二次創作小説(新・総合)
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- 【合作】逃走中~ザ・ラスト~【完結!】
- 日時: 2019/09/06 13:58
- 名前: モンブラン博士 (ID: EUHPG/g9)
モンブラン博士の逃走中、最終作!
私、こなくんさん、ヘキサさん、ネクスタさん、名無しさんによる5人の合作となります!
これまでの逃走中で逃走成功した者や無念の涙を飲んだ者、そしてスター流のメンバーが大集合する最後の作品!
果たしてラストに逃走成功を果たすのは誰になるのでしょうか!
逃走者一覧
小泉花陽
矢澤にこ
南ことり
ねこ娘
グレイ
ジェネラルシャドウ
天ノ川きらら
火野レイ
相田マナ
黄金バット
木下秀吉
ミスタークエスチョン
小泉さん
ロディ
川村猫衛門
不動仁王
星野天使
美琴
カイザー=ブレッド
>>1
逃走者リスト
>>21>>22
- Re: 【合作】逃走中~ザ・ラスト~ ( No.66 )
- 日時: 2019/09/03 19:24
- 名前: モンブラン博士 (ID: EUHPG/g9)
サンシャインの体重は1トンもある。それを軽々と一本背負いでブン投げたにこの怪力にジャドウは戦慄を覚えた。この女は今の内に始末せねば、後々より強大な力を身に着け、吾輩に歯向かうかもしれぬ。
「サンシャインよ。遊びは要らぬ。全力で奴を仕留めよ」
「お前に言われるまでもない。このサンシャイン様を甘く見るなよ!」
サンシャインは地獄のコマでにこを再度吹き飛ばすと、身体を凱旋門に変化させ、にこの胴体を挟んで落下。そして徐々に門を狭めることにより彼女の肋骨にダメージを与える。肋骨を圧迫される痛みに歯を食いしばりながらも耐えるにこに彼は技を解除。今度はピラミッド状に変化して、尖った先で彼女の掌を串刺しにする。
「地獄のピラミッド!」
「きゃあああああッ」
両手の甲からドクドクと血を流すのを見たサンシャインはニヤリと笑い。
「矢澤にこよ。これでお前の怪力は封じた。あとはコレで決着を付けてやる」
にこの両足を両脇に挟んで自らの身体を軸にしてジャイアントスィングで猛回転。あまりの回転の凄まじさに空気が裂けミスミスという独特の音を発する。
勢いが付いたところでロープに放り投げると、反動で返ってくる彼女に対し、遂にサンシャインは己の最強必殺技を発動した。
彼の胸部が開き現れたのは漆黒の巨大なローラーだった。
胸の上下に設置された通称呪いのローラーは美少女を粉砕しようと待ち構える。
ギュルルルルルルルルル……
激しく唸るローラー音。にこは頭からそれに真っすぐ突っ込んでいく。
数々の超人の命を奪い、身体を粉砕してきたローラー。にこが入れば、一瞬でその命は潰されてしまうだろう。高らかに笑うサンシャインに、にこは無言でローラー内に入っていく。
ギュルルルルルルルルルルッ
「にこちゃああああああああああん!!」
試合を観戦していた花陽は絶叫した。大好きな仲間が目の前で命を奪われたのだ。クエスチョンに続き、にこまでを失ってしまった。ショックのあまり両膝から床に倒れ伏す花陽。その時、サンシャインの笑い声が止まった。
「何だ。故障か?」
先ほどまで勢いよく回転していたローラーの音が鈍くなっているのだ。
どんなものでも一瞬で粉砕する呪いのローラーだがコンクリートなどで内部から固められた場合はその威力を失うという弱点があった。しかし、にこがそんな術など持つはずがない。生身の肉体なら一瞬でミンチになり、それで試合終了だ。
モニターで映る脱落者達は先ほど泣いていた花陽も含め、口を半開きにしており呆然とした表情でこちらを見ている。真相を確かめるべく、サンシャインが目線を下にすると。
「にっこにっこにぃ……」
「何ィ!?」
何とにこがローラーの中で重量上げでもするかのように立ち、両足で下のローラーを踏みつけ、両腕で上のローラーを押し上げ、巻き込まれてたまるかと抵抗しているではないか。
「どうしてだ!? 何故、こんなことができる!?」
「にこを入れるにはこのローラーはちょっと大き過ぎたニコよ」
呪いのローラーは普通の超人が入ることを想定して設計されている。
超人は通常人間よりも体躯が大きい。しかし今回の対戦相手であるにこは、普通の一般男性よりも遥かに小柄な154cmしかない。当然の結果として、ローラーの隙間に入り込み、何の損害も与えていなかったのだ。
「まさか貴様、最初からそれを狙って――」
「全部偶然ニコ。でもそうしたらうまくいったニコ。多くの超人を苦しめてきたこんなローラーは笑顔届ける矢澤にこが破壊するニコ~!」
渾身の力で上下のローラーを破壊すると、にこはサンシャインの体内から脱出。
そして格闘の構えをとると砂の超人に宣言した。
「この闘い、にこのアイドル人生の総決算で挑ませて貰うニコ!」
「ローラーを壊した程度で思いあがるなよ。このチビが~ッ」
猛然と襲い拳や蹴りを見舞うサンシャインだがにこには命中しない。
「ぬぅ。この避け方は」
「穂乃果直伝の自動車避けニコ」
両腕で捉えようとするサンシャインを腕立て伏せの体勢で回避。
これは真姫が以前やっていたポーズだった。
「ラブアローシュート!」
サンシャインの喉元に矢のような手刀を放つ。その速度と正確さは園田海未の如し。にこは後方を向いて、振り返る時に加速をつけて裏拳を一撃。
「今の動きは南ことりが戦闘中最大トーナメントで披露したのと同じ……」
「正解ニコ!」
凛を彷彿とさせる身軽な動きでトンボを切って間合いをとると、サンシャインがタックルを敢行してきた。しかし、それをにこはX型のガードで防ぐ。
先ほどのガードと形は似ているが手は開いたままだ。
その防御法に花陽は目を丸くする。
「あれって私が穂乃果ちゃんとランニングをした時に、穂乃果ちゃんのごはん屋の誘いを断った時のです!」
そう。にこは全てを観ていたのだ。メンバー1人1人の細かい動作を。
だからこそそれを戦闘に取り入れることができたのだ。
「うおおおおおっ」
吠えたサンシャインが拳を見舞うと、にこはそれに合わせて片足立ちになり、左足で後方にキック!
これは入部当初の絵里に鍛えられたバランス感覚を養うトレーニングを応用したものだった。甲板を蹴られよろめいたサンシャインは、宙に飛び、ボディプレスで押しつぶそうとする。にこは目を瞑り、接近に気付いていない。
「にこちゃん、危ない!」
花陽が叫び目と鼻の先にまでサンシャインが迫った時、にこはサッと身を翻したので彼は自爆してしまった。
「ぐうっ、なぜわかった。目を瞑ったままで?」
「希ちゃんのスピリチュアルパワーのおかげニコ。
今度はにこ自身の反撃ニコ!」
にこは目に炎を宿し、燃えていた。是が非でもサンシャインを倒すのだと。
「ミュージックスタート!」
にこが指示を出すと大音量で「にこぷり女子道」が流れ出す。
「何だこの煩い音楽は!」
「にこのテーマソングニコ!」
にこのジェット機のような鋭い肘鉄を受け、サンシャインは悶絶。彼は砂の身体であるがその変化能力は精神的なダメージを受けると幾分か低下しダメージを食らうようだった。
- Re: 【合作】逃走中~ザ・ラスト~ ( No.67 )
- 日時: 2019/09/03 21:33
- 名前: モンブラン博士 (ID: EUHPG/g9)
サンシャインがにこの猛攻を受けながら思い出すのは嘗ての苦い記憶だった。
彼はウォーズマンの体内において人間だった時のジェロニモと闘い、敗北している。超人強度700万、しかも悪魔超人軍の首領格である彼が超人パワーを持たない人間に負ける。それがどれほど屈辱だったかは想像に難くない。そして今、彼は追い詰められていた、人間の少女に。
俺は負けるのか? またしても。
そのような想いが駆け巡るなら、上から拳を穿つもそれを避けられ、側転してからのドロップキックを炸裂されてしまう。このムーヴは高海千歌が披露したものだ。にこは続けて上空高く跳躍すると、膝を抱えて幾度も回転し、サンシャインの背を踏みつける。渡辺曜の高飛び込みの技術を応用したのだ。
「グオオオオッ」
サンシャインはバックを取ろうと手を伸ばすが、にこは背を向けたまま笑顔を見せ。
「空間移動を使います」
フッ
何とその場からにこの姿が消失してしまったではないか。
「どこへ消えた?」
「後ろに移動しているニコよ」
善子(ヨハネ)を彷彿とさせる超高速移動でバックを取り、投げっぱなしスープレックスで彼の頭をマットに激突させた。頭を振るうサンシャインに肉迫し。
「ハグしよ?」
渾身の力でベアハッグを極める。関節がないはずのサンシャインが呻くその威力にジャドウはダラダラと汗を流した。何故、単なる人間がこれほどまでに圧倒できる? 彼は真相を確かめるべく超人パワーを計測する装置であるパワーガンの標準をにこに向けた。しかしメモリの数値は0である。
「フフフフ、やはり並の人間に過ぎな――」
ピピッ
ジャドウが言いかけた刹那、パワーガンの数値に変化が起きた。
0から1になりどんどんパワーが上昇していく。
「100万……200万……」
そして最終的には。
「2500万パワー!?」
驚くべき数値の高さに驚愕すると共に圧倒できるのも納得した。
サンシャインよりもずっと超人強度が高かったのだ。
「サンシャイン! 今のアンタの相手はにこだけじゃないニコ! μ'sとアクア全員が相手ニコ!」
にこは大きく息を吸い込み。
「ピギャアアアアアアアアッ!」
凄まじい高音の声を食らい、サンシャインの身体は砂化する。
しかしすぐに再生するが、にこは彼の胸の日輪マークを掴み、彼の核であるキーパーツを抜き取った。
「これでアンタは終わりニコ」
「それはどうかな」
崩れかかっているサンシャインだが、まだその身体が崩壊するには至らない。
彼を完全に倒すには一定の衝撃を与えなければならないのだ。
だが、にこは目の前に手を出すとにこっと微笑み。
「アンタに食らわせてあげるニコ。にこの友達の最も得意とする技を!」
にこは砂の超人の頭頂部まで一飛びすると、鋭い手刀を振り下ろした。
「ベルリンのおぉぉ、赤い雨ええええええぇ!!」
手刀はサンシャインの砂の体躯を一刀両断にし、大量の血が身体から放出される。
「ま、まさか貴様がブロッケンJRの技を使うなん……て……」
「ブロッケンJRはにこの大切な友達ニコ。だから最後はこの技でどうしても決めたかったニコ。これまでの恩を返す為にも」
ブロッケンは第1回逃走中でにこと行動して以来、彼女と交流を深め、μ'sの危機の際にはドクロの徽章を貸し出し、ことりやにこを度々救ってきた。そして今回もにこの服の胸ポケットの中には徽章が入っていた。それが仲間を想う友情の力に作用して2500万パワーという桁外れの超人強度をもたらしたのだ。
サンシャインは轟沈し、砂と化した。今度は元に戻らない。それはつまり、にこの勝利を意味していた。
「にっこにっこにー♪ あなたのハートににこにこにー! 笑顔届ける矢澤にこにこー♪ にこにーって呼んでね、ラブにこっ♪」
いつものポーズといつもの笑顔。それが宇宙№1アイドル、矢澤にこの強さなのだ。
矢澤にこVSサンシャイン 勝者 矢澤にこ
- Re: 【合作】逃走中~ザ・ラスト~ ( No.68 )
- 日時: 2019/09/04 12:47
- 名前: モンブラン博士 (ID: EUHPG/g9)
「ジャドウ、この中から誰か1人を出してみないか?」
にこ戦の直後、グレイが唐突にこんなことを口にした。
普段は無口な彼の意外な提案にジャドウは目を細め、牢獄に近づく。
「そのようなことを言って、吾輩が牢獄を開けたら全員脱出する気であろう。
お前の提案は認められぬ」
「開けるまでもなく、お前は魔術で選んだ者だけを外に出すことができるだろう。それに全員、消滅する覚悟はできている。今更喚くような往生際の悪い真似をするつもりはない」
「ならば何故、そのような提案をする?」
「カイザーは1人、対するお前達は2人。フェアな勝負ではないからな」
「根っからの戦士であるお前には理解できぬだろうが、多少卑怯でも勝てればいいのだよ。それが吾輩の美学」
「怖いんだろ」
「何ッ!?」
無機質なロボの一言に、ジャドウのこめかみがピクリと動いた。
「お前はカイザーを恐れている。だからこそ2人で挑みたい。違うか。
自信がないからこそ数で有利に持ち込みたいと思っている。ジャドウ=グレイともあろうものが情けない話だ」
「ぐッ……」
「どうした。何か言ってみろ」
ジャドウが言葉を詰まらせたのを見て、牢獄の脱落者達は一斉に笑いだした。
小泉以外の脱落者は声を上げて笑っている。
彼らの笑い声が耳に入る度にジャドウは腸が煮えくり返る思いがした。
どうせ奴らは消滅する定め。だが、これほど大声で笑われるのは屈辱だ。
しかし、カイザーの味方が増えるのは警戒が必要だ。どうしたものかと思案していると、目黒が口を開いた。
「ジャドウ、誰か1人出してやれ」
「目黒!」
「俺は100倍のパワーを手に入れている。誰が出ても返り討ちに出来る」
「大した自信だな。では、俺が牢獄から出す奴を選んでもいいんだな」
「好きにしろ。俺はあの猫娘でさえ倒した男だ。もはやこの世に恐れる者は何も無い」
「待て、目黒。奴らの口車に乗ってはいかん」
「ジャドウ。俺はアンタの依頼を達成したんだ。少しくらいの我が儘は目を瞑って貰いたいものだ」
目黒の協力が無ければ確かにジャドウはここまでスター流を壊滅させることはできなかった。今、彼の機嫌を損ねて逃げられでもしたら計画は頓挫する。癪ではあるが、多少の我が儘は認めてやらねばなるまい。
「……わかった」
「同意したようだな。ではグレイ、誰を出す? 名を告げてみろ」
「俺達は万丈の一致を持って牢獄から出そうと思う。彼女をな」
グレイが前に突き出し、両肩にポンと手を置いたのは。
「わたし……ですか?」
スター流の美琴だった。
美琴を見た目黒は鼻で笑い。
「美琴か。先の戦いで手痛い敗北を喫したことがあるが、あれは遠い過去の話。
100倍の力を得た俺の敵ではない!」
自信満々に語る目黒にジャドウは不満ながらも、希望通り美琴を外に出した。
牢獄から出された美琴はペコリと丁寧に頭を下げ。
「ありがとうございます。カイザーさんと共に全力で戦わせてもらいますので、よろしくお願いしますね」
「悪魔である俺の恐ろしさを骨の髄まで教えてやる」
その時、カイザーが到着し、ここに2VS2の最終決戦が行われることとなった。
- Re: 【合作】逃走中~ザ・ラスト~ ( No.69 )
- 日時: 2019/09/04 18:31
- 名前: モンブラン博士 (ID: EUHPG/g9)
最終決戦の決戦場はごく普通のリングだった。マットがコンクリートでも、ロープに電流が流れているわけでもない。何の変哲もない王道のリングだが、ジャドウは試合にあたって一つだけ注文を付けた。完全決着を目指す以上、反則無制限でやろうというのだ。カイザーはジャドウの案に唸った。このジャドウ=グレイという男は凶器攻撃や反則にかけてはスター流で右に出る者はいないほどで、目黒も銃という飛び道具を多用する。カイザーはカイザーブレードという愛剣を所持しているが、神聖なリングで使ったことは一度もない。
躊躇っていると美琴は口を開き。
「カイザーさん。相手の提案を飲みましょう。彼らも全力を出せる状態で戦った方が悔いは残らないでしょうから」
カイザーは美琴の眼を見た。優しいながらも真剣そのものの目だ。美琴は心優しく闘いを嫌う性格だ。けれどこれ以上被害が増えてはいけないと、彼らの行いを全力で止める為に闘おうとしている。相手が最も得意とする手法で。
彼女の覚悟を察したカイザーはジャドウの案を飲むことにした。
試合開始の鐘が鳴り、先発は目黒と美琴だ。美琴は試合開始と同時に目黒の背後をとって腰に手を回し、彼をジャーマンスープレックスで投げる。すぐさま技を解くと足を両脇に挟んでジャイアントスィングで振り回す。適度に回転させたところで腕を放して放り投げ、目黒の背をコーナーの鉄柱に激突。間髪入れずに自らもタックルを見舞って、ヒットマンを自分とコーナーで挟む。いつもは消極的で相手の攻撃を避けたり受け流したりする美琴だが、今日は違った。
いきなり先制攻撃を仕掛け、果敢に攻めていく。コーナーから引きずりだした目黒をハンマー投げの連発で幾度もマットに叩きつけていく。手を放さずに右へ左へ軽々と叩きつけられる目黒。彼は相手の予想外の攻撃に面食らい、対応が遅れてしまっていた。地面に倒れ、ニードロップを敢行してきた美琴を膝ごと掴まえ、後方に投げる。身を翻して着地するのを確認し、自らも立ち上がると口を開いた。
「お前がその気ならこっちも容赦はしないぜ」
目黒の右ストレートが美琴の頬にヒット。左もヒット。
怒涛の鉄拳を彼女の整った顔に与えていく。血飛沫がマットだけでなく牢獄にまで飛んできて、花陽が短い悲鳴を上げた。目黒は猫娘にしたように美琴の腹を岩石のような拳で殴りつけ、凹ませる。前のめりになったところへ肘鉄を一撃。
更に腹を蹴って吹き飛ばし、地面に転がった隙に彼女の左足に全体重をかけたニードロップを打ち込む。彼女の胸を鋭い貫手で何度も抉り、腰の銃を抜いた。
美琴の白い装束は血に赤く染まり、長い黒髪は顔に張り付き、乱れている。
「俺が本気を出せばお前などこんなもの。今の俺にはお前などただのガキに過ぎない」
無抵抗の美琴に怨みの弾丸を連射する。怨みのエネルギー弾が彼女に命中する度に美琴は小さな悲鳴を上げる。両腕はロープに絡まっているので脱出することは叶わない。試合とも言えないような凄惨な光景に花陽は観戦していた花陽は気を失ってしまった。闘い慣れしているレイも目を背けそうになるほど美琴の痛々しい姿。目黒は跳躍し悪魔の翼を展開すると、突風を美琴に浴びせる。
猛烈な風に髪が吹かれ、飛んでくる小さな紙きれに触れた箇所が切れ、血が滲む。
急接近し、蝙蝠の如き翼で美琴を包み込み、棘で彼女の身体を串刺しにする。
全身を貫かれ、噴水のように血を噴き出す。その光景は地獄絵図そのものだった。
体内の血を殆ど出し尽くしたとさえ思われる美琴に尚も目黒の攻撃の手は止まらず、彼女の頭を掴んで高々と持ち上げて無理やり立たせると、その耳に鋭利な指を使用し聴力を破壊。そして、生気の完全に消え、呼吸も脈も停止した美琴を宙に放り投げる。
空中で猫娘を倒した「マッキンリー颪」を極める。
その時、試合を静観していたジャドウは違和感を覚えた。
何故だ。これほどチームメイトが重傷を負っていれば、カイザーならば助けに行くのが道理のはず。この試合はルールは無用だから、彼なら迷わずそうする。
だがどうしてカイザーはこれほどの状況下でも美琴の救出に向かわない。
それに、牢獄の様子も変だ。普通ならば奴らは声援を送るはず。それなのに、この試合がはじまってから奴らは一言も口を利いてはいない。
九割九分九厘、目黒の勝利は確定している。
だが、この強烈な違和感の正体は何なのだ。
自分でも解明できない違和感に不気味さを感じていると、脳裏にある光景が蘇ってきた。嘗て、1度だけ美琴と闘った時の光景だ。場所は断崖絶壁の崖の上――
その時、冷静沈着なジャドウは気が付くと声を荒げて叫んでいた。
「今すぐにマッキンリー颪を解けーッ!!!」
しかし、目黒はジャドウの言葉に耳を貸さない。
「何を言っていやがる。この一撃で完全にこいつはジ・エンドだ!」
ズゴオオオオオオオオッン!
轟音と共に煙がリングを覆う。煙が晴れるとそこにはマッキンリー颪を極めた目黒と完全に失神している美琴がいた。技を解き、轟沈する美琴に目黒は背を向けたまま言った。
「2人目、依頼達成だ!」
その時、彼の背後から微かに音がした。
そして感じる人影。
「何だよ。ジャドウ、もう交代か。カイザーも俺に始末させろ」
「……」
「どうした。黙っているなんて、アンタらしくないぞ。ジャド……ウ……!?」
振り返った目黒は絶句した。背後には先ほど倒したはずの美琴が立っていたからだ。それも、全身から眩いばかりの光を放ち、全くの無傷の状態で。
傷が癒え、試合開始前と何も変わらぬ状態の美琴を見て、ジャドウは両膝からガックリと崩れ落ち、首を垂れた。そして全身を震わせた。寒さではなく、恐怖からくる震えだった。彼らは失念していた。
美琴がスター流の門下生の頂点に立つ人物であったことを。
なぜ頂点に立っているのかを。
ジャドウはこれまでの威厳が嘘のように消え、ガクガクと震える唇で言葉を紡ぐ。
「美琴は――絶対に何があっても倒せない!!」
美琴は涙を流し、目黒に宣告した。
「目黒さん……ごめんなさい」
- Re: 【合作】逃走中~ザ・ラスト~【参照2000突破!】 ( No.70 )
- 日時: 2019/09/04 21:30
- 名前: モンブラン博士 (ID: EUHPG/g9)
美琴の背から放たれた光で生成された拳の無数の打撃を全身に受け、目黒は口から緑色の血を吐き出した。
「ゴホォ……」
殴られた激痛が身体を駆け巡るが、彼はダウンをせずに踏ん張る。
けれど今度は蹴りが襲い掛かってきた。胸や腹に足跡がつくほどの強烈な足技の連続にも耐えきり、彼は傷を修復する。目黒は己の再生能力に自信があった。
どれほど反撃を受けようがこの能力がある限り負けはないと確信していた。
美琴の両肩に重砲が現れ、桃色のエネルギー波を発射する。これは先ほど目黒が乱射した怨みの弾を愛の力に反転させ光線にしたものだ。
両腕をクロスして防ごうとするが、光線の威力に圧され後退していく。ガードを弾かれ、まともにビームが命中。愛は憎悪の天敵であるためか、流石の悪魔も片膝を突いてしまった。軽く息を乱しながらも、その瞳に強い怨みを宿し起き上がってくる。
「どうした。もう終わりか」
「いいえ」
涙を流しながらも無感情な声で美琴が告げると、上空から巨大な槍が降ってきて目黒を貫通する。完全に身体を貫かれた目黒は腹から大量の血を流すものの、槍が消失すると同時に身体の傷を治す。
「お前がどれほど攻撃を反射しようとも、俺の再生能力は無敵だ」
攻防の様子を静観していたジャドウは察した。
牢獄の連中は美琴が能力が発動して目黒に反射するのを待っていたのだ。
彼らの怒りは強い。それこそ目黒を消滅させても不思議ではないほどに。
美琴はその怒りを代弁しているに過ぎない。確かに、目黒の再生は強力だ。
どれほど負傷しようが身体が破壊されようが瞬時に元に戻る。
一見すると無敵に思えるが、目黒は力に溺れて忘れている。
どうやって己が100倍のパワーを得たのか。
そして、その代償を。
巨大な光の指が左右から目黒の頭部を破壊するが、それさえも彼には何らの損害も与えていなかった。コキコキと首を鳴らし、ニヤリと不敵に笑う。
「ジャドウが狼狽したので警戒してみたが、何のことは無い。能力など恐れることなどないではないか」
その時、目黒の身体から紫色の煙が噴出し始めた。
煙は靴や腕、頭など至るところから噴き出している。
「何だ。何が起きた……?」
突然の体の変化に多少の戸惑いを覚えていると、ジャドウは冷酷に言った。
「心配することはない。単にお前の力が尽き、限界を迎えつつあるということだ」
「何だと。それはどういう事だ!?」
詰め寄る目黒にジャドウは涼しい顔で答えた。
「お前はこれまでの悪の逃走者達の怨みを食って急激なパワーアップを果たした。だが、怨みとて無限ではない。カロリーと同じで闘えば闘うほど、再生したり弾丸として使用すればするほど消耗していくのは当然のこと」
「!?」
目黒はこれまでの戦いで自分が想像していた以上に怨みの力を使っていたのだ。
猫娘達の奮闘は決して無駄ではなく、細かいながらも傷を刻んでいたのだ。
「で、では今の俺は!?」
「吾輩の目から見て前と同等程度の力にまで落ちているだろう」
「馬鹿な!」
衝撃的な事実に目黒は思わず動きを硬直させてしまった。
もう、再生能力は使えない。あと一撃強大な攻撃を食らったが最後、自分は滅ぶ。
銃の引き金を引くがカチカチと虚しい音がするばかり。
「ジャドウ、タッチだ! タッチをしてくれぇ!」
味方に手を伸ばすが、ジャドウは不敵に笑うばかりで応じない。
「吾輩には友情や仲間意識などという概念は存在しない。目黒怨よ、短い間だったがご苦労だったな。もうお前に用はない」
目黒怨は悟った。ジャドウは最初から自分の弱点に気付いていた。
気付いておきながら利用するだけ利用し、切り捨てるつもりだったのだ。
対等な関係だと思っていた男からの裏切りに、彼は地面が崩壊するほどの精神的な衝撃を受けた。だが、ジャドウは言葉を続ける。
「喜ぶがいい、目黒よ。美琴の能力が切れた。平和主義者の奴の事、これ以上、お前を攻撃することはないだろう」
振り返ると気絶から覚めた美琴は後退し、背後の人物に手を伸ばす。
つまりそれはタッチの合図だ。
「美琴は攻撃せぬが、カイザーはどうかな」
三本ロープを軽々と跨いでリングインするカイザー。
皇帝の威厳溢れる緑の瞳を目の当たりにした目黒は歯をガチガチと鳴らす。
額からは滝のような汗が流れ、両足は生まれたての小鹿のように震えている。
カイザー=ブレッドの伝説とその実力を目黒は嫌というほど知っていた。
「目黒怨!」
威厳ある低音で名前を呼ばれ、目黒は怯えることしかできないでいた。
「頼む……カイザー、許してくれぇ」
カイザーの右腕が炎に包まれ、その全身が美琴以上の輝きに包まれる。
その光はリングだけでなく牢獄までも温かく照らしていく。
その意味を目黒はよくわかっていた。
スター流において伝説の男であるカイザーの最大の得意技にして最強奥義。
大きく腕を引き、拳に魂を宿す男に目黒は懇願する。
「やめてくれ! その技だけは! 今回はちょっと力を付けたんで暴れただけじゃねぇか! 何もその技を俺に向けることはないだろう!」
「天に祈り」
「それだけはしないでくれぇ!」
「己の過ちを悔いて」
「猫娘の魂なら返してやる! ミスタークエスチョンも生き返らせる!
だから見逃してくれぇええ!」
「来世で生まれ変わるが良い」
「やめろおおぉぉ、よせええええええええッ!」
「太陽の拳!!」
カイザーの聖なる魂を込めた最強の一撃は相手が誰であろうとその肉体を消滅させ、その魂を強制的に転生させることができる。
この一撃に関してはスター流の創始者であるスターであっても抗う術はないと断言するほど絶大なものだ。
拳を前に突き出したことで発生した超高温は目黒の全身を包み込み、腕や足、胴体を跡形もなく消滅させていく。
「ぎゃああああああああ……ッ」
最後に残った頭部も断末魔を残し、魂の一欠片に至るまで消滅し、多くの命を弄んだヒットマンはこの世から完全に姿を消してしまった。
「相変わらず恐ろしい威力だな、お前の技は」
「ジャドウ、君にも放ってもいいが、どうする?」
「フフフフフフフフ……」
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