複雑・ファジー小説
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- もちもちつよつよ旅日記
- 日時: 2024/04/10 16:15
- 名前: sumo (ID: 2cE7k4GX)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13631
夏に銅賞、冬に銀賞頂きました!
投票ありがとうございます!!
*誤字、脱字など読みづらい箇所多々あります、許してください。
*ダークな内容混じっているのでご注意ください。
***
もっちもちなスライムと低身長のつよつよ少女。
未熟な一人と一匹の、世界でひとつの旅日記。
出会いと別れの物語。
<<登場人物>>
*少女
年齢不明だが、背がちいさい。自分の本名、親、故郷を全く知らない。
それらを知ることが、旅の目的である。
*スライム
弾力のあるすらいむ。もちもちした触感。
***
[旅日記 目次]
episode 1 >>1
episode 2 >>2
episode 3 >>3
episode 4 >>4
episode 5 >>5
episode 6 >>6
episode 7 >>7
episode 8 >>8
episode 9 >>9
episode10 >>10
episode11 >>11
episode12 >>12
episode13 >>13
episode14 >>14
episode15 >>15
episode16 >>16
episode17 >>17
episode18 >>18
episode19 >>19
episode20 >>20
episode21 >>21
episode22 >>22
episode23 >>23
episode24 >>24
episode25 >>25
episode26 >>26
episode27 >>27
episode28 >>28
episode29 >>29
episode30 >>30
episode31 >>31
episode32 >>32
episode33 >>33
episode34 >>34
episode35 >>35
episode36 >>36
episode37 >>37
episode38 >>38
episode39 >>39
episode40 >>40
episode41 >>41..NEW
- Re: もちもちつよつよ旅日記 ( No.1 )
- 日時: 2023/02/20 20:26
- 名前: sumo (ID: 2cE7k4GX)
episode 1
「うわぁぁぁぁ!!!!だ、だずげて~」
朝。
テントに日の光がほのかにさしこんできて、
ピヨピヨと小鳥のさえずりが響いた。
気持ちよく目を覚ますと、
小さい叫び声がテントの外から聞こえてきた。
..またかぁ。
我が親友、スライムが、今度は犬に噛みつかれている。
「まったく。おりゃ。」
わたしが犬から親友を引き離すと、親友は涙目になって言った。
「ボクは食べ物じゃないよー」
親友を掴んで、そのまま一緒にテントまで戻ると、
親友は「今日が命日になるところだった..。」と体をぷるぷるんとさせた。
「はいはい。ってか、まーた勝手にテント出たでしょっ!」
「ごめんなさーい」
朝食のパンとココアを頬張りながら、わたしは親友をにらんだ。
親友は反省する気を全く見せずに、鏡に映った自分の姿を見ていた。
「えーん..。歯形ついちゃったよっ」
「まあまあ、すぐ戻るからいいじゃん。」
わたしが慰めても、親友はしかめっ面で鏡とにらめっこを始めた。
「ぐぬ、あのいんぬめ!ボクの"びぼでぃ"に傷をつけるなんてっ。なんてきょーあくな!」
「びぼでぃw」
真剣に怒る親友の発言に軽くツボったが、
親友が傷ついているようなので、早速回復させてあげることにした。
ぶつぶつとわめく親友に、わたしが適量水を振りかけると、
親友は体をもっちぃと膨らませて、さっき犬に噛まれたときの歪みと傷を直した。
スライムにはいろんな属性があって、属性によっては回復できるものもいる。
親友は水属性らしいので、ちょっと水を吸えば大抵の事は治るらしい。
「よかったぁー。ボクのびぼでぃ!!」
体が元に戻ると、親友はすぐ気を良くして、
ぴょんこぴょんこ、と跳び跳ねた。
「..しかしあのいんぬは許さない..。この未練はぜったい、いつか晴らしてやるぞぉ..」
「頑張れー」
「まってろ、いんぬ!!」
やる気に満ち溢れて、わいわい言っている親友を応援しながら、
わたしは朝食を食べ終えた。
- Re: もちもちつよつよ旅日記 ( No.2 )
- 日時: 2023/02/24 15:49
- 名前: sumo (ID: 2cE7k4GX)
episode 2
「今日は買い出しにいくよー!」
わたしがテントをしまってリュックを背負うと、
親友は「いぇっさぁー!」と応えて、わたしの頭の上にぴょこっと飛び乗った。
二人でオリジナルの曲を歌いながら、
坂道を下っていると、すぐ近くに小屋が見えた。
寄ってみると、白いもこもこがたくさんいて、めえめえめえと鳴いている。
「めえめえだぁ」
羊はめえ、と鳴いてあちこち歩き回っている。
「もこもこでかわいいね」
わたしと親友が興味深く見ていると、小屋の中からわたしより背の高い少年が出てきた。
少年はぶっきらぼうに「なんか用。」
と目も合わさずにそう言って、少年はもこもこを触って世話をし始める。
わたしは慌てて、「..いえ、なにも..かわいいな、って思って見てただけ..。」と答えた。
「あっそ、かわいい?コイツらが?」
少年はそっけなく返事をしながらフンと鼻で笑った。
「アンタ、変わってんなぁ。コイツら、めえめえうるせえし、くせえのに。」
わたしはこの子達のことを悪く言う少年に腹が立ち、言い返した。
「..もこもこで、かわいいのに!!うるさいとか言われて、可哀想。」
そしたら少年は、あ?と顔をあげて、こちらをにらんだ。
「世話したこともねえのに、勝手なこと言うなよ。それに俺は好きでこんなうるせえやつらを飼ってる訳じゃねえんだ」
強く言われてわたしは怖くなって泣きそうになったが、
初見の自分達が何か口を出すのも変だと思って、これ以上何も言わずに、黙ってしまった。
親友が「なにか"理由"があるんじゃない?嫌でもちゃんとめえめえの世話してるんだから、根はきっと優しい人だよ」とフォローした。
その声を聞いた少年はちょっと顔をそむけて、頬を少し赤くした。
- Re: もちもちつよつよ旅日記 ( No.3 )
- 日時: 2023/07/09 08:29
- 名前: sumo (ID: 8kWkLzD1)
episode 3
少年はそれから黙々と作業を続けていた。
少女とスライムはまだ、そこにいてじいっとそれをみていた。
そして、餌をやっている最中、少女が突然「わたしも、やってみたい!」とお願いしてくるので、
少年はポカンとしてしまった。
こんな仕事、誰も好んでやらないし、
今までやらせてほしいなんてお願いされたこと一度もなかったからだ。
しかし、少年はすぐにニヤリと笑うと、「一回500円な。」と言って羊用の草を一欠片渡した。
そもそも餌やりサービスなんて項目、
牧場じゃないんだからあるわけもなく、お金が要ることでもないと言うのに、そんなことを理解することもなく、
少女は「分かった!」と素直に財布から小銭を出して、少年の手のひらにポンと置いた。
「..おう」
少年はあっけなく嘘に騙された少女に逆に驚いてしまったが、裕福ではなく、お金がほしかったので、
お金をそのまま受け取った。
横目で見ると、少女は楽しそうに柵の隙間から羊に餌をやっている。
あまりに嬉しそうで、やんちゃに笑うので、少年は思わず照れてしまった。
こんなに素敵に笑って、楽しそうに話す人を、少年は初めて見たのだ。
「ね、やらないの?楽しいよ」
そう言いながら、少女は自分の頭の上で、のんびりと羊を眺めている親友を誘ったが、
「自分も食べられちゃいそうだから..」とスライムは必死に断った。
少年は、2人(正確には一人と一匹)が横でわいわい遊んでいるのをみて、なんだかほっこりしていた。
「なあ、この金、返すよ。」
気づけば少女に嘘をついて巻き上げた小銭を返していた。
「え!?わたし餌やりしたから、ちゃんと、お金は払わないと。だから、タダにしてもらうのはちょっと..。」
と少女は困ってしまった。
「いや、別に..お金、要らないから..。」
「羊触るの楽しかったし、仕事邪魔しちゃったなら、小銭くらい受け取って、」と少女は念を押した。
「いいから、」とグイグイ押したり引いたりしていると、小屋の向こう側から、
「遊んどらんと、仕事せんか!!終わらんぞ!お前きょうも夕飯抜かれたいんかぁ!?」と雇い主の怒鳴り声がした。
慌てて「はぁい」と声を張り上げて返事をし、少女の手にお金を握らせて、力強く言った。
「これは!もう、いいから。タダにする。だからもう、帰ってくれ。」
強く言いすぎたか、と後で後悔したが、少女はそんなことで動じなかった。
どうやら、まだ帰る気はないようだ。
「..仕事、終わらないなら、手伝うよ。」
さっきの雇い主の話を聞いていたんだろう。
俺を気遣ってなのか、自分も仕事をすると言い出した。
「..。いいってば。」
俺の仕事なんだから、赤の他人を勝手に巻き込むわけにはいかない。
- Re: もちもちつよつよ旅日記 ( No.4 )
- 日時: 2023/07/09 08:30
- 名前: sumo (ID: 8kWkLzD1)
episode 4
「せっかく餌やりタダにしてもらえたんだから、わたしも仕事、するよ。」
「...。」
ね、と目をキラキラさせて近寄られ、少し胸が痛む。
なんて、優しいんだろう。
もはやこの少女は、天使だ。
それに比べて俺は、最低な嘘つき。
初めて会った他人の金を巻きとろうと嘘をつき、
真実を言うのは恥ずかしいから、とタダにしてやると親切にする嘘をついた。
そう、2回も嘘をついた。
まるで俺は悪魔だ。
最低だ、と自分を否定して、落ち込んでいると、
「で、何から手伝えばいいのかな」
少女が聞いてくるので、羊の毛をブラッシングする仕事を頼んだ。
俺は少女たちを柵のなかに入れて、「ありがと、な」
俺がふてくされながらも呟くと「こんなの全然大丈夫だから!」と少女は言ってくれた。
ブラッシングが終わったようで、少女は「次は、次はー?」と聞いてきた。
俺が遠慮ぎみにも「..じゃあ、小屋の掃除、床を洗ってほしい、かな」
と答えると少女はすぐに小屋に入ってデッキブラシを手にした。
「ボクが食べられないように、見張っていてよね!」とスライムの叫ぶ声聞こえる。
すると突然、ビシャーーーーーと大きな水しぶきが聞こえたので、驚いてドアの隙間から除くと、
さっきのスライムが体から水をぱしゅぱしゅ出していた。
そして少女がその水を使ってブラシで床を洗っていた。
雇い主が奥から出てきて、「おぅ?新入りかぁ?なんかへんなの連れてっけど、威勢がいいなあ」
とスライムを見ながら言う。
幸い、今は機嫌がいいみたいだ。
片手には買ってきたっぽい酒を持って、ヒックヒックと喉を鳴らしている。
少女は雇い主に「どうもー」と挨拶をしてゴシゴシ床を磨いた。
俺はそれに負けじと、羊を洗って散歩させた。
- Re: もちもちつよつよ旅日記 ( No.5 )
- 日時: 2023/02/23 16:12
- 名前: sumo (ID: 2cE7k4GX)
episode 5
「ふぅ。」
仕事が大体全部完了したのは、6時過ぎてからだった。
外は暗くなって、日が沈み始めた。
雇い主は夕飯をちょうど買いに行って、留守だ。
今度は留守番を頼まれた。
「アンタのおかげで、今日は晩飯が食べられそうだ。」
俺がお礼を言うと、「..どういたしまして?」
少女は少し照れ臭そうに、そして理解できてなさそうな顔でこちらを見る。
なんだかちょっぴり嬉しくなって、「給料の変わりに、これ、やるよ」
そう言いながら、俺は少女とスライムにお菓子の箱を手渡した。
「いいの!?」
少女は嬉しそうに受けとると早速スライムと一緒に中身をぽりぽりと食べ始めた。
「うまうま」
スライムもお菓子食べれるんだなぁなんて考えながら黙って見ていると、「あなたも食べる?」と少女が分けてくれた。
やっぱり、天使だなぁ。
沈黙する空気が流れたが、俺が耐えられずに「..アンタ、何歳?」と質問すると、少女は首をかしげた。
「わからない」
「..あっそ..じゃ名前は?」
天使の名前くらいは聞いておこうと思ったのだが、
すると少女はおかしなことにわからない、と、また首をかしげた。
「え。..ふぅん。」名前がわからないって普通、おかしいだろう。
なんて突っ込みを入れてはいけないような気が何となくしたので、受け流してしまった。
「あなたは、何て名前?」
天使が聞くので、素直に答えた。「ユージ。」
「そーなんだ。素敵。似合ってるよ」
「それは、どうも。」
不意に照れ臭くなった。
今はもういない、母親から授かった大事な名前だけど、素敵だなんて誰にも言われたことはなかった。
「わたしも、いつか思い出したいなぁ、名前。」
少女は忘れてしまったのか。
少女の名前を。
「早く、思い出せると、いいね。」
気づけば気遣いの言葉が出ていた。
これは、嘘じゃない。本当の言葉だ。
ただただ仕事に追われて、お金目当てで嘘をつくような俺が、
なんだかよくわからないけれど、今はただ、本当に早くこの少女の名前が見つかりますように、
と願う気持ちが強くあった。
「うん。」少女はお菓子を口にくわえて、素直に返事をした。