複雑・ファジー小説
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- あなたに出会う物語
- 日時: 2017/09/16 12:43
- 名前: ももた (ID: b9FZOMBf)
小さな手……小さな温もり……
あなたはもう一度、私に会いに来てくれたのね。
あなたに最初の贈り物をあげましょう。
あなたの名は……
***
こんにちは、気まぐれなももたです。初心者で、更新は不規則ですが、頑張って書いていきます!
〈注意〉
本作は多少のグロ表現、下ネタ等を含みます。嫌な予感がした方は、ブラウザバック!
〈目次〉
Chapter1……>>1-5
Chapter2……>>6-11
Chapter3……>>12-25
Chapter4……>>26-32
Chapter5……>>33-39
Chapter6……>>40-45
Chapter7……>>46-54
Chapter8……>>55-
〈主要登場人物〉
以下、ネタバレを含むことがあります。本編を読んでからの閲覧を推奨します。プロフィールはストーリーの進行に合わせて更新します。
スノウ・ヴァイス(18)
ベース:白雪姫
呪い:???
反動:氷を操る
雪のように白い肌、黒檀のような黒く長い髪、血のように赤い唇の美しい少女。赤ん坊の頃から孤児院で育ち、周りからは優しく礼儀正しいと評判。
フレッグ・ポンド(18)
ベース:カエルの王様
呪い:満月の夜にカエルの姿になる
反動:身体能力が高い
短いブロンドの、麗しい青年。しかしある理由から、強いコンプレックスを抱いている。少し卑屈な面もあるが、勇敢な性格。ハンスから『ケロちゃん』と呼ばれるのを嫌がっている。
ハンス・クーヘン(28)
ベース:ヘンゼル
呪い:兄妹のどちらかが死ねば、もう片方も道連れに死ぬ
反動:悪魔を払う武器を操る
赤い巻き毛で、長身の美しい青年。革命軍のリーダーを務めている。陽気でいたずら好きな性格。
マルガレーテ・クーヘン(28)
ベース:グレーテル
呪い:兄妹のどちらかが死ねば、もう片方も道連れに死ぬ
反動:悪魔を払う武器を操る
ハンスの双子の妹で、容姿が兄によく似ている。ハンスの右腕となって、常に彼を支えている。兄よりも男前な性格で、面倒見が良い。愛称は『メグ』
ローザ・フォン・ルーク(14)
ベース:いばら姫
呪い:悪夢しか見ることができない
反動:人の悪夢を盗ることができる
白銀色の髪に、赤い瞳が特徴的な美少女。身体があまり丈夫でない。穏やかで物静かな性格。実はとても寂しがり。
ジャクソン・ビーン(26)
ベース:ジャックと豆の木
呪い:豆の木に身体を寄生される
反動:身体を植物のように扱える
癖っ毛の黒髪で、あごひげを生やしており、右目に眼帯をつけている。女好きな性格で、マルガレーテに会うたびに口説いている。また、フレッグのことをいつも気にかけており、弟のように思っている。愛称はジャック。
アーサー・アルビオン(5)
スノウとともに、孤児院で育った子供。やんちゃ盛りで、遊ぶことと食べることが好き。人懐っこく、今や革命軍のマスコット。
イザーク・ゲルハルト(24)
ベース:死神の名付け親(落語『死神』の元ネタ)
呪い:???
反動:病気や怪我を、瞬時に治す
メガネの青年。誰にでも敬語で話し、大人しそうな印象がある。スノウの過去を知る人物で、過去には能力を活かして父の病院を手伝っていた。
エラ(18)
呪い:誰かを憎まずには生きていけない
反動:炎を操る。
リリスの娘で、スノウの双子の姉。見た目はスノウとそっくりだが、エラの方がボーイッシュ。リリスに育てられ、パンドラやスノウを憎むようになってしまった。
リリス(42)
国を治めるている。白雪姫の魔女の生まれ変わり。スノウとエラの母。額の石は血玉髄。
ブライア(32)
若作りとイタい服装が趣味。いばら姫の魔女の生まれ変わり。人を操る力を持つ。額の石は石榴。
ハッグ(34)
肥満体でお菓子好き。砂糖でできた悪魔を呼び出す力を持つ。ヘンゼルとグレーテルの魔女の生まれ変わり。額の石は琥珀石。
エビルダ(39)
派手な化粧の、妖艶な女性。フレッグに好意を寄せているらしい。人を動物の姿に変える力を持つ。カエルの王様の魔女の生まれ変わり。額の石は橄欖石。
リーパー(??)
見た目は20歳前後だが、実年齢は80を超えている。死神の名付け親の生まれ変わり。黒いローブと、胸のカンテラが特徴。額の石は紫水晶。
ティタン(51)
荘厳ないでたちの巨漢。鎧を着ている。額の石は瑠璃石。
パンドラ
1000年の間、国を治めていた正義の魔女。18年前に殺害された。現在は棺に閉じ込められ、転生の時を待っている。額の石は月長石。
- Re: あなたに出会う物語 ( No.40 )
- 日時: 2017/09/06 07:07
- 名前: ももた (ID: jFPmKbnp)
〈Chapter6〉
「どういうことです、リーパー!!」
怒気を帯びた様子で、エラはリーパーに掴みかかった。対するリーパーは、飄々としている。
「これはこれは殿下。エビルダに、フレッグ君とスノウ様の関係を教えたのは、確かに私です。しかし、それで勝手な行動をとったのは、エビルダの独断ですよ」
エビルダの血管は、今にもはち切れそうなほどに浮き上がっていた。リーパーを壁を叩きつける。
「おやめなされ、殿下!」
そこで、エラの腕を掴む手があった。ティタンだ。怒り心頭している彼女は、ティタンの顔を睨みあげた。ティタンはそれに怖じることもなく、エラを見つめ返している。
やがて、エラはリーパーから手を離す。マントを着直し、フードを被ると、どこかへ去ろうとしていた。
「殿下!どちらへ……」
「お前達のような碌でなしは要らないわ!私が自ら出ます!」
ティタンと制止も振り切って、エラは出て行ってしまった。ティタンは、リーパーを睨みつける。
「リーパー、エラ様を守れ。それで今回のことは水に流すよう、陛下に進言してみる」
「おやおや、随分と命令口調だねぇ……」
リーパーはニヤニヤと笑っていた。ティタンは眉をひそめる。リーパーは、やれやれと首を振ると、姿を消した。
***
スノウは、マルガレーテ共に街に買い物に来ていた。フレッグの誕生日が近いらしく、プレゼントを買いに来たのだ。
美女が2人並んで歩いているので、どうしても周りの注目を浴びてしまう。当の2人は気にする様子もなく、ショーウィンドウを見ている。
「フレッグさんて、どんなものが好きなんでしょうか?」
「お前から渡せば、なんでも喜びそうだがな」
割と本気で言ったのだが、スノウは頬を赤らめて「からかわないでください!」と怒っていた。マルガレーテはスノウをなだめながら、雑貨屋に入っていった。
店内は、男女両方に好まれそうなデザインのものが多かった。スノウはアクセサリーのコーナーを見た。マルガレーテもついてくる。
「これなんかいいんじゃないか?」
マルガレーテが指差したのはペンダントだった。2つで対になっているものだ。
「少し飾りが大きすぎませんか?」
「多分、ここが開くんだよ」
マルガレーテがペンダントを受け取ると、飾りのところに指を引っ掛ける。開けてみると、ロケットだった。
「素敵……私、これにします!」
スノウは笑顔を浮かべ、早速レジに並んでいた。マルガレーテはその間も、店内を歩き回っている。
「メグさん、お待たせしました……あら?」
会計を済ませたスノウは、小物コーナーでマルガレーテを見つけた。マルガレーテは男物の革手袋を手に取っている。
「どうしたんですか?」
「スノウ!あ、これは……」
マルガレーテは、何やら狼狽している。
「フレッグさんのプレゼントですか?それとも、ハンスさんにでも買っていくんですか?でも、まだ暑いですよ?」
「いや、そうではなくて……」
マルガレーテは、しまったという顔をしていた。スノウは頭の中で考える。革命軍でマルガレーテが親しい人物の中で、フレッグとハンスを除くと、手袋のサイズに合う男は1人しかいない。
「もしかして、ジャ……」
「言うな!」
マルガレーテは照れながら会計の列に並ぶ。スノウは、それにヒョコヒョコとついて来た。
「いつも、迷惑そうにしてたのに、本心では割と気になってたんですか?」
「違う!これは、ハッグの時の礼をと思ってだな……それにアイツ、無意識に手が蔓みたいになって困るって言ってたし……」
以降もマルガレーテは、延々と言い訳を続けていた。
(そんなことしたら、期待持たせちゃいますよ)
少し鈍感なスノウは、マルガレーテの感情を読み取ることができなかったようだ。真面目に相槌を打っている。マルガレーテ的には、その反応の方が堪えたらしかった。袋に包んでもらうと、そそくさと懐にしまった。
***
「まあ、買い物ができて良かったな。そろそろ戻るか?」
「はい!」
店を出ると、2人はアジトへ向かう。尾行対策として、裏路地を通ってから行くつもりだ。2人は、自然体を装って角を曲がった。そのまま数歩進んだ時……
「エラよ、覚悟!」
突然、何者かのナイフがスノウを襲った。とっさに反応したマルガレーテがスノウを突き飛ばす。間一髪、一撃目を避けたスノウは、手荷物を気遣いながら臨戦態勢に入る。
声の高さからして、襲って来たのは恐らく男だ。黒いマントに身を隠し、フードを被っているので、顔までは判別できない。
(エラ?誰かとスノウを取り違えているのか?)
マルガレーテは柄を取り出しながら考える。男は明らかにスノウを狙っていた。『エラ』と思われているのは、スノウの方だろう。
即時、剣を起動し、応戦する。柄か剣が生える様子を見て驚いたのか、男はマルガレーテから離れた。その間に、スノウは氷の礫を放った。
「何!?」
男はスノウの攻撃を全力で避けた。そこにできた隙を突き、マルガレーテは一気に距離を詰めて、剣を振り下ろした。
ザクリ……と、マルガレーテは確かに手応えを感じた。心臓を狙ったから、無事では済まないだろう。
しかし、次の瞬間、2人は目を疑った。
男は立ち上がったのだ。マルガレーテの剣を身体から引き抜き、跳躍して距離をとる。すでに出血は致死量に達していたはずだ。しかし、倒れた場所にはわずかな血痕を残しただけで、まるで傷など負っていないように振る舞う。
(再生能力があるのか!?)
マルガレーテは剣を構えなおした。スノウも男に手をかざす。それを見て、男はナイフを取り出した。幾つも隠し持っていたようで、何本ものナイフが男の手中にある。
男はそれらを____
- Re: あなたに出会う物語 ( No.41 )
- 日時: 2017/09/07 00:38
- 名前: ももた (ID: jFPmKbnp)
カランカランと、アスファルトに散らばる音がした。スノウとマルガレーテは、目を見張った。
男はナイフを捨て、両手を挙げたのだ。
「申し訳ありません、こちらの手違いだったようです」
「手違い?こっちは殺されかけたんだぞ!?」
敵意はないことを示す男に対し、マルガレーテは怒鳴った。男はこの事態に困っているようで、スノウはどうして良いか分からなくなってしまう。
「誓って今の私に敵意はありません。そちらの方は白雪姫・スノウであるとお見受けします」
スノウはまだ名乗っていないのに、この男はスノウの名を当てた。マルガレーテはやや警戒をとき、男に切っ先をむけるのをやめた。
「なぜ、私の名を知っているの?」
スノウが問いかけると、男は少し考えてからフードをとった。黒髪の、眼鏡をかけた色白の青年だ。男は胸元のボタンを外し、地肌を見せた。
「僕はイザーク・ゲルハルト。死神に名を受けた者です。ある方の命令で、あなた方の保護を頼まれています」
男の心臓の位置には、髑髏の呪印があった。先ほどの再生能力は、呪いの反動だったようだ。同じ英雄の生まれ変わりであることを確認した2人は、臨戦態勢をやめる。
「悪かった。私はグレーテルの生まれ変わり マルガレーテ・クーヘンだ」
「あなたの言う通り、スノウ・ヴァイスよ」
自己紹介を終えると、イザークは早速話を切り出した。
「お二方とも、都合がよろしければ、私の隠れ家にいらしていただけませんか?ぜひ会わせたい方がいます」
マルガレーテは少し考えた。合理的に考えれば、同じ英雄の生まれ変わりである彼が、自分たちに敵対する道理はない。しかし先ほどの襲撃もあったか、マルガレーテはまだ、この男を完全に信用できないでいた。
「お前についていけば、スノウに襲撃しようとした理由を教えてくれるか?」
少し威圧を込めてマルガレーテが聞いた。イザークは誠意を込めた表情で頷く。
「外でできる話ではありませんので、隠れ家に着いてからでよろしいですか?そこでならば、知っていることは全てお話しいたしましょう」
マルガレーテは念のため、手中に取っ手を忍ばせる。警戒は残っているが、彼に同行することにした。
***
それは、王都の外れの森の中にある、小さな家だった。看板には『ゲルハルト診療所・休診』と書かれていた。
スノウは彼の名を聞いてから、心の中で何かが引っかかっていた。この看板を見て、そのモヤが何であったかに気がつく。
「ゲルハルト……もしかして、ゲルハルト病院の!」
それは、以前、アーサーがブライアに捕らえられていた廃病院だ。スノウの言葉に、イザークは驚いた様子を見せる。
「よく気がつかれましたね。あれは僕の父の病院です。11年前、女王に謀反を疑われた父は捕まり、逃げ延びた僕はここで診療所を開いていました」
イザークは寂しそうに答えた。スノウは悪いことを聞いた気がして、目を伏せる。その横で、マルガレーテは何か疑問を抱いているようだ。
「君、年は?」
「24です」
「そんなに若い頃から、医者をやっているのか?」
スノウは「確かに」と頷いた。24歳であることが事実とすれば、イザークは13歳から医師をしていることになる。
「僕の呪いの反動は、先ほどご覧になられたでしょう。僕の力は、怪我や病気を体から取り去ることです。この力を使って、父の手伝いをしていたのです」
マルガレーテは思い出す。確か、ゲルハルト病院にかかった患者は、どんなに重篤であろうと回復したという。ゴッドハンドの正体は、イザークの能力だったのだ。
「なるほど。その後もその力を使って、生計を立てていたのね」
「はい……最初のうちは地位も名声もなくて、苦労しましたけどね」
イザークは苦笑しながら扉を開ける。そして2人を招き入れた。
中は普通の診療所のようだった。薬品の並ぶ棚に、診察机など、どこの診療所にもある設備だ。イザークはさらにその奥、プライベートスペースに2人を案内する。
「あなた方に会わせたい方というのは、この方です」
スノウ達は息を飲んだ。その部屋の奥には、ガラスの棺があった。三重に鎖が掛けられており、中には美しい女性が眠るように納められている。
「1000年に渡り、この国を支えた偉大なる魔女 パンドラ様です」
マルガレーテは近くで顔を確認すると、思わず声を上げた。
「そんな……この人は……私にこの武器をくれた人だ!!」
マルガレーテの言葉に、スノウも目を丸くする。確かに女性の額には、月長石が埋め込まれていた。
***
イザークは紅茶を入れると、腰を落ち着けた。机を取り囲み、パンドラについて説明を始める。
「魔法使いは、固有の得意魔法を持ち、額に石を持って生まれるのが特徴です。他にも、人間と違い、魔法使いは成人すると老いが止まるという特徴もあります」
イザークが言うと、スノウは首を傾げた。
「待って。私たちが出会った魔女達は、ちゃんと年をとっていたわよ?」
「それは、彼らが完全体ではないからです」
端的な言葉では、スノウ達には理解できなかった。するとイザークは、自分の心臓を指差す。
「先代の魔法使い達は、時の英雄達に呪いをかけました。彼らは死後、地獄で罪を償った後、再び転生を許されました。その時、僕たちにかけられた呪いに魔力が宿り、彼らから力を奪ってしまったのです」
イザークの説明に2人は驚く。しかし、彼らが英雄の生まれ変わり達を執拗に狙う理由に合点がいった。彼らは、自分の魔力を分けた存在である英雄達から、力を取り返したかったのだ。
「転生した魔法使い達は、パンドラ様を殺害奉り、彼女が転生できないように、棺に魔法の鎖をかけました。あなた方のおかげで、それも残り3本ですが……」
イザークはパンドラの方を見つめながら言った。声は喜んでいるようだが、目は悲しそうだ。
「そうなの……そう言えば、どうしてイザークさんは私に襲いかかったの?」
スノウが問いかけると、イザークは紅茶を一口飲んだ。そして、一息ついてから話し出した。
「長い話になりますが……」
- Re: あなたに出会う物語 ( No.42 )
- 日時: 2017/09/07 08:33
- 名前: ももた (ID: jFPmKbnp)
イザークの隠れ家をあとにし、スノウたち3人はアジトへ向かっていた。ふと、前方にマント姿の女性と、ローブ姿の男が目にとまる。2人ともフードを被っていて、顔は隠れている。
スノウ達が近寄ると、女の方が反応した。
「そんな……これは、どういうことです……?」
女はスノウの顔を見て狼狽えている。スノウ達はその理由を聞いていた。彼女はおそらく、今まで自分が前提としていた事実を、崩されてしまったのだ。
風に、女のフードが吹き飛ばされた。彼女の顔が明らかになる。
「なぜ、スノウが私と同じ顔をしているの……?」
「エラ……」
スノウとエラは、鏡合わせのように対峙した。
***
数時間前
イザークは紅茶を淹れ直しながら話しだす。
「当初、今代の魔法使い達は、人間の子として生まれてきて、どうして前世の力を受け継いでいないのかを知りませんでした」
茶葉と熱湯をポットに入れ、しばらく蒸らす。
「右も左も分からぬ彼らは、パンドラ様の元に集い、共に研究に励んでいました。そんな折、魔女の1人 リリスは、人間の男と結ばれ、やがて双子の女の子を産み落とします。僕の父は、医師として、その出産に立ち会っていたそうです」
イザークはスノウの方を向いて言った。
「その時産まれたのが、スノウさんと、この国の王女 エラなのです」
スノウは驚く。親の話など、聞いたこともない。家族が生きていたこと自体に驚いた。
「リリスは貴女の呪印を見て、力を失っている理由に気がつきました。そこで、生まれたばかりの貴女を殺し、力を取り戻そうと考えました」
マルガレーテは、話を聞きながら顔をしかめた。実の親に殺されようとしていた事実など、知らない方が幸せだったかもしれないと思ったのだ。スノウは、傷ついた表情を見せたが、イザークの話に集中している。
「それに気がついたパンドラ様は、貴女たち双子を連れて逃げました。スノウさんは僕の父が引き取り、孤児院に預けました。エラはパンドラ様がお隠しになろうとしていました」
マルガレーテは思い出す。あの時、彼女の腕に抱かれていた赤子は、エラだったのだ。
「しかし、リリス達はパンドラ様に追いつき、このような棺に閉じ込めました。その後、棺だけは父によって回収できましたが、エラはリリスに連れ去られ、城でリリスによって育てられました。おそらく、彼女は騙されて傀儡にされているのです」
イザークはそこまで話すと、ティーポットを持って戻ってきた。スノウは、紅茶のおかわりをもらった。
「私、そんなに王女に似ていたの?」
「はい、疑いなくエラだと思っていました。彼女とは敵対していて、会えば必ず斬り合いになります。ですので、先手をとろうとして……」
「スノウの氷を見て、エラではないと気がついた……と」
イザークは恥ずかしそうに頭をかいた。
「気にしないで、イザークさん。そうだ!代わりに、エラのこと教えてくれないかしら。エラは私のお姉さんなの?それとも、妹?」
スノウの気遣いに応えるように、イザークは顔を上げる。
「エラが姉で、スノウさんが妹です。エラは氷ではなく、炎を操ります」
イザークが答えると、マルガレーテは首を傾げた。
「炎を操るとは……エラは、魔女なのか?」
イザークは首を振った。
「いえ。エラの力は、僕たちと同じく呪いの反動です。僕は、リリスにかけられたものと思っています」
マルガレーテは納得したようだ。ふと窓を見ると、日が傾きかけていることに気がつく。
「いけない!長話をしてしまいました……」
「いや。こちらこそ、たくさんの情報を得られて感謝している。イザークは今後、どうするんだ?」
マルガレーテは身支度をしながら問いかけた。イザークは、少し考えてから答える。
「僕の宿敵は、リーパーという男です。ヤツは、まだ生きています。まずは、リーパーを討伐するつもりです」
イザークの話を聞き、スノウは何かを思いついたように手を叩いた。
「イザークさんも、革命軍に入ったらどう?協力してその人を倒しましょうよ!」
スノウに手を取られ、イザークは狼狽した。女に慣れていないあたりは、フレッグと同じ匂いがする。
「で……でも、僕がいては迷惑になるのでは?」
「とんでもない!イザークさんの情報は、むしろ助かります。ね、メグさん!」
スノウはマルガレーテに同意を求めた。
「そうだな。アンタの能力も、戦力になる。アンタが良ければ、革命軍に入ってくれないか?」
2人の(美女の)熱烈な勧誘を受け、イザークは戸惑いながらも頷いた。
「じゃあ、よろしくお願いします」
「ありがとう。それじゃ、まずは一緒にアジトに来てくれるか?」
マルガレーテが尋ねると、イザークは申し訳なさそうに周りを見回す。
「あの……この家はどうしましょう?流石に、パンドラ様の棺を移動させるわけには……」
イザークが言うと、マルガレーテは「そうだな」と呟いて考える。
「イザークはアジトに住んでもらって、ここの管理は革命軍のメンバーに任せよう。それでどうだ?」
「良かった。ありがとうございます!」
話に決着がついたようなので、3人は隠れ家をあとにした。エラ達に遭遇したのは、これより数十分後のことである。
- Re: あなたに出会う物語 ( No.43 )
- 日時: 2017/09/07 20:09
- 名前: ももた (ID: jFPmKbnp)
エラはスノウの顔を見て、驚愕している。隣にいる男に問いかけた。
「どういうことです、リーパー……スノウは、私に呪いをかけた、パンドラの娘なのでは無かったのですか?」
対するリーパーは、腹を抱えて笑っている。
「あらら〜、バレてしまいましたね。その通り、スノウ様も正真正銘リリス陛下の娘……あなた達は姉妹なのです」
エラとリーパーの会話を聞きながら、隣でイザークが口を挟む。
「待て、リーパー!エラに呪いをかけたのは、リリスだろう?」
リーパーは、笑顔を崩すことなく、今度はイザークを見た。
「いいや、エラ様に呪いをかけたのは、パンドラさ。私たちがついた嘘は、スノウ様がパンドラの娘であると信じ込ませたことだけ」
リーパーが反論すると、エラはわずかに落ち着きを取り戻す。その顔に気がついたリーパーは、愉快そうに話を続けた。
「18年前のあの日、パンドラはエラ様に守りの魔法をかけるつもりだった。しかし、リリス陛下がそれを妨害し、パンドラは逆の魔法__呪いをかける羽目になった」
今度は、エラの顔からみるみる生気が抜けていく。スノウは、エラの様子が明らかにおかしいことに気がつく。
「エラに何をしたんですか?」
「何もしていません。憎むべき対象を失い、心が壊れただけでしょう」
「何?」
スノウとマルガレーテは、リーパーを睨みつけた。リーパーは、相変わらず飄々としている。
「エラ様にかけられた呪いは、誰かを憎まずには生きていけないという呪い。エラ様は今まで、パンドラとスノウ様を憎むことでその心を保っていた。しかし、君たちのせいで憎む理由を失い、混乱してしまったようだね。お可哀想に……」
リーパーは楽しそうに、エラの狂い行く姿を見物している。そして、自分はまるで無関係であるかのような態度をとる。スノウはその様子に、怒りを覚えた。
「あの……本当はこんな言葉使っちゃいけないって分かってますけど……」
スノウは、キッとリーパーに睨みつける。
「あなた、すごく胸糞悪い!!」
スノウが放った氷の礫は、リーパーにひょいと躱された。リーパーは笑い声だけをその場に残し、やがて風をまとって去っていった。
「う……あ…………」
置き去りにされたエラは、頭を抱えてうずくまった。
「エラ……」
スノウは心配そうに、エラに駆け寄ろうとした。しかし
「危ない!」
イザークに腕を引かれて立ち止まる。見ると、エラ体から炎が吹き出していた。
「いやぁぁぁぁぁぁああっ!」
エラの絶叫と共に、彼女を中心に炎が渦を巻く。その炎は、近隣の家々も巻き込もうとしていた。
「凍てつけ!」
スノウが唱えると、炎と氷が互いを打ち消し合う。2人の力は、拮抗していた。
「これは……どうすればいい?」
マルガレーテは、断続的に降り注ぐ熱気と冷気に耐えきれず、思わず後退した。イザークは隣で冷静に現状を分析する。
「どちらかが力尽きるか、相手を圧倒するまで続くでしょう……しかし、そうなると、スノウさんは不利です」
「何?」
イザークの思いもよらない言葉に、マルガレーテは顔をしかめた。
「スノウさんの力を侮っているわけではありません。ただ、これは自然の法則の問題なのです……」
イザークはことわっておきながら告げる。
「温度に上限はありませんが、下限はあるのです」
絶対零度__スノウの力の限界はそこだ。もし、エラがそれを上回る力を見せたら、スノウは負ける。
見ると、スノウが全力で能力を解放しているにも関わらず、エラの火力は増していた。スノウはその状況に、焦りを感じ始めていた。
- Re: あなたに出会う物語 ( No.44 )
- 日時: 2017/09/08 07:59
- 名前: ももた (ID: jFPmKbnp)
少女は、怒り任せに飼い犬に暴力を振るっていた。まだ足りないようで、さらに拳を振り上げる。その手を、誰かが掴んだ。
「エラ、少し吠えたてられたくらいでこんなことをしてはならない」
「お母様……でも……」
少女 エラは、歯ぎしりをしていた。哀れに思った母は、そっと娘を抱きしめる。
「哀れなエラ。こんなに苦しいのも、全てはパンドラのせい……」
母は、娘に言い聞かせるように唱えた。
「パンドラを憎め。パンドラの血筋を憎め。さすれば問題ない」
「はい、お母様」
母は、娘の背中で、満足そうに笑みを浮かべていた。
***
「いや……私、誰を憎めばいいの……」
エラは、自分の身体から吹き出る炎を見つめる。
こんな厄介な呪いを生んだパンドラを憎めばいいか?しかし、彼女は自分の身を案じてくれた人だ。
今の今まで自分を騙してきたリリスか?しかし、彼女に育てられた思い出は消えない。
火力は増すばかりだ。心の拠り所のないままでは、加減をすることが出来ない。
「誰か……助けて……」
エラは、か細い声で助けを求めた。誰にも届かないと思っていた。しかし
「エラ!」
答える者がいた。スノウだ。
「私、今日まで、貴女の存在すら知らなかった。エラはこんなに呪いで苦しんでいるのに、私は何も知らないでのうのうと生きてきた。だから……」
スノウは、エラの放つ炎に耐えながら、声の限り叫ぶ。
「私のこと、憎んでいいよ!!」
その言葉は、エラの心を大きく揺らした。確かに、スノウは一人リリスの手から逃れ、自由に育った。エラの心が、スノウへの嫉妬に傾き始める。
(でも、憎むほどのことなの?)
エラは自分に問いかける。スノウは孤児院に預けられ、実の親の愛情を知らずに育った。リリスの命令で、育ての親すら失った。挙句に、実の家族とは敵対関係にあることを告げられた。
(違う……憎むべきなのは、スノウじゃない)
エラの炎が、収束し始めた。 次第に、エラの顔が見えてくる。スノウは、その顔を見て驚いた。
「憎むべきは、私たちの運命を狂わせた『戦い』よ」
エラは涙を流していた。混乱は収まったようだ。炎が消えていく。スノウも力を解き、エラに駆け寄る。
「もう大丈夫なの?」
「えぇ。貴女の声で、気持ちに整理がついたの。ありがとう」
エラは涙をぬぐいながら答えた。スノウは、そんな彼女に微笑みかける。すると、「でも……」とエラは言葉を続ける。
「『私を憎めばいい』なんて悲しいことはもう言わないで。私たち、姉妹なんだから」
エラの口から、初めて『姉妹』という言葉が出た。エラは、スノウを妹と認めたようだ。スノウは顔を綻ばせる。
「分かったわ……これからよろしくね、姉さん!」