複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- あなたに出会う物語
- 日時: 2017/09/16 12:43
- 名前: ももた (ID: b9FZOMBf)
小さな手……小さな温もり……
あなたはもう一度、私に会いに来てくれたのね。
あなたに最初の贈り物をあげましょう。
あなたの名は……
***
こんにちは、気まぐれなももたです。初心者で、更新は不規則ですが、頑張って書いていきます!
〈注意〉
本作は多少のグロ表現、下ネタ等を含みます。嫌な予感がした方は、ブラウザバック!
〈目次〉
Chapter1……>>1-5
Chapter2……>>6-11
Chapter3……>>12-25
Chapter4……>>26-32
Chapter5……>>33-39
Chapter6……>>40-45
Chapter7……>>46-54
Chapter8……>>55-
〈主要登場人物〉
以下、ネタバレを含むことがあります。本編を読んでからの閲覧を推奨します。プロフィールはストーリーの進行に合わせて更新します。
スノウ・ヴァイス(18)
ベース:白雪姫
呪い:???
反動:氷を操る
雪のように白い肌、黒檀のような黒く長い髪、血のように赤い唇の美しい少女。赤ん坊の頃から孤児院で育ち、周りからは優しく礼儀正しいと評判。
フレッグ・ポンド(18)
ベース:カエルの王様
呪い:満月の夜にカエルの姿になる
反動:身体能力が高い
短いブロンドの、麗しい青年。しかしある理由から、強いコンプレックスを抱いている。少し卑屈な面もあるが、勇敢な性格。ハンスから『ケロちゃん』と呼ばれるのを嫌がっている。
ハンス・クーヘン(28)
ベース:ヘンゼル
呪い:兄妹のどちらかが死ねば、もう片方も道連れに死ぬ
反動:悪魔を払う武器を操る
赤い巻き毛で、長身の美しい青年。革命軍のリーダーを務めている。陽気でいたずら好きな性格。
マルガレーテ・クーヘン(28)
ベース:グレーテル
呪い:兄妹のどちらかが死ねば、もう片方も道連れに死ぬ
反動:悪魔を払う武器を操る
ハンスの双子の妹で、容姿が兄によく似ている。ハンスの右腕となって、常に彼を支えている。兄よりも男前な性格で、面倒見が良い。愛称は『メグ』
ローザ・フォン・ルーク(14)
ベース:いばら姫
呪い:悪夢しか見ることができない
反動:人の悪夢を盗ることができる
白銀色の髪に、赤い瞳が特徴的な美少女。身体があまり丈夫でない。穏やかで物静かな性格。実はとても寂しがり。
ジャクソン・ビーン(26)
ベース:ジャックと豆の木
呪い:豆の木に身体を寄生される
反動:身体を植物のように扱える
癖っ毛の黒髪で、あごひげを生やしており、右目に眼帯をつけている。女好きな性格で、マルガレーテに会うたびに口説いている。また、フレッグのことをいつも気にかけており、弟のように思っている。愛称はジャック。
アーサー・アルビオン(5)
スノウとともに、孤児院で育った子供。やんちゃ盛りで、遊ぶことと食べることが好き。人懐っこく、今や革命軍のマスコット。
イザーク・ゲルハルト(24)
ベース:死神の名付け親(落語『死神』の元ネタ)
呪い:???
反動:病気や怪我を、瞬時に治す
メガネの青年。誰にでも敬語で話し、大人しそうな印象がある。スノウの過去を知る人物で、過去には能力を活かして父の病院を手伝っていた。
エラ(18)
呪い:誰かを憎まずには生きていけない
反動:炎を操る。
リリスの娘で、スノウの双子の姉。見た目はスノウとそっくりだが、エラの方がボーイッシュ。リリスに育てられ、パンドラやスノウを憎むようになってしまった。
リリス(42)
国を治めるている。白雪姫の魔女の生まれ変わり。スノウとエラの母。額の石は血玉髄。
ブライア(32)
若作りとイタい服装が趣味。いばら姫の魔女の生まれ変わり。人を操る力を持つ。額の石は石榴。
ハッグ(34)
肥満体でお菓子好き。砂糖でできた悪魔を呼び出す力を持つ。ヘンゼルとグレーテルの魔女の生まれ変わり。額の石は琥珀石。
エビルダ(39)
派手な化粧の、妖艶な女性。フレッグに好意を寄せているらしい。人を動物の姿に変える力を持つ。カエルの王様の魔女の生まれ変わり。額の石は橄欖石。
リーパー(??)
見た目は20歳前後だが、実年齢は80を超えている。死神の名付け親の生まれ変わり。黒いローブと、胸のカンテラが特徴。額の石は紫水晶。
ティタン(51)
荘厳ないでたちの巨漢。鎧を着ている。額の石は瑠璃石。
パンドラ
1000年の間、国を治めていた正義の魔女。18年前に殺害された。現在は棺に閉じ込められ、転生の時を待っている。額の石は月長石。
- Re: あなたに出会う物語 ( No.25 )
- 日時: 2017/08/29 15:49
- 名前: ももた (ID: jFPmKbnp)
「ブライアが倒されたですって!?」
少女は驚愕の表情を浮かべて叫んだ。少女の後ろには、大柄で険しい顔つきをした壮年と、巨体を持った女が控えている。
「左様。何を驚くことがありましょうや、プリンセス」
「ブライアは転生後、特に力を失っておりましたわ。それに、陛下の命を全うせんとして殉死したのです。名誉なことですわ」
少女は考えるそぶりを見せ、やがて静かに告げる。
「お母様はあなたがた2人に命令を与えたはずですね、ハッグ?その点についてはどうお考えなの?」
「お叱りの通り、面目次第もありませんわ。つきましては、私自らが出向き、スノウ様の心臓を納めてご覧に入れますわ」
恭しく言葉を述べるハッグに、男と少女は満足そうに笑みを浮かべる。
「そう……期待しております、ハッグ」
「光栄ですわ、王女殿下」
***
「なにちゃっかり彼女できとんねん!?」
「フレッグやるやる〜〜〜」
魔女を1人打ち破ったことに加え、フレッグに恋人ができたことで、革命軍はお祭りモードだった。酒の入った年長の男2人にはやし立てられ、フレッグは心底鬱陶しそうな顔をしている。隣に座らされているスノウは、そんな様子を見て頬を赤らめていた。
「兄さんもジャックも悪酔いしすぎた。フレッグもスノウも困っているだろう?」
「固いこと言うなや。今度は俺たちの番かもな!」
「メグに手え出したら、斬るぞ?」
ジャクソンの言葉にハンスが突っかかり、論争が始まる。なんだかんだ最終的にはマルガレーテの褒めちぎり合戦になり、居づらくなったマルガレーテはフレッグの隣に座る。
「すまないな……兄さんたちには話すべきじゃなかったか?」
「いや、いいよ。どうせバレるし……色々、気にかけてくれてありがとう」
フレッグは礼を述べると、優しく笑った。幸せを噛み締めているような笑顔だ。スノウに出会ってから、フレッグは表情の数が増えた。最初に出会った頃は、特に女を警戒しているような節があり、マルガレーテはほとほと扱いに困ったものだ。今の彼があるのは、間違いなくスノウのおかげだろう。
ふと、スノウの隣にアーサーがすり寄ってきた。スノウの膝にしがみつき、フレッグを睨みあげている。
「アーサー、どうしたの?」
「……スノウ、フレッグのお嫁さんになるの?」
突然の言葉に、フレッグとマルガレーテは白目を剥く。特にマルガレーテは、内心「あ、やっぱ義姉弟だ」と思ったが、口には出さなかった。どうなのと答えをせかすアーサーに、2人は思考が混乱する。
「どうなのかな?私はそうなれたら嬉しいな」
照れながらもそう答えるスノウの横で、フレッグは1人机に突っ伏して悶えていた。あまりのスノウの純情ぶりに、マルガレーテは見ているだけでも恥ずかしくなる。
「ダメだよ!スノウは僕のお嫁さんになるんだもん!」
突然、アーサーが大きな声で叫んだ。周りの大人たちは目を丸くし、アーサーの方を見る。アーサーはスノウのスカートを掴みながら、わんわんと泣き出した。それを見て、フレッグとマルガレーテは、なんと声をかけていいのか分からなくなった。
「……ちょいと立ちぃや、アーサー」
静まり返った空気を破ったのは、ジャクソンの声だった。
「アーサー、俺と向こうで男同士で話そうや」
アーサーは最初、スノウから離れたがらなかったが、やがてジャクソンに抱えあげられるように連れて行かれた。スノウは後を追おうとするが、ハンスに止められる。
「大丈夫だよ」
スノウは元の席に戻され、ハンスはその隣に座った。
「さぁて、俺もフレッグ坊やの恋話でも聞かせてもらおうかな?」
「はあ!?」
いつもの調子が戻り、宴はまた盛り上がりを見せていた。
***
「はなせぇ!ひげ!モジャモジャ!」
「おい、ストレートすぎて傷つくで?」
廊下に出てジャクソンはアーサーを下ろす。涙と鼻水がジャクソンの服にまでこべりついていた。恨めしげな目で睨みあげるアーサーの頭に、ジャクソンはポンと大きな手をのせる。
「なあ、アーサー。俺もな、お前よりちょっと大きくなったくらいの時、好きな人がおってん」
突然語り出したジャクソンに、アーサーはきょとんと首をかしげる。
「俺が育ったのは、めっちゃ汚い街やった。そん中にな、めちゃくちゃ綺麗な人がおったんや」
年の頃はジャクソンとそう変わらなかっただろう。彼女はいつも、檻の中にいた。ジャクソンはいつか、彼女に自由を買い与えることを目標にし、子供ながら、時に悪事にすら手を染めるようになっていった。
「けどな、その人、突然俺の前から居なくなってしもたんや」
気がつけば檻は空っぽで、手元には大金だけが残った。
「アーサー、スノウはお前の前から消えへんで?いつでも見返してやれる。いつか、フレッグよりええ男になって、奪い返したろうや!」
ジャクソンはアーサーのプニプニした頬を揉む。アーサーはまた泣き出してしまったが、次第に落ち着いてきた。幼いアーサーにどこまでこの話が分かったのかは知れないが、きっとこの思い出も良いものになるだろう。ジャクソンはそのまま、アーサーが眠りについてしまうまで、アーサーの背中をさすっていた。
- Re: あなたに出会う物語 ( No.26 )
- 日時: 2017/08/27 01:45
- 名前: ももた (ID: jFPmKbnp)
〈Chapter4〉
魔女の体が燃えていく。魔女の断末魔は、呪いの言葉だった。焼けただれ、崩れ落ちてゆく身体。髪が焼ける臭い。それに耐えきれなくなった2人は、息を合わせて扉を閉めたのだった。
***
「この所、悪魔による襲撃が絶えないな……」
ハンスは難しい顔をして、地図の一点に赤印をつけた。地図上には今のを合わせて、8点の赤印が付けられている。それらは全て、王都内にある卸売業者の倉庫だった。
「俺たちに物資を届けないようにするためか……このままじゃ、王都全てを道連れにしてしまう」
フレッグも厳しい顔をしている。
ブライアを撃退してからしばらくして、今度は悪魔使いハッグの行動が顕著になってきた。事態を重くみたハンスは、英雄の生まれ変わりたちを呼び出して、今後の指針を決めることにした。
「民衆よりの業者だけを攻撃して、王室サイドのお店は狙われていないんですね……だんだんと女王も手段を選ばなくなってしまいました……」
スノウが悲しい顔をする。散々搾取に苦しんだ挙句、日々の生活に必要なものまで制限されて、国民は今、どんな気持ちなのだろうか……
そんなスノウの横顔を見ながら、フレッグはふと、ブライアの言葉を思い出した。
(スノウ『様』……か。ブライアからしたら敬うべき相手なのか。だったら、なんで執拗に攻撃してきたんだ……?)
「おーい、ケロちゃん。会議中は彼女じゃなくて、こっちに集中してね」
ハンスに言われ、ハッと我に帰る。ハンスやジャクソンがニヤニヤ笑っているのはいつものことだが、マルガレーテまでが温かい目で見守っているのは、少し堪えた。
「今はとりあえず、残りの業者の警護が得策か。戦闘班でないローザ以外で分担しよう」
マルガレーテの提案に一同は頷く。ジャクソンはフレッグを肘で小突くと
「ハンスには、スノウと一緒に行動できるように頼んだるから」
とささやいて、ニカッと笑った。
***
スノウが部屋に戻ると、アーサーが何やら荷物を運んでいた。革命軍で働く人も何人か、それを手伝っている。
「アーサー?何してるの?」
「あ、おかえり、スノウ!」
アーサーは、ぬいぐるみを持ったままスノウに抱きついた。
「ジャックがね『いいおとこ』になるには、まず『じりつ』だって言うから、僕の部屋を作ってもらっているんだ!」
アーサーの言う通り、今までスノウと共有していた部屋から、アーサーの私物だけが運び出されている。シーツやカーテンの用意は、大人たちが手伝っているらしかった。新しいアーサーの部屋は、空き部屋だったスノウの隣の部屋のようだ。
「大丈夫?1人で眠れるの?」
スノウが心配そうに問いかける。
「大丈夫!だって、もう5歳だもん!」
アーサーは自信満々に答えた。スノウは少し寂しく思いながら、アーサーの成長を喜ぶ。スノウがアーサーの髪を撫でると、アーサーは満面の笑顔を浮かべた。
「じゃあ、私もアーサーのお引越し、手伝うね!」
「うん!」
スノウはタンスからアーサーの服を取り出し、アーサーと一緒にまとめていく。服のたたみ方をアーサーに教え、何枚か重ねて隣の部屋へ持って行った。スノウが手伝ったことで、アーサーの引越しはあっという間に終わった。
……その夜、トイレに行くのが怖かったアーサーが、真夜中にスノウを起こしにきたのは、ここだけの話である。
- Re: あなたに出会う物語 ( No.27 )
- 日時: 2017/08/24 23:42
- 名前: ももた (ID: jFPmKbnp)
ハンスの指示で革命軍のメンバーは、町の巡回と倉庫周辺の警護を行うことになった。ローザ以外の生まれ変わりたちは均等に分散させ、特に狙われそうな倉庫の警護はハンスとマルガレーテが担当した。ジャクソンの計らいで、スノウとフレッグは共に巡回することになった。
「あのバカ……なんだか、ごめんな?」
「謝ることないわ」
心なしか、スノウは喜んでくれているように見えて、フレッグは照れたように頭をかく。
「しかし、妙だな……」
フレッグの呟きに、スノウは首をかしげた。フレッグは、そうかと思い出す。スノウは気絶していたので、ブライアの言動を知らないのだ。
「ブライアがお前のことを『スノウ様』って呼んでいたんだ。何か、心当たりはあるか?」
スノウは首を横に振る。スノウの孤児院以外での知り合いは、革命軍だけだ。親のことも詳しく知らない。第一、出生自体があやふやだ。誕生日だって、預けられた日になっている。ただ……
「私を孤児院に預けたのは、身なりの良さそうな男だったと聞いているわ。何か、関係があるかしら……」
フレッグは頭を捻らせた。なるほど、ブライアから見て目上の人間が、その男の関係者だとすればしっくりくる。目上の人間の子供なら、敬うべき対象だろう。しかし、それでは殺す理由に矛盾が生まれる。
「謎だらけだな……」
色々な推理を繰り広げているうちに、その夜の任務は終わった。
***
「結局、昨夜は何もなかったね……まあ、今までも、数日おきに襲撃が起こっていたから当然か」
朝方、ハンスが皆を集めて言った。夜通し歩き回っていた団員たちは、もう疲れ切っている。
「昼のうちにゆっくり休んでくれ。しばらくは、昼夜逆転になるから、そのつもりで!」
ハンスの言葉に、団員たちはうなだれる。スノウも疲れ果て、今にも眠ってしまいそうだ。
(アーサー……1人でもちゃんと眠れたかなぁ……)
***
巡回任務は4日も続いていた。5日目、団員たちはまた警備に当てられる。何日も取り越し苦労が続き、団員たちは警戒心が解けていた。
(まずいな……)
マルガレーテは、そんな団員たちを眺めて考える。より民衆に近く、襲撃の可能性が高いのはハンスの担当の倉庫だった。しかし、周りの空気がこれでは、ハッグに隙を突かれやすい。
「おい、雑談の暇があったら、悪魔の紋章でも探してくれ」
「あっ!すみません、マルガレーテさん……」
マルガレーテは近くにいた団員を叱り飛ばした。しかし、どこを探してもそれらしいものはないので、団員たちは探すこと自体やめてしまっている。
(連絡に神経を張っておこう。兄さんに何かあった時に、駆けつけられるように……)
マルガレーテは雑草を踏み分けて進む。それらが不自然に折り曲げられていることにも気がつかずに……
- Re: あなたに出会う物語 ( No.28 )
- 日時: 2017/08/26 17:52
- 名前: ももた (ID: jFPmKbnp)
「分かりました」
スノウは通信を切り、東の方角を見る。遠くからでも、火の手が上がっているのが見えた。ハンスの予想に反し、襲撃があったのは、マルガレーテの警護する倉庫だった。
「急ぐぞ」
「えぇ……お願い」
スノウが答えると、フレッグは彼女を軽々と抱え上げた。そして、風よりも早く駆け抜ける。2人で走るより、この方が格段に早い。
「やはり、手を読まれていたか……」
ハンスの倉庫の方が重要度が高いため、マルガレーテの方は若干警備を薄くしていた。しかしそれは、敵も簡単に想像しうるものだった。
「でも、おかしいわね」
スノウが呟く。フレッグは怪訝な顔をした。
「マルガレーテさんは悪魔に詳しいはずなのに……何で5日も警護していて、悪魔の印章を見落としたのかしら……」
フレッグも考える。確かに、仕事をきっちりとこなす彼女が、こんなミスをするなんて妙だ。腑に落ちない。
しかし、そんな疑問も、すぐに晴れた。問題の倉庫に着いたのである。そこで2人が目にしたのは……
***
マルガレーテは焦っていた。団員の多くは命からがら離脱できたようだ。しかし、逃げきれなかった数人は、今にも炎に飲まれようとしている。マルガレーテは、そんな彼らを炎から庇うように立ち回っていた。
「まさか……この辺り一帯が、印章の中だったなんて……」
マルガレーテは悔しそうに言った。昼の間に大規模な印章を描いておいたのだろう。マルガレーテが立たされているのは、印章の上なのだ。印章は、ハッグの魔法を受けて、独りでに燃えていた。
炎は、意思を持っているかのように揺らめく。火柱の一本が、マルガレーテの方に伸びてきた。マルガレーテは武器を剣に変えて、炎を追い払うように振るう。すると炎は、まるで攻撃が効いているかのように怯んだ。
(そうか……この炎は……)
マルガレーテは仕組みを理解したらしい。剣を一回り大きくすると、それを地面に突き立てた。炎は剣を恐れるように、その場を引いていく。
「よし、足場ができたぞ!」
マルガレーテの言葉に、団員たちは安堵したようだ。皆、剣の周りに集まる。
ハッグが呼び出した悪魔は、この炎それ自体だ。名はアミー、炎の身体を持つ悪魔だ。故に、悪魔を倒す力があるマルガレーテの武器には、この炎は触れることはできない。
急場を救われ、ひとまずの安心を手に入れた団員たちとは対照的に、マルガレーテは依然、険しい顔つきをしていた。
(全方位を炎に囲まれている……この人たちを連れて、どうやったら脱出できる……?)
炎は勢いを増すばかりだ。ハンスが来てくれなければ、打開策が見つからない。果たして、それまで保つだろうか。
不意に、女の声が聞こえた。
「あの時も、こんな炎の中でしたわ」
聞き覚えがある。いや、魂が覚えている。マルガレーテは唇を噛んだ。こんな時に見つかるとは……
炎に照らされる巨体。額に輝く、琥珀石。
「炎の中に閉じ込められる気分はどうです?今度はあなたの番よ、グレーテル……いえ、マルガレーテ」
「ハッグ!!」
- Re: あなたに出会う物語 ( No.29 )
- 日時: 2017/08/28 00:31
- 名前: ももた (ID: jFPmKbnp)
ハンスは、急いで妹の元へ向かっていた。スノウ、フレッグ、ジャクソンの3人は、先に到着し多様で、逐一連絡を入れてくれている。
『炎の中にメグが閉じ込められとるみたいや。早うせんと、ハッグに見つかってまう』
「報告ありがとう。すぐに行く!」
取りあえず、炎の正体が悪魔であることが分かっただけでも収穫だった。足を動かしながら、頭では作戦を考える。
(思い通りにいくと思うなよ、ハッグ!)
***
3人は、燃え盛る炎にすっかり足止めされていた。近寄ろうとすれば、舌のように炎が伸びてくる。
「くそっ!メグ!」
ジャクソンは地団駄を踏んだ。他の団員たちは消化活動を試みるも、無尽蔵に生み出される悪魔の炎には効果がないらしい。
(何か……何か方法はないかしら……)
スノウも知恵を絞り、打開策を考える。
(炎の悪魔……そう言えば……)
スノウはふと、孤児院を襲撃された日のことを思い出した。フェニックスも確か、身体が炎でできた悪魔だった。しかし、アミーとフェニックスでは、その大きさが違う。
(それでも、やるしかない!)
スノウは心を定めると、ごうごうと音を立てる炎に立ち向かった。
***
ハッグが、マルガレーテに向かって足を一歩踏み出した。マルガレーテの額に、じわりと汗が浮かぶ。
(どうしよう……どっちが正しい……?)
マルガレーテは迷っていた。この武器があれば、マルガレーテの身だけは守れるだろう。しかし、一度剣を抜いてしまえば、団員たちはアミーの炎の餌食になる。
また一歩、ハッグが近づく。
「迷っていますわね。私のかけた呪いのせいで……」
ハッグに図星を突かれた。確かに、この呪いさえなければ、マルガレーテは命を投げ出しても団員たちを守るだろう。しかしマルガレーテには、どうしても自分の命をかけられない理由がある。
「あなたたちは、どちらか片方が死ねば、もう一方もその後を追ってしまいますものね」
ハッグがまた一歩、足を踏み出した。
そう。ハンスとマルガレーテにかけられた呪いは、一蓮托生の呪い。片方が死ねば、呪いが発動し、もう片方も命を落としてしまうのだ。
マルガレーテの命は、マルガレーテだけのものではない。最愛の兄と、その運命を共有している。
剣の切っ先が届く距離まで、ハッグが近づいてきた。今、剣を抜けば、確実に勝てるだろう。マルガレーテはまだ迷っている。仲間か、兄か、どちらを取るべきか……
もう、ハッグは目と鼻の先にいた。
(すまない……兄さん……)
マルガレーテが覚悟とともに目を閉じた時……
「食らいつけ!」
仲間の声がした。目を開けると、巨大な豆の花が、ハッグを飲み込もうとしている。
「小癪な……」
ハッグを飲み込んでいた花は、すぐに周りの炎によって燃え尽きた。しかし、その一瞬の隙に、2人の間に1人の男が割って入る。
「ジャック……どうして……」
「そら惚れた女のためやったら……たとえ火の中、水の中、風呂の中やで?」
いつもは鬱陶しいその笑顔に、この時ばかりは救われた。マルガレーテは、涙を浮かべながら言う……
「最後のだけは、やったらコロス」