二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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Ib —『さよなら』の先に—【完結】
日時: 2014/01/06 10:41
名前: 緑茶 (ID: xDkHT39H)
参照: http://kouri.kuchinawa.com/game_01.html

《先に行って 後で行くから》
——そう言った彼は今、私の隣にいない——


……嘘つき……

         *

こんにちは! はじめましての方は、はじめまして!!
緑茶と言います。
今回は、Kouri氏制作のフリーホラーゲーム「Ib」と ニコ動・YouTubeにupされている「天ノ弱 ver:Ib」の二次創作をしていきます。

※注意※
・ネタバレを多く含みます。未プレイの方はその事を踏まえて進んで下さい。
・年齢 等 捏造が多々あります。
・荒らしはUターンを お願いします。
・亀更新です。

また、この作品は「忘れられた肖像」+「いつまでも一緒」 End のストーリーの「その後」を書きます。

以上の事を踏まえて、「それでもOK!!」な 心の広いお方のみ進んで下さい。

※上のURLは『Ib』の本家のホームページです。ぜひ遊んでみて下さい!

目次
*キャラ紹介 >>1
*0 >>2
*1 >>3
*2 >>4
*3 >>7
*4 >>12
*5 >>16
*6 >>17
*7 >>20
*8 >>22
*9 >>24
*10 >>27
*11 >>28
*12 >>30
*13 >>34
*14 >>35
*15 >>36
*16 >>37
*17 >>41
*18 >>42
*19 >>43
*20 >>44
*21 >>45
*22 >>46
*23 >>48
*24 >>49
*25 >>62
*26 >>63
*エピローグ >>64

番外編 『届かぬ手紙』
プロローグ >>50
本編 >>53 >>57 >>58

番外編 『私の願い 二人の思い』
プロローグ >>66
本編 >>68 >>69 >>70 >>72 >>73 >>74 >>75 >>76

※お知らせ※ >>29 >>47 >>51 >>65 >>67 >>77 >>78 >>79

【一気読み】 >>1-
※ページを行き来せずに、一気に読めます。少し読み込みに時間がかかるかもです。

《神と言う名のお客様》
 お萩様
 朔良様
 ちびねこ様
 ネツケヤ様
 ミラー様

《special thanks!》
 リア友

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Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.72 )
日時: 2013/12/29 22:17
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: 0JVwtz5e)

*4

 私の薔薇は、お父さんがここから出て行く前に私にくれた物だった。

『この美術館において、薔薇は己の命を表す。外から来た者には自動的に与えられるが、お前には無い。いつか外の者と会うのなら必要だろうから、私が作ってやろう。大切に持っていなさい』

 言われた通りに大切に持っていたのに、イヴに私の秘密が知られる心配がなくなった気の緩みからか、私は自分の薔薇を落としてしまった。

「あら? メアリー、薔薇落としたわよ……って、え?」
「触らないで!!」
 拾おうとしたギャリーに私は叫び声を上げた。

 私の薔薇は二人と違う、作り物なのだから。
 私と同じ、ニセモノだから。

 ギャリーを薔薇から遠ざけるために、探索中に手に入れたパレットナイフを突き出した。
「ちょっとメアリー!! 危ないわよ!? 早くそれをしまって!!」
「うるさい!!」
 パレットナイフを取り上げようとするギャリーと私は揉み合いになり、バランスを崩して——
「……っ!!」
 私は床に倒れ、気を失った。
 遠くで私の名前が聞こえた気がした。

          *

 床に倒れて、どれくらいの時間が経っただろうか。
 気が付いた私はゆっくりと身体を起こし、ふるふると頭を振った。辺りを見回してみたが、そこにはもう、二人の姿パレットなかった。
「ねぇお姉ちゃん。二人、何か言ってた……?」
 一部始終を見ていた、壁に掛かった女の人の絵に問い掛ける。
『男が記憶を取り戻して、メアリーの秘密を女の子に話していたわ。女の子はかなりショックを受けていたみたいだけど、ここから立ち去る時は心配そうにあなたを見ていたわ』
「…………、そう。ありがと」
 お姉ちゃんからの言葉を聞いた私は、大きく深呼吸をして、二人を追うために走り出した。

 早くしないと、イヴとギャリーの二人が外に出てしまう。
 ……また私は一人になってしまう。

 ——もう、なりふり構っていられなくなった。


 他のお姉ちゃん達にも話を聞きながら進むと、チラッと揺れる紫が見えた。
 足音を立てない様にゆっくりと近付くと、大きな箱を覗きこんでいる二人がいた。
「これがおもちゃ箱? ずいぶんと大きいのね……それに底が深くて真っ暗だわ。……この中に鍵があるのかしら?」
「そうみたいだね……どうする、ギャリー?」
「うーん……」

「行ってみたら?」

 二人が話し合っている間に、私はこっそりと背後に回り込み、背中を思い切り突き飛ばした。
 私は二人が落ちていく様子を、そのまま黙って眺めていた。

          *

 その後、私は別の道を使っておもちゃ箱の中に入った。
 ここは私が作ったり、遊んだりした物をしまっておく場所だが、余り来ないので物が散乱している。その上薄暗いので、とても歩きにくい。
 そこで私は、私が作った相棒の青い人形を呼び、転ばない様に案内させた。
 ここにいつも居るお陰で、物がある場所が分かっていた青い人形は、嬉しそうにトコトコと私の前を歩いて行った。

 少し経った頃、青い人形が私に何かを差し出してきた。よく見るとそれは、真紅に染まった真っ赤な薔薇だった。
「私にくれるの?」
 私がそう聞くと、人形はキャハキャハと笑った。肯定の様だ。
「やった! ありがとう!!」
 私が人形から薔薇を受け取ると同時に
「メアリー!!」
 奥から私の名を呼ぶ二つの影が現れた。
「あれっ! イヴとギャリーだ! あのね、さっき良い物もらったの!!」
 そう言って私は見せびらかすかの様に、二人の前に赤い薔薇を差し出した。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.73 )
日時: 2013/12/30 21:04
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: ycnzZQhq)

*5

「メアリー、その薔薇は……!!」
 ギャリーの驚いた声を聞いた私は、ああ、と一人で納得した。
「これイヴの薔薇だったんだ。道理で見たことあると思った!」
「……メアリー。その薔薇、イヴに返してあげて」
「えー。そうだなぁ……」
 貰った物だから簡単には渡したくなかったが、そこでふと、あることを思い付いた。

「じゃあ、ギャリーの薔薇と交換して?」

 ここでギャリーの薔薇を手に入れれば、ギャリーの命は私のもの。薔薇を引き千切ってしまえば、私とイヴの二人で外に出られる。
「イヴは薔薇、返してほしい?」
 きっと返してほしいはずだ。自分の命がかかっているのだから。けれど、イヴから返ってきた言葉は、私の考えを打ち砕くものだった。
「私は別に返してほしくない」
 それは小さな声だったけど、私を混乱に陥れるには十分なものだった。

 ——どうして? 自分の命がかかっているのに?——

 私には全く理解出来なかった。
「何バカな事言ってるのイヴ!!」
 イヴの返事を聞いたギャリーは、すぐさま自分のコートのポケットに手を突っ込んで、真っ青な薔薇を取り出した。
「いいわ。イヴの薔薇と交換して」
「え? 本当にいいの?」
「ええ」
「やった!」
 何はともあれ、計画は成功したのだ。これでやっと願いが叶う。
 私はイヴの薔薇を差し出し、ギャリーの薔薇を受け取った。
「……あは、あははは、ははははは!!」
 そして私は青い薔薇を手に、あの絵に向かって走り出した。

          *

「好き……嫌い……好き……嫌い」
 あの絵に向かう途中の開けた場所で、私はギャリーの薔薇を取り出して、一枚一枚千切っていった。
「……好き!!」
 最後の一枚を千切った瞬間、私は笑いが止まらなくなった。これで確実に願いが叶うのだから。
 花弁が一枚も無くなった寂しい茎をポイッと捨てて、私はまたあの絵に向かって足を進めた。

 あの絵——『絵空事の世界』は、お父さんが描いた作品の中で一番大きな絵で、この世界から出られる唯一の出口だと、遠い日のお父さんは言っていた。
(確か、絵に触れると出られるんだっけ……)
 お父さんの言葉を思い出しながら絵に触れようとすると、少しずつ近付いて来る足音に気が付いた。
 私はすぐに物陰に隠れて様子を見た。足音の主は、もちろんのことイヴだった。
 イヴは少し戸惑いながら、絵に触れて中に入って行った。

 イヴが居なくなった事を確認した私は、イヴの後を追うように絵に触れた。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.74 )
日時: 2013/12/30 22:29
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: NIrdy4GP)

*6

「やあ。久し振りだな、メアリー」
 真っ白になった世界で響いた声に、私は耳を疑った。
「……お父さん?」
 辺りを見回すと、そこには薄く笑ったお父さんが佇んでいた。
「ここは人間と作品の世界の間の世界。お前は今から人間の世界に行くのだが、その前にお前と話がしたかったから呼んだのだ」
「……話?」
「ああ。……お前はなぜ、外に出たかったのだ?」
 突然始まったお父さんの質問に、私は迷わず答えた。
「外に出て、色々なものを見たかったから」
 ——その『色々なもの』はまだ分からないけれど。
「では、あの男を犠牲にしてもか?」
「…………」
 続けて放たれた質問に、私は言葉を失いうつむいた。

 少ししか一緒に居なかったが、本当のところは、ギャリーはそれほど嫌いではなかった。だから、私の願いのためだけに犠牲にしてしまったのには、少なからず後悔がある。……まぁ、今となっては後の祭りだが。

 黙ったままの私に、お父さんはまた言葉を紡ぐ。
「もし後悔をしているのなら、お前はその後悔を背負ったまま生きろ。犠牲にした分まで生きて、一生償い続けろ」
「……後悔を背負って、一生償う……」
 お父さんの言葉を繰り返した私は、ゆっくりと顔を上げた。
「さぁ、もう行きなさい。新しい家族が待っている」
 そう言ってお父さんは、光の強い方向を指差した。
「新しい……家族?」
 私はおうむ返しに聞いた。
「ああ。お前は外に出た少女の妹として生きていくのだ。きっと待っているだろうから、早く行ってあげなさい」
 お父さんは一度言葉を区切ると、私に近付き頭を撫でた。そこには懐かしい冷たさがあった。
「……さて、私はもう行くとしよう」
「え……行っちゃうの?」
 やっと会えたのに。まだ聞きたいことがあるのに。
 私は泣きそうになりながらお父さんを見上げる。するとお父さんは苦笑しながらしゃがみこみ、私と変わらない身長で、私を優しく抱きしめ言った。
「外でもしっかりやるんだぞ。……私はお前の父として、心からお前を愛していたよ」
 耳元で囁かれた言葉に目を見開いた瞬間、お父さんの身体は霧のように消えてしまった。
 お父さんの背中に回していた手をゆっくりとおろして、私は辺りを見回す。そこにはただ、白い空間が広がるだけだった。

 私はお父さんが指差していた光に向かって歩き出し、光に入る前に、今まで居た世界を振り返った。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、お父さん。今までありがとう。……大好きだったよ」
 誰にも聞こえるはずのない言葉を残し、私は光に飛び込んだ。

          *

 美術館から出て一年後——イヴの誕生日にそれは起こった。
 イヴのお父さん——つまり今の私のパパ——から誕生日プレゼントとして貰った『ゲルテナ作品画集』に載っていた絵を見たイヴが、記憶を取り戻したのだ。

 私がそれを知ったのは、その日の夜、イヴの部屋に遊びに行った時だった。
 ノックしようとドアの前に立つと、奥からすすり泣く声と、それに紛れて言葉が聞こえたのだ。耳を澄ませた私は、驚きの余り固まった。
 その言葉は、イヴが覚えているはずもない人物の名だったから。

 ——思い出してほしくなかった——

 ギャリーを慕っていたイヴは、きっと私を嫌いになるから。
(お父さん……これはやっぱり罰なのかな……)
『犠牲にした分まで生きて、一生償い続けろ』
 という言葉を思い出した私は、心の中でそっと罰を受ける覚悟を決めた。

          *

 次の日、私は外に出ようとするイヴに話しかけた。本当に思い出したのか、確認したかったのだ。

『全部思い出した』
 と言うイヴに
「嫌われたくなかったの……」
 私はポツリ取り戻した本音をもらした。
 そんな私の手を取り、イヴは私の目を見開かせる言葉を放った。
「あの時の事を思い出しても、私はメアリーを嫌いになったりしないよ」
「…………、うん。ありがとう、イヴ」

 私は笑いながらイヴを見送った後、壁にもたれ掛かって天井を仰ぎ見た。

 ……どうして許してくれるの? あんなに酷い事をしたのに……?

 イヴは優しい子だということは知っていたが、これは許されるべきではない罪だ。なのになぜ……?
 考えても考えても、その答えは出なかった。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.75 )
日時: 2013/12/31 21:00
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: .g3iy5Ut)

*7

 イヴがあの美術館の記憶を取り戻してから、四年と半年が経った。
 この半年で、イヴは文通を始めたようだが、相手は誰かは教えてくれなかった。

 ある日のこと——

 今日もイヴはポストから手紙を取り出し、サッと目を通して自分の部屋に——戻らず、なぜか私の方に駆け寄ってきた。
「メアリー!! 来週の日曜日って空いてる!?」
「う、うん。何もないけど……」
 興奮気味に聞くイヴに驚きながらも私はうなずく。
「じゃあ、一緒に出かけてもいい?」
「いいけど……」
 私の了承の答えに、嬉しそうにイヴは笑い
「今度の日曜日、家を九時に出るからちゃんと準備しておいてね」
「わ、分かった」
 約束をするとイヴは太陽のような笑みを残し、自分の部屋に戻った。
「……あ、」
 そう言えば、どこに行くか聞いていなかった。一体イヴは、私とどこに行こうというのだろう。
 私は当日まで、もやもやしながら過ごした。

          *

「……ねぇイヴ。いい加減教えてよ。どこに行くの?」
「だから秘密だって!!」
 日曜日。私はイヴに連れて行かれるまま道を歩いていた。何度か行く場所を聞いているのだが、ずっと言ってくれなかった。

「もうすぐ着くよ。……あ、あそこ!!」
 イヴが指差した場所を見るが、そこはただの公園だった。日曜の昼間なのにも関わらず、人影はほとんど無く、がらんとしていた。
 そんな寂しい公園に、人影が一つ。
 イヴはその人影に向かって走り、勢い良く抱き付いた。
 私は状況が読めないまま、イヴの後を追う。そして、そこに立っていた人の顔を見た瞬間、私の頭は時間が止まった。
 なぜならそこに立っていたのは、この世界に居ないはずの人間だったから。
 ——私の願いのために消してしまった人間だったから——

「嘘……ギャリー、なの?」
 私は、まるで幽霊を見るような目で見つめると
「久し振りね、メアリー」
 ギャリーは私と初めて会った時と同じように笑った。

          *

「……どうして出られたの?」
 私の質問に、ギャリーは少しの沈黙後答えた。

 ギャリーの話をまとめると、半年前にあの美術館が改装工事を終えてオープンし、その日にイヴはギャリーに会いに行った。そして絵を境にお互いの手を重ねると、ギャリーはこちらに出られた。だが、どうして出られたのか理由は分からない。
 それから半年間イヴとギャリーは文通をし、ギャリーの生活が落ち着いた頃合いを見計らい、今日久し振りに会ったのだ——と言うことだった。

 そこで私は、二人にお父さんが話してくれた『あの美術館から出る方法』を語った。私の話が終わるまで、二人は黙って聞いていた。


「……つまり、アタシとイヴの思いが一致したから外に出られた、ってこと?」
 ギャリーの問いに私は静かにうなずき、そして深く頭を下げた。
「ごめんなさい……」
「いきなりどうしたのよ、メアリー?」
「だって私が外に出るために、ギャリーをあの世界に閉じ込めたんだよ? 痛い思いも、いっぱいさせちゃったし……謝っても償いきれないけど……ごめんなさい」
 私はもう一度頭を下げる。するとギャリーは私の頭に手を置き、優しく撫でた。その仕草でふと、お父さんの姿が頭によぎった。ギャリーの手はお父さんと違い、暖かかった。
「もういいのよ。こうやってまた三人で会えたんだから」
「でも……!!」
「んー。そうね……どうしても償いたいって言うなら、この後イヴとカフェでマカロン食べに行くんだけど、メアリーも一緒に行ってお茶する。それで許してあげるわ」
 そう言って、ギャリーはまた笑った。

 本当に、人間って不思議だな……。もしかしたら、私はこんな人間達が見たくて外に出たのかも知れない。

「……分かった。ありがとう、ギャリー」
 私はギャリーに負けないくらいの笑顔で笑った。


 晴れ渡る青の空の下、私達は笑い合いながら公園を出た。
 これから始まる三人でのお茶会に、胸踊らせながら。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.76 )
日時: 2013/12/31 21:05
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: P747iv5N)



 さあ、ここからまた始めよう。


 三人で紡ぐ、新しい物語を——




*番外編『私の願い 二人の思い』End*


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