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ⅡⅤ、再びの惨劇
霧隠にて―神前美波―
私は、さっきから強い不安を感じていた。大切な人が遠くに行ってしまうような、孤独を予感させる不安…。こんな事は、前にもあった。
あれはいつだったかな…、そうだ。私の友達が雷魔法の練習をしていた時だ。名前はスピィク。私と同じ魔法学園の生徒だった。スピィクはいつも雷の軌道を間違えて、変な所に落ちていた。そして、あの時も、軌道はずれていた。スピィクの真上に雷雲が出来ていた。私は叫んだけれど、間に合わなかった…。
悲しかった。辛かった…。もっと早く気づいていればあんな事にならなかったのに…。だから私はなるべく危険を感じたらすぐに動こうと決めた。あんな事が、再び起きないように…。そして、今回もまた危険を感じた。もしかしたら、楓ちゃん達がまた何かに巻き込まれるのかもしれない。
でも…動いたとしても、何をすれば良いの…?
ふと、話し声が聞こえた。楓ちゃんと直人君・祐樹君だ。後は…え!?なんで大天使スガルトがいるの!?
と思った瞬間、警報が鳴り出した。新校舎の方から聞こえる…。一体、何?
迷っていると、楓ちゃん達が霧隠に入ってきた。
「大丈夫。スガルトさんが壁を張ったから、そんなにすぐには来ないはずよ。」
楓ちゃんが言う。でも私の不安はまだ消えていない。
過ぎた時間は数分だったはずなのに、この時は一瞬のようだった。ドアが強く開け放たれて、数人の男が入ってきた。手には色々な武器がある…。あれ?この人達、影…?だけど実体だし…どういう事?
そんな事を考えている間に、1人の男が楓ちゃん目掛けて銃を発砲した。
危ないっ!
私が向かう前に、直人君が楓ちゃんを庇って弾を受けた。でも直人君は大して微動すらしない。
「執事は、いかなる時もお嬢様の身を守れるようにしてあるんです。この服は防弾、防刃になっています。問題ありませんよ。」
良かった…と安心するのもつかの間。私は背中に衝撃を感じた。するとたちまち焼かれるような痛みが走る。
「美波!!」
楓ちゃんが叫んだその時、私は自分の胸に赤く染まった刃先があるのに気づいた。そして私は、初めて死を感じた…。
スピィクも、こんな風に感じていたのかな…。雷に撃たれて消えてしまったスピィク。また、会えるのかな…?遠のく意識の中で、私はそう思った…。
霧隠にて―吉永楓―
ただの夢だと信じたい。
私は、自分の頬を手で叩いてみた。痛みがある。夢じゃない…。美波を助けたい。でも此処は3階。美波を抱えて飛び降りる訳にはいかない。
「私達に任せて。」
璃蘭と鈴さんが言った。鈴さんは黒い弓矢を、璃蘭さんは鎌を持っている。直人は、前に貰った剣を振って応戦している。窪田先輩は校舎を見てくると言って、校舎を飛び降りた。落ちた音は聞こえない。(どうやって降りたんだろう…。吸血鬼だから、飛んだのかも。)
私に出来る事は、何だろう…。何も出来ないのは嫌…!
「楓様は、美波さんの傍にいてあげて下さい!美波さんの快復を祈って!!」
直人が言った。美波はまだ生きているはず…いや、まだ生きている!!
私は美波の傍で祈っていた。
お願い…死なないで…お願い…!!!