二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 艦これ In The End of Deeper Sea
- 日時: 2016/04/06 00:42
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)
普段は似たような名前で、ファジーとシリアスダークで散文を書き散らしている者です。
結構、苛烈な内容を書き記すこととなるかと思います。
あくまで二時創作ですので、自分の思うそれとは異なるなどという陳述には取り合いませんので、悪しからず。
えぇ、ただのお遊びです。
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.32 )
- 日時: 2016/07/25 12:12
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)
3.Crazy Diamond
DDK-124「きよなみ」艦首が喪失され、彼女はその断面を大きく曝していた。総員130名の乗員のうち、12名が殉職。20名余りが負傷していた。見知った乗員の血が流れ、命が失われたのだ。
"きよなみ"は函館基地隊の建屋から、曳航されていく自分の昔の"身体"を眺めていた。身を裂かれた激痛を思い出し、首の辺りを彼女は擦った。もしこの艦娘の身体で、あのような損傷を受けたならば助かりはしなかっただろう。大湊で快く迎え入れてくれて、補給の最中も付きっ切りで談笑していた足柄や神通は全身に大火傷や、右足を吹き飛ばしたりしてしまったようだが命は失われていない。その事から、この艦娘という存在の身体は存外、丈夫で強固な代物であるようだ。
それにしても"きよなみ"にはある事が気になっていた。素性が分からない者達が多いのだ。本当の名前は名乗らない、艦娘になる前に何をしていたか言おうとしない。あきつ丸に関しては「自分は死人であります」と言い放っていたが、それすら真実なのか分からない。如何せん、艦娘という存在は謎が多い。
(私もあいつ等と一緒なんじゃ……?)
ふと、思い浮かぶ事があった。それは深海棲艦という存在と艦娘は同じ物なのではないのだろうかという考えだ。確かにそのような推察を上げている者は多く、過去の激戦地や難破の名所、チョークポイントに艦娘はよく出現する。そこは人の念が篭り、血が滴り、命が失われた場所である。艦娘を保護する場合も、そのような場所が多い。その事から艦娘と深海棲艦は表裏一体の存在なのでは、と思うのだった。
「"きよなみ"そんな顔して、どうしたのじゃ?」
声は若いというのに、老人のような言い回しをする艦娘、利根が"きよなみ"の左隣で顔を覗かせていた。利根や夕張、あきつ丸、黒潮といった艦娘達が気を利かせて、構いに来てくれる。彼女達は大湊の艦娘であるが、大湊の冷徹なルールに染まりきっていないように感じられた。
「幽体離脱ってこんな気分なのかなー、って」
「——あぁ、あれじゃな」
利根も曳航される「きよなみ」の姿を見て、感慨深そうに振舞っていた。優しげな視線を向け、"きよなみ"の頭を掴む。
「なに」
「……お主、めったに出来ぬ経験をしたのう。我輩たちはそんな事も叶わんでな」
そう利根は快活に笑い飛ばした。二次大戦後、利根は解体処分されている。その鉄材はどこに使われ、今はどこに行ってしまったか分からない。自分の成れの果てを見る事も出来ない。
「函館はどうじゃ。良い街であろう」
「……はい。人も優しいですし、食べ物も美味しいですし」
「郷里を褒められるのは気分が良いのう」
にやにやと嬉しげな笑みを浮かべる利根だったが、彼女の放った郷里というフレーズが、"きよなみ"には気になった。
「函館出身なの?」
「……口が滑ったな! まぁ、良い。生まれも育ちも函館じゃ。今度街を紹介してやろう」
"きよなみ"は普通の人の営みを知らない。艦の中は毎日決まりきった生活であり、非日常が織り成される場所だ。こういった利根の申し出は嬉しく、少しばかり気恥ずかしさが存在していた。
盲いた女の前に立ちはだか女、彼女もまた目を患っているのか右目に眼帯をつけ、その下から焼け爛れたような皮膚を曝していた。傍らには磯風という名の艦娘が伏せ目がちかつ、静かに今川を見つめている。
「舞立。相変わらず悪い顔をするな」
突然何を言い出すんだと、今川の隣に居た大淀が苦笑いを浮かべ、その後ろに居た妙高は頭を抱えた。舞立と呼ばれた女は表情を変えず、磯風を見遣る。
「今川司令の言うとおりかと……」
「酷いネー」
「まだ、その喋り方抜けないのか?」
「内なる金剛が……」
凶相の2人が馬鹿な話を繰り広げている。妙高は小首を傾げていたが、大淀は2人の関係を知っている。かつての第2護衛隊群の旗艦達だ。2護隊は長門が、6護隊は金剛が勤めていた。尤も金剛は"あの武蔵"の後任であったが。
「相変わらず大湊は殺伐としてマース。司令が悪い?」
「抜かせ」
佐世保の人間からしたら大湊は、殺伐としているように見えるだろう。状態の良すぎる旧式艦艇、必要最低限の港湾機能と、必要最低限の庁舎に必要以上の能力を押し込み、最大の敵は自然と言わんばかりの荒れた気候。
「大湊は金が足らんのだ。金もなければ人も足りん、それを誤魔化し、誤魔化し戦い凌いでいるのだよ」
「3護隊は強いからネー」
3護隊は強い。その一言に妙高の眉根がピクりと反応していた。7護隊旗艦の前で言う言葉ではない。舞立もそに気付いたのか"ソーリー"と苦笑いを浮かべて、頭を垂れた。
「大湊は大変みたいネー。仮称だけど北部方面艦隊ってのが居るんでしょう?」
「情報が早いようで何より。寡兵でどう立ち回るか頭を悩ませている所だよ。なぁ、大淀」
「そうですね、今も神通さん達が下で会議してますし」
それで旗艦が居ないのかと、舞立は合点のいったような顔をしていた。頭が切れ、判断力に優れる神通と、歴戦の経歴を持つ龍驤の経験則に基づいた進言、これが大湊を支えうる二本の柱なのだろう。
「所で身体の具合はどうだ?」
「寒かったり雨降ると痛むヨ。ナオミも目が余りよくないみたいネー」
「……あぁ、日に日に衰え、見えなくなってる」
互いに顔を見合わせ、小さく笑った。今川は視力を失いつつあり、舞立は艦娘時代に腕と足を失っている。白い制服から義手が顔を覗かせていた。
「私達みたいなのを、増やしちゃいけないネー」
「……だからといって、お前にくれてやる戦力はないぞ」
「知ってるヨ! そんな事ー」
そう2人は軽口を叩きあった。佐世保の戦力は大湊の1.5倍。正規空母をも所有している。それに比べ大湊は正規空母を所有しておらず、戦力規模は小さい。
舞立は各地方隊から艦娘を引き抜いて回る事で有名であった。それをさせないために、今川は先に釘を打つのだった。
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.33 )
- 日時: 2016/07/26 00:07
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)
第6突堤の根元に立つ大湊の者ではない艦娘、その存在を工作部の中から夕張は見つめていた。一番手前には天龍、その奥には阿武隈や能代といった艦娘達の姿が見られる。突堤の先端には第2護衛隊が誇る装甲空母を名乗る艦娘の姿もあった。
「壮観だねー、あれ」
彼女達を指差し、夕張は傍らで配電盤を操作していた南沢技官に話しかけた。彼の反応はいまいちで、窓から外を一瞥し小首を傾げていた。無理もない彼は「護衛艦」専門なのだ。艦娘に関連する業務は致し方なく行っているだけであり、誰を見て誰だという判別はあまりつかない。
「手前は軽巡、奥に居るのが装甲空母」
「……装甲空母という事は2護隊かい?」
「そうそう」
大湊には存在しない正規空母。その発展形である彼女達を窓から南沢も眺める。手前から瑞鶴、翔鶴、大鳳である。現在の2護隊の旗艦は扶桑と聞くが彼女の姿は見えない。FTGを受けに来たようであるが、流石に全艦娘を佐世保から引き連れてくる訳には行かなかったのだろう。
ふと、第6突堤へと向かう龍驤とその後を追う神通の姿が見えた、龍驤が今回のFTG担当艦なのだろう。実艦を用いた査閲的なFTGを行うとは聞いていないが、何があっても不思議ではない。神通が彼女の背を追ってきた段階で、3護隊が彼女達の相手をしなければならないかも知れない。
「……昼間は防空に徹して、夜戦に持ち込ませるしかないかなぁ」
「装甲空母の相手は骨が折れるでしょうからね」
「なんか聞いてる?」
「えぇ、瑞鶴が1回も大破した事ないとか……」
嘘だろうと言いたげな夕張の表情に、思わず南沢は苦笑いを浮かべた。艦娘達は大規模な艤装修繕に伴い、艤装の近代化改修を行う事も多々ある。裏を返せばそういった近代化改修を行っていないのかも知れない。
「彼女達、卑怯だよ。戦艦から思いっきり殴られても大破しない限りは戦い続けるからね。艦載機の搭載数も正規空母並みだし」
「龍驤さんと戦ったらどうなるかしら?」
「あの人は……、ズルいからね。戦力の差をそれで引っ繰り返すから……」
南沢は苦笑いを浮かべながら、額に浮かんだ汗を拭った。船渠に繋がっている電路接続作業の進捗は良い様子だ。
「夕張、絶縁測定お願い」
「りょーっかい」
テスター片手に船渠の真下に潜り込む夕張を、他所に南沢は再び第2護衛隊の面々を見据えた。大湊は最前線、佐世保から艦娘を遣せとは言わないが深海棲艦からの攻撃を受けていない呉や、大規模戦力、空母を集中して配備していながら、秋月型の防空艦娘を集中配備している横須賀に対する反感に似たような感情を持っていた。大湊は寡兵、個々の戦闘能力、旗艦達の指揮能力、今川の処世術、これらが無ければ既に大湊は陥落、日本は半身をもがれたような痛手を負っていた事だろう。
大湊に今必要なのは、金と設備、そして艦娘。"きよなみ"を回収できたのは幸いであったが、空母の数的不足は痛手。空母がないのならば防空駆逐艦を遣して欲しいといのが実情。現に第2護衛隊の艦娘達の艤装には、傷1つなく新品のように光り輝いている。相反し、神通の艤装は動作には問題ないが傷に塗れている。そこまで修繕するだけの費用がないのだ。
「絶縁ばっちりよ。……難しい顔してどうしたの?」
「あぁ、いや……」
「分かった! 明石に会いたいんでしょ」
またそのネタかと南沢は夕張の額を小突き、発動機の上に置いた缶のお茶を「ご苦労様」と手渡した。長時間、暑い作業場に置いていたためか、すっかり温くなってしまったが、そんな事を気にする様子もなく、夕張はそれを一瞬で飲み干した。
「まだある?」
「POの冷蔵庫にあったと思うけど」
PO(プロジェクトオフィサー)と呼ばれる、艦娘の艤装や護衛艦の整備に関わる工程を管理する人物。夕張と彼は仲が良い。艦娘だというのに、暇を見ては工作部の業務を全面的に手伝ってくれるためだ。そのためか、夕張は試製艤装を持っていたりする。
「PO、昼から帰らなかったっけ? 歯医者だとか」
「あれ、そうだっけ?」
「ま、いいや。勝手に持ってくる」
そう足早に工場から立ち去る夕張を見送り、南沢は再び窓の外に視線を遣る。眼前には真っ赤な服に身を包んだ龍驤が、身を乗り出して南沢を見ていた。
「……足ついてるかい?」
「失礼なやっちゃなぁ、ついとるわ」
小柄な龍驤をからかうような発言をし、南沢は笑顔を浮かべた。この小さな身体には数え切れない実戦経験と、戦場における知恵が宿っている。大湊の守護神はとても小さく、気さくな艦娘だ。
「龍驤さん、嘘はいけないですよ」
傍らの神通は悪い笑みを浮かべながら、南沢のそれに乗っかり龍驤を弄る。途端、龍驤の身体が斜めに傾き、神通の脇腹に軽く膝蹴りをかましたようだった。大湊の守護神と、大湊の鬼神の平時はこんなに穏やかな物だと思えば、やはりおかしく感じられた。
「FTGの打ち合わせかい?」
「そそ、明日の0430から恵山沖ですこーし遣り合ってくる」
「龍驤、やりすぎないようにね」
「ウチからしたら装甲空母なんて尻に殻がついたヒヨコみたいなもんや。大湊の恐ろしさを教え込んでやるわ。なぁ、神通」
「まぁ……、少し躾けてあげた方が良いかも知れませんね」
神通の穏やかな笑みに反し、どことなく含みを持った彼女の言葉に空恐ろしいものを覚えさせられた。恐らく徹底的に叩き潰す気でいるようだ。戦闘評価0点とでもするのだろうか。
「こっちは誰が行くんだい?」
「ウチと神通、伊勢、飛鷹、不知火、夕立、足柄、利根、伊401、そして"きよなみ"や」
割と洒落にならない編成。制空権は確実に取られてしまうが、きよなみを持ち出す段階で艦載機を1機も逃さない気で居るように感じられた。恐らくは対空標的を無力化した後、伊勢に指揮権を委譲、凌ぐ戦いを以ってして昼を凌ぎ夜戦に持ち込み、神通が指揮を執るのだろう。
「余り苛めてやらないようにね」
「失礼なガキ共には痛い目を見せてやらなきゃならんで!」
ガキ、装甲空母たちの事を言っているのだろう。そういう意味では神通の躾というワードが合点行くものになる。やりすぎて苦情が出たり、演習で大破する艦娘が出なければいいのだがと、南沢は思いながら少し痛みだした胃を気にするのだった。
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.34 )
- 日時: 2016/08/02 23:22
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: vVtocYXo)
断崖絶壁に奇岩が広がり、それらが波に侵食されて不思議な様相を為していた。3護隊は見慣れた物だったが、2護隊の面々は物珍しげにそれを眺めていた。天龍や能代に至っては、写真を撮っているようで盛り上がっている。
「おーっ! あれすげぇなぁ」
「能代、大湊もいいかもと思えてきました……」
「大湊は何もないぞ、見飽きる」
天龍や能代、磯風が各々に言葉を交わす。軽口を叩きあう彼女達であったが、深海棲艦の存在がないかソーナーを常時運転しているようだ。2護隊の水雷戦隊は水雷戦のみならず、対潜にも定評があり深海棲艦への先制攻撃を得意としている。対潜の主軸は天龍であり、彼女が持つ一種のトラウマによるものだろう。
「……存外に水雷戦隊も幼いようですね」
「空母のヒヨッコと比べたら、まだ大人やで。あいつ等は戦いだしたら冷静やから……、神通気をつけぇ」
龍驤の評価は空母よりも、水雷戦隊に気をつけろという。天龍が指揮を執り、能代、阿武隈がその主力を担い、磯風、春雨、天津風といった駆逐艦が突貫してくる。夜戦に傾注しているのだ。昼間の戦闘において、扶桑が居なかった事を幸いとすべきであろう。
「ま、昼間も気を抜いたらやられるけどね。制空権取られてる中で、どれだけ艦載機を無力化するかにかかってるよ。頼んだよ、きよなみ」
「……ESSM撃っていいのかい?」
「勿論」
きよなみの初陣、日向が考え提起してきた運用手順通りに進めれば、艦載機の大方を撃墜、上手くいけば航空戦前に大きく減耗させることが出来るだろう。龍驤や飛鷹もそれを期待している。
「最大48機まで照準、確実に落とせるから……、次の照準まで航空戦をしなかったら7割減耗できるよ」
「心強いねー」
そう伊勢はきよなみの隣で笑っていた。利根も水上戦闘機と水上爆撃機を搭載していたが、航空戦に絡まず戦えるのならその方が楽だと思いながら、きよなみを見据える。彼女が担ぐVLSや90式誘導弾、これがあったなら深海棲艦を屠る事すら容易いだろう。今の今まで彼女は第3護衛隊群としての戦闘に参加していなかったが、今回の査閲が彼女の初陣となり、その力を見られる、幸いな事であった。
「我輩達より強いかも知れんからな!」
「本当だよね、90式誘導弾なんて食らったら戦艦でも一撃でしょ?」
「バイタルパートを破壊できれば」
「おっかない話じゃのう」
90式誘導弾を現在の艦娘では凌ぐ術はない。電波妨害装置を持たないからだ。それをきよなみは計8発装備している。駆逐艦ならばどこに当たっても一撃だろうが、大型艦であったとしても2発ないし3発で沈められる。そう考えれば彼女の90式誘導弾は驚異的な代物である。
「きよなみぃ、ウチに撃たんでな!」
先達にきよなみはからかわれながらも、居心地の良さを感じていた。艦の頃は誰にも意思表示を出来ず、戦うための艦、戦うための道具として扱われていた。誰とも交友を結ぶ事が出来ず、言いたい事も言えなかったような気がする。龍驤ににやりとした笑みを返すと彼女は「意味深やなぁ」と軽口を叩くのだった。
「龍驤さんこそ、あまり私に艦載機近寄らせないでね。See-RAMが動いちゃうから」
現代の艦載機、航空機ならば当たる事はますないSee-RAM、旧式な鈍足艦載機ならば必中させ、撃墜せしめる事だろう。その言葉に空母の時代も終わったと龍驤は苦笑いを浮かべるのだった。戦艦を終わらせたのは空母、空母を終わらせたのは駆逐艦。恐らくこれから、艦首の類別は消え去り、戦闘艦のマルチロール化が進むことだろう。龍驤は時代の流れをひしひしと感じるのだった。
「近寄らんとくわぁ」
そうも言いながらきよなみに迫り、龍驤は彼女の肩を小突いた。馬力に負けるのか、きよなみは身体を大きく傾かせ、焦ったような素振りを見せた。まだ、人の身体に慣れていない証拠だ。潜在的な力こそ優れているだろうが、まだ未熟。導かなければならないという一種の責任感、義務感に似た感情が沸き立つ。
「まだまだ、ヒヨコやね」
「ヒヨコでも育ったら、鷲かも知れませんよ? ねえ、きよなみ」
神通の言葉にはフォローの意図が、あった訳ではない。そうなる可能性があるという事実をただ、述べたに過ぎない。歴戦の艦娘とて最初は新兵。その新兵が生き延び荒波に揉まれることで、強者となるのだ。最初から絶対的な強者などあり得ない。あり得てはならない。
「……すぐ越えて見せますよ、神通さんも龍驤さんも」
赤い瞳に力が篭り、どことない敵意を剥き出す。海馬島で深海棲艦を撃破した時も、こんな目をしていたのだろう。潜在的な恐怖に似た感情を押し殺しながら、神通はきよなみを見据えた。彼女と交わした視線が気に入らない。
「……そういう気を出さないで下さいね。私達は深海棲艦と表裏一体、電探を見る前にあなたを撃つ子だっていますから」
静かな語気に戒められ、きよなみは伏せ目がちに苦笑いを浮かべた。都合が悪い、悪すぎる。叱られ、しょげてしまった子犬のようなきよなみを見て、黒潮や足柄が笑っている。笑われた事を不満に思ったのか、彼女達を睨もうとしたが、それは神通の手で阻まれた。言われたばかりだろうと、戒められたのだ。
「そういう目は深海棲艦だけに向ける事。いいですか?」
にこやかな笑みを浮かべながら彼女を制した神通。心なしか語気に凄みが感じられ、近くを走っていた2護隊の面々がその不穏とも言える空気を感じ、口を噤みながら彼女を見つめていた。
「……何かありましたか?」
「新兵の教育中悪ぃが、ぼちぼち訓練海域だ。展開しようぜ」
天龍が踵を返し、腰に収めた刀に手を掛けながら言う。彼女の癖だ。これから戦うそんな時に、逸る血気を押さえつけるために刀の柄を握る。
彼女達の後ろに居た水雷戦隊の面々は、先ほどまでの賑やかさが嘘のように殺気立ち、歴戦の戦士の顔をしていた。
「……えぇ、そうしましょうか。天龍、泣きを見ても貴女の所の"狂ったダイヤモンド"は慰めてくれませんからね」
「良く言うぜ。"盲"に首輪付けられちまって、大言壮語しか言えなくなった"ジョリー・ドラゴン"がよぉ」
「それは"ちくま"ですよ。貴女の記憶は"お天気電探"同様使い物にならないみたいですね」
互いに挑発しあうような軽口を交し合い、2人はニヤっと笑みを浮かべると踵を返す。2護隊からは笑い声が聞こえ、3護隊の面々もニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「天龍も良い奴になったなぁ」
「あれだけ軽口が叩ければ立派な兵士ですよ。……行きましょうか」
2つの部隊は海面を走る。目指すは水平線の向こう、互いが互いに見えなくなるまで距離を離し、ようやく切られる火蓋を愉しみとしているのだ。天龍の吠え面を見て、装甲空母の装甲を引き剥がして、大湊に3護隊有と洗礼を見舞うのだ。
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.35 )
- 日時: 2016/08/06 00:15
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: vVtocYXo)
水平線の向こうはどうなっているだろうか。艦の形は電探で掴めるが、誰が誰かとは分からない。しかしそれは2護隊も同じこと。此方の布陣を把握こそしてようが、どこにどの艦娘が居るか分からないだろう。
伊勢、利根、足柄、飛鷹からなる水上打撃部隊を魚鱗上に配置し、それを貫き通すように、神通を筆頭に不知火、夕立、龍驤を配置、最後尾に"きよなみ"を置く鋒矢陣形を構築。伊401を遊撃、水雷戦隊からのヘイトを背負わせる。
「神通、鋒矢陣形のまま突っ込むの? 雷撃貰うわよ?」
「伊勢さん、あなたが避けられない訳ないでしょ?」
「ま、凌ぐ戦いは本懐ってね」
魚雷など浴びるはずもない、爆撃など持っての外。砲撃すらも躱すだけだと伊勢は以前、豪語していた。彼女は海面と空を良く見ている。雷跡から航路を予測して艦隊陣形を維持したまま、速力を保ち魚雷を全て躱しきる。彼女の危機予測能力には舌を巻く。
「昼間は私が指揮執るから、夜と昼の段取りは神通がお願いね」
「えぇ、そのつもりですよ」
「天龍と夜戦したくないんだよね、手段選ばないから」
伊勢は以前、天龍の査閲に付き合っていた時、彼女の無茶苦茶な攻撃を目の当たりにした事がある。人の形のまま高波に乗り上げ、その波間に飛び込む形で艦の姿を取り、海中に没したと思いきや人の姿に戻り、海中から潜水艦よろしく垂直に雷撃を見舞ってきた事があった。
「……近寄せないようにしないといけませんね。足柄さん、天龍を執拗にマークお願いできますか」
「勿論よ! あのお天気電探に砲弾の雨を予測させてあげるわ!」
相変わらず脳筋的な発言をする足柄だったが、彼女の戦闘はしつこさに定評があった。腹を空かした狼のように敵にしつこく付き纏い、食らいつく。"飢えた狼"の名は伊達ではない。
「飛鷹、龍驤航空隊はきよなみの迎撃を終えてから出して下さい。艦載機を確認次第、艦対空戦を実施しつつ後退、航空戦力の減耗し始めたら発艦願います」
「了解よ」
「わかっとるわぁ」
軽空母達は狡猾である。龍驤程ではないが飛鷹もその気があり、優勢にならない限り重い腰を上げようとしない。幸いにも"きよなみ"の存在が、彼女達の背を後押ししてくれた。
「……装甲空母はどうするのじゃ? 各自、航空機を逐次投入するような遣り方をしてきたら、相変わらずの脅威となると思うのじゃが」
「伊401に追わせます。水雷戦隊の対潜網を突破次第、大鳳から叩くように指示してますから」
「突破出来なかったら、その"筒"の出番じゃな」
「甲板を圧し折ってやるさ」
"きよなみ"も軽口を叩き、艦隊の全員が笑みを湛える。装甲空母達は艦載機を無力化すれば決して怖いものではない。恐れるべきは水雷戦隊。艦載機を無力化すると同時に、水雷戦隊の接近を許さず夜戦に持ち込む。伊勢のよく言う凌ぐ戦いであったが、大湊の鬼神と大湊の守護神は内心、愉しみであった。
装甲空母達がどこまで食らいつくか、天龍たちが何をしてくるか。万全の体勢を整えたつもりでも、何が起きるか分からない。戦場のように死の不安はなく、命を補償されながらも全力で戦える。実艦査閲の良い所である。
「開始まであと1時間という所ですね」
0430出航、0800訓練海域到達、0930展開、1030会戦。全てが予定通りに順調に進んでいる。その事に気分を良くしたのだろうか。神通はにこやかに笑みを浮かべている。そんな彼女とは真逆に利根は難しそうな顔をして、腕を組みながら水平線の向こう側を睨み付けている。電探が回っているようで、ピリピリとした違和感を周囲に抱かせた。
「2護隊の陣形は雁行、西端後方に3隻で魚鱗じゃな。進路は手勢の少ない吾輩の方じゃろうな」
「そのまま艦隊後方に抜け、反航を維持したまま後方へ回り込み、丁字を取るのでしょうね」
「あくまで正攻法といった所かのう」
苦境に立たされるであろう事が予測される利根であったが、普段通りの老練としつつも、飄々とした物言いで一人ごちていた。
「先手は空母よりも、その〝筒〝じゃ。のぅ、きよなみ」
初手を対艦ミサイルで決めろと利根はいう。雁行陣の中央を突き崩せという指示だろうと、きよなみは予測していた。天龍を無効、無力化した後、神通や伊勢といった艦娘で陣形を分断出来れば、前面と側面からの攻撃を浴びせる事が出来る。
「神通、それでいいじゃろ?」
「それでいきましょうか」
きよなみは仕事が多いと思いながらも意を唱えるような事はしなかった。艦載機への対処、陣形破壊の一手。砲戦、雷撃戦では役に立たない自分に与えられた仕事は為さなければならない。これが深海棲艦相手ならば、待ってくれないのだから。
「頼むぞ! きよなみ」
「あぁ、任せてくれ」
期待されている。それがどことなく心地よくもあり、気恥ずかしくもあった。それ同時に多少の重圧が自分に圧し掛かる。それらが相乗し、高揚感を抱かせるのであった。
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.36 )
- 日時: 2016/08/08 15:55
- 名前: n ◆kXPqEh086E (ID: iqzIP66W)
何度も何度もしつこく反応するロックオンアラートに苛立ちを隠せない様子で、天龍は水平線の向こう側を睨みつける。幾度となく舌打ちを発していた。1人殺気立つ天龍を他所に、艦隊内部に漂っていた好戦的な雰囲気が、徐々に厭戦的なものへと変わりつつある。
「……天龍、各艦に30秒ずつ照準を合わせてきている。どこからだ?」
「知るかよ、どうせあの"虎の子"だろ」
「あれは"虎"どころか"龍"かも知れん」
磯風はそれ程に"きよなみ"を警戒していた。人の形を取っているうちは水平線の向こうに居れば電探で探知出来ても、視認は出来ない。直接視界に入っていない以上は問題ない。水上艦からの砲撃はない。あったとしても回避行動をとる余裕がある。しかし、恐れるべきはこのロックオンアラートの基となる2護隊が得も知れぬ未知の武器である。
「艤装の改修が進んでいなかったら……、照準されてる事まで分かりませんでしたね」
照準されているのが分かる事だけでも幸いだと、大鳳は艦隊の士気を高めようと前向きな言葉を吐くが、いつ何が飛んできても不思議ではない状況に士気は向上しない。いつ攻撃されるか分からないという恐怖が士気を挫き、叩き潰す。
「阿武隈……、3群が恐ろしいです」
「馬鹿言え、3群がぶっ飛んでるのは昔からだ。"大湊の鬼神"と"同胞殺し"が率いてんだ、当たり前だろ。……時間が来たら速攻潰しに行くぜ」
「艦戦は制空権の確保を急ぎますね。艦攻は東から進行、艦爆は3群上空に配備させます」
「頼むぜ、翔鶴」
航空部隊の指揮を執る翔鶴は、機種毎に侵攻位置を変える。このロックオンアラートには何かがあると踏んでの事だろう。対空攻撃により何れかの部隊が全滅しようとも、攻撃の術を一度に失う事を忌諱しているのだ。
「水雷戦隊、ぼちぼち時間だ。対潜を厳に第2戦速を維持したまま走れ。401を発見したら、天津風と磯風は艦隊から離れろ。徹底的に追い詰めてやれ」
伊401を発見次第、水雷戦隊を分割しても無力化しなければならない。それが出来なければ空母が一方的に攻撃されてしまう。水雷戦隊はあくまで鋒矢の傘を減耗させる事が目的。規模は兎も角、中核戦力となる空母を無力化される訳にはいかない。
「……アラート、止まないわね」
耳障りなアラートが何度も何度も響き渡る。思わず天津風はインカムを外すのだった。査閲が開始されればインカムを付け直すつもりだ。早速、対潜を厳にという指示を疎かにし出す艦娘が現れた。執拗なロックオンアラートは士気以外にも、規律にまでダメージを与え始める。
「ソーナーの音が聞こえにくいです……」
「魚雷音聴知に支障が出るな」
各々が弱音を吐き出す始末。装甲空母達の戦意が挫けていないのが、幸いである。目標としている制空権の確保が確実に出来るであろうと踏んでいるため、ロックオンされたとしてもまだ前向きでいられるのだろう。
「弱言吐いてんじゃねぇ! やってみなきゃわかんねぇだろうが!」
天龍の怒号が海原に響く。1人の戦意が高かろうが、たった1人だけならば匹夫の勇に過ぎない。1人で戦況を覆せる訳はない。あってはいけない。であるからこそ、艦隊を目標へ向けて走らせる必要がある。
「あまり怒鳴るな天龍。アラートよりお前が煩いぞ」
磯風の水を差すような発言に天龍は舌打ちをして、海面を蹴り付ける。水飛沫が磯風の着衣を濡らした。互いに視線すら交わさぬまま、そっぽを向いている。仕方ない人たちだと阿賀野はニヤニヤと笑い、両者の肩を叩いた。
「もうそろそろ始まるから、あんまりカッカしないで? 大丈夫、鋒矢の向かって右翼を叩けば多分、突破できるから!」
鋒矢陣形の右翼を叩き、反航戦に持ち込んだ後、丁字有利をもぎ取る。これさえ出来ればいい事なのだ。ロックオンアラートの事は余り気にするな。仲違いをするなと阿賀野は笑顔で語りかけ、2人の間を取り持とうとしていた。
天龍が怒り、磯風が油を注ぎ、阿賀野が取り持つ。いつもの光景。それらが訓練とはいえ、戦場に立ち、恐れを抱いた艦娘達のストレスを和らげてくれる。仕方ない旗艦達だと彼女達を一歩下がった所で見据える阿武隈であった。
(後日、加筆再投稿)
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