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cynical【完結】
作者: 美奈  (総ページ数: 63ページ)
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*3*


2ー3
「はじめまして。姫川舞です。今16歳なんですけど、ここで働きたいなと思って…」

人の良さそうな店長は言った。

「なんで、ここで働きたいの?」

「…ぇ…」

…たまたま求人広告を見つけて、人が足りないんだなぁ、って思ったから。
…交通費をもってくれるって言うから。
…親とケンカして、仕方なく。

意外とまだまだあるかも。
理由なら、いくらでもあった。けど、店長の前でまともに話せる理由は、ひとつもない。
思ったより辛いな、面接って。
社会を完全に舐め過ぎたな、これは。
でも、何か喋らなければ。親のスネをかじらないと決めたんだから。

「…しゃ、社会勉強の一貫として…」

昨日、母親が言っていたことをここで完全にコピーして、何とかマシな理由を述べた舞に、店長はさらに追い打ちをかけて来た。次の質問も用意していたようだ。
このしぶとく生き残ったレストランよりも、私の方が崖っぷちだったのかもしれない。

「なんで、このイタリアンレストランなわけ?」

焦った。結構、焦った。
こだわりなんてない。ていうか、逆にあるの?16歳でこだわりも何もあったもんじゃない。
あー、まずい。ちょっと間違えてたな私。
母親の言っていた事が正しかったかもしれない、という考えを慌てて掻き消す。ここで親を認めたらダメだって。グリンピースの為に親に対抗したんだから。
…どう答えたらいいんだろ。
でも、何か喋らなければ。親のスネをかじらないと決めたんだから。
頑張れ私、何か良い理由は…?

「イタリアン料理が、好きだから、です…」

イタリアンは、好きでも嫌いでもない。…極めて普通、のレベルなのだ。
こんな中途半端な人間を雇うはずがない。
こんな理由で良いわけがない。
あー、失敗か…まぁそうだよね、最初から成功する訳ないよね、この馬鹿が。親友にまで真顔で馬鹿扱いされる身だもの。成功したら北半球と南半球入れ替わるもんね。
仕方ない、他の店にするか。

そう思った時、店長はにこーっ、と舞に笑いかけた。

「おっけー!そーゆーことなら、雇ってもいいよー!明日から来てねぇっ」

北半球と南半球が、入れ替わった。地球の自転方向が変わった。
…いや、雇っちゃいけないでしょ、こんないい加減な子を。
店長頭狂ったかな。

「あ、…ありがとう、ございます…」

でもまぁともかく、仕事はゲットしたのである。めでたしめでたし。
多分地球環境色々変わったけど、みんな生きてるし。大丈夫でしょ。
ちゃっかりと舞は翌日から、バイトを始める事にした。

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