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*17*
ⅩⅥ、昼休み
校内にて―吉永楓―
私は、授業が終わると弁当入りバッグを持って食堂へ向かった。とても混むから、早めに行かなければならない。まぁいつも直人が先に席を取っているんだけれど。今度こそ私が先に着いてみせるんだから!
そんな競争心を抱きながら、私は先生が注意するのも構わずに廊下を駆けて行った。
食堂にて―吉永楓―
食堂はいつものように混んでいた。辺りを見渡すと、直人を見つけた。
今日も負け…まさか直人、瞬間移動してる訳じゃないわよね。聞いても、
「執事として当然の事をしたまでです。」
としか答えない。大体にして、執事は自称でしょ…。
「楓様、こっちです。」
直人が手を挙げて言う。
「もう、直人は本当に早いのね。」
軽く文句を言いながら席に着く。すると、直人の隣に見知らぬ生徒がいるのに気付いた。誰だろう?
「僕は窪田祐樹。よろしく…。」
「彼は今日僕のクラスに転入して来たんです。せっかくなので、誘ったんですよ。」
なるほど…。
「窪田先輩、よろしくお願いします。」
年上だから先輩って呼び方になるけれど、仲良くしたいな…。
「よろしく…。」
「そんなに暗いと関わるのが大変ですよ?」
直人がうつむき加減の窪田先輩に話しかける。窪田先輩は軽くうなずくものの、うつむいたまま。
「とりあえず、弁当でも食べましょうか。」
直人がそう言うと、窪田先輩は迷ったような表情をしている。
「もしかして、弁当を忘れた…とかですか?」
直人の質問に、窪田先輩は軽くうなずく。
「じゃあ僕の分を分けます。」
「私も。」
直人と私の分を半分ずつ窪田先輩に渡した。
「ありがとう…。」
窪田先輩は少し微笑んだ気がした。
不思議な先輩…。何となくだけど…。
食後、食堂を出ようとすると、いつの間にか窪田先輩が赤い粉の入った袋を持って、水飲み場に向かっている。
「祐樹さん、その紅い粉はなんですか?何かの薬ですか?」
気になったのか、直人が問いかけてきた。窪田先輩は振り返って少し驚いた表情をしたけれど、すぐにいつもの表情に戻って軽く頷いた。
あれ…?あの紅い粉、なんだか変なきらめきがある…。もしかして…いや、そんな訳ないよね。
私はとっさに浮かべた思いつきを打ち消した。
美波なら、何か知っているかもしれない。放課後にでも聞いてみよう…。