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*7*
Ⅵ、真実
私はその生徒に尋ねた。
「貴方は誰?どうやって此処に?」
生徒は、黒い犬を見ながら言った。
「私の名前は吉永楓。この学園の生徒…ってそれは今どうでもよくて…。
仲間が、あの黒い犬に伝えたい事があるって…。」
「まさか!仲間は全て死に絶えた。此処にいるはずがない!!」
「私はどんな生き物の姿も見て、声を聞く力があるみたいなの。貴方の仲間の霊は、今も此処にいるわ。」
なるほど、あの子は天使の持つ『霊視(レイシ)』の力があるんだ。でも『霊視』って魔族も見られたっけ…?いや違う。確か『霊視』は強まると魔族も見られて、そうすると…。
「…何故?」
「貴方に伝えたい言葉を伝える為によ。仲間達はこう言っているわ。『人間に復讐するのはもう止せ。したって誰も喜ばない。自分を悲しませるだけだ。』って。」
「…そうか…あいつらがそう言うなら仕方ない。」
黒い犬は楓ちゃんに近づいて、軽く右の前足で楓ちゃんの手に触れた。
「ありがとう、仲間の遺志を伝えてくれて。」
楓ちゃんはきょとんとした表情で、黒い犬を見ていた。
次に直人君の方に行って、今度は左の前足を軽く手に触れた。直人君はまだ気絶している。人間は精神力が弱いって言うけど、本当みたいね…。
「すまなかった。お詫びといったらこれしか無いが…どうか受け取ってくれ。」
黒い犬は直人君の手に、炎を纏った剣を置いた。
触れたら熱いんじゃないのかなって思ったけど、そんな様子はなかった。その時、やっと直人君が目を覚ました。楓ちゃんが黒い犬の言葉を伝えると、直人君は不思議そうな表情をした。
「これは…何に使うんですか?」
「対魔族用だ。お前の父親はエクソシストだ。だから、かなりの数の魔族に怨みを借られているはずだ。万が一、お前に危機が迫った時に使え。」
そう言うと(もちろん楓ちゃんの通訳がある。)、黒い犬は闇に消えた。
「そういえば、貴方は一体何者なの?それに何で直人が此処にいるの?」
「僕は偶然通り掛かって…。」
「私は水神の子の神前美波。信じるか信じないかは自由だけど。」
「そういう事だったのね。美波、この人は工藤直人っていって、私の(一応の)執事よ。」
「え!?執事って事は…楓ちゃんはお嬢様?」
「そんな事はないわ。ただのこの学園の理事長の娘なだけ。皆には内緒にしているけれど…。」
「そうなんだ…。あ、でも私には神名っていうのがあって、それが本当の名前だよ。私の神名はグレイス。」
「グレイス…?」
「でも美波って呼んでね。その方が今は何か反応しやすいから。」
「分かったわ。」
「そういえば直人君に聞きたい事があるんだけど、もしかして赤と黒の色に弱い?」
「え?何故それを…?」
「黒い犬を見た瞬間に操られていたからだよ。」
「そう言われれば確かに…。」
「『掛橋』が無い今、どんな生き物も魂の色―『SOUL COLOR』―を見せると、その生き物を操ったり暴走させたりする力があるんだ。」
「その色は、変わるものなんですか?」
「う〜ん…よく分からない。でも、感情とか想いが変われば『SOUL COLOR』も変わるかも。」
「なるほど…。」
「じゃあ私にも、『SOUL COLOR』があるの?」
「勿論。だけど直人君の時みたいに、簡単には分からないかな。ヒントも何もないから…。」
「なるほどね…。って、今思ったけど、美波のその翼は何?」
「え?翼なんてあるんですか?」
「私にはあるように見えているけれど…。」
「じゃあ…楓ちゃんには見えているんだね。私の本当の姿。」
「あぁ、そっか!美波は水神の子だったわね。」
「多分楓ちゃんには『真視(シンシ)』の能力があるんだよ。」
「『真視』?」
「天界の天使がよく持つ能力だよ。どんな者でも真実の姿を見られる力。」
そう。『掛橋』がないから、天族の力になったんだ。…って事は、『掛橋』が繋がったら…。いや、今は考えないでおこう。
「そんな力が…。」
「私、呪いのせいで人間の姿になっちゃって、善意を尽くさないと解けないんだって。」
「だったら協力しますよ!助けてくれたお礼です。」
「勿論、私も協力するわよ。」
楓ちゃんも言ってくれた。
魔法学園では、人間は冷酷で残忍だって言うけど、この2人なら信じられそう。
「ありがとう。」
私は飛び切りの笑顔で言った。
私には知るよしもなかった。この時に、既に魔界と天界の「掛橋」が繋がったなんて…。