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6人の役者
作者: 紫桜  (総ページ数: 86ページ)
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*60*

(岳)

「雫・・・」

雫は泣いていた。
オレを、まっすぐ見つめて。

笑顔でいてほしい。
なんて、いえるはずがない。思うことも許されない。

顔をゆがませる事も、声をあげることも、体を震わせる事もなく、涙を流す雫は、まるで、ロボットのようだった。

悲しい?
辛い?

「いえないよね・・・」

「え?」

オレの気持ちを代弁したかのような、華のセリフ。

「私たちは、いつでも隠さなきゃいけない」

「普通が、異常で。異常が、普通で」

「だから」

「出会いも別れも。泣きたくなる」

出会いは、これからの演技の辛さ。
別れは、もうあってはいけない辛さ。

助けは、SOSは、口にだしてはいけない。

禁じられた、Word。



「おかしいかな、私達」

雫が言う。涙は流したまま。

「ふつうじゃないのかな」

少し、口角をあげる。

「普通って何?」
「ダメ!!」

華がとめる。
苦し紛れに、あげた声。

「これ以上言ったら・・・」

「分かってる。ダメだね、私」

何も、いえない。

オレが、今できること。
それは。

「じゃあな」

別れを告げること。

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