複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

あなたに出会う物語
日時: 2017/09/16 12:43
名前: ももた (ID: b9FZOMBf)

小さな手……小さな温もり……
あなたはもう一度、私に会いに来てくれたのね。
あなたに最初の贈り物をあげましょう。
あなたの名は……

***

こんにちは、気まぐれなももたです。初心者で、更新は不規則ですが、頑張って書いていきます!

〈注意〉
本作は多少のグロ表現、下ネタ等を含みます。嫌な予感がした方は、ブラウザバック!

〈目次〉
Chapter1……>>1-5

Chapter2……>>6-11

Chapter3……>>12-25

Chapter4……>>26-32

Chapter5……>>33-39

Chapter6……>>40-45

Chapter7……>>46-54

Chapter8……>>55-


〈主要登場人物〉
以下、ネタバレを含むことがあります。本編を読んでからの閲覧を推奨します。プロフィールはストーリーの進行に合わせて更新します。

スノウ・ヴァイス(18)
ベース:白雪姫
呪い:???
反動:氷を操る
雪のように白い肌、黒檀のような黒く長い髪、血のように赤い唇の美しい少女。赤ん坊の頃から孤児院で育ち、周りからは優しく礼儀正しいと評判。

フレッグ・ポンド(18)
ベース:カエルの王様
呪い:満月の夜にカエルの姿になる
反動:身体能力が高い
短いブロンドの、麗しい青年。しかしある理由から、強いコンプレックスを抱いている。少し卑屈な面もあるが、勇敢な性格。ハンスから『ケロちゃん』と呼ばれるのを嫌がっている。

ハンス・クーヘン(28)
ベース:ヘンゼル
呪い:兄妹のどちらかが死ねば、もう片方も道連れに死ぬ
反動:悪魔を払う武器を操る
赤い巻き毛で、長身の美しい青年。革命軍のリーダーを務めている。陽気でいたずら好きな性格。

マルガレーテ・クーヘン(28)
ベース:グレーテル
呪い:兄妹のどちらかが死ねば、もう片方も道連れに死ぬ
反動:悪魔を払う武器を操る
ハンスの双子の妹で、容姿が兄によく似ている。ハンスの右腕となって、常に彼を支えている。兄よりも男前な性格で、面倒見が良い。愛称は『メグ』

ローザ・フォン・ルーク(14)
ベース:いばら姫
呪い:悪夢しか見ることができない
反動:人の悪夢を盗ることができる
白銀色の髪に、赤い瞳が特徴的な美少女。身体があまり丈夫でない。穏やかで物静かな性格。実はとても寂しがり。

ジャクソン・ビーン(26)
ベース:ジャックと豆の木
呪い:豆の木に身体を寄生される
反動:身体を植物のように扱える
癖っ毛の黒髪で、あごひげを生やしており、右目に眼帯をつけている。女好きな性格で、マルガレーテに会うたびに口説いている。また、フレッグのことをいつも気にかけており、弟のように思っている。愛称はジャック。

アーサー・アルビオン(5)
スノウとともに、孤児院で育った子供。やんちゃ盛りで、遊ぶことと食べることが好き。人懐っこく、今や革命軍のマスコット。

イザーク・ゲルハルト(24)
ベース:死神の名付け親(落語『死神』の元ネタ)
呪い:???
反動:病気や怪我を、瞬時に治す
メガネの青年。誰にでも敬語で話し、大人しそうな印象がある。スノウの過去を知る人物で、過去には能力を活かして父の病院を手伝っていた。

エラ(18)
呪い:誰かを憎まずには生きていけない
反動:炎を操る。
リリスの娘で、スノウの双子の姉。見た目はスノウとそっくりだが、エラの方がボーイッシュ。リリスに育てられ、パンドラやスノウを憎むようになってしまった。

リリス(42)
国を治めるている。白雪姫の魔女の生まれ変わり。スノウとエラの母。額の石は血玉髄。

ブライア(32)
若作りとイタい服装が趣味。いばら姫の魔女の生まれ変わり。人を操る力を持つ。額の石は石榴。

ハッグ(34)
肥満体でお菓子好き。砂糖でできた悪魔を呼び出す力を持つ。ヘンゼルとグレーテルの魔女の生まれ変わり。額の石は琥珀石。

エビルダ(39)
派手な化粧の、妖艶な女性。フレッグに好意を寄せているらしい。人を動物の姿に変える力を持つ。カエルの王様の魔女の生まれ変わり。額の石は橄欖石。

リーパー(??)
見た目は20歳前後だが、実年齢は80を超えている。死神の名付け親の生まれ変わり。黒いローブと、胸のカンテラが特徴。額の石は紫水晶。

ティタン(51)
荘厳ないでたちの巨漢。鎧を着ている。額の石は瑠璃石。

パンドラ
1000年の間、国を治めていた正義の魔女。18年前に殺害された。現在は棺に閉じ込められ、転生の時を待っている。額の石は月長石。

Re: あなたに出会う物語 ( No.9 )
日時: 2017/08/29 15:09
名前: ももた (ID: jFPmKbnp)

裏口から侵入し、2人は歩みを進める。時折敵の足音は聞こえるが、フレッグがそれを聞き分けているため、一度も鉢合わせることはなかった。

やがてフレッグは、足を止める。横通路の壁の陰から伺うと、そこには大きな鉄扉があり、銃を構えた兵士が2人、警備をしていた。

「手筈通りに頼む」

フレッグが小声で言うと、スノウは力強く頷いた。そして、フレッグよりも先に横通路から飛び出す。

「何者だ!?」

すぐにその姿に気がついた兵士達が銃を構える。スノウはひるむ様子も見せず、そのまま2人に接近する。

「来るな!撃つぞ!!」

言うや否や、兵士達はスノウに向かって銃弾を連射する。しかし……

「な……なんだ?」

すぐにその超常性を目の当たりにする。銃弾は魔法にかけられたように、スノウの足元に落ちていくのだ。どれも彼女に当たる寸前で、氷漬けになっている。

「馬鹿め……」

そして次の瞬間には、フレッグの蹴りによって、それぞれ反対方向に突き飛ばされていた。勢いよく頭を打ち、失神しているようである。

大きな音を立てたせいか、たくさんの人の足音と話し声が近づいてきている。

「急げ!あとはこの奥の武器庫を爆破して任務完了だ」

フレッグはそう言って、セキュリティキーを力尽くで叩きこわす。システムが制御を失い、扉が開いた。

「スノウ!早く火薬を……っ!」



***



件の施設から火の手が上がっている。ここまでのところ、どうやら作戦は順調らしい。

「うまくやっているようだな……」

マルガレーテは炎から逃れる人々とは反対方向に、人混みをかき分けて進む。ジャクソンに会った後すぐに、ハンスから連絡があった。念のため、2人に合流して欲しいと。

ふと、通信機にスノウから入電があったことに気がつく。すぐに小型マイクのスイッチを入れる。

「どうした?スノウ」

「あ、マルガレーテさん!爆破には成功したんですが、武器庫に悪魔がいたんです!」

マルガレーテの顔色が変わる。

(兄さんはまさか、これを見越して私を……?)

「……その悪魔、何か特徴は無かったか?」

「見た目は人間です。特徴……そういえば、大きな蛇を従えていました!」

マルガレーテは自分のデータベースと照らし合わせた。そしてすぐに、敵の正体を割り出す。

「分かった。そいつはアンドロマリウスだ。ヤツは追跡に秀でている。できるだけ一ヶ所に留まらず、逃げ続けるんだ」

「追跡!?」

スノウの声が、キンと頭に響く。マイク越しにも、スノウの慌て方が異常なことに気がついた。

「どうした?」

「それが……さっきからフレッグさんの様子がおかしくて、移動出来ないんです……」

「!?」

マルガレーテは立ち止まり、腕時計の日付を確認する。空はすでに暗くなっている。

(そうか、フレッグは今……)

マルガレーテは端末を取り出し、スノウとフレッグの現在地を確認する。

「分かった。すぐに合流する。スノウは、フレッグの側に居てやってくれ」

「分かりました!」

通信を切ると、マルガレーテは人混みを全速力で駆け抜けた。ふと脳裏に、初めてフレッグに会った時の彼の言葉がよぎる。

『俺はきっと、誰からも愛されない』

Re: あなたに出会う物語 ( No.10 )
日時: 2017/08/29 15:12
名前: ももた (ID: jFPmKbnp)

2人は路地裏に逃げ込んでいた。マルガレーテとの通信を切り、スノウは振り向く。そこには、息を荒げてうずくまるフレッグの姿があった。

「フレッグさん!」

スノウは慌てて彼に駆け寄る。彼に手を貸そうとすると、フレッグはそれを拒み、振りほどく。

「近寄るな!!」

いつも以上に強い言葉に、スノウは戸惑う。そしてフレッグの言葉通り、彼から少し離れて見張りをすることにした。

(ハンスさんの言っていた『あの日』と何か関係があるのかしら?)

スノウは思考を巡らせる。フレッグが女である可能性は皆無だろう。では、なにが原因なのか。

(そう言えば、今日は満月だったわね……)

そんなことを考えながらスノウは空を見る。漆黒に浮かぶ銀の月。そして、それを覆う……

「スノウ!!」

黒い影……

スノウは突然のことに動揺を隠せなかった。上から奇襲をかけて来たのは、先ほどの悪魔が従えていた大蛇だった。その毒牙にかかるや否やという瞬間に、スノウの身体はふわりと浮き、その攻撃をかわした。

「フレッグさん……?」

スノウを支えるその力強い腕は、フレッグの腕と同じ温もりを感じた。しかし、違うのだ。彼の顔が。

「……醜いだろう?」

月明かりに照らされた彼の顔は、大蝦蟇のそれだった。元の美しい顔とは、似ても似つかない。その横顔は怯えたような、それでいて悲しそうな目をしていた。
大蛇は大きな牙から唾液を滴らせ、こちらににじり寄る。

「凍てつけ!」

スノウは大蛇に向かって手を伸ばす。彼女の指先から、白い閃光が放たれた。それは大蛇にあたると、大蛇を氷の中に閉じ込めた。

「ふっ!!」

すぐさまフレッグが蹴りを繰り出す。木っ端微塵に砕けた氷の残骸には、フェニックスのような白い粉は残っていない。

「……やっぱり、元凶を絶たないと……」

考え込むスノウの横で、フレッグはくるりとこちらに背を向けた。

「フレッグさん?」

「見ないでくれ!」

フレッグは先ほどと同じく、強く言い放つ。そして、両手で顔を覆った。

「俺は……カエルの王様の生まれ変わりなんだ……魔女にかけられたこの呪いのせいで、俺は満月になるとカエルの姿になってしまう……」

いつの間にか、フレッグの肩は震えていた。

「この醜い姿のせいで俺は……母親にも愛されなかった……」

それは弱い子供が大人にすがりつくような、スノウに初めて見せる、フレッグの弱音だった。

「フレッグさん……私は……」

スノウが何か言いかけたとき……

シュッ

突然、空を切る音がした。刹那、スノウの肩に激痛が走る。

「スノウ!!」

鉄の匂いに気がつきフレッグが振り返ると、スノウが右肩を抑えて膝をついていた。

スノウの背後には、先ほど施設で遭遇した悪魔が、剣を構えて立っている。悪魔は、激痛で動けないスノウにトドメを刺そうと、剣を振り上げている。

「やめろぉぉぉお!!」

それを阻もうと、フレッグはスノウを庇う。敵の目の前に立ちはだかり、キツく目を閉じた。

その一瞬は、とても長く感じた。しかし、予想された痛みは襲ってこない。フレッグが恐る恐る目を開けると……

「任務完了だ、フレッグ」

塵となっていく敵の姿と、月光に照らされたマルガレーテの優しい笑顔があった。

Re: あなたに出会う物語 ( No.11 )
日時: 2017/08/29 15:16
名前: ももた (ID: jFPmKbnp)

「この顔じゃ、金にならねえな」

男はそう言って、少年を母親の方へ押し返す。身の丈から察するに、彼は10に満たないだろう。少年は、蝦蟇のような顔を覆い、乱れた服を引っ張り、羞恥に耐えていた。

「待っとくれ。こんな顔になるのは月に一度なのさ」

「少しでもこの顔を客に見られちまったら、コイツは終いだ。いくら、元の顔がべっぴんでもなぁ……」

男は下品な笑みを浮かべた。少年は身の毛のよだつその笑みに、震えが止まらなかった。

結局、男が少年を買い取ることはなく、諦めた母親は少年の顔を踏みつけた。

「なんだい!一銭にもなりゃしない!アンタなんか産むんじゃなかったよ!!」

痛みを堪えながら、少年は消え入りような声で繰り返す。

「ごめんなさい……ごめんなさい、お母さん……」

ああ、このまま自分は死ぬのだろうか。少年が、そんなことを考えたとき……

ジャラッ

少年と母親の前に、麻袋が放られる。

「金貨15枚や。そいつを俺に売ってくれ」

そう言ったのは、顔の右半分が包帯に覆われた少年だ。年は10代半ばで、身なりからかたぎでないことが推察される。その大金も、どこから手に入れたのか。

「へへ、良かったね、フレッグ。こんなに優しい人に買ってもらえて……」

大金に目が眩んだ女は、麻袋を引っ掴むと、走り去っていった。後に残されたフレッグという少年は、自分の肩を抱きしめながら、顔を上げずに震えている。

「気に入らない目やな……」

少年の言葉にフレッグは、びくりと体を震わせた。

「ご……ごめんなさい……ぼくの顔……醜くて……」

「ちゃうわ」

少年はフレッグの襟元を引っ掴むと、フレッグの目を同じ高さに合わせる。

「あんなクズ女に怯えてる、お前の目が気に入らんのや!!」

少年はそう言って、空いている手で顔を覆っていた包帯をほどく。現れた彼の素顔に、フレッグは息を飲んだ。

「俺の顔も醜いか?」

少年の右目には眼球はなく、代わりに白い花が咲いていた。フレッグは、涙を浮かべながら首を横に振る。醜いどころか、その花は美しく感じた。

少年はすっとフレッグを放す。

「いい目や」

「え?」

「光の宿った目は美しい。お前は醜くなんかないで」

美しい……今までに、その言葉ほど彼を励ましたものはなかった。気がついた時には、声をあげて泣いていた。

「俺はジャックや。お前に、生き方を教えたる」



***



白い天井が見える。そして、側には心配そうにこちらを覗き込む顔があった。

「アー……サー……?」

スノウが手を伸ばすと、アーサーはその手を取って泣きじゃくった。

「良かっ……た……ひっく……スノウ……」

アーサーを抱きしめようとして体を起こそうとすると、右肩に鋭い痛みを感じた。

「起き上がらない方がいいよ」

そう言葉を掛けたのはハンスだった。後ろにはいつものように、フレッグが控えている。

「初任務ご苦労様。多少のトラブルはあったけど、上手くいったね」

ハンスは労いの言葉とともに微笑む。しかしいつもと違って、どことなく影の感じられる微笑だった。

「ありがとうございます。でも、今回の成功は、フレッグさんのサポートがあったからこそです。私は何も……」

言葉の途中で、ハンスはスノウの口に人差し指を当てた。そして、アーサーの手を引く。

「アーサーくん、マルガレーテがクッキーを焼いてくれるんだって。俺と一緒に、お茶しようか?」

クッキーという言葉に吊られて、アーサーはハンスの後をピョコピョコ付いていく。部屋にはスノウとフレッグが残された。

「……俺の至らなさで、お前にこんな怪我を負わせた……すまない……」

フレッグは、謝罪の言葉を述べ、頭を下げた。

「やめて!この怪我は、私が戦いに慣れてないせいだし、あなたが謝る必要はないわ」

スノウはあわててフレッグの顔を上げさせた。それでもフレッグは、浮かない顔をしている。

「ねぇ、フレッグさん。私、魔女を倒したいっていったけど、この怪我で、もっと強くならなければいけないと思ったの。この怪我が治ったら、戦い方を教えてくれない?」

フレッグは思いを巡らせる。確かこんなことが、昔にもあったような……

「安いことだ。だが、今は怪我を治すのに専念しろよ?」

フレッグの言葉に、スノウは顔を輝かせる。

「はい!」

それは、陽だまりのような笑顔だった。うっかり見惚れてしまったフレッグは、あわてて背中を向ける。

「じ……じゃ、お大事に……」

そのままドアノブに手をかけようとして、フレッグはふと思い出したように振り返る。

「そうだ……スノウ、お前、アンドロマリウスに切りつけられる前、なんて言おうとしたんだ?」

「あ、あの時?」

スノウは少し考えて、すぐに思い出した。

「あの時、『私のことを守ってくれるフレッグさんは、かっこいいと思う』って言おうとしたのよ」

バタンッ

フレッグはすぐに扉を閉めると、廊下でしゃがみ込んだ。顔が熱くなっているのがよく分かった。そしてどこかから、ハンスの口笛が聞こえたような気がした。

Re: あなたに出会う物語 ( No.12 )
日時: 2017/08/29 15:07
名前: ももた (ID: jFPmKbnp)

〈Chapter3〉
「あーん、もう!ムカつくなぁ!!」

女は金色の長い髪を掻きむしった。不思議なことに、女の白いひたいには、石榴のような石が埋まっている。30前後と思われるが、内面はまるで子供である。ゴシックロリータに身を包み、いつまでも若く見せようという魂胆がうかがえる。

「まぁ、ブライアったら。そんなに怒ってばかりいると、シワが増えますわよ」

大柄な女が口を開いた。そしてすぐに、目の前に並べられたお菓子を、次々と口に放り込んでいく。この女もひたいには、琥珀のような石が埋まっている。年は同じく30前後であろうが、ブライアという女に比べると、この女は二回りほどふくよかだった。

「ハッグは、それだけ皮が張っていたら、シワの心配とは無縁だよね。だいたい、今回はあんたの悪魔が使えないせいで、武器庫が守れなかったんじゃん!」

皮肉交じりの言い方に、ハッグと呼ばれた女は菓子を食べる手を止めた。

「なんですって?」

「あんたのせいで、こっちは大事な戦力を削がれたって言ってんの。この豚魔女!!」

2人は同時に懐から杖を取り出す。そして、互いに向けようとした時……

「おやめなさい」

鈴のような声が響いた。彼女たちが声のした方を向くと、そこにはこの世のものと思えぬ美少女が立っていた。長い黒髪を後ろに束ね、白いシャツに黒いパンツの、凛々しい少女だ。

「お2人とも、お母様がお呼びですよ」

女性が告げると、2人は杖をしまった。

「ごめんなさい、プリンセス・エラ」

「ご足労をおかけしましたわ」

そして、彼女に一礼して退席しようとする。後に残された少女・エラは、そんな2人を見送る。

「良きに計らいなさい。全ては……魔女パンドラの娘を……スノウを殺すため……」



***



「りす!」

「……スリジャヤワルダナプラコッテ」

「て……て……テント!」

「……トリスタンダクーニャ」

「ちょっと、ローザ!5歳相手に本気出し過ぎ!」

ハンスでも耳慣れない単語が出てきたので、慌てて止めに入った。最初はローザがアーサーと遊んでくれているのだと思い見守っていたが、途中からしりとりがローザの知識自慢になっていた。アーサーは悔しそうに涙を浮かべ、ハンスの服の裾を掴んでいる。

「アーサーくん、向こうで俺とつみきしよっか?」

ハンスが提案すると、アーサーはパッと顔を輝かせて付いて行った。そんな2人の背中を、ローザは寂しそうに見つめている。

「ごめんね、ローザちゃん。せっかく遊んでくれていたのに……」

スノウは申し訳なさそうに謝った。そして、淹れてきたミルクティーをそっとローザに差し出した。

「いいの……ハンスはいつも……私のそばにいてくれるから……」

ローザの言葉に、スノウは目を丸くする。ローザは表情一つ変えずにティーカップを受け取る。

「怖い夢……見るといつも、ハンスが手を繋いでいてくれるの……」

「ローザちゃんはハンスさんが好きなの?」

スノウは自分の分のティーカップを手に取りながら言った。スノウの問いかけに、ローザは首を縦に振った。

「当たり前だよ……だって……お父さんだもの……」

まさかの返事に、スノウの手からティーカップが滑り落ちた。

Re: あなたに出会う物語 ( No.13 )
日時: 2017/08/29 15:19
名前: ももた (ID: jFPmKbnp)

スノウが廊下を歩いていると、先方から話し声が聞こえる。

「なぁなぁ、せやからスパゲティバイキング行こう?」

「兄さんを通してくれ」

「ここ、カップルで行ったら、割引やねん」

「兄さんを通してくれ」

マルガレーテと眼帯の男だ。しつこく誘われているマルガレーテは、疲れた表情をしていた。スノウの姿が目にとまるなり、マルガレーテはこちらに向き直る。

「スノウ、どうしたんだ?」

「いえ、アーサーの様子を見に行こうと思っていて……あの、メグさん。そちらの方は?」

普段は感情を顔に出さないマルガレーテだが、この時は心底鬱陶しそうな顔をしていた。

「……こいつはジャクソン・ビーン。ジャックと豆の木の主人公の生まれ変わりだ。ジャック、こちらはスノウ・ヴァイス……」

「お〜お〜、噂の白雪姫か!めっちゃかわええやん!なんや、フレッグには勿体無いな〜」

気圧されたスノウの顔にも、苦笑が広がる。

「お……お知り合いなんですか?」

かろうじて声を絞り出した。

「知り合いも何も、アイツはこの俺が育てたってん!アンタのことも、よう聞いてんで!」

ジャクソンは、スノウの手を取りブンブン振り回す。スノウが肩の痛みを感じたころ、ようやく解放された。そして周りを見渡すと、いつの間にかマルガレーテの姿が消えていた。

「オーマイハニー!!どこ行ったんや!?」

「ハニーって……お二人は恋人なんですか?」

「今はまだな。でも、いつか振り向かせたんねん!」

なんという図太……辛抱強さだろう。フレッグを育てたという割には、性格が明るすぎるとスノウは感じた。

「フレッグさんとは対照的ですね……」

「確かにせやな。まあ、メンクイは似てしもたみたいやけど……?」

ジャクソンは舐め回すようにスノウを見る。当のスノウは、きょとんと首を傾げていた。

「こら、前途多難やで……」

「なにがです?」

「なんでもあらへん!そういや、スノウちゃんはフレッグに戦闘術を習ってるらしいな?アイツのこと、もっと知りとない?」

不憫に思ったジャクソンは、スノウの興味を少しでも引きつけてやろうとヤキになっている。

「は……はい……」

「せやろ!せやろ!!ほな、俺にちょっと付いてきな!」

半強制的な気はするが、スノウは大人しく、ジャクソンに手を引かれて行った。

***

「お!おった、おった」

案外すぐにフレッグは見つかった。先ほどから廊下で行ったりきたりを繰り返し、なにやらブツブツと唱えている。

「やっぱり『おはよう』と話しかけるべきか?でも、もう昼だしな……かといって『こんにちは』はちょっと堅苦しいんだよな……にしてもこの雑誌、こういう時の対処法書いてねぇじゃねえか。なにが『異性への話し方全書』だ」

「悪い、流石にそこまでこじらせてると引くわ」

「うわぁぁぁあ!?ジャック!お前、いつからそこに……ってスノウ!?」

突然声をかけられたことに驚き、そして必死に話しかけようとしていた少女が背後にいたことにさらに驚き、フレッグほその場にひっくり返った。

「『もう昼だしな』の辺りやな。さっきからせわしねえな、このDTは」

「うるせえわ!あと、女の前で……モゴモゴ……とか、言うな!!」

「あの……D.T.さんって誰なの?」

「ド○ルド・トランプさんだ!!!」

ひとしきり叫んだあと、フレッグは肩で息をしていた。横でジャクソンは涼しい顔をしている。

「ぷっ……あははっ」

こんなに振り回されているフレッグを見て、スノウは思わず吹き出してしまった。

「ス……スノウ?」

「ごめんなさい。でも、いつも真面目なフレッグさんが、こんな風になるんだって思って……ジャクソンさんは育てたって言ってたけど、本当の兄弟みたい……」

意外な言葉に、フレッグとジャクソンは互いをちらりと見やる。しかし照れ臭くなって、すぐに目線をそらした。

「まあ、メグとハンスやったって……」

「いや、あれは本当に兄妹だ」

そう言えば、とスノウは先ほどのローザの言葉を思い出す。

「さっき聞いたんだけど、ローザちゃんとハンスさんは実の親子なの?」

すると、フレッグは首を振った。

「ローザは幼い時に親を亡くしていて、ハンスがそれを引き取ったって聞いてるな。俺もその時はまだ10歳で、入軍したてだったから、詳しくは知らないが……」

「ローザちゃんって、そんなに昔から革命軍にいるの!?」

スノウは驚きの声を上げる。

「そらそうや。なんたってローザの母親は、前革命軍リーダーやからな」


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。