複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

もちもちつよつよ旅日記
日時: 2024/04/10 16:15
名前: sumo (ID: 2cE7k4GX)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13631

夏に銅賞、冬に銀賞頂きました!
投票ありがとうございます!!

*誤字、脱字など読みづらい箇所多々あります、許してください。
*ダークな内容混じっているのでご注意ください。

***
もっちもちなスライムと低身長のつよつよ少女。
未熟な一人と一匹の、世界でひとつの旅日記。

出会いと別れの物語。
<<登場人物>>         
*少女
年齢不明だが、背がちいさい。自分の本名、親、故郷を全く知らない。
それらを知ることが、旅の目的である。

*スライム
弾力のあるすらいむ。もちもちした触感。
***
[旅日記 目次]
episode 1 >>1
episode 2 >>2
episode 3 >>3
episode 4 >>4
episode 5 >>5
episode 6 >>6
episode 7 >>7
episode 8 >>8
episode 9 >>9
episode10 >>10
episode11 >>11
episode12 >>12
episode13 >>13
episode14 >>14
episode15 >>15
episode16 >>16
episode17 >>17
episode18 >>18
episode19 >>19
episode20 >>20
episode21 >>21
episode22 >>22
episode23 >>23
episode24 >>24
episode25 >>25
episode26 >>26
episode27 >>27
episode28 >>28
episode29 >>29  
episode30 >>30
episode31 >>31
episode32 >>32
episode33 >>33
episode34 >>34
episode35 >>35
episode36 >>36 
episode37 >>37
episode38 >>38
episode39 >>39
episode40 >>40
episode41 >>41..NEW

Re: もちもちつよつよ旅日記 ( No.26 )
日時: 2023/07/07 22:52
名前: sumo (ID: 2cE7k4GX)

episode 26

ようやく朝日が顔を出し始めた頃、少女とスライムは町外れのバス停に着いた。

そこは大都市とは思えないくらい殺風景で、人が住む町からはかなり離れていた。
バス停の周りには、少女とスライム以外、誰も居なかった。

「ねえ。」
少女がスライムに話しかけた。
さっきまでの苛立った様子はどこかへ去って、細い声がすぅっとボクまで届いた。

「わたしたち、これからどうなるんだと思う」

後ろ姿を見せて、振り返らずにぽつりと呟いた。
そよ風にすっかり伸びきった髪がなびき、さらさらと揺れた。

ボクはいきなり聞かれて、何も言えなかった。
ボクらのこれから。
今まで考えたこともなかった。


だからその問いにスライムは、すぐに答えられなかった。

「今までさ、私たち旅してきたけど。本当に答えなんか見つかるのかな?」

「それは、きっと..だいじょうぶ..」
スライムが小さな声で、それでも少女に届くように、精一杯励まそうとしたが、少女は食い気味で次の言葉を放った。
「それって、」

「それってさ、ほんとに思ってる?結構長い間探してるのに、私の親も、名前だって分からないままなのに、」
少女はやはり背中を向けたまま、朝焼けを見ながらスライムに言う。

「で、でも」

「でも、何?」

「で、でも..」
少女の今までにないくらいの鋭い言葉に、スライムはひるんでしまい、口をつぐんだ。
もぞもぞしている間に、少女が嘆いた。
「ほんとにあるのかな。」

「は」

「私の名前。付けてもらえてないんじゃないかな。普通さ、子供が行方不明になったら。居なくなったら、みんな、一生懸命さがすよね。こんな大都市に来ても、張り紙ひとつないんだよ。だったらさ。こう思うしかないじゃん。」
「...私の、お母さんとお父さん、居ないんじゃないかなって。」

「じゃあ、わたしはなんなんだろうね」少女は鼻声で言った。
悔しそうに。苦しそうに。うつむいた。

「....。」
スライムはただ地面を見つめて黙っているしかできなかった。

少女の様子が最近おかしかったのは、自分の親が見つからないことが苦しいから?
親に愛情を注いでもらうことができないこの日々が、寂しいから?
自分の名前すらも分からないことに絶望を感じたから?

だからって、少女に親が居ないなんて、名前がないなんて、

「そんなわけ、な..」

ない、よと言い切る前に少女は振り返った。
このとき、ボクは初めて少女の表情を知った。
顔は涙でぐしゃぐしゃで、必死に堪えている顔だった。


「ない、って、言える?」少女はボクの目をじっと見て、
そして目線を合わせるようにしゃがみこんでいった。

「そ、れは」ボクは慌てた。
少女の推測が、100パーセントありえないなんて、そんなことは、言えないかも..しれない..。

「最近いっつもそうだよ。根拠もなく励ますのやめて。もう嫌だ。本当はなんとも思ってないんでしょう?ねぇ。」

「で、でも..」
こ、怖いけど。何か言わなくちゃ。

「でも、何なの?」
少女ははぁ、とため息をつきながらボクに聞いた。

「でも、根拠がないとしてもボクは信じる!君の名前も、おとうさんもおかあさんも、ボクがきっと、見つけるから!」
ボクは精一杯叫ぶようにして、気持ちを伝えた。
「...。」
少女は目を見開いた。頬は涙で濡れ、朝日の光が反射して煌めいている。
少女は口を開いた。

「は?」
それが、少女の口から出た言葉だった。

「だから、それ、やめろって言ってるんじゃん。信じるから何?きっと見つけるって、ふざけてんの?」
ボクを見下すようにして言った少女の目は、とても、冷たかった。
「ぇ..ぇ..」

"私さぁ、正しいこといってるんだから、おどおどしないでくれる。自分が言ったことに責任持ってよ。"
"それにさ、今まで見つかんなかったんだよ?でも、でもって。結局何が言いたいの?"
"てかさっきから、お前の言う言葉、ぜんっぜんフォローになってないよ?"

ずらずらと少女は吐き出していく。
お前、なんて。
言われたことなかったのに。

ボクはぽろぽろと涙が溢れた。

バスがやっと来た。
バス停の真横で、プシュー、と煙を出して止まった。



少女はついに立ち上がって
「じゃ、ばいばい。さよなら。いままでありがとね」
バスに飛び乗った。


「ま、まって!」
ボクを、置いていかないで。

ボクはバスの段差さえも越えられない。
だから。一人で、バスには、乗れない。
いつも少女の肩に乗って、乗車していた。

ボクの小さな体でどんなにぴょこぴょこ跳ねても、届かない。
(こ、このままじゃ...)

そして、バスの扉は、ゆっくりと、閉まった。

「まって、」
バスが走り出した。どんどんバスの姿は遠ざかり、見えなくなってしまった。
ボクは精一杯跳ねて追いかけた。今までにないくらいの長距離を走った。


でも、全く 
届かなかった。

「そんな..」
バスは、遠いどこかへ走り去ってしまった。

Re: もちもちつよつよ旅日記 ( No.27 )
日時: 2023/08/06 20:45
名前: sumo (ID: 2cE7k4GX)

episode 27

チュン、チュン....鳥の鳴き声が聞こえる。

あれ、ボクは..。どうなったんだっけ。
ああ、何も見えない。
真っ白の世界。

ボクはそこで、昔の夢を見た。
それは、少女と出会った、あの日の夢だった。

Re: もちもちつよつよ旅日記 ( No.28 )
日時: 2023/10/09 08:19
名前: sumo (ID: 2cE7k4GX)

episode 28

僕はむかしっから、弱虫だった。
"にんげん"という種族が支配する"ちきゅう"という世界で、気づけば僕は、生きていた。

"ちきゅう"は自然豊かで、空気も美味しくて、悪くない生活だった。
が、"にんげん"は僕を嫌った。

僕は"まもの"で、人間を襲う種族らしい。
だから"にんげん"は怖がって僕をやっつけようと、僕を追いかけ回したり、殴ってきたりした。
実際に、僕は弱いし、人を襲ったりなんかできっこなかったんだけど。

体が小さいので、背の高い大人には踏み潰されるし、
堂々と町中を歩けば、すれちがう人達は皆、まるで化け物を見るような、おぞましい目で僕を見た。

でも、僕のとなりにはずっと、あの、優しい少女が居た。
少女は僕を、拒まなかった。

出会ったのは、4年くらい前のこと。
草原で泣いていると、誰かに聞かれた。
「何で泣いてるの」
「..ひとりぼっちで、かなしいの。」
「へぇ、私と同じだね。運命かなぁ」そう言って、少女は、くすりと笑った。

それからボクは、少女と共に日々を過ごした。
「わたし、ずっとひとりだったけど、あなたが居れば二人になるから、寂しくないね」
そう言って微笑む少女は、花のように可愛らしかった。

"まもの"を連れて歩く少女は周りの"にんげん"から変な目で見られるときもあったが、
「 ともだちだよっ」
よく少女は僕に言ってくれた。

"ともだち"とは悲しいときも、嬉しいときも、一緒に居て、楽しいもの、といつか少女は教えてくれた。
僕は、僕を必要としてくれてる、認めてくれてる、と心から跳ね上がった。



なのに、そんな大切な、世界で、宇宙で一人の"ともだち"を僕は、失ってしまった。
僕が無力で無知なせいで、少女を痛めつけてしまった。

「ごめんなさい...」
僕のせいなんだ。

見放されるのは当然なんだ。

今まで1ミリも分かってなかった。
君のその深い愛想笑いの意味も、ずっと君が思い悩んでいたことも。

今までずっと、苦しい思いをさせてた。


僕なんか居ない方が楽になるのかもしれない。



でも。


それでも、


僕は君に会いたい。
だから神様、もう一度だけ、チャンスをください。



今度こそ君が、
君が、愛想笑いなんかしなくていいように。
我慢しないで泣いて、笑えるように。
幸せを、掴めるように。


(強くならなくちゃ!)

___僕の意識は、そこで

途絶えた。

Re: もちもちつよつよ旅日記 ( No.29 )
日時: 2024/01/03 22:23
名前: sumo (ID: 8kWkLzD1)

episode 29
「ん...」


「よぅ、起きたか。よかった~」
その声は聞きなれたものだった。


「マキコさん!?」
周りを見渡すと、見慣れた光景が広がった。
さっき出ていったはずの、パン屋に、僕はまた戻ってきてしまった。
「おーよかったよかった。すぐそこの駅の近くまでいったらアルバイトが道端で倒れてるもんだから、びっくりしたよ。」
「あ...」
僕はあのあと力尽きて倒れたのか...すぐそこで。

僕が頑張って走った道のりはたいした距離じゃなかったみたい。
正直恥ずかしいや。

「それで..何があったのか..教えてくれるか?」
マキコさんは真剣な顔で、そして少しすまなさそうにして、弱々しく聞いた。
「えと...。」

___僕は置いていかれたことについて、包み隠さず話した。
迷惑だと思ってこの店を出たことも。

「...あの娘は幼いながらに色々抱えてるんだな」
僕の話が終わったあと、すまなかった、とマキコさんは頭を下げた。
「マキコさんは謝る必要ないよ。悪いのは僕だから。僕が...弱いから...。」
マキコさんは困った顔を浮かべて黙った。
たぶん、僕が暗い顔をしているからだ。

僕は、マキコさんに心配をかけてしまわないようにと、にっこり微笑んだけど、
涙がすぅっと頬を流れて、ふと、思った。
__僕がもっともっと、強かったら。
(きっとこんなことにはならなかったはずなのに、、)

うつ向いている僕を見て、マキコさんはしばらく考え込んでしまった。
が、「ひとつ聞いていいか?」とマキコさんはしゃがんで、僕の目線に合わせてから、口を開いた。

「..今、あの娘のこと、嫌いか?」
「...ううん。大事な、ともだち」
僕が答えると、マキコさんの口角がふっと上がった。

「じゃあ、会って仲直りしよう」
マキコさんは立ち上がった。

「...うん!」
その頃にはすっかり気持ちが楽になって、
僕を取り囲んでいたモヤモヤが少し薄くなった気がした。


心に晴れ間が見えてようやく、僕はこの店にいたおばあさんのことを思い出した。
いつもこのお店の、入り口から見えるキッチンでパンを作っていたはずなんだけど、
見渡してもどこにも見当たらない。

「ねぇ。マキコさん、」
「んーなに?」


「おばあさんはどこに..」「聞かないでくれ。」
マキコさんは、僕の言葉に被せたので、最後まで聞けなかった。

マキコさんはにっこり笑ったあと、何もなかったように振る舞った。
言われた通りに僕も、二度とおばあさんの話はしなかった。

Re: もちもちつよつよ旅日記 ( No.30 )
日時: 2023/11/03 14:37
名前: sumo (ID: 2cE7k4GX)

episode 30
「マキコさん、僕は強くなりたい!」
僕は宣言した。

応援するよ、とマキコさんは微笑んだけど、
「ちょっと出掛けてくる」と言って外へ出てしまった。
散歩かなぁ。

僕も散歩すればマキコさんみたいに強くなれるかな!!
散歩に行こう!
ランニングをしてみよう!

「まずはうぉーみんぐあっぷだ!」
100回跳ねてみる。
「っはぁ、はぁ....」
後半はもうそんなに跳べず、100回終わると、
すぐぱたり、と地面に張り付いてしまった。
体力が無さすぎて虚しくなった。
(こんなんじゃ、ダメなのに...。)
「こんなでへこたれるな!」と自分を励ました。

そうだ。走らなくちゃ。
散歩に行くんだった!
パン屋から飛び出して、一向に速くならない速度を追い上げるように、
僕は何回も何回も町の中を走った。
僕が一人で走ると、町で買い物をする人々は、驚いた顔をしてこちらを見たり、
眉間にしわをよせたりする。
少女と一緒じゃないと、より一層目立つ。
僕は、嫌な、邪魔な、嫌われものの魔族のスライム。
(やっぱり僕は、なんにも、変わってないんだ)
虚しくて、悔しくて、僕は泣きながら走った。


パン屋に戻ってくる頃には、汗がびっしょりで、日が暮れていた。
扉から顔をつき出してマキコさんが待っていた。
もう散歩から帰ってきてたんだ。

「頑張ってるね」マキコさんが笑った。

「でも、、なにも、変わってない」
一日なんかじゃ変わらない、それは分かっているけど、僕はもう生まれてから何も、変わってないままだ。
「強く、ならなくちゃいけないのに...。なのに...」
僕はわんわん泣いた。マキコさんはおてふきで僕の顔を何度もぬぐってくれた。

「君は強いよ、今もずっと。」
マキコさんは笑って言ったけど、どういうことか分からなかった。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。