僕は悠久の向こうに 作者/琉世 ◆GbvohmL8bU

【1】



鳩が鳴いている。
 そろそろ、家を出ないと学校を遅刻しそうだなぁ。と、悩む。棚に並べている『日本の妖怪~全8種+1(シークレット)~』シリーズの+1にあたる河童のフィギュアが何故か無いのだ。
 昨日の夜は棚にあったはずだ。う~ん、と唸り棚を見つめる。シークレットが出るまでに5個も出てしまった一旦木綿のフィギュアは確り6つ並んでいる。
 命の次に大事なフィギュアを探すためなら、学校も休んで良いと僕は思う。だがフィギュアの為に学校を休んだと母に知られたら、確実に殴られる。
 僕はしばらく悩んで、学校を優先することにした。殴られたくないし。ごめん。河童君。君の事は、帰ってきたら探すよ。
 僕は、自室の扉を開ける。のんびりできる時間じゃない。急がなければバスの時間に間に合わなくなってしまう。
 玄関に向かい、僕はフィギュアを後にした。

 僕は、真剣にフィギュアを心配しながら桜並木の道を歩いていると、見慣れた少女を見つけた。最近のモデルさんのようなクルクルした髪。セーラー服。自分と同じ学校の女子制服だ。

 智愛だ。

「智愛」
 僕は後ろから前を歩く少女に呼びかけた。
「優介だ、おはよう。今日は少し遅いね」
「智愛も遅いだろ? 珍しいじゃん」
「優介はどうしたの? 寝坊?」
「ん。河童がいなくて」
 彼女は、えへっ。と笑い
「優介らしいね」
 と答える。
 適当にしゃべりながら、僕等はギリギリで間に合ったバスに乗った。このバスにさえ乗れれば遅刻は避けられる。

 智愛が笑うと、世界の全てが平和な気がする。勿論そんなわけないんだけど。今がとても、幸せに感じる。

 時間は残酷に流れる。
 時間は優しく流れる。

 時間は平等に、そして正確に優しく流れる。僕はそう思うのだった。