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cynical【完結】
作者: 美奈  (総ページ数: 63ページ)
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*33*

8ー2
舞の表情が、一瞬だけ切なくなる。

「あぁ。それ、家族の写真。…お父さんと撮った、最後の写真」

家をバックに撮ったのだろうか。舞たち家族3人が、仄かに笑っている。
湊は、静かにそれを見つめていた。幸せそうだった。
でもこの雰囲気を、知っているような予感もした。

「…実はね」

湊は写真を手に持ったまま、黙って先を促す。

「私のお父さん、再婚なんだよね。私が3歳の時に家に来たの。婿入りだったから、名字はお母さんの方。つまり、姫川なんだけど」

彼は、剣呑に思って舞を見た。
…再婚?3歳の時…。

「そのお父さん、て、もともと何て名前の人なの?」

「えっと…櫻木司、って言ったかな」

ー湊、いい?あなたは今日から、櫻木湊じゃない。…神田、湊

意味が分からず首を傾げた6歳の彼に、母は言った。

ー小学校からは、お母さんが結婚する前の名字を使うのよ

ー父さんが、出て行ったから…?

ーそう。もう私たちに、櫻木と名乗る理由は無いから

司、といったのか。…思い出した、司だ。俺が4歳の時に家を出て、彼女が3歳の時に再婚した。

でも湊は、ぶんぶんと頭を振る。
いや、違うよ。違うって。そんな事あるわけない……
でも、
辻褄が、合ってしまった。
彼女、だったなんて。
急に怖くなって、少し後ずさる。

自分で舞を選んだ。自分でつかんだ幸せだと思ってた。
だけどそれは、自分で手がかりを掴んだ事と同じだった。
4年間、何も手がかりがなくて辛かった。
だから、あんなに物を投げつけて、伯父を殴りつけて、駄目な自分を隠すようにして。
やっと掴めた手がかり。自分で選んで、拓けた道。

自分は、どっちをより強く求めただろうか。

求めた手がかり。求めた彼女。求めた手がかり。求めた彼女。求めた手がかり……。

だって、皮肉じゃないか。
その時まで、夢にも思わなかったんだ。


まさか、敵が、


姫川舞だなんて。

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