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＊紹介文／目次＊

1

雨が、降っていた。
土砂降りの雨だった。
細い一筋の流れが、坂を下って行く。
その流れは、少しずつ、本当に少しずつ、太くなっていって。

騒めきが、聞こえる。

「あれ…なん…だ？」

雨音で声が消されてしまう。

ーあの流れは何か、だって？

知る訳、無いじゃないか。領らないよ。

そう、知らないんだ…。

・・・・・・・・・・・・・・・

雨の中、座ったままで。
口を、動かした。
けど、声など出なくて。出せなくて。
…でも。
その声は、
届かなくて良い。
自分への、戒めだから。

10～ 20～ 30～ 40～ 50～ 60～

＊34＊

8ー3
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一人閑かに帰宅した湊だったが、彼は自室で固まっていた。きつく体育座りをして、膝と胸の間に、自分の顔を埋めた。

てっきり男だと、思っていた。妹だったなんて。しかも彼女は、母の死後、彼が唯一信じた他人。
事実に気づいてしまったが、その後も舞にそれを悟られないように、話を続けた。

ーえっと…櫻木司、って言ったかな

ー……お母さんは、その、離婚してたの？

ーいやいや違う、私は櫻木司とお母さんの子ども。ただ結婚って形を作るのに、少し時間がかかっただけ

何故時間がかかったのか。勿論湊は、その理由を領っていた。知らない訳がない。
やっと見つけた。4年もかけて見つけた敵。

母の死を見たあの日、必ず討つと誓った。彼女の手を掴んだあの日、お互い離れないと誓った。
どちらかの誓いを、違えなければならない。…討てないかも、しれない。
いや駄目だ。見つけた以上、母の復讐を果たさなければ。何しろあの冷徹な男の愛娘だ。
母をあれほどに傷つけた奴の、真の笑顔を見た子ども。
また俺は、騙され裏切られ殺されるかもしれない。

根拠のない疑念が広がっていった。
…とにかく舞は、敵なんだ。
彼女に伝えよう。気づいていないと思うから。
こんなにも、近くにいたと。もう共に探す必要など無いと。

携帯の画面を開いた。急いで指を動かす。

ー話があるから、明日、いつもの駅の所で

そう打った指は、微かに震えていた。