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*14*
ⅩⅢ、夢と死の距離
悪夢の中にて―神前美波―
闇の中で待つ事数分…いや数時間のような気もする。
私はもう諦めかけていた。例え『夢喰』の悪魔を見つけられても、時間がきっと過ぎてしまう。闇の凍え、飢え、苦しみ…。
私はきっとこの世界で息絶えてしまう。夢と死は限りなく近いって言われている。その距離が段々と縮んでいく気がした…。
ふと、闇の世界に亀裂が走った。その後、眩しい光が差し込んで私は何がなんだか分からなくなった。その直前に聞いた言葉の意味を、考えながら…。
「『SOUL COLOR』の暴走が…。」
霧隠にて―工藤直人―
「起きて。いつまで寝てるつもり?」
あぁ、美波さんの声か…ん?美波さん!?
「あ、おはようございます…。」
「やっと起きた。もう放課後だよ?」
「えっ!?」
僕は辺りを見渡す。日が西に傾いている。
「いつの間に…あ、楓様は?」
「ちゃんと授業に出に行ったよ。直人君の事は、多分どうにかしてくれたと思う。」
「あの後、どうなったのですか?」
「私が目覚めた時、ドリーズとドリーブがいたけど、一旦それぞれの世界に帰るみたい。そういえば、ドリーブから伝言を預かっているよ。」
「何ですか?」
「ドリーズと俺の力の暴走を止めてくれてありがとう、だって。
私の夢に来ちゃったドリーズも『SOUL COLOR』のせいで暴走しちゃったからね。」
「え?僕は何もしていません。ただドリーブの『SOUL COLOR』を見せるのに協力しただけです。」
「貴方の力、何だか覚えてる?」
「『祓魔』です。」
「そう。それは力の暴走も止められるみたい。おかげで助かったって何度も頭下げてたよ。」
「でも手をかざさなければ発動しないはずです。」
「寝ていた時の直人君の写真、見せよっか?」
美波さんはニヤリと笑うと、ロッカーからデジタルカメラ(何処から持ち込んだんだ…。)を取り出して僕に見せた。
床に手を置いて寝ている僕の姿が写っている。でも、置いているというより押さえているようにも見える。
「いつでも魔族対策って感じね。まぁ誰かに向けたら吹っ飛ばすんだろうけど。」
美波さんは小さく笑いながらデジタルカメラをロッカーに戻した。
「でも今回は私、助けられちゃったね。私が善意を捧げなきゃいけないのに…。まぁこういう時もあるか!
あ、直人君。そろそろ帰らないと楓ちゃんが心配するんじゃない?」
「そういえばそうでした!執事でありながら情けない…。」
「いや、執事は自称でしょ?」
「それは気にせずに!
美波さん、また来ますね!」
僕は慌てて教室を出ようとした。ドアに手をかけたその時、美波さんがとても小さな声で呟いた。独り言だったのかもしれない。
「また、来てね…。」
僕は立ち止まった。そして僕は悟った。
美波さんは強がっているけれど、きっと本当は寂しいんだ。
魔法学園にいた時にも仲間がいたはずだ。その仲間とも会えずに此処にいる。
「必ず来ます。」
僕は自分でもびっくりするくらいはっきりと言った。美波さんが驚いた表情をしている。
「…ありがとう…。」
美波さんが僕の方を見る。いつもは凍てつくような青い瞳が、雪解けの水のように柔らかな青に見える。それに、とても可愛らしい笑顔だった。美波さんもこんな笑い方するんだな…。
「それじゃあ、また。」
僕はドアを開けて、霧隠を後にした。
それからほぼ毎日、僕らは霧隠に遊びに来るようになった。たまに、人間界に戻ってきたドリーズとドリーブも一緒に…。