔女の生まれ変わり。スノウとエラの母。額の石は血玉髄。
ブライア(32)
若作りとイタい服装が趣味。いばら姫の魔女の生まれ変わり。人を操る力を持つ。額の石は石榴。
ハッグ(34)
肥満体でお菓子好き。砂糖でできた悪魔を呼び出す力を持つ。ヘンゼルとグレーテルの魔女の生まれ変わり。額の石は琥珀石。
エビルダ(39)
派手な化粧の、妖艶な女性。フレッグに好意を寄せているらしい。人を動物の姿に変える力を持つ。カエルの王様の魔女の生まれ変わり。額の石は橄欖石。
リーパー(??)
見た目は20歳前後だが、実年齢は80を超えている。死神の名付け親の生まれ変わり。黒いローブと、胸のカンテラが特徴。額の石は紫水晶。
ティタン(51)
荘厳ないでたちの巨漢。鎧を着ている。額の石は瑠璃石。
パンドラ
1000年の間、国を治めていた正義の魔女。18年前に殺害された。現在は棺に閉じ込められ、転生の時を待っている。額の石は月長石。
- Re: あなたに出会う物語 ( No.4 )
- 日時: 2017/08/29 10:41
- 名前: ももた (ID: jFPmKbnp)
遡ること1日前、王都内 某所 革命軍アジト
「ケ〜ロちゃ〜〜ん」
カフェテリアで、フレッグは不服な顔で勢いよくティーカップを机に叩きつけた。
「フレッグって呼べって言ってるだろ、ハンス」
呼ばれた男・ハンスは、悪びれもせずニコニコ笑っている。赤い巻き毛でスラッとした体格の彼は、フレッグほどの美しさとは言わないものの、周りの目を惹く存在である。
「え〜ケロちゃんの方が可愛いよ〜」
「ふざけるようなら帰るぞ」
「いやん冷たい!」
周囲の、特に女性陣からの目を気にすることもなく、ハンスはカフェテリア内をスタスタ歩き、フレッグの前に座る。
「ゴメンってば!実はね、ケロちゃん……」
「フレッグ!」
「……フレッグに協力して欲しいことがあってさ。ついに白雪姫の居場所を突き止めたんだ」
フレッグの眉がピクリと動いた。
「だけどこの情報、ローザの力で魔女の手下から得た情報なんだ。きっと女王も知っているんだろうね。救出作戦は明日決行なんだけど、その前にフレッグの意見を聞いておきたくて……」
ハンスの表情も引き締まっている。それほどにこの作戦の意味は大きいのだ。
「聞かせてくれ」
「よし分かった!俺の作戦はこうだ。まず、お前が白雪姫及び孤児院の人たちを保護し、車でこのショッピングモールの駐車場に連れてくる。当然、女王の追っ手もそれを追いかけてくるだろう。俺は盾を展開して待つ。お前が突っ込んできたら、俺は車のフロントガラスの斜面をジャンプ台にして、盾をボード代わりにして飛ぶ。あとはそのまま、盾を剣に変えてぶった斬る。どうだ?簡単だろ?」
ハンスは、一息に早口で話した。話し終わってから紅茶をいっきに飲み、息をつく。
「悪くないな。魔女が使役する悪魔を払えるのは、お前らの武器だけだから、できるだけ一撃で仕留めたいな。まぁ、仕留めそこなえば俺がどうにかするさ」
フレッグは皮肉を込めたように言って、ニヤリと笑った。
「うん、決まりだね。じゃ、明日の午後7時に!」
「期待してるぞ、ヘンゼル」
***
「ケロちゃ〜ん、大丈夫〜?」
「フレッグって呼べ!……まぁ、どうにかな……」
フェニックスを斬った後、ハンスはすぐにフレッグたちの乗る車に駆け寄った。ハンスは後部座席が埋まっていないことを見て、この作戦は半分失敗してしまったことを悟った。
「……大変だったね、白雪姫。俺はハンス・クーヘン。フレッグと同じ革命軍さ。一緒に来てくれるかな?」
スノウは警戒しているようだったが、他に行くあてもなく、従う以外に無かった。大人しく、首を縦に振る。
「良かった。それじゃ……」
言葉の途中で、ハンスは振り返る。また、あの羽音が聞こえた。見ると……
「クソッ!またかよ!!」
フェニックスは片翼が千切れた状態ながらも、羽ばたいていた。今にも飛び立とうとしている。
「フレッグ!」
「分かってる!」
フレッグは車から降り、ハンスから剣を受け取った。それを超人じみた速さで、フェニックスに向かって投げつける。しかし……
「外した!?」
フェニックスが一瞬早く飛び立ち、剣はフェニックスの足をかすめただけだった。フェニックスはそのまま、城のある方角に飛ぼうとする。
「まずい!仲間を呼ぶ気だ!」
何か打つ手がないかと焦るフレッグに……
「あの!」
スノウが呼び掛けた。
「今のが、あなたの呪いの反動?」
「……そうだ。俺は呪いの反動で身体能力が高いんだ」
何か策があるように思え、フレッグは冷静に答える。
「なら……私をあの鳥のところまで投げて!」
「!?」
突然の提案にフレッグとハンスは面食らった。二人して、彼女の目を覗き込む。
「……お前を信じるぞ」
ややあって、フレッグはスノウの腰に手を回した。スノウは頷き、少し体を強張らせる。
ハンスは躊躇し、止める素振りを見せたが、フレッグはそのままスノウをフェニックスの元まで投げ上げた。スノウとフェニックスの距離はどんどん縮まり、やがて手の届く距離にまで到達した。すると、スノウは……
「凍てつけ!!」
そう叫ぶとともに、フェニックスを掴む。スノウが触れたところから、フェニックスの体は凍りだした。やがて最高点に達したスノウの体は、落下を始める。
「うっ!!」
地面に落ちる直前、スノウの体はフレッグの腕に抱きとめられた。もちろん、凍りついたフェニックスも共に。
「女のくせに、大した度胸だな」
息を切らせながら、フレッグが笑う。
「あなたこそ、一人でキャッチボールできそうね」
スノウもつられて小さく笑った。
「あの……空気壊して悪いけど、トドメ刺しといていいかな?」
しばらく経って、剣を拾って帰って来たハンスが、気まずそうに割って入って来た。2人は(特にフレッグは)顔を赤らめて、互いに離れた。
「ど……どうぞ……」
おずおずと、スノウは氷漬けのフェニックスを前に出す。
「ちょっと、支えててね」
言われるままにスノウがそれを持っていると、ハンスは剣をフェニックスの心臓に突き立てた。フェニックスの眼がギョロリと動き、やがて光を失う。
ピキッピキッ
氷にヒビが入る。そのまま氷は砕け、後には白い砂のようなものが残った。
「何だろう、これ?」
スノウは手のひらに残った砂をよく見てみる。
「砂糖だよ」
ハンスが答えた。言われてみると、確かに少し手がベタベタする。
「これはヘンゼルとグレーテルの魔女ハッグが呼び出した悪魔で、俺の持っている武器でしか倒せないんだ」
ハンスはそう言いながら、右袖を肩までまくってみせる。そこには狼の形をした痣があった。
「俺たちは、仲間なんだよ」
そう言うとハンスはニカっと笑い、スノウに手を差し出した。
「ようこそ、革命軍へ」
スノウは、力強くその手を取った。
- Re: あなたに出会う物語 ( No.5 )
- 日時: 2017/08/29 14:51
- 名前: ももた (ID: jFPmKbnp)
「無事だったんだね……白雪姫……」
革命軍アジト内にあるその部屋は、カーテンを閉め切っている。今は夜だからと言うのもあるが、それにしても薄暗く感じる部屋だった。
少女は、ボソボソと話す。プラチナ色の長い髪に、赤い瞳が印象的な、幼さの残る可愛らしい少女だ。病弱そうな、白く細い手足が薄桃色のワンピースの下から覗いている。
「そうみたいだ。疲れているだろうから、先に風呂に入ってもらうことにした。一緒にいたガキは車ん中で寝ちまったから、部屋に運んだよ」
淡々とフレッグは、今までに起こったことをかいつまんで説明していた。すると、少女の顔がわずかに歪む。
「どうした、ローザ?」
「お風呂……今……メグが入っている……」
「それがどう……」
言いかけて、フレッグははっと気がついた。
「ヤバイ!」
フレッグは慌てて部屋を飛び出した。
***
アジトに着くなり、スノウは大浴場に案内された。難しい話は明日に回して、今夜はゆっくり休むようにハンスに言われたのだ。
「何だか……申し訳ないわ……」
服を脱ぐと、スノウは扉に近づいた。中からシャワーの音がする。
「誰か入っているのかしら?お邪魔しま……」
その音の主を目に止めると、スノウは言葉を失った。見覚えのある、スラリとした背中。その人もこちらを振り返っている。赤い巻き毛の下から覗く瞳と目が合った。
***
「お?」
スノウを大浴場に案内した帰り道、ハンスはこちらに走ってくるフレッグの姿を見つけた。
「ケロちゃんじゃん。どうした?」
「スノウは?」
いつものように掴みかかる反応は見せず、ハンスは内心ガッカリする。
「はいはい、スノウちゃんね。さっきお風呂場に案内したよ」
「すぐに……」
呼び戻せ……そうフレッグが言おうとした時だった。
「キャーーーーーッ!!」
悲鳴と共に、大浴場の扉が開いた。そして、身体にタオルを巻きつけたスノウが飛び出して来た。
「…………」
「あー……スノウちゃん、ゴメン、先に人が入っていたんだね」
「ごめんなさい!私、お風呂まちがえたみたいで……ってあれ?」
スノウは入り口付近に立っている二人の人影を見て、首をかしげる。こちらに背を向けて立っているのは、確かにハンスだ。
「兄さん、すまない。今しがた、女の子が来たんだが……」
スノウの後ろから、ハンスによく似た声が聞こえた。振り返るとそこに立っていたのは、さっきのハンスにそっくりな人物だ。濡れている体の上に服を着たようで、いたるところに水滴が付いている。
「スノウちゃん、ごめんね。そいつは俺の双子の妹で、マルガレーテって言うんだ」
妹と言われてよく見ると、確かに服の上からでも凹凸があることがわかる。スノウは自分の勘違いに気がつくと、すぐに頭を下げた。
「ごめんなさい!私、失礼なことを……」
「いや、いいんだ。よくあることだから」
マルガレーテは優しく微笑む。兄と同じく美しい笑顔だ。
「メグもシャワーの途中だったろ?もう一回、スノウちゃんと入り直してきなよ」
「そうだな、行こうか?」
「は……はい!」
「あとさ、スノウちゃん」
ハンスは背中を向けながら、もう一度声をかける。スノウはまた、キョトンと首をかしげた。
「俺は見てないからね。お・れ・は」
何のことだろうと思っていると、マルガレーテがタオルを指差す。
「っ!?」
そこでようやく自分の姿に気がつき、慌てて脱衣所に駆け込んだ。マルガレーテも苦笑を浮かべながら戻っていく。
後に残されたハンスは、扉が閉まった音を聞いてから振り向いた。
「ケロちゃんには、ちょっと刺激が強かったよね〜」
いつもの名を呼んでからかってみせるが、反応がない。心配になり、目の前で手を振ってみせるが、やはり反応しない。
「ちょっと違うかもしれないけど……こういうの、蛇に睨まれたカエルっていうのかな?」
***
ゆっくりお湯に浸かり、疲れを取った後、スノウは二人部屋に通された。二つあるベッドの片方には、アーサーがすやすやと寝ている。
「いろいろあって、疲れちゃったね……」
そっとアーサーの柔らかい髪を撫でる。すると、アーサーの頬を一筋の涙が伝った。
「せん……せ……」
小さな唇からこぼれた声は、確かにそう言っていた。スノウは白い指でアーサーの涙を拭う。
「そうだよね……さみしい……よねっ……」
張り詰めていた線が切れたように、スノウはその場に膝から崩れ落ちた。我慢していたものが、嗚咽と共に溢れてくる。
「ごめんね……ごめんね……」
誰に対する言葉なのかは分からない。ただ、そう言わずにはいられなかった。このやるせなさを払拭する術を、彼女は知らなかったのだった。
- Re: あなたに出会う物語 ( No.6 )
- 日時: 2017/08/29 10:31
- 名前: ももた (ID: jFPmKbnp)
〈Chapter2〉
走る。走る。暗い森の中を。
後ろから聞こえるのは、足音と私の名を呼ぶ声。それは支配者の恐怖に駆り立てられ、私を追う狩人の声。
だけれど、不思議と怖くはなかった。それは、彼が私の手を引いてくれるから。
「大丈夫。先生がついていますよ」
その笑顔はとても優しくて、とても温かくて、そして……
モウアエナインダネ
その瞬間、彼の笑顔は熟れすぎた果実のように腐り落ちた。
少女はそこで目を覚ます。自然と頬を涙が伝っていた。毎度のことながら、不思議な感覚だった。少女は、夢に出た彼のことを知らないはずなのに、心はこんなに締め付けられるのだ。
「これが、白雪姫の悪夢……」
ローザはベッドの上に体を起こした。
***
「スノウ!スノウ!起きて、スノウ!」
激しく肩を揺すられ、スノウは目を覚ます。焦点が定まるにつれて、アーサーの顔を認識した。いつもと違う部屋の様子を見て、スノウは改めて昨日の事件が現実であったのだと実感する。
「起きたよ、アーサー」
目を擦りながら体を起こすスノウ。その時、手に冷たいものが触れた。
「スノウ、怖い夢みたの?」
アーサーに言われて、今手に触れているものが自分の涙であることに気がつく。しかし……
(あれ?どんな夢だったっけ?)
内容を全く覚えていないことに困惑する。アーサーはそんなスノウの顔を、不安そうに覗き込んだ。
「心配しないで、アーサー。私は大丈夫よ」
スノウはそう言って、アーサーの髪を撫でる。スノウがニコリと微笑みかけると、アーサーもつられて笑った。しかし、すぐにまた、顔に曇りが広がる。
(先生が安心して眠れるように、私がしっかりしなくちゃ)
コンコンッ
スノウが決意を改めていると、ドアを叩く音がした。そしてすぐに、昨日の仏頂面が入ってくる。
「起きたか。朝食の準備が出来ているんだが、食べにこれるか?」
淡々と話すフレッグの声色には、複雑な思いが感じ取られた。
「ええ、行くわ」
それは気遣いの気持ちだろうか、とスノウは考える。アーサーの手を引いて、部屋を出た。フレッグはこちらに背を向けたまま、ポツリと言葉をこぼす。
「昨日の……タオルで隠れてたし、俺も見てないからな……」
パシンッ
その言葉が耳に届いた瞬間、スノウは無意識に、フレッグに張り手をかましていた。
***
「おはよ〜〜う!ケロちゃん、スノウちゃん、アーサーくん!!」
食堂に入ると、ハンスの元気な声で出迎えられる。フレッグは、舌打ちとともにハンスを睨みつけた。
「ねぇ、フレッグさん。昨日から思っていたのだけれど、ケロちゃんって一体……」
「兄さん。ローザを連れてきたぞ」
スノウの声は、マルガレーテの声に掻き消された。スノウとアーサーが声のした方を向くと、そこにはマルガレーテと、色白な美少女が連れ立っていた。
「ローザ、無理をさせてごめんね。新しく入ったスノウちゃんを紹介したかったんだ」
ハンスの言葉に、ローザはこくりと頷く。
「スノウちゃん、この子はローザ。俺たちと同じ、英雄の生まれ変わりだ。この子と、今は不在のあと一人を足して、現在革命軍に所属している英雄の生まれ変わりは6人になる」
ハンスの言葉に続いて、ローザは会釈をする。どことなく、品の良さがうかがえた。
「さてと、スノウちゃんたちにはまず、革命軍についてから説明しようか」
テーブルの上に食事が並べられ、ひと段落して、ハンスが口を開いた。
「革命軍は、いくつかの部隊に分かれているんだ。敵の様子を探る諜報部隊、傷ついた仲間を癒す救護部隊、アジトの運営をする支援部隊、そして敵と直接戦う主力部隊」
スノウが真剣に聞いてる横で、アーサーは必死にスクランブルエッグをかき込んでいる。
「このうち、スノウちゃんには主力部隊に入ってもらいたいんだけど……大丈夫かな?」
主力部隊と聞き、スノウの表情が強張る。魔法使いは全部で6人。その中で自分が戦うべき相手は、女王リリスだ。
「もちろん他の部隊でも構わないさ。現にローザは諜報部隊に所属している。君の率直な思いを教えてくれ」
しばらくの沈黙。スノウは考えを巡らせていた。
(戦うのは確かに怖い。でも……)
考えがまとまると、スノウは凛とした声で言った。
「私は、主力部隊に入りたいです。先生やみんなの命を奪った女王を、倒したい……」
スノウの返事にハンスは、喜びとも苦悩とも言い難い笑顔を見せた。
- Re: あなたに出会う物語 ( No.7 )
- 日時: 2017/08/29 15:01
- 名前: ももた (ID: jFPmKbnp)
「あ、お〜〜い!スノウちゃん!」
スノウの入軍から1週間ほどたったある日、スノウはハンスに呼び止められた。横にはフレッグを連れている。
「どうだい?革命軍には慣れたかな?」
「ええ、おかげさまで」
ようやく、スノウの自然な微笑みが見られるようになり、ハンスは内心ホッとする。
「よかった……そうそう、スノウちゃんは主力部隊に配属になったけど、今までに戦闘経験ってある?」
ハンスの問いかけに、今度は強く首を振った。案の定というように、ハンスは軽快に笑う。
「だと思った。とりあえず今は君のサポートにケロちゃんを当てるつもりなんだけど……問題はないかな?」
スノウは頷いた。フレッグはいつものように、悪態をついている。ハンスは満足そうに、ニコニコと……いや、ニヤニヤと笑みを浮かべた。
「ふふふ……よかったね、ケロちゃん!」
「んだよ、気持ち悪いな!」
ハンスがフレッグの頬をつつこうとすると、全力で拒否された。そういえばと、ハンスは顔をあげる。
「そうそう、スノウちゃんの初任務が決まったんだ。王国軍の武器庫を攻撃してもらう。決行は5日後の夜だ」
スノウは驚いたような顔をしたが、すぐに力強く頷いた。対して、フレッグは浮かない顔をする。
「おい待て、ハンス。5日後は『あの日』だから困るぞ。せめて夕方に出来ないか?」
『あの日』という言葉に、スノウは首をかしげる。
「そうか、今月も『あの日』か……」
ハンスの言い回しに、スノウはある考えに至る。しかし、確証が無いので黙っていることにした。
「ごめんね、スノウちゃん。やっぱり決行は5日後の夕方にしよう」
スノウはギクシャクしながらも頷いた。
***
ぺち……ぺち……
スノウはフレッグの背中に負われながら、暗い地下通路の中を進む。なぜか、フレッグは靴を脱いでいた。
「あの……フレッグさん、裸足なのに痛くないの?」
通路に響かないように、囁くようにスノウは問いかけた。フレッグは振り返ることはせず、淡々と答える。
「別に、どうってことはない。逆に、こういう状況だと、裸足の方が都合がいいんだ」
フレッグもそれに小声で答えた。彼のいう通り、確かに足音はほとんど響いていない。しかしスノウは、彼の足音に、言い表しがたい違和感を感じずにはいられなかった。その音はどことなく人間ばなれしていた。
「そうだ、フレッグさん。もう一つ聞きたいことがあるんだけれど……」
「なんだ?」
足音について聞こうと思ったが、ひょっとすると体質的なことなのかもしれないと思い、口をつぐんだ。かわりに、先日の会話で抱いた疑問をぶつけてみることにした。
「フレッグさんって……女性なの?」
一瞬、スノウの身体がずり落ちる。脱力してしまったフレッグは、もう一度体勢を立て直した。
「なぜそうなる!?」
- Re: あなたに出会う物語 ( No.8 )
- 日時: 2017/08/29 15:04
- 名前: ももた (ID: jFPmKbnp)
「はー、しんどかった……」
男は、ドサっとソファに倒れこむ。ダラリと四肢の力を抜き、天井を仰いだ。癖のある黒髪、整えられたあごひげ、右目にかけられた眼帯は、彼の野性味を引き立てている。
「偵察に行ってくれていたんだったな。ご苦労様」
男の前にコーヒーカップをコトリと置いたマルガレーテは、労いの言葉をかけた。
「お、メグやん!今夜あたりどうや?」
マルガレーテを目視するなり、彼は飛び起きた。一方マルガレーテは、眉ひとつ動かさず、もう1つのコーヒーカップを並べる。
「ジャック、俺の前で堂々と妹を誘わないでくれないかな?」
ジャックことジャクソンの向かいには、ハンスが座っていた。呆れた様子で、腕を組みながら、ジャクソンを見つめている。マルガレーテはそんな二人を部屋に残し、退出しようとする。
「ほな、また今度、2人きりの時にな!」
ジャクソンが手を振ると、ハンスにまた睨まれた。こちらを振り返ることもなく、マルガレーテは部屋を出て行く。
「……で?俺の弟は今日も任務か?」
扉の閉まる音を確認してから、ジャクソンが切り出した。先ほどとは打って変わって、落ち着いた低い声だ。
「そうだよ。新入りの女の子と一緒にね。フレッグにはああ言ったけど、正直あの任務は夜までかかるだろうね……」
ピクリとジャクソンの眉が上がる。
「自分……わざと満月を選んだな?」
「そうだよ」
ジャクソンは机を叩いた。振動で、コーヒーが溢れる。
「ふざけとんのか!?アイツの性格は、よう分かっとるやろが!!」
「フレッグも、そろそろ変わるべき時だ」
ジャクソンの怒声を、ハンスも大きな声で牽制する。言い返す言葉が見つからず、ジャクソンは怒った表情のまま黙り込む。
「大丈夫、スノウちゃんはいい子だ。悪いようにはならないさ」
そう言うとハンスは、身につけていた小型マイクのスイッチを入れた。
***
風の流れが変わった。音の響きも先ほどより大きい。
「ここから登れるな……」
フレッグは足を止めて上を見る。薄暗い地下通路の中でも、上に空間があることがわかる。
「確か、ここから施設内に入れるのよね?」
背中からスノウが問いかける。事前にハンスから渡された地図には、一度も使われていないが、避難経路としてこの通路が記されていた。
手探りに辺りを調べると、梯子に触れた。
「先に上れ。万が一の時は、俺が受け止める」
言われるままに、スノウは先に梯子を上り始めた。半ばあたりまでくると、太ももが痺れてきて、ペースが落ちる。
「おい、大丈夫か?」
「へ……平気よ!」
スノウが奮起して、次の段に足をかけた時だった。
「あっ!!」
しっかり梯子に足をかけておらず、足が滑った。手だけは離すまいと掴まっていると、肩を梯子に打ち付けてしまった。
「痛っ……」
「ちっ。少し待ってろ」
フレッグはスノウの元まで上ってくると、スノウを左腕で担ぎ上げた。
「え?ちょっと、フレッグさん!?」
「どこか痛めたんだろ?黙って掴まれ」
言われるままにすると、フレッグは右手と両足だけを使って、器用に上り出す。先ほどよりもペースが上がり、あっという間に最上部までたどり着いた。
「最初から、こうしておくんだったな」
スノウを一度梯子に掴まらせて、フレッグは持っていた銃にサイレンサーをつける。そして、上面を塞いでいる蓋の接合部にめがけて数発放った。
蓋が開くと、二人は直ぐに地上に出る。そこは、建物の裏側のようで、人の姿は見当たらない。
「よし、入るか……」
二人は裏口に回ると、手近なドアを探す。それは直ぐに見つかった。フレッグは鍵穴に針金を差し込む。
「よし、開いた。ここからは特に警戒していけよ」
フレッグの言葉に気を引き締めながら、スノウは施設に足を踏み入れた。