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作者: 美奈 (総ページ数: 63ページ)
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2ー4
そして、姫川舞は今日、親友の真琴にバイトすることを伝えたら、すごく驚かれた。
それもそのはずだと思う。昔から舞は人に言われたことと正反対の事をしたり、人からこれは絶対やるな、と再三注意されたことは必ず無限に繰り返すのだ。
しかもそれは、キャラ作りとかでやっているわけじゃない。本能と言うか、無意識に近い、というのが本当の所だろうか。
こんな舞を小学校の時から10年間も見ている真琴である(10年友達でいてくれるのも奇跡だ)。ここまで来るともうある意味天才というか、逸材な訳でありまして。
徐々に直りつつはあるものの、双葉学園高校1年生、16歳の舞はまだまだ生粋の馬鹿、そして純粋な阿呆で、間抜けの王道を突き進む。漫画に出てきそうなおとぼけキャラそのもの。おとぼけのレベルを多分相当超してるけど。
彼女がイタリアンレストランなんかで働けば、パスタの入った皿を落とし、オーダーを間違え、禁煙席の希望者を満面の接客用笑顔で喫煙席に連れて行くのは必至である。店の利益はだだ下がりかもしれない。うなぎ上りの正反対。
しかし、そんな舞を、たった一日の超短時間面接だけで店長は採用してくれちゃったのだ。なんと浅薄で愚かな店長なのだろう。
…まぁ、そりゃあ愚かだろう。しかし、逸材でもあるだろう。
何しろ、地球の自転方向を変えた男なのだから。
事の次第を聞いた真琴は、ただ盛大なため息をついただけだった。
10年もいれば、さすがに相手の反応も予測がつく。
舞もそれ以上のリアクションは求めてはいなかったので、あまり気には留めなかった。
何か言ってやらなくちゃいけないと思ったのだろうか。真琴がおもむろに口を開いた。
「まぁ、とにかく行くだけ行ってみな。最初で最後だと思って行くのよ。さぞかし、店長も己の愚かさを呪うだろうね」
「………だね。一日でクビを覚悟して行くよ」
舞の少し落胆したような声を、半眼になっていた真琴は聞き逃さなかった。
これも10年いると自ずと気づくものだ。
「そりゃあそうよ。それとも何、え、なになに、もしかしてイケるかも、とか思ってんの?……無理無理無理無理無理っ、あんた以上に店の利益にならない人間はいないよ」
舞はほんの少し、泣きそうになった。
「ひ、ひどい…」
「ひどくなんかないって。真実を言ってるだけでしょう?こんなに率直に言うのも、親友としての優しさと受け取ってもらわないと」
真琴の言うことも一理ある。他の人なら当然の如く舞に呆れて、何も言わなくなるだろう。何も言わなくても、彼等は腹の中で舞を嘲笑しているのだ。10年一緒にいても尚、こんなに率直に言ってくれる所は、確かに優しいのかもしれない。ただ、言葉がすごーくキツくて、ハートにグイグイ刺さるけど。
舞は恐る恐る聞いてみた。
「は、はぁ…。…まぁ、頑張ってみるけどさぁ、もし、もしもしクビになったら?」
「クビになったら?すぐにクビになりそうだと思ったけど、舞も本気でやれば一日でクビにはならないと信じるとして……んー、クビじゃなくて、何らかのミスをしたら。……ほら、例えばお皿割ったとか。そしたらグリンピースご飯食べなさいよ、ちゃんと」