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*3*
Ⅱ、霧隠
A.D2005 4月 旧校舎にて―工藤直人―
ふと気が付くと、僕は旧校舎の昇降口にいた。
またか…。最近呼ばれるようにこの場所に来てしまう。意識の欠落で彷徨ってしまうのは覚悟できても、その先からは覚悟のしようがない。
立ち去ろうとしたその時、物音がした。旧校舎の教室から聞こえる。
少し怖くは感じているが、僕は進む事にした。
教室の前に来ると、何故か霧がかかっている。そのせいか、改めて旧校舎の不気味さを感じ思わず身震いした。
駄目だ、弱気になったら。こんな状態だから、今まで守るべき時に守れないんだ。
自分に言い聞かせながら、僕は思い切りドアを開けた。
そこは、机と椅子が1対1になっているだけの教室だった。そして1つの机の椅子に腰を掛けていた人が立ち、こちらに近付いて来た。窓から差し込む日の光のせいで、顔がよく見えない。でも、髪が少し長いから女性かもしれない。
「お客さんなんて初めてだなぁ。」
少女の様に柔らかな声だった。しかし、強い威圧が感じられる。
「まぁそんな所で固まってないで、そこに座って。」
少女は手前の椅子を引いて、僕が座りやすいようにしてくれた。そんなに悪い印象は受けない。だけど、何故か強い警戒を感じた。
少女は何処から持ってきたのか、コーヒーの入った紙コップを僕に差し出す。
「良ければどうぞ。」
「あ、ありがとうございます…。」
一口飲んでみると、不思議と今までのトラウマや悩みから解放されたような感覚がした。何かこのコーヒーに、疲労回復の隠し味か何かがされているのだろうか…。
「落ち着いた?」
少女が僕の顔を覗き込む。その顔を見た瞬間、僕は思わずコーヒーをこぼしそうになってしまった。
その少女の瞳は、凍てつくような青だった。更に、少女は銀色の髪で、制服が僕達と全然違っていた。
「あ、ごめん。驚かせるつもりは、全くなかったんだけど…。」
「大丈夫です。それより、僕が気になるのはその制服なのですが…。」
「あぁ、これ?だって私此処の学園の生徒じゃないもん。勝手に入ったの。人間界では、不法侵入っていうんだっけ?まぁそんな感じ。」
さらっと言われると、不思議と返す言葉がなくなる。
「え?誰にも見つからなかったんですか?」
実は此処、虹ヶ丘学園は警備が厳重だ。正面には警備員がいるし、学校の周りにも巡回している警備員がいる。 数年前強盗に入られて、大惨事だったからだそうだ。
「多分姿が見え無かったんだよ。私、姿を消す魔法持っているし。」
「魔法?まさか。冗談はやめて下さいよ。」
「本当!じゃあやってみるよ。」
少女は目を閉じて、何か呟き始めた。すると少女の姿が、突然煙のように消えてしまった。僕が迷っていると、再び少女が姿を現した。
「どう?信じてくれた?」
「はい…。」
信じるも何も、あまりにもいきなりすぎてついていけていない…。
「そんな怯えた顔しないで。私のいた学園では、皆普通にやっている事なんだよ?」
「魔法の…学園…?」
「当たり!私が通っていた学園だよ。」
「じゃあ何故今は此処に…?」
「ちょっと色々と訳があってね…。聞いてくれる?」
「はい、勿論…。
あ、そういえば自己紹介がまだでした。僕は工藤直人といいます。貴方は?」
「私の今の名前は神前美波。でも本当の名前はグレイス。今の姿の時は、グレイスじゃなくて神前美波だけど。」
「…?」
「まぁ話を聞いてくれれば分かるから。」