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三章『旅1』
一話「たとえば」
全員すぐに旅の準備をした。
といっても、必要なものを持っていくだけだが。
ハッピーはルーシィを見て、一言言った。
「ルーシィ帰ったらジュビアの恨みをぶつけられそう。」
「ジュビア緊急クエストいっちゃったんだから仕方ないわよ!」
ジュビアはマスターに頼まれて、緊急クエストにいったという。
顔を青ざめてルーシィは準備を終えた。
―マグノリア駅前―
「ごめんね!遅れたかな?」
ルーシィは少し息を荒げていた。
ここまで走ってきたのだろうなとグレイは確信する。
「ああー…。今からイスバンまでの道を言うから。
まずこの駅から『ナナクサ駅』に降りる。
次に『コスモスの町』で馬車を借りて、『雪草の山』を越える。
で、次はまた『シラユキ駅』の列車で『クロユキ駅』に行く。
邪神は多分…イスバン唯一の湖、『シラユリ湖』にいる。」
この話を聞いたナツは、思い切り叫んだ。
「地獄だああああああ!!嫌味だああああああ!!」
「…グレイってこんなに遠いところから歩いてきたの?」
ナツを無視してルーシィは悲しげに問う。
グレイはそれに苦笑いを返して、小さく頷いた。
「では、行くぞ。」
こうして、ナツにとっての地獄が始まった。
―列車内―
「うぉぉおおおおお……。」
「そんなに酔うなら、ついて来なくてもよかったのにな…。」
グレイはナツの容態を見て、ため息をつく。
ナツの隣に居たエルザは綺麗に微笑んだ。
「それほど仲間について行きたかったのだろうな。」
「………………っ。」
恥ずかしくて、顔を背ける。
ルーシィがその様子に気づいて、ケラケラ笑っていた。
おまけにハッピーはルーシィの膝の上で寝ている。
グレイも、心地よい(ナツにとっては地獄)列車の揺れで眠くなり、
窓際にもたれかかった。
一つ目の駅に着く。
目的の駅はまだまだ遠いらしい。
列車は5分間止まる。ナツの平和タイムという訳だ。
ナツは体を起こし、周りをみる。
皆は寝ていた。
一瞬エルザが目を開ける。
だが、すぐにまた目を閉じた。
「…ふぅ…。」
なんのため息か分からないが、息をつく。
そして窓にもたれかかっている、白い肌―グレイを見つめた。
とても繊細な魔法で、少しだけ自分より背が高くて、髪がサラサラ
していて、睫毛が長くて…人形みたいだ。
「…なのにな。」
彼の背負っている過去は、辛い。
なによりイスバンからマグノリアまで、徒歩で来たのだ。
それを思うとさらに辛くなった。
少しだけ髪を撫でてみる。
やはりサラサラとしていた。
今の彼は、とても肌が白い東洋人を思わせる。
「……なぁグレイ…。」
寝ているグレイは、当たり前だが返答などない。
それでも、と。
「辛くないのかよ…。」
辛いはずだ。
なのに彼は、こんなにも笑っている。
知っている。
我慢しているんだと。
ガタン、と列車が揺れだす。
ナツは気持ち悪くなったが、それでも最後に、グレイの頭を
一回だけ撫でた。