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ⅡⅦ、新たな力
霧隠にて―吉永楓―
祈ってどのくらいの時が経っただろう。私の手は汗まみれになっていた。
「うっ…。」
微かなうめき声で、私は現実に引き戻される。直人が疲労で倒れていた。鈴さんも璃蘭も辛そうな表情をしている。
もう私達も終わるのかな…。でも、美波と同じ場所に行けるなら、それでも良い…。
「まだ諦めちゃ駄目!」
ふと美波の声が聞こえた。美波の事を考えていたせいで、幻聴でも聞いたのかもしれない。そう思いながら振り返ったら、美波が立っていた。刺さっていたナイフは、いつの間にか無くなっている。代わりに、刺さっていたはずの場所が濡れている。
「まさか、武器を水に変えた…?」
璃蘭さんが呟いている。
「よくも私の大切な人達を…!」
美波は空気中の水分を集めて、それを相手に投げ付けた。相手の武器は全て手から離れ、相手は倒れて行く…。
「これが、水神の子の力…。」
璃蘭が再び呟いた。
やがて、男は全員気を失った。
「あ、そうだ!この人達をみんな裁判送りにすれば良いじゃん!地下にちょうど霊界の入口がある事だし!」
「地下に霊界の入口!?噂じゃなかったんだ…。」
思わず呟いた。金山を探っていたら霊界の入口を見つけて、それを封鎖する為に土地を崩してこの学園が出来た。ただの都市伝説だとずっと思っていたけど、まさか本当にあるなんて…。
「もし良ければ見る?」
「え?」
「何処にあるか教えるよ。」
璃蘭はそう言うと、倒れている男を数人程担いで歩き始めた。私達もそれに続いていく。
「はぁ…かなり、手強かった…。」
そこに、窪田先輩が数人の男を担いで現れた。
「ちょうどよかった!君も手伝って。」
璃蘭はそう言うと、ある壁を押した。すると壁がへこみ、階段が現れる。この階段は、前にも見た事がある。窪田先輩が関わったあの騒動で見つけた場所だ。確かあの先に隠し部屋があったはず…。
璃蘭についていくと思った通り、隠し部屋があった。璃蘭は、不意に被っているフードを取った。黒い髪が微かな風に揺れている。今まで気にしていなかったけど、璃蘭は黒い髪に赤い瞳をしている。璃蘭はさっきの鎌を振りかざすと、深い闇のような穴が微かに見えた。
「此処が、霊界の入口。悪しき魂が最後に逝く所…。じゃあとっとと送ろうっと。」
璃蘭は鎌を掲げて何かを呟いた。呪文かな…?すると倒れている男達(窪田先輩が担いでいた人も)は闇の穴に消えていった。
「はい、終了。良かった〜これで取り戻…いやいや霊の数減ったよ〜。」
「あ、もしかして…数年前に起きたあの事件の時も…?」
「あぁ、この学園が出来て間もない頃のあれね。あれも同じ方法で送ったの。生徒達がちゃんと生還したのはスガルトのお陰ね。」
「生に導くのも悪くはないでしょ?それよりも、金山って本当にあるって知ってる?」
「え!?」
「見せてあげるよ。待ってて、一時的に消すから。」
璃蘭が再び何かを呟くと、闇の穴はふっと消えた。そして、更に奥へ進んだ。
旧校舎にて―神前美波―
私は、闇の中を進んでいた。もう前がよく分からない。
そういえばさっき黒フード付けていた人、女の人にスガルトって言っていた。仲が良い関係なのかな…?
ふと、金色の光が辺りを包みはじめた。
「此処が金山の名残がある場所。私は此処を守る為に、霊界の入口を作ったんだよ。」
「綺麗…。」
楓ちゃんが呟く。私も同感。本当にとても綺麗…。金の筋がまるでプラネタリウムみたいに、辺りを覆っている。そうだ!
私は水分を集めて氷にして、ドーム状になるようにしてみた。こうすると、本当に金のプラネタリウムを見ているみたい…。
「美波さん、貴方は皆に希望を与える力があるのね…。」
スガルトが言った。もしかしたら、そうかもしれない。私は少しでも、皆に幸せを与えられる人になりたいって思っている。いつか、そんな人になりたいな。金色の光を受けながら、私はそう思った。と、次の瞬間…。スガルトが、何か苦しそうな表情でしゃがみ込んでいた。
「どうしたの!?」
「私の『SOUL COLOR』が…多分力の暴走を呼んでいるのかもしれない…。」
「そういえばこの金、とても明るい…。」
スガルトの「SOUL COLOR」は、確か金の光…。スガルトは急に、弓に矢を番えて辺りを射始めた。私達はスガルトを連れて、元来た道を引き返す。最後に射った矢が当たったその瞬間、周りの岩が崩れて塞がってしまった。
「…!ごめん…せっかく金山を見せられたのに…。」
「良いよ。むしろ、金山がさらに封印されたんだよ?もう誰も狙いはしないよ。」
「そうね…。そうかもしれないわね。」
楓ちゃんが言った。確かにそうかもしれない。もし再びこの岩を崩しても、旧校舎自体が崩れて金山は暫く見つからないかもしれない。
「良かった…。最後に、ここに来れて…。」
「え?スガルト、どういう事?最後って…。」
「あ、ごめん。なんでもないよ璃蘭。それより皆で祈ろう。またあんな惨劇が、もう起きないように…。」
皆は静かに祈りはじめた。もちろん私も。
人間はとにかく金に弱い。金の為ならどんな物も、命も奪えてしまう。でも、皆が皆そうじゃない。ちゃんと優しい心だってある。少しでも、そんな優しい心を持つ人が増えるといいな…。